仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2008.07.10
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カテゴリ: 東北
平泉世界遺産ならず。ユネスコ世界遺産委員会の登録延期決定を伝える、7日早朝のニュースだった。残念がる地元の声が報じられるとともに、浄土思想でまとめあげた戦略の弱さなどが指摘された。また、2年後を見据えて動き出そうという論調や、世界遺産の指定があってもなくても平泉の価値は変わらないとする納得論なども見えた。

各紙はどう解説したか、その内容と「論調」を改めて整理してみよう。(要約はおだずまジャーナル整理)
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◎河北新報

関係者の声として、基準が厳しくなったこと、普遍的価値の証明ができなかったこと、を紹介。(7日夕刊)

第一報の報道ぶりとしては、平泉の価値は強調しながら、富士山など後続に影響が出るとするなど、ユネスコのハードル設定などが難点とするトーンである。

登録されなかったのは国内の推進遺産15件目で初。新規登録を抑制するユネスコの方針は国内の後続に影響必至。平泉の落選の要因は、イコモスが証明不足を指摘した浄土思想の意義や景観との関連性。例えば中世の交通要衝である白鳥舘遺跡は説明が難しく、文化庁の戦略ミスが最後まで尾を引いた。今後、遺産範囲の大幅な見直しとなると、はずれる地域の反発も予想され、関係者の協議を待ちたい。地域活性化や観光振興のため世界遺産登録を期待する自治体は多いが、国宝第一号の金色堂を擁する平泉でさえ待ったを食らった。文化庁は公募方式を見直し、自らの責任で登録可能性が高い遺産候補を厳選すべきだ。(8日 署名記事)

文化庁の戦略ミスを指摘し、国として責任を持って候補の厳選すべしとする。暗に平泉は当然登録されるべきとの論調で、これを落とした文化庁の対応を責めている。

岩手県は、新たな推薦書を09年度に再提出、10年度にイコモス調査を受けて11年度のユネスコ委員会で登録、との青写真を描く。文化庁も平泉の登録を最優先に取り組む方針。他方で登録延期は観光振興にもダメージ。いわて平泉年に関連するイベントは中止。JRなどと連携して7月から9月にかけて行う観光キャンペーンに大きな変更はないが、弾みとして期待した登録ができず関係者は落胆。

地域は前向きだ。平泉の歴史が変わるわけではない、県民一丸で活動は収穫、誇りを持って再挑戦、など。相原奥州市長は、登録延期から本登録になったケースは20例ある、と強調。

登録へのハードルが高まる中、次を目指す他地域も作戦の練り直しを迫られる。松島(宮城県)、「最上川の文化的景観」(山形県)、「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道・青森・岩手・秋田)は、驚きと厳しさを感じながら、平泉の再起に期待。

登録に精魂を傾けた地元の無念は大きい。しかし気持ちを切り替えてチャンスにしたい。平泉の文化的価値は永遠であり、現在混沌たる世界へのメッセージとして輝いている。
欧州中心の世界遺産の文化的流れが浄土思想という東洋的価値をどれだけ理解したか疑問であるし、精神風土が異なる文化を理解させるのは大変な作業なのだ。さらに、ユネスコが管理や保存上の観点から既に851件ある世界遺産の採択を絞っていることも難点。
地元住民を中心に意識が変化し自主的な動きが芽生えていることが注目される。平泉の国内や世界への認知度を高める努力が肝心である。(8日 社説)


地元紙として大変丁寧に今後の流れを促している。登録を目指す論調は変わらないが、平泉の不変の輝きを歌い上げ、地元の自主的な動きが出たことを評価することで、登録がかりに実現しなくても、遺産の価値と地元の取組のすばらしさを認識して行こう、とする配慮の深い論調だ。

◎産経新聞
平泉の落選は国内の他候補にも影響は必至。文化庁は11年度の再審査を目指す方針で、文部科学省は国内候補の公募打ち切りも検討。
今回の委員会では、世界遺産にふさわしい顕著な普遍的価値の証明が不十分だったとみられる。文化庁や岩手県は、イコモスの指摘に対し、金の産地東北が黄金の島ジパングとして大航海時代の遠因になったことなどを挙げて反論したが、海外まで影響する重要性は否定されたようだ。むしろ、イコモスは世界の文化との交流の価値を評価しており、これを強調しなかった作戦ミスも指摘される。浄土思想というコンセプトに沿った範囲の再検討が必要との指摘も。
今後は再挑戦が課題だが、一段階上の「情報照会」となっても登録に漕ぎつけるのは容易ではない。国内暫定リスト記載の9件のうち、鎌倉は当初目標の10年度登録は見送り。(8日)


