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アメリカの支配層は現在、傭兵を使って侵略を繰り返している。例えば、中東/北アフリカではワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団、ウクライナではネオ・ナチ(ステファン・バンデラ派)が利用されていた。ロシアではチェチェン、中国では新疆ウイグル自治区の武装勢力がアメリカ支配層の手先として動いている。 現在、中東で最も注目されている国はシリア。地中海東岸の天然ガス田であり、パイプラインの通過地点としても重要な石油利権のポイント。サウジアラビアのライバルである産油国のイラン、石油と水(チグリス川やユーフラテス川)のイラク、そしてシリアはアメリカ支配層から自立、それも攻撃される大きな要因だ。 1991年にイラン、イラク、シリアの3カ国を5年以内に殲滅すると口にしたのがネオコンの大物で国防次官だったポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)。その年の12月にソ連が消滅、翌年の初めにはウォルフォウィッツが中心になって世界制覇プランを国防総省のDPGの草稿という形で作成した。いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」だ。 このドクトリンはアメリカが「唯一の超大国」なったという前提で書き上げられ、潜在的なライバル、つまり旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなどがライバルに成長することを防ぎ、膨大な資源を抱える西南アジアを支配するとしている。 まずアメリカはNATOを使い、1999年3月にユーゴスラビアを先制攻撃した。その前段階として、1991年にスロベニア、クロアチア、マケドニア、92年にボスニア・ヘルツェゴビナが相次いで独立を宣言、さらにセルビア・モンテネグロがユーゴスラビア連邦共和国を結成してユーゴスラビア社会主義連邦人民共和国は解体されている。さらにアメリカはコソボを奪ったが、その時に手先として使ったKLA(コソボ解放軍。UCKとも表記)は麻薬取引で資金を調達していた。こうした攻撃を正当化するため、西側の政府やメディアは「人道」や「人権」を掲げていたが、嘘だったことが判明している。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) アメリカがイラクを先制攻撃する口実に使ったのが2001年9月11日の出来事。ニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたのだ。ジョージ・W・ブッシュ政権は本格的な調査をせず、即在に「アル・カイダ」の犯行だと断定、そのトップであるオサマ・ビン・ラディンを匿っているとしてアフガニスタンを攻撃、2003年3月にはアル・カイダ系武装集団を「人権無視」で弾圧していたイラクを先制攻撃した。 サダム・フセイン体制が倒されたイラクでアル・カイダ系の武装集団AQIが誕生する。2006年1月にAQIを中心としてISI(イラクのイスラム国)が編成され、活動範囲がしらに拡大するとIS(ISIS、ISIL、ダーイッシュとも表記)と呼ばれるようになった。 2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAが作成した報告書によると、反シリア政府軍の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI。このAQIはシリアでアル・ヌスラを名乗っている。つまりAQI、アル・ヌスラ、ダーイッシュの実態は同じであり、「穏健派」は存在しないに等しい。クラーク元欧州連合軍最高司令官はCNNの番組で、アメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと語っている。 アル・カイダ系武装勢力やダーイッシュを支える兵站線はトルコからシリアへ延び、この勢力が資金源にしている盗掘石油はシリアやイラクの油田からトルコへ運び込まれている。これらの輸送ルートを守ってきたのはトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン政権だ。このトルコとサウジアラビアは今でもシリアへ軍事侵攻する意思を示している。 年明け後、しばらくの間はアメリカもこうした動きに同調していた。例えば、1月22日にはアシュトン・カーター国防長官が陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、翌23日にはジョー・バイデン米副大統領が訪問先のトルコでアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると口にしている。 2月にトルコ外相はサウジアラビアの軍用機や人員をトルコのインシルリク空軍基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできると語り、サウジアラビア国防省の広報担当は、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明した。その直後にアメリカのカーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言している。 アメリカの雰囲気が変化するのは、ヘンリー・キッシンジャーがウラジミル・プーチン大統領と会談するためにロシアを訪問した2月10日。アメリカ政府とロシア政府は2月22日、シリアで2月27日から停戦することで合意したと発表している。当初、アメリカは停戦をダーイッシュをはじめとする武装集団の体勢を立て直すために利用したと思われるのだが、ロシアはこうした武装集団に対する攻撃は継続すると言明している。その条件で合意は成立した。 トルコやサウジアラビア、特にトルコは梯子を外されたような状況。トルコのエルドアン大統領と親しいという安倍晋三政権も同じようなことになりかねない。アメリカという後ろ盾がついているつもりで中国と戦争を始めた後、気づいたら周りに誰もいなかったということはありえる。 世界の近代史を振り返ってみると、日本はアングロ・サクソンに操られてきたとしか思えない。19世紀にイギリスは中国(清)の富を盗もうとしていた。そこで始めたのがアヘン戦争(1840年から42年)とアロー戦争(1856年から60年)。 アヘン取引でイギリス人やアメリカ人は大儲けしたが、そうした会社のひとつがジャーディン・マセソン商会。儲けの大半はアヘンの取り引きによるものだった。この会社が1859年に長崎へ送り込んできた人物がトーマス・グラバー。ほどなくして彼はグラバー商会を設立、長崎のグラバー邸は武器取引に使われた。そこに坂本龍馬、後藤象二郎、岩崎弥太郎たちも出入りしていたことが知られている。 1865年にはイギリスが麻薬取引の拠点にしていた香港で香港上海銀行が創設され、66年に横浜へ進出、さらに大阪、神戸、長崎にも支店を開設している。1867年には「大政奉還」、長州藩と薩摩藩を中心とする新政府が誕生した。 この当時、イギリスの支配層は世界制覇を目論んでいたが、そのためには兵力が不足していた。ライバルのフランス、ドイツ、ロシアに対抗するために約14万人の兵士が必要だと見られていたが、実際の兵力は7万人。そこで目を付けられたのが日本で、1902年には「日英同盟協約」が結ばれる。1904年に日本は帝政ロシアと戦争を始めるが、戦費とし約2億ドルを融資したのはロスチャイルド系のクーン・ローブ。この金融機関を率いていたジェイコブ・シフと日銀副総裁だった高橋是清は親しかった。この日露戦争で棍棒外交のセオドア・ルーズベルト米大統領が乗り出した背景もシフと同じだ。 関東大震災の復興資金調達で日本政府が頼った相手がJPモルガン。ロスチャイルドがアメリカにおける代理人として使っていた金融機関で、その後日本に大きな影響力を持つようになる。1932年に駐日大使として赴任してくるジョセフ・グルーはいとこがジョン・ピアポント・モルガン・ジュニア、つまりJPモルガン総帥の妻。戦後、グルーは日本の民主化を止め、ファシズム化へ方向転換させたジャパン・ロビーで中心的な役割を果たすことになる。 簡単に言うと、日本の支配層はアングロ・サクソンが東アジアを侵略する手先として働いてきた。その代償として自分たちの富と地位が約束されてきたのだろうが、アングロ・サクソンの支配システムが揺らいでいる今、日本も梯子を外される可能性がある。
2016.02.29
昨年11月24日にトルコ軍のF-16はロシア軍のSu-24を待ち伏せ攻撃で撃墜した。トルコ政府はロシア軍機が領空侵犯したと主張している。5分間に緊急チャンネルで10回にわたって警告したが、ロシア軍機は1.88キロメートルの距離を17秒にわたって飛行したので撃ち落としたとしている。 トルコ政府の主張が正しいなら、Su-24は時速398キロメートルで飛行していたことになるのだが、これは非現実的。この爆撃機の高空における最高速度は時速1654キロメートルだ。もし最高速度に近いスピードで飛んでいたなら、4秒ほどで通り過ぎてしまう。Su-24がシリア領内で撃墜されたことは間違いなく、トルコ側の主張に説得力はない。撃墜計画が杜撰だとも言えるだろう。 ロシア側の説明(アメリカやトルコから否定されていない)によると、トルコ軍のF-16は午前8時40分に離陸、9時08分から10時29分まで高度4200メートルで飛行して午前11時に基地へ戻っているのに対し、ロシア軍のSu-24が離陸したのは1時間後の午前9時40分。午前9時51分から10時11分まで高度5650メートルで飛行、16分に目標を空爆、24分に撃墜されている。領空侵犯に対するスクランブルではなかった。 しかも、事前にロシア軍はアメリカ/NATO軍へ攻撃に関する詳しい情報を提供、ロシア軍機がどのようなルートを飛行するかを伝えていた。それだけでなく、その当時、中東地域を2機のAWACS(空中早期警戒システム)機が飛行中だった。ギリシャの基地を拠点とするNATOのものと、サウジアラビアのものだ。トルコ側はロシア軍機だということを承知で攻撃、その様子をアメリカ軍は見ていたはずで、トルコ政府はアメリカ政府の命令、あるいは承認のもとで攻撃したと考える人が少なくない。 撃墜の理由として可能性が高いのは、ロシアを脅してシリア北部からロシア軍機を追い払おうとしたということ。トルコはNATO加盟国であり、トルコと軍事衝突してNATOとの戦闘になることをロシア軍は恐れると考えたのではないかと推測する人もいる。 しかし、そうした展開にはならなかった。トルコ軍機に反撃しなかったが、即座にミサイル巡洋艦のモスクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空システムであるS-400を配備し、戦闘機を増派してシリア北部の制空権を握ったのである。それ以降、シリアの領空を侵犯したら撃墜するという意思表示だ。さらに、対戦車ミサイルTOWに対抗できるロシア製のT-90戦車も増やした。 その後、トルコはサウジアラビアと連合してシリアへ軍事侵攻する姿勢を見せているものの、NATOはロシアとの戦争に消極的。NATOの威を借りてシリアを乗っ取ろうとしたトルコとサウジアラビアの思惑は外れた。この2カ国だけでなく、アメリカ、イギリス、フランス、イスラエルといった国々も自分たちの力を過信、ロシアの意思や能力に対する判断を間違ったということだ。そうした間違いを修正しようとしている勢力もあるようだが、あくまでも「予定」を実現しようとしている勢力も存在している。歴史を振り返ると日本の支配層は軌道修正が苦手だが、間違った道を突き進めば、その先には破滅がまっている。
2016.02.28
リビアのアメリカ領事館が襲撃された2012年にアメリカなど侵略勢力はシリアへ送り込んで政府軍と戦わせるメンバーをヨルダンの北部に設置された秘密基地でもアメリカの情報機関や特殊部隊が戦闘員を軍事訓練しはじめたと伝えられている。その中にはダーイッシュの主要メンバーになる数十人を含まれていたという。トルコのインシルリク空軍基地では2011年春から訓練が実施されていたが、それでは不十分になったのだろう。 2014年1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧しているが、そうした動きをアメリカ軍は偵察衛星、偵察機、通信傍受、地上の情報網などでつかんでいたはず。その際にダーイッシュはトヨタ製の真新しい小型トラック「ハイラックス」を連ねてパレードしているが、アメリカ軍は何もしていない。モスル制圧の際、イラク軍は戦うことなく武器弾薬を置いたまま撤退、ダーイッシュの武装を充実させることになったともいう。 この年の8月にダーイッシュは拘束していたジェームズ・フォーリーの首を切り落としたと宣伝、映像を公開するのだが、首の前で6回ほどナイフは動いているものの、実際に切っていないうえ、血が噴き出していない。少なくともカメラの前で彼は殺されていない可能性が高い。 こうした場面を公表したのは、アメリカによるシリアに対する空爆を正当化することにあるのではないかという声もあった。実際、9月23日に空爆を始めたが、当日、現地で取材していたCNNのアーワ・デイモンは翌日朝の放送で、ダーイッシュの戦闘員は空爆の前に極秘情報を入手し、攻撃の15から20日前に戦闘員は避難して住民の中に紛れ込んでいたと伝えていた。その後もアメリカが主導する連合軍はダーイッシュに対する攻撃を続けたことになっているが、実際には攻撃せず、「誤投下」で武器/兵器を含む物資を供給している。 アメリカが主導する連合軍はダーイッシュなどが資金源にしている盗掘石油の関連施設や燃料輸送車も攻撃しなかった。石油密輸で中心的な役割を演じてきたひとりがビラル・エルドアン、つまりレジェップ・タイイップ・エルドアン・トルコ大統領の息子だ。ビラルが所有するBMZ社が盗掘石油を輸送している。ビラルは現在、イタリア当局からマネー・ロンダリングで捜査の対象になっている。 盗掘された石油はレバノンのベイルートやトルコ南部のジェイハンへ運ばれ、そこにある秘密の埠頭からタンカーでイスラエルへ輸送し、そこで偽造書類を受け取ってEUで売りさばくという。 盗掘石油の販売などビジネス全体の黒幕と言われているジェネル・エネルギー社はロンドンを中心とするタックス・ヘイブン網の一角を占めるジャージー島に登記されている。投資会社のジェネル・エネルジ・インターナショナルがバラレスに買収されたのだが、この投資会社を創設したのはアンソニー・ヘイワード(元BP重役)、金融資本の世界に君臨しているナサニエル・ロスチャイルド、その従兄弟にあたるトーマス・ダニエル、そして投資銀行家のジュリアン・メセレル。 ちなみに、ナサニエル・ロスチャイルドの父親、ジェイコブ・ロスチャイルドが戦略顧問として名を連ねているジェニー社は、イスラエルが不法占拠しているゴラン高原で石油開発を目論んでいる。ジェイコブと同じように顧問を務めている人物にはリチャード・チェイニー、ジェームズ・ウールジー、ウィリアム・リチャードソン、ルパート・マードック、ラリー・サマーズ、マイケル・ステインハートなどがいる。 こうした盗掘石油の生産設備や燃料輸送車をロシア軍は空爆、エルドアン親子は窮地に陥った。これまでアメリカが石油の密輸を放置してきたことに関し、CIAのマイケル・モレル元副長官は副次的被害のほか、環境破壊を防ぐためだと主張して失笑を買った。 ロシア軍の攻撃が効果的だと言われ始めると、アメリカ軍も燃料輸送車を攻撃するが、盗掘した石油の輸送に携わっている「善良なドライバー」を殺さないため、攻撃を開始する約45分前に空爆の実施を知らせ、トラックから速やかに離れるように警告するパンフレットをまいたという。アメリカの有力メディアはロシア軍が公表した石油関連施設の破壊や燃料輸送車への攻撃を撮影した映像をアメリカ軍によるものとして公表していた。 シリア北部におけるロシア軍の空爆は侵略勢力にとって大きなダメージになった。内部告発支援グループのWikiLeaksは、エルドアン大統領が10月10日にロシア軍機の撃墜を計画したと主張している。その後、11月17日にはロシアの旅客機がシナイ半島で撃墜され、11月24日にロシア軍のSu-24をトルコ軍のF-16が待ち伏せ攻撃で撃ち落とした。11月24日から25日にかけてポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラを訪問、トルコ軍の幹部と討議したとも言われている。(つづく)
2016.02.28
アメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルを中心とするシリアに対する侵略戦争は失敗したわけだが、すぐにジョン・ケリー国務長官はシリア解体を主張し始める。「プランB」だというが、これは当初から侵略勢力が目論んできたことである。 2015年6月にブルッキングス研究所のマイケル・オハンロンはシリアに緩衝地帯(飛行禁止地帯)を作り、つまり制空権を握って武装勢力を守りながらシリアを「再構築」、つまり分解し、「穏健派」が支配するいくつかの自治区を作るべきだと主張している。(ココやココ)この案をケリーは主張したわけだ。 ちなみに、この研究所はAEI、ヘリテージ基金、ハドソン研究所、JINSAなどと同じように親イスラエルで、国連大使を経て安全保障問題担当大統領補佐官に就任したスーザン・ライスの母親、ロイスもブルッキングス研究所の研究員だった。 アメリカ軍の情報機関DIAは2012年8月にシリア情勢に関する報告書を作成、それによると反シリア政府軍の主力はサラフ主義者(ワッハーブ派)、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラと実態は同じだとしている)であり、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けている。事実上、「穏健派」は存在しないということだ。 つまり、アメリカ政府の「穏健派支援」は「過激派支援」にほかならず、アメリカ政府が方針を変えなければ、シリア東部にサラフ主義の支配地ができあがると見通していた。実際、その通りになった。その支配体制が安定化すれば、シリアの解体につながる。報告書が作成された当時にDIA局長だったマイケル・フリン中将はアル・ジャジーラに対し、ダーイッシュの勢力が拡大したのはバラク・オバマ政権が決めた政策によるとしている。 リビアとシリアに対する侵略戦争が始まったのは2011年春のこと。リビアで侵略勢力が地上軍として使っていたのはアル・カイダ系武装集団のLIFGで、NATOによる空爆の支援を受け、2011年10月にムアンマル・アル・カダフィ体制を倒した。その直後、ベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられている。その映像はYouTubeにアップロードされ、イギリスのデイリー・メイル紙もその事実を伝えていた。現在、リビアは無政府状態でダーイッシュが勢力を拡大しているというが、これは当然の結果だ。 リビアでは侵略勢力が送り込んだ傭兵部隊に対する政府軍の空爆を止めさせるに「飛行禁止空域」を設定、制空権を握った後に政府軍に対する空爆を始めて体制転覆を実現したのだ。 リビアで戦っていた戦闘員は武器/兵器と一緒にトルコ経由でシリアへ入るが、その拠点になったのはベンガジにあったCIAの施設。マークを消したNATOの輸送機が武器をリビアからトルコの基地まで運んだとも伝えられている。 ベンガジにはアメリカの領事館があるのだが、そこが2012年9月11日に襲撃され、クリストファー・スティーブンス大使も殺された。スティーブンスは戦闘が始まってから2カ月後の2011年4月に特使としてリビアへ入り、11月にリビアを離れるが、翌年の5月には大使として戻っていた。領事館が襲撃される前日、大使は武器輸送の責任者だったCIAの人間と会談、襲撃の当日には武器を輸送する海運会社の人間と会っていた。(つづく)
2016.02.28
アメリカ政府とロシア政府は2月22日、シリアでの戦闘を停止することで合意した。2月10日にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領と会談しているが、そこで何らかの話し合いがあり、ロシア政府がそれに答えた形になっている。ダーイッシュなどはこの合意を潰そうと必死のようだ。 停戦は2月27日からだが、ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)、アル・ヌスラ(アル・カイダ系武装集団)、あるいは国連がテロリストと認定しているグループには適応されない。蛇足ながら付け加えると、シリアで行われているのは侵略戦争であり、内戦ではない。 停戦にアメリカが合意した最大の理由は昨年9月30日にロシア軍が始めた空爆だろう。この事実から目を背けてはならない。ロシアが始めた攻撃によって侵略勢力が雇っているワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団を中心とする武装勢力が壊滅的な打撃を受け、侵略勢力のプランが完全に狂ってしまったのだ。 シリアでロシア軍の攻撃を見るまでアメリカ側はロシアを甘く見ていた。生産設備も兵器/武器も時代遅れでアメリカの「近代兵器」の敵ではないと考えていたようだ。例えば2006年にフォーリン・アフェアーズ誌に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文「未来のための変革と再編」では、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張されている。 停戦の合意を国連も歓迎したというが、ジェフリー・フェルトマン国連事務次長は平和的人物でなく、単に戦争を終わらせたかったのではないだろう。彼は1991年から93年にかけてローレンス・イーグルバーガー国務副長官の下で東/中央ヨーロッパを担当、ユーゴスラビア解体に関与したと言われ、2004年から08年にかけてレバノン駐在大使を務めた人物。 大使時代の2005年2月にレバノンではラフィク・ハリリ元首相が殺害されている。この事件を扱うために「レバノン特別法廷(STL)」が設置され、イスラム教シーア派のヒズボラに所属するという4名が起訴された。 この法廷は2007年、国連の1757号決議に基づいて設置されたが、国連の下部機関というわけではない。年間85億円程度だという運営資金を出している主な国はアメリカ、サウジアラビア、フランス、イギリス、レバノン、つまりシリアを侵略しようとしていた国々だ。 この事件では西側メディアが「シリア黒幕説」を流し、2005年10月に国連国際独立委員会のデトレフ・メーリス調査官は「シリアやレバノンの情報機関が殺害計画を知らなかったとは想像できない」と主張、「シリア犯行説」に基づく報告書を安保理に提出しているのだが、一連の調査、そして結論に疑惑があることは本ブログでも指摘した。(例えば、「2年前の2月にウクライナでネオナチのクーデターがあったが、そこで登場した国連事務次長の闇」) フェルトマンはアメリカ支配層の手先としてターゲット国を破壊してきたひとりだということ。ウクライナのクーデターでも登場する。そうした人物が事務次長を務める組織がシリアでの停戦を望んだのは侵略部隊として使っていたアル・カイダ系武装勢力やそこから派生したダーイッシュを助けるためだった可能性が高い。ウクライナでも西側は自分たちの使っている武装勢力が苦境に陥ると停戦を持ちかけ、戦闘態勢を立て直そうとしてきた。 おそらく、シリアでもフェルトマンたちはそうしたことを考えたのだろうが、ロシアはアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュへの攻撃は続ける姿勢を崩さなかった。そのころシリアの要衝、アレッポを政府軍が攻撃していたのだが、西側が対応しきれないスピードで状況が変化、侵略軍の敗北が決定的になる。そして和平交渉は2月3日に中断した。 すぐに政府軍はアレッポをほぼ奪還したが、ここを政府軍が押さえたならば、トルコから延びている侵略軍の兵站線が断ち切られてしまう。侵略軍を編成、訓練、支援してきた国々は窮地に陥ったということだ。ワシントン・ポスト紙でさえ、アレッポを政府軍がおさえたことで戦争自体の決着がついた可能性があると報道している。 和平交渉が始まる前、アメリカ政府は軍事的にバシャール・アル・アサド政権を倒すつもりだった。それが侵略の目的だったからだ。1月22日にアシュトン・カーター国防長官は米陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、23日にはトルコを訪問していたジョー・バイデン米副大統領がアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると発言している。そうしたアメリカ支配層の思惑を一気に変えたのがアレッポの戦闘だった。(つづく)
2016.02.28
ドイツの有力誌スピーゲルは、自分たちが人びとの信頼を失っている現実と向き合おうとする記事を掲載した。それだけメディアは厳しい状況に陥っているのだ。日本、アメリカ、イギリスといった国々でもメディアに対する批判は強いが、カネと暴力装置を持つ支配層のプロパガンダ機関に徹すると割り切っているようだ。 2014年にドイツで情報機関と報道機関との癒着を内部告発する人物が現れた。フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の元編集者、ウド・ウルフコテだ。ドイツを含む多くの国でジャーナリストがCIAに買収され、例えば、人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開しているとしている。 彼によると、そうした仕組みを作り挙げるため、アメリカの支配層はドイツの有力な新聞、雑誌、ラジオ、テレビのジャーナリストを顎足つきでアメリカに招待、取り込んでいく。そうして築かれた「交友関係」を通じてジャーナリストは洗脳されるわけだ。 アメリカの有力メディアがCIAの強い影響下にあることは1970年代に指摘された。例えば、ウォーターゲート事件を調べた記者のひとり、カール・バーンスタインは1977年にワシントン・ポスト紙を辞めた直後、ローリング・ストーン誌に「CIAとメディア」という記事を書いている。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977) バーンスタインによると、その当時、400名以上のジャーナリストがCIAのために働いていたほか、1950年から66年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供しているとCIAの高官は語ったという。 こうした関係は組織的に築かれた。ジャーナリストのデボラ・デイビスによると、第2次世界大戦後に情報操作プロジェクトが実行されている。その中心にいたのは情報活動を統括していたアレン・ダレス、その側近で極秘の破壊活動機関を指揮していたフランク・ウィズナー、やはりダレスの側近で1966年から73年にかけてCIA長官を務めたリチャード・ヘルムズ、さらにワシントン・ポスト紙のオーナーだったフィリップ・グラハムの4名だ。このプロジェクトは「モッキンバード」と呼ばれている。 この4名のうちダレスとウィズナーはウォール街の弁護士で、ヘルムズの祖父であるゲイツ・ホワイト・マクガラーは国際的な投資家。グラハムの義理の父親であるユージン・メーヤーは1946年に世界銀行の初代総裁に就任している。つまり、モッキンバードは金融界と深く結びついている。 グラハムの妻でメーヤーの娘であるキャサリン・グラハムはウォーターゲート事件でリチャード・ニクソンのを辞任に追い込んだことで知られ、日本では「言論の自由」を象徴する人物として崇拝している人もいるようだが、その彼女は1988年にCIAの新人に対して次のように語っている: 「我々は汚く危険な世界に生きている。一般大衆の知る必要がなく、知ってはならない情報がある。政府が合法的に秘密を維持することができ、新聞が知っている事実のうち何を報道するかを決めることができるとき、民主主義が花開くと私は信じている。」 昨年8月、ドイツの経済紙ハンデスブラットを発行しているガボール・シュタイガートは「西側の間違った道」と題する評論を発表、「西側」は戦争熱に浮かされ、政府を率いる人びとは思考を停止して間違った道を歩み始めたと批判している。キャサリン・グラハムも好戦的な考え方の持ち主だったようで、ウォーターゲート事件でリチャード・ニクソンを追い詰めた理由のひとつはニクソン政権がデタント(緊張緩和)へ舵を切ろうとしたことにあると言われている。 アメリカには、より鮮明に平和を訴えた大統領が存在する。ジョン・F・ケネディである。1963年6月10日、ケネディ大統領はアメリカン大学の卒業式で「平和の戦略」と呼ばれる演説を行ったのだ。 演説はアメリカが軍事力で世界に押しつける「パックス・アメリカーナ(アメリカ支配による平和)」を否定することから始まり、相手国に対して「屈辱的な退却か核戦争」を強いるのではなく、緊張の緩和を模索するべきだとしたうえで、自分たちの遠大な関心事は「全面完全軍縮」だと表明、「自信を持ち、恐れることなく、われわれは人類壊滅の戦略に向かってではなく、平和の戦略に向かって努力し続けるのです」と結んでいる。 この演説はネオコンの戦略に対する批判にほかならない。この演説の5カ月後、大統領はテキサス州ダラスで暗殺された。当時、ケネディは平和を訴えただけでなく、巨大企業の活動を規制し、イスラエルの核兵器開発にメスを入れ、本格的介入の前にベトナム戦争から手を引こうとしていた。 ケネディが暗殺される前年の8月22日、フランスではシャルル・ド・ゴール大統領の命が狙われているが、ふたつのケースにはパーミンデックスなる会社など共通項が少なくない。その背後にはCIA内の秘密工作部門である計画局(後に作戦局、さらにNCSへ名称変更)、つまりジェドバラ/OPC人脈が存在している可能性が高いと言われている。 ケネディ大統領の葬儀に参列したシャルル・ド・ゴール仏大統領は情報大臣だったアラン・ペールフィットに対し、ケネディに起こったことは自分に起こりかけたことだと語ったいう。自分を殺そうとした勢力がケネディを殺したと考えたわけである。(David Talbot, “The Devil’s Chessboard,” HarperCollins, 20)フランスがNATOの軍事機構から離脱したのは当然だった。 西側の有力メディアは現在でもケネディ大統領の暗殺について疑問を持ち、調査を続けている人びとを「謀略史観の持ち主」扱いしている。ド・ゴールのケネディ大統領暗殺に対するコメントに西側の有力メディアが触れたという話は寡聞にして知らない。 ユーゴスラビアへの先制攻撃前に流された人権話、アフガニスタンを攻撃する前のオサマ・ビン・ラディンに関する話、イラクを攻撃する前の大量破壊兵器の話、リビア、シリア、ウクライナなどにおける民主化弾圧の話など、西側が戦争を正当化するために行ったキャンペーンは全て嘘だった。 かつて、西側の有力メディアは事実の中に嘘を巧妙に紛れ込ませるということをしていたが、最近は公然と嘘をついている。信頼されなくなるのは当然で、まだ西側、特に米英の「報道機関」を信頼している人のいることが驚きだ。事実を見ようとしていないのか、あるいは別の役割があるのかもしれない。
