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2008.08.19
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

「ジョルジュ、それは――ぼくとジャンのことを言ってるのか」
「とぼけるなよ、わかってるくせに。ジャン・コクトーがハレの日にそばに置きたがるのは、誰だよ。結局君じゃないか。――彼がアカデミー・フランセーズの入会演説した日のこと、ぼくはよく憶えてるよ。コクトーは子供みたいに、はおったマントを身体に巻きつけてふざけてた。君はそんな彼の横で、太陽のように明るく、やさしく笑って彼を見つめていた。――歩くときは君がコクトーの横、ドゥードゥーはちょっと離れてその後ろ。ドゥードゥーは本当に自分の役割をわきまえてるよね。ああいうときに決してでしゃばらない。――演説を終えたコクトーが学士院から出てくると、ものすごい数のカメラが彼に殺到して、君が身体を盾にしてコクトーを守っていた。まさしく君だけが彼のナイトだった。ドゥードゥーは、ぼんやり人垣の外に立ってるだけ。そしてぼくはといえば、君らの栄光をテレビで見てるだけ」
「どうして今ごろになって、そんな…… 何年前の話だよ」
「4年前さ。でも、君のお兄さんの葬式はつい最近だ。あのときも当たり前のように、コクトーが君の横を歩いていた。アカデミーのときと同じなんだ」
「君こそ、どこにいたんだよ。ぼくは君にそばにいてほしかったのに、君は来なかった」
「君がちょっとでも目配せしてくれれば、ぼくを呼んでくれれば、そばに行ったさ。でなけりゃぼくに何ができる? 家族でもないのに、差し出がましい真似…… でも、君は何もしてくれなかった。――君が初めて父さんに会いに行く夜だって、ぼくは見送りたかったのに、君は1人で行ってしまった」
「あれは……つまり、気がせいていたんだ。乗り遅れたらどうしようかと」
「汽車の出る時間なんて決まってるじゃないか。定刻の前には出ないよ」
「ジョルジュ、悪かったよ」

「ぼくは君が兄さんの病気や父さんのことで苦しんでるのを知ってた。力になりたかったんだよ。でも君はぼくじゃなく、いつもコクトーに相談するよね。わざわざ南仏に電話をかけたりさ…… ぼくにはいつも明るく、何もかもが何でもないようにふるまうだけ。――ぼくのミュージカル公演だって、君に大変な目に遭わせたのはわかっていたさ。リュリュはあれ以来、ぼくを冷たい眼で睨みつける。――それなのに、君ときたら文句1つ言わず、金を払っている。まるで、後ろめたさを金銭で償おうとしてるみたいにね」
「何を言うんだ! ぼくは……」
「どうしてぼくを怒らないのさ。どうして、分かち合おうとしないの? ぼくには何もできないの? 君はぼくにきれいごとばかり言ってる。――ぼくはフランシーヌやドゥードゥーみたいに、偽りの家族ごっこで満足できる人間じゃないんだ」
「それは違う。フランシーヌもドゥードゥーも、ジャンの家族だ。2人ともジャンを心から愛してる」
「フランシーヌは有名な芸術家と付き合いたいだけだよ。コクトーがいなければ、彼女はただの大富豪夫人だ。ドゥードゥーはコクトーの与えてくれる安楽な生活を愛してるだけさ。コクトーに見捨てられたら、彼はアルザスの炭坑夫に逆戻りだからね。――だいたい、ドゥードゥーは毎日何をしてる? あの贅沢なフランシーヌの別荘で、昼まで寝て、放っておけば夕方まで寝てるじゃないか。君に誘われてあそこに行ったときは、正直言って、ドゥードゥーの怠けた生活には呆れたよ。彼はコクトーに役者をやれといえば、役者をやる。絵を描けと言われれば、絵を描く。何もかもコクトーの言いなりで、何もかもコクトーがかりだ。――君のほうは、コクトーの言いなりにならないからね。だから、コクトーは、何でも言うことを聞くドゥードゥーを必要としてるのさ。ぼくに言わせれば、ドゥードゥーは養子という名の使用人だよ。そうして我慢したご褒美に、コクトーの遺産をもらうんだろ」
「やめろ、ジョルジュ」

