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女子柔道の日本代表監督が選手に対して暴力を振るったと告発されて戒告処分になり、辞意を表明したという。大阪では、市立高校のバスケットボール部で主将を務めていた生徒が顧問から執拗に暴力を振るわれ、自殺するという事件もあった。が、こうした出来事はスポーツ界や学校だけではなく、日本社会全体が抱えている問題である。 暴力を使うのは、相手を屈服させて支配と従属の関係を作り上げるため。つまり、選手なり部員なりの人格を傷つけ、あるいは破壊してロボット化し、監督なりコーチなりの考え方を刷り込み、新たな人格を作る手段。威張りたい、自慢したい、優越感に浸りたいだけで暴力を振るう「指導者」もいる。 こうした調教的な手法は「決まり事」を身につけさせるためには有効かもしれないが、状況を判断し、考える能力は育てられない。さまざまな場面で臨機応変に対応することができないということだ。 一連の暴力問題で奇妙なことがある。選手なり部員なりが反撃していないということである。ブラジル出身でサッカーの世界で生きてきたセルジオ越後によると、ブラジルで指導者が暴力と使えば殴り返されて乱闘になるという。正常な反応だ。つまり日本が異常だということ。異常な人間を作り上げている根幹には、明治から続く「教育(洗脳)」がある。 斎藤貴男の『機会不平等』によると、教育改革国民会議の議長だった江崎玲於奈はこんなことを言っている。 「いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞれの子供の遺伝情報に見合った教育をしていく形になっていきますよ。」 また、教育課程審議会の会長を務めたことのある三浦朱門は次のように語ったという。 「できん者はできんままで結構。戦後五十年、落ちこぼれの底辺を上げることにばかり注いできた労力を、できる者を限りなく伸ばすことに振り向ける。百人に一人でいい、やがて彼らが国を引っ張っていきます。限りなくできない非才、無才には、せめて実直な精神だけを養っておいてもらえばいいんです。」 要するに、庶民は「エリート」の命令通りに動くロボットにするということだ。 社会的に優位な立場を利用して富を独占する「1%」と、その「1%」への奉仕が強制されている「99%」、ふたつのグループができあがっているとアメリカで言われ始め、世界的にこうした認識は広がっている。 しかし、あぶく銭を手にする1%だけでは支配システムを維持できない。そこで、このシステムを動かす1割程度の幹部、現場で働く有期雇用の専門家が2、3割、そして残りは劣悪な労働条件で働かされる使い捨ての非正規採用の人たち・・・そういう社会構成が考えられていると分析する人もいる。 こうしたシステムを国民に受け入れさせるため、如何に理不尽な命令でも唯々諾々と従うように仕込んでおきたいと支配層は考えているはず。そうした人間を作り上げるための重要な手段がマスコミと教育。すでにマスコミは完全な権力の走狗。そして「教育改革」が進行中である。 かつて、日本軍は思考力を奪うために理不尽なことを兵士に強制し、屈服させて非人間的なことでもできる人間を作り上げようとした。いつ殺されるかわからないという恐怖感も人間を狂わせる。古参兵にしろ、下士官や将校にしろ、少なからぬ人たちは威張り、自慢し、優越感に浸るためにも、この仕組みを使っていたようだ。 こうした環境の中にいると思考停止の状況になるため、「戦場から反戦運動というものは絶対に出てきません」(むのたけじ著『戦争絶滅へ、人間復活へ』岩波新書、2008年)ということのようだ。 「戦場にいる男にとっては、セックスだけが「生きている」という実感になる。しかも、ものを奪う、火をつける、盗む、だます、強●する・・・ということが、戦場における特権として、これまでずっと黙認されてきました。」(前掲書) 「中国戦線では兵士に女性を●姦することも許し、南京では虐殺もした」が、あまりにも酷い状態になったため、強●した兵士は処刑するということにしたという。そして出てきたのがいわゆる「慰安婦」。こうした女性をむのたけじも新聞記者として取材、「女性たちにここへきた事情を聞くと、だまされた、おどされた、拉致された、というように、それは人によってさまざまだった」ようだ。(前掲書) 以前にも本ブログで書いたことだが、銀座あたりのクラブに通ったり、売春したり、●姦したりするのは性欲のためというより、威張りたい、自慢したい、支配欲を満足させたいといった感情からだ。 勿論、女性がカネで買われていたとしても許される話ではない。JPモルガン好みの経済政策が実施されたこともあり、1930年代に日本の農民は困窮、1934年に異常な冷害に襲われた東北地方では身売りが激増している。「狭義の強制」でなければ許されるということはない。 こうした事態を招く政策を推進した政府に怒りを感じるのは当然。そうした怒りが一因になり、1936年に「二・二六事件」が引き起こされた。二・二六事件に参加した将校のような人がいなくなったことを、安倍某は感謝するべきだろう。ちなみに当時、最もJPモルガンに近かった日本の政治家は井上準之助である。 学校やスポーツ界での出来事は社会の実態を映し出す鏡でもある。大阪の高校や女子柔道で問題になったことは、社会で起こっていることが映し出されているだけ。学校の卒業式で君が代の斉唱や日の丸の掲揚を強制するのも、教師や生徒を権威に従属させるための「儀式」であり、支配層に従わない教師に対する「体罰」。まつろわぬ人びとを屈服させるため、信念やプライドを砕き、自分たちに絶対服従させようとしているだけである。 実際のところ、 社会も暴力を受け入れてきた。暴力批判をするマスコミの記者たちの中でも「暴力はいけない」と本心から思っている人はどの程度いるだろうか?石原某や橋下某が人気になるのも、そうした「体罰」の効果なのかもしれない。こうした日本人の精神状態を「奴隷根性」と呼ぶ人もいる。
2013.01.31
アメリカをはじめとするNATO諸国はイスラム武装勢力を戦闘員として使い、軍事的に支援、サウジアラビアやカタールなどペルシャ湾岸の諸国が資金や武器を提供するという構図は1980年代からのもの。リビアやシリアの体制を転覆させるための軍事介入でもこの仕組みは生きている。 マリで活動している反政府勢力には、AQIM、MUJAO、アンサール・ア・ディーンといったアル・カイダ系武装集団、そしてトゥアレグ(遊牧民)系のMNLAがあると言われている。こうした武装勢力にカタールから資金が流れ込んでいるという情報があることはすでに書いた通りだ。 アル・カイダに資金を提供するカタールは許せない、と言うことはできない。アル・カイダの脅威を叫ぶ「西側」も似たようなことをしているからだ。 AQIMは2006年までGSPCと名乗り、アルジェリアを主な活動の舞台にしてきた。2007年1月にアル・カイダの正式加盟団体となり、AQIMへ名称を変更している。同じ年の11月にはリビアのLIFGもアル・カイダに正式加盟した。 言うまでもなくリビアとアルジェリアは隣同士。そうしたこともあり、AQIMとLIFGは緊密な関係にあると言われている。そのLIFGをNATOや湾岸諸国はリビアの体制を転覆させる、つまり国を乗っ取るための地上軍として使っていた。リビアでムアンマル・アル・カダフィ体制が倒れた後、戦闘員や武器がシリアへ移動したと伝えられているが、アルジェリアへも流れた可能性は高い。 アルジェリアの天然ガス関連施設が襲撃され、多くの死傷者が出る事件があった。この襲撃を命令したとのは「覆面旅団」のモクタール・ベルモフタールで、実行部隊を率いたのはアブドゥル・ラーマン・アル・ニジェリだと言われている。ベルモフタールは2005年にGSPCに参加した人物で、アル・ニジェリはニジェール出身の戦闘員だという。襲われた施設がリビアとの国境近くにあることから、LIFGが協力していると推測する人もいるが、真相は不明である。 しかし、LIFGが協力したとしても不思議ではない。それほどAQIMとは関係が深いのだ。「西側」のメディアは両者の関係を誤魔化しているようだが、ここにリビアやシリアにおける戦闘の本質が示されている。アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタールといった国々の支配層はアル・カイダを敵だとは見なしていない。そうとしか思えないのだ。 ソ連軍と戦う「自由の戦士」としてアメリカはイスラム武装勢力を作り上げ、そうした勢力の中から誕生したアル・カイダを「テロリスト」の象徴として使い、愛国者法というファシズム化法を作り上げた。この法律によってアメリカの憲法は機能不全の状態になっている。この法律の犠牲になっているのは、戦争や環境破壊に反対しするような人たち。支配層が考える「テロリスト」とは、こうした人びとである。 カタールはアル・カイダだけにカネを出しているわけではない。ここにきて、カタールからイスラエルの政界へもカネが渡っているという話が出てきた。イスラエルで閣僚経験のあるカディマのツィッピー・リブニによると、カタールからベンヤミン・ネタニヤフへ300万ドル、イスラエル我が家へ150万ドルが流れたというのである。その代償としてハマスに会うとネタニヤフは約束したのだという。 また、ここにきてシリアの体制転覆を目指しているカタールが政府軍とロシアの仕業だと見せかけて化学兵器を使う話を電子メールでしていることも明らかにされている。カネを出している以上、何が何でも見返りを得たいということかもしれない。 ここで思い出すのは、調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事。アメリカはイスラエルやサウジアラビアと手を組んでいるというのである。もっとも、ロナルド・レーガン政権時代にこの3国は結びついていた。アフガニスタンでソ連軍と戦う武装勢力を作り、イランに武器を密輸、ニカラグアの反革命ゲリラを秘密裏に支援していたのである。この段階で「ユダヤ対イスラム」は幻影だと気がつかなければならなかった。
2013.01.30