2016.02.27
日本の原子力規制委員会は2月24日、関西電力高浜原発1、2号機の安全対策が新規制基準を満たすと認める審査書案を了承、運転期間を40年とする原則を破り、20年間延長することになった。「1回だけ」の延長だというが、運転を止めたなら廃炉の見通しが立っていない現実を人びとに知られてしまう。問題を先送りしたいのだろう。 原発は本質的に危険な存在だが、多くの人が指摘しているように、老朽化が進めば「中性子照射脆化」で脆性破壊の危険性が高まる。圧力容器がそうした破壊をしたなら格納容器もECCS(緊急炉心冷却装置)なども役に立たない。 老朽化した原子炉の場合、ECCSは破壊の原因にもなりかねない。専門家によると、冷却材喪失のような緊急事態がおきてECCS系が自動的に作動、冷水が一挙に炉内に流入すると容器は熱衝撃を受けて破壊される可能性がある。炉が急に冷やされると一次系の圧力が急激に低下、そのためにECCSの高圧水ポンプが自動的に作動して再び一次側の圧力が上昇、水圧力も作用するということも起こる。 今後、高浜原発1、2号機はそうしたリスクを抱えながら運転されるわけだが、東電福島第一原発と同じように、地震で破壊される可能性もあるわけで、これから20年の間、過酷事故を起こさずに稼働すると期待するのは虫が良すぎるだろう。安倍晋三政権のような好戦派が中国と戦争を始めたなら、原発は「核地雷」、あるいは「人類破滅装置」として機能する。
2016.02.27
アメリカ支配層の指示に従い、自分たちの懐を豊かにすることしか脳がない安倍晋三政権は日本を疲弊させ、滅ぼそうとしています。ネオコン/シオニストの威を借りれば道理に外れたことでも通用すると思っているのでしょう。 安倍首相が親しいらしいトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と似ているように思えますが、そのエルドアンは現在、アメリカに梯子を外された形で窮地に陥っています。安倍首相がどうなろうと自業自得でしょうが、日本全体がとばっちりを受ける可能性があります。 安倍首相は自分たちの行っていることが日本全体にとって良くないと認識しているようで、秘密保護法を成立させるなど、情報の隠蔽に必死です。エルドアン政権はアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)を支えてきました。その事実を明らかにした新聞社の編集幹部を同政権は逮捕、起訴させていますが、安倍首相と似たものを感じさせます。 支配層が描く妄想の世界に浸かっていれば破滅が待っています。未来を切り開くためには事実を知ることが必要であり、本ブログがその一助になればと願っています。事実を追い求めるこのブログを維持するため、カンパ/寄付をお願い申し上げます。櫻井 春彦振込先巣鴨信用金庫店番号:002(大塚支店)預金種目:普通口座番号:0002105口座名:櫻井春彦
2016.02.26
昨年9月30日にロシア軍が空爆を始めて以来、シリア情勢は劇的に変化した。ワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団を中心とする傭兵集団を使ってバシャール・アル・アサド体制を倒すというアメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルの計画は崩れてしまったのである。 そうした中、あくまでも軍事的にアサド体制を倒そうとしてきたのがトルコやサウジアラビアで、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は2月20日にUNESCOのイベントで演説、自分たちはシリアで作戦を遂行する全ての権利を持っていると言ってのけた。 ところが、アメリカ政府とロシア政府は2月22日、シリアで2月27日から停戦することで合意したと発表、しかもこの合意はダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)、アル・ヌスラ(アル・カイダ系武装集団)、あるいは国連がテロリストと認定しているグループには適応されず、こうした武装集団に対する攻撃は継続されるとしている。ロシア側の主張に沿った内容だ。2月10日にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問してウラジミル・プーチン露大統領と会談しているが、このひとつの結果が今回の停戦ではないかと見る人もいる。 ダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力へ物資を補給する兵站線はトルコからシリアへ延び、シリアやイラクで盗掘された石油はトルコへ運び込まれてきた。石油の密輸がエルドアン家のファミリー・ビジネスになっていることも伝えられている。ロシア軍による空爆は侵略軍の司令部や戦闘部隊が攻撃されただけでなく、兵站線や密輸ルートもターゲットになり、エルドアン大統領は公的にも私的にも厳しい状況に陥った。 そこで、大統領は10月10日にロシア軍機の撃墜を計画、11月24日にロシア軍のSu-24をトルコ軍のF-16が撃墜している。その間、詳細は不明だが、11月17日にはロシアの旅客機がシナイ半島で墜落した。11月24日から25日にかけてポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラを訪問、トルコ軍の幹部と討議したとも言われている。 年明け後の1月22日にはアシュトン・カーター国防長官が陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、翌23日にはジョー・バイデン米副大統領が訪問先のトルコでアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると口にし、エルドアンを煽った。 そうしたこともあってか、2月に入ってもトルコやサウジアラビアはロシアに対して強硬な姿勢を見せ、トルコ外相はサウジアラビアの軍用機や人員をトルコのインシルリク空軍基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできると語り、サウジアラビア国防省の広報担当は、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明した。その直後、アメリカのアシュトン・カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言している。 しかし、2月中旬に入るとシリア情勢をめぐる動きに変化が現れる。ヘンリー・キッシンジャーが2月10日にロシアを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領と会談しているが、その結果が影響したのかもしれない。そして22日の「テロリスト」を除外した停戦に合意したとする発表につながる。シリアへ軍事侵攻する意思を表明していたトルコやサウジアラビアは梯子を外された形だ。 しかも、ここにきてトルコ軍は国連の安全保障理事会が承認しない限り、シリア領内へ部隊を入れないという意思を表明している。エルドアン政権はこれまで軍幹部の粛清を進め、自分たちのダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力への物資輸送を摘発した憲兵隊の幹部を逮捕、そうした事実を報道したジャーナリストも起訴してきたが、こうしたことは背後にアメリカが存在していなければ不可能だろう。そのアメリカ支配層が戦略を修正、その余波でエルドアン政権が処分される可能性が出てきた。サウジアラビアも王制が揺れている。安倍晋三政権も人ごととすましていはいられない。
2016.02.25
ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)の幹部がトルコ軍の軍人と電話で会話している内容が盗聴され、明らかにされた。昨年5月にはトルコのジュムフリイェト紙がシリアの武装勢力へ供給するための武器を満載したトラックを憲兵隊が摘発した出来事を写真とビデオ付きで報道、その報復として11月26日に逮捕された同紙の編集長を含むふたりのジャーナリストは終身刑を求められ、裁判は3月25日に始まるという。そうした言論弾圧にもかかわらず、レジェップ・タイイップ・エルドアン体制への批判をトルコの新聞は続けているわけだ。日本のマスコミとは違い、ジャーナリストとしての覚悟があるのだろう。 トルコとシリアとの国境を管理してきたのはトルコの情報機関MIT。ダーイッシュなどの戦闘員がその国境を行き来しているだけでなく、シリアの侵略軍を支える兵站線がそこを通っている。また、シリアやイラクで盗掘された石油がトルコへ運び込まれていることも知られている。そうした兵站線や盗掘石油の密輸ルートを昨年9月30日から破壊しているのがロシア軍で、アメリカをはじめとする侵略勢力はそれを止めようと努力してきた。 そうした物資の輸送はトルコでも本来は違法。そこで昨年1月にはトルコ軍の憲兵隊が摘発している。その報復として、エルドアン政権はウブラフム・アイドゥン憲兵少将、ハムザ・ジェレポグル憲兵中将、ブルハネトゥン・ジュハングログル憲兵大佐を昨年11月28日に逮捕した。 ダーイッシュやアル・カイダ系武装集団がエルドアン政権と関係していることはアメリカのジョー・バイデン米副大統領も公の席で認めている。2014年10月2日、バイデン副大統領はハーバード大学で講演、その際にシリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。この問題を作り出したのは中東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ」と述べ、あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してしまい、いたずらにISを増強させてしまったことをトルコのエルドアン大統領は後悔していたとも語っている。 勿論、エルドアンが後悔しているはずはなく、アメリカやイスラエルという侵略勢力の重要国が抜け落ちているのだが、トルコやペルシャ湾岸産油国がシリアで戦闘を始めたということを認めている意味は小さくない。 バイデン発言の2年前、2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAはシリアの反政府軍に関する報告書を提出している。その中で反シリア政府軍の主力はサラフ主義者(ワッハーブ派)、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラと実態は同じだとしている)であり、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けていると報告した。 西側の政府やメディアは「穏健派」という幻影を描き出し、ダーイッシュやアル・ヌスラなどを支援した。そこで、DIAはアメリカ政府が方針を変えなければ、その勢力はシリア東部にサラフ主義の支配地を作りあげると警告している。実際、その通りになった。報告書が作成された当時にDIA局長を務めていたマイケル・フリン中将はアル・ジャジーラに対し、ダーイッシュの勢力が拡大したのはオバマ政権が行った決断によるとしている。 エルドアン政権がシリアのアサド体制を破壊したがっている最大の理由はオスマン帝国の復活にあると言われているが、アメリカでシリア侵略を主導しているネオコン/シオニストは1992年にDPGの草稿という形で作成された世界制覇計画、いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」を実現することを目的にしている。1991年12月にソ連が消滅してアメリカが「唯一の超大国」になったと認識した彼らは潜在的なライバル、つまり旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなどがソ連のようなライバルに成長することを防ぎ、膨大な資源を抱える西南アジアを支配しようと考え、DPG草案は書き上げられた。 ネオコンと一心同体の関係にあるイスラエルの好戦派は、ナイル川からユーフラテス川まで、地中海から東はヨルダン川までをイスラエルの領土にするという「大イスラエル構想」を持っている。地中海の東部、エジプトからギリシャのあたりまでに天然ガス田が存在すると言われ、それも狙っているようだ。ゴラン高原をイスラエルが支配しようとしている理由も石油抜きに語ることはできない。 ゴラン高原での石油開発にはジェニー社も加わっているが、その戦略顧問としてジェイコブ・ロスチャイルドが名を連ねている。そのほか、リチャード・チェイニー、ジェームズ・ウールジー、ウィリアム・リチャードソン、ルパート・マードック、ラリー・サマーズ、マイケル・ステインハートなども含まれている。 アメリカの支配層やペルシャ湾岸の産油国もアサド体制を倒すことで石油利権を拡大しようとしている。例えば、イラン、イラク、そしてシリアのラディシアへつながるパイプラインの計画は、米英が建設したバクー油田からトルコのジェイハンをつなぐパイプライン(BTC)の強力なライバルになる。 1968年6月6日に暗殺されたロバート・ケネディ(RFK)の息子、RFKジュニアはカタールからシリア経由でトルコへ石油を運ぶパイプライン建設がアサド体制を倒す動きと関係していると指摘している。ペルシャ湾から地中海の東岸へパイプラインで運び、そこからタンカーでヨーロッパへというルートより、陸上をパイプラインでヨーロッパまでつなげた方がコストは安いのだが、そのパイプラインの建設をシリアのアサド大統領が拒否、その直後からCIAは工作を始めたとしている。 カタールが計画したパイプラインの建設をアサドが拒否した直後、アメリカ、サウジアラビア、イスラエルの軍や情報機関はスンニ派に蜂起させるための工作をしたとしているが、実際のところ、スンニ派の蜂起は起きていない。そこでサラフ主義者/ワッハーブ派やムスリム同胞団を使った軍事侵略という形になったということだ。 ネオコンがシリアのアサド体制を倒すと遅くとも1991年には口にしたのであり、シーモア・ハーシュは2007年3月5日付けニューヨーカー誌でアメリカ、サウジアラビア、イスラエルの三カ国がシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始したと書いている。カタールが計画したパイプラインの問題はシリアを侵略した理由のひとつとうことだろう。 ダーイッシュが出現するまでの流れは、フセイン体制が倒された翌年、つまり2004年にアル・カイダ系のAQIが組織され、06年1月にはAQIを中心にしていくつかの集団が集まってISIが編成され、ダーイッシュにつながったと一般に言われているが、RFKジュニアはダーイッシュを生み出した人物としてポール・ブレマーを挙げている。この人物はサダム・フセイン体制が倒された後に占領の主体になったCPAの代表で、スンニ派軍を創設、それがダーイッシュになったとしている。 最近、ダーイッシュと最も緊密な関係にあるのはトルコとサウジアラビアだと言われている。トルコはNATO加盟国だという立場を利用、ロシアに対して強硬な姿勢を見せていたが、ここにきてアメリカからトルコがロシアと戦争を始めてもNATOはトルコ側につかないと伝えたようだ。そうした中、トルコはウクライナと軍事的な協定を結んだという。 また、アメリカのジョン・ケリー国務長官はシリア解体を口にしている。アサド大統領の排除が難しくなっての発言だろう。この解体計画は戦争が始まった直後から言われていたこと。ダーイシュがシリア東部からイラク西部にかけての地域を支配してきた理由もシリアを分断、石油利権を奪うことにあった。アメリカはロシアに対する逆襲をこの辺から始めるつもりかもしれない。
2016.02.24
アメリカ政府とロシア政府は2月22日、シリアで2月27日から停戦することで合意したと発表、国連も歓迎している。この合意はダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)、アル・ヌスラ(アル・カイダ系武装集団)、あるいは国連がテロリストと認定しているグループには適用されず、こうした武装集団に対する攻撃は継続される。2月10日にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領と会談しているが、そこで何らかの話し合いがあり、ロシア政府がそれに答えた形になっている。ダーイッシュなどはこの合意を潰そうと必死のようだ。 1月22日にアシュトン・カーター国防長官は陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、翌23日にはジョー・バイデン米副大統領が訪問先のトルコでアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があるとしていた。ここにきてアメリカ支配層の内部で状況に変化があったのか、脅しがロシア政府に通じなかったのか、ロシア政府が主張していた方向で停戦合意が成立したようだ。 シリアでの戦闘は2011年3月以来、アメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルなどがバシャール・アル・アサド政権の打倒を目指して始めたものであり、侵略戦争にほかならず、内戦ではない。シリア政府軍と戦ってきたのは外国の侵略勢力が送り込んできたダーイッシュやアル・カイダ系武装集団だった。 こうした武装集団を訓練していた場所がトルコのインシルリク空軍基地。その教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員。それ以降、現在に至るまでトルコは反シリア政府軍の拠点であり、ダーイッシュへの兵站線はトルコの軍隊や情報機関MITが守ってきた。 今年に入り、トルコ外相はサウジアラビアの軍用機や人員をトルコのこの基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできると語っている。そこには戦闘機や爆撃機に搭載できる核爆弾B61が80発ほどあると言われ、それをトルコやサウジアラビアが押さえて使う可能性もあると懸念されている。 シリア政府軍と戦っている武装勢力の実態をアメリカ政府も熟知していたはず。例えば2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAはシリアの反政府軍に関する報告書を提出、その中で反シリア政府軍の主力はサラフ主義者(ワッハーブ派)、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラと実態は同じだとしている)であり、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けていると報告、アメリカ政府が方針を変えなければ、その勢力はシリア東部にサラフ主義の支配地を作りあげると見通していた。 ダーイッシュにしろ、アル・カイダ系武装勢力にしろ、戦闘員の中心はサラフ主義者。つまり、実際にDIAが予測した通りの展開になった。報告書が作成された当時にDIA局長だったマイケル・フリン中将はアル・ジャジーラに対し、ダーイッシュの勢力が拡大したのはオバマ政権が行った決断によるとしている。 DIAの報告書が公開されたり、フリン中将の発言が出てきた背景には、アメリカ支配層の内部でサラフ主義者やムスリム同胞団を傭兵として使う手法に批判的な人が増えてきたことを暗示している。つまり、ネオコン/シオニストの勢いが弱まっている。 そうした傭兵、つまりダーイッシュやアル・ヌスラなどのシリアにおける敗北は決定的。侵略勢力はさらなる部隊を「穏健派」として侵攻させるかもしれないが、ロシアやシリアは「テロリスト」として攻撃するだろう。 シリアへの軍事侵攻を臭わせているサウジアラビアやトルコは現在、自国の支配体制が揺らぎ始めている。サウジアラビアは原油価格の下落などで財政赤字が深刻化、トルコはシリアやイラクからの盗掘石油が減少して苦しんでいる。トルコはNATO加盟国という立場を利用、ロシアと対決しようとしていたようだが、目論見通りには進んでいないようだが、追い詰められて暴走するという可能性はある。 リチャード・ニクソンはアメリカが何をしでかすかわからない国だと世界の人びとに思わせて自分たちが望む方向へ世界を導こうとし、モシェ・ダヤン将軍はイスラエルが狂犬のように振る舞うことで世界を脅そうとした。ネオコンも同じ手法で世界を屈服させてきたが、ロシアと中国には通じず、窮地に陥っている。ただ、こうした手法は一歩間違えると核戦争へ突入しかねない。敗北できない事情の人びともいる。 東電福島第一原発は過酷事故で炉心が溶融、おそらくチャイナシンドローム状態で、廃炉には数百年が必要だとみられている。その間、環境中に大量の放射性物質を撒き散らし続けるわけだ。こうした事故を東電も起こしたくはなかっただろう。それでも事故は起こる。核戦争も同じだ。
2016.02.23
2年前の2月22日、ウクライナではネオコン/シオニストに操られたネオ・ナチ(ステファン・バンデラ派)によってビクトル・ヤヌコビッチ大統領が排除された。選挙で合法的に選ばれた政権をクーデターで倒したのである。勿論、憲法の規定は無視しているわけで、クーデター政権を拒否するのは主権者として当然の権利。ヤヌコビッチの支持基盤であったウクライナの東部や南部に住む人びとはその権利を行使したのだが、それを西側の政府、メディア、そして「リベラル派」や「革新勢力」も批判していた。 このクーデターは西側支配層によるウクライナ支配劇の一幕にすぎない。1991年12月にソ連が消滅、ロシアでは西側支配層に操られたボリス・エリツィンが大統領として新自由主義を導入、「規制緩和」と「私有化」を促進して庶民の富をクレムリンの腐敗勢力と手を組んだ一部の人間が懐へ入れて巨万の富を築き、「オリガルヒ」と呼ばれるようになる。その腐敗勢力の中心にいたのがエリツィンの娘、タチアナだ。 1992年11月にエリツィンは経済政策の中心にアナトリー・チュバイスを据えるが、この人物はタチアナの利権仲間で、HIID(国際開発ハーバード研究所)と連携する。この研究所が資金を得ていたUSAIDはCIAが資金を流すパイプ役だ。(Natylie Baldwin & Kermit Heartsong, “Ukraine,” Next Revelation Press, 2015) こうした政府とオリガルヒの動きに反発した議会は国民の支持を得て1993年3月に立ち上がるが、アメリカ政府の支援を受けていたエリツィン大統領は国家緊急事態を宣言して対抗、9月には議会を解散、議員が立てこもった議会ビルを戦車に砲撃させる。殺された人の数は100名以上、議員側の主張によると約1500名に達するという。このエリツィンを西側の政府やメディアは支持している。 エリツィン時代にロシアは不正な手段でオリガルヒが富を独占、庶民は貧困化していった。そのオリガルヒは西側の巨大資本に服従していたのだが、そうした中、ウラジミル・プーチンが登場してロシアの再独立に成功する。今でも西側巨大資本につながるオリガルヒは活動しているが、今のところコントロールしている。 ウクライナでも新自由主義化は行き詰まり、2004年の大統領選挙では西側の意に反してヤヌコビッチが当選する。そこで、西側の支援を受けたビクトル・ユシチェンコは「不正選挙」だと主張、デモや政府施設への包囲などで新政権を揺さぶった。こうした活動は2004年から05年にかけて行われ、ユシチェンコが大統領を奪う形で沈静化した。いわゆる「オレンジ革命」だ。 ユシチェンコ時代のウクライナはエリツィン時代のロシアと同じようのオリガルヒを生み出すのだが、それに対する反発もあって2010年2月にはヤヌコビッチが大統領に就任した。そのヤヌコビッチ政権を倒すため、西側はNGOを使い、抗議活動を演出する。2013年11月にはキエフのユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)へ約2000名の反ヤヌコビッチ派が集まる。当初、抗議活動は人びとのEUへの憧れを刺激する「カーニバル」的なもので、12月に入ると50万人が集まったとも言われている。 年明け後、抗議活動は暴力化、ネオ・ナチのグループが前面に出てきて、2月18日頃から棍棒、ナイフ、チェーンなどを手にしながら石や火炎瓶を投げ、ピストルやライフルで銃撃を始めた。 こうした混乱をEUは話し合いで解決しようとしていたが、そうした方針に怒ったのがアメリカのネオコン。2014年2月4日にインターネット上で公開されたビクトリア・ヌランド国務次官補とジェオフリー・パイアット米大使との電話会談でヌランドは「EUなんかくそくらえ」と口にしている。このふたりが現場でクーデターを指揮、この電話会談では「次期政権」の人事について話し合われ、ヌランドはアルセニー・ヤツェニュクを強く推薦していた。クーデター後、首相に就任する人物である。 リークされた音声によると、ヌランドはジェフリー・フェルトマン国連事務次長とも連絡を取り合っていたようだが、このフェルトマンの評判も良くない。1991年から93年にかけてローレンス・イーグルバーガー国務副長官の下で東/中央ヨーロッパを担当、ユーゴスラビア解体に関与したと言われている。 2004年から08年にかけてレバノン駐在大使を務めたが、その間、2005年2月にラフィク・ハリリ元レバノン首相が殺害されている。この暗殺事件を扱うために「レバノン特別法廷(STL)」が設置され、イスラム教シーア派のヒズボラに所属するという4名が起訴された。 この法廷は2007年、国連の1757号決議に基づいて設置されたのだが、国連の下部機関というわけではない。年間85億円程度だという運営資金を出している主な国はアメリカ、サウジアラビア、フランス、イギリス、レバノン。 この事件では当初、「シリア黒幕説」が流され、2005年10月に国連国際独立委員会のデトレフ・メーリス調査官は「シリアやレバノンの情報機関が殺害計画を知らなかったとは想像できない」と主張、「シリア犯行説」に基づく報告書を安保理に提出している。イスラエルやアメリカの情報機関が殺害計画を知らなかったとは想像できない、と考えなかったようだ。 メーリスの報告書では犯人像が明確にされていないうえ、暗殺に使われた三菱自動車製の白いバンが2004年に相模原からベイルートまで運ばれた経緯が調べられていないなど「欠陥」が当初から指摘されていた。 また、アーマド・アブアダスなる人物が「自爆攻撃を実行する」と宣言する様子を撮影したビデオがアルジャジーラで放送されたが、このビデオをメーリスは無視。また、ズヒル・イブン・モハメド・サイド・サディクなる人物は、アブアダスが途中で自爆攻撃を拒否したため、シリア当局に殺されたとしているのだが、ドイツのシュピーゲル誌は、サイド・サディクが有罪判決を受けた詐欺師だと指摘する。 しかも、この人物を連れてきたのがシリアのバシャール・アル・アサド政権に反対しているリファート・アル・アサドだという。サディクの兄弟によると、メーリスの報告書が出る前年の夏、サイドは電話で自分が「大金持ちになる」と話していたようだ。 もうひとりの重要証人、フッサム・タヘル・フッサムはシリア関与に関する証言を取り消している。レバノン当局の人間に誘拐され、拷問を受けたというのだ。その上で、シリア関与の証言をすれば130万ドルを提供すると持ちかけられたと話している。 メーリスの報告書が出された後、シリアやレバノンの軍幹部が容疑者扱いされるようになり、レバノン軍将官ら4人の身柄が拘束されたのだが、シュピーゲルの報道後、報告書の信頼度は大きく低下、シリアやレバノンを不安定化させたい勢力の意向に沿って作成されたと疑う人が増えた。 2005年12月になるとメーリスは辞任せざるをえない状況に追い込まれ、翌月に辞めている。後に特別法廷は証拠不十分だとして4人の釈放を命じ、その代わりにヒズボラのメンバーが起訴されたわけである。 ハリリが暗殺された翌年、イスラエルはヒズボラから攻撃されたとしてレバノンへの軍事侵攻を試みたが失敗、その一方でハリリ・グループは「未来運動」なる活動を開始、武装部隊(テロ部隊)を編成した。その部隊を財政的に支援してきたのがデイビッド・ウェルチ米国務省次官補を黒幕とする「ウェルチ・クラブ」なるプロジェクトだと言われている。ウェルチの背後にはネオコンのエリオット・エイブラムズがいるともいう。 STLが設置された2007年、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュはニューヨーカー誌に、アメリカ、サウジアラビア、イスラエルの3カ国がシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラをターゲットにした秘密工作を始めたと書いている。ちなみに、ハリリの暗殺の「調査」ではシリアとヒズボラがターゲットになっている。 ウクライナとシリアで秘密工作を実行しているグループはつながっていると言える。ウクライナではクーデター後、2014年5月2日にオデッサでクーデターに反対する住民が虐殺され、9日にはドンバス(ドネツクやルガンスク)へクーデター政権は戦車を突入させて民族浄化作戦を始めた。この作戦は失敗するが、今でも平和は訪れていないようだ。
