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2008.08.20
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

数日後、マドレーヌ・ロバンソンが突然、マルヌの家にジャン・マレーを訪ねて来た。

「いったい、何があったの?」
サロンに通されたマドレーヌは、ソファに座るのもそこそこに切り出した。
「2人のことに立ち入るのはどうかと思ったけど、でも、うちのかわいそうなピューリタン君を見てると黙っていられない。毎日部屋にこもって泣いてばかりよ」
「泣いてる? ジョルジュが……?」
――泣きたいのは、むしろこっちだよ。

「まるっきり女の子みたいよ。あれじゃ、うちのちいちゃなソフィー・ジュリアのほうが、よっぽど頼もしく見えるわ」
「ジョルジュのことは、ジョルジュに聞いてよ」
「聞いても話さないから、ここに来たんじゃない。ジョルジュはこのところ、自分のバレエ・カンパニーのことで悩んでいたわ。カンパニーは解散したほうがいいのかとか、アメリカに帰ってやり直そうかとか…… あなただって、聞いてるでしょう?」
「いや…… ぼくは何も聞いてないよ」
「聞いてないですって」
「聞いてないよ」
「だって、ジョルジュのカンパニーは、あなたの援助なしでは、立ち行かないんじゃないの」
「今はとくに何もしていないよ、ぼくは」
「助けてあげないの?」
「助けるって――」
「ジョルジュがカンパニーを作るとき、やってみたらって勧めたのは、あなたなんじゃないの?」
「それは…… やってみたらとは言ったさ」
「それなのに、今は何もしていない? ジョルジュをけしかけておいて、見捨てるの?」
「おいおい――」
――いったい、どういう話になっているんだ?

「信じられないわ。今になってあなたがジョルジュを見捨てるなんて。いい? ジョルジュがパリで仕事する決心をしたのは、誰のため? あなたのそばにいるためでしょう? もともと彼は、短期間でアメリカに帰るはずだったのよ、忘れたの? ブロードウエイでの次の仕事も決まってた。それなのに、あなたは、向こうに根を下ろして咲くはずだった花を摘み取って、自分の手元において、10年たって枯れ始めたら、もういらないと捨てるってわけ?」

マドレーヌは真剣に怒っていた。マレーは呆気に取られて一方的にまくし立てる彼女を見つめた。
「どうして、そんな話になっているのかな…… むしろ愛想を尽かされたのはぼくのほうだと、思うんだけど」
「どういうことよ」
「どういうことって……」

マドレーヌにどこまでどう話したものか、マレーは迷った。そもそも話す必要があるのだろうか? 
「つまり――ジョルジュがそう言ったんだよ」
「ジョルジュが?」
「そう。――決めたのは、彼だ。友情はいらない、人生の伴侶がほしいってね」
「人生の伴侶? どういうことよ」
「知らないよ。聞きたいなら、彼に聞けよ」

マドレーヌは、ようよう黙った。しばらく考え込み、思い切ったように口を開く。

「つまり…… それはあなたなんじゃないの?」
「違うよ」
「どうして」
「どうしてって、ぼくは不適格者だからさ」
「それも、ジュルジュがそう言ったの?」
「マドレーヌ、勘弁してよ。――あんまりぼくを惨めにさせないで」
「ジャノ……」
だんだんに口調がやさしくなった。
「私たちは、親友よね。違う?」
「ぼくはそう思ってるよ」
「誰より私たちは、長い付き合いよね」
「ああ、もう20年以上だ」
「あなたが人に弱みを見せるには、あまりにも誇り高いってことはわかってるわ。――それは私も同じだからよ。私たちは似たような性格よね。――私はあなたを愛してる。信じてくれる?」
「ぼくも君を愛してるよ」
「なら、話してちょうだい。あなたたち、何があったの?」
「つまらない話だよ――」
マレーは多少自暴自棄になって言った。

