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2008.08.30
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

サロンに入ると、百合の香りは嘘のように消えた。大理石の床は、暖かみのある木の細く精緻なヘリンボーンとなった。仕上げたばかりのように艶やかな白い漆喰の壁には、100号はあろうかという大きな油彩の絵がかかっている。それは、ゼウスとガニメデウスの図――つまり、鷲が羊飼いの若者を山へさらっていく絵だった。

天井のバロック風のメダイヨンから、圧倒的な大きさのシャンデリアがテーブルに向かって重たげに下がっている。壁に埋め込まれた背の高い本棚、巨大なスタッフォードシャーの陶器、ダークブラウンのアンティークな木製の象嵌家具、床に散らばるように敷かれたいくつかのラグ。花瓶にはこぼれおちんばかりの白いバラ。

逆U字型の2つ並んだ大きな窓の向こうには、緑の芝生と5月の花が咲き乱れる、手入れの行き届いた庭が見えた。明るく、そして非常に静かな、音のないサロンだった。

窓のそばに置かれた、それだけはいっそモダンな黄色い椅子から、影が立ち上がった。ヴィスコンティだった。

『白夜』のあと、マレーはパリのアンバサドゥール座でウィリアム・ギブソンの戯曲『 ブランコの2人 』の出演を申し込まれた。脚色はコクトーとも親交のあるルイーズ・ド・ヴィルモンで、相手役は才能溢れる女優のアニー・ジラルド。劇場側はマレーに演出をと言ってきたが、2人だけの芝居なので、マレーは役者に集中したかった。演出家を推薦するように頼まれたマレーは、ヴィスコンティの名前を挙げた。
「絶対に受けないよ。パリまでわざわざ来て、2人芝居の演出なんて」
周囲は悲観的だったが、予想に反してヴィスコンティは2つ返事で引き受けた。舞台美術もヴィスコンティが手がけた。
ヴィスコンティの演出と美術は素晴らしく、マレーはその才能に驚嘆し、彼と仕事ができることに幸福感を覚えた。ヴィスコンティは演出しながら、自分も演じて見せるのだが、マレーはそれを見て、ヴィスコンティが俳優であっても素晴らしいだろうと思った。彼にそう告げたが、ヴィスコンティは笑っただけだった。

アニー・ジラルドは共演者としても、1人の仕事人としても尊敬に値する女性だった。演出には忠実に、そして的確に従い、決して共演者の不利になるようなことはなしない。ちゃらんぽらんなところのない、堅実な性格でもあった。
そして、『ブランコの2人』でジラルドの才能に注目したのか、ヴィスコンティは『若者のすべて』で兄弟2人から愛されるナディア役に彼女を抜擢した。

『マッチ』誌は、アニー・ジラルドの特集を3ページにわたって組んだ。
マレーはその雑誌をヴィスコンティに見せ、アラン・ドロンや他の役者も含めて『若者のすべて』が非常によかったこと、パリでの客の入りも上々であることを伝えた。またも、ヴィスコンティは、かすかにはにかんだような笑いを見せただけだった。ちょっと褒めると大喜びのコクトーとは対照的――と、マレーがそんなことを思っていると、急にヴィスコンティは、
「ジャンにも、あらためてお礼を言っておいてくれ」
とコクトーの名前を出して、マレーを慌てさせた。
「え?」
「『2人のブランコ』をやったときに、ジャンがぼくについて書いてくれた文章だよ。あれは素晴らしかった。ジャンに直接会ってお礼ができなかったのが心残りでね」
「ジャンはこのごろ、サン・ジャンにいることが多いからね…… わかったよ、必ず伝える」

2人がテーブルにつくと、カメリエーレが足音も立てずに入ってきて、マレーに手書きのメニューをわたした。テーブルの上には、よく磨かれた銀のカトラリーが並び、曇りのないグラスが4種類も置いてあった。短く切った白いアネモネの花が、四角い小さなガラスの花瓶の中でかしいでいた。

カメリエーレの男は、メニューの説明を始めた。
「アンティパストは小海老のカクテルです」

――小海老のカクテル?
マレーは首をかしげた。
――どこかで聞いたな……

「今朝チビタベッキアの港から、ローマに着いたばかりですよ」
「それは楽しみだね――」
マレーの眼の前には、男の太い腕と腕にかけたリネンのクロスがあった。カメリエーレはマレーに身をかがめるようにしながら、熱心に料理の説明をしていた。相槌を打ちながら、マレーは上の空だった。ヴィスコンティとはフランス語で話していた。急にイタリア語でべらべらと話されて、うまく脳が切り替わらない。それにマレーには、ヴィスコンティに相談したいことがあったのだ。

<明日へ続く>

白夜
ヴィスコンティ監督『白夜』のスチール。ジャン・マレーとマリア・シェル(右)
『白夜』については 3月10日からのエントリー 参照。





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最終更新日  2008.09.07 06:42:37


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