2016.02.22
2月20日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はUNESCOのイベントで演説、トルコはシリアで作戦を遂行する全ての権利を持っていると言ってのけた。軍事侵攻する権利があるというわけだ。 トルコが直面する脅威と戦うためだというが、シリアを侵略しているワッハーブ派/サラフ主義者を中心とする武装勢力、つまりアル・カイダ系武装勢力やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)を支えてきた国のひとつがトルコであり、シリアから見ればトルコは脅威どころか侵略者だ。エルドアン大統領はシリアやその同盟国がトルコを破壊することを受け入れなければならないことになる。 2011年3月にシリアへの侵略戦争が始まった当時からトルコのインシルリク空軍基地は侵略軍の拠点で、アメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員が戦闘員を軍事訓練しているとも伝えられていた。シリアへ侵攻した戦闘員への兵站線はトルコから延びている。昨年9月30日にロシア軍が空爆を始めるまで、シリア北部の制空権はトルコ軍が握っていたので、この兵站線は守られていた。 侵略軍がシリアやトルコで盗掘した石油はトルコへ運び込まれているが、この密輸で黒幕的な役割を演じているのがエルドアン大統領の息子であるビラル。この人物が所有するBMZ社が盗掘石油を輸送、その背後にはジェネル・エネルギー社が存在していると言われ、現在イタリア当局からマネー・ロンダリングで捜査の対象になっている。 ジェネル・エネルギー社はロンドンを中心とするタックス・ヘイブン網の一角を占めるジャージー島に登記されている。投資会社のジェネル・エネルジ・インターナショナルがバラレスに買収されたのだが、この投資会社を創設したのはアンソニー・ヘイワード(元BP重役)、金融資本の世界に君臨しているナサニエル・ロスチャイルド、その従兄弟にあたるトーマス・ダニエル、そして投資銀行家のジュリアン・メセレルだという。 侵略勢力はシリアのバシャール・アル・アサド体制を倒し、傀儡政権を樹立させるか、リビアのような無政府状態の破綻国家にしようとしているのだが、その目論見を潰しかけているのがロシア軍の空爆。これを止めさせようと侵略勢力は必至。 そうした中、「国境なき医師団」の病院が爆撃され、例によって西側はロシア軍を批判する。ただ、病院スタッフの証言以外に証拠はなく、しかも病院にはジュネーブ諸条約が定める特殊標章が表示されていないことも判明した。通常、こうした施設はGPSで関係国に正確な位置を伝えておくのだが、この病院はそうしたことも行っていなかった。これは地元スタッフが要求したからだという。ロシア側は病院の空爆を否定している。 ちなみに、「ジュネーブ諸条約第2追加議定書」の第12条は次のように書かれている。「医療要員及び宗教要員、医療組織並びに医療用輸送手段は、権限のある関係当局の監督の下で、白地に赤十字、赤新月又は赤のライオン及び太陽の特殊標章を表示する。特殊標章は、すべての場合において尊重するものとし、また、不当に使用してはならない。」 シリアを侵略している国々は、政府軍による住民虐殺や化学兵器の使用を口実にして自らが軍事介入しようとしたが、いずれも嘘だということが発覚している。化学兵器を政府軍が使用したという偽情報は2013年8月に流されたが、その発信元も今回と同じ「国境なき医師団」だった。 化学兵器を使ったと見られる攻撃の直後に現地を調査したキリスト教の聖職者マザー・アグネス・マリアムはいくつかの疑問を明らかにしている。例えば、攻撃が午前1時15分から3時頃(現地時間)にあったとされているにもかかわらず犠牲者がパジャマを着ていないのはなぜか、家で寝ていたなら誰かを特定することは容易なはずだが、明確になっていないのはなぜか、家族で寝ていたなら子どもだけが並べられているのは不自然ではないのか、親、特に母親はどこにいるのか、子どもたちの並べ方が不自然ではないか、同じ「遺体」が使い回されているのはなぜか、遺体をどこに埋葬したのかといったことだ。(PDF) 攻撃の直後、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使はアメリカ側の主張を否定する情報を国連で示して報告書も提出、その中で反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、ゴータに着弾していることを示す文書や衛星写真が示されたとジャーナリストがフェースブックに書き込んでいる。 そのほか、化学兵器とサウジアラビアを結びつける記事も書かれ、12月になると、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュもこの問題に関する記事を発表、反政府軍はサリンの製造能力を持ち、実際に使った可能性があるとしている。また、国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授も化学兵器をシリア政府軍が発射したとするアメリカ政府の主張を否定する報告書を公表している。ミサイルの性能を考えると、科学的に成り立たないという。 2013年8月の化学兵器使用について、トルコの国会議員エレン・エルデムらは捜査記録などに基づき、トルコ政府の責任を追及している。化学兵器の材料になる物質はトルコからシリアへ運び込まれ、そこでダーイッシュが調合して使ったというのだ。この事実を公表した後、エルデム議員らは起訴の脅しをかけられている。
2016.02.22
アメリカ空軍のチャールズ・ブラウン中将は2月18日、国防総省におけるブリーフィングで、ロシアに対してアメリカの特殊部隊が活動している位置をロシア側へ通告していると発表した。ミスでアメリカ軍部隊を攻撃しないようにということだが、通告されるまでもなくロシア軍はその位置を把握、そうしたことをアメリカ側も承知していたはずで、ここにきてそうした話を表に出した理由が何なのか、興味が持たれている。 2011年3月にシリアのバシャール・アル・アサド政権を倒す目的で外国勢力が戦闘を始めた時から、そうした勢力は自国の特殊部隊を潜入させていたと見られている。例えば、イスラエルでの報道によるとイギリスとカタールの特殊部隊が潜入、WikiLeaksが公表した民間情報会社ストラトフォーの電子メールによるとアメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、トルコの特殊部隊が入っている可能性がある。 また、イギリスの特殊部隊SASの隊員120名以上がシリアへ入り、ダーイッシュの服装を身につけ、彼らの旗を掲げて活動しているとも報道された。流れから考えて、ダーイッシュの内部に入り、政府軍側との戦闘に参加していた可能性が高いだろう。 昨年10月にバラク・オバマ米大統領は50名近いアメリカの特殊部隊をシリア北部へ特殊部隊を送り込むことを承認したと伝えられている。「訓練、助言、助力」が目的だとしているが、それだけで納まっているとは考え難い。 この発表を聞き、ロシア軍の空爆が始まり、外国勢力が侵略部隊として使っていたダーイッシュやアル・カイダ系武装勢力が大きなダメージを受けて戦況が一変する中での発表で、「人間の盾」にするつもりではないかと推測する人もいた。アメリカ政府による今回の発表はロシア軍の空爆を少しでも牽制したいということだろうが、その一方でサウジアラビアによる地対空ミサイルの侵略軍への供給をアメリカは認めているようで、ロシア軍機を撃墜するという意思表示に見える。1980年代にアフガニスタンで行ったことの再現だ。 シリアで政府軍と戦っている武装勢力の戦闘員はワッハーブ派/サラフ主義者やムスリム同胞団が中心だということは2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAが作成した報告書も指摘している。つまり、「穏健派」などは存在せず、その存在しない勢力へ供給した武器/兵器は必然的にダーイッシュやアル・カイダ系武装集団へ流れるわけだ。 そうした現実を知った上でオバマ政権は軍事支援を決断した。報告書が作成された当時にDIA局長だったマイケル・フリン中将が語っているように、ダーイッシュが支配地域を拡大できたのはオバマ政権の決断による。そのオバマ大統領が送り込んだアメリカの特殊部隊がダーイッシュと戦うという話を信じることはできない。 侵略勢力、つまりアメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルは和平交渉を利用して態勢を立て直し、反撃しようと目論んでいるだろう。2001年9月11日以降、アメリカ軍の内部では侵略戦争に反対する軍人たちの抵抗が続いてきたが、ネオコンや戦争ビジネスを中心とする好戦派に押されている。ジョージ・W・ブッシュ政権にしろ、バラク・オバマ政権にしろ、侵略に反対する軍幹部を粛清、好戦派と交代させ、軍事的な緊張を高めてきた。 アメリカの好戦派に同調しているのがトルコやサウジアラビア。ドイツのシュピーゲル誌に対してサウジアラビアのアデル・アル・ジュベイル外相は、シリアで第3次世界大戦が始まるとは思わないと語っているが、それだけトルコやサウジアラビアの動きを懸念している人が多いと言うことだろう。
2016.02.21
サウジアラビアのアデル・アル・ジュベイル外相は地対空ミサイルをシリアでバシャール・アル・アサド政権を倒すために戦っている「穏健派」に供給、戦況は大きく変わるとドイツのシュピーゲル誌に語った。 アメリカ軍の情報機関DIAが2012年8月に作成した報告書が指摘しているように、シリアで政府軍と戦っている主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラは別名で実態は同じ)。「穏健派」は存在しない。ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)はAQIから派生した戦闘集団で、実態に大差はない。アメリカ政府と同様、アル・ジュベイル外相はダーイッシュと戦うと称してダーイッシュを支援しているが、今回は地対空ミサイルを供給、ロシア軍機を撃墜させようとしているわけだ。 アメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルがアサド体制を倒す戦闘を始めたのは2011年3月。その頃からアメリカ/NATOはトルコにある米空軍インシルリク基地で反シリア政府軍を編成、訓練している。教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員。それ以降、現在に至るまでトルコは反シリア政府軍の拠点であり、ダーイッシュへの兵站線はトルコの軍隊や情報機関MITが守ってきた。 DIAに限らず、アメリカ軍の上層部にはダーイッシュを危険だと考える人たちがいた。報告書が作成された当時のDIA局長、マイケル・フリン陸軍中将はAQI/アル・ヌスラやダーイッシュの勢力拡大をバラク・オバマ政権の決定が原因だと語っているが、こうした政府の政策を懸念した米軍の幹部たちは2013年秋からそうした武装集団に関する情報をホワイトハウスの許可を得ず、シリア政府へ伝え始めたと調査ジャナリストのシーモア・ハーシュは書いている。 統合参謀本部の議長を務めたマーチン・デンプシー陸軍大将もダーイッシュを警戒していたひとりだとみられるが、2015年9月に退任、ジョセフ・ダンフォードへ交代した。その月の終わりにロシア軍が空爆を始めている。 この軍事介入で戦況は一変、侵略勢力は狼狽する。内部告発支援グループのWikiLeaksによると、10月10日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はロシア軍機の撃墜を決めたという。撃墜したのは11月24日だが、ポール・セルバ米統合参謀本部副議長が11月24日から25日にかけてトルコのアンカラを訪問、トルコ軍幹部と会談している。 トルコ政府は「国籍不明機」を撃墜したと主張したが、ロシア軍は軍事衝突を避けるため、事前に攻撃計画をアメリカ側に通告していたうえ、アメリカは偵察衛星で監視しているはず。しかもその当時、ギリシャを拠点とするアメリカ/NATOのAWACS(早期警戒管制)機、そしてサウジアラビアもAWACS機も飛行していた。 トルコ政府は、ロシア軍機が国境線から2.19キロメートルの地点まで侵入し、1.88キロメートルの距離を17秒にわたって飛行したとしている。つまり、Su-24は時速398キロメートルで飛行していたことになる。この爆撃機の高空における最高速度は時速1654キロメートルで、トルコ説に基づく飛行速度はあまりにも遅く、非現実的だ。 ロシア側の説明(アメリカやトルコから否定されていない)によると、トルコ軍のF-16は午前8時40分に離陸、9時08分から10時29分まで高度4200メートルで飛行して午前11時に基地へ戻っているのに対し、ロシア軍のSu-24が離陸したのは1時間後の午前9時40分。午前9時51分から10時11分まで高度5650メートルで飛行、16分に目標を空爆、24分に撃墜されている。領空侵犯に対するスクランブルではなかった。 9月30日以降、アメリカは対戦車ミサイルTOWを侵略軍へ大量に補充したと言われているが、政府軍側はロシア製の最新戦車T-90が投入して対抗、侵略軍の劣勢は挽回できなかった。このとき、地対空ミサイルはアメリカ軍機も狙われる可能性があるので供給しなかったようだが、今回、サウジアラビアがダーイッシュへ渡すということだ。 その後、トルコ外相はサウジアラビアの軍用機や人員をトルコのインシルリク空軍基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできると語り、サウジアラビア国防省の広報担当は、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明している。やはりダーイッシュと戦うためだという条件を付けているが、この条件が無意味だと言うことはすでに述べた通り。その直後、アメリカのアシュトン・カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言している。 サウジアラビアはシリアへすぐにでも派遣できる15万人の部隊を待機させていると報じられている。この部隊はサウジアラビアのほか、スーダン、エジプト、ヨルダンの軍隊で構成され、さらにモロッコ、トルコ、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタールの軍隊も派遣される予定で、マレーシア、インドネシア、ブルネイからは傭兵が送られるというのだが、実際に軍事侵攻するのは無謀。制空権をロシア軍が握っているからだ。地対空ミサイルの供給を言い始めたのは、この脅しが通じなかったからかもしれない。 ただ、サウジアラビアやトルコが核兵器を何らかの形で使う可能性はある。トルコにはNATOの核爆弾B61が80発ほど保管されていると言われ、これを盗み出して使うことも考えられるだろう。何度か書いたことだが、2007年の8月29日から30日にかけてアメリカでは核弾頭W80-1を搭載した6基の巡航ミサイルAGM-129が行方不明になるという事件が起こっている。ミスとは考え難く、軍の幹部が介在した計画的な不正持ち出し、イラン攻撃に使うつもりだったのではないかとも噂されている。 サウジアラビアがすでに核兵器を持っている可能性もある。2013年にイギリスのBBCはサウジアラビアがパキスタンの核兵器開発で資金を提供、その代償として原子爆弾を手に入れられることになっていたと報じているのだ。BBCをどこまで信用できるかは不明だが、可能性はありそうだ。サウジアラビアでは、数週間以内に同国で核実験が行われるという噂も流れている。 イエメンへの軍事介入に失敗、シリアでも自分たちが雇った傭兵が敗走、戦費がサウジアラビアに重くのしかかっているが、それだけでなく、原油価格の急落で財政赤字が深刻化、国が大きく揺らいでいる。サウジアラビアが揺らげばドルを基軸通貨の地位に止めている柱も揺らぎ、アメリカの支配システムは危険な状態になる。そうした中、トルコやサウジアラビアは軍事的な緊張を高めようとしているのだが、その手には核兵器が握られている。
2016.02.20
トルコ軍は数十台の戦闘車両をシリア北西部、国境から200メートルほどの地点まで侵入させ、塹壕を掘り始めたと伝えられている。トルコにしろ、サウジアラビアにしろ、シリア北部の制空権をロシア軍が握っている状態で本格的な軍事侵攻は無理だと正常な判断のできる人なら考えるわけだが、アメリカのネオコン/シオニスト、サウジアラビア、トルコなどならやりかねないと思っている人がいる。 侵略勢力、つまりアメリカの好戦派やNATO、サウジアラビアをはじめとするペルシャ湾岸の産油国、あるいはイスラエルなどがシリアのバシャール・アル・アサド体制転覆を諦めたわけではないはずだ。現在、無法地帯になっているリビアはネオコンがヨーロッパを破壊するための橋頭堡になりつつあるが、シリアを同じ状態にすればイランを孤立化し、トルコ、グルジア、ウクライナなどとつながってロシアを侵略する拠点になりえる。 昨年9月30日にロシア軍が始めた空爆で侵略勢力の手先、つまりワッハーブ派/サラフ主義者を中心とする武装勢力は大きな痛手を負い、このまま進めば敗北は必至だ。そうなると、1992年に作成したネオコンの戦略は崩壊、西側支配層の内部における権力抗争に敗れ、過去の悪事が問題にされる可能性が出てくる。シリアでの戦いでネオコンは負けられないということだ。 そこで注目されているのが核兵器。2011年3月に侵略勢力が拠点にしているトルコのインシルリク空軍基地には戦闘機や爆撃機に搭載できる核爆弾B61が80発ほど保管されているようで、それが使われる可能性はある。アメリカ政府にその意思がなくても、盗まれる可能性は排除できないのだ。 例えば、2007年の8月29日から30日にかけてアメリカでは核弾頭W80-1を搭載した6基の巡航ミサイルAGM-129が行方不明になるという事件が起こっている。ミスとは考え難く、軍の幹部が介在した計画的な不正持ち出し、イラン攻撃に使うつもりだったのではないかとも噂されている。 ワッハーブ派はイスラム系のカルトだが、キリスト教にもそうした宗派が存在、アメリカ軍の内部に食い込んでいる。そうした信者のひとりがウィリアム・ボイキン。特殊部隊に所属、アメリカ軍がイラクを先制攻撃した3カ月後、ボイキンは少将から中将に昇格すると同時に国防副次官へ就任している。この軍人を右腕として使っていたのがネオコンのステファン・カムボーンだ。 ボイキンは1993年にソマリアのモガディシオにおけるJSOC(統合特殊作戦司令部)の軍事作戦に参加、陸軍の特殊部隊デルタ・フォースを指揮していた。10月3日から4日にかけて首都のモガディシオで戦闘があり、アメリカ軍は2機の戦闘用ヘリコプターMH60ブラック・ホークを撃墜された。銃撃戦で18名のアメリカ兵が戦死、ソマリア側は戦闘員と住民を合わせて1000名から1500名が殺害されている。この戦闘は後に映画の題材にされた。 この戦闘に参加していたボイキンは帰国後、モガディシオで撮影したという写真を教会の説教壇の上で見せながら、現像した後に奇妙な暗黒の印に気づいたと彼は語る。「みなさん、これがあなた方の敵の正体です。あの町にある邪悪な存在、暗黒の遣いルシフェルこそが倒すべき敵なのだと神は私に啓示されました。」としたうえで、イスラム過激派がアメリカを憎むのはキリスト教国だからであり、自分たちの基盤、ルーツがユダヤ/キリスト教徒だからであり、敵はサタンと名づけられた連中だとしていた。ワッハーブ派並の狂信性だ。こうした狂信者が核攻撃を目論んでも不思議ではない。2007年に巡航ミサイルが行方不明になった事件にそうしたカルト軍人が関係していた可能性は否定できない。 言うまでもなく、中東には世界有数の核兵器保有国が存在している。ネオコンと深く結びついているイスラエルだ。1986年にイギリスのサンデー・タイムズ紙はイスラエルが約200発の原爆を保有していると報道したが、その情報源だったモルデカイ・バヌヌはイスラエルが水爆を保有、中性子爆弾の製造を始めていたとも内部告発した。ジミー・カーター元米大統領はイスラエルの保有する核弾頭の数を150発以上だと推定している。 イスラエルはこうした核兵器を飾りとして持っているわけではない。1973年10月の第4次中東戦争でイスラエルは窮地に陥り、ゴルダ・メイア首相の執務室で開かれた会議の席上、モシェ・ダヤン国防相は核兵器を選択肢として見せる準備をするべきだと発言したと言われている。核兵器使用の準備をするという提案はメイア首相が拒否しという話も流れているが、閣議で核兵器の使用が決まったという情報もあり、真相は不明だ。 そうした閣議が影響したのか、アメリカは敗色濃厚のイスラエルに対して兵器など物資を空輸しはじめる。その際、ヘンリー・キッシンジャーはエジプトのアンワール・サダト大統領に対し、核戦争へとエスカレートすることを防ぐためだと説明した。 形勢が逆転すると、イスラエルはアメリカの停戦要請を無視して攻撃を続ける。それに対してソ連のアナトリー・ドブルイニン駐米大使はキッシンジャーに対して米英両国が平和維持軍を派遣してはどうかと提案、レオニード・ブレジネフ書記長はニクソン大統領宛の手紙の中で、アメリカがソ連と手を組めないのならば、ソ連は単独で行動すると警告している。 キッシンジャーはソ連側へソフトな内容の返信を送る一方、核戦争の警戒レベルを引き上げ、全世界のアメリカ軍に対して「赤色防空警報」が出されたともいう。核戦争の危機が迫っているとメイアは信じた。そうした中、ダヤン国防相は核攻撃の準備を始め、2基のミサイルに核弾頭をセット、目標をダマスカスとカイロに定めている。 実際に核兵器は使われているとする情報も流れている。2013年5月や14年12月にシリアでは大きな爆発があり、まるで地震のような揺れがあった。「巨大な金色のキノコに見える炎」が目撃され、爆発の様子を撮影したCCDカメラに画素が輝く現象(シンチレーション)もあり、小型の中性子爆弾が使われたと推測する人もいる。 また、アメリカ軍が率いる連合軍がイラクを2003年に先制攻撃した後、ファルージャでは住民の間で放射能による障害が多発した。劣化ウラン弾によるものだとされているのだが、調査の過程で濃縮ウランが発見され、これまで言われていないような兵器が使われていた可能性が出てきた。 ウルスター大学のクリストファー・バスビー教授によると、2006年7月にイスラエル軍がレバノンに軍事侵攻した後、レバノンやガザでも濃縮ウランが検出されたほか、アフガニスタンでも同じ兵器が使われ、バルカン半島でも使用された可能性があるという。 核兵器というと原子爆弾や水素爆弾など爆発と結びつけて考えてしまうが、放射性物質を撒き散らす「汚い爆弾」もある。昨年11月にイラクにあるアメリカが所有しているバスラの施設から高濃度の放射性物質イリジウム-192が盗まれたと伝えられている。これが汚い爆弾に使われることが懸念されているが、中性子爆弾などを使用した際のカモフラージュとしてこの物質が利用される可能性も指摘されている。(劣化ウラン弾もカモフラージュの可能性がある。) また、1月22日にアメリカのアシュトン・カーター国防長官は米陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語っている。ラッカ、そしてダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)が盗掘石油の生産拠点にしているデリゾールを支配し、油断地帯を占領、シリアの東部を奪おうとしているとも推測されている。 2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAはシリア情勢に関する報告書を作成、反シリア政府軍の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQIであり、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとている。アメリカ政府が主張する「穏健派」は事実上、存在しないということ。アメリカ政府が「穏健派」を支援すれば、必然的に「過激派」が支援されることになり、サラフ主義者/ワッハーブ派やムスリム同胞団の支配地がシリア東部に出現するとDIAは警告していた。報告書が作成された当時にDIA局長だったマイケル・フリン中将はアル・ジャジーラに対し、ISの勢力が拡大したのはオバマ政権による決断の結果だとしている。その「過激派」をロシア軍が壊滅させつつある中、アメリカ軍、サウジアラビア軍、トルコ軍がシリアを侵略するというわけだ。 昨年8月、ロシアの空挺部隊の司令官ウラジミル・シャマノフはシリアで「テロリスト」と戦う準備はできていると語ったと伝えられているが、侵略勢力の動き次第ではありえる話だ。侵略勢力があくまでもシリアのアサド体制を倒してこの地域を無政府状態にする、あるいは東部の油田地帯を乗っ取ってシリアを分断するつもりならば、アメリカ軍とロシア軍が衝突、核戦争になる可能性もある。ネオコンがアメリカを支配している限り、世界の未来は暗い。
2016.02.19
アメリカ軍は今後半世紀の間、アフガニスタンに居続けるだろうとアメリカ陸軍のローレンス・ウィルカーソン退役大佐は推測している。この人物はコリン・パウエル国務長官の首席補佐官を務め、ジョージ・W・ブッシュ政権の内情にも詳しい。 アフガニスタンに対する先制攻撃が始まったのは2001年10月。その直前、9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃され、ブッシュ・ジュニア政権は詳しい調査をしていない段階で即座にアル・カイダが実行したと断定する。そのアル・カイダを匿っていると主張してアメリカ軍はアフガニスタンを攻撃したわけである。ちなみに、本ブログでは何度も書いているように、アル・カイダという戦闘集団は存在しない。 パキスタンのバナジル・ブット首相の特別補佐官を務めていたナシルラー・ババールによると、アメリカがアフガニスタンの反体制派へ資金援助しはじめたのは1973年だというが、本格的な秘密工作はジミー・カーター政権の時代。大統領の首席補佐官だったズビグネフ・ブレジンスキーはソ連軍をアフガニスタンに誘い込み、イスラム武装勢力と戦わせようとしたのだ。戦闘員の主力はワッハーブ派/サラフ主義者。 将来の大統領候補としてカーターに目をつけたのはブレジンスキーとデイビッド・ロックフェラー。1973年のことだ。つまり、カーター政権では大統領より補佐官の方が立場は上だった。 ブレジンスキーの作戦に基づき、CIAがイスラム武装勢力への支援プログラムを始めたのが1979年4月。ソ連軍の機甲部隊がアフガニスタンへ侵攻してきたのはその年の12月である。アメリカの軍や情報機関は戦闘員を訓練し、武器/弾薬を供給して支援、戦争は ブレジンスキーの思惑通りに泥沼化、1989年2月にソ連軍は撤退した。 1993年に暫定政権が成立するが、1994年末にタリバーンが台頭する。この集団を組織したのはアメリカとパキスタンの情報機関で、1996年9月に首都のカブールを制圧、その際にムハンマド・ナジブラー大統領を拘束、大統領兄弟の睾丸を切り取るなど残虐な行為を繰り返したため、イスラム世界におけるタリバーンの評価は高くなかった。 ところが、アメリカ支配層は違った。例えばCFR(外交問題評議会)のバーネット・ルビンはタリバーンと「イスラム過激派」との関係を否定、国防総省と関係の深いRAND研究所のザルマイ・ハリルザドも同じ見解を表明する。タリバーンのアメリカにおけるロビイストはリチャード・ヘルムズ元CIA長官の義理の姪にあたるライリ・ヘルムズだった。(最近、シリアを侵略している戦闘部隊を「穏健派」だとアメリカ支配層は言い張っている。) アメリカの石油企業は中央アジアの油田を開発するためにアフガニスタンを統一する必要があり、その役割をタリバンーンに期待していた。サウジアラビアのような親米体制ができると期待したようだが、トルクメニスタンからのパイプライン敷設計画で、タリバーンはアメリカ系のUNOCALでなく、アルゼンチンのブリダスを契約相手に選び、アメリカとタリバーンの関係が悪化する。1998年8月にはビル・クリントン政権がアフガニスタンをミサイルで攻撃している。 2001年の大統領はクリントンからブッシュ・ジュニアへ交代、9月11日の攻撃が引き起こされる。その攻撃の2日前、ロシアやイランとも友好的な関係を結ぼうとしていたアーマド・シャー・マスードは暗殺され、9月22日にCIAはウズベキスタン南部にある空軍基地へチームを送り込んで10月にアフガニスタンを先制攻撃、11月にタリバーン政権を倒した。 1973年にベトナム戦争が終結するまで、ヘロインなどの原料になるケシの最大産地は東南アジアの山岳地帯、いわゆる黄金の三角地帯だった。1973年当時、押収されたヘロインの量から類推すると黄金の三角地帯が供給していたヘロインの量は南西アジアの約4倍だったと言われている。(Alfred W. McCoy, "The Politics of Heroin," Lawrence Hill Books, 1991) ところが、アフガニスタンで戦争が始まった直後、1980年にオランダで押収された東南アジア産ヘロインの量は前年の3パーセントに激減、その一方でヨーロッパにおける南西アジア産ヘロイン押収量は同じ期間に2倍以上に増えている。 ソ連消滅後、南西アジアで生産されたヘロインの大半はアフガニスタンからトルクメニスタンやタジキスタンへ運ばれ、そこからカスピ海を横断、カフカズ山脈を超えてトルコに入っている。西ヨーロッパに流入するヘロインの75%はこのルートを通っていると推測されていた。トルコの先はコソボ、アルバニアを通過するものが全体の約40%、残りは黒海を横断してウクライナへ入り、枝分かれする。西側の支援を受けていたKLA(コソボ解放軍)がヘロインの密輸で資金を調達してきたことは公然の秘密だ。 今もアフガニスタンはケシの最大産地で、ケシ畑をアメリカ軍の兵士がパトロールしている光景が撮影されていること、あるいは麻薬取引の伴う資金が西側の巨大金融機関を支えていることは本ブログでも紹介した。アメリカ政府を操っている金融資本は麻薬なしに存続できない状況で、「麻薬との戦争」を本気で行えるはずはない。シリアでアメリカ主導の連合軍がダーイッシュを実際には攻撃してこなかったことにも似ている。アヘン戦争以来、米英支配層を支えるシステムに変化がない。支配者たちがアメリカ軍をアフガニスタンへ居座らせる理由は石油と麻薬にあると言えそうだ。