マリに軍事介入したフランスは、特殊部隊をニジェールへ送り込んだという。アルジェリアの天然ガス関連施設を襲撃した武装グループはニジェールから入ったと言われているが、そうした事情から特殊部隊が向かったのではなく、ニジェールにあるフランスの利権を守るためのようだ。フランスの国有会社、アレバは40年にわたり、ニジェールでウラニウムを掘り続けてきたのだが、最近は中国やインドが食い込んでいた。ここでも「西側」とBRICSの戦いがある。 アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権は2003年にイラクを先制攻撃した。この攻撃を正当化するため、イラクのサダム・フセインがニジェールからイエローケーキ(ウラン精鉱)を購入して核兵器を作ろうとしているとする話が流されている。それだけニジェールはウラニウム資源が豊富だということだ。 なお、この情報はジョセフ・ウィルソン元駐ガボン大使がCIAの依頼で調査、その情報が正しくないことを確認、CIAに報告している。IAEAも同じ結論に達していたが、そうした調査結果を無視してブッシュ大統領はフセインがアフリカから相当量のウランを入手しようとしていると発言、軍事侵攻に突き進んでいる。 その後、ウィルソンはニューヨーク・タイムズ紙で事実関係を明らかにしたのだが、その8日後にコラムニストのロバート・ノバクは、ウィルソンの妻であるバレリー・ウィルソンがCIAの非公然オフィサーだと明らかにしている。 資源の開発には環境破壊がつきものだが、ウラニウムの場合は特に深刻。ニジェールでは採掘のために40年間で2700億リットルの水を使って井戸を枯らし、現場に近い地域では飲料水が放射性物質で汚染されてしまった。大気の汚染も深刻で、呼吸器系の病気による死亡率は通常の2倍程度になっている。当然、大地も汚染されている。 住民は教育を受けられる環境になく、アレバが住民に正確な情報を提供しないことも被害を深刻にしている一因。住民側は報復を恐れ、自分たちの状況を伝えることができないともいう。アレバが住民のことを考えているとは思えない。人権や命が大切だとは考えていない。 日本の「エリート」たちが再稼働を目論む原子力発電所。この発電方法は社会的な弱者が犠牲になることで成り立っているわけだが、ニジェールではさらに深刻な状況のようである。そうした状況を作り出したアレバの利権を守るために戦うフランス軍。マリであろうと、アルジェリアであろうと、リビアであろうと、シリアであろうと、人の権利や生命を守るためにフランスが軍事介入したわけではない。
2013.01.30
朝鮮による昨年12月のロケット発射を受け、国連の安全保障理事会は制裁を強化すると決議した。これに対抗する形で金正恩第1書記は「強度の高い国家的重大措置を講じるという断固とした決心を表明」したと朝鮮中央放送は1月27日に報道、日本では核実験を実施すると理解されている。 発表の前、1月12日にフランスの通信社AFPは朝鮮の核実験に関する情報を伝えた。核実験の実施を朝鮮は中国に伝えたというのだ。韓国政府から流れてきた情報のようで、実施時期は13日から20日までの間だろうと推測されていた。この情報が正しいならば、中国との話し合いで発表が遅れたということになりそうだ。 中国は朝鮮に対し、新たなロケット発射など、国連を刺激するような行為を止めるように警告、強行するなら中国からの援助を減らすと伝えたようだ。朝鮮の言動を中国は苦々しく見ているわけだが、逆に最も喜んでいるのがアメリカの好戦派/ネオコン(親イスラエル派)。バラク・オバマ政権が東アジアの軍事的な緊張を緩和しようとしている中、朝鮮の強硬姿勢は願ってもないことだ。 朝鮮と中国との関係は協調されるが、それ以上に注目すべき国がある。イスラエルだ。東アジアで軍事的な緊張が高まることを願い、日本の支配層にもネオコンを介して強い影響力を持っている。 ロナルド・レーガン政権時代、アメリカの「破壊工作(テロ)人脈」はイランへ武器を密輸し、ニカラグアの反革命ゲリラを秘密裏に支援していたのだが、この工作にイスラエルのリクード(好戦派)も参加している。 この過程でイランから20万発のカチューシャ・ロケット弾の注文を受けたのがCIAの別働隊として知られていたGMT。ここからイスラエルに調達の依頼が入るのだが、旧式すぎて入手に手間取る。結局、これだけの量を保有していたのは朝鮮だけだった。そして取り引きが成立する。 その後、朝鮮とイスラエルの窓口になったのがショール・アイゼンベルグだと言われている。日本人の妻(信子)を持つ人物で、中国や韓国とも密接な関係にある。 アイゼンベルグは1921年にドイツのミュンヘンで生まれ、上海を経由して40年か41年に神戸へ来ている。日本では藤山愛一郎や渋沢正雄と知り合い、44年に結婚している。戦後はアメリカの第8軍を指揮していたロバート・アイケルバーガー中将の庇護を受けていたが、講和条約/安保条約が結ばれた後に拠点を日本からイスラエルへ移した。 ところで、日本の政府やマスコミは昨年12月に朝鮮が発射したものを「長距離弾道ミサイル」と表現、危機感を煽っている。日本や韓国で選挙が行われる中、好戦派を支援するかのような発射だったが、それはともかく、ロケットもミサイルも本質的に同じ。爆弾が搭載されているわけではなく、ミサイルだと主張するのは正しくない。 ロケットとミサイルは本質的に同じなわけだが、アメリカのワイアード誌も指摘しているように、違いもある。ロケットは衛星を周回軌道に乗せるため、一定以上のスピードを出す必要があるのだが、兵器としてのミサイルは落下させるので、そうした加速は必要なく、通常の衛星が周回する低地球軌道よりはるかに遠い高度を飛行するという違いもある。そうした観点から見ると、朝鮮はミサイルの発射実験をしたのでなく、ロケットで衛星を打ち上げる実験だったという。 朝鮮のロケット発射よりも「長距離弾道ミサイルの発射実験」と呼ぶに相応しいのは日本が開発を進めていたLUNAR-A。M-Vを使って探査機を打ち上げ、月を周回する軌道に入った段階で母船から観測器を搭載した2機の「ペネトレーター」を発射することになっていた。これは「MARV」の技術そのものである。 ソ連が消滅した直後、日本は秘密裏にSS-20の設計図とミサイルの第3段目の部品を入手、ミサイルに搭載された複数の弾頭を別々の位置に誘導する技術、つまりMARVを学んだと言われている。 LUNAR-Aの計画では、地震計と熱流量計が搭載されたペネトレーターを地面に突き刺し、2メートル前後の深さまで潜り込ませることになっていた。その際にかかる大きな圧力に耐えられる機器を作るために必要な技術があれば、小型のバンカー・バスターを製造できる。 それだけでなく、日本は兵器級のプルトニウムも保有している。これまで数十キロ単位で持っていると予測する人はいたが、CIAに太い情報パイプを持つジャーナリスト、ジョセフ・トレントは日本が保有する核兵器級のプルトニウムは70トンに達するとしている。 つまり、日本はすぐにでも相当数の「長距離弾道核ミサイル」を手にすることができる。2011年3月8日付けのインディペンデント紙に石原慎太郎都知事(当時)の核兵器に関する発言が掲載されたが、その背景にはこうした事情があった。 記事が掲載された翌日、三陸沖でマグニチュード7.3の地震があり、この地震に誘発されたかのようにして11日にマグニチュード9.0の巨大地震、「東北地方太平洋沖地震」が発生する。この巨大地震で東電の福島第1原発が「過酷事故」を起こしたわけだ。 ちなみに、東京電力は原発を警備するため、イスラエルのマグナBSPと契約、セキュリティ・システムを設置していた。同社の設置したカメラは放射能汚染の状況も把握する能力があるという。この件に関してはイスラエルのハーレツ紙やエルサレム・ポスト紙が報道している。
2013.01.28
2年前の1月、エジプトで大規模なデモがあった。チュニジアで体制が倒されたことに刺激を受け、ホスニー・ムバラク大統領に対する抗議が始まったと考えられている。そしてムバラクは権力の座から引きずり下ろされたが、まだエジプトは自由でも民主的でもない。左翼が分裂する中、大統領になったのはムハンマド・ムルシー。ムスリム同胞団の中でも右派に属すると言われ、サラフィ派からも支持されている人物だ。 サラフィ派は武装グループでも中心的な位置にあり、殺戮を繰り返してきた。例えば、シリアのホウラでも住民を虐殺している。「西側」のメディアはシリア政府軍による虐殺だと宣伝していたが、例えば、現地を調べた東方カトリックの修道院長も実行グループは政府軍と戦っているサラフィ主義者や外国人傭兵だと報告している。 そして今、エジプトでは反政府デモが展開され、多くの人が死傷しつつある。サッカー場の騒乱に関わった21名に死刑判決が出た26日、ポート・サイドで36名が死亡したようだが、新たな犠牲者が出て、4日目の段階で死者数は48名に達したという。 これも「アラブの春」がもたらしたひとつの結果。普通の人びとが覚醒しつつあるのかもしれない。反ムバラク運動で目立った4月6日運動のリーダーたちはアメリカ政府と接触していたのだが、一般庶民が覚醒したならば、そうした「エリート」は革命をコントロールできなくなるだろう。それが「革命」の第2幕である。 もっとも、バーレーンでも葬儀の参列者と警官隊が衝突、8歳の子どもが殺されたようで、人びとの怒りが膨らんでいるのはエジプトに限定されない。湾岸の独裁産油国でも不満のエネルギーは溜まっている。 リビアやシリアで起こった「アラブの春」はNATOや湾岸産油国が仕掛けたものだったことがわかっている。不満のエネルギーが溜まっているところに、アメリカ、イギリス、フランス、トルコ、サウジアラビア、カタールなどが火をつけ、体制の転覆を目指して介入しているのだ。 リビアでは地域間の対立が利用されていたが、国外からの傭兵も少なくなかった。シリアの場合は反政府軍の多くはサウジアラビアやカタールに雇われた傭兵で、「内乱」ではなく「軍事侵略」。リビアから移動した戦闘員も少なくないと言われている。傭兵たちの残虐行為は目にあまり、シリアでは政府に批判的だった人びとからも反政府軍は支持されていない。マリやアルジェリアでは、そうした戦闘員の本性がより明確になった。 本ブログでは何度も書いていることだが、リビアで地上軍の主力だったLIFGはアル・カイダ。アルジェリア/マリで活動しているAQIMはこのLIFGと緊密な関係にある。両組織は2007年からアル・カイダに正式加盟している。つまり、リビアやシリアでNATOや湾岸産油国はアル・カイダと同盟関係にある。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事で、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアは協力関係にあるとしている。ターゲットはイラクに続き、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンだったとウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官は語っている。 サウジアラビアだけでなく、ムスリム同胞団やサラフィ派もイスラエルと敵対関係にはない。2012年6月にはサラフィ派の宗教指導者、アブドラ・タミーミは「私たちの敵はイスラエルじゃありません。シリアの大統領が敵なんです」とイスラエルのテレビで語ったのだという。リビアやシリアの体制転覆作戦でアメリカ/NATOと手を組んだアル・カイダはイスラエルを攻撃したことがないという事実も興味深い。(重信メイ著『「アラブの春」の正体、角川書店、2012年) アルカイダの一派、LIFGの幹部たちはアフガニスタンでアメリカやパキスタンの情報機関などから訓練を受けているのだが、イギリスの場合、1996年にLIFGを手駒として利用している可能性が高い。イギリスのMI6(対外情報機関)はムアンマル・アル・カダフィの暗殺を計画、総額で16万ドルをLIFGに提供しているとMI5(イギリスの治安機関)の元オフィサー、デイビッド・セイラーも語っているのだ。 LIFGを含め、イスラム武装勢力を支援してきたのがサウジアラビアとカタール。武器を提供したり、傭兵を雇ったりしてきた。動きにくいNATOに代わり、直接的な支援活動を続けてきたわけだ。そのサウジアラビアとカタールが対立しているという話が流れている。 例えばシリアの場合、サウジアラビアは傭兵を使ってシリアを徹底的に破壊しようとしているのに対し、カタールはムスリム同胞団に支配させようとしているというのだ。つまり、カタールはシリアの破壊を望んでいるわけではなく、ロシア、トルコ、エジプトの政府高官と会い、シリア問題を協議しているという。シリアの体制転覆に手間取っているうちに、NATO/GCC/アル・カイダの結束力が弱まってきたようだ。
