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2008.08.09
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

「もちろん、ジョルジュにはうまく話すわ」
マレーの心中を知ってから知らずか、リュリュはまるでスケジュールを調整するような口調だった。
「公演だって2ヶ月続けば成功でしょ。納得してくれるわよ。今後はジョルジュからヘルプを頼まれたら、まずは私に相談してよね」
「……わかった。迷惑かけるね、リュリュ」
「忘れないでね、ジャン・コクトーの『善良な天使さん』(=コクトーはマレーをそう呼んでいた)。大天使ミカエルの双子の兄弟は、堕天使ルシファーになったってこと」
「リュリュ、ぼくはジャンが言うほど大天使には似てないよ。ジャンには百ぺんはそう言ってるんだけど、そうすると百ぺん言い返されるから、もう放っているだけだよ。――それにたしか、兄のほうがルシファーじゃないの? だったらぼくが堕天使で、ジョルジュが神に忠実な大天使さ。ジュルジュは敬虔なピューリタンだよ。質素で堅実で勤勉で。彼は公演中、仲間と飲みに行くことさえないんだよ。彼の節制ぶりは、ぼくにはとても真似できない」
「どうしてそこまで、ジョルジュをかばうのかしらね……」
「言いたいのはさ――どちらにしても、ミカエルとルシファーのように、ぼくがジョルジュと闘うなんて、ありえないってこと」

リュリュは肩をすくめた。
「ジャノ、私はあなたみたいな『善良な』見方はできないの。もうあなたたちは闘っているわ。あなたはあなたの世界にジョルジュを留めようとしてる。ジョルジュはジョルジュで彼の世界にあなたを引き込もうとしてる。支配するかされるかなのよ。私にはそう見える」
「飛躍しすぎだよ。ぼくは友情に、支配や服従を持ち込むつもりは一切ない」
「あなたはね。でもピューリタンって人たちは何でも、はっきりさせないと気がすまない潔癖なところがあるんじゃないかしら? あの人たちはすぐ結婚してすぐ離婚する。人と人との関係もそうだし、聞いたこともないような言葉を作り出して、人間を分類するのも得意よね。そしていったんレッテルを貼ったら、免罪符はなし。違う?」
「……リュリュ、理屈では君に勝てないよ。――とにかく、今回の公演のことはぼくが浅はかだった。ぼくの責任だよ。――意識はしてなかったけど、ぼくはもしかしたら、ジャンがぼくにしてくれたようにジョルジュに振る舞いたかったのかもしれないね。でもぼくはジャンじゃない。彼のような知性も才能もない」
「そして、ジョルジュ・ライヒはジャン・マレーじゃないの。あなたが気づかなきゃいけないのは、むしろそっちよ」
「……」

リュリュが裏で「工作」したことで、ジョルジュの公演は2ヶ月のロングランですんだ。マレーは密かに胸をなでおろした。

公演終了後、ジョルジュと特に親しかったバレエダンサーの一団が次の仕事先のリヨンへ向かうのを、ジョルジュとマレーは駅まで見送りに行った。

列車が動き出すと、窓から手を振って大声で挨拶をするダンサーたち。彼らは連日大入りの公演に満足していた。このミュージカル・コメディをきっかけに、歌手としてデビューする話が決まり、新たな飛躍に向かって羽ばたき出したダンサーもいた。
ジョルジュも手を振って仲間に応え、ホームの端まで走って見送った。次第に遠ざかる列車。完全に見えなくなるまで、ジョルジュは立ち尽くしていた。にぎやかな別れの時が去り、ふと寂寥の砂埃が舞い上がった。