2016.02.18
トルコとサウジアラビアがシリアへ地上軍を侵攻させる動きを見せ、西側のメディアはシリア政府軍やロシア軍を悪魔化するキャンペーンを強化している。アレッポをロシア軍の支援を受けたシリア政府軍が制圧しようとしていることと無縁ではない。この要衝を奪還されると、トルコからシリアへ延びているアル・カイダ系戦闘集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)への兵站線、あるいはシリアやイラクで彼らが盗掘した石油をトルコへ運び込むルートが断ち切られてしまい、侵略勢力にとって大きな痛手になる。兵站線や盗掘石油の輸送ルートを守りたいのだろう。 トルコやサウジアラビアだけでなくアメリカ政府からも好戦的な発言が聞こえてくる。例えば、1月22日にアシュトン・カーター国防長官は陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、翌23日にはジョー・バイデン米副大統領が訪問先のトルコでアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると口にしている。例によってメディアもシリア政府軍やロシア軍を悪魔化するプロパガンダを強化している。 これまでアメリカ、サウジアラビア、トルコを含む国々はリビアのケースと同様、ワッハーブ派/サラフ主義者を中心とする武装集団、つまりアル・カイダ系のアル・ヌスラやそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)をシリア侵略に使ってきた。その戦闘部隊や司令部、兵器/武器や食糧などを運び込んでいた兵站線、またシリアやイラクで盗掘した石油をトルコへ運んでいた燃料輸送車がロシア軍の空爆で破壊され、シリアのバシャール・アル・アサド政権を倒すという計画が崩れ去ろうとしているため、侵略を目論む国々は動揺しているのだ。 アメリカはシリアの「穏健派」を支援している、ダーイッシュを攻撃している、シリア政府軍やロシア軍は住民を攻撃している、といった情報を西側のメディアは伝えているようだが、彼ら自身、そんなことを信じていなるとは思えない。これまでにも自分たちの発信する情報が嘘だと言うことを指摘され、「赤っ恥」をかいてきた。それでも姿勢を変えないのは確信犯だということだ。 西側メディアの宣伝を否定する情報はアメリカ支配層の内部からも聞こえてくる。例えば、2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAはシリアの反政府軍に関する報告書を提出、その中で反シリア政府軍の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラと実態は同じだとしている)であり、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けていると報告、アメリカ政府が方針を変えなければ、その勢力はシリア東部にサラフ主義の支配地を作りあげると見通していた。実際、その通りになっている。それはアメリカ政府がそうした展開を臨んでいたからにほかならない。報告書が作成された当時にDIA局長だったマイケル・フリン中将はアル・ジャジーラに対し、ISの勢力が拡大したのはオバマ政権が行った決断によるとしている。 また、2014年10月2日にジョー・バイデン米副大統領はハーバード大学でシリア情勢について語った際、シリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。この問題を作り出したのは中東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ」と述べ、あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してしまい、いたずらにISを増強させてしまったことをトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は後悔していたとも語った。エルドアンが反省しているはずはなく、アメリカ自身とイスラエルが抜けているものの、ほかの事実は間違っていない。 2015年2月には、1997年から2000年にかけて欧州連合軍最高司令官を務めたウェズリー・クラークがCNNの番組でアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたとも語っている。 このクラークは2007年10月、ネオコン/シオニストの軍事侵略計画を明らかにしている。1991年に国防次官だったポール・ウォルフォウィッツは、イラク、シリア、イランを5年以内に殲滅すると語り、また2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されて間もなく、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺ではイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランを攻撃する計画を立てていたとも口にしている。 2007年3月5日付ニューヨーカー誌にシーモア・ハーシュが書いた記事によると、アメリカはサウジアラビアやイスラエルと共同でシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始していた。その手先がワッハーブ派/サラフ主義者だ。 アメリカが主導する連合軍がダーイッシュを攻撃するという話が嘘だということはアメリカをはじめとする西側の政府は熟知、当然のことながら有力メディアも知っている。こうしたメディアの嘘をローマ教皇庁系のメディアは2012年6月の時点で指摘していた。「もし全ての人が真実を語ったなら、シリアの平和は維持することができただろう。1年間にわたる戦闘の後、地上の現実は西側メディアの中に現れる意図的な誤報が描くイメージからかけ離れている。」と東方典礼カトリックの修道院長はダマスカス、アレッポ、ホムスなどを視察した結果をフィデス通信へ報告している。また、現地で宗教活動を続けてきたキリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムも外国からの干渉が事態を悪化させていると批判している。 つまり、遅くとも2012年の時点でシリアでの戦闘はアメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルなどによる侵略の結果だということは西側のメディアもわかっていたはずだ。そう伝えなかったのは「意図的な誤報」で人びとを戦争へと導くためだとしか考えられない。「リベラル派」や「革新勢力」を自称している人びともメディアと同じようなことを主張していたが、そうした人びとも事実を知ることはできたはずだ。そして今、西側ではまたもやシリア政府やロシアを悪魔化し、自分たちの侵略戦争を正当化しようとしている。大規模な戦争の勃発する可能性が高まっている。
2016.02.18
かつてスポーツ界でスターと言われた人物が覚醒剤を所持、使用していたとして逮捕されたという。麻薬類の使用は勿論良くないが、ある種の世界では蔓延しているようだ。使用していることが知られていても摘発されない人たちがいるともいう。今回のケースも、なぜ今なのかは考えてみる必要がある。 日本では覚醒剤が蔓延しているようだが、世界を見渡すとケシ系のヘロイン、コカ系のコカイン、合成麻薬のLSDやMDMAが広く使われ、こうした麻薬に溺れたスターも少なくない。1960年代、麻薬を持て囃す風潮もあったが、ベトナム戦争との関係を指摘する人もいる。若者たちからすれば悲惨な現実からの逃避だが、支配層は別の思惑があったと見られている。麻薬を使うと思考力や記憶力が低下し、支配者に抵抗する意思が弱まる傾向があるらしいのだ。コンピュータ・ゲームの類いにもそうした効果があるかもしれない。 例えば、1950年代に登場、黒人音楽を白人の若者へ広めたエルビス・プレスリーは徴兵で入隊、1958年から60年にかけて西ドイツで過ごしているが、退役後は麻薬漬け。ジョン・レノンに言わせると、退役後のプレスリーは生きる屍だった。その当時、CIAは秘密裏に心理操作プロジェクトMKULTRAを進めていたのだが、西ドイツは拠点のひとつ。このプロジェクトでは幻覚剤のLSDが使われていた。 1970年代にアメリカ議会ではCIAの秘密工作が問題になる。フランク・チャーチ上院議員を委員長とする議会の委員会で1975年にMKULTRAの問題が浮上、プレスリーも証言を求められる可能性があったのだが、77年にバスルームで急死してしまった。 ローリング・ストーンズも麻薬を使っていたことで知られ、日本への入国が拒否されていた時期がある。1967年から69年にかけて警察は頻繁にローリング・ストーンズのメンバーを家宅捜索しているが、そうした際、警官が麻薬を持ち込み、それを「発見」するという形で逮捕したことが明らかになっている。 このバンドのメンバーが始めてLSDを使ったのは1967年2月にキース・リチャードが開いたパーティでのことだとされている。その際、LSDを持ち込んだデイビッド・シュナイダーマンがイギリスの情報機関やFBIの仕事をしていたことは後に判明する。 このバンドが情報機関や治安機関から狙われた大きな理由はミック・ジャガーやブライアン・ジョーンズが戦争に反対する意思を明確に示していたからだ。1968年にミック・ジャガーはベトナム戦争反対のデモに参加している。後に当局が最も警戒するようになったメンバーはブライアン・ジョーンズ。彼は同じように平和を訴えいてたジョン・レノンやジミー・ヘンドリックスにグループ結成を持ちかけていたという。 ブライアンは1969年7月3日にプールで死亡した。ギネス・ビールの一族で、彼の親友だったニコラス・フィッツジェラルドによると、プールの中にいる誰かの頭が押さえつけられ、別の人物が頭を押さえつけられた人物の背中に飛び乗っていたという。その飛び乗った人物は別の男に水の中へ沈めるのを助けるように命じ、その様子を男と女が見ていたという。頭を押さえつけられていたのはジョーンズだった。 フィッツジェラルドは友人とある人物を自動車で迎えに行っていたのだが、相手を見つけられずに戻ったところだった。そうした光景を目撃した直後、藪の中から見知らぬ男が現れ、「ここから立ち去れ、フィッツジェラルド、さもないと次はおまえだぞ。」と言われたという。フィッツジェラルドによると、一緒に目撃した友人は行方不明になったという。 ジミー・ヘンドリックスが「反体制派」と呼ばれる人びとに接近する切っ掛けは1968年4月4日のマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺。その後、ブラックパンサーなどを支援するようになり、FBIからの監視が強化されることになった。 このロック・スターも麻薬との関係が有名だが、彼を麻薬漬けにしたのはマネージャーだったマイク・ジェフリー。この人物は「元MI6(イギリスの対外情報機関)」で、CIAとも緊密な関係にあった。ジミーはジェフリーを解雇しようとしていたが、そうした最中にマフィアがジミーを誘拐するという事件が起こった。この事件はジェフリーが彼のマフィア人脈を使って救出したことになっている。 しかし、それでもジミーは1971年9月16日にジェフリーを解雇するのだが、その翌日にジミーはロンドンのアパートで昏睡状態になっているところを恋人に発見された。すぐに救急車で病院へ運ばれ、病院へ到着したのは午前11時45分、死亡が発表されたのは12時45分。ロンドン警視庁は診断したジョン・バニスター医師の証言として、ジミーは病院へ到着した段階で死亡していたと主張しているが、救急隊はそれを否定している。彼女によると、発見時にジミーはまだ生きていた。 ブライアン・ジョーンズが新しいバンドのメンバーとして考えていたひとり、ジョン・レノンは1980年12月8日、ニューヨークで射殺された。レノンが反戦平和を訴えていたことは有名だが、その彼は1968年にマリファナの不法所持で逮捕されている。実は、この時、事前に警告を受けていたので友人たちと家中を調べ、麻薬類が何もないことを確認していた。この時も家宅捜索に入った警官が薬物を持ち込み、それを理由に摘発している。 1975年から80年にかけてレノンは育児を理由にして活動を休止するが、80年10月にシングル曲「スターティング・オーバー」を発表して表舞台に復帰する。それと同時に政治活動も再開しようとしていた。殺されなければ、人種による賃金差別に抗議する日系アメリカ人のストライキに参加、集会で歌っていたはずだ。 1979年12月にNATO理事会は83年にパーシング2ミサイルを配備することを決定、核戦争を懸念する声が世界的に高まり、反戦/反核運動が盛り上がった。そうした動きにレノンが参加する可能性は高かった。本ブログでは何度も書いたことだが、1980年代にはアメリカ憲法の機能を停止させるCOGプロジェクトが始まる。好戦派にとってレノンが目障りだったことは間違いない。 ジョン・レノンも不可解な形で麻薬の洗礼を受けている。1965年2月、ジョージ・ハリソンの歯医者がハリソンとレノンを自宅に招待、ハリソンの恋人とレノンの妻と一緒に食事をしたのだが、その際、歯医者のジョン・ライリーは4人に内緒でコーヒーへLSDを入れて飲ませたのだ。その時、ハリソンはLSD自体のことを知らなかったという。身の危険を感じたのか、4人は歯医者の引き留めを振り切って帰宅している。なぜ歯医者が自分のキャリアを犠牲にしてそのようなことをしたのか、疑問に感じる人は多いだろう。 このほかにも変死したスターは少なくないが、中でも奇怪なのは1994年4月8日に死亡したニルバーナのカート・コバーン。ショットガンで自殺したことになっているのだが、致死量の70倍以上のモルヒネが検出されている。即死していたはずで、ショットガンの引き金を引くことはできなかっただろう。 殺人をうかがわせる証言もあるのだが、警察は上層部の命令で捜査していない。そうした命令を無視してアントニオ・テリーという捜査官が個人的に調べはじめるが、1カ月ほど後に射殺された。ちなみに、コバーンを含むニルバーナのメンバーはWTO(世界貿易機関)を強く批判、つまり新自由主義に反対していた。 麻薬の歴史は米英の支配層と深く結びついている。19世紀にイギリスは深刻な貿易赤字に苦しんでいたのだが、その解決策としてイギリスの支配層が目をつけた商品がケシ系の麻薬であるアヘン。それを中国(清)へ売りつけるために始めたのがアヘン戦争やアロー戦争。現在、イギリスやアメリカに君臨している富豪の少なからぬ人たちはアヘン貿易で富を築いている。 麻薬取引で大儲けした富豪の中にはラッセル家やキャボット家も含まれているが、ラッセル家はエール大学でスカル・アンド・ボーンズを、またキャボット家はハーバード大学でポーセリアン・クラブを組織し、政治、官僚、経済、情報などの分野にネットワークを張り巡らす拠点にした。 その後、ベトナム戦争では黄金の三角地帯で栽培されたケシで製造したヘロイン、ニカラグアの革命政権を倒す秘密工作ではコカイン、アフガン戦争ではヘロインがCIAの資金源になっている可能性が高い。LSDは不安定な物質で、街のチンピラが扱える麻薬ではない。MDMAはアパルトヘイト時代の南アフリカで大量に製造されていたが、最近はオランダが拠点になっているようで、流通量の約7割はイスラエル人が押さえているとも言われている。タリバン政権が倒されて以降、アフガニスタンのケシ畑の周辺をアメリカ兵がパトロールしている光景が撮影されている。 麻薬は秘密工作の活動資金を調達するためにCIAが取り引きしているだけでなく、巨大金融システムを支えているという側面もある。CIAはウォール街が作りあげた機関だということを考えれば当然かもしれない。 例えば、ワチョビアという銀行は麻薬資金をロンダリングしていたことが発覚している。2006年にメキシコの国際空港で航空機の中からコカインが発見されたのだが、その際に発見された書類を元にした2年近くに及ぶ捜査の結果、ワチョビアのロンダリングが明らかになったのである。その前にワチョビアではロンダリングに関する内部告発があったのだが、経営者は無視していた。その後、ウェルズ・ファーゴがワチョビアを吸収している。 このほかの巨大金融機関も麻薬資金を扱っていると言われているが、UNODC(国連薬物犯罪事務所)によると、金融スキャンダルの最中、2008年に麻薬取引による利益、3520億ドルの大半が経済システムの中に吸い込まれ、いくつかの銀行を倒産から救った疑いがあるという。麻薬取引による利益は年間6000億ドル、金融機関でロンダリングされている資金の総額は1兆5000億ドルに達するとされている。
2016.02.16
トルコ軍機がロシア軍機を撃墜した後、シリア北部の制空権をロシア軍が握り、侵略勢力は追い詰められている。そうした中、サウジアラビアとトルコはシリアを軍事侵攻する姿勢を見せ、NATOは艦隊を地中海の東部に増派した。 サウジアラビアとトルコはダーイッシュと戦うためにシリアへ軍事侵攻するとしているが、説得力はない。ダーイッシュはアル・カイダ系武装集団から派生したわけだが、本ブログでは何度も書いているように、そうした武装集団とNATOとの同盟関係はリビアで露呈している。 ダーイッシュもアル・カイダ系武装勢力と同じようにワッハーブ派/サラフ主義者が中心で、体制転覆のために雇われた傭兵集団。つまり、タグが変えられただけで実態は基本的に同じだ。西側の政府やメディアはこの侵略軍を「人民軍」であるかのように宣伝していた。 シリアの場合、そうしたプロパガンダに使われてきたのがロンドンを拠点としている「SOHR(シリア人権監視所)」。当初はシリア系イギリス人のダニー・デイエムなる人物も盛んに西側メディアは取り上げていたが、2012年3月1日にダニーや彼の仲間が「シリア軍の攻撃」を演出する様子が流出、彼の情報がインチキだということが判明してしまう。 それでも西側メディアは反省しない。そして2013年3月、アレッポでアル・カイダ系武装集団が化学兵器を使ったとシリア政府は非難、調査を要求する。これもシリア政府軍が行ったという話が流されたが、イスラエルのハーレツ紙は状況から反政府軍が使ったと分析、国連独立調査委員会メンバーのカーラ・デル・ポンテも反政府軍が化学兵器を使用した疑いは濃厚だと発言している。 2013年8月21日には再び化学兵器が問題になる。ダマスカス郊外が化学兵器で攻撃され、西側の政府やメディアはシリア政府軍が使ったと宣伝、NATOを軍事介入させようとするのだが、現地を独自に調査したキリスト教の聖職者マザー・アグネス・マリアムはいくつかの疑問を明らかにしている。 例えば、攻撃が深夜、つまり午前1時15分から3時頃(現地時間)にあったとされているにもかかわらず犠牲者がパジャマを着ていないのはなぜか、家で寝ていたなら誰かを特定することは容易なはずだが、明確になっていないのはなぜか、家族で寝ていたなら子どもだけが並べられているのは不自然ではないのか、親、特に母親はどこにいるのか、子どもたちの並べ方が不自然ではないか、同じ「遺体」が使い回されているのはなぜか、遺体をどこに埋葬したのか・・・・・また、国連のシリア化学兵器問題真相調査団で団長を務めたアケ・セルストロームは治療状況の調査から被害者数に疑問を持ったと語っている。(PDF) 攻撃の直後、ロシアのビタリー・チュルキン国連大使はアメリカ側の主張を否定する情報を国連で示して報告書も提出、その中で反シリア政府軍が支配しているドーマから2発のミサイルが発射され、ゴータに着弾していることを示す文書や衛星写真が示されたとジャーナリストがフェースブックに書き込んでいる。 そのほか、化学兵器とサウジアラビアを結びつける記事も書かれ、10月に入ると「ロシア外交筋」からの情報として、ゴータで化学兵器を使ったのはサウジアラビアがヨルダン経由で送り込んだ秘密工作チームだという話が流れた。 12月になると、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュもこの問題に関する記事を発表、反政府軍はサリンの製造能力を持ち、実際に使った可能性があるとしている。国連の元兵器査察官のリチャード・ロイドとマサチューセッツ工科大学のセオドール・ポストル教授も化学兵器をシリア政府軍が発射したとするアメリカ政府の主張を否定する報告書を公表している。ミサイルの性能を考えると、科学的に成り立たないという。 昨年12月にはトルコの国会議員エレン・エルデムらは捜査記録などに基づき、トルコ政府の化家具兵器使用に関する責任を追及している。化学兵器の材料になる物質はトルコからシリアへ運び込まれ、そこでIS(ISIS、ISIL、ダーイシュなどとも表記)が調合して使ったというのだ。この事実を公表した後、エルデム議員らは起訴の脅しをかけられている。 化学兵器の攻撃があって間もなく、NATOがシリアを攻撃すると噂され始める。そして9月3日、地中海からシリアへ向かって2発のミサイルが発射されるのだが、途中で海へ落下してしまった。イスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射実験だと発表しているが、ジャミングなどで落とされたのではないかと推測する人もいる。 1991年にソ連が消滅した直後、ネオコンなどはアメリカが「唯一の超大国」になり、アメリカに楯突ける国は存在しなくなったと信じた。それを前提に、潜在的なライバル、つまり旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなどがライバルに成長することを防ぎ、膨大な資源を抱える西南アジアを支配しようと考える。それが1992年に国防総省で作成されたDPGの草稿、いわゆる「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」である。 ウラジミル・プーチンがロシアを再独立させることに成功してからもネオコンはロシアの能力を過小評価、経済力を強めていた中国も支配層の子どもをアメリカへ留学させて「洗脳」していると安心していたようだ。2006年にフォーリン・アフェアーズ誌に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文「未来のための変革と再編」にはロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張されていた。その過信を2013年9月のミサイル墜落は揺るがしただろう。 2014年4月10日に黒海でもアメリカ軍を震撼させる出来事があったと言われている。ロシアを威嚇するため、アメリカ軍はイージス艦のドナルド・クックをロシアの領海近くを航行させたのだが、その際、ロシア軍のSu-24はジャミングで米艦のイージス・システムを機能不全にしたと言われている。その直後にドナルド・クックはルーマニアへ緊急寄港、それ以降はロシアの領海にアメリカ軍は近づかなくなった。 昨年、ロシア軍がシリアで空爆を始めた直後、ロシア軍はカスピ海の艦船から巡航ミサイルを発射、正確にシリアのターゲットへ命中させている。アメリカ軍はこうしたミサイルをロシアは持っていないと信じていたようで、ショックを受けたと言われている。サウジアラビアやトルコがシリアへ軍事侵攻したなら、相当数の巡航ミサイルが発射されるだろうが、それ以上に注目されているのが弾道ミサイルのイスカンダル。 このミサイルの射程距離は280から400キロメートルで、毎秒2100メートルから2600メートル、つまりマッハ6から7で飛行する。西側の防空システムは対応できないと考えられ、ロシアがその気になればトルコにある基地はこのミサイルで全て破壊されると推測する人もいる。NATOが軍事介入すれば、ヨーロッパも攻撃される。状況によってはアメリカや日本も戦場になる。ネオコン、サウジアラビア、トルコの動きは世界をそうした方向へ向かわせるものだ。
2016.02.15
昨年9月30日にロシア軍がアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)に対する空爆をはじめ、トルコからシリアへ延びていた兵站線やシリアやイラクからトルコへ盗掘石油を運んでいた燃料輸送車が攻撃されるとネオコン/シオニスト、サウジアラビア、トルコなど侵略勢力は狼狽し始める。そして11月24日、トルコ軍のF-16戦闘機がロシア軍のSu-24爆撃機を待ち伏せ攻撃で撃墜した。 トルコはNATO加盟国。NATOとの軍事衝突を嫌ってロシアはトルコの国境近くから撤退すると考えたのではないかとも推測されているが、実際は違った。ミサイル巡洋艦のモスクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空システムであるS-400を配備し戦闘機を増派してシリア北部の制空権を握ってしまったのだ。アメリカが侵略軍に大量供与していた対戦車ミサイルTOWに対抗できるロシア製のT-90戦車も増やしたことも大きいようだ。 内部告発支援グループのWikiLeaksによると、10月10日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はロシア軍機の撃墜を決めた。当然、この決定にはアメリカの好戦派が関係しているだろう。撃墜を決める直前の10月7日から8日までエルドアンは日本に滞在、11月24日から25日にかけてポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラを訪問、トルコ軍幹部と会談している。 トルコ政府は「国籍不明機」を撃墜したと主張したが、ロシア軍は軍事衝突を避けるため、事前に攻撃計画をアメリカ側に通告していたうえ、アメリカは偵察衛星で監視しているはず。しかもその当時、ギリシャを拠点とするアメリカ/NATOのAWACS(早期警戒管制)機、そしてサウジアラビアもAWACS機も飛行していた。トルコとシリアの国境付近で何が起こっているかも監視していたはずだ。トルコ軍機を指揮管制していた可能性もある。 トルコ政府の主張では、国境線から2.19キロメートルの地点までロシア軍機は侵入し、1.88キロメートルの距離を17秒にわたって飛行した。Su-24は時速398キロメートルで飛行していたことになる。この爆撃機の高空における最高速度は時速1654キロメートルで、トルコ説に基づく飛行速度はあまりにも遅く、非現実的だ。 ロシア側の説明(アメリカやトルコから否定されていない)によると、トルコ軍のF-16は午前8時40分に離陸、9時08分から10時29分まで高度4200メートルで飛行して午前11時に基地へ戻っているのに対し、ロシア軍のSu-24が離陸したのは1時間後の午前9時40分。午前9時51分から10時11分まで高度5650メートルで飛行、16分に目標を空爆、24分に撃墜されている。領空侵犯に対するスクランブルではなかった。 WikiLeaksの情報がなくてもトルコ軍が計画的にロシア軍機を撃墜したことは明らか。当然、アメリカの政府や軍の上層部も承認していたはずであり、ロシア側もそう判断しただろう。ロシア軍が報復攻撃しても不思議ではなかったが、ロシア側は直接的な反撃ではなく、最新兵器の配備で侵略勢力を窮地に追い込んだわけである。
2016.02.15
