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2008.08.29
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カテゴリ: Movie
<8/27日のエントリーから続く>

1961年3月、マレーはパリで、友人であるルキーノ・ヴィスコンティ監督の最新作『若者のすべて』を観た。マレーが出演した前作『白夜』から3年(注:フランスでの『白夜』封切は1958年3月)、アラン・ドロンを主役に据えたこの作品は、すでにヴェネチア国際映画祭で特別賞に輝くなど高い評価を得ていた。

マレーにとってはアラン・ドロン以外にも、馴染みの女優が出演する作品でもあった。ナディア役のアニー・ジラルド。彼女は1958年に『 ブランコの2人 』という2人だけの芝居でマレーと共演した。この舞台の演出をマレーがヴィスコンティに依頼したことで、ジラルドは『若者のすべて』に抜擢されたのだ。

映画を観終わったマレーは、『若者のすべて』が『白夜』とはまったく違ったスタイルの作品だったことに驚いた。今回ヴィスコンティは、いったん離れたとみせたネオ・レアリズモにやや回帰しつつ、5人の兄弟を軸に、家族を中心的なテーマにすえた物語に取り組んだ。
――ルキーノは、まるでピカソのようだ……
と、そう思った。自らが作り上げた様式を自ら破壊し、次々と新しいスタイルの作品を発表していくピカソ。そのカメレオンのような変貌ぶりは、『夏の嵐』でネオ・レアリズモから離れ、『白夜』『若者のすべて』と1作ごとにスタイルをまったく変えてみせる、この時期のヴィスコンティと共通するものがあった。

さらに、ドロン演じるロッコのすぐ上の兄シモーネが、意中の女性に貢ぎ、ロッコや家族に金を無心したあげく、彼女に捨てられて自暴自棄になる姿は、まるで亡くなった兄のアンリを見ているようで胸が痛んだ。その兄を許し、なんとか支援しようと誠心誠意尽くすロッコは、理想化されたもう1人の自分であるような気さえした。

アンリは若いころから、好きな女性にプレゼントをするために、一緒に住んでいた叔母の財布から金を失敬していた。その額はだんだんに増え、家族の生活を脅かした。最初の結婚は、妻に逃げられて終わった。アンリは悲嘆に暮れ、体まで悪くした。ルミナール依存症になったのもそのころだった。仕事が長続きしないアンリは、マレーの出征中にコクトーに金をせびった。マレーは何とか兄に安定した収入源を与えようと、自分が出演している劇場のオーナーに頼んで、秘書にしてもらった。だがそれも、マレーと劇場主の仲がこじれると解雇という形で終わった。2度劇場を解雇されたアンリに対して、責任を感じたマレーは、彼が死ぬまで経済的に支援し続けた。

マレーはヴィスコンティに、兄の話をしたことはない。にもかかわらず、まるで胸の奥の秘密を見透かされたようだった。ロッコとシモーネは1人の女性をめぐって一時三角関係になるが、マレーと兄にも同じような思い出があった。アンリが18歳だったとき、彼の恋する女性(しかも彼女の名前は「シモーヌ」だった)の家に一緒に遊びに行った。シモーヌはまだ少年だったマレーに、とても親切だった。天使のように可愛い、と彼女は言った。恋する女性が弟ばかりにかまけたことにアンリは激怒し、帰宅したあとにマレーをめった打ちにして、彼女の家に行くことを禁じたのだ。

そんな忘れかけていた思い出さえ、ヴィスコンティの最新作を観て蘇ってきた。マレーは複雑な気持ちで映画館を後にした。

5月になって、マレーはアメリカ人のアーヴィング・ラッパー監督の映画『ポンス・ピラト』を撮るために、イタリアに行った。撮影中は、ローマから30キロほど離れたアルバノのブドウ畑の中にある小ぎれいなヴィラを借りて住み、毎日自分でクルマを運転して仕事に行った。