「君はアレック(=フランシーヌの夫)が、彼らを本当に許してると思ってるの? 偽りの家族は、きっといつか崩壊するよ。彼らは阿片が作り出すまやかしの天国で家族ごっこをしてるだけ。君は麻薬が嫌いなくせに、あの3人が阿片を吸ってるのを知ってて、見て見ぬふりをしてる」
「阿片のことは、ぼくだってできれば吸ってほしくないさ。ぼくは戦争中に、無理やりジャンをリハビリ施設に入れて、阿片をやめさせた」
「なのに、なんで今は黙認してるんだよ」
「ジャンは生まれつき身体のあちこちが悪いんだよ。昔ぼくは阿片さえやめれば、ジャンが健康になると思ってたんだ。仕事だってもっとはかどるようになるだろうと。だから強引にやめさせた。もちろんナチに密告される危険があったのも事実だけどね。――あのときジャンは、阿片中毒は治ったけど、まったく物を書かなくなった。ほとんど1年間だ。1行も書かなかった。1行もだよ…… そのとき、ぼくがどんなにいたたまれなかったか、わかるか? おまけに、ジャンは健康にもならなかった。それどころか、返っていろいろな痛みに悩むようになってしまった。ぼくはあのとき、身をもって知ったんだ。阿片は他の麻薬と違う」
「違わないよ。麻薬は麻薬だ」
「いや、違うよ。ぼくの兄貴は薬を常用してた。医者から処方されるルミナールをね。神経症の発作を抑えるためだったけど、だんだん発作が起きなくても薬を欲しがるようになった。ルミナールは兄貴から仕事への意欲を奪って人生を台なしにした。ぼくは薬剤師と共謀して、ルミナールの入っていない薬を兄貴にわたすようにした。そうしたら、兄貴はまた、発作を起こしてしまった。神経症の発作じゃない、病気はもう治ってた。兄貴の発作はルミナールを欲しがる発作だった。――ジャンは確かに阿片に頼ったけど、人生を台なしにまではしていなかった。それどころか、多くの偉大な作品をフランスに与えたんだ。ジャンは生まれつき背中が曲がっているし、今は歯の具合も悪いし、たえず皮膚病に苦しめられてる。阿片はジャンの身体に均衡を与えてるんだよ。だからもうぼくは、無理に中毒を治そうとは思わないんだ」

「そして、君はそんなコクトーの世話をドゥードゥーに押しつけてるってわけ」
「何だって?」
「君がジャン・コクトーのboyfriend(恋人)だってことは、世界中が知ってた。ぼくだってそんなことは、フランスに来る前から知ってたよ。でも、ぼくらが会ったとき、君はコクトーと暮らしていなかった。もう別れたんだと思ってた。――だけど、そうじゃなかった。君は年をとって病気がちになったコクトーの世話をドゥードゥーに押しつけて、自分だけ自由になったんだ。――君はコクトーのami(恋人)からamant(外の愛人)になっただけさ。――あのころ…… ぼくが君と出会ったころ、コクトーはドゥードゥーやフランシーヌとサン・ジャンに行ってしまって、君は淋しかったんだ。最初は1週間のつもりで行って、結局1年居座って、それからあそこが、ほとんどコクトーの家になってしまったんだってね。フランス人の君の仲間なら知ってたことだろ。だから君は事情を知らない、フランスに来たばかりのアメリカ人に目をつけて、囲い込んだんだ。コクトーがユーゴスラビア人のドゥードゥーを囲い込んだみたいにね」
「……」
「ぼくも滑稽だよね。そんなこととも知らずに、君に愛されてると思って有頂天になってた」
「ジョルジュ…… ぼくはジャンと君を秤にかけたことは一度もない。ぼくとジャンの友情は君が思ってるようなものじゃない」
「じゃあ、どういうものだよ」
「ジャンは、色恋より友情に安らぎを覚える人なんだ」
「そんなのは、コクトーが年をとったから言ってることだろ。ぼくの年のときのジャン・コクトーは何を考えていた? ぼくの年のときの君は? そうやって、loveとfriendshipの境界をどこまでも曖昧にするのが、君たちフランス人のデカダンな知恵なんだ」
「友情だって愛だろう。どの愛がデカダンで、どの愛がデカダンじゃないんだ。そんなことを誰が決めた」
「じゃあ、聞くけど、君はコクトーと罪を犯してないと言えるのか。これまで一度も」
「……」