イランやロシアの支援を受けたシリア政府軍の勝利が見え始めたことに伴い、侵略戦争を仕組んだ勢力の中でもネオコン/シオニスト、サウジアラビア、そしてトルコが狼狽状態で、シリアへ自分たちが軍事侵攻する姿勢を見せている。とりあえず、新たな戦闘員をシリアへ送り込むための援護射撃としてトルコから砲撃しているが、それだけでなく、自分たちが直接シリアへ侵攻すると臭わせ、シリア、ロシア、イランなどだけでなくアメリカやEUを脅しているつもりなのだろう。トルコにはNATOの核爆弾B61が80発ほど配備されていると言われ、開戦になれば核兵器が使われる可能性が高い。中性子爆弾の使用も十分にありえる。世界はそうした危機的状況にあるのだが、日本では多くの人が無頓着なようだ。 サウジアラビアが軍用機や人員をトルコのインシルリク空軍基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできるとトルコ外相は語り、シリアへ派遣できる15万人の部隊がサウジアラビアには待機しているとも報道されている。この部隊はサウジアラビアのほか、スーダン、エジプト、ヨルダンの軍隊で構成、さらにモロッコ、トルコ、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタールの軍隊も派遣される予定で、マレーシア、インドネシア、ブルネイからは傭兵が送られるという。アメリカのアシュトン・カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言した。 その一方、ロシア国防省はトルコ軍がシリアへの軍事侵攻を準備している疑いがあると指摘していた。そこでロシアは取り決めに従って監視飛行をさせるように求めたところ、トルコ側は拒否している。 ネオコン、サウジアラビア、トルコは軍事作戦を正当化する口実としてダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)と戦うためだとしているが、彼らが慌ただしく戦闘の準備を始めたのはダーイッシュやアル・カイダ系武装集団の敗北が見えてきてから。侵略軍側のメディアや「人民は勝利する」というタイプの信仰にどっぷり浸かっている人びとはロシア軍の空爆による効果を見て見ぬ振りだが、これは事実である。 こうした軍事的な緊張に歩調を合わせ、NATOは艦隊SNMG2をシリア沖へ増派している。難民対策だというが、そうした仕事に向いた艦船ではない。その中にはドイツの燃料補給艦「ボン」、トルコのフリゲート艦「バルバロス」、カナダのフリゲート艦「フレデリクトン」が含まれ、トルコ機動グループのコルベット艦「ボドラム」、潜水艦「アティレイ」、そして哨戒艇2隻と合流している。それに対し、ロシア軍はコルベット艦「ゼレニー・ドル」と掃海艇を黒海から地中海へ移動させた。 すでに地中海の東部はアメリカを中心とする艦隊とロシアの艦隊が対峙している。こうした状況が作られたのは2013年。2011年10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制をアメリカ/NATO、ペルシャ湾岸産油国、イスラエルはアル・カイダ系のLIFGを利用して破壊したが、同じようにシリアのバシャール・アル・アサド体制を倒そうとした。まず「飛行禁止空域の設定」という形で制空権を握り、NATOとアル・カイダ系武装集団でアサドを排除して傀儡政権を樹立しようとしたわけである。
2016.02.15
2011年3月以来、シリアのバシャール・アル・アサド体制を倒そうとしているアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)は外国勢力の傭兵だということは本ブログで何度も指摘してきた。アメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエルが編成、軍事訓練、武器や兵器を含む兵站を供給、盗掘石油を売りさばいてきた。 この武装勢力についてアメリカ軍の内部に批判的な見方をする人たちがいた。例えばマイケル・フリン中将が局長だった2012年8月、DIA(国防情報局)はシリア政府軍と戦っているのはサラフ主義者(ワッハーブ派)、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQIで、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとし、シリア東部にサラフ主義の支配地ができると警告していた。 アメリカを含む西側の政府やメディアはアサド政権を倒すために「穏健派」を支援しているかのように宣伝してきたが、そうした集団は事実上、存在しないと指摘していたわけである。つまり、「穏健派」への支援とはアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュへの支援にほかならないということであり、バラク・オバマ政権はそれを承知でそうした政策を続けてきたということである。フリン中将もダーイッシュの勢力が拡大したのはオバマ政権の決定によるとしている。 アル・カイダ系武装勢力が体制転覆プロジェクトの傭兵として機能していることはリビアのムアンマル・アル・カダフィ体制が倒されたとき、明確になった。それから間もなくして新たなタグとしてダーイッシュが登場したわけだ。 2014年10月2日、ジョー・バイデン米副大統領はハーバード大学で、シリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。この問題を作り出したのは中東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ」と述べ、あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してしまい、いたずらにダーイッシュを増強させてしまったことをトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は後悔していたとも語っている。 日論、エルドアンが後悔しているはずはないが、トルコ、サウジアラビア、UAEに責任があるとする指摘に間違いはない。ただ、抜けている事実がある。例えば、2015年10月にイスラエル軍のユシ・オウレン・シャハク大佐がダーイッシュと行動を共にしているところをイラク軍に拘束されている。また、シリアでは、反政府軍の幹部と会っていたイスラエルの准将が殺されたという。負傷した反シリア政府軍/ダーイッシュの兵士をイスラエルは救出、病院へ運んだうえで治療しているとも伝えられている。 イスラエルもダーイッシュと深く関係しているのだが、この事実をイスラエルは隠していない。2013年9月、駐米イスラエル大使だったマイケル・オーレンはシリアのアサド体制よりアル・カイダの方がましだと語っているのだ。オーレンはベンヤミン・ネタニヤフ首相の側近であり、ネタニヤフ政権の考え方だと言えるだろう。 そして勿論、最も関係が深いのはアメリカ。何度も書いているように、1970年代にズビグネフ・ブレジンスキーがソ連軍と戦わせる戦闘集団として編成、訓練、支援したサラフ主義者を中心とする武装集団が出発点だ。 アメリカはダーイッシュと戦うためと称して連合軍を編成、軍事侵略を始めつつあったが、茶番にすぎないことは明白。2014年9月23日にアメリカ主導の部隊が攻撃を始めるが、その様子を取材したCNNのアーワ・デイモンは翌朝、最初の攻撃で破壊されたビルはその15から20日前から蛻の殻だったと伝えている。 昨年12月28日にイラク政府はラマディの奪還を宣言したが、攻撃の数日前には存在していた約2000名の戦闘員が制圧したときには消えていた。市内には死体がいくつかあるだけで、やはり蛻の殻だった。アンバール県ではラマディやファルージャへの攻撃をアメリカ軍は遅らせ、ダーイッシュの幹部をヘリコプターで救出したと疑う人もいる。 アル・カイダ系武装集団やダーイッシュを手先として使ってきたのはCIAや特殊部隊だと見られている。2001年9月11日以降、正規軍の上層部もネオコン/シオニストや戦争ビジネスに近い人物に入れ替えられてきたが、完全に粛清されたわけではない。 粛清されずに残った軍人のひとりがマーチン・デンプシー陸軍大将で、2011年10月から15年9月まで統合参謀本部の議長を務めた。フリン中将がDIA局長だったのもこの時期だ。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、アル・カイダ系武装勢力やダーイッシュの勢力拡大を懸念した軍の幹部はホワイトハウスの許可を得ず、2013年秋からそうした武装集団に関する情報をシリア政府へ伝え始めたという。 そのデンプシーが昨年9月に議長を辞め、好戦派のジョセフ・ダンフォードが後任に決まる。この月の終わりにロシア軍が空爆を始めたことは興味深い。この議長交代でロシア側はアメリカに見切りをつけた可能性がある。 ロシア軍は本当にアル・カイダ系武装集団やダーイッシュを攻撃、戦況は一変してネオコン、トルコ、サウジアラビア、イスラエルなどは動揺する。内部告発を支援しているWikiLeaksによると、10月10日にトルコのエルドアン大統領はロシア軍機の撃墜を決め、11月24日にトルコ軍のF-16戦闘機がロシア軍のSu-24爆撃機を待ち伏せ攻撃で撃墜した。なお、11月24日から25日にかけてポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラを訪問、トルコ軍幹部と会談している。 ロシア軍機の撃墜を決める直前、10月7日から8日までエルドアン大統領は日本に滞在していた。「シリアの難民危機」はトルコ政府が演出、EUへの脅しに使っているが、この「危機」で日本はトルコを支援すると確約したらしい。日本でアメリカ側の誰かと接触していた可能性もあるだろう。11月13日にはトルコのイスタンブールで安倍晋三首相はエルドアン大統領と首脳会談、その11日後にロシア軍機を撃墜した。トルコで両首脳は日本とトルコが共同で制作した映画「海難1890」を見たらしい。 安倍首相と仲が良いらしいエルドアン大統領はオスマン帝国の再興を妄想する人物で、正気ではないと言われている。シリア北部の制空権はロシアが握っているわけで、論理的に考えればシリアへの軍事侵攻はありえないのだが、妄想に憑かれている彼ならやりかねないと警戒されている。前回も触れたが、トルコに保管されている核爆弾を使う気かもしれない。ちなみに、日本には中国と戦争しても自分たちは無傷で勝てると妄想している人がいるようだ。
2016.02.14
トルコ軍がシリア領への激しい攻撃を始めた。シリア北西部のアザズで活動しているクルド系の部隊につづき、アレッポやラタキアのシリア政府軍がそのターゲット。アル・カイダ系武装集団やダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)への支援にしか見えない。実際、トルコのアフメト・ダウトオール首相は「アレッポの兄弟」、つまりアル・ヌスラやダーイシュを助けるとしていた。 こうした動きにアメリカ政府が反対してきたとは言えない。例えば、アメリカのアシュトン・カーター国防長官は1月22日、米陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、その翌日にはジョー・バイデン米副大統領がアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると発言していた。また、サウジアラビア国防省の広報担当は、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明、カーター国防長官はそれを歓迎すると発言している。 それだけでなく、アメリカの「関東軍」とも言うべきNATO軍はポーランドやバルト諸国へも部隊を展開しようとしている。1990年10月に東西ドイツが統一されるが、その交渉の中で、統一後にNATOを東へ拡大させないとジェームズ・ベイカー米国務長官はソ連のエドゥアルド・シュワルナゼ外務大臣に約束したことが記録に残っている。この約束をミハイル・ゴルバチョフは信じたのだが、約束は守られていない。シュワルナゼが外交の素人だったということもあるが、やはりアメリカ支配層が約束を守ると思ったゴルバチョフが愚かだったと言うべきだろう。 1991年7月にゴルバチョフはロンドンで開かれたG7の首脳会談に出席、新自由主義的な経済政策を強要された。いわゆる「ピノチェト・オプション」で、巨大資本やその背後にいる富豪たちをさらに儲けさせる内容で、庶民を貧困化させることも明白だった。 そこでゴルバチョフが難色を示すと、西側支配層はボリス・エリツィンに切り替える。その会議とほぼ同時にロシアの大統領に就任した人物で、その年の12月にウクライナのレオニード・クラフチュクやベラルーシのスタニスラフ・シュシケビッチとベロベーシの森で秘密会議を開き、ソ連からの離脱を決めてソ連を消滅へと導いた。 ソ連を消滅させ、アメリカは「唯一の超大国」になったと考えたネオコン/シオニストはすぐ、国防総省の内部でDPGの草稿という形で世界制覇プラン(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)を書き上げる。旧ソ連圏は勿論、西ヨーロッパ、東アジアなどの潜在的なライバルを潰し、膨大な資源を抱える西南アジアを支配しようという計画だ。 DPGが作成される少し前、国防次官だったポール・ウォルフォウィッツはイラク、イラン、シリアを5年以内に殲滅すると口にしたが、1992年の大統領選挙でブッシュ・シニアは再選されず、ビル・クリントンが選ばれた。クリントン政権に対するネオコンの影響力は前政権ほど強くなく、予定通りに軍事侵略できなかった。そこで外部から働きかけると同時に、クリントン大統領をスキャンダル攻勢で追い詰めた。 軍事関係で大きな節目になったのは国務長官の交代。1997年1月、戦争に消極的だったウォーレン・クリストファーが退任し、好戦的で嫌露派のマデリーン・オルブライトが新長官になったのだ。 1998年にオルブライト長官はユーゴスラビア空爆の支持を表明し、1999年にNATO軍はユーゴスラビアに対する全面攻撃を開始、スロボダン・ミロシェビッチの自宅だけでなく、中国大使館も爆撃されている。 そうした攻撃を実行する下地を作ったのは有力メディアとPR会社。ユーゴスラビアを解体するためにセルビア人を悪魔化する宣伝が展開されたが、その仕事を請け負っていたのがルダー・フィン・グローバル・コミュニケーション。1991年にクロアチア政府がこの会社と契約、「人権擁護団体」も宣伝に協力した。こうした種類の宣伝が旧ソ連圏を部隊にして繰り広げられ、西側では「リベラル派」や「革新勢力」もそうした話を信じた、あるいは信じた振りをしていた。同じ構図はウクライナや中東/北アフリカでも見られる。 そうした宣伝のひとつがボスニアにおけるレイプ話。1992年8月にはボスニアで16歳の女性が3名のセルビア兵にレイプされたとニューズデーのロイ・ガットマンが報道したのだが、別のジャーナリストは現場とされた場所へ入って取材、事実でないことを確認している。ガットマンはボン支局長で現地を取材したわけでなく、クロアチアの宣伝機関の幹部から聞いた話を垂れ流しただけだった。 この「功績」でガットマンには1993年にピューリッツァー賞が送られ、嘘が確認されたあともシゲリは人権問題のヒロインとして扱われ、1996年にはヒューマン・ライツ・ウォッチは彼女を主役にした映画を発表した。なお、ICRC(赤十字国際委員会)によると、戦争では全ての勢力が『不適切な行為』を行っているが、セルビア人による組織的なレイプが行われた証拠はない。 ユーゴスラビアを先制攻撃すべきだと主張したオルブライトはコロンビア大学で嫌露派のズビグネフ・ブレジンスキーの教え子だった。オルブライトが親しくしていたひとりがブルッキングス研究所の研究員ロイス・ライス。その娘、スーザン・ライスはバラク・オバマ政権で国家安全保障問題担当の大統領補佐官になっている。 また、オルブライトの父親、ジョセフ・コーベルはチェコスロバキアの元外交官で、第2次世界大戦が終わって間もない1948年に国外へ脱出、アメリカのデンバー大学で教え始める。その時の教え子の中にコンドリーサ・ライスがいた。ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めた人物だ。ソ連を嫌ってアメリカへ亡命したいう似た背景をオルブライトとブレジンスキーは持っている。 その後、2000年に行われた疑惑の大統領選挙でジョージ・W・ブッシュが大統領に選ばれ、2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃され、アメリカは国内でファシズム化、国外で軍事侵攻が始まる。 ブッシュ・ジュニア政権はアフガニスタンとイラクを先制攻撃するが、その口実にした話は嘘だった。その戦争は軍事侵略であり、抵抗にあう。軍事占領を正当化するために活躍しているのがアル・カイダ系武装勢力だったが、現地ではそうした勢力とアメリカとの関係は隠しきれない。 そしてリビアでムアンマル・アル・カダフィ体制を転覆させた際、アル・カイダ系のLIFGがNATOと手を組んでいることが広く知られるようになってしまう。体制転覆後、反カダフィ勢力の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられ、その映像がYouTubeにアップロードされたほか、イギリスのデイリー・メイル紙も伝えていた。 リビアで戦ったアル・カイダ系の戦闘員は武器/兵器と一緒にトルコ経由でシリアへ入るが、その拠点になったのはベンガジにあったCIAの施設で、アメリカの国務省は黙認していた。その際、マークを消したNATOの輸送機が武器をリビアからトルコの基地まで運んだとも伝えられている。 ベンガジにはアメリカの領事館があるのだが、そこが2012年9月11日に襲撃され、クリストファー・スティーブンス大使も殺された。スティーブンスは戦闘が始まってから2カ月後の2011年4月に特使としてリビアへ入る。11月にリビアを離れるが、翌年の5月には大使として戻っていた。領事館が襲撃される前日、大使は武器輸送の責任者だったCIAの人間と会談、襲撃の当日には武器を輸送する海運会社の人間と会っていたという。 この襲撃があった2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAはシリアの反政府軍に関する報告書を提出している。反シリア政府軍の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQIであり、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとしている。その勢力はシリア東部にサラフ主義の支配地を作りあげると見通し、その通りになったのだが、それはアメリカ政府がそうした展開を臨んでいたからにほかならない。 その支配地を支えていたのがトルコからの兵站線であり、シリアやイラクで盗掘した石油の密輸だった。その兵站線と密輸ルートをロシア軍が空爆で打撃を与え、アル・カイダ系武装勢力やダーイッシュは敗走している。サウジアラビアやトルコはその勢力を助けるだけでなく、シリアのアサド体制を自分たちの手で倒そうとしているようで、その背後にはネオコンが控えている。 トルコ外相はサウジアラビアの軍用機や人員をトルコのインシルリク空軍基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできると語っているが、この基地は2011年3月に侵略戦争が始まった直後から侵略軍の拠点として機能してきた。アメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員が戦闘員を軍事訓練しているとも伝えられていた。この基地には戦闘機や爆撃機に搭載できる核爆弾B61が80発ほどあり、それをトルコやサウジアラビアが押さえ、使う可能性もあり、懸念されている。 核兵器を盗まれるということは十分にありえる。例えば、2007年の8月29日から30日にかけてアメリカでは核弾頭W80-1を搭載した6基の巡航ミサイルAGM-129が行方不明になるという事件が起こっているが、ミスとは考え難く、軍の幹部が介在した計画的な不正持ち出しだったとも言われている。イラン攻撃に使うつもりだったのではないかいう噂もある。この事件に関係のある複数の軍人が死亡しているのだが、そのひとりである空軍将校が関係していた団体はサウジアラビアとつながっていた。 2006年にフォーリン・アフェアーズ誌に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文「未来のための変革と再編」では、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張されていた。この御託宣をネオコン、サウジアラビア、トルコは信じている可能性があり、そうなると破滅的な結果が待っている。
2016.02.14
シリアのバシャール・アル・アサド体制を倒し、傀儡政権を樹立しようとしている外国勢力は現在、窮地に陥った。侵略の手先として利用してきた傭兵軍が敗走を始め、シリア政府軍がアレッポなど要衝を奪還しつつあるからだが、それにしてもネオコン/シオニストの狼狽ぶりが尋常でないと話題になっている。 そうした中、トルコ外相はサウジアラビアの軍用機や人員をトルコのインシルリク空軍基地へ派遣、シリアで地上戦を始めることもできると語った。この基地は本ブログでも繰り返し登場、2011年3月に外国勢力がアサド体制の打倒を目指して戦闘を始めた直後から侵略勢力の拠点だ。アメリカのCIAや特殊部隊、イギリスやフランスの特殊部隊から派遣された教官が戦闘員を訓練、シリアへ送り出している。トルコは訓練だけでなく武器/兵器を含む物資を供給する兵站線の出発点であり、イラクやシリアで盗掘された石油が運び込まれる場所でもある。現在、トルコとサウジアラビアはトルコ領内にあるNATOの核兵器を押さえ、ロシアとシリアに対して使う計画があるとも言われている。 また、侵略軍を指揮している人物は反シリア国から相当量の地対地ミサイルを供給されたと話しているようだ。射程距離は20キロメートルだという。アル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)はアメリカから大量の対戦車ミサイルTOWを入手しているようだが、これはロシア製のT-90戦車が投入されたことで戦闘への影響力は大きく低下、それに替わる兵器を反シリア国は提供したということなのだろう。 すでにトルコ側からシリア領内への砲撃が行われているが、ロシア軍によると、それだけでなく、政府軍がほぼ奪還しらアレッポに対し、トルコから飛来したアメリカ軍のA-10爆撃機が空爆、ロシア軍による攻撃だと宣伝したという。例によってロシア軍は詳しい説明を行っている。 現在の反シリア国はアメリカやトルコのNATO加盟国、サウジアラビアやカタールなどのペルシャ湾岸産油国、そしてイスラエル。ここにきてパニック状態になっているのはアメリカのネオコン、トルコ、サウジアラビア。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は「オスマン帝国の再興」を目指しているらしいが、サウジアラビアから資金の提供を受け、手先としても動いているようだ。 昨年9月30日にロシア軍が空爆をはじめて戦況が侵略軍側に不利な展開になると、エルドアン大統領は10月10日にロシア軍機の撃墜を決断、11月24日にトルコ軍のF-16戦闘機がロシア軍のSu-24爆撃機を撃墜した。アメリカ政府の承認を得ての待ち伏せ攻撃だったと見られている。撃墜当日と翌日、ポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラでトルコ軍幹部と会談している。 NATO加盟国であるトルコがロシア軍機を撃墜してもロシア軍はNATOとの戦争を避けるために反撃できず、国境近くから撤退すると考えていたのだろうと見られているが、その目論見は外れた。ロシアはミサイル巡洋艦のモスクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空システムS-400を配備し、戦闘機を「護衛」のために派遣してシリア北部の制空権を握ってしまったのだ。アメリカが供給している対戦車ミサイルTOWに対抗するため、T-90戦車も送り込んでいる。Su-34やSu-35なども送り込んで航空兵力も増強しているようだ。 これ以外に注目されているロシアの兵器、弾道ミサイルのイスカンダルである。現在、NATOは部隊をロシアとの国境近くへ進めて威嚇しているが、この動きにも対応しているようだ。 このミサイルの射程距離は280から400キロメートルで、最近、300キロメートル離れた目標に命中したという。長距離とは言えないが、その特徴は速度。高度50キロメートルで毎秒2100メートルから2600メートル、つまりマッハ6から7で飛行、西側の防空システムは対応できないと考えられている。NATO軍にとっては脅威であり、トルコ軍がシリアを侵略した場合、トルコにある基地は全て破壊されると推測する人もいる。 ロシアとNATOが戦争を始めた場合、NATOの中心的な存在であるアメリカも参戦、その「同盟国」だという日本も戦争に加わることになり、日本列島に乱立する原発は最大の脅威になる。 アメリカは戦場から離れているように見えるが、そうとも言えない。2009年10月に朝鮮は韓国に対して韓国軍の艦艇が哨戒侵犯を繰り返していると抗議、11月に両国の艦船がが交戦、10年3月には境界線の確定していない問題の海域で韓国の哨戒艦「天安」が爆発して沈没、9月には石垣海上保安部が中国の漁船を尖閣諸島の付近で「日中漁業協定」を無視する形で取り締まって日中関係は悪化、11月に韓国軍が軍事演習「ホグク(護国)」を開始(アメリカの第31海兵隊遠征隊や韓国駐留の第7空軍が参加したという)、朝鮮軍は問題海域にある大延坪島を砲撃し、2名の韓国兵と民間人2名が死亡した。 東アジアで軍事的な緊張が高まる中、11月上旬にカリフォルニア沖で海中からミサイルが発射された。アメリカ軍によるものではなく、中国の潜水艦が弾道ミサイルを発射したと言われている。つまり、アメリカが中国を巻き込む戦争を始めた場合、アメリカの沿岸から核攻撃すると警告したのだろう。ロシア軍は爆撃機をアメリカ周辺に飛ばしてきた。 現在、シリアに送り込んだ傭兵軍が敗走しはじめている。そこで、ネオコンの影響を受けているアメリカの議会や政府はロシア軍の攻撃を止めさせようと必至だ。和平交渉をはじめた理由のひとつもそこにあった。サウジアラビアとトルコ、恐らくその背後にいるネオコンが核戦争を始めると世界を脅している理由もその辺にありそうだ。 ところで、かつてイスラエルは核戦争でアメリカ政府を脅したことがある。1971年にリチャード・ニクソン米大統領がドルと金の交換を停止すると発表、1973年から世界の主要国は変動相場制へ移行した。ドルを基軸通貨の地位から陥落させないために考えられた仕組みのひとつがペトロダラーで、1973年5月にスウェーデンで開かれたビルダーバーグ・グループの会合でアメリカとイギリスの代表は400パーセントの原油値上げを要求、認められた。黒幕はヘンリー・キッシンジャーだった。 そのキッシンジャーは自分の操り人形だったエジプトのアンワール・サダト大統領をアラブの英雄に仕立て、中東政策の手駒として使おうと考える。1973年10月にエジプト軍は奇襲攻撃でイスラエルを追い込むのだが、その時、イスラエルではゴルダ・メイア首相の執務室で核兵器の使用について議論があり、モシェ・ダヤン国防相は核兵器を選択肢として見せる準備をするべきだと発言したという。そうした中、アメリカは武器/兵器を含む物資をイスラエルへ空輸、反撃を支援しているが、核攻撃を止めさせるためだったとキッシンジャーは語っている。 その間、和平交渉が進められていたのだが、戦況が大きく変化してイスラエルが優勢になるとイスラエルは停戦の内諾を反故にして攻撃を継続、ソ連政府はキッシンジャーに対して米英両国で平和維持軍を派遣してはどうかと提案、それが駄目ならソ連は単独で攻撃すると伝えた。 そうした中、ダヤン国防相は核攻撃の準備を始め、2基のミサイルに核弾頭をセット、目標をダマスカスとカイロに定めたとされている。当時、イスラエルに対する武器の供与に消極的だったニクソン大統領に対する恫喝だと推測する人もいる。 このとき、イスラエルは核戦争でアメリカを脅し、成功した。その「成功体験」がネオコンに影響しているのかもしれないが、今回は失敗する可能性が高い。ネオコン、サウジアラビア、トルコが無様なことになるだけなら世界にとっては悪くないが、核戦争へ発展することもないとは言えず、それを懸念する人は少なくない。
2016.02.13
