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2008.08.16
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

ジャン・コクトーが、最初にジャン・マレーに主役を与えた戯曲『円卓の騎士たち』。2人のコラボレーション第一作を記念して、コクトーはマレーに1枚のデッサンを贈っている。

ジャン・マレーへの手紙
コクトーがデザインした衣装をまとい、役に扮したマレーの姿を描いたもので、右上には「ぼくたちの大切な仕事の思い出に」と手書きでメッセージが入っている。そしてなぜかコクトーは、右下に謎のような言葉を書き添えた。

ぼくの誕生はある秘密につつまれている
「ぼくの誕生はある秘密につつまれている」。

マレーは20年以上たって、このメッセージが一種の預言だったことを知る。

神託をもたらしたのは、1人の新聞記者。
父と兄を相次いで癌で失った約1ヵ月後、『フランス・ディマンシュ』紙の青年記者がマレーに面会を求めてきたのだ。マレーは彼とは面識があった。好感のもてる青年だったので、会うことにした。

記者はまず、さまざまなゴシップについて問いただしてきた。ブルゴーニュの若い女性が、最近ジャン・マレーの子供を産んだと告白したとか(マレーはもう何年もブルゴーニュには行っていなかった)、ある有名女優と婚約間近だとか(パーティで数度会っただけだった)、根も葉もない噂だった。

ゴシップの話が終わると、記者は突然、
「ジャン・マレーさん、実は、ぼくはあなたの従兄弟なんです」
と言った。
「従兄弟?」
――何を言い出すんだ、いったい?
「ええ。従兄弟です。あなたは、ウジェーヌ・ウーダイユを知っているでしょう?」

ウジェーヌ・ウーダイユ!?

あまりにも思いがけない名前だった。ウジェーヌ・ウーダイユはマレーの名づけ親だということになっていた。まだシェルブールにいたころ、マレーが洗礼を受けたときに贈り物をくれた。シェルブール時代の思い出はほとんどないマレーだが、ウーダイユのプレゼントの記憶はあった。そのころ父のアルフレッド・マレーは出征中だったのだ。パリでは、「伯父さん」として、時々マレーの家に出入りしていた。本当はマレーの名づけ親は兄だったし、血縁関係もなかった。幼いころにはわからなかったが、要するに母の交際相手だったのだ。

母が父の元を去る夜、パリ行きの豪華な寝台車を用意してくれたのも当時シェルブール駅の鉄道特別監督官をしていたウジェーヌ・ウーダイユだった。マレーたちがパリに移ると、彼はいつの間にかパリのサン・ラザール駅の特別監督官になっていて、マレーも駅舎に時々「伯父さん」を訪ねていったことがある。

母はときどき、「内務省付参事官」とあるウジェーヌの名刺をもって外出した。名刺には「私の妻と息子に便宜をお図りください」と書いてあり、それを見せるとなぜか映画館の映画はタダとなり、汽車にも切符を買わずに乗ることができた。母が駐車違反をして警察官と言い争いになり、平手打ちをくらわせて署に連行されたときも、名刺を見せると警察官の上司の態度が一変し、丁寧に謝罪されたこともある。

だが、幼い記憶からウジェーヌはだんだんに消えていく。次第に家に来なくなり、別の男が来るようになった。

「どうして君は、ウジェーヌ・ウーダイユを知ってるの?」
何かなければ、絶対にわらかないはずの名前だった。
「ぼくの伯父だからですよ」
「君の伯父?」
「そうです。そして、彼があなたの本当の父親なんです」
「そんなバカな!」
マレーは即座に否定した。
「ぼくは父のアルフレッド・マレーに会ったばかりだ。ぼくらはよく似てた。外見もだけど、性格もだ」
「でもね――」
記者は確信をもっているようだった。
「ぼくの従姉妹のマドレーヌ・ウーダイユは、あなたより15歳も年上だけど、彼女もあなたによく似てますよ」
「マドレーヌ?」

それは今、マレーを密かな嫉妬で悩ませている女性の名前だった。ジョルジュはその名をもつ、マレーの親友でもある女性と一緒にいる。さらにマドレーヌという名前には別の因縁もあった。ジャン・マレーが生まれる数日前、2歳だった彼の姉のマドレーヌが死んだ。そう、マレーには2つ年上の姉のマドレーヌがいたのだ。

母はマドレーヌの死にショックを受け、その子にかわる女の子が欲しいと思っていた。生まれた子が男だと知ったとき、母は見たくないといって泣いたという。コクトーがマレーのために書いた『恐るべき親たち』のヒロインの名は、幼くして亡くなったマレーの姉にちなんでいた。

「それがあなたの腹違いのお姉さんの名前です。そして、彼女はちょうど15歳の冬に、ウジェーヌ・ウーダイユが、誰かと電話で話していて、『息子か!』と喜んでいるのを聞いたと言っています。つまり、あなたのことですよ。マドレーヌの若いころの写真をもってきました。ご覧になりますか?」
「ああ……」

明るい髪に三白眼気味の大きな瞳をもった美人だった。確かに、マレーに似ていた。姉だと言われても不思議はないかもしれない。だが、写真は写真だ。ジョルジュとマレーだって、血縁関係はないうえに、国籍すら違うが、よく人から兄弟だと間違われる。