「ぼくはそんな曖昧さの中で幸せになれる人間じゃない。ぼくと君だって共犯者だ。起こったことは、起こったことさ。今さら何もなかったことにはできないよ。――何度も言うけど、もうぼくも30を超えた。ぼくが欲しいのはclose friendじゃない。ぼくが欲しいのは、たった1人のpartnerだ、人生の。――ぼくだけを見つめてくれるpartnerなんだ」
「……それが、マドレーヌってわけか」
マレーの声は、自分でも驚くほど陰険だった。
「マドレーヌ? 何を言ってるの。マドレーヌは関係ないよ」
「じゃあ、何でマドレーヌと一緒に住んでいるんだ」
「気が合うからだよ。ぼくたちはただの友達だ。友達はどこまで行っても友達だよ。loveとfriendshipは明確に違うんだ」
「明確に違うなんて、ありえないだろ」
「ありえないって?」
「ありえないよ。友情は愛の一部だ。ときには友情は愛そのものだ。無理に境界線を引こうとする君のほうが間違ってる」
「……」
「間違っているとうのが適当でないなら、自然な感情に反してる」

ジョルジュは嘲笑するように肩をすくめた。
「それもジャン・コクトーがそう言ったの? 君はジャン・コクトー教の信者だからね。彼が何か言えば、頭からそれを信じてしまう。――君たちの自然な感情は、普通の人間から見れば不自然だよ。ドゥードゥーもローランもご同類…… まるで変な新興宗教だ。アメリカには時々いるよ。教祖のお言葉を金科玉条のように守って、世間一般からはかけ離れたモラルに生きてる集団が。そして、信者はたいてい、教祖と寝てるんだ」
「ジョルジュ!」
「コクトーはコクトーで、君のつまみ食いを見て見ぬふりをしてる。自由にすることで、君を縛ってるんだ。君は君で、見せかけの自由を謳歌してる。本当は身動きするたびに、ジャン、ジャン、ジャンと、コクトーのことしか考えていないくせに――そうやって、ジャン・コクトー教に自分のモラルのすべてを預けてしまって、彼が死んだら君はどうするつもり? コクトーは君よりずっと年上じゃないか。いつまでも生きてやしないよ。そうしたら、君は1人ぼっちだ。彼以上に君を愛しぬいてくれる人なんて、どこにもいやしないからね。――ぼくには見えるようだよ。コクトーの葬送の列が。コクトーの男やもめたちが、並んで行進するんだろう。そんな中で君は何を思うの? コクトー教の信者の多さに満足するのかい? それとも、教祖に一番愛されたのは自分だって、密かに誇りに思うの?」

恐らくジョルジュを張り倒して、それで終わりにするのが一番の解決法だったかもしれない。アメリカ的なピューリタンによる断罪と侮蔑は、あまりに残酷だった。傷つきやすく、繊細な気質と、それとは裏腹に鍛え上げた、細いけれど筋肉質な肉体でマレーを魅了した「弟」は、いつの間にか残忍な堕天使ルシファーに変わってしまっていた。

マレーの脳裏に父と兄の最後の日々が浮かんだ。病魔に侵された救いのない苦しみにとっては、もはや死だけが希望だった。同様に、瀕死の傷を負わされた愛には、もはや別れだけが救いだった。

堕天使ルシファーは大天使ミカエルの魂を喰いちぎり、さらに全部差し出せと要求していた。だが、ミカエルが燃える剣 (注=大天使ミカエルはしばしば、燃える剣をもって戦う姿で描かれる) を振るうことはなかった。彼は立ち上がり、無言で立ち去った。

「ジャン・コクトー通り」は不思議なことに、明るい夏の日差しを浴びて、木の葉をきらきらと輝かせていた。それは嫉妬や疑念や独占欲に毀損されない、もう1つの、懐かしい世界だった。夏になって、やさしい緑がいっそう濃くなったと、ふいにマレーは思った。

突然わっと泣き出す声を聞いた。泣いているのは自分ではなく、ジョルジュだと気づくまで、少し時間がかかった。透きとおった光と木々の織りなすジグザグの影の中を、マレーは通っていった。

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.08.19 00:26:34


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