仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2005.08.29
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カテゴリ: 仙台
 去る8月16日の宮城沖地震(宮城県では「8.16宮城地震」と呼称)では、マグニチュード7.2、最大震度6弱という規模の割には、幸いにして犠牲者が出なかった。しかしながら、天井板がほとんど崩落した仙台市泉区の「スポパーク松森」では、約30名の負傷者を出した。7月オープンの最新施設で、プール部分の天井がほとんど落ちたという意外性も手伝って、テレビ映像や翌日の新聞記事の写真は、どれを見てもこの施設だった。
 かくいう私も7月に家族で利用したことがある。プール自体は他にない特徴があるとは感じなかったが、プールの後のマッサージチェア、ラウンジでの休憩、ちょっとしたパソコン利用など、結構おもしろい施設だと感じた。仙台市初のPFI導入施設ということで、良い面が出ているのかな、と何とはなしに感じていた。
 そこにきて、今回の事故である。事故の意外性と、犠牲者がなかったことにホッとするのだが、それ以上に今の今まで疑問を持っているのは、事故についての仙台市の対応である。一言で言えば、「市には責任はない。PFIで市の施設ではないのだから。」ということだ。事故直後から一貫して姿勢を協調しているように感じる。
 しかし、これはないだろう。市民は置き去りだ。以下に、私見を整理してみたい。

 確かに、PFI方式とは、設計、建設や運営を特定目的会社(固有名詞で言えば松森PFI)に任せて、行政の硬直的な縛りのない世界で、サービス向上と効率性とをねらう趣旨だ。導入が進んでいる「公の施設の指定管理者制度」とも根っこは共通である。行政の方向として適当だと思う。
 しかし、PFIも、あくまで市の施設であることに変わりはない。PFIとは施設の整備運営の代替手法に過ぎないのだ。PFIを導入したからといって、その施設が市の施設でなくなる、というものではない。市内部の実務担当者は、PFIとは行政が関与しないことにこそ意味があるのだ、という論を主張するようだが、そんな定義論や法律上の位置づけの議論ではない。施設設置の必要性などはそもそも市が検討したはずで、手法としてPFIというだけ。れっきとした市の施設である。
 私の主張をわかりやすくするために、仮に、PFIを導入した小学校で事故が起きたと考えてみよう。もちろん、現行法制上は、公立学校にPFIを導入するとはいっても、運営までは認められないのだろうから(詳細は不勉強)、建設段階ということになろう。市内の学校ないし学区の適正配置をはじめ、学校の設置について市と市教委が責任をもつのは、従来の学校と変わるところはないはず。ただ、建設手法として違いがあるだけ。中に入る児童や教職員の安全確保に違いはないし、これに対する市の責任も違いはない。「償還が終わるまでは市に所有権はないですから...」は通らない。
 どうも、今回の市の対応は、建築部門あるいは環境部門の実務者レベルの意見がそのまま上層部あるいは広報セクションに出てしまった、という印象を受けている。事故直後から、さっそく予防線を張ったような形だ。その後8月22日に初登庁した梅原新市長は、「市の行政責任を感じる。きちんとした対応をしたい」と、市としての責任を意識しているようにも思える。けれども、最近の市の対応は、市と会社との間の契約不履行だから、償還費用を補正予算で相当分減額することを検討する、とか。どうも責任の内容の議論よりも、とにかく「責任はない」ことを強調している感じ。契約不履行の論議などは、むしろ「市役所も被害者」というトーンを出したいようにも勘ぐる。
 これは、自分に非はない、という実務者レベルの立場なり見解なりがそのまま表に出てしまっていると思う。たしかに建築法規上や契約上は、そうなのかも知れない。行き過ぎた関与は民間の独自性を失わせると言うことも解る。建築部門からすれば、「PFI施設までいちいち検査せよとは言われていないよ」、環境部門からすれば、「PFIでプールを作ると決めたのは自分たちではない、そもそも環境局所管というのもゴミ焼却場との関係で決まったのであって、スポーツ施設については管理ノウハウもない」(このへんは筆者も事実を調べず予想で申し訳ないですが)、という感じか。
 しかし、事の本質はそこではないのだ。一施設をめぐる実務者の庁内的立場が問題ではない、公共施設についての市として市民に向き合う姿勢そのものが問われているのだ。実務レベルの議論がイノ一番に出てくるような状況でいいのだろうか。どこまで確認すべきか、確認できたか、の議論とか、契約不履行に当たるかどうか、とか、それらの議論はもちろん大事で、究明すべきではある。ハード面で言えば会社側に非があるのは当然だ。
 けれども、もっと重要なことは、こうした議論だけが初動対応時期から強調されてしまって、市の施設であるということがスッポリ置き去り(というより意識的に無視)にされているという市役所の体制なのではないか。市民の常識というモノサシを持てば、こういうゆがんだ対応にはならないと思うのだが。今回はいいとしても、仮に大惨事になっていれば看過できない「人災を」生んだかも知れない。現に、2年前の地震でも天井落下が起きた根白石と今泉の各温水プールで、今回もけが人がないものの、落下が生じている。これら全体をみれば、「市の施設」についての冷静で常識的な対応が求められている。PFIだから、という抗弁は松森だけの一時しのぎにしかならないのである。
 実務的に言えば、このことに気がつく(はずの)上層部がキッチリと統率すべきである。末端職員レベルの「言い訳」が市の公式見解になるようでは困る。担当職員だって、仕事の立場上はそう思っても、一市民として果たしてどう思っているだろうか。
 市では今週に対策検討委員会を設置するという(8月27日付け読売県内版)。責任回避の印象が強かった初動対応だったが、新市長発言も受けて冷静に常識的になって欲しい。そして、松森PFIにどう指導するか、という観点だけではなく、望むらくは、組織内の実務的抗弁が表出するような残念な体制についても検証を行って欲しい。
 PFIの制度に問題があるとする仙台市の現在の姿勢は、一時的な組織防衛には奏功しそうにも見えるが、「PFI導入」イコール「安全性保障されず」という無益な定式を歴史に残してしまい、PFIの正しい議論をゆがめ、結局はPFI導入によって市政を活性化するという目標も自ら失ってしまうのではないだろうか。
(この件では、私の仙台市政に対する想いと期待が先行して、事実関係を確認しないで記述している部分もあります。事実認識が誤っているなどの場合、改めて記します。)





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最終更新日  2005.08.30 02:24:10
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