地元紙河北を読んだ後だと、何だかつれなく感じる。

◎朝日新聞
平泉町の高橋町長は、浄土思想を基調とする文化的景観が外国の委員には理解が難しいのではないかと言われてきた、と敗因を推測。拓増知事は、平泉の価値が否定されたわけではない、今後とも登録を目指すと野下駄。近藤大使から知事には、各国からは登録に向け前向きな発言が出た、技術的な問題で延期になった、との連絡があったという。(8日)

◎日経新聞
拓増知事は、平泉の価値が否定されたわけではないと力を込め、3年度の審議を受けることを想定していると表明。また、県民が平泉の価値を理解し発信に努めていることを評価し、地域の結束が進んでいるとの見方を示した。岩手県商工会議所連合会会長は、地元ののスクラムを組みたいとしながらも、登録に向けて再度企業に寄附金を募ることについては言葉を濁した。(8日)

やはり読者である企業がどんな情報を欲するかを察して報道するのだろう。当然とはいえ、改めて気づかされる。
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さて、最後に地元岩手日報だ。

◎岩手日報

世界遺産委員会による決議は登録延期だから、ユネスコに推薦書を再提出し、再度イコモスの審査を受けて登録の可能性がある。最も早いケースは2年後だが、文化庁は、国内では「平泉」の再審査を最優先としながらも、登録を確実にするため11年の登録を目指す考えで、妥当な判断だ。
なぜなら、浄土思想、思想と景観の関連性、資産の範囲などの主要な点で「顕著な普遍的価値」の証明が不十分と指摘したイコモスの見解に対し、各国の十分な理解を得るには時間が足りなかったからだ。世界遺産委員会でも同じ判断が下されたからには、補足的ではなく、根本的な内容の練り直しが求められる。
国内の世界遺産は14を数え、管理保存体制には定評があり、これまで日本が推薦して登録されなかったケースはない。だが、昨年7月現在で世界遺産は851件に達し、ユネスコとしては管理可能な規模とするため、近年は審査が厳しさを増している。昨年の石見銀山がイコモス勧告で登録延期と判断されたのも象徴的だった。昨年の場合は日本が委員国でもあり、懸命の外交努力などで逆転登録に結びつけた。今後は推薦するからには、政府の責任で厳密な判断が求められる。
地元の思いを3年後につなげたい。(論説 平泉「登録延期」 教訓を3年後に生かせ 8日 署名入り)

平泉の平和理念は、生きとし生けるものすべてが平和に暮らす点にある。人種、民族差別に伴う紛争や自然を征服する歴史を重ねた欧米人には難解だったか。牛や馬にも差別感情を持たない岩手の風土は「平泉」の平和希求、万物共生を今に伝える証明だ忍耐強く世界に訴え続けたい。
逆転登録を目指す運動も佳境の6月中旬、岩手・宮城内陸地震が起きたが、県民の熱意はなえることはなかった。岩手人ならではの底力、粘り強さ。意志ある限りいつの日か必ず道は開ける。(風土計 8日)

3市町の住民の思いは、イコモス勧告を機に逆に深みを増した。平泉商工会青年部などが企画した金色堂参拝には町民約600人が参加し、登録への心意気を示した。逆転登録していれば地震被災地には何よりの励みになっただろう。県民が心を一つにして震災からの復興を果たし、3年後に晴れて世界遺産への登録がかなう日を待ちたい。(風土計 9日)


いかにも岩手県らしい直情、純真、真面目な論調だ。河北と比較すると、興味深い。

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私自身は、せっかく目標に定めて運動したのだから是非登録して欲しい。しかし、どこまでも登録実現だけを狙うこともないと率直に思う。

平泉の世界に類を見ない価値は誰しも認めよう。登録延期勧告を受けた遺産だゼ、あるいは欧米にはわかりにくい東洋の崇高な思想価値なのサ、などとちゃっかり逆手に取るしたたかさがあっても良いじゃないか。
歴史や宗教の崇高な価値だけではないだろう。義経や弁慶や、あるいは前九年の役など、もっと「俗な」歴史講釈やロマンも捨てたものじゃない。英雄アテルイを見直し、縄文文化に誇りをもつのが最近の我々自身の東北に対する思いではないだろうか。その根太い歴史の流れの中で燦然と輝く結晶のような平泉を、これからも盛り上げていこう。

世界遺産登録も所詮現代のある瞬間の人知の業に過ぎない。悠久の歴史的価値を神様のように公平かつ絶対に評価するものではないのだから。クヨクヨすることなど、ありませんよ。もちろん3年後と決めた再度のチャンスに向けて周到に事を運ぶことは、関係者には是非お願いしたいが、あとは地元を含めた東北全体で、「世界遺産」騒動を楽しむ、なんてくらいの度量で大いに関わり、大いに期待し、或いは大いに残念がれば、それでいいじゃないか。

何とか委員会に振り回されるここ数年の歴史より、もっと大事な歴史を、我々は持っているのだから。





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最終更新日  2008.07.10 23:39:34
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