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長崎に来る前は、めがね橋は忙しい都会の風景に埋もれた、ただの1つの橋だろうと思っていた。たとえば札幌の時計台のようなイメージ。そこ「だけ」を見れば絵になるが、周囲を見回せばつまらない場所なのではないか。
だが、その先入観は見事にくつがえされた。めがね橋は1つの川(中島川)にかかる1つの橋ではなかった。具体的に言えば、中島川には驚くほど短い距離の間に、これでもかというくらい石橋がかかっており、他ではあまり見ない風情が醸し出されている。
同じ形の橋をいっせいにかけたのではない。1つ1つの橋は全部違う。その不統一がおもしろい。空間に独特のリズムと力強さを与えている。
そうした石橋群の中で、もっとも優美で調和のとれた橋がめがね橋ということだ。
川縁に降りて、鯉を見ている人も多い。こういうふうに水辺で戯れる人たちが、中島川の風景に彩りを添える。田舎の川ではなく、都会を流れる川だからこそ、「彩り」と言いたいニュアンスが風景に加わるのだ。善福寺川と神田川の近くに住むMizumizuだが、東京の川では、こうした人々の姿を見ることはない(そもそも水が汚くて、近くまで行ってみる気にならない)。
最初に行ったときは夕方で、すぐに暗くなってしまったから、今回は昼間に行った。だが、黄昏どきのめがね橋付近も、とりわけ素晴らしかったのだ。店が閉まり始め、観光客が退却すると、街の人々がそぞろ歩き、ベンチに座ったり、立ち止まって話したりしている。
ビルの上に月がかかり、東京にはもうなくなってしまった、寛容で親密な空気が川の周囲を満たす。古い石橋の物語る過去と現在進行中の人々の生活がここには同時に存在する。
川にこれでもかとかかる独特の石橋群、カステラやべっ甲を売る店、観光客、そして憩いを求める地元民・・・ 有名観光地だと、観光エリアと住民の生活エリアが離れてしまっているところが多いが、めがね橋付近は例外的に、こうしたさまざまな「エレメンツ」が混然一体となり、何度でも来て、ここに存在してみたいと思わせる場所になっている。
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