2013.01.27
アルジェリアの東部にある天然ガス関連施設を襲撃したグループに加わっていた3名が拘束された。そのうちのひとりの供述だとしてアルジェリア政府高官が語ったところによると、グループに参加していた複数のエジプト人が昨年9月、ベンガジのアメリカ領事館襲撃に参加したという。 領事館が襲撃された際、クリストファー・スティーブンス大使を含むアメリカ人4名が殺された。今回の証言が正しいならば、ふたつの可能性が高くなる。 つまり、多くの人が予想した通り、アル・カイダ系の武装グループが実行し、ムアンマル・アル・カダフィ体制を倒すまでは手を組んでいたアメリカとアル・カイダが何らかの事情で敵対するようになったのか、あるいは、どのようなグループにも雇われる傭兵だったということだ。 リビアの体制転覆ではNATO軍が空爆、イギリスやアメリカは特殊部隊や電子戦の専門家などを送り込んでいたが、あくまでも地上軍の主力はアル・カイダ系のLIFG。こうしたグループを含む反カダフィ軍の攻撃プランをMI6のオフィサーが添削して整え、イギリス軍は武器、通信機器、そして精鋭部隊をトリポリに送り込んでいる。イギリスの特殊部隊、SASも潜入していた疑いもある。 このLIFGはアルジェリアやマリで活動している武装集団、AQIMとは緊密な関係にあると言われている。今回、アルジェリアで天然ガス関連施設の襲撃を命令したというモクタール・ベルモフタールはAQIMの「元幹部」だ。 リビアのカダフィ体制が倒された直後、ベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられた。その映像がすぐにYouTubeにアップロードされ、「西側」のメディアもその事実を伝えている。その後、LIFG/アル・カイダの戦闘員が武器と一緒にシリアへ移動したと言われている。 アメリカ政府はベンガジの領事館を利用、シリアの反政府軍を支援する秘密工作を実行していたと推測している人物がいる。キリスト教原理主義(カルト)の狂信的な信者で、ジョージ・W・ブッシュ政権のときに国防副次官を務めたウィリアム・ボイキン中将。特殊部隊の出身で、CIAと仕事をしたこともある。 2011年4月にスティーブンは特使としてリビアへ入り、カダフィが殺された翌月、11月にリビアを離れている。体制転覆工作に関わっていたということだろう。そして2012年5月に大使としてリビアへ戻ってくる。ベンガジへ入るのは9月10日のこと。11日にトルコの外交官と会談した直後に襲われている。 シリアの反政府軍は2011年の春からトルコの米空軍インシルリク基地で訓練を受け、出撃拠点もトルコにあった。訓練の教官はアメリカのCIAや特殊部隊、イギリスとフランスの特殊部隊員だと伝えられている。リビアで体制が転覆した後、NATOの輸送機で武器がトルコへ運ばれたともいう。スティーブン大使はシリアの体制を転覆させる秘密工作を始めていたと疑われても仕方がないだろう。 では、なぜ殺されたのだろうか? 実は、襲撃したグループはまだ特定されていない。アル・カイダは仮説のひとつ。トルコ政府はシリア政府説、イスラエル政府はヒズボラ説、湾岸産油国はイラン説をそれぞれ唱えていたようだが、カダフィ派が実行した可能性もある。リビアでは「緑のレジスタンス」という言葉もあるようで、カダフィが惨殺された後もカダフィ派は活動を続けているとも言われている。 もし、領事館を襲撃したいはカダフィ派だったならば、今回、出てきた「供述」は嘘なのか、エジプト人が主義主張のない傭兵なのか、ということになるだろう。アフガニスタンにしろ、イラクにしろ、戦乱は続いている。リビアも同じような展開になる可能性がある。
2013.01.27
CIAが拷問(日本のマスコミは「過酷な尋問手法」と表現)を行っていることを告発した元CIAオフィサー、ジョン・キリアクーに対し、バージニア州東地区の連邦判事、レオニー・ブリンクマは懲役30カ月、つまり2年半を言い渡した。 拷問を内部告発した人物は厳しく罰せられ、拷問を指揮した人物は責任が問われない国がアメリカ。例えば、司法省の法律顧問として「拷問」にゴーサインを出したジョン・ユーは処罰されず、拷問に深く関与しているジョン・ブレナンはバラク・オバマ政権でCIA長官に指名されている。「自由」、「民主主義」、「人権」を看板に掲げながら、監視、拘束、拷問、最近では無人機を使った殺人も行っている。 勿論、ユーやブレナンの背後で拷問を認めていたジョージ・W・ブッシュ政権の高官たちも不問に付されている。本来なら、大統領だったブッシュだけでなく、副大統領だったリチャード・チェイニーや国防長官だったドナルド・ラムズフェルドたちも戦争犯罪人として裁かれなければならない。 情報を引き出すという点で拷問が有効でないことはすでに判明している。拷問に耐えられず、嘘を言うからだ。警察の取り調べでさえ、やってもいない犯罪を「自供」することが珍しくない。「テロとの戦争」でも、拷問された結果、いろいろな情報を話したというアブ・ズベイダの話も嘘のオンパレードだったことが明らかになっている。取り調べ側は、自分たちの描くシナリオを正当化するために嘘をつかせている可能性もある。 本ブログや拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』(三一書房、2005年)では書いたことだが、アメリカの支配層は第2次世界大戦の前から親ファシズムであり、ナチに資金を流していた。もし、1932年の大統領選挙でハーバート・フーバーが再選されていたなら、「ファシストに優しい」政策を展開したことだろう。 そうした流れを断ち切ったのが反ファシズムのフランクリン・ルーズベルト。大統領に就任する前に銃撃され、就任後には巨大金融機関のJPモルガンを中心とする勢力がルーズベルトを排除し、親ファシズムの政権を樹立するためのクーデターを計画している。関東大震災の復興資金を用立てたJPモルガンが日本に大きな影響力を及ぼしていたことも忘れてはならない。 名誉勲章を2度授与された伝説的な軍人、スメドレー・バトラー少将が計画に強く反対し、議会で告発したので計画は失敗に終わっただけである。「冗談」という弁解は通じない。戦時下ではルーズベルト大統領も動きづらかっただろうが、戦争が終われば、クーデター派に対する何らかのアクションもありえた。 しかし、大戦の終盤、1945年4月にルーズベルトは執務中に急死する。クーデター派にとってはさらに都合が良いことに、1944年の大統領選挙では反ファシスト派と見られていたヘンリー・ウォーレスが副大統領の座から引きずり下ろされ、政界の黒幕として有名だったトム・ペンダーガストの子分、ハリー・トルーマンが選ばれていた。 大戦後、アメリカ政府はナチの残党を匿い、逃走を助け、手先として雇ったが、親ファシスト派が実権を握ったことの必然的な結果だった。日本で「右旋回」が起こり、冷戦が始まり、世界各国で民主的に選ばれた政権をクーデターで倒していく原因でもある。 軍事クーデターを引き起こし、ベトナム戦争では農民を大量に虐殺したフェニックス・プログラムをCIA/特殊部隊は実行、ほかにも多くの秘密工作が行われたことが今ではわかっている。1970年代に行われた議会の調査で多くが明らかにされたのだ。 アメリカにOPCというテロ組織が存在したことも、この過程で判明している。なお、OPCは1950年代に入ってからCIA計画局、1970年代からは作戦局へ名称が変更され、2005年からNCS(国家秘密局)の一部になっている。 議会が調査を進めていた当時、ウィリアム・コルビーCIA長官がアメリカ支配層の暗部をかなり明らかにしたが、ほかにも少なからぬ内部告発があった。そこで、1970年代の後半からは告発が困難な仕組みに変更、メディアにいる気骨ある記者の排除も本格化していく。 そうした締め付けが続いているのだが、ブッシュ・ジュニア政権の反民主主義的な性格は目にあまったようで、内部告発者が出ている。そのひとりがキリアクーだった。ウィキリークス、あるいはインターネットの監視、検閲、弾圧を強化するCOICA(オンライン上の権利侵害や模倣と戦う法)と戦ったアーロン・シュワルツに対する攻撃も情報管理の強化が目的だろう。情報が漏れたなら、支配層の反民主主義的な体質が明確になってしまう。日本の官僚が情報公開に消極的な理由も同じだ。
2013.01.25
安倍晋三政権は不公正な政治経済システムを強化しようとしている。日米の巨大な多国籍企業、金融機関、こうした組織を動かしている一部の金持ち層へ富をさらに集中させようということだ。日本の経済、社会を建て直そうとしているとは思えない。むしろ破壊しようとしている。消費税率の引き上げは勿論、金融緩和も目的は一緒で、そこにある。政治、経済、環境などの政策を決定する権利をアメリカの巨大資本に贈呈するTPP、核兵器と結びついた原発の再稼働にも前向きだ。 社会的に優位な立場の人間に富が集中するのは資本主義に限った話ではないが、それを「善」だとするのは資本主義くらいであり、その「教義」を極限まで推し進めようとするのが新自由主義だ。 歴史的に見ると、宗教にしろ、哲学にしろ、思想にしろ、自己中心的な考え方を否定するのが普通。例えば、中国の墨子は「非攻」と「兼愛」を主張した。侵略せず、互いに相手を思いやれということ。カトリックも仏教もイスラムも貧困層を助けることは神/仏の意志に合致すると考えている。コミュニズムにも、共同体の構成員は互いに助け合うべきだという理念がある。 マックス・ウェーバーによると、ヨーロッパの中世では「世俗の乞食さえも折々は、有産者に慈善という善行の機会をあたえるところから、『身分』として認められ、評価されることがあった」(大塚久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波書店、1989年)という。これはカトリックの考え方だろう。 こうした考え方を否定するのがジャン・カルバンらが唱える「予定説」。アメリカの基礎を築いたとされるピルグリム・ファーザーズはピューリタンの一派で、カルバン派の流れに属している。 予定説によると、「神は人類のうち永遠の生命に予定された人びと」を選んだのだが、「これはすべて神の自由な恩恵と愛によるものであって、決して信仰あるいは善き行為」などのためではない(ウェストミンスター信仰告白)というのだ。つまり、人間にとって善行は無意味だということであり、自分が「選ばれた人間」だと信じる人びとは何をしても許されるということになる。 またウェーバーは、プロテスタンティズムの「禁欲」が「心理的効果として財の獲得を伝統主義的倫理の障害から解き放」ち、「利潤の追求を合法化したばかりでなく、それをまさしく神の意志に添うものと考えて、そうした伝統主義の桎梏を破砕してしまった」と分析している。