ちょうど撮影の合い間にヴィスコンティと会うことになっていた前日、奇妙なことが起こった。撮影を終えてローマを出ると、1人の少年がカーストップをかけてきた。

マレーはクルマを停めた。まだ12歳かそこらの、みすぼらしい身なりの痩せた少年だった。
「ナポリに行きたいんだ」
「アルバノまでしか行かないよ」
それでも、少年は乗り込んできた。
「君のご両親は、こんな夜にヒッチハイクをする君に何も言わないの?」
「親なんていない」
大人びた、いっぱしの口をきく少年だった。
「2人とも?」
「母さんは死んだよ」
「じゃあ、お父さんは?」
「刑務所だよ。母さんを殺したんでね」
「何だって――」
マレーは呆然となった。
「――それは…… なんという悲劇だ……」
「別に。シチリアではよくある話さ」
「君はシチリア生まれか」
「生まれも育ちもシチリアだよ。貧民養護施設にブチこまれたんで、逃げ出してきてやったのさ」
「ナポリに行ってどうするんだい?」
「船でシチリアに戻るよ」
「船代はあるのか? それか、あてでも?」
「あるわけないよ。でも、乗っちまえばこっちのもんだろ」
涙も見せず、むしろ誇らしげな様子だった。
――こんなにまで、運命に見放された少年を放っておいていいのか?
マレーは迷いながら、アルバノを通り過ぎた。だが、ナポリまで行くにはガソリンが足りない。現金の持ち合わせも十分ではなかった。

マレーは、ガソリンスタンドでクルマを停めた。
ガソリンを入れ、残りの現金を少年に与え、スタンドの店員に声をかける。
「この子をナポリまで乗せてくれる人を、探してもらえませんか?」

店員は、自分に声をかけてきたのが有名な俳優だとすぐに気づき、驚いた表情を見せた。
「君は、この人が誰だか知ってるの?」
少年に聞く店員。
「知らない」
と、そっけない答え。
「ジャン・マレーさんだよ。映画スターの」
そう聞いても、表情を変えない。
「君、名前は?」
今度はマレーが少年に聞いた。
「……」
上目遣いにマレーを見ながら、少年は黙っている。
ここで別れたら、2度と会えない――そう思ったとたん、マレーは胸が締めつけられた。思わず少年の前にかがみこんで、
「君に会うためには、どこに行ったらいい? 家の住所を教えてくれるかい?」
と、聞いた。
少年の後ろに立っていた店員が、眉を顰めたのが目に入った。
少年は、答えなかった。

マレーはアルバノに戻った。少年をスタンドに置いてきたことを、ほとんど後悔していた。なぜかわからなかったが、とても悲しかった。

翌日、ヴィスコンティと会うために、サラリア通りの彼の屋敷へ行った。門番は、マレーが来るのを待っていた。まるで自動式のように、見上げるほど高い門の柵が左右に開いた。

石畳――それはローマの伝統にのっとり、小さな四角い黒い石を土に打ち込んで、扇型に整えたものだった――のアプローチを進んでいくたびに、外部の喧騒が1つ1つ消えていき、いにしえの貴族世界に時間をさかのぼっていくようだった。緑につつまれたヴィスコンティ邸は、茶色がかった桃色の外壁で、エントランスの扉の前には、すらりとした美青年が控えていた。クルマを降りると、庭から鳥のさえずりが聞えてくる。

美しいポルタトーレは、目を伏せたまま静かに挨拶だけをして、扉を開けた。彼まで機械式のようだった。中に入ると、今度は年老いた執事がマレーを待っていた。

ヴィスコンティ邸の床は、縞1つない純白の大理石で、ホールには赤いシルクのペルシア絨毯が敷かれ、灯りを掲げる半人半獣の彫刻をしつられた真に審美的な螺旋階段が目を惹いた。シャンデリアはすべて完全に18世紀ヴェネチアン・スタイルで統一されており、光沢を抑えた漆喰の壁には、ルネサンス期のものらしい絵画が黄金の額縁におさまって並んでいた。あちこちにみずみずしい花が生けてあり、ことに百合の香りがむせかえるようだった。

上品な物腰の執事に案内されて、サロンに向かう。彼も最初に挨拶しただけで、あとは一言もしゃべらなかった。

サント・ソスピール荘では、誰が出迎えても、サロンまで賑やかにしゃべりどおしだし、それはマレーの場合、たいてい誰の屋敷に招かれてもそうだった。だが、ここにはそうした気さくさを拒む雰囲気があった。まるで何か、禁断の儀式にでも案内されているようだった。


<明日へ続く>





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最終更新日  2008.09.07 07:00:53


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