バラク・オバマ米大統領が一般教書演説を行った1月12日、ペルシャ湾でイラン領海へアメリカ軍の哨戒艇が侵入、10名のアメリカ兵をイラン軍が拘束した。ミスだったとして翌日に解放されているのだが、この哨戒艇には高性能のナビゲーション装置が搭載されていて、ミスとは考え難い。その装置が故障したとも報道されているが、かなり苦しい説明だ。17日にはアメリカとイランとの間で拘束されていた人の交換もあった。 哨戒艇の乗組員が拘束された直後、アメリカでは大統領候補のジェブ・ブッシュなどからバラク・オバマ政権の「弱腰」を批判する声が出ていたが、イランの治安部門を統括しているアリ・シャムハニ海軍少将は、アメリカの共和党から被拘束者の交換を大統領選の後まで延期して欲しいという打診があったと今月11日に語っている。 実は、哨戒艇の問題が起こった直後からアメリカの軍事専門家の間では、大統領選と結びつける見方があった。1980年の大統領選で共和党が行った人質解放遅延工作を連想したのだ。この遅延工作は拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』でも触れている。 1979年1月にイランの国王がエジプトへ脱出、10月にはズビグネフ・ブレジンスキーの要求でジミー・カーター大統領は国王の「一時的な入国」を許可した。その翌月、テヘランのアメリカ大使館へ「ホメイニ師の路線に従うモスレム学生団」なるグループが乱入し、大使館員など52名を人質にとるという事態になる。このグループは革命防衛隊のメンバーだったようだ。大使館側は重要書類の破棄が間に合わず、アメリカが行っていた秘密工作の一端が明るみに出た。 アメリカの大統領選ではカーターが再選を目指す一方、共和党はロナルド・レーガンやジョージ・H・W・ブッシュが有力候補と見られていた。親イスラエル派はカーターがイスラム勢力に甘いと不満で、反カーター・キャンペーンを展開、イラン王制と深く結びついていたデイビッド・ロックフェラーも怒らせていた。 人質事件が引き起こされた翌月にCIAの元オフィサーであるマイルズ・コープランドがイスラエルの情報将校と接触、80年1月にはレーガンと近いマーク・ブライアンをイランへ派遣した。(E・R・コッホ、J・シュペルバー著、佐藤恵子訳『データ・マフィア』工作舎、1998年)人質の解放を大統領選の後まで延期させようと考えたのだ。投票日の直前に解放されると、カーター陣営にとって有利になると考え、それを避けたかったのだ。 ブライアンはレーガンがカリフォルニア州知事だった時代に同州の保険福祉局長を務めた人物だが、ベトナム戦争では軍医として「フェニックス・プログラム」に関係していた。このプログラムは解放戦線側を支持していると見られる地域で農民を皆殺しにしたほか、都市部で爆弾攻撃を仕掛けている。(前掲書)1968年3月の「ソンミ事件(ミライ事件)」はこのプログラムの一環だったと見られている。イランを訪問した際、ブライアンに同行したと言われているのがロバート・マクファーレンだが、後にマクファーレンはイスラエルの協力者だということが判明する。 1980年には共和党やイスラエルの代表がイランの代表でマドリッドやパリなどで秘密会談、実際に人質が解放されたのは1981年1月20日、レーガンの大統領就任式が行われた日だった。 この秘密工作については調査ジャーナリストのロバート・パリーたちも詳しく調査している。1993年5月に記者から「オクトーバー・サプライズはあったのか」と質問されたイスラエルのイツァク・シャミール元首相は「勿論、あった」と答えている。(Robert Parry, "The October Surprise X-Files", The Media Consortium, 1996) この秘密工作で人質解放遅延の代償として共和党やイスラエルが提示したのがミサイルを含む兵器/武器の提供。イラン側の注文に応えるため、イスラエルはポーランドで入手していたが、まとまった量のカチューシャ・ロケット弾は手に入らなかった。そこで取り引きした相手が朝鮮だ。つまり、1980年代にイスラエルと朝鮮は武器取引でつながっている。内部対立が原因でこうした取り引きの一端は後に「イラン・コントラ事件」という形で表面化した。 今回、共和党は同じことを目論んだのだろうが、失敗した。当時のイランは兵器/武器は王政時代を引き継いでいるのでアメリカ製が基本。アメリカと交渉する必要があった。またアメリカの力は圧倒的だと認識されていて、イランの新体制内にもアメリカとの関係を修復する必要があると考える人がいただろうが、現在は違う。イラン側のアメリカに対する信頼度は大幅に低下する一方、ロシアという選択肢も現れ、イランの自立度は上昇している。今回もかつての「成功体験」でアメリカは失敗した。
2016.02.12
株式相場が下がっているようだ。経済状況に大きな変化がなくても株価は上がり下がりするものだが、現在、その状況が大きく変化しつつある。ドルを基軸通貨とする仕組みが崩壊しはじめ、アメリカが世界の経済、金融を支配する時代が終焉を迎えている。「世界経済が減速」しているという次元の話ではない。 そうした中、イランは今後の石油取引に伴う支払いはドルでなくユーロで決済すると表明した。インドは未払いの石油代金をユーロにするほか、イランと新たに契約したフランスのトタル、スペインのセプサ、ロシアのリタスコもユーロを使うようだ。 トタルは以前から石油取引の決済をユーロへシフトする意思を示していた。2014年7月に同社の会長兼CEOだったクリストフ・ド・マルジェリは、石油取引をドルで決済する必要はないとしたうえで、ユーロの役割を高めれば良いと主張していたのだ。世界の覇者になろうとしているアメリカ支配層の傲慢な態度に反発していた可能性がある。その頃、アメリカはフランス金融機関、BNPパリバに対して89億7000万ドルの「罰金」を科していた。アメリカ支配層の意に沿わない動きをしたことが理由だ。 そのド・マルジェリは同年10月、ロシア政府主催の会合に出席するために同国を訪問した際、モスクワ・ブヌコボ空港で事故死してしまう。帰国のため、彼を乗せたダッソー社製ファルコン型ビジネス機が離陸しようとしていたとき、滑走路上で除雪車と激突したようだ。 暗殺、クーデター、軍事侵攻などで脅して自分たちに従わせ、基軸通貨を発行する特権を使って購買力を維持してきたアメリカ。ドルを基軸通貨の地位に止めておくために考えられた仕組みのひとつがペトロダラーである。人間社会を支えている石油の取り引きをドルで決済させ、ドルが流れ込む産油国には財務省証券や高額兵器を買わせてアメリカが回収して通貨の流通量を調整しようという仕組みだ。 アメリカの巨大資本が保有する利権を守り、拡大するため、CIAが盛んに各国でクーデターを実行、軍事独裁体制を樹立した時期がある。アメリカが独裁体制を好む理由のひとつは、西側の金融資本や国際機関による融資は独裁者が懐へ入れ、西側の金融機関に持つ口座へ沈めるため。それによってドルは還流し、流通量を減らすことができる。後は各国の庶民からカネを取り立てるわけだ。闇金と似た手法である。 こうした仕組みをアメリカが作り上げる出発点は1971年8月。このとき、リチャード・ニクソン大統領がドルと金の交換を停止すると発表している。国際収支の赤字で金が流出し、金本位制度を維持することができなくなったのだ。この決定でブレトン・ウッズ体制は崩壊し、1973年から変動相場制へ移行した。その後もドルを基軸通貨として維持するためにドルの回収システムとしてペトロダラーが考えられたのである。 1970年代には新自由主義経済が持て囃され、さまざまな金融規制を緩和、あるいは撤廃させて投機市場を肥大化させる政策が進められる。その始まりは1973年9月11日にチリで実行されたオーグスト・ピノチェトの軍事クーデター。その黒幕はヘンリー・キッシンジャーの命令で動いていたCIAだ。 クーデター成功後、巨大資本にとって邪魔な人びとは誘拐、拷問、殺害され、反対派の粛清を進めるが、その一方で新自由主義経済が導入される。シカゴ大学のミルトン・フリードマン教授の「マネタリズム」に基づき、大企業/富裕層を優遇する政策を実施するのだが、その実行部隊がいわゆる「シカゴ・ボーイズ」。フリードマンは大学の同僚であるアーノルド・ハーバーガー教授と1975年3月にチリを訪問、3日間の旅行で受け取った報酬は3万ドルだと報道されている。その結果、内外の巨大資本が大儲けする一方で庶民は貧困化、貧富の差が拡大した。新自由主義経済を導入した国で共通して起こる現象である。 新自由主義経済は金融を肥大化させ、経済を悪化させる。投機市場は活況になり、現実の社会は疲弊、メディアを使った幻影で騙しきれなくなったなら、ファシズム体制を本格的に始動させる。その一貫として導入されようとしているのがTPP(環太平洋連携協定)、TTIP(環大西洋貿易投資協定)、TiSA(新サービス貿易協定)だ。巨大資本が国を支配、庶民から主権者としての権利を奪うことになる。 こうした日米欧の動きに対し、ロシアや中国を中心とする諸国は新たな経済システムを築こうとしている。こうした国々はすでにドル離れしているのだが、そこへイランも参加する。ペトロダラーは揺らいでいる。サウジアラビアやトルコの暴走は状況を悪化させ、アメリカの支配体制が崩壊する時期を早めているようにも見える。 新自由主義が社会を破壊、資本主義自体を潰すと認識している人物が、勿論、西側支配層の内部にもいる。例えば、2011年4月にアメリカのブルッキングス研究所で演説したフランス人のドミニク・ストロス-カーン。当時、IMFの専務理事だった。 失業や不平等は不安定の種をまき、市場経済を蝕むことになりかねないとし、その不平等を弱め、より公正な機会や資源の分配を保証するべきだと彼はその中で主張、進歩的な税制と結びついた強い社会的なセーフティ・ネットは市場が主導する不平等を和らげることができ、健康や教育への投資は決定的だと語った。さらに、停滞する実質賃金などに関する団体交渉権も重要だとしている。 正論だが、その翌月、アメリカ滞在中に彼は逮捕、起訴されてしまう。レイプ疑惑をかけられたのだが、途中で取り下げられている。冤罪だった可能性が高い。2011年の段階でアメリカ流の経済/金融政策を公然と否定的に語る人は西側支配層の内部でも出始めていたと言えるだろう。 2001年にジョージ・W・ブッシュが大統領に就任した時点でアメリカの投機政策は破綻していた。ブッシュ大統領を支えていたネオコン/シオニストの財布と言われていたエンロンは投機で急成長していた会社だが、2001年12月に倒産する。その前年、同社の副社長だったシェロン・ワトキンス副社長が不明瞭な会計処理を警告している。 この事件は有耶無耶になったが、その原因のひとつは2001年9月11日の出来事。ニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたわけだが、その際に押収されていた重要文書が瓦礫と共に消えてしまったのだ。 その後も投機政策は続き、2008年9月15日のリーマン・ブラザーズ倒産につながる。このとき、西側諸国の巨大金融機関は「大きすぎて潰せない」として庶民のカネを大量に投入して救済、不正が明らかになった銀行幹部は「大きすぎて処罰できない」ということで逃げおおせた。 この当時、アメリカの財務長官を務めていたのはヘンリー・ポールソン。ゴールドマン・サックスでCEOだった人物で、2002年12月、小泉純一郎政権のときに三井住友出身で日本郵政の社長だった西川善文、竹中平蔵、そしてゴールドマン・サックスのジョン・セインCOOと郵政私有化について会談している。 そのポールソンは昨年4月、マイケル・ミルケンが主催した会議で別の元財務長官、つまりロバート・ルビンとティモシー・ガイトナーとステージ上で対談している。その際、司会者からポールソンは不公正な収入について質問され、ゴールドマン・サックス時代からその問題に取り組んでいると答える。 それに対し、ガイトナーが「どっちの方向?」と皮肉るとルビンが「君はそれを拡大させた」と言い、全員が大笑いしている。不公正な仕組みで貧困化している庶民にとっては深刻な問題だが、彼らにとっては笑い話ということ。ポールソンが長官として行った政策は支配層の目先の利益にとってプラスだったのだろうが、彼らの信頼度を大幅に低下させることになった。 こうした光景を世界の人びとが見ている。腐敗したアメリカに未来はないと考えるひとが増えても不思議ではない。しかも、ロシアと中国という対抗勢力が台頭している。イランもアメリカの破綻を見通しているのだろう。
2016.02.11
アメリカ支配層は現在、大きな問題をふたつ抱えている。ひとつはドルが基軸通貨の地位から陥落しそうなことであり、もうひとつは世界制覇プロジェクト(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)の一環として、シリアのバシャール・アル・アサド体制を倒し、傀儡政権を樹立するという目論見が崩れつつあることだ。現在、行われているアメリカの大統領選の行方も、支配層がこの問題に対してどのように対処しようとしているかで決まってくるだろう。 本ブログでは何度も書いていることだが、シリアでは昨年9月30日にロシア軍が始めた空爆で侵略軍、つまりアル・ヌスラ(アル・カイダ系武装集団)やそこから派生したダーイシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)は敗走を始めた。恐らく、西側の支配層が想定したよりペースが速い。 そうした中、国連主導という形で行われていた和平交渉は2月3日に中断。アメリカのジョン・ケリー国務長官によると、サウジアラビアやトルコの支援を受けている戦闘集団の代表が交渉の席を立ったというが、アレッポの戦況が急展開したことが中断の決定に影響していると見られている。 シリアの要衝、アレッポを政府軍がほぼ奪還したようだが、ここを政府軍が押さえたならば、トルコから延びている侵略軍の兵站線が断ち切られてしまい、戦闘を続けることも難しくなりそうだ。こうした武装勢力を編成、訓練、支援してきた国々は窮地に陥ったということでもある。ワシントン・ポスト紙でさえ、アレッポを政府軍がおさえたことで戦争自体の決着がついた可能性があると報道している。 侵略を主導してきたのはアメリカ/NATO、サウジアラビア/ペルシャ湾岸産油国、イスラエル。当初は侵略に積極的だったフランスやイギリスはここにきて目立たなくなり、サウジアラビアとトルコが侵略で中心的な役割を果たしている。 ロシア軍の攻撃は軍事演習レベルで大規模なものではないが、効果的。アメリカ主導の連合軍がシリア政府の承認を得ずに行ってきた攻撃への疑惑が強まっただけでなく、こうした勢力は狼狽しはじめる。 そうした中、10月10日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はロシア軍機の撃墜を決めた。これは内部告発支援グループのWikiLeaksの情報だ。当然、この決定にはアメリカの好戦派が関係しているだろう。11月24日から25日にかけてポール・セルバ米統合参謀本部副議長がトルコのアンカラを訪問、トルコ軍幹部と会談しているのだが、その24日にトルコ軍のF-16戦闘機がロシア軍のSu-24爆撃機を待ち伏せ攻撃で撃墜した。 トルコ政府は「国籍不明機」を撃墜したと主張したが、ロシア軍は軍事衝突を避けるため、事前に攻撃計画をアメリカ側に通告していたうえ、アメリカは偵察衛星で監視しているはず。しかもその当時、ギリシャを拠点とするアメリカ/NATOのAWACS(早期警戒管制)機、そしてサウジアラビアもAWACS機も飛行していた。トルコとシリアの国境付近で何が起こっているかも監視していたはずだ。トルコ軍機を指揮管制していた可能性もある。 トルコ政府の主張では、国境線から2.19キロメートルの地点までロシア軍機は侵入し、1.88キロメートルの距離を17秒にわたって飛行した。Su-24は時速398キロメートルで飛行していたことになる。この爆撃機の高空における最高速度は時速1654キロメートルで、トルコ説に基づく飛行速度はあまりにも遅く、非現実的だ。 ロシア側の説明(アメリカやトルコから否定されていない)によると、トルコ軍のF-16は午前8時40分に離陸、9時08分から10時29分まで高度4200メートルで飛行して午前11時に基地へ戻っているのに対し、ロシア軍のSu-24が離陸したのは1時間後の午前9時40分。午前9時51分から10時11分まで高度5650メートルで飛行、16分に目標を空爆、24分に撃墜されている。領空侵犯に対するスクランブルではなかった。 WikiLeaksの情報がなくても、トルコ軍が計画的にロシア軍機を撃墜したことは明らかで、当然、アメリカの政府や軍の上層部も承認していたはずであり、ロシア側もそう判断しただろう。ロシア軍が報復攻撃しても不思議ではなかったということ。 しかし、ロシア軍は報復攻撃をしなかった。その代わり、ミサイル巡洋艦のモスクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空システムS-400を配備し、約30機の戦闘機を「護衛」のために派遣してシリア北部の制空権を握る。アメリカが供給している対戦車ミサイルTOWに対抗できるT-90戦車もさらに配備した。最新鋭戦闘機のSu-35も送り込んでいるようだ。 それに対し、トルコ軍は12月の初め、25台のM-60A3戦車に守られた部隊をイラクの北部、モスルの近くへ侵攻させて占領、トルコ政府の抗議にもかかわらず居座っている。 1月22日になるとアメリカのアシュトン・カーター国防長官が米陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、23日にはトルコを訪問していたジョー・バイデン米副大統領がアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると発言している。 スイスのジュネーブで国連主導という形で和平交渉が始まるのだが、アレッポにおける侵略軍の壊滅が決定的になると交渉は中断する。侵略軍の立て直しを図るために時間稼ぎをしようとしていたとするならば、その必要がなくなったということだ。 その一方、ロシア国防省はトルコはシリア侵攻の準備を始めているとトルコ政府を非難し、サウジアラビア国防省の広報担当は同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明した。サウジアラビアにはすぐにシリアへ派遣できる15万人の部隊が待機していると報じられている。アメリカのアシュトン・カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言した。 この部隊はサウジアラビアのほか、スーダン、エジプト、ヨルダンの軍隊で構成、さらにモロッコ、トルコ、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタールの軍隊も派遣される予定で、マレーシア、インドネシア、ブルネイからは傭兵が送られるという。 トルコやサウジアラビアが実際にシリアへ軍事侵攻する可能性は低いだろうが、もしトルコが本当に攻め込んだ場合、ロシア軍との戦闘になる。トルコはNATO加盟国。トルコが侵略したと判断されなければ、ロシアとNATOの戦争に発展してしまう。 ロシアとNATOの戦争になれば世界大戦であり、核戦争ということになる。そうした世界大戦が不可避だということになった場合、ロシアのウラジミル・プーチン大統領は躊躇なく核兵器を使い、トルコの軍事施設は全て破壊すると考えられている。NATOがロシアを核攻撃するのを座して待つようなことはないはずだ。 そのトルコのアフメト・ダウトオール首相は「アレッポの兄弟」、つまりトルコ政府が支援してきたアル・ヌスラやダーイシュを助けるとしている。つまりロシアと戦争をすると言っているに等しいが、その結果がどうなるかはすでに指摘した通り。バラク・オバマの副大統領や国防長官はこうした好戦的な動きを支援している。こうした動きに安倍晋三政権も同調しているように見えるが、アメリカ支配層の中で、核戦争は避けたいと考える人びとが動き始めているようにも感じられる。ヘンリー・キッシンジャーが2月10日にロシアを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領と会談するようだが、その内容が興味深い。 ちなみに、ロシア軍が空爆を始めてからアル・ヌスラやISが敗走、シリア政府軍が重要拠点を奪還していることを日本のマスコミは伝えていないようだ。「ロシア軍が強い」と思えば、戦争に反対する人が増えてくる。戦争に賛成、あるいは反対しない人の大半はアメリカ軍が強く、ロシアや中国は敵でないと信じている。「勝てば官軍」ということ。勝てば戦利品のお零れを頂戴できると思っている人もいるだろう。負けると思えば戦争に反対、安倍晋三政権の好戦的な政策も崩壊する。
2016.02.10
アメリカで選挙が行われる年になると、投票マシーンの不正が話題になる。DESI(ダイボルド・エレクション・システムズ/現在の社名はプレミア・エレクション・ソリューションズ)の機械が実際の投票数と違う数字を集計結果として表示することを大学などの研究者が指摘していたほか、ハート・インターシビックという会社はミット・ロムニー家との関係が明らかにされた。(例えば、ココ、ココ、ココ、ココ) 問題になった機械に限らず、コンピュータ化が進めば投票結果の操作は容易。電子投票を止めない限り、この問題は解決できないのだが、紙の投票に戻しても不正がなくなるとは言えない。例えば、2000年の大統領選挙ではバタフライ型投票用紙などが原因で混乱している。出口調査と公式発表との差が大きかったことも疑惑を呼んだ。出口調査に問題があったとされたが、逆だろう。アメリカの選挙には国際監視団を派遣する必要がある。 この選挙ではネオコン/シオニストに担がれた共和党のジョージ・W・ブッシュと民主党のアル・ゴアが争っていたが、ゴアへの投票を減らすため、怪しげなブラック・リストや正体不明の「選挙監視員」による投票妨害が報告されている。正当な選挙権を行使できなかった市民が少なからずいたと報告されている。集計の過程でゴアの得票が減っていると指摘する報道もあった。 こうした選挙の混乱は12月に連邦最高裁がブッシュ候補の当選を確定させる判決を出して納まったが、アメリカ以外の選挙なら、西側の有力メディアは間違いなく「不正選挙」だという大合唱になり、政権打倒の集会やデモを呼びかけただろう。西側支配層はNGOあたりを利用して資金を援助するだけでなく、抗議活動の作戦を指南するはずだ。 アメリカでは選挙戦のシステムも公正ではない。ウォール街やイスラエルの強い影響下にある共和党と民主党以外の候補者はメディアから無視されるのだ。しかも、莫大の選挙資金が必要で、庶民が選挙に参加することは事実上、難しい。 こうした状況を悪化させた判決を2010年1月にアメリカの最高裁は出している。非営利団体だけでなく、営利団体や労働組合による政治的な支出を規制してはならないと決めたのだ。つまり、「スーパーPAC(政治活動委員会)」を利用すれば無制限に資金を集め、使えるということであり、富豪や巨大企業による政治家の買収を最高裁が認めたということだ。外国の政府や勢力が政治家を買収することも可能であり、実際、そうしたことが行われている。 この判決をジミー・カーター元米大統領も批判している。最高裁判決は「政治システムにおいてアメリカを偉大な国にしていた本質を壊した」と主張、大統領候補や大統領だけでなく、知事や議員を際限なく政治的に買収するという寡頭政治にしたとしている。選挙の後、資金提供の見返りとして富豪や巨大企業が臨む政策を進めることになり、そこに民主主義は存在しない。 こうした仕組みを作っても支配層にとって完全ではない。ネオコンなど好戦派はどうしても2000年の選挙で勝つ必要があったのかもしれないが、立候補しないと言っていた人物を警戒していた。 実は、選挙の前年、大統領候補として最も支持されていたのはブッシュでもゴアでもなく、ジョン・F・ケネディ・ジュニア、つまり1963年11月22日に暗殺されたジョン・F・ケネディ大統領の息子だった。1999年前半に行われた世論調査では、ブッシュとゴアが30%程度で拮抗していたのに対し、ケネディ・ジュニアは約35%だったのだ。 ケネディ・ジュニアが民主党や共和党から独立した形で出馬し、投票数で勝つ可能性もあったのだが、その結果を支配層が認めるかどうかが話題になっていた。アメリカの大統領選挙は大統領を直接選ぶのではなく選挙人を選ぶので、選挙人が事前の誓約に反する投票をするという事態もありえた。 そうした問題を解決する出来事が1999年7月に起こっている。ケネディ・ジュニアを乗せたパイパー・サラトガが目的地であるマサチューセッツ州マーサズ・ビンヤード島へあと約12キロメートルの地点で墜落したのだ。本人だけでなく同乗していた妻のキャロラインとその姉、ローレン・ベッセッテも死亡している。 墜落地点から考えて自動操縦だった可能性が高く、操作ミス云々は理由にならない。また、その飛行機にはボイス・レコーダーが搭載され、音声に反応して直前の5分間を記録する仕掛けになっていたのだが、何も記録されていなかった。緊急時に位置を通報するためにELTという装置も搭載していたのだが、墜落から発見までに5日間を要しているも不自然だと言われている。つまり、何者かが意図的に墜落させた可能性があるのだ。 ブッシュが大統領に就任した2001年の9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されるとドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺ではイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランを攻撃する計画が立てられ、2003年3月にはイラクを先制攻撃している。 その前年、2002年にはアメリカで中間選挙があった。イラクを攻撃することに反対する議員はほとんどいなかったのだが、例外的な議員のひとりがミネソタ州選出のポール・ウェルストン上院議員だった。ブッシュ政権にとって目障りな存在。 そのウェストン議員は2002年10月に飛行機事故で死んでいる。「雪まじりの雨」という悪天候が原因だったと報道されているが、同じ頃、近くを飛行していたパイロットは事故を引き起こすような悪天候ではなかったと証言、議員が乗っていた飛行機には防氷装置がついていた。しかも、その飛行機のパイロットは氷の付着を避けるため、飛行高度を1万フィートから4000フィートへ下降すると報告している。その高度では8キロメートル先まで見えたという。 アメリカでは、支配層にとって目障りな人物は「偶然」、飛行機事故で死んでしまうようだ。
2016.02.09
2月7日に朝鮮の国家宇宙開発局は地球観測衛星「光明星-4」号を軌道に乗せることに成功したと発表した。衛星を軌道まで運んだのは、外務省の発表によると、『「人工衛星」と称する弾道ミサイル』。マスコミはこの表現をそのまま使ったり、「事実上の弾道ミサイル」と表現している。 ロケットとミサイルは基本的に同じものだが、違いもある。ロケットは衛星を周回軌道に乗せるために一定以上のスピードを出す必要があるが、兵器としてのミサイルは弾頭を目的地へ落とすことが目的なのでロケットのような加速は必要なく、通常の衛星が周回する低地球軌道よりはるかに遠い高度を飛行する。もし朝鮮が衛星を軌道に乗せたとするならば、ロケットと呼ぶべきである。『「人工衛星」と称する弾道ミサイル』、あるいは「事実上の弾道ミサイル」といった表現は正しくない。 こんなものが脅威だと言って大騒ぎするなら、放射性物質を垂れ流して太平洋を汚染、廃炉まで数百年(数十年ではない)は必要だと言われる東電福島第一原発のことをもっと騒ぐべきであり、原発再稼働のような無謀なことも危険だと叫ぶべきである。福島にある原発の残骸の方が日本人にとってはるかに脅威だ。日本を「核攻撃」したいなら、ミサイルなどを使うより特殊部隊を潜入させて原発を破壊すれば良い。より長期で考えるなら、建設作業中に爆発物を仕込むという手もある。実際、そうしたことを行っている国が存在していると噂されている。 また、巨大企業の利益を守るため、国が健康、労働、環境など人びとの健康や生活を守れなくし、日本の法体系そのものを破壊するTPP(環太平洋連携協定)に対する反対キャンペーンも展開しなければならない。 TPPは巨大企業という「私的権力」に国より強い力を持たせる仕組みであり、1938年4月29日にフランクリン・ルーズベルト米大統領が語ったファシズムの定義に合致する。つまり、TPPは環太平洋をファシズム化する協定だ。 勿論、腐敗した西側メディアがそうした問題を取り上げるはずはない。彼らは支配層の走狗であり、その意に沿うプロパガンダを展開するだけだ。最近は腐敗の度合いが進み、「言論機関」や「ジャーナリスト」を装うこともなくなった。これは日本だけの問題ではない。かつて欧米の有力メディアに所属していた有能なジャーナリストはこぞって出身母体の腐敗を批判している。 もし今回の打ち上げに使ったロケットを弾道ミサイルだと言いたいなら、日本が開発を進めていたLUNAR-Aもそう表現しなければならない。M-Vを使って探査機を打ち上げ、月を周回する軌道に入った段階で母船から観測器を搭載した2機の「ペネトレーター」を発射することになっていたが、これは「MARV(機動式弾頭)」の技術そのものだ。 1991年にソ連が消滅した直後、日本は秘密裏にSS-20の設計図とミサイルの第3段目の部品を入手し、ミサイルに搭載された複数の弾頭を別々の位置に誘導する技術、つまりMARVを学んだと言われているが、これを使っているのだろう。 LUNAR-Aの計画では、地震計と熱流量計が搭載されたペネトレーターを地面に突き刺し、2メートル前後の深さまで潜り込ませることになっていた。その際にかかる大きな圧力に耐えられる機器を作るために必要な技術があれば、小型のバンカー・バスターを製造できる。 実際、この計画は弾道ミサイルの開発が目的だと国外では見られていた。日本がアメリカの一部勢力と手を組んで核兵器を開発していることは情報機関の常識だ。
2016.02.09