こうして「禁欲」が「強欲」へと姿を変えていった。 実は、こうした「予定説」はカルバンが登場する遙か以前から存在している。例えば、紀元前に活躍した墨子もこうした考え方を批判(執有命者不仁)、「命(さだめ)」があるという考え(予定説)を政治に反映させるならば「天下の義(是非の道理)」を否定することになり、「上不聴治、下不従事(為政者は政務を執らず、庶民は仕事をしない)」ということになると批判している。(『墨子』、巻之九、非命上) 新自由主義は社会的に優位な人びとが築き上げた不公正な仕組みを肯定する。社会的な優位さを最大限、カネ儲けへ結びつけるための政策が「規制緩和」であり、社会の共有財産を奪う政策が「私有化」だ。さらに儲けるために行うのが外国への押し込み強盗。いわゆる「戦争」だ。 かつて、蓄積された富は生産活動に投入するしかなかった。19世紀のアメリカでは、不公正な手段で先住民や国民の財産を手に入れ、巨万の富を築く人たち、いわゆる「泥棒男爵」が登場するが、こうした人々は新たなビジネスを生み出している。 しかし、今は生産活動に投資する必要はない。1970年代、ロンドンを中心にオフショア市場(タックス・ヘイブン)の巨大なネットワークが築かれ、資産を隠し、課税を回避することが容易になって事態は一変したのだ。 ソ連消滅後、ボリス・エリツィン時代のロシアでは不公正な取り引きで巨万の富を築いた人びとがいる。いわゆる「オリガルヒ(寡占支配者)」だ。その代表的な人物がボリス・ベレゾフスキー。ウラジミール・プーチンが大統領になってからロンドンへ亡命している。このオルガルヒは溜め込んだ資産を生産活動には回さずに地下へ沈め、投機市場で運用している。その資金ルートになっているのがロンドンを中心とするオフショア市場のネットワーク。 エリツィン時代のロシアにおける略奪は露骨だったが、ほかの国々も基本的には同じ。日本も例外ではない。「金融緩和」で通貨の供給量を増やしても、その行き先は金融の世界、つまり投機市場。喜ぶのは金融市場の住人、つまり多国籍企業、巨大金融機関、ファンド、そうした組織から利益を得ている富裕層だけだ。 世界的に経済と金融の問題は深刻になっている。金融の肥大化を止めない限り経済は立ち直らない。金融機関やファンドに情報の開示を義務づけ、規制を強化し、違法行為は厳しく罰する必要がある。ロンドンを中心とするオフショア市場のネットワークにメスを入れなければならない。そうしなければ、金融が肥大化する一方で経済は衰退し、結局は現在の政治経済システムが崩壊する。 しかし、アメリカやイギリスでは庶民の不満をファシズム化で抑え込もうとしている。監視システムを強化し、逮捕、拘束に対する規制をなくす方向に向かっている。アメリカの「愛国者法」もそうした中で作られた。 実は、1970年代にオフショア市場が整備されて金融が急速に肥大化する中、経済の破綻と社会不安の増大は見通されていた。そこでロナルド・レーガンは1982年、緊急時に憲法の機能を停止させる「COG」プロジェクトをスタートさせている。このプロジェクトは2001年9月11日の出来事でスウィッチが入り、動き始めた。「愛国者法」はそのひとつの結果。日本も同じ方向、ファシズムに向かって動いている。
2013.01.24
マリ政府とアル・カイダは同じベッドの中にいるとトゥアレグ(遊牧民)系の反政府派は主張してきた。2011年に政府軍を離脱、トゥアレグ系の組織に合流したハビ・アル・サラト元大佐も、マリのアル・カイダには行動の自由が与えられているとしている。トゥアルグの反政府活動を牽制することが目的だというのだ。 アルジェリアの東部にある天然ガス関連施設に対する襲撃を命令したと言われているモクタール・ベルモフタールはアル・カイダの正式加盟組織、AQIMの「元幹部」で、現在はAQIMから分離したMUJAOに参加している。マリで活動している別の組織、アンサール・ア・ディーンを率いるイヤド・アグ・ガリーはAQIMで司令官を務めるハマダ・アグ・ハマの甥である。 ちなみに、AQIMとは「Al-Qaeda in the Islamic Maghreb(イスラムのマグレブにおけるアル・カイダ)」の略称。マグレブはチュニジア、アルジェリア、モロッコの総称である。つまりAQIMはアル・カイダ。MUJAOもアンサール・ア・ディーンもアル・カイダに近い武装集団ということになる。リビアでNATO軍と同盟関係にあったアル・カイダの正式加盟組織LIFGもAQIMと緊密な関係にある。 AQIM、MUJAO、アンサール・ア・ディーンは近い関係にあるのだが、その出発点はアルジェリア。AQIMの前身、GSPCはアルジェリアで活動していた武装集団で、1998年にGIAから飛び出す形で誕生した。GIAは1992年にアルジェリアで組織されたのだが、殺戮と破壊を繰り返すだけで、一種の「死の部隊」だった。 さらに歴史をさかのぼるとアフガニスタンにたどりつく。これはLIFGも同じ。1980年代にソ連軍と戦っている、つまりアメリカの情報機関や軍から訓練を受け、武器の提供を受けていた。この当時からサウジアラビアはイスラム武装勢力に資金を提供、要するに雇っている。 こうした経緯を考えると、AQIM、MUJAO、アンサール・ア・ディーンにカタールから資金が提供されるのは自然。ところが、フランスから流れてくる情報によると、トゥアレグ系のMNLAも資金を受け取っている。マリ政府はMNLAを恐れていたのかもしれないが、カタールはマリとアルジェリアの体制を揺るがしてNATO軍が介入する道を切り開こうとしていたのだろう。マリ政府とアル・カイダは「同床異夢」だった可能性がある。 アル・カイダ系グループの存在を口実にしてフランスはマリに軍事介入したが、アメリカ軍は来年からアフリカの約35カ国に顧問団を派遣し、訓練するという。2007年にアメリカ政府はAFRICOM(アメリカ・アフリカ統合軍)の創設を発表、翌年に活動を始めたのだが、アフリカ諸国から拒否され、本部はドイツにある。 アフリカ各国の軍隊を訓練する目的はAFRICOMの創設と同じだろう。AFICOMを創設した真の目的はBRICS、特に中国対策だと考えられている。アフリカから中国の影響力を消し去り、「西側」に従属させるということ。言葉を換えると、アフリカを支配する仕掛け。 ソ連圏からの攻撃に備えるという名目で創設されたNATOと似た目的で作られたと言える。NATOを組織した真の目的は米英両国のヨーロッパ支配、米英の利権を維持拡大することにある。(本ブログや拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』で説明しているので、ここでは割愛する)だからこそソ連が消滅した現在でも存在意義は失われず、解体されないのだ。軍や情報機関のネットワークは「国家内国家」を作り出し、国の組織を内側から蝕んでいくことになる。日米同盟も同じことが言える。日本を支配する仕組みだということである。
2013.01.23
アルジェリアの東部にある天然ガス関連施設に立てこもっていた武装勢力は政府軍に制圧されたが、その際に複数の日本人も犠牲になったという。日本国内では自衛隊の外国への派遣、さらに「一定の武器使用」も認めようという発言も出ているようだ。 ストレートに表現すると反発があると予想される場合に使われるのが「一定の」という曖昧な語句。ほとんど意味はなく、今回の出来事を利用し、自衛隊を海外へ派兵する方向へ前進しようとしているとしか思えない。 今回の事件で多くの死傷者が出たことに関し、「関係国との事前協議や通告」がなかったとアルジェリア政府を批判、さらにアルジェリアが「警察国家」だと攻撃する声が聞こえてくる。奴隷国家のサウジアラビアについては沈黙しても、アル・カイダの攻撃を受けているアルジェリアは批判するのが「西側」だ。 本ブログでも何度か書いたことだが、今回の襲撃を命令したのはAQIMの「元幹部」で現在はMUJAOに参加しているモクタール・ベルモフタールだと言われている。MUJAOはAQIMから分離、両グループは対立しているかのような主張もあるが、いずれもカタールの支援を受けていると報道されている。 フランスの軍情報機関DRMから流れてくる情報によると、AQIMやMUJAOだけではなく、AQIMで司令官を務めるハマダ・アグ・ハマの甥、イヤド・アグ・ガリーが率いるアンサール・ア・ディーン、またトゥアレグ(遊牧民)系のMNLAにもカタールから資金が流れ込んでいる。アンサール・ア・ディーンのトップはサウジアラビアに近いとも言われている。 リビアやシリアで体制転覆を目指してゲリラ戦を展開している武装勢力もサウジアラビアやカタールから資金や武器を提供されている。こうした湾岸産油国と手を組んでいるのがアメリカやイスラエル。アメリカはNATOをカモフラージュに使い、イギリス、フランス、トルコも同盟に加わっている。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制はNATO軍の空爆とLIFGの地上での攻撃で倒された。このLIFGがアル・カイダのメンバーだということは自他共に認めるところ。本ブログでも書いたことだが、LIFGがアル・カイダの正式加盟グループになった2007年にAQIMもアル・カイダに正式加盟している。この加盟に際し、名称をGSPCからAQIMへ変えたのである。 もっとも、AQIMの幹部は大半がアフガニスタンでソ連軍と戦った、つまりアメリカの情報機関や軍から訓練を受けた「同志」。「正式加盟」の前からAQIMはアル・カイダとつながっていた。 カダフィ体制が倒れた後、LIFGに参加していた相当数の戦闘員がシリアへ移動、一部はアルジェリアやマリへ流れた。その際、当然、武器も持ち込まれている。こうした展開はカダフィ体制が崩壊する前から予想されたことで、アルジェリア政府も次は自分たちがターゲットになると警戒していた。アル・カイダの背後にNATOや湾岸産油国がいることをアルジェリア政府は承知していたはずで、今回の襲撃でも「西側」の国を信頼していなかっただろう。 金、ダイヤモンド、希少金属、石油、ウラニウムなどの資源が眠る地域の真ん中にマリはある。このマリを不安定化させたのが昨年3月のクーデター。指揮したアマドゥ・サノゴがアメリカで訓練を受けた軍人だということは広く知られている。このクーデターを利用してMNLAは独立を宣言、アル・カイダ系のグループも動きを活発化させた。 マリをアフガニスタン化させ、武装集団を育成し、出撃拠点にすることができれば、周辺の資源国を破壊して利権を奪うことが容易になる。とりあえず北のアルジェリアがターゲットになりそうだ。今はフランスの動きは目立つが、今後、アメリカのAFRICOM(アフリカ統合軍)が前面に出てくるかもしれない。BRICS、特に中国を排除することも重要な課題になるだろう。
2013.01.22