「行こうか……」
マレーが声をかける。
「ねえ」
ジョルジュはマレーのほうは見ない。まっすぐに鉄道のレールを見つめている。
「ぼくたちは知り合って8年? いや、9年になる?」
「何だよ、藪から棒に」
「ずっとぼくたちは一緒に走ってきた。でも決して交わったことはないね。あのレールみたいに。断固として並行のままだ」
マレーは虚をつかれてジョルジュを見つめた。13歳年下の「弟」の目には涙が浮かんでいるようだった。
「どういう意味だ?」
「そういう意味さ。君は俳優。ぼくはダンサー。そしてぼくのレールはもうじき途切れる。ぼくももう30を超えた。若くはないし、あといつまで踊れるか、カウントダウンに入っているよ。君のレールはまだずっと続くのにね」
「そりゃ、ダンサーが俳優ほど長く舞台に立てないのはそのとおりかも知れないよ。でも、次の仕事を見つければいい。今回君はりっぱに振付の仕事をやりとげたじゃないか」
「やさしいよね、君は……」

ジョルジュは歩き出した。慌ててついていくマレー。
「いつもそうだ。君は頼もしくて寛大。ぼくはきっと、『君の』ジャン・コクトーやリュリュに嫌われているんだろうな」
「そんなことはないよ。ジャンは君を愛してる。今回のことだって、よかれと思っていろいろ言ってくれたんだよ」
「愛してるって? ジャン・コクトーがぼくを? 冗談言うなよ。彼が愛してるのは君だろ」
「ジョルジュ、ジャンは君のために台本を書いてくれたことがあるじゃないか。ローラン(=プティ)に君を紹介したのもジャンだろう」
「たしかにローランの才能はすごいよ。ぼくよりたった2歳年上なだけなのに、もう世界的な振付師だ」
「そのローランを助けたのもジャンだよ。ローランがボリス(=ボリス・コクノ。クリスチャン・ベラールの愛人だった)と一緒にぼくらのモンパンシエのアパルトマンを訪ねてきたとき、まだローランは20歳をちょっと超えたくらいだった」
「知ってるよ。ローランから聞いた。ジャン・コクトーは恩人だって言ってた。ローランは図抜けているよ。コクトーに気に入られただけあってね。でもぼくの生きる世界とは違ってる」
「違ってるって? 君はローランと仕事してるじゃないか」
「ローランがぼくを使うのは、君とジャンの顔を立ててるだけだよ」
「まさか……」
「ぼくはもともと、ブロードウエイの一夜限りのショーの人間なのさ。華やかに、軽く楽しんで、それで終わり。ローランはジャン・コクトー的な『純粋芸術』の世界に生きてる。ローランは自分で気がついてないみたいだけど、ジャン・コクトーから相当影響を受けてるね。振付しながら、彼はよく言うんだ――ここは『美女と野獣』の姉のように意地悪く、とか。ここは『恐るべき子供たち』のラストシーンのように消えていくつもり踊って、とか」

マレーの胸は誇りでいっぱいになった。
「ジャンはそういう人だよ。誰もが知らない間にジャンの詩のフレーズを使ってる。ジャンはいつの間にか人々の中に入り込むのさ。ピカソにしたってね。たとえば、『私はたえず真実を語る嘘つき』――あれは、もともとジャンがシュールレアリストに対して皮肉を込めて言ったものだ。それをたまたまピカソが真似して言ったものだから、いつの間にか世間ではピカソの言葉だと思ってる」
「君も君の『カルメン』より『悲恋(永劫回帰)』のほうが上だって、言ってるね」
「比較にならないよ。ドン・ホセはぼく以外にも、たくさんいる。『カルメン』は何度でも作られるよ。でも、『悲恋(永劫回帰)』のパトリスは、ぼくのためにジャンが書いてくれたんだ。あれはあのときの、ぼくたちだけのものだ」
「君はいつも堂々と、無邪気にのろけるよね」
「のろける? ぼくはジャンに感謝してるんだよ」
「でもね――ぼくは、本当のことを言うと『カルメン』のほうが好きだったんだ。難しいニーチェがどうのという『悲恋(永劫回帰)』よりね。――たぶん、君が言うほうが正しいってことはわかってる。ぼくがアメリカで『カルメン』を見てからもう10年以上たったけど、今ではみんな君のデビュー作は『悲恋(永劫回帰)』だと思ってるよね。『悲恋(永劫回帰)』はリバイバルされてるのに、『カルメン』はほどんど忘れられてる。公開したときは一大スペクタクルで、みんな夢中だったのに」
「ジョルジュ、それは……」
「ぼくにはジャン・コクトーの世界は縁がないんだ。小説だけじゃない。詩も戯曲も映画も、ね。よさが分からないし、入っていけないんだ。君に言わなかったのは、ぼくの嫉妬と思われたくなかったからさ」

