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2008.08.26
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カテゴリ: Movie
10月中旬のある木曜日。コクトーはサン・ジャン・カップ・フェラから、マレーはニースの飛行場から、ヴィルフランシュに向かい、ホテル・ウェルカムで合流した。ウェルカムはコクトーが常連だったホテルで、コクトーを訪ねて来る友人をもてなすための部屋も用意されていた。

マレーはコクトーが予想していたより、ずっと元気な様子だった。
「ぼくは元気だよ」
と、マレー。
「最初の手紙が深刻な調子になってしまって、悪かった。君があんなに心配するなんて、思ってなくて――」
「ねえ、ジャノ……」
コクトーは真剣な面持ちだった。
「ぼくは君が1人で、孤独だなんて耐えられないよ。――家族をもつことを考えたどうだろう?」
「家族? ロザリーがいるよ。それに君も」
「そうじゃなくて、結婚だよ」
「結婚? ぼくが?」
あまりに思いがけない提案に、マレーは思わずコクトーを見つめた。コクトーが冗談を言っているのでないことは、確かだった。
「素敵なお嬢さんと結婚して、子供を作って――」
「ジャン、本気で言ってるのか?」
「もちろんだよ」
「いつだったか、君はロザリー(=マレーの母)と結婚してもいいと言って、今度はぼくに結婚を勧めるの? ジャン・コクトーがジャン・マレーに結婚を勧めてるなんて、ひとに聞かれたら笑われるぜ」
「ぼくは君が、君の新しい家族に囲まれて輝くのを見たいんだよ」

マレーはしばらく考えてから言った。
「ジャン、たぶん君は――君には、父親がいたよね」
「10歳まではね」
「でも、ぼくの家族は母親と伯母さんとおばあさんだったんだよ。父親はいなかった。アルフレッド・マレーのことは憶えていないし、ウジェーヌ・ウーダイユがぼくの本当の父親だったとしても、たまに来るおじさんってだけで、一緒に暮らしたこともない。親類も近くにいなかったから、全然知らない。ウジェーヌのあとは、ジャックという男が来るようになったけど、彼は結局、ロザリーの金をもって行方をくらませた。だから…… だから、ぼくには、父親と母親と子供がそろった家庭というイメージが、もともとないんだよ」
「ジャノ……」
いつの間にかマレーはコクトーの横に座り、肩を抱いていた。むしろマレーのほうが、あやすような口調になっていた。
「それに、結婚して孤独でなくなった人なんて、ほとんど見たことがない。――ぼくはね、君が…… 君が、家庭に憧れをもっているのは、知ってるよ。それはぼくが君に与えてあげられないものだからね。――でも、ぼくは君とは違う。ぼくは誰かと結婚して、家庭をもちたいとは思わないんだよ、まったくね……」
そしてマレーは、コクトーに会ったら言おうと思っていたことを口に出した。
「……ジャン、君は手紙で、ぼくがしてほしいと思うことを考えてるって、言ってくれたよね」
「もちろんだよ。こんなボロキレのようなぼくにでも、できることがあるんなら何でもする」
「ぼくが君にしてほしいことは、たった1つだ――そばにいてほしい。映画の仕事が終わったら、じきに冬だろう? マルヌの家に住んでくれないか、もちろんドゥードゥーも一緒に」
「マルヌの家に……」

鸚鵡返しに言って、コクトーはマレーの腕の中で、困惑したようにうつむいた。痩せた身体がさらに小さくかたまり、何か、罰を恐れる子供のようだった。二つ返事で諒承してくれるものと思い込んでいたマレーは、思いがけない反応に慌てた。

「もちろん、ずっとじゃなくても…… 1ヶ月か、2ヶ月でもいいんだ――」
「ジャノ――映画の撮影が終わったら、11月はロンドンで聖母のチャペルに絵を描かないといけない。オラトリオの『オイディプス王』の公演もある。ぼくはコロスの役で出るんだよ――君がぼくのために演じてくれた最初の役だ。パリの初演では観客にしかめっ面をされたけど、ウィーンでは、ベームとカラヤンが振ってくれて、大成功だった。ロンドンではストラヴィンスキーが指揮だ。――それから、年末にかけては、映画の編集……」
「じゃあ…… じゃあ、来年でもいいよ。1月か2月か……」
「その時期はまた、フランシーヌとドゥードゥーとサン・モリッツで過ごす予定なんだよ。雪のある空気のきれいなところに行けって、医者も勧めるんだ」
「気管支炎か?」
「うん。ぼくもだけど、フランシーヌのほうがもっと悪い……」
「フランシーヌはずいぶん痩せたね」
「いつだったか、体調が悪いままパリからキッツビューエルに旅行して、寒さでやられて高熱を出した。あれ以来、病気にとりつかれてしまったようなんだ。今は服を着ても、35キロあるかないかだそうだ」
「そうか……」
マレーはひどく落胆した。
「君がサン・モリッツに来れないかい? ジャノ。あそこでなら、ドゥードゥーとスキーができる。プリンセス(=キャロルのこと)も来るよ」
「いや…… 来年のアタマはパリでの舞台がもう決まってる。3月からはニースとモンテ・カルロで公演なんだ――」
「そうか…… ぼくたちはすれ違っているね。手紙もよくすれ違いになるけれど……」
マレーは悲しくなって、唇を噛んだ。
「ジャノ、パリに行ったら、すぐにマルヌのあの地上の楽園に食事に行くよ」
「――そうしてくれると嬉しいよ」