中東やアフリカで戦乱が広がっている。この地域はかつてイギリスやフランスをはじめとする欧米の植民地。第2次世界大戦後はアメリカの影響力が拡大していたが、21世紀に入るとこうした「西側」の国々が保有していた利権が揺らぎ始めた。 その大きな原因はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)やSCO(中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタン)の台頭にある。BRICSはベネズエラなどのラテン・アメリカ諸国もつながり、SCOにはオブザーバー国としてインド、イラン、モンゴル、パキスタンが参加している。勿論、BRICSとSCOを結びつけているのは中国とロシアだ。 現在、「西側」の国々は揺らぎ始めた利権を取り戻し、さらに拡大しようとしている。そのひとつの結果が「アラブの春」。マリやアルジェリアでアル・カイダ系武装集団が活発に動き始めた理由もその辺にあるだろう。好戦的な雰囲気を高めるためにメディアが果たした役割も忘れてはならない。 ネオコン(アメリカの親イスラエル派)に支えられたジョージ・W・ブッシュが大統領に就任した2001年の9月11日に大きな出来事があった。ニューヨークの世界貿易センターにそびえていた超高層ビル2棟に航空機が突入、国防総省の本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたのである。その後、アメリカは中東に軍事侵攻、国内ではファシズム化が急速に進む。 9/11から10日後の時点でブッシュ・ジュニア政権はイラク攻撃を決定、6週間後にはイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンが攻撃予定国のリストに載っていたとクラーク大将は語っている。 中東/北アフリカでは中国とアメリカは強力なライバル関係にあるが、経済面で強く結びついていることも事実。いわば、握手しながらナイフを突きつけ合っているような状態である。そうした中、日本は中国との軍事的な緊張を高めようとしている。 最近の動きを見ると、2010年9月に尖閣諸島の付近で操業していた中国の漁船を、海上保安庁が「日中漁業協定」を無視する形で取り締まり、その際に漁船が巡視船に衝突してきたとして船長を逮捕している。事件当時の国土交通大臣は前原誠司だった。 2011年12月には、ネオコンのシンクタンクとして有名な「ハドソン研究所」で石原伸晃が講演、尖閣諸島を公的な管理下に置き、自衛隊を常駐させ、軍事予算を大きく増やすべきだと発言、2012年4月には石原慎太郎がネオコン系のシンクタンク「ヘリテージ財団」主催のシンポジウムで講演し、尖閣諸島の魚釣島、北小島、南児島を東京都が買い取る意向を示した。 7月になると、「尖閣を含む領土・領海で不法行為が発生した場合は、自衛隊を用いることも含め毅然と対応する」と野田佳彦首相(当時)が発言、その翌日には森本敏防衛相も尖閣諸島で「自衛隊が活動することは法的に確保されている」と述べている。8月には日本の地方議員5名を含む10名が尖閣諸島に上陸、日の丸を掲げて中国人を挑発した。 今年に入ると岸田文雄外相がアメリカを訪問、1月18日に国務省でヒラリー・クリントン国務長官と記者会見している。クリントン長官はアメリカ政府の立場に変化がなく、領土問題に関しては中立の立場だと明言した。そのうえでアメリカ政府は「島々が日本の施政下にあることを認識し、日本による施政を弱体化させることをもとめるいかなる一方的な行為に反対し、全ての関係者に対し、事件が起こることを回避すること、平和的な方法によって不合意事項を扱っていくことを勧めます。」としている。 しかし、日本のマスコミは領土問題に関してアメリカは中立だという長官の発言を無視している。日本側は長官がもう少し踏み込んだ発言をしてくれると期待していたのかもしれない。 実は、外相が訪米する前、日本政府は中国を挑発して日中間の緊張を高めようとしている。中国側から攻撃的な反応を引き出し、アメリカ政府に厳しい姿勢をとらせようと思ったのかもしれない。 例えば、13日に陸上自衛隊の第1空挺団が「離島防衛」のシナリオで訓練を実施して中国を挑発、16日に安倍晋三首相は自民党の河井克行をベルギーに派遣してNATOのアンス・フォ・ラスムセン事務総長に「NATOとの安全保障上の連携強化を呼びかける首相親書」を手渡したという。NATOは中東/アフリカで軍事介入、ロシアや中国と対立しているわけで、中国に対する挑発と見られても仕方がない。 河井派遣の前日、15日には小野寺五典防衛相が記者会見で「中国の飛行機が日本のいわゆる領空に入ってきた場合、この警告射撃ということは、ありうるということでしょうか。」と記者に質問され、「どこの国も、それぞれ自国の領空に他国の航空機が入って来て、さまざまな警告をした中でも退去しない、領空侵犯を行った場合、これはそれぞれの国がそれぞれの対応を取っておりますし、我が国としても、国際的な基準に合わせて間違いのない対応を備えていると思っています。」と答えている。 尖閣諸島を特別扱いしない、つまり状況によっては警告射撃の可能性はあるということで、戦争を辞さないとも聞こえる。菅義偉官房長官も16日の記者会見で小野寺大臣と同じ趣旨のことを述べた。 前原にしろ石原親子にしろ、安倍晋三政権にしろ、ネオコンの強い影響下にあり、バラク・オバマ政権との間にすきま風が吹き込んでいる。ネオコンは中東/アフリカでの軍事行動を推進している勢力。その軍事行動でアル・カイダ系の武装集団と手を組んでいることは本ブログで何度か指摘した通りだ。 アル・カイダ系武装集団のスポンサーはサウジアラビア。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2007年に書いた記事の中で、アメリカ(当時はネオコン系のブッシュ・ジュニア政権)、イスラエル、サウジアラビアは協力関係にあると指摘している。
2013.01.21
天然ガス関連施設を襲った武装集団の掃討に成功したとアルジェリア政府は発表した。その際に人質7名のほか、武装集団の11名が死亡したという。 この襲撃を命令したのはAQIMの幹部だったモクタール・ベルモフタール、実行部隊を率いたのはアブドゥル・ラーマン・アル・ニジェリで、部隊はニジェールからアルジェリアへ侵入したと伝えられている。このニジェリは2005年にGSPC(後にAQIMへ名称変更)へ参加し、AQIMの幹部だったモクタール・ベルモフタールと知り合ったという。 1990年代に入ってから、つまりアフガニスタンからソ連軍が撤退して数年たってからアルジェリアではアル・カイダ系武装集団が体制の打倒を目指して動き始めた。1992年に創設されたGIAは住民を虐殺し、単に社会を破壊するだけ。当然、人びとの支持は得られず、自分たちがより良い社会を築くという理念は微塵も感じさせない集団だった。 このGIAから飛び出す形で1998年に生まれたのがGSPC。2006年にGSPCはアル・カイダに参加、2007年1月には正式加盟して名称をAQIMに改めた。もっとも、GSPCもアル・カイダもアフガニスタンでアメリカの情報機関/軍から訓練を受けた人びとで構成されているわけで、前からつながりはあった。AQIMはマリに勢力を拡大し、MUJAOが分離する。アンサール・ディーンもAQIMに近い。ベルモクタールはMUJAOに参加しているという。 また、AQIMと同じ年に正式なアル・カイダになったのがリビアのLIFG。NATO(フランス、イギリス、アメリカ)やサウジアラビアやカタールがムアンマル・アル・カダフィ体制を倒す際、地上軍の主力になったのがLIFGだった。LIFGで戦った戦闘員が武器を携えてシリアへ移動し、体制転覆を目指して殺戮と破壊を繰り返している。この軍事侵攻を「西側」のメディアも「偽情報」を流すことで支援してきた。 アフガニスタンでイスラム武装勢力が組織されて以来、この勢力のスポンサーはサウジアラビアであり、LIFGと結びついても不思議ではないのだが、それはNATO/湾岸産油国がLIFG、AQIM、アンサール・ディーン、MUJAO、つまりアル・カイダ系の武装集団とつながっていることを暗示する。今回、アルジェリアで天然ガス施設を襲ったという武装グループの背後にもNATO/湾岸産油国が存在している可能性がある。 1990年のイラク軍によるクウェート侵攻を受けて始まった湾岸戦争を切っ掛けにしてアル・カイダはアメリカと袂を分かったことになっているのだが、イスラム武装勢力は今でもアメリカの同盟国、サウジアラビアに雇われているのが実態。 アフガニスタンの麻薬取引にしても、その仕組みを作り上げたのはアメリカの情報機関であり、稼いだカネを隠し、洗浄するためには「西側」の金融システムの協力が必要である。BCCI、ナガン・ハンド銀行、ディーク社のような「CIAの銀行」もあったが、今では一般の金融機関が使われているようだ。 中東/北アフリカで民主化を求めるエネルギーが高まっていることは事実。そのエネルギーが「アラブの春」につながるのだが、そのエネルギーを「西側」がコントロールしている。チュニジアからはじまり、リビア、エジプト、シリアでの蜂起は西側から支援を受けていたのだが、湾岸産油国などでは死人を出すような激しい弾圧にも沈黙してきた。そして今、チュニジアの西にあるアルジェリアだ。 少なからぬ人が「アラブの春」を資源の支配と結びつけて考えている。例えば、エジプトからギリシャまで、地中海の東側に膨大な量の天然ガスや石油が眠っていることがわかっている。USGS(アメリカ地質調査所)の推定によると、天然ガスが9兆8000億立方メートル、石油が34億バーレルだという。ギリシャの財政破綻は巨大金融機関とファンドが演出しているが、これも調べる必要があるだろう。 また、リビアのカダフィはアフリカを統合し、欧米から自立させようとしていた。その核になる政策が「金貨ディナール」だったと言われている。貿易の決済でドルやユーロを使わないようにしようという計画だった。 しかし、アフリカに眠る莫大な量の資源を盗まなくては、欧米を中心にした現在の世界秩序は崩壊してしまう。カダフィ体制はきわめて危険な存在になっていた。そして今、フランス、イギリス、アメリカはアフリカに軍隊を送り込もうとしているのだが、その計画の成否はアル・カイダの活動にかかっている。
2013.01.19