シリアのバシャール・アル・アサド体制を倒すために送り込まれていた侵略軍、つまりイスラム教ワッハーブ派(サラフ主義者)を主力とするアル・カイダ系のアル・ヌスラやダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)の部隊が崩壊寸前になり、この戦闘集団と戦うと称してシリア政府軍を倒そうとしたアメリカ/NATO、サウジアラビア、イスラエルなどの計画は難しい状況になっている。そうした武装集団に関係なくトルコやサウジアラビアが軍事侵攻する可能性もあるが、良い結果は得られないだろう。 2011年春にシリアで戦争が始まったが、このときから国外からの軍事侵攻だった。西側の政府やメディアが宣伝したような「圧政に立ち向かう民衆の蜂起」などではなく、傀儡体制を樹立して略奪しようという外国勢力の侵略戦争だ。その外国勢力とはアメリカ、イギリス、フランス、トルコのNATO加盟国、サウジアラビアやカタールなどのペルシャ湾岸産油国、そしてイスラエルだ。 アメリカが主導する連合軍がシリア政府の要請もなく、国連の承認もえずに始めた攻撃はアル・ヌスラやダーイッシュに打撃を与えることはできず、勢力を拡大させていた。兵站線を叩かず、盗掘石油の輸送を放置、兵器/武器を含む物資をダーイッシュ側へアメリカ軍は「誤投下」していたわけで、当然の結果だ。その一方でシリアの基盤施設を破壊してきた。 こうしたことは2014年9月22日にシリアで攻撃を始めたときから続いたこと。その時に現地で取材していたCNNのアーワ・デイモンは翌日朝の放送で、ダーイッシュの戦闘員は空爆の前に極秘情報を入手、攻撃の15から20日前に戦闘員は避難して住民の中に紛れ込んでいたと伝えている。 本ブログでは何度も書いているように、こうした状況を一変させたのが昨年9月30日に始められたロシア軍の空爆。4カ月強で明確な結果を出したのだが、これには爆撃機の空爆だけでなく、巡航ミサイルによる攻撃や最新鋭戦車T90の投入が大きかったと言われている。 アフガニスタン戦争以来、アメリカはイスラム教ワッハーブ派の戦闘集団に対し、携帯型のスティンガー対空ミサイルやTOW対戦車ミサイルを大量に供給してきた。シリアだけで供給されたTOWやM79グレネードランチャー(擲弾発射器)の数は9000に達するという。これまで、こうした武器は威力を発揮していたのだが、T90には通用せず、アル・ヌスラやダーイッシュの敗走につながった。イラクなどで使われているアメリカ製アブラムズ(M1A1)戦車の評判が良くないのとは対照的だ。 シリアでロシア軍はデモンストレーションを兼ね、自分たちが保有する兵器/武器の実戦でのテストを行っている。すでに電子戦や巡航ミサイルの能力も示したが、新鋭戦闘機のスホイSu-35もテストすると言われている。すでにこの戦闘機は高い評価を得ているのだが、同じ数字のロッキード・マーチンF-35は散々だ。 F-35のプログラム・コストは1兆5000億ドル以上になりそうなうえ、性能に問題があって「空飛ぶダンプカー」とも呼ばれている。昨年1月にカリフォルニア州のエドワード空軍基地で行われた模擬空中戦でF-16に負けたという。F-35は、儲けを大きくすることに熱中しているアメリカ支配層の実態を象徴する戦闘機。この高額欠陥戦闘機を日本も5機注文、さらに42機を購入する計画だというから驚く。 勿論、アメリカの軍事予算が少ないわけではない。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)によると、2014年における予算はアメリカ6100億ドル、中国2160億ドル、ロシア845億ドル、サウジアラビア808億ドル、フランス623億ドル。ちなみに、日本は第9位で458億ドル。アメリカの惨状は予算が少ないからではない。少なからぬ人は支配層の腐敗が原因だと考えている。 F-35のような欠陥兵器を導入すればアメリカ軍はますます弱くなるが、現時点でも通常兵器の戦争ならロシア軍に勝てないという声がアメリカ軍の内部からも聞こえてくる。アメリカがロシアと戦争を始めたなら、それは全面核戦争になるということだ。
2016.02.08
サウジアラビアからの情報だとして、アメリカのメディアは、サウジアラビアでシリアへすぐにでも派遣できる15万人の部隊が待機していると報じている。この部隊はサウジアラビアのほか、スーダン、エジプト、ヨルダンの軍隊で構成され、さらにモロッコ、トルコ、バーレーン、アラブ首長国連邦、カタールの軍隊も派遣される予定で、マレーシア、インドネシア、ブルネイからは傭兵が送られるという。サウジアラビア国防省の広報担当はツイッターで、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明し、アメリカのアシュトン・カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言している。 また、ロシア国防省はトルコがシリアへ軍事侵攻してくると警戒している。シリア支配に失敗するとレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の公的な戦略が破綻するだけでなく、盗掘石油の密輸によって儲けることができなくなって私的な損失を被ることになる。NATOという用心棒を利用してロシアに向かうリスクを冒す可能性は小さくない。 サウジアラビアが部隊を送る口実はアメリカが主導する「反ISIL軍」を支援することにあるとしているのだが、要衝のアレッポをシリア政府軍がほぼ奪還、ISIL(ダーイッシュ、IS、ISISなどとも表記)は壊滅状態で、残った戦闘員はトルコへ向かって逃げていると伝えられている。ほかの地域も似たような状況のようだ。前回も書いたが、ネオコンの代弁紙であるワシントン・ポストでさえ、アレッポを政府軍がおさえたことで戦争自体の決着がついた可能性があると報道している。 昨年9月30日にロシア軍がアル・カイダ系武装集団やダーイッシュに対する空爆を開始すると戦況は一変、政府軍が主要都市を奪い返していた。攻撃で社会の基盤施設を破壊、非戦闘員を殺傷、反政府武装勢力には物資を「誤投下」していたアメリカ軍とは違い、ロシア軍は軍事演習レベルの攻撃でそうした武装勢力に大きなダメージを与えたということである。アメリカ軍がよほど無能なのか、アル・カイダ系武装勢力やダーイッシュと裏で連携していたということだ。 こうしたサウジアラビアから出てくる話を単なるはったりだと考える人は少なくない。まず、サウジアラビアはイエメンで始めた戦争が泥沼化、その戦争もあって財政赤字が深刻化、新たな戦争を始める余裕はないだろうと考えられている。他国が軍隊を派遣するとしても、小規模なものになる可能性が高く、傭兵の派遣は2011年3月から行っていることだ。 シリアの戦闘は「反乱」で始まったのではなく、外部からの「侵略」。戦闘が始まった直後から、アメリカ/NATOはトルコにある米空軍インシルリク基地で反シリア政府軍を編成、訓練している。その教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、イギリスとフランスの特殊部隊員。それ以降、現在に至るまでトルコは反シリア政府軍の拠点であり、ISへの兵站線はトルコの軍隊や情報機関MITが守ってきた。 その侵略軍だが、2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAが作成したシリア情勢に関する報告書によると、反シリア政府軍の主力はサラフ主義者(ワッハーブ派)、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQIで、西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとしている。DIAによると、アル・ヌスラとはAQIがシリアで使っていた名称。つまり、AQIとアル・ヌスラは同じだ。このほかチェチェンや新疆ウイグル自治区などからも傭兵はシリアへ入っているようだが、主力はあくまでもサラフ主義者/ワッハーブ派やムスリム同胞団。つまりサウジアラビア。 アメリカ/NATO、サウジアラビア、トルコ、イスラエルなどの計画では、アル・カイダ系武装集団やダーイッシュが踏ん張っている間にNATO加盟国のトルコ軍やサウジアラビアが派遣する武装集団がシリアへ攻め込み、一気にバシャール・アル・アサド体制を倒すつもりだったのかもしれないが、予想以上に早くそうした手駒が崩壊してしまったようだ。 トルコがNATO加盟国という立場を利用し、単独でシリアを軍事侵略する可能性はあるものの、その前に侵略勢力は既存の勢力を使うか、新たな武装集団を編成するかして再びシリアで戦闘を激化させ、軍事介入を正当化する口実を作ることを考えるだろう。そうした細工をせずに侵略戦争を始める可能性もあるが、ロシアを含めて世界を屈服させないとその反動は厳しいものになる。最も賢明な方法はシリア侵略を諦めることだが、そうした決断が彼らにできるかどうかは不明だ。 ノーベル平和賞を受賞したバラク・オバマは中東、北アフリカ、ウクライナに破壊と殺戮をもたらし、核戦争の可能性を残してホワイトハウスを去ることになる。勿論、それまでに第3次世界大戦が勃発しなければの話だが。
2016.02.06
シリア北部の要衝、アレッポで繰り広げられていた戦闘でシリア政府軍が勝利、アル・ヌスラ(アル・カイダ系武装集団)やそこから派生したダーイシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)はトルコへ向かって敗走しはじめたという。ネオコンの代弁をしているワシントン・ポスト紙もアレッポを政府軍がおさえたことで戦争自体の決着がついた可能性があると報道している。 その直前、国連主導という形で行われていた和平交渉は2月3日に中断したが、アレッポの戦況が影響したのだろう。アメリカとしては時間稼ぎする意味がなくなった。予想以上にロシア軍の攻撃が迅速で効果的だったのかもしれない。 アメリカのアシュトン・カーター国防長官は1月22日に米陸軍第101空挺師団に所属する1800名をイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語り、23日にはジョー・バイデン米副大統領がアメリカとトルコはシリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると発言していた。またロシア国防省はトルコはシリア侵攻の準備を始めていると警戒、サウジアラビア国防省の広報担当は、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明した。カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言している。が、攻撃の口実に使う勢力が崩壊した状態で軍隊を侵入させれば単なる軍事侵攻になってしまう。 何度も書いているように、ネオコンのポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)はシリア、イラク、イランを5年以内に殲滅すると1991年の段階で口にしている。本来ならジョージ・H・W・ブッシュが再選され、この3カ国を破壊する予定だったのだろうが、ビル・クリントンが大統領になってしまった。 1991年12月にソ連が消滅、ロシア大統領のボリス・エリツィンはアメリカ支配層の傀儡で、ロシアはアメリカの属国になる。そうした状況になった1992年初頭、アメリカの国防総省ではDPG(国防計画指針)の草案という形で世界制覇プロジェクトが書き上げられた。旧ソ連圏、西ヨーロッパ、東アジアなどの潜在的なライバルを潰し、ライバルを生む出すのに十分な資源を抱える西南アジアを支配するとしていた。 しかし、1992年の大統領選挙でジョージ・H・W・ブッシュは再選されず、ビル・クリントンが選ばれた。新政権ではネオコンの影響力が弱まり、外部からの提言という形で侵略を求めるしかなかった。そうした中、始まったのが大統領に対するスキャンダル攻勢。後に嘘が発覚する話が大半だったが、裁判費用は巨額で、クリントン夫妻は破産寸前だったと言われた。そのクリントン夫妻は現在、大変な資産家になっているようだ。 政策どころでなくなっていたクリントン大統領は1997年1月に国務長官をウォーレン・クリストファーからマデリン・オルブライトへ交代させるが、これは軍事侵略を始める狼煙だった。 オルブライトの父親ジョセフ・コーベルはチェコスロバキアの外交官だった人物で、オルブライトも同国で生まれた。コーベルは後にアメリカへ亡命、デンバー大学で教鞭を執るが、その時の教え子の中にコンドリーサ・ライス(ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めた)も含まれている。 オルブライト自身はコロンビア大学におけるズビグネフ・ブレジンスキーの教え子。彼女の友人のひとりにブルッキングス研究所の研究員がいるのだが、その娘がスーザン・ライス(バラク・オバマ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官)。そうした関係からオルブライトは国務長官に就任した後、スーザン・ライスを国務次官補にするよう求めている。 ブレジンスキーはロシアを侵略、支配することを目指す嫌露派で、オルブライトもそうした考え方の持ち主。1998年にオルブライトはユーゴスラビアに対する空爆を支持、その翌年にNATOは同国を先制攻撃した。その際、中国大使館も「誤爆」で破壊されたが、状況証拠は意図的な攻撃だったことを示している。この攻撃を正当化するために使われた口実が「人道」だ。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を) そして2000年にはネオコン系シンクタンクのPNACが「米国防の再構築」という報告書を公表した。1992年に作成されたDPG草案をベースにした内容、つまりアメリカによる世界制覇の戦略が書かれている。その戦略を実現するために「新たな真珠湾」の必要性が謳われていた。 ネオコンにとって好都合なことに、2000年の大統領選挙では彼らが担いでいたジョージ・W・ブッシュが最高裁の助けもあって当選、2001年9月11日には「新たな真珠湾」攻撃があって国内のファシズム化と国外での侵略が本格化する。その攻撃から間もない段階で国防長官の周辺は攻撃予定国のリストを作成、そこにはシリア、イラン、イラクのほか、レバノン、リビア、ソマリア、スーダンも載っていた。 つまり、シリアの体制転覆はネオコンの基本戦略に含まれている。アル・ヌスラやダーイッシュが負けたからといってシリアやイランを攻撃、破壊することを諦めるわけにはいかないだろう。新たなタグを付けた傭兵集団を編成、その新戦闘集団を攻撃するという名目でシリアを侵略するかもしれない。
2016.02.05
サウジアラビア国防省の広報担当は、同国の地上部隊をシリアへ派遣する用意があると表明した。「ダーイッシュ(IS、ISIS、ISILなどとも表記)と戦うため」だという条件をつけているが、この戦闘集団を生み出し、訓練し、武器/兵器を含む物資を供給している勢力の中にサウジアラビアも含まれている。意味のない条件であり、単に地上軍を派遣できるという宣伝。その直後、アメリカのアシュトン・カーター国防長官はサウジアラビアの表明を歓迎すると発言している。勿論、アメリカはダーイッシュを生み出し、訓練し、武器/兵器を含む物資を供給している勢力の中心的な存在。サウジアラビアに派兵の意思を宣言させたのはアメリカ政府だということだろう。 このサウジアラビアでは現在、権力をめぐる争いが始まっていると言われている。すでにサルマン・アル・サウド国王は引退状態で、ホマメド・ビン・ナイェフ皇太子が国王代理として動いているのだが、国王は自分の息子であるホハマド・アル・サウド国防相に嗣がせたいと考えているようなのだ。規定では皇太子が優位なのだが、国防相は国王の息子というだけでなく、軍や国家警備隊を掌握しているという強みがある。 こうした権力抗争の背景には原油価格の下落による財政の悪化がある。同国の2014年における財政赤字は390億ドル、15年には980億ドルへ膨らんだようだが、そうした状況に変化がなければ、同国の金融資産は5年以内に底をつくと予測されている。そうなるとドルを支えているペトロダラーの仕組みが崩壊、投機市場も収縮して金融パニックになる可能性があるだろう。 相場引下げはロシアにダメージを与えるためにアメリカやサウジアラビアが仕掛けたと言われている。WTI原油の場合、2014年6月に1バーレルあたり110ドル近かった価格が年末までに大きく値下がりし、年明け直後に50ドルを切り、今年1月15日には30ドルを割り込んだ。今でも30ドルそこそこの水準だ。2014年9月11日にアメリカのジョン・ケリー国務長官とサウジアラビアのアブドラ国王が紅海の近くで会談した理由のひとつは相場下落の相談だったとも推測されている。 1980年代にも原油価格は大幅に下落、それがソ連経済にダメージを与えたが、そうした「成功体験」がアメリカ支配層を動かしたとも見られている。21世紀に入ってアメリカを破綻へと導いているのは、こうした「成功体験」だ。 ソ連消滅後、ボリス・エリツィン大統領の時代にアメリカはロシアの属国化に成功、その状態は未来永劫、続くと考えたようだが、ウラジミル・プーチンを中心とするグループがロシアの再独立に成功、状況は大きく変化する。アメリカ支配層の世界制覇プロジェクトは崩れ始め、それを立て直すため、「成功体験」に頼っているのだろう。 アメリカにとっての「成功体験」はロシアにとっての「失敗体験」であり、ロシア側は対策を練っていた。「成功体験」をアメリカが再現しようとすれば、失敗する可能性が高いということだ。ロシア人蔑視がロシアの過小評価につながり、アメリカ支配層の打つ手は裏目に出て、自分たちの置かれた状況を悪くしているということも言える。 現在、アメリカを動かしている好戦派は巻き返しのため、また昔の手法を使っている。リチャード・ニクソンは自分たちが望む方向へ世界を導くため、アメリカは何をしでかすかわからない国だと思わせようとした。いわゆる「凶人理論」だ。また、イスラエルのモシェ・ダヤン将軍は狂犬のように振る舞わなければならないと語ったが、その意味するところは同じだ。こうした「凶人理論」や「狂犬戦術」をバラク・オバマ政権も使い、妥協しないとアメリカ/NATOとの戦争になるとロシア政府を脅している。 それに対し、ロシア側は戦争でアメリカ/NATOは勝てないことを悟らせようとしている。例えば、2014年4月にアメリカ軍はイージス駆逐艦のドナルド・クックを黒海へ入れてロシア側を威嚇しようとした際、ロシア軍は電子戦用の機器を搭載したスホイ24を米艦の近くへ飛ばし、イージス・システムを機能不全にしたと言われている。その直後にドナルド・クックはルーマニアへ緊急寄港、それ以降はロシアの領海にアメリカの艦船は近づかなくなった。 ロシアが電子戦能力を示したと言われている出来事には2013年9月のミサイル墜落がある。この年の8月に西側の政府やメディアはシリア政府軍がサリンを使ったと大合唱、軍事介入の理由ができたとしていた。このサリン情報が嘘だったことは本ブログで何度も説明したので、今回は割愛する。 イラクを先制攻撃する前と同じように西側は好戦的な雰囲気を作りだし、NATOによるシリア攻撃が迫っていると言われていた。そうした中、地中海の中央から東へ向かって2発のミサイルが発射されたのだが、これらは途中で海へ落下してしまう。ミサイル発射はロシアの早期警戒システムが探知、その事実はすぐに公表された。 その後、イスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射テストだと発表しているのだが、ジャミングなどの手段で落とされたのではないかと推測する人もいる。テストなら事前に周辺国へ通告しているはずだが、そうした事実はない。 昨年9月30日にロシア軍はアル・カイダ系武装集団やダーイッシュに対する空爆を始めたが、この攻撃でもロシア軍の高い能力が誇示された。カスピ海の艦船から巡航ミサイルで正確にシリアのターゲットへ命中させるということも示している。それまでアメリカ支配層がロシアにはない能力と考えていたものだ。 内部告発支援グループのWikiLeaksによると、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領がロシア軍機の撃墜を決めたのは10月10日。トルコ軍のF-16戦闘機が待ち伏せ攻撃でロシア軍のSu-24爆撃機を撃墜したのは昨年11月24日。(詳細は割愛する。)トルコのアンカラではトルコ軍幹部とポール・セルバ米統合参謀本部副議長が11月24日から25日にかけて会談していた。ロシア軍機撃墜の黒幕はアメリカの好戦派だったと考えるべきだろう。 トルコはNATO加盟国であり、ロシア軍はNATOとの開戦を恐れて反撃できず、シリア北部での作戦遂行も諦めるとアメリカ側は考えていたとも言われている。その目論見通りになれば、シリア北部に「飛行禁止空域」ができ、アル・カイダ系武装集団やダーイッシュは自由に活動できる。 ところが、ロシアはミサイル巡洋艦のモスクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空システムS-400を配備し、約30機の戦闘機を「護衛」のために派遣してシリア北部の制空権を握ってしまった。さらに、アメリカが供給している対戦車ミサイルTOWに対抗するため、T-90戦車も送り込んだ。 アメリカ、サウジアラビア、トルコ、イスラエルなどが傭兵として使ってきたアル・カイダ系武装勢力やダーイッシュでシリアのバシャール・アル・アサド政権を倒すことが困難になり、侵略勢力は体勢を立て直さなければならなくなった。そこでスイスのジュネーブで和平交渉が始まるが、国連/アメリカは交渉を中断させた。 和平交渉が始まる直前、1月23日にジョー・バイデン米副大統領はトルコを訪問、シリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると語っている。アメリカの好戦派は話し合いが大嫌いで、2014年にはウクライナの混乱を話し合いで解決しようとしていたEUに対し、アメリカのビクトリア・ヌランド国務次官補は「EUなんかくそくらえ(F*ck the EU)」と口にしている。 サウジアラビア国防省やアメリカ国防長官の話だけでなく、シリアとの国境近くでトルコ軍は戦争の準備をしているかのような動きを見せているようで、ロシア国防省はトルコがシリアへの軍事侵攻を準備していると疑っている。トルコはイラクへ軍事侵攻、拠点を建設している。 また、シリアの北部では使われていなかった空軍基地の改修工事が行われているようである。情報会社のストラトフォーが公表した昨年12月28日に撮影されたという衛星写真には、700メートルの滑走路を1315メートルに延長する工事をしている様子が写っている。アメリカ軍は空軍基地の建設を否定、これが本当なら、特殊部隊が作戦遂行のために基地を建設している可能性がある。カーター国防長官は1月22日、陸軍第101空挺師団から1800名ほどをイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語ったが、すでにシリアではアメリカ海軍の特殊部隊SEALSを含む暗殺チームが活動中で、シリア入りしているイラン人やロシア人の殺害を目指しているという。 アメリカの好戦派、サウジアラビア、トルコ、イスラエルは窮地に陥った。その窮地から脱出するため、全面核戦争の脅しをかけている。安倍晋三政権の狂気もこうした動きと無縁ではないだろう。
2016.02.05
シリア北部の制空権を握ることに失敗したアメリカ/NATOはトルコ軍を使い、シリア領内への砲撃を行って2月1日にロシアの軍事顧問を殺害したと報道された。こうした攻撃を含め、シリアとの国境近くにおけるトルコ軍の動きからロシア国防省はトルコがシリアへの軍事侵攻を準備していると疑っている。 アメリカ/NATO側はロシア軍機が領空を侵犯したと宣伝。ロシア軍のSu-34戦闘爆撃機が1月29日にトルコ領空を侵犯したとトルコ政府は主張、アメリカ/NATOはそれをしているが、例によって証拠は示されていない。ロシア国防省は領空侵犯を否定した。 シリア領内ではアメリカ/NATO、ペルシャ湾岸産油国、イスラエルに操られた武装集団がロシア軍の空爆でダメージを受け、敗走している。こうした戦闘集団の黒幕たちの計画が崩れ始めているわけで、自らが攻撃するしかかない状況になっているのだろう。 すでにトルコはイラクへ軍事侵攻、拠点を建設、アメリカ軍はシリア北部で空軍基地を建設していると言われている。情報会社のストラトフォーが公表した昨年12月28日に撮影されたという衛星写真には、700メートルの滑走路を1315メートルに延長する工事をしている様子が写っている。また、アシュトン・カーター国防長官は1月22日、陸軍第101空挺師団から1800名ほどをイラクのモスルやシリアのラッカへ派遣すると語った。 追い詰められている侵略勢力としては、NATO加盟国であるトルコにロシアと戦争する姿勢を見せさせ、ロシアに圧力を加えているつもりだろう。ロシアはNATOとの戦争を避けたいはずで、妥協するだろうと期待しているのかもしれないが、これまでもそうした脅しは通用しなかった。 ここでアメリカの好戦派が考えていたことを振り返ってみよう。 まず、1991年にネオコン/シオニストのポール・ウォルフォウィッツ国防次官(当時)がイラク、シリア、イランを5年以内に殲滅すると語ったという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官の証言。同元最高司令官はCNNの番組で、アメリカの友好国と同盟国がISを作り上げたとも語っている。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されて間もなく、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の周辺ではイラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランを攻撃する計画を立てていたともクラーク元最高司令官は語っている。 アメリカ支配層に近いフォーリン・アフェアーズ誌の2006年3月/4月号に掲載されたキール・リーバーとダリル・プレスの論文「未来のための変革と再編」には、ロシアと中国の長距離核兵器をアメリカの先制第1撃で破壊できると主張されていた。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアはシリアやイラン、そしてレバノンのヒズボラに対するにした秘密工作を始めたと書いたのはその翌年のことだ。 1991年の発言はソ連消滅を見通してのことだったはず。ソ連を消滅させ、ロシアを新自由主義に蹂躙させたボリス・エリツィン大統領はアメリカ支配層の傀儡で、その計画に抵抗するはずはなかった。しかも、ロシアの武器/兵器は時代遅れで役に立たない代物だという思い込みもあったようだ。 そうした前提でアメリカ支配層の世界制覇プロジェクトはスタートしたのだが、その途中、ロシアではウラジミル・プーチンが母国を再独立させることに成功、アメリカ支配層の前に立ちはだかっている。しかも、シリアではロシアの武器/兵器が優秀だということを全世界に知らしめた。通常兵器の戦闘でアメリカ/NATO軍はロシア軍に勝てないという分析もアメリカ軍の内部から出ている。プロジェクトの前提が崩れてしまったわけだが、ネオコンは軌道修正できず、第3次世界大戦へ向かってアクセルを踏み込んでいる。 何をしでかすかわからないと相手に思わせ、自分たちの目的を達成しようという「狂犬理論」があるが、現在のアメリカ/NATO、サウジアラビア、イスラエルなどは本当の狂犬になっている。
2016.02.05
TPP(環太平洋連携協定)に12カ国、つまりオーストラリア、ブルネイ、ベトナム、カナダ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、アメリカ、シンガポール、チリ、そして日本が2月4日に署名、これから各国政府は批准に向かって活動を本格化するのだろう。 このうちブルネイ、ニュージーランド、アメリカ、シンガポール、チリの5カ国は2008年2月から交渉を始めているが、オーストラリア、ベトナム、ペルーは同年11月から、マレーシア、メキシコ、カナダは2010年10月から、そして日本は2013年5月からだ。 1981年7月から2003年10月までマレーシアの首相を務めたマハティール・ビン・モハマドはアメリカから自立した人物として知られていたが、2009年4月の首相となったナジブ・ラザクは違うようだ。首相就任の翌年にTPPに参加、13年に再選される直前にはサウジアラビア王室から6億8100万ドル受け取っていたことが確認されている。 言うまでもなく、TPPで最大の問題はISDS(投資家対国家紛争解決)条項。巨大なカネ儲け集団と国の利害が対立した場合、カネ儲け集団と密接な関係にあると見られる法律家が紛争を解決するわけで、国のあり方を決める大きな問題では立法府も司法府も存在する意味がなくなる。 法律家の話を聞くと、この問題には法律体系の問題があるという。TPPの場合、アメリカのほかオーストラリア、カナダ、ニュージーランドは判例法を基本とする英米法の国。これらの国々の母国語は英語で、イギリスを加えた5カ国はUKUSAという電子情報機関の連合体を形成している。ちなみにUKUSAとは「UK(イギリス)+USA(アメリカ)」で、この両国が中心。他の3カ国は米英に従属している。 それに対し、日本は国会で制定された法律が基本の大陸法を採用しているので、統一した法体系を作りあげることは不可能で、衝突してしまう。そこで仲裁ということになると出てくる法律家は英米法の人間だと考えなければならないだろう。何しろ、TPPで日本以外の主要国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、アメリカは英米法の国だ。こうした問題で日本が主導権をとることなどありえない。 ISDS条項によって、巨大企業のカネ儲けを阻むような法律や規制を政府や議会が作ったなら企業は賠償を請求できることになり、健康、労働、環境など人びとの健康や生活を国が守ることは難しくなるが、それだけでなく、日本の法体系が破壊させられる可能性もあるわけだ。 TPPはTTIP(環大西洋貿易投資協定)やTiSA(新サービス貿易協定)とセットになってアメリカを拠点とする巨大資本が参加国を支配する仕組み。アメリカを含め、どの国の国民にとっても百害あって一利なしなのだが、各国の「エリート」は自国の破壊に熱心である。 これまで何度も書いてきたが、ウォール街がクーデターで排除しようとしたフランクリン・ルーズベルト大統領は1938年4月29日、ファシズムについて次のように語っている。「もし、私的権力が自分たちの民主的国家より強くなるまで強大化することを人びとが許すなら、民主主義の権利は危うくなる。本質的に、個人、あるいは私的権力をコントロールするグループ、あるいはそれに類する何らかの存在による政府の所有こそがファシズムだ。」 TPP、TTIP、TiSAはファシズムの支配圏を作りだし、中国やロシアを中心とする勢力を締め上げようという目論見でもある。アメリカ巨大資本の強欲さが国を破壊し、国民を困窮させることは米韓FTAでも明らかだが、その問題を日本のマスコミも知らない振りをしている。