2人はそれから、コクトーの映画、マレーの舞台、それにもうすぐ封切りになるマレーの最新映画『城塞の決斗』の話をした。仕事の話は長くながく続き、コクトーの話はマレーを、マレーの話はコクトーを夢中にさせた。
結局コクトーは、マレーの人生から去っていったダンサーの話には触れず、何も聞かなかったし、マレーも話さなかった。

時間はあっという間に過ぎていった。2人はコクトーが「ぼくがやる唯一のスポーツ」と呼ぶ会話に熱中して部屋から出ず、食事も運ばせた。ルームサービスに入ってきたホテルのボーイが見たのは、港を見下ろすバルコニーのテーブルで、時に声を上げて笑い、楽しげに語り合っている詩人と俳優の姿。一方が深刻な別離の傷をかかえて来たなどとは、到底想像できないのだった。

翌朝早く、パリへ帰るマレーに、コクトーは心を込めて言った。
「ぼくがいつも君のそばにいることをわかってほしい…… マルヌに住めなくても、1分ごとに君のことを考えているよ……」

こうして短い逢瀬のあと、2人は別々の世界に戻っていった。

1人になったマレーが必要としているのは、他ならぬ自分なのだと知らされたコクトーのこれ以降のマレーへの手紙は、再び熱を帯びてくる。

「君の孤独を知って以来、これまで以上に君を間近に感じてきました」
「ぼくの善良な天使、生きるのですね。それも2人して、ともどもに生きるのです」
「映画のあのアクロバットの合い間に、ほんの短い手紙なりと書いてください」
「君から遠く離れて暮らすのは、ぼくには耐えられません」
「電話をください。ひどく気持ちが沈んでいます」
「いつだって君のことを考えています、ぼくの愛で君を暖めてあげます」
「2人一緒に暮らし、喜びと苦しみをわけ合うことができないなんて、本当に悲しい」
「山ほど願いを立てましたが、どの願いもみな、2人が遠く離れて暮らさなくてすむことにつきています」


そして、最愛の人に深手を負わせたジョルジュに対しては――マレー自身はまったくジョルジュを悪く言っていないにもかかわらず――悪口を炸裂させている。

「ジョルジュは君の友情の値打ちがわからないのですから、犯罪的です」「誰もが君に感じるあの豊かさが、いつまでもこのまま君を困らせておかないでしょう。ジョルジュにはそれがわからない、およそ彼の人格に感じ取れないものだからです。君はあらゆる幸運、あらゆる栄光で包まれるべきです。その光がとても強いので、彼にも到底消すことはできません」

コクトーはマレーとジョルジュがアツアツだったころは、「ジョルジュはとても優雅です」「彼の精神の落ち着きを、ぼくも見習いたい」などと、(無理やり?)褒めていたのだ。

コクトーとマレーが出会ったのは 1937年5月 のパリだった。この5月の記念日をコクトーは常に忘れなかった。

1956年2月にサン・モリッツから、マレーに宛てて送ったコクトーの詩の一部。
太陽は山々の高峰を
 残酷な雪々で柔らかく被う
 かくてもぼくらは集まった
 翼を買わずに飛び立つため

 かくてぼくらは飛び立った
 かくて寒さは弱まった
 ぼくらの魂の封筒(つつみもの)は

5月のサフラン まで飛んでいく
 (新潮社『ジャン・マレー自伝 美しき野獣』石沢秀二訳)

1960年 5月 にマレーに宛てて書いたコクトーの手紙。

「この手紙は遅れて着くでしょうけど、ぼくたちの記念日です、君にくちづけを送ります。2人は愛し合いましょう、いつまでも、永遠に」
(コクトーの手紙の抜粋はすべて『ジャン・マレーへの手紙』より)

<明日へ続く>

Reich and
自作のジョルジュ・ライヒの肖像画を見つめる最晩年のジャン・マレー(南仏カブリスの別荘にて)

Morgan and Marais
ミッシェル・モルガン とマレー(後ろ)のブロマイド

marais
そしてもちろん、「彼のためなら命も捧げよう」とマレーが思い決めたジャン・コクトーとマレー(右)





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最終更新日  2008.08.26 05:49:26


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