鳩山由紀夫元首相を小野寺五典防衛相は「国賊」だとBSフジの番組で発言したのだという。尖閣諸島は日本と中国との間の係争地だと中国で語ったからだというが、係争地だと認めないということは、この件に関して中国とは問答無用、「中国政府を相手にせず」ということである。 日本政府は1895年1月に尖閣諸島を日本の領土にすることを閣議決定、この決定を金科玉条のように主張しているのが小野寺防衛相のような人びと。日清戦争の最中の決定であり、しかもこの決定を日本政府は少なくとも正式には公表していないのだが、そういうことは意に介していない。そして翌年の3月に日本が戦争で勝利、中国/清側は文句を言えない状況になった。その後、中国では他国の侵略を受け、内戦もあって国土は荒廃する。 中国を侵略していた国の代表格が日本だが、その日本は1945年にポツダム宣言を受け入れ、連合国に無条件降伏する。第2次世界大戦で敗北したわけだ。日本の戦後はポツダム宣言を受け入れるところから始まった。 そのポツダム宣言の第8条には次のように書かれている。 「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルヘク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルヘシ」 本州、北海道、九州、四国は日本領として認められているが、それ以外は連合国側が決めるとしている。1946年1月に出された「連合軍最高司令部訓令」によると、日本の領土とは4主要島のほか「対馬諸島、北緯30度以北の琉球諸島等を含む約1000の島」で、竹島、千島列島、歯舞群島、色丹島などは除かれている。(孫崎享著『日本の国境問題』) そしてカイロ宣言も日本は受け入れなければならない。カイロ宣言には次のようなことが書かれている。 「第一次世界戦争ノ開始以後ニ於テ日本国カ奪取シ又ハ占領シタル太平洋ニ於ケル一切ノ島嶼ヲ剥奪スルコト」、また「満洲、台湾及澎湖島ノ如キ日本国カ清国人ヨリ盗取シタル一切ノ地域ヲ中華民国ニ返還スルコト」、そして「暴力及貧慾ニ依リ日本国ノ略取シタル他ノ一切ノ地域ヨリ駆逐セラルヘシ」。 日本が中国人から奪った一切の地域を中国へ返還しろとされているのだが、尖閣諸島は日清戦争のドサクサ紛れに領土だと閣議決定、しかも外部に対しては宣言していない。歴史的な背景を云々かんぬんする以前に、ポツダム宣言/カイロ宣言で日本側の主張は揺らいでいる。少なくとも日本側は中国に対し、「問答無用」と言うわけにはいかない。 しかし、日本政府は尖閣諸島を係争地でないと主張している。尖閣諸島を自国の領土だと主張する中国の航空機が日本の主張する「防空識別圏」に入ればどうなるのかは明らかだ。その明らかなことを小野寺大臣は1月15日の記者会見で語っている。記者:「つまり、中国の飛行機が日本のいわゆる領空に入ってきた場合、この警告射撃ということは、ありうるということでしょうか。」大臣:「どこの国も、それぞれ自国の領空に他国の航空機が入って来て、さまざまな警告をした中でも退去しない、領空侵犯を行った場合、これはそれぞれの国がそれぞれの対応を取っておりますし、我が国としても、国際的な基準に合わせて間違いのない対応を備えていると思っています。」 尖閣諸島を特別扱いしないことを確認している。当然、状況によっては警告射撃の可能性はあるということ。菅義偉官房長官も16日の記者会見で、国際的な基準に基づいて、尖閣諸島に限らず、一般的に領空侵犯機に対しては、従前通りの厳正な対領空侵犯措置を実施する、と述べている。 尖閣諸島が係争地でないと主張する以上、警告射撃の可能性があるというのは必然的な結論。係争地でないとする主張が軍事衝突、戦争の勃発を引き起こしかねないことを再確認させる記者会見だった。
2013.01.18
アルジェリアの東部、イナメナスで天然ガス関連施設が襲われた。襲撃グループは人質をとって立てこもっていたが、軍の作戦で30名以上の人質が死亡、その中には7名の外国人が含まれているという。 フランス軍がマリに軍事介入する口実を作ったAQIMは元々アルジェリアで活動していた勢力。このことは本ブログでも書いた通りで、活動基盤はマリよりアルジェリアの方がしっかりしている。一昨年の8月、まだリビアで体制転覆を目指す戦争が続いている時期に、「次はアルジェリア」だと言われていた。 AQIMと一心同体の関係にあるLIFGはリビアでNATO軍が地上部隊として使っていた。1995年の創設され、指導部はアフガニスタンでソ連との戦争に参加していた人びと。つまり、アメリカの情報機関や軍の訓練や支援を受けている。 1996年にはムアンマル・アル・カダフィの暗殺を試みたが、その際にMI6(イギリスの対外情報機関)は、総額で16万ドルをLIFGに提供しているとMI5(イギリスの治安機関)の元オフィサー、デイビッド・セイラーも語っている。 勿論、イギリス政府はセイラーの主張を否定しているが、説得力があるとは言えない。イギリスのオブザーバー紙は、リビアの暗殺グループを動かしていた人物としてMI6のふたり、つまりリチャード・バートレットとデイビッド・ワトソンの名前を挙げている。 MI6は要人暗殺に逡巡するような組織ではない。例えば、1992年には、ユーゴスラビアのスロボダン・ミロセビッチ大統領の暗殺しようと検討している。必要ならば、いかなる手段でも使う。 当時、MI6の工作員として東ヨーロッパに潜入していたリチャード・トムリンソンによると、(1) セルビアの反体制ゲリラを使うか、(2) イギリスの特殊空挺部隊と特殊ボート戦隊を使うか、大統領がジュネーブの会議に出席する際、自動車事故に見せかけて殺害するか、ということが検討されたという。 検討の結果、暗殺は実行されずに空爆を選択した。1999年3月にNATOはユーゴスラビアを先制攻撃したのである。この際、事前にNATO側が偽情報を流していたことは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』に書いてある。このユーゴスラビアへの軍事介入でもNATOはアル・カイダ系の武装集団を利用、コソボを奪い取ることにも成功した。 イギリスがカダフィ暗殺計画に使ったLIFGをアメリカ側は「テロリスト」だと認識していた。例えば、2004年にジョージ・テネットCIA長官(当時)は上院の情報委員会で証言、LIFGはアル・カイダと関係しているとしている。また2007年に出された米陸軍士官学校の報告書でも、LIFGとアル・カイダとの協力関係が指摘されている。そして2007年11月、LIFGは公式にアル・カイダへ加わった。同じ年の1月にはAQIMも公式にアル・カイダの一員になった。 2007年は中東/北アフリカ情勢が新しいステージに入った年だとも言える。アメリカの調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュによると、この時点までにアメリカはイスラエルやサウジアラビアと話し合いを進めている。その結果、イランを脅威だと認識し、シリアのバシャール・アル・アサド体制を弱体化させるためにサウジアラビアが資金や物資の援助を行うということも共通認識に含まれていたようだ。 カダフィ政権が倒された後、LIFG/アル・カイダの戦闘員は武器を携えてシリアへ移動して体制転覆を目的に戦争を始めた。こうした軍事侵攻の黒幕は、湾岸産油国やイギリス、アメリカ、フランス。 シリアでもイスラム武装勢力は建造物を破壊、住民を虐殺して社会システムを崩壊させている。「西側」のメディアがシリア軍の仕業と宣伝していたホウラでの虐殺も、実際は反シリア政府軍、より具体的にはサラフィ主義者や外国人傭兵が実行したと東方カトリックの修道院長やフランクフルター・アルゲマイネ紙などドイツのメディアは伝えている。 「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアに平和をもたらすことができる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は、地上の真実と全く違っている。」と修道院長は語り、キリスト教の聖職者、マザー・アグネス・マリアムは外国からの干渉が事態を悪化させていると批判している。 こうした指摘を無視するということは、軍事侵略を確信犯的に支援していることを意味する。湾岸産油国のひとつ、カタールの王室が支配するアル・ジャジーラは勿論、イギリス、フランス、アメリカ、日本など「西側」のメディアはそうした類の「報道」をしてきた。マリやアルジェリアに関する「報道」でも姿勢に変化はない。
2013.01.18
マリに派遣されたフランス軍は戦闘の最前線に移動しているようだ。アル・カイダ系の武装グループ、つまりAQIMが敵だとされている。 AQIMの前身、GSPCはアルジェリアで活動していた武装集団。マリではない。2006年にGSPCはアル・カイダに参加、2007年1月には正式加盟して名称をAQIMに改めた。同じ年の11月にはリビアのLIFG、つまりNATO軍と手を組んでムアンマル・アル・カダフィ体制の転覆を目指していた武装勢力もアル・カイダに加わっている。2007年からAQIMとLIFGは同盟関係にある、あるいは一体だと言えるだろう。 イギリスのテレグラフ紙のインタビューでLIFGの幹部は自分たちとアル・カイダとの関係を認めているが、2007年の時点で公表された事実であり、否定しても仕方がなかったのである。この事実に触れずに「アラブの春」を語ることはできない。 リビアでカダフィ体制が倒れた後、反カダフィ派の拠点だったベンガジでは裁判所の建物にアル・カイダの旗が掲げられた。すぐに映像がインターネット上で流れ、一部の「西側」のメディアもその事実を伝えている。 アメリカにしろ、イギリスにしろ、フランスにしろ、リビアの体制転覆を叫んでいた人びとは、自分たちと手を組んでいる相手がアル・カイダだということは百も承知だったはず。アル・カイダの旗が掲げられても驚かなかっただろう。そして、アル・カイダの戦闘員は武器と一緒にシリアへと移動したわけである。 NATO軍との共同作戦でアル・カイダはリビアを制圧、武器を手に入れた。シリアへはマークを消したNATOの輸送機がリビアからトルコの基地まで武器を運んだとも伝えられている。トルコの米空軍インシルリク基地では反シリア政府軍が訓練を受け、それ以外にも反政府軍の軍事拠点がある。そうした場所で反政府軍が武器を渡されていると考えるのが自然だ。 リビアを制圧したLIFGとAQIMは一心同体の関係にあり、リビアからマリへ武器が流入しているのも当然。そのリビアでフランスはアル・カイダと同盟関係にあった。シリアでもNATOとアル・カイダは連携して体制転覆を目指している。マリでもアル・カイダは「西側」と手を組んでいると考え方が自然。つまり、アル・カイダはフランスがマリへ軍事侵攻する口実としての役割を果たしている可能性が高い。 AQIMがマリへ移動したのはフランス軍を呼び込むためだとすると、なぜフランス軍はマリへ入りたかったのか、ということになる。その理由として多くの人が考えているのは資源だ。金、ダイヤモンド、そしてウラニウム。経済が破綻している欧米諸国が押し込み強盗したくなるような国だ。
2013.01.16