「ウジェーヌ・ウーダイユとあなたのお母さんの間には、素晴らしい大恋愛があったそうですね。彼は離婚を決意していた。戦争中ウジェーヌはギリシアにいた。フランス人には通行証が出ない場所です。ウジェーヌに会うために、あなたのお母さんは娼婦たちの輸送列車に同乗してまでギリシアに行ったそうですよ。でも、ウジェーヌは内務省付きだった。その頃の内務省は対独協力者からの非難を浴びないために、私生活を厳しく監視していた。ウジェーヌの上司は、彼が離婚すれば免職にし、その上あなたのお母さんをスパイ容疑で逮捕すると脅したんです。ウジェーヌはそれをあたなのお母さんに話した。あなたのお母さんは愛人の経歴に傷をつけたくなかった。とんとん拍子で出世してる人でしたからね。それで彼と別れたんです」

――まるで、駅売り三文小説だ……

マレーは呆然となった。
ウジェーヌ・ウーダイユの面影を辿ろうとした。だが、ほとんど思い出せない。ウジェーヌは確かに優しい「伯父さん」だった。彼が自分の本当の父だったのだろうか? 

そうだとすれば、すべて説明がつく。シェルブールにいたウジェーヌが、なぜか自分たちと同時にパリに移っていたこと。母がありもしない暴力やいもしない愛人をでっち上げてアルフレッド氏を悪者にしたこと。なんとか彼と息子たちを会わせまいと手紙まで偽造して画策したこと。さりとて、名刺に書かれた文字以外に、ウジェーヌ・ウーダイユから「息子」として扱われた記憶もなかった。俳優として名が売れてからも、彼が会いに来たこともなかった。

翌日、母がマルヌの家に昼食に来た。マレーは記者の話をした。
「ぼくは、ウジェーヌ・ウーダイユの子供なのか?」
母は悪びれもせずに、あっさりと答えた。
「もちろん、そうだよ。だから、お前が私をシェルブールに連れて行ったとき、笑ったのさ。アルフレッドは、子供が作れなかった」
――子供が作れなかった?
子供が作れない男が、別れた妻の息子の記事を集めるだろうか? 自分の子供でもない男に、死の床でまで会いたがるだろうか?
「じゃあ、アンリも彼の子供じゃないんだね?」
「そうよ!」
あまりに嬉々とした様子の母に、マレーは疑いを覚えた。もともと嘘ばかりつく母だった。おそらくは、アルフレッド氏と息子との間に生まれた絆と思い出をぶち壊したいのだろう。

40年間、自分を捨てた妻を待ち続けた男。
自分のために夫のもとを去った女を、保身のために捨てた男。

兄のアンリはマレーより7歳年上だった。アンリはアルフレッド氏の子供である可能性が高いような気がした。でも、自分は……

駅売り三文小説並みの出生の秘密をさぐるために、マレーは父の葬儀で会ったアルベリック神父を訪ねて、シェルブールから少し離れたブリックベックの修道院に行った。だが、神父はアルフレッド氏の人としての素晴らしさを語っただけで、別居にいたった理由は聞かされていないと言った。

マレーの母はアンリの死後、ますます意思の疎通が図れなくなる。その後一時マルヌの家に母を引き取ったマレーだったが、コクトーの予言どおり、やがて耐えられなくなり、南仏のカブリスに別荘を建て、家政婦と看護婦をつけて、母をそこに住まわせ、毎週末飛行機で会いに行くようにした。

コクトーも手紙魔だったが、母もマレーにさかんに手紙を書いた。晩年はほかに何もすることがなく、毎日息子へ手紙を書いていた。だが、マレーあての手紙に「親愛なるアルフレッド」などと書き、使用人から「あなたの息子さんはアルフレッドではなく、ジャンと言うのですよ」と教えられるようになる。手紙の内容が途中から息子ではなく夫にあてたものになることもあった。夫への言葉は、不思議なことに愛情とやさしさに満ちていた。マレーの前ではアルフレッド氏を口汚く罵ってばかりだったのに、同じ人間が書いたものとは思えなかった。マレーは母の手紙から何か真実がわかるかもしれないと期待した。

ある日、書いていた手紙を突然まるめて飲みこもうとし、周囲を慌てさせる事件が起こる。強引に口から取り出して広げると、手紙には「本当のことを言うと、あなたのお父さんは」と書かれ、そこで途切れていた。

母は生涯、夫への想いも愛人への想いも胸に秘めたまま、墓場までもっていってしまう。

結局、コクトーの言葉だけが真実を語っていた。――「ぼくの誕生はある秘密につつまれている」。

「これからはぼく1人が君の父」とマレーに書いたコクトー。その戸籍上の名前は、Jean Maurice Eugène Clément Cocteau(ジャン・モリス・クレマン・ウジェーヌ・コクトー)という。さらにコクトーは1913年、つまりジャン・マレーが生まれた年に、ウジェーヌたちの物語『ポトマック』を書いている。コクトーはこの作品を自分の処女作と定め、それ以前の著作を全否定した。つまりマレーが生を受けた年に、コクトーも詩人としての自分を産んだのだ。

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.09.11 01:41:56


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