「ある日あるとき、ぼくは自分に似たひとに会った。彼はぼくがジャンに会った歳と同じ歳だった。ぼくはそれを運命だと勝手に思い込んで、ジャンがぼくにしてくれたようにふるまった。ジャンがぼくを高みに連れて行ってくれたように、彼と一緒に飛びたかった。ところが、結局、ぼくらは墜落した。イカロスのようにね。それで、終わり」
「ジャノ……」
「ぼくはできる限りのことをしたつもりだよ。ジョルジュのカンパニーのミュージカル公演だって、本当はジャンが自分に相談してくれていいって言っていたんだ。ジャンが書いてくれていれば――少なくとも眼を通してくれていれば――ずっといいものができたはずだ。ところがジョルジュは、ジャンを無視した。ジャン・コクトーの世界はわからないし、興味がないと言ってね」
「……」
「それで、はからずもぼくが作者になってしまったってわけ。ジョルジュはいつもそうだ。――たとえば、南仏にバカンスに行っても、サント・ソスピール荘には行きたくないと言い出す。最初はフランス語がわからないから、食事の席が楽しくないという理由だった。そのうちに同じところじゃイヤだ、別の街が見たい、とかね。――ぼくらが来ると期待して、ぼくのバカンスのたびにいろいろ準備しているフランシーヌはがっかりするし、ジャンからは小言を言われるし…… でも、みっともない話だけど、ぼくはジョルジュの機嫌を損ねたくなくて、どんどん後退した。自分の砦がなくなるくらいにね」

「やっぱり――ジャン・コクトーが原因なのね」
「違うよ。これはぼくたち2人の問題なのに、ジョルジュが無理にそう決めつけてるだけだ。ジャンには何も責任はない。――ジャンがジョルジュに何をした? バレエの台本なら当てにしてくれていい、怪我はしていないか、公演で疲れてないか、いつもジョルジュを気遣ってくれたのに、ジョルジュはそれをわざわざ色眼鏡で見るのさ」
「つまり、それは――ジョルジュがあなたを愛してるってことじゃないの」
「……どうだかね。むしろ逆だと、ぼくは思うけど」
「冷たい言い方ね」
「君こそ、ずいぶんジョルジュの肩をもつじゃないか」
「あなたこそ、単純な問題から眼をそむけてない? つまり――あなたは、ジャンとジョルジュのどちらを愛しているの?」
「どちらも愛しているよ」
「だから、ジョルジュはそれが受け入れられないのよ」
「どうしてさ」
「どうしてって――」
「ジャンとジョルジュを引き比べて、どちらかを選ぶなんて、そんなことはできないし、そもそも考えたこともないよ。ジャンはぼくの創造主だ。――24歳のとき、ジャンの手がぼくに触れて、ぼくは生まれた。――本当の父親以上に、ぼくに命を吹き込んでくれたひと…… たとえ神の声でも、ぼくらを引き裂くことはできないよ。――でも、ジョルジュへの気持ちは、また別のものだ。君は君の父や母を愛しているからって、別の誰かを愛せないって、そんなことがあるかい?」

「それは多分、あなたの理屈なのね。――私はあなたの気持ちもわかるけど、ジョルジュの気持ちもわかるから、何とも言えない」
「マドレーヌ……」
「人生の伴侶がほしいなんて、あなたにそんなふうに言うなんて、切なすぎる。――ジョルジュはそうやって言葉にすることで、あなたの分も傷ついたのよ」
「あくまで傷ついたのは、かわいそうなジョルジュってわけか! まったく君は理解があるね。そういう人こそ、彼の伴侶にはふさわしいんじゃないの」
「何よ、それ」
「君は3番目か――4番目かの伴侶と別れたんだろう? おあつらえむきじゃないか。ジョルジュも君の家は、ずいぶん気に入っているみたいだし」
「ジャン・マレーさん、それは嫉妬ですか?」

痛いところをつかれて、マレーは赤面した。それを見て、マドレーヌは再びやさしく言った。
「ねえ、ジャノ――たとえば、こういうのはどう? あなたが、うちへジョルジュを迎えに来るっていうのは?」
「いつでも好きなときに来ていいって、ジョルジュには言ったよ」
「だ・か・ら、そうじゃなくて――『いつでも来ていい』じゃなくて、『帰ってこい』と、あなたから言うのは、どう? たとえば、明日」
「明日?」
「そう、明日」
「でも……今は、ロザリーもいるし、彼女にも言わないと……」
「お母さんは関係ないんじゃないの」
「……それはそうだけど、ジョルジュはロザリーを嫌っているし――」
「だから、帰ってこいとは、言えないってわけ? お母さんがいるから?」
「……」

まるで誘導尋問だった。マレーにはそう聞えた。彼にしたくもない決断を迫り、責任を押しつけようとしている――マレーはマドレーヌの友情を疑った。年下のダンサーを、2人は微妙に譲り合い、微妙に奪い合っているようだった。


<明日へ続く>





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最終更新日  2008.08.20 02:50:58


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