ひとりの天才プログラマーがニューヨークで11日に死亡した。RSS(ウェブサイトの更新情報をインターネット経由で提供するためのファイル形式)1.0の編集に14歳で参加したというアーロン・シュワルツがその人物。首つり自殺だったという。 2011年7月にシュワルツは起訴されている。MIT(マサチューセッツ工科大学)のデータベースJSTORにアクセス、約480万件の記事や学術論文をダウンロードしたことが違法行為だとされたのだ。懲役35年と100万ドルの罰金が科せられる可能性があった。本人は無罪を主張、JSTORとは和解が成立していたのだが、カルメン・オーティス検事は強硬姿勢を崩さず、2月から裁判が始まることになっていた。 この「事件」が起こる前、シュワルツはアメリカの支配システムを強化しようとする人びとに挑戦する運動を展開している。2010年にCOICA(オンライン上の権利侵害や模倣と戦う法)との戦い、成立を阻止する上で大きな役割を果たしたのだ。この法律は著作権の保護を表面的には謳っているのだが、インターネットを監視、検閲、弾圧する道具として使えると非難されていた。 この法律は成立しなかったが、もし成立していたなら、例えば、ウィキリークスが公的な情報をインターネットに流すことは困難になる。公表された情報には著作権があるからだ。内部告発者を「合法的」に処罰することが容易になるだろう。 勿論、これでは終わらなかった。2011年に上院でPIPAが、また下院ではSOPAが提出している。既存のメディア、アメリカの情報機関、つまり金融資本は放送、新聞、雑誌など既存のメディアをコントロールする仕組みを築いてきたが、インターネットにはまだ自由があり、都合の悪い情報も流れているのが実態。こうした状況を懸念しての法案提出なのだろうが、その真意は見透かされ、激しい抵抗にあっている。 シュワルツを逮捕した後、オーティス検事は「盗みは盗み」だと語ったというが、これはお笑い種。金融の世界では、大泥棒が処罰されず、優雅な生活を続けている。 1980年代から経済活動が停滞する一方、金融が肥大化してきた。1970年代からロンドンを中心にオフショア市場のネットワークが築かれたことも大きな理由のひとつだ。このネットワークによって巨大多国籍企業や富裕層は資産を隠したり、課税を回避することが容易になった。 この仕組みによって、社会から資金が吸い上げられ、投機市場へと流れ込んでいる。「金融緩和」が経済活動を良くしないのは当然なのである。(当然、安倍某を操っている連中もこうしたことは百も承知) その投機市場で銀行が破綻すれば救済される。救済のために必要な資金を負担させられるのは勿論、庶民だ。巨大金融機関の不正、違法行為が明らかになることもあるが、大した問題にはならない。「処罰するには大きすぎる」ということらしい。巨大金融機関の場合、「盗みは許される」のだ。 金融機関だけが守られているわけではない。偽情報を流し、他国を侵略し、破壊と殺戮の限りを尽くしても「西側」の利権集団なら許される。巨大企業なら、盗みや殺人は問題にならないのである。そうした実態を明らかにするような情報を明らかにするような人や団体は徹底的に叩きつぶすのが支配層。ひとりのプログラマーを自殺に追い込むくらい、彼らにとっては朝飯前のことだ。
2013.01.15
アフリカのマリでフランス軍が空爆を始めた。アメリカ政府を後ろ盾としての軍事行動だが、この地域の戦乱は東電福島第一原発の事故と「アレバ」で結びついている。マリの北はアルジェリア、西はモーリタニア、東はニジェール、そのニジェールの南はナイジェリア、東にはチャドがある。この地域の地下にはウラニウムが眠っているのだ。 アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権はイラクを攻撃する口実として、ニジェールからイエローケーキ(ウラン精鉱)をイラクが購入しようとしていると宣伝していた。CIAの依頼を受け、この情報をジョセフ・ウィルソン元駐ガボン大使が調査したところ、正しくないことを確認、そのように報告している。 ブッシュ政権はこの報告を無視してイラクを先制攻撃するわけだが、それはともかく、ニジェールは世界で第3位のウラニウム産出国。この地域では、ウラニウム以外にも石油やさまざまな鉱物がとれる。 今回、マリでの空爆を始めたフランスは、言うまでもなく、原子力発電所を乱立させている国。日本よりも強力な核利権が存在している国だということだが、その中心に位置している会社が、福島第一原発の事故でも登場したアレバだ。 事故の前年、2010年の9月に同原発の3号機にMOX燃料を装填し、事故後に日本政府は放射性物質の除去や廃炉についての技術協力を同社に依頼している。アレバは40年にわたり、ニジェールでウラニウムを掘り続けてきた会社でもある。 欧米は「南」の国々を略奪することで「豊かさ」を維持してきた。最近では金融システムと独裁体制を融合させた仕組みで搾り取っているのだが、勿論、資源の支配も重要な意味を持っている。サハラ砂漠の南側の地域の場合、最も利権を持っている国はフランスだ。 しかし、この地域でもBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)などの国々が影響力を強めていた。特に中国が存在感を増している。しかも、リビアのムアンマル・アル・カダフィ政権はサハラ以南の国々を自立させ、貿易の決済に使う通貨として「金貨ディナール」を導入、ドルやユーロから離脱しようとしていたという。これはアメリカの支配層にとっても懸念すべき動きだった。 ところで、マリの反政府勢力にはトゥアレグ(遊牧民)系のMNLAとサラフィ派のAQIMがある。MNLAの創設は2011年だが、トゥアレグの抵抗運動は1916年から始まったという。 AQIMはアル・カイダと連携している武装勢力。1991年から2002年にかけてアルジェリアで戦い、敗れたサラフィ派勢力の流れ。同じアル・カイダ系武装集団ということで、リビアの体制転覆でNATO軍と組んだLIFGとも結びついている。 リビアの体制転覆プロジェクトはフランスが先陣を切っている。2010年10月にリビアの儀典局長が機密文書を携えてパリへ渡り、コンコルド・ラファイエット・ホテルでフランスの情報機関員やニコラ・サルコジ大統領の側近たちと会談したのが始まりだ。 2011年3月にはイギリスの特殊部隊SASの隊員6名と情報機関MI6のメンバー2名がヘリコプターでベンガジへの潜入を試み、反政府派の戦闘員に拘束されている。それから程なくして8名はベンガジの港からフリゲート艦で帰路についている。 AQIMという名称の組織が誕生した2007年、アメリカ政府はAFRICOM(アフリカ統合軍)の創設を発表、翌年から活動を始めている。この統合軍をアフリカ諸国が拒否、本部をドイツのシュツットガルトに置かざるをえなくなったことは、本ブログでもすでに書いた通り。 中東やアフリカはかつて、欧米諸国に植民地化されていた。その当時は勿論、現在でも略奪は続いている。そうした地域へ欧米の軍隊が侵攻するための「魔法の杖」として使われているのが「アル・カイダ」。狂信的なイスラム至上主義者だと宣伝されているが、実態はアメリカ、イギリス、フランス、イスラエル、サウジアラビアといった国々の傭兵にしか見えない。 リビアにしろシリアにしろ、アル・カイダと同盟関係にあるのはNATO。この機構は米英両国が西ヨーロッパを支配するために組織、破壊工作(テロ活動)を目的とする秘密部隊のネットワークが存在することは本ブログで何度か指摘した通り。この秘密部隊に関しては、1990年にイタリア政府が公式にその存在を認めている。 このNATOの事務総長に対し、日本政府は「安全保障上の連携強化を呼びかける首相親書」を渡すのだという。国の内外で戦争を始める覚悟を決めたと理解されても仕方がない。13日に習志野で実施された陸上自衛隊第1空挺団の訓練もそうした目で見られているはずだ。 今後、日本で「緊張戦略」が始動する可能性もある。そういえば、イタリアで「爆弾テロ」に参加した容疑のかけられていた人物を日本政府は速やかに帰化させたこともあった。
2013.01.14
オーストラリアの情報機関ASIOは、個人のコンピュータやスマートフォンへのハッキングを正当化しようとしている。「テロリスト」だとの疑いがかけられている人物のコンピュータにアクセスするため、第三者のコンピュータを使えるようにするというのだ。 日本では最近、他人のパソコンを遠隔操作し、襲撃や殺人なのど予告を行っていたことが明らかになった。「トロイの木馬」と呼ばれるプログラムに感染させて遠隔操作していたのだが、こうした工作を情報機関が行えるようにするということ。 勿論、他人のコンピュータに侵入したり、ウィルスを感染させるようなことを情報機関はすでに行っている。例えば、アメリカやイスラエルの情報機関がスタックスネットやフレームというコンピュータ・ウィルスを開発、イランの核施設を制御しているコンピュータに感染させたこともある。また、日本では法制審議会が通信傍受/盗聴法の対象犯罪を拡大する検討に入るのだと言われている。 オーストラリアはアングロサクソン系の国。その国の情報機関であるASIOは、アメリカやイギリスの情報機関からの命令に従って動いている。いわば、米英が送り込んだトロイの木馬だ。 1975年、オーストラリアでは首相だったゴフ・ホイットラムがジョン・カー提督に罷免されている。一般に名誉職だと思われていた提督が牙をむいたのである。カーは第2次世界大戦中、1944年にオーストラリア政府の命令でアメリカへ派遣され、CIAの前身であるOSSの仕事をしていた。 オーストラリアのパイン・ギャップにはCIAが軍事衛星の運用に使っていた基地があった。その基地の使用期限が1976年だったのだが、ホイットラム政権は使用期限の延長を拒否するのではないかとアメリカ側は懸念していたのだ。 アメリカの電子情報活動はNSAという機関を中心に行われている。このNSAとイギリスのGCHQが中心になって作られたUKUSA(ユクザ)は電子情報活動の連合体で、オーストラリアのほか、ニュージーランドやカナダもメンバー。日本も、5カ国の周辺でウロチョロしている。 社会的に優位な立場にある人物や組織に富が集中することを「善」とするのが資本主義経済。そうしたシステムでは貧富の差が際限なく広がり、最終的には暴動や革命ということになる。すした事態を避けるため、ある支配勢力はシステムの公正さを強めようとするのだが、これは少数派。多数派は力で押さえ込もうとする。ファシズム化だ。そのためには監視システムを強化する必要がある。ジョージ・W・ブッシュ政権から急速にアメリカで進まれている「改革」とは、そうしたものである。 勿論、ブッシュ・ジュニア政権の前も監視活動は実施されていた。1970年代半ばの時点で、NSAの監視リストにはラムゼー・クラークやロバート・ケネディといった元司法長官、ジョン・コナリー元テキサス州知事、女優のジェーン・フォンダ、育児書で有名なベンジャミン・スポック博士、ロバート・ケネディ暗殺の容疑者を弁護したアブディーン・ジャバラや公民権活動家などが含まれていた。マーガレット・サッチャーは首相時代、カナダの情報機関CSEに対して自分の閣僚2名をスパイするように要請、またオブザーバー紙のオーナーをGCHQに監視させている。 ヨーロッパ議会が1998年に出した報告書の中では、反体制派、人権活動家、ジャーナリスト、学生指導者、少数派、労働運動指導者、政敵が監視のターゲットになるとされている。現在も含め、歴史的にアメリカの情報機関や捜査機関は、戦争に反対する人や組織を最も警戒すべき「テロリスト」だと認識している。大企業のカネ儲けにとって障害になる人びと、例えば、核政策や遺伝子組み換え作物を含め、環境汚染を批判する人びとも目の敵だ。
2013.01.13