2人は駅前の広場の雑踏に来ていた。マレーは戸惑っていた。ジョルジュの思いつめたような声。周囲は自分に気づき始めているようだった。好奇の視線が向けられている。今にもあの角から、隠し撮りを狙う無遠慮なカメラが現れるかもしれない。

「ぼくは、黒髪の君が好きだった。ブロンドの君よりね」
「髪の色がいったいどうしたって言うんだよ。髪なんて役に合わせてしょっちゅう染めてるじゃないか。若いころは、黒どころか紫や緑色にされたこともあるよ」
マレーはジョルジュの腕に手をかけた。とにかく落ち着かせたかった。だが、ジョルジュはマレーの腕をふりほどいた。
「ぼくは、ドン・ホセの君が好きだ。黒髪の君が好きだ。――たとえ、みんながそう思わなくても。たとえ、みんなが忘れてしまってもね」
潤んだ瞳がマレーの眼を見つめた。と思うまもなく、ジョルジュはあっという間に車道に飛び出した。ブレーキの音がして、ドライバーが窓から首を出してどなる。
「危ないだろ!」
他のクルマもクラクションを鳴らす。ジョルジュはクルマを縫うように駆けていき、もう道の向こうにいた。
マレーは呆然と立ち尽くした。通行人が見ている――そう思うと、追いかけることもできなかった。パリでは逃れようのない人々の視線、だがそれよりも、常にそれに縛られている自分に腹が立った。
元来自分は、ひどく内気なタイプなのだ…… 
街灯にもたれて若い男女がキスを交わしていた。夕暮れ時の都会の一コマ。足早に道を行く人々の中で、彼らだけは隔絶された世界にいた。堂々と、2人だけの愛に没頭していた。
ジョルジュは走って行ってしまった。

その夜、ジョルジュは帰ってこなかった。マレーはまんじりともせずに夜を明かした。もちろんジョルジュは自由だ。何をしようとまったく自由。愛の鎖で縛るつもりはない――縛るつもりはないが、どこにいるのかいつ帰るのか、電話ぐらいくれてもいいんじゃないか? 

それもまた、フーガだった。

昔――若いころ、さんざん遊びほうけて朝帰りしたときに、コクトーがマレーの部屋のドアの下にすべりこませていた手紙――

「ジャノ、ばかみたいだと思うかもしれないけれど、ばくはじっと待っているのが病的に辛いんだよ。帰りがあまり遅くなるようなら、ほんの一言でいいから、電話で声をきかせてくれないか」
――あれはいつだっただろう? まだ2人がマドレーヌ広場のアパルトマンにいたころ、『恐るべき親たち』の成功で周囲からチヤホヤされ始めた25、6歳のころだ。マレーは同年代の悪い仲間と歓楽街に出入りし、短絡的な快楽にふけっていた。

一晩中帰ってこない自分を待ちながら、朝の5時に書かれたコクトーの愛と苦悩に満ちた手紙もあった。あれには何と書いてあっただろう? 「運命に対して怠慢な」「男娼のような相手」と付き合っていたマレーが、自堕落な世界にはまりこんでしまうことを心配するコクトーの言葉。

夜を1人で待って過ごした詩人の孤独と哀しみ旋律が、自分の今に重なった。コクトーは世の父親以上の慈愛で、自分を正しい道に引き戻してくれたのに。コクトーはその寛大さを、ついには自己犠牲にまで高めたのに――

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.08.09 22:02:45


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