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2008.08.17
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

ジョルジュはマルヌの家を出るとき、飼っていた雌犬のキュランヌを残していった。

――ぼくの幸せがどこにあるの。君のそば以外に。

ほんの半年前、ジョルジュはそう言って、マレーの腕の中で泣いていた。マレーはジョルジュがいずれまた戻ってくると思っていた。飼い犬もそのままだったし、何より2人はお互いを必要としていた――少なくともマレーはそう信じていた。

だがアンリの死後、母をマルヌの家に引き取ると、ジョルジュを含めた友人たちの足は遠のく。彼女はもはや自分の母親でなければ絶対に近づきたくないような、偏狭でよこしまで醜い老婆に日々変わっていった。マレーはシャルル10世風の内装と家具で彼女の部屋を美しく整えて迎えたが、母は物が捨てられないうえに、掃除も拒否するため、部屋は急速にがらくた置き場と化していった。口を開けば、マレーの愛する友人たちを非難し、罵倒した。ことにジョルジュに対しては、むき出しの敵意を隠さなくなった。ジョルジュはマレーの母をあからさまに恐れるようになった。それでもマレーは、ジョルジュの部屋を手をつけずにそのままにしていた。

そんなとき、コクトーが南仏から思いがけないものを持ってきてくれた。マレーが以前サント・ソスピール荘(=南仏サン・ジャン・カップ・フェラにあるフランシーヌの別荘。コクトーはっこで1年の大半を過ごしていた)で描いたジョルジュの肖像画だった。ストックルームにしまい込んであったのを、たまたま見つけたのだという。
「以前描いたはずなのに、驚くほど今の彼に似ていないかい?」
コクトーが言った。
「とても美しいね」

コクトーだけはマレーの母に礼儀を尽くすことを忘れなかった。マレーは駅売り三文小説並みの自分の出生の謎をコクトーに話した。
「アルフレッド・マレーもウジェーヌ・ウーダイユもぼくを自分の息子だと思ってた。ぼくが生まれたとき、ロザリーはぼくを見たくないと言って泣いた。マドレーヌが死んで女の子が欲しかったなんて、彼女一流の嘘さ。ロザリーは自分の罪に泣いたんだよ。ぼくは間違ってこの世に生まれてきたんだ」
「ジャノ……」
「もっと早くアルフレッドと会っていれば、彼はぼくの映画も舞台も見に来れた。彼はとうとう、ぼくの仕事を見ないまま死んだんだ。ロザリーはぼくが彼女以外の誰かを愛することを、決して許さない。自分の不幸はぼくのせいだと責め立てる。――ぼくは若いころ、ロザリーがデパートに物を盗みに行くのにも一緒に行った。ぼくだけが彼女を守れるような気がしていたからさ。――それなのに、これまで彼女がぼくに何をしてくれた? 絶え間ない嘘以外に、ロザリーがぼくに何を与えれくれた? ぼくを間違った道に引きずり込もうとしてたのは、彼女のほうだ。すべてに逆らってまで、自分の母親だからという理由で、彼女を愛すべきなんだろうか?」
「ねえ、ぼくのジャノ――」
コクトーは静かに言った。
「――聖女ロザリーは、君をぼくと世界のみんなに授けてくれた。彼女のなした奇蹟に、ぼくは感謝している。これからもずっと、感謝し続けるよ」

マレーはコクトーがもってきた昔のジョルジュの肖像画に、キュランヌを描き入れ、ジョルジュがキュランヌの首に手を置いている構図に変えた。ジョルジュは眼の前にいない。自分の手を見ながらジョルジュの手のディテールを描いた。
こうして、ジョルジュの手はマレーの手になった。

ジョルジュはマドレーヌ・ロバンソンの家に住んでいる。「一時的」だったはずが、ずっとマドレーヌの家に留まっている。

どうやら、マドレーヌの家はジョルジュにとって、思った以上に居心地がいいらしい。
そのことを、マレーはジョルジュのために喜ぼうとした。マレーはジョルジュが幸せで、楽しく暮らすことを願っていた。その気持ちに嘘はないはずだった。だが、ことに夜になると、マレーの胸は、何とも言えない哀しみとやるせなさでいっぱいになるのだった。

マドレーヌとマレーの付き合いは、20歳そこそこの昔にさかのぼる。2人はシャルル・デュランの演劇教室で一緒だった。2人ともコンセンヴァトワールの入試に失敗してデュランの元に流れてきた。どちらも熱心な生徒だった。他の生徒はいろいろと理由をつけて予習をサボったが、マレーとマドレーヌはいつも準備が出来ていた。デュランは明らかに、マレーよりもマドレーヌを評価していた。それは間違いない。マドレーヌは、すぐにデュランの芝居で主役級の役を与えられたが、マレーのほうはなかなかだった。