2016.02.04
支配層がメディアをプロパガンダ機関と位置づけるのは古今東西を問わない。アメリカの場合はカネの力で支配、表面的には「言論機関」であるかのように装ってきたのだが、最近は露骨に偽情報を流し、嘘が発覚しても平然としている。西側の有力メディアは自分たちの宣伝力を過信しているのか、そうしたことをかまっていられないほど追い詰められているのか・・・ そうした状況がここにきて変化してきている。西側各国のアメリカ支配層に対する従属度が低下してきているように見えるのだ。そうした変化を感じさせる一例がフランスのテレビ局が放送したウクライナに関するドキュメンタリー。クーデターで誕生したキエフ政権とネオ・ナチ(ステファン・バンデラ派)との関係が指摘されている。本ブログでは何度も書いたことだが、ネオコンは2014年2月22日に合法的に選出されたビクトル・ヤヌコビッチを排除したが、その手先として動いたのがネオ・ナチだ。 ウクライナを制圧するべきだと主張していた中心人物は、ジミー・カーター政権で大統領補佐官を務め、アフガニスタンへソ連軍を誘い込んで戦争を始める秘密工作を考えたズビグネフ・ブレジンスキー。ポーランドのワルシャワでユダヤ系貴族の子どもとして生まれたが、先祖はブジェジャヌイ(現在はウクライナ領)に住んでいたと言われている。ブレジンスキーは嫌ロシア派として知られているが、その一因は彼の出自が関係しているのだろう。 ブレジンスキーの戦略はハルフォード・マッキンダーが1904年に公表した「ハートランド理論」の影響を強く受けている。この理論は世界を三つの島として分けて考える。つまり、第1にヨーロッパ、アジア、アフリカを「世界島」、第2にイギリスや日本などを「沖合諸島」、そして第3に南北アメリカやオーストラリアを「遠方諸島」と表現する。 マッキンダーによると、世界を支配するためには世界島を支配しなければならず、そのためにはハートランドを支配しなければならず、そのためには東ヨーロッパを支配しなければならない。ハートランドとは広大な領土、豊富な天然資源、そして多くの人口を抱えるロシアであり、ブレジンスキーはロシアを占領するためにウクライナを支配する必要があると考えている。 そのハートランドを締め上げるため、マッキンダーは西ヨーロッパ、アラビア半島、インド、東南アジア諸国、朝鮮半島をつなぐ「内部三日月帯」、その外側に「外部三日月地帯」を想定した。日本は内部三日月帯の東端ということになる。周囲を海に囲まれた日本はイギリスが中国を侵略する拠点としても最適だった。イギリスが日本の軍事力増強を支援、日英同盟を結んだ大きな理由はここにあるだろう。 ロシア支配を目論むもうひとりの有名人が投機家のジョージ・ソロス。この人物もユダヤ系で、生まれはハンガリーのブダペスト。ソ連が存在していたい当時は東ヨーロッパを資本主義化するために工作していた。ソ連消滅後、ロシアは西側の傀儡だったボリス・エリツィンが大統領として新自由主義経済を導入、クレムリンの腐敗勢力と外部の一部が手を組んで国の資産を略奪、「オリガルヒ」という富豪を生み出すと同時に庶民は貧困化していった。そのエリツィンが1999年12月に退陣、新たに登場したウラジミル・プーチンはロシアの再独立に成功した。 ウクライナを支配する工作をアメリカ政府はソ連が消滅した1991年から開始、2013年までに50億ドルをウクライナに投入したとアメリカのビクトリア・ヌランド国務次官補は2013年12月13日に米国ウクライナ基金の大会で明らかにしている。その際、彼女の背後には巨大石油企業シェブロンのマークが飾られていた。 そうした工作が始まって5年後、2004年11月にウクライナでは大統領選が実施され、アメリカ支配層にとって都合のヤヌコビッチが当選してしまった。そこで西側支配層を後ろ盾とするビクトル・ユシチェンコが「オレンジ革命」を開始、ヤヌコビッチを大統領の座から引きずり下ろすことに成功した。このユシチェンコ政権で2007年から10年にかけて首相を務めたユリア・ティモシェンコはソロスからアドバイスを受けていたと言われている。 ユシチェンコはエリツィンと同じように新自由主義経済を導入、ロシアと同じようにオリガルヒを生み出し、庶民は貧困化した。そこで2010年の大統領選挙ではヤヌコビッチがティモシェンコを破って当選した。この政権を倒したのが2014年2月のクーデターである。 クーデター前に議員だったオレグ・ツァロフによると、ウクライナを内戦状態にするプロジェクトはジェオフリー・パイアット米大使を中心に始められたが、その背後にいたのがヌランド国務次官補。ネオコン/シオニストの大物、ロバート・ケーガンの妻だ。 ヌランド次官補は「ヤヌコビッチ後」の閣僚人事についてパイアット大使と電話で話し合っている。その音声が2月4日にYouTubeへアップロードされた。その中で高く評価したいた人物がアルセニー・ヤツェニュク。クーデター後、首相を務めている。その段階でヌランドは暴力的に政権を奪取するつもりで、話し合いで解決しようとしていたEUが気に入らなかった。そこで「EUなんかくそくらえ(F*ck the EU)」と口にしたわけである。 クーデターへの反応が早かったクリミアの住民は武装勢力の侵入を阻止、自立への道を歩き始めるが、2014年5月2日にはオデッサで住民がクーデター派に虐殺され、5月9日にはキエフ軍の戦車がドネツク州マリウポリ市に突入、民族浄化作戦が始まって戦闘になった。(こうした戦闘の実態は本ブログで何度も書いてきたので、今回は割愛する。) ウクライナのクーデターに反発する人は軍や治安機関の内部にもいて、ドネツクを含むドンバスの義勇軍へ合流したと言われている。そうしたこともあってドンバスではキエフ軍が劣勢になるのだが、それを認めたくない西側の政府やメディアは根拠を示すことなく「ロシア軍の侵略」を宣伝していた。今回、フランスで放送されたドキュメンタリーはこうした西側メディアの嘘を明らかにすることにもなった。報道の自由のない西側を民主主義体制だと言うことはできない。そうした中、日本でも「メディアの異常」が起こっている。
2016.02.04
アメリカで大統領選が本格化したようだ。共和党と民主党の候補者選びが始まったのだが、この「2大政党」以外の政党はメディアから無視されている。しかも、2000年の選挙では投票妨害や票数のカウントでの不正が浮上、システムの電子化によって票数の操作は容易になった。そうした環境下での選挙だ。 こうした不正行為は勿論だが、アメリカの選挙制度自体にも大きな問題がある。「選択肢がない」という状態を作り出している2大政党制が維持されている原因のひとつは小選挙区制にある。その小選挙区制を日本に導入したのは「選択肢をなくす」ことにあったのだろう。その目論見は成功、今では事実上の一党独裁制だ。 小選挙区制以外にもアメリカの選挙を歪めている要素がある。選挙資金の問題だ。同国の最高裁は2010年1月、政府が非営利団体による独立した政治的な支出を規制することを禁じるルールを営利団体や労働組合などにも拡大する判決を出している。 つまり、「スーパーPAC(政治活動委員会)」を利用すれば無制限に資金を集め、使えるということであり、富豪や巨大企業による政治家の買収を最高裁が認めたとも批判されている。外国の政府や勢力が政治家を買収することも可能であり、実際、そうしたことが行われている。 際限なく政治家に寄付できるという判決を批判しているひとりがジミー・カーター元米大統領で、2010年の最高裁判決は「政治システムにおいてアメリカを偉大な国にしていた本質を壊した」と主張、大統領候補や大統領だけでなく知事や議員を際限なく政治的に買収する寡頭政治を出現させたとしている。選挙の後、資金提供の見返りとして富豪や巨大企業が臨む政策を進めることになり、そこに民主主義は存在しない。 アメリカ国内で政治家を合法的に買収する手段を手に入れた富豪や巨大企業、つまり支配階級は国外の利権を拡大しようとしている。アメリカの軍隊や情報機関を私的な欲望を実現するために使っているのだが、1980年代以降、「アウトソーシング」を推進している。「軍事会社」や「民間CIA」の設立だ。それと並行する形でワッハーブ派/サラフ主義者を中心とする傭兵の仕組みを作りあげている。かつてアメリカの支配層は軍事傀儡政権を樹立、手先として使ってきたが、1980年代からは「テロリスト」を使うようになった。イタリアで猛威を振るったNATOの秘密部隊「グラディオ」を基にしているのかもしれない。 ズビグネフ・ブレジンスキー大統領補佐官(当時)の秘密工作が成功してソ連軍をアフガニスタンへ引き込んだのが1979年。そのソ連軍と戦わせるために傭兵は使われた。当時、その傭兵を西側では「自由の戦士」と呼んでいたが、その中から「アル・カイダ」が生まれる。 このアル・カイダは統一された戦略、命令に従って動く軍事組織でなく、ロビン・クック元英外相が指摘したように、CIAが訓練した「ムジャヒディン」のコンピュータ・ファイルにすぎない。アル・カイダはアラビア語でベースを意味するが、「データベース」の訳語としても使われる。つまり、アル・カイダは戦闘員の登録リストにすぎず、雇用主が計画するプロジェクトに派遣されるだけだ。その雇用主とはアメリカ/NATO、ペルシャ湾岸産油国、イスラエル。最近ではNATO加盟国のトルコと湾岸産油国の中心的な存在であるサウジアラビアとの関係が強い。 アメリカの好戦派は「穏健派」なるタグを用い、自分たちがアル・カイダ系武装勢力やIS(ISIS、ISIL、ダーイッシュなどと表記)と対立関係にあるかのように装っているのだが、イスラエルは本音を隠していない。例えば、2013年9月には駐米イスラエル大使だったマイケル・オーレンはシリアのアサド体制よりアル・カイダの方がましだと語っている。 今年1月19日にはイスラエルのモシェ・ヤーロン国防相がイランとISIS(IS、ISIL、ダーイッシュなどとも表記)ならば、ISISを私は選ぶと発言したとINSS(国家安全保障研究所)で開かれた会議で発言している。そのヤーロン国防相が1月26日、盗掘石油の購入という形でISに資金を提供していると非難した国がトルコ。 このトルコがシリア侵略軍に拠点を提供していることは2011年春の段階で指摘されていたが、その後、トルコからシリアへ兵站線が延び、シリアやイラクで盗掘された石油がトルコへ運び込まれていることも知られるようになった。それをイスラエルの国防相が指摘したわけだ。 アメリカ、トルコ、サウジアラビア、イスラエルなどの支援を受けたアル・カイダ系武装勢力やISは勢力を拡大させていたが、昨年9月30日にシリア政府の要請を受けたロシアが空爆を始めると戦況は一変、侵略軍は敗走しはじめた。盗掘石油の関連施設や輸送車両も破壊され、トルコ政府の利権もダメージを受けた。ロシアの空爆は軍事演習レベルにすぎないのだが、効果的だった。アメリカの国防総省はIS対策を名目にして軍事予算の増額を求めているようだが、手に入れたカネは戦争ビジネスや「テロリスト」へ渡る。ロシア軍と戦うための資金としても使われるだろう。 そうした中、国連主導という形で和平交渉がスイスのジュネーブで始まったが、その直前、1月23日にジョー・バイデン米副大統領がトルコを訪問、シリアで続いている戦闘を軍事的に解決する用意があると語った。アメリカやトルコはシリアのバシャール・アル・アサド大統領の排除を目指していたが、ロシア軍の登場でそれは難しい状況。公正な選挙が実施されたならアサド大統領が続投することになるのは間違いないからだ。そこで、そうなった場合、アメリカはシリアに軍事侵攻するというように聞こえる。 このバイデン副大統領もトルコとISとの関係を知っている。彼自身、2014年10月2日にハーバード大学で、シリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。この問題を作り出したのは中東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ」と述べているのだ。あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してしまい、いたずらにISを増強させてしまったことをトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は後悔していたとも語ったのだが、そうした状況は続いてきた。その仕組みに打撃を与えているのがロシア軍だ。 バラク・オバマ政権では国防長官が昨年2月にチャック・ヘイゲルからアシュトン・カーターへ、また統合参謀本部議長が9月にマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代して好戦的な布陣になった。現在は自分たちが使っている侵略軍がロシア軍に押され、援軍を送り込んでも戦況を変えるには至っていない。 ロシア軍の空爆はアメリカ支配層にとってふたつの衝撃を与えた。ひとつは配下の侵略軍が敗走させられていることだが、もうひとつはロシア軍が予想以上に強かったということである。時代遅れの兵器しか持っていないと思い込み、ロシアと戦争になっても簡単に勝てると考えていたのだが、アメリカを上回る能力があることがわかったからだ。 ロシアの空爆を止めさせ、シリア北部の制空権を握ろうとしたのか、昨年11月24日にトルコ軍のF-16戦闘機がロシア軍のSu-24爆撃機を撃墜したが、最新の地対空ミサイルを配備され、ロシアに制空権を握られてしまった。とりあえず話し合いで時間稼ぎするしかない状況だ。 本ブログでは何度も書いてきたが、この撃墜は待ち伏せ攻撃。内部告発支援グループのWikiLeaksによると、エルドアン大統領がロシア軍機の撃墜を決めたのは10月10日。また、11月24日から25日にかけてトルコのアンカラでトルコ軍幹部とポール・セルバ米統合参謀本部副議長が会談したことも注目されている。 エルドアン大統領がロシア軍機の撃墜を決めた直後、ロシア軍の情報機関はその計画に関する情報を入手、ウラジミル・プーチン大統領へ報告していたと伝えられている。それほど無謀なことをトルコがするとプーチン大統領は考えず、報告を無視したと言われているが、侵略軍への攻撃を止めるわけにはいかず、打つ手はなかっただろう。 ロシア軍機撃墜の黒幕がアメリカの好戦派だった可能性は高いのだが、アメリカ大統領選の有力候補者は軍事や外交の分野において、そうした好戦派の戦略に従うとみられている。これまで最悪の事態を避けられたのはロシア政府が巧みに軍事衝突を避けてきたからだが、アメリカの大統領選挙が終わって時、新政権がアクセルを踏み込みすぎることはありえる。世界には絶望的な気持ちでアメリカの大統領選挙を見ている人が少なくないだろう。この選挙戦を競馬予想のようにしか報道できないマスコミは救いがたい。
2016.02.03
マレーシアのナジブ・ラザク首相がサウジアラビア王室から6億8100万ドルの受け取っていたことが確認された。2013年に再選される直前、タックスヘイブンの英領バージン諸島からスイスの銀行のシンガポール支店へというルートをカネは流れている。サウジアラビアはイスラム教ワッハーブ派(サラフ主義者)を国教にし、イランを中心とするイスラム教シーア派を敵視、そのシーア派をラザク首相は禁止したほか、キリスト教徒も弾圧している。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領へもサウジアラビアから資金が流れていると言われているが、マレーシアがトルコと同じことを始めたなら、東南アジアは戦乱で火と血の海になる。 アル・カイダ系武装集団やそこから派生したIS(ISIS、ISIL、ダーイッシュとも表記)の戦闘員の多くはワッハーブ派で、サウジアラビアはフィリピン南部を拠点とする同じような戦闘集団も支援、東南アジアに戦乱の種をまいていると言える。当然のことながら、ジョン・ブレナンCIA長官は黙認している。何しろ、アメリカの好戦派(ネオコン/シオニスト)はアル・カイダ系武装勢力やISを操る黒幕勢力の中心的存在だ。 2011年以降、アル・カイダ系武装勢力やISはシリアやリビアで体制転覆を目指す侵略戦争を続けてきた。そこにはロシアのチェチェンや中国の新疆ウイグル自治区からも戦闘員が送り込まれている。ウイグルの場合、トルコの情報機関MITが手引き、カンボジアやインドネシアを経由してシリアへ入っていると言われている。 そのインドネシアの首都ジャカルタでは今年1月14日に何回かの爆破と銃撃戦があり、攻撃グループの5名を含む7名が死亡したという。ISが攻撃を認めているようだ。アメリカへの従属度が高くないインドネシアに対する揺さぶりだとする見方もある。 ラザク首相が再選された直後、2014年3月8日にマレーシア航空370便(MH370)が行方不明になった。後に残骸が発見されたことになっているが、墜落したと断定することはできない。当時からインド洋の真ん中にあり、アメリカの重要な軍事基地があるイギリス領のディエゴ・ガルシア島へ降りたのではないかと推測する人は少なくない。 この行方不明事件には謎が少なくない。例えば、公開されたパイロットと管制官との7分間にわたる交信が編集されていたことが明らかになっている。常識的に考えると、隠さなければならない何かが記録されていたのだろう。 また、同機には2453キログラムの貨物が積まれていたのだが、221キログラムのリチウム・バッテリーをのぞき、その内容が明らかにされていない。公表されていない2トン以上の貨物が旅客機の行方不明と関係があるかもしれないと疑う人もいる。 この航空機に乗っていた4名の中国人が半導体の特許を持っていたことも注目されている。その特許を保有しているのは中国宿州出身の中国人4名とアメリカのテキサス州にある「フリースケール半導体」なる軍事関連の会社。4名はこの会社で働いていて、特許の権利はそれぞれ20%だった。4名の中国人がいなくなれば特許の権利は100%、フリースケール半導体が握ることになる。 フリースケール半導体は2004年にモトローラから分かれた会社で、電子戦やステルス技術が専門。ブラックストーン・グループのほか、ブッシュ家が関係しているカーライル・グループやイスラエル系アメリカ人の富豪デイビッド・ボンダーマンが会長を務めるTPGキャピタルが2006年に買収している。 グレイストーン・グループはジェイコブ・ロスチャイルドの金融機関。密接な関係のある会社のひとつ、ブラックロックを経営しているラリー・フィンクはアメリカとイスラエルの2重国籍。そのほか、投機家のジョージ・ソロスやキッシンジャー・アソシエイツも仲間のようだ。 そのほか、MH370にはアメリカ国防総省の20名も搭乗、いずれも電子戦の専門家で、レーダーの探知を回避する技術に精通していたという。しかも、そのうち少なくとも4名は不正なパスポートを使っていた疑いが持たれている。 MH370が行方不明になった4カ月後、つまり7月17日にウクライナでマレーシア航空17便が撃墜された。西側では「親ロシア派」、つまりキエフのクーデターに反対する勢力がブーク・ミサイル・システムで撃墜したと宣伝されていたが。このミサイルは発射された際に大きな音を出し、強烈な光を発する。しかも軌道に沿って白い煙を残していくのでつまり遠くからでも確認され、住民は気づく。携帯電話が普及している現在なら、誰かが映像を残しているはずだが、そうしたことはない。 それどころか、7月下旬にミサイルの発射地点とされた地域を調査したBBCロシアの取材チームに対し、旅客機の近くを戦闘機が飛んでいたと証言、キエフ軍の航空機は民間機の影に隠れながら爆撃しているという話も映像に記録している。ミサイルの発射地点とされた地域を調査したところ、ウクライナの治安機関SBUが主張する発射現場から実際にミサイルが発射されていないことを確認したとも報告している。勿論、BBCはこの映像をすぐに削除した。「嘘の帝国」では支配層にとって都合の悪い事実はないことにされる。 本ブログでは何度も書いたことだが、クーデター軍の戦闘機が発射した空対空ミサイルで撃墜された可能性が高いと考えられている。 現在、アメリカの好戦派は日本、フィリピン、ベトナムを軸にして中国を封じ込めようとしている。この3カ国にインド、韓国、オーストラリア、そして台湾を結びつけようとしているのだが、フィリピンとベトナムの中間にあるのが南沙群島(チュオンサ諸島、あるいはスプラトリー諸島)だ。そこへ最近、アメリカ軍は駆逐艦のカーティス・ウィルバーを送り込んで中国を挑発した。 アメリカは東アジアでの軍事的な緊張を高めようとしているが、そうした中、マレーシアやフィリピンを中心にワッハーブ派の戦闘集団を形成、シリアやリビアのような状態にすることを目論んでいる可能性がある。日本はイスラエルと同じようにアル・カイダ系武装集団やISから攻撃されることはないと考える人もいるだろうが、それは楽観的すぎる。日本には「核地雷」、つまり原発が乱立していることも忘れてはならない。
2016.02.02
シリアの和平交渉が国連主導という形で1月29日からスイスのジュネーブで始まった。昨年9月30日に始まったロシア軍による空爆で戦況は大きく変化、侵略勢力は敗走してシリア政府軍が重要地点を奪還しはじめ、侵略勢力も話し合いのテーブルに着かざるをえなくなったのだろう。アメリカをはじめとする西側のメディアはそうした実態を伝えず、アメリカ政府はロシアへの挑発を続けている。アメリカの好戦派は戦闘態勢を立て直すため、時間稼ぎに交渉を使うつもりかもしれない。 侵略勢力の中心はアメリカのネオコン/シオニスト、サウジアラビア、イスラエルの3カ国で、そこにカタールやトルコが加わる。最近は影が薄いものの、イギリスやフランスも当初は積極的に関わっていた。 中心の3カ国がシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始したとシーモア・ハーシュが書いたのは2007年3月5日付けニューヨーカー誌。シリア、イラン、ヒズボラを敵と位置づける発言は国務長官時代のコンドリーザ・ライスも口にしている。 シリアやイランの体制を転覆させようとする計画は遅くとも1991年に浮上している。この年、ネオコンで中心的な存在のひとりであるポール・ウォルフォウィッツはシリア、イラン、イラクを5年で殲滅すると口にしたという。これは欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の元最高司令官、ウェズリー・クラークの話だ。 サウジアラビアの国教はイスラム教のワッハーブ派(サラフ主義者)。ムスリム同胞団は1954年にエジプトのガマール・アブデル・ナセルを暗殺しようとして失敗、非合法化されたときにサウジアラビアへ逃れ、ワッハーブ派の影響を強く受けることになった。アメリカ、サウジアラビア、イスラエルの秘密工作でワッハーブ派やムスリム同胞団が戦闘集団の中心になるのは必然だった。 2012年8月にDIA(アメリカ軍の情報機関)が作成した文書でも、反シリア政府軍の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQI(アル・ヌスラは別名)だとしている。アル・カイダ系武装集団の戦闘員も多くはワッハーブ派やムスリム同胞団だ。西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコの支援を受けているとも報告している。 シリアより1カ月早く工作が始まったリビアではNATOが空爆、アル・カイダ系のLIFGが地上で戦うという役割分担で2011年10月にムアンマル・アル・カダフィ体制が倒されている。侵略勢力はシリアでも同じ戦略で攻めようとしたが、ここではロシアが立ちはだかり、失敗した。シリア政府軍による住民虐殺、あるいは化学兵器の使用といった偽情報を流したが、すぐに嘘だと発覚、NATOの介入は今のところ実現していない。 そうした偽情報を流したのはアメリカやイギリスの有力メディアをはじめとする西側の報道機関。嘘が発覚しても平然と新たな嘘を発信している。ウクライナでも同じことが行われた。(具体的な話は本ブログで書く続けてきたので、今回は割愛する。) ドイツの経済紙ハンデスブラットの発行人であるガボール・シュタイガートは「西側の間違った道」と題する評論の中で2014年8月、次のように問いかけている: 始まりはロシアがクリミアを侵略したためだったのか、それとも「西側」がウクライナを不安定化したためだったのか?ロシアが西へ領土を膨張させているのか、それともNATOが東へ拡大しているのか? 西側の政府やメディアはネオ・ナチ(ステファン・バンデラ派)によるクーデターを支持、クーデター政権による住民虐殺を無視、クリミアに駐留していたロシア軍を軍事侵略してきた部隊だと宣伝、それを真に受けてロシア政府を批判していた人たちは「リベラル派」や「革新勢力」の中にもいた。1997年にウクライナとロシアとの間で締結された協定によってロシア軍は2万5000名まで駐留することが認められ、実際には1万6000名が駐留していたのだが、侵略軍ではない。 こうしたプロパガンダが展開される中、CIAとメディアとの関係を告発する人物が現れた。そのひとりがドイツの有力紙、フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)の元編集者、ウド・ウルフコテだ。2014年2月、この問題に関する本を出している。 彼によると、ジャーナリストとして過ごした25年の間に嘘を教わったことは、嘘をつき、裏切り、人びとに真実を知らせないことで、ドイツやアメリカのメディアがヨーロッパの人びとをロシアとの戦争へと導き、引き返すことのできない地点にさしかかっていることに危機感を抱いたという。 ドイツだけでなく多くの国のジャーナリストがCIAに買収され、例えば、人びとがロシアに敵意を持つように誘導するプロパガンダを展開している。そうした仕組みを作り挙げるため、アメリカの支配層はドイツの有力な新聞、雑誌、ラジオ、テレビのジャーナリストを顎足つきでアメリカに招待、取り込んでいく。そうして築かれた「交友関係」を通じてジャーナリストは洗脳されるわけだ。 日本ではアメリカの有力メディアを「言論の自由」の象徴だと信じている人が少なくない。そうした誤ったイメージを作り上げる上で大きな役割を果たしたのがウォーターゲート事件だろう。 この事件を明るみに出したとして有名な記者はワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタイン。ウッドワードは1965年にエール大学を卒業してから海軍へ入り、69年から70年にかけてトーマス・モーラー海軍作戦部長(後に統合参謀本部議長)とアレキサンダー・ヘイグとの連絡係を務めていた。1971年にワシントン・ポスト紙へ入る際、元海軍長官で同紙のポール・イグナチウス社長の口添えがあったという。ウォーターゲート事件では「ディープ・スロート」なる情報源が登場するが、その情報源とつながっていたのはウッドワード。 実際の取材はバーンスタインが行ったと言われている。そのバーンスタインは1977年にワシントン・ポスト紙を辞め、その直後に「CIAとメディア」という記事をローリング・ストーン誌に書いているのだが、日本でこの記事に触れる人に会ったことはない。ウォータゲート事件に関する報道を誉め称えても、バーンスタインのこの記事は知らん振り、ということだ。 それはともかく、バーンスタインによると、まだメディアの統制が緩かった当時でも400名以上のジャーナリストがCIAのために働き、1950年から66年にかけて、ニューヨーク・タイムズ紙は少なくとも10名の工作員に架空の肩書きを提供しているとCIAの高官は語ったという。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977) 19世紀から支配層は新聞をプロパガンダの道具と認識していたが、第2次世界大戦後、アメリカでは組織的な情報操作を始める。そのプロジェクト「モッキンバード」で中心的な役割を果たしたのがアレン・ダレス、フランク・ウィズナー、リチャード・ヘルムズ、そしてフィリップ・グラハム。 ダレスはウォール街の弁護士で、戦時情報機関OSSでスイス支局長を務めて破壊活動を指揮、戦後も大きな影響力を持ち続けた人物。ウィズナーもウォール街の弁護士で、OSS時代からダレスの側近。ヘルムズもダレスの側近で、後にCIA長官になる。グラハムはワシントン・ポスト紙のオーナーで、妻のキャサリンは世界銀行の初代総裁に就任したユージン・メイアーの娘。 フィリップは1963年8月、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺される3カ月前に自殺、ワシントン・ポスト紙は妻のキャサリン・グラハムが引き継ぎ、ウォーターゲート事件の取材を指揮することになる。キャサリンは1988年、CIAの新人に対して次のように語ったという: 「我々は汚く危険な世界に生きている。一般大衆の知る必要がなく、知ってはならない情報がある。政府が合法的に秘密を維持することができ、新聞が知っている事実のうち何を報道するかを決めることができるとき、民主主義が花開くと私は信じている。」 彼女が考える「民主主義」や「言論の自由」は特権階級のものにすぎない。それがアメリカの実態で、支配層が庶民に信じさせたい話を流し続けてきた。 ロン・ポール元米下院議員は2008年に出版された自著『革命』の中で次のように書いている: 「嘘の帝国において、事実は反逆である」 勿論、「嘘の帝国」とはアメリカを指している。その帝国を支えている柱のひとつが有力メディアにほかならない。「調査報道云々」はこうした状況と無関係である。
2016.02.01
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