マドレーヌは台詞の入りが誰よりも速かった。マレーが10回繰り返さなければ憶えられない長台詞でも、マドレーヌは2~3回で十分だった。彼女は役をとてもすばやく、そして巧みに自分のものにした。マレーは1日のほとんどを演劇の勉強に捧げていたが、マドレーヌのほうは、その情熱を演劇と異性とに公平に分けていた。レッスンが終わると、教室の外でハンサムな男の子が彼女を待っていた。その相手はしばしば変わった。マドレーヌはマレーに対しても好意的で、年下であるにもかかわらず、姉のような包容力を示した。家庭が複雑で幼いころから苦労をしていた。マレーが映画に出始めたころには、マドレーヌは多くの舞台をこなしながら、すでに結婚していた。数年後、気がつくと夫が変わっていた。

「もう結婚はコリゴリよ」――マドレーヌからそう聞かされたのは、7~8年前だった。すでに彼女には息子が1人いた。だが、その後、彼女は娘を産んだ。ちいちゃなソフィー・ジュリアの父親とは3年ほど前に、結婚をしないまま別れたと聞いた。
「もう男はつくづくコリゴリよ。この年にしてやっと、男なんてA氏がB氏であろうが、B氏がC氏であろうが、みんな同じだってわかったわ。相手するだけ人生の無駄遣いよ」
子供たちを1人で育てながら、マドレーヌは映画と舞台の仕事を続けていた。そして、マレーとはずっと仲のいい女友達だった。

アンリがマルヌの家に来ることになったとき、ジョルジュに「うちへいらっしゃいよ」と言ったのもマドレーヌだった。「部屋はあまってるし、ついでにうちの息子と娘の遊び相手になってくれると嬉しいわ。あなたは自分のバレエ・カンパニーを立ち上げたばかりで、なにかと入り用でしょ? 好きなだけいていいわよ」

――いつまでいるつもりなんだ、ジョルジュ?
外でジョルジュに会うたびに、マレーは心の中で聞いていた。
――ずっとか? 
聞けぬままマレーは、ジョルジュがマドレーヌの家へ帰るのを見送るのだった。2人の会話は、だんだんに乏しくなっていった。

仕事のほうは、映画を1本撮っていた。かつてコクトーが脚本を書いた『ルイ・ブラス』風の冒険活劇『Le Bossu(マレー版の邦題は「城塞の決斗」)』。フランスでは人気のある時代小説――ルイ王朝時代の騎士物語――で、およそ15年前に『悲恋(永劫回帰)』の監督のジャン・ドラノワも一度映画化している。皮肉にもマレーが扮したのは兄と同じファーストネームをもつアンリ・ド・ラガルデールというさすらいの剣士だった。舞台では『シラノ・ド・ベルジュラック』のシラノ役でフランス内を何ヶ所か公演で回ることになっていた。

夏が始まったある日、マレーは母に看護婦と家政婦をつけてバカンスに出した。ジョルジュを昼食に誘うと、あまり気乗りのしない返事が返ってくる。それでも、ジョルジュはやってきた。父との思いがけない邂逅と永遠の別れ、続いて兄。さらには出生の秘密を明かされるなど、立て続けに起こった個人的な事件で、マレーはジョルジュとゆっくり時間をもつことができないでいた。その間に、少しずつジョルジュは遠ざかっていっているような気がした。マレーはそれが、思い過ごしであればと願っていた。リュリュからは、ジョルジュのバレエ・カンパニーは運営が思わしくないと聞かされていた。

「たとえ泣きつかれても、経済的に支援するのは、絶対にやめてちょうだいね」
リュリュからは釘を刺されていた。
「スポンサーを自分で探すようにアドバイスしてちょうだい。あなたのバレエ・カンパニーではなく、ジョルジュが自分で作ったカンパニーなんですからね」

昼食に来たジョルジュは、珍しくジャンヌの料理を褒めた。体重に強迫観念をもっているダンサーは、マレーと一緒に住んでいる間は、料理の味にはほとんど関心を払わなかったのだ。食事のあと、2人は庭のプールで泳いだ。イヴォンヌ・ド・ブレのイニシャルにちなんだY字型のプール。隣接するサン・クルー公園のほうから、子供の声が時おり聞える以外は、まったく静かな夏後の午後だった。

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.09.22 16:52:58


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