フランスがマリに軍事介入したという。北部地域を支配しているアル・カイダ系の武装集団、AQIMを攻撃することが目的だというのだが、リビアやシリアでは体制転覆のために利用しているのも同じアル・カイダ系の武装集団だ。 AQIMには、アメリカのAFRICOM(米アフリカ統合軍)を正当化するために使われた過去がある。この統合軍は国防長官だったドナルド・ラムズフェルドが音頭をとる形で2007年に創設が発表され、2008年に活動を開始しているのだが、本部はドイツ。アフリカ諸国からは侵略軍と見なされ、拒否されたのだ。 また、マリでは昨年3月にクーデターがあったのだが、そのリーダーであるアマドウ・サノゴはアメリカで訓練を受けた軍人。マリを不安定化させている黒幕はアメリカやフランスのような「西側」だと疑われても仕方がない。アフガニスタン、旧ユーゴスラビア、リビア、シリアなどと同じように、戦乱で体制を揺るがし、軍事侵攻したり、そのチャンスを狙うというシナリオに見える。 考えてみれば、「イスラム武装勢力」を出現させたのはアメリカ。アフガニスタンにソ連を誘い込み、「ベトナム戦争」を経験させるためにズビグネフ・ブレジンスキー大統領補佐官(当時)らが作り出したモンスターである。(詳しくは拙著『テロ帝国アメリカは21世紀に耐えられない』を)そうした集団の中からアル・カイダも出てきた。 ブレジンスキーがモンスターを作っていたころ、CIAではOPC(政策調整局)の流れをくむ破壊工作(テロ活動)人脈が整理されていた。そこで、CIAの外部に「民間CIA」のネットワークが作られていく。資金を調達するために武器や麻薬の密輸に手を出していたが、サウジアラビアというスポンサーもいた。 1980年代にイランの一部勢力への武器密輸とニカラグアの反政府ゲリラ支援が発覚、「イラン・コントラ事件」と呼ばれるようになるが、この秘密工作ではアメリカのOPC人脈のほか、サウジアラビアとイスラエルが主役を演じている。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事の中で、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアは協力関係にあるとしているが、遅くとも1980年代にはこの同盟関係は成立していたと言えるだろう。そして、そこにイスラム武装勢力/アル・カイダが加わる。 ユーゴスラビアで「西側」はアル・カイダと同じ側に立って戦っていた。リビアでは地上軍の主力だったLIFGがアル・カイダ系であり、リビアで体制転覆に成功した後、そうした戦闘員がシリアへ移動したことも本ブログでも何度も書いてきた。シリアの反政府軍とは、そうした武装勢力なのである。AQIMへ戦闘員や武器が流れたとしても不思議ではない。 シリアの場合、NATOの空爆はまだだが、すでに傭兵を使って軍事介入中。NATOや湾岸産油国の一部は電子戦での支援だけでなく、特殊部隊を潜入させているとも言われ、今後、NATO軍が前面に出てくる可能性もある。今はイランに揺さぶりをかけている。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制を倒した理由のひとつはアフリカの統一を阻止することにあった。「西側」のやっていることは中東/アフリカを戦乱で破壊し、細分化して自分たちの利権を維持拡大しようということだ。その延長線上にマリの状況もある。
2013.01.12
24歳のスリランカ人女性、リザナ・ナフィークがサウジアラビアで斬首された。9日のことだ。 ナフィークは2005年、つまり17歳のときにサウジアラビアでハウスメイドとして働きはじめたのだが、間もなくして殺人容疑で逮捕される。働いていた家の生後4カ月の赤ん坊を殺した容疑だった。 結局、有罪判決を受けるのだが、公正な裁判だったとは言い難い。ナフィーク自身が容疑を否認していたこともあるが、事件当時、彼女はアラビア語が話せず、逮捕後も弁護士や通訳がつかなかったという。雇い主の意向に添う形で処刑したと言われても仕方がないだろう。 実は、サウジアラビアで処刑されるメイドは少なくない。メイドとして働いている外国人の出身国はフィリピンやインドネシアが多いという。夜明け直後から14〜16時間、月に1万5000円から3万円の給料で働いているのだが、雇い主から暴力やレイプを受けることは珍しくないと言われ、雇い主の許可がなければ出国することもできないともいう。奴隷的な環境の中におかれているわけである。 そうした環境から逃げ出した人びとのためのシェルターもあるが、理不尽な扱いを受けた人の中には反撃し、殺人罪に問われて処刑されるケースがある。殺人は重罪であるから厳罰に処す、という姿勢が正しいとは言えない。犯罪を生み出している根本原因はサウジアラビアの社会システムにあるからだ。 こうした国だからこそ、傭兵に他国を攻撃、破壊と殺戮を行えるのかもしれない。リビアにしろシリアにしろ、NATOや湾岸産油国はイスラム武装勢力を使って体制転覆を図っているのだが、資金を出しているのはサウジアラビアを中心とする湾岸産油国だ。 ゲリラ戦の主体が外国から入った傭兵であり、その中心にはアル・カイダ系の戦闘員がいることも明らかになっている。少なくともリビアやシリアの場合、「アラブの春」とは民主化運動でも革命でもなく、軍事介入、あるいは軍事侵略にすぎない。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュは2007年に書いた記事の中で、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアは協力関係にあると指摘している。つまり、サウジアラビアの侵略行為はアメリカやイスラエルが背後にいるということ。言うまでもなく、アメリカとNATOは結びついている。 サウジアラビアは他国を侵略しているだけでなく、労働者を奴隷扱いしているのだが、実際、奴隷制が残っている国でもある。そうしたサウジアラビアが「国際社会」から批判されない理由のひとつは石油が生み出す資金力にある。 サウジアラビアとビジネスをしたい日米欧の企業はサウジアラビアの体制が揺らぐことは嫌い、そうした体制に批判的なメディアに広告を出さない。「人権擁護団体」もスポンサーである企業、基金の意向に逆らうような言動は避けている。勿論、サウジアラビア自体が中東にある大多数のメディアを支配しているということもある。 「民主主義を世界に輸出しているアメリカがサウジアラビアに対して」・・・などということを言うつもりはない。アメリカはかつて海兵隊を使って他国を侵略、戦後は情報機関を使い、軍事クーデターなどで民主的に選ばれた体制を倒してきた。「反植民地」を掲げたフランクリン・ルーズベルト政権や「平和の戦略」を訴えたジョン・F・ケネディ政権は例外的な存在である。 サウジアラビアの状況に沈黙している人物、団体に「民主主義」や「人権」を語る資格はない。「民主主義を世界に輸出しているアメリカ」などという表現はブラック・ジョーク以外の何ものでもない。
2013.01.10
バラク・オバマ米大統領は次の国防長官としてチャック・ヘーゲル元上院議員を、またCIA長官にジョン・ブレナン大統領補佐官を指名した。両者とも波乱含みで、すんなり議会で承認されるかどうかは不透明だ。 ヘーゲルは共和党員だが、親イスラエル派から雑誌や映像を使った攻撃を受けている。ジョージ・W・ブッシュ政権の中東に対する軍事侵攻に懸念を示していたことが大きな理由。ロッキード・マーチンを後ろ盾にするヒラリー・クリントン国務長官も退任するわけで、戦争ビジネスの目にもこの人事は好ましく映らないだろう。 ブレナンの場合は逆の意味で懸念されている。この人物、人権、条約、法律を無視しているのだ。ブッシュ・ジュニア政権では戦闘で拘束した戦闘員、つまり捕虜に対する拷問(日本のマスコミは「過酷な尋問手法」と表現する)が行われたが、その中心にいたひとりがブレナン。オバマ政権になると無人機による攻撃を推進し、子どもを含む非武装の市民を殺害、イエメンではアメリカ人も法律を無視する形で殺している。 しかし、拷問で得られる情報は信頼度が低い。尋問者が喜ぶような話(往々にして嘘)をするからだ。厳しい拷問でなくても虚偽の自白をすることは珍しくない。これは冤罪事件を見ても明らか。政治的な事件で治安警察などが拷問を多用するのはでっち上げのため、あるいはサディスティックな趣味のためである。 アメリカの軍や情報機関が捕虜を拷問している事実は写真の流出で大きな問題になったが、そうした拷問の舞台のひとつがイラクのアブ・グレイブ刑務所。そこの所長を務めていたジャニス・カーピンスキー准将によると、刑務所にはイスラエル人の尋問官がいたという。アブ・グレイブでの拷問を明らかにしたジャーナリストも、刑務所にイスラエル人の尋問者がいたとする証言を得ているようだ。 そのイスラエルではこのところ人種差別が激しい。「ユダヤ人の国」という表現自体が人種差別的であり、壁の建設は文字通りの「アパルトヘイト」政策だが、イスラエル人の心の中で人種差別的な感情が高まっているのだ。中東でアメリカ、イギリス、フランスなどが手を組んでいる相手は、人種差別のイスラエルと奴隷制国家のサウジアラビアということになる。拷問や殺人を容認し、ファシズム体制を推進している「先進国」の同盟相手だということを考えれば、当然かもしれない。類は友を呼ぶ。
2013.01.09
癌の治療を続けているベネズエラのウゴ・チャベス大統領だが、ここにきて病状が悪化しているようだ。そのチャベス大統領を2009年に暗殺しようと試み、3名のドミニカ人と一緒に逮捕されて懲役4年の判決を受けていたフランス人、フレデリク・ローレン・ブーケがフランスへ追放された。 ブーケのアパートにはプラスチック爆弾C4が500グラム、突撃銃14丁、そのほかマシンガンが3丁、拳銃が4丁、ショットガンが5丁、さまざまな口径のカートリッジが2万近く、さらに電子起爆装置、ウォーキートーキー、防弾チョッキ、ガスマスクなどが保管されていたという。こうした武器の不法所持で有罪判決を受けている。 裁判の過程でブーケは自身がフランスの情報機関DGSEのエージェントであり、イスラエルで訓練を受けたことを認めたという。また、暗殺を命じたのはニコラ・サルコジ仏大統領(当時)だったとされている。 勿論、暗殺は珍しい話ではない。例えば、CIA内部に各国の要人を暗殺するプロジェクトが存在していたことも明らかになっている。ZRライフルだ。ドワイト・アイゼンハワーが大統領だった1960年からアレン・ダレスCIA長官の下で始まり、キューバのフィデル・カストロは何度も命を狙われている。 この時期は要人暗殺が流行った(あるいは失敗した)ようで、例えば、イラクの王制を倒した自由将校団のアブデル・カリム・カシム准将を米英の情報機関は暗殺しようとしている。石油利権を守る、要するに他国の資源を盗み続けることが目的で、暗殺者として目をつけられた若者がサダム・フセイン。 最近の例では、1992年にイギリスの情報機関MI6がユーゴスラビアのスロボダン・ミロセビッチ大統領の暗殺を検討している。セルビアの反体制ゲリラを使う、イギリスの特殊部隊に暗殺させる、ジュネーブの会議に出席する際に自動車事故に見せかけて殺害するといった方法が検討されたと言われている。 ヤシル・アラファトの暗殺も噂されている。最近、衣類や歯ブラシなど身の回りの品々から放射性物質、ポロニウム210が検出されたという話も流れている。2004年11月にアラファトは死亡し、アーマウド・アッバスが後継者。この時から暗殺説は流れていたが、その疑惑が再浮上したわけだ。 ところで、サルコジはフランス軍をNATO(北大西洋条約機構)軍へ復帰させた人物でもある。シャルル・ド・ゴール大統領が1966年にNATO軍からの離脱を決めて以来のことだ。 そのド・ゴールは1962年に命を狙われている。OASなる秘密組織に所属するジャンマリー・バスチャンチリー大佐のグループに命を狙われたのだが、このOASは「NATOの秘密部隊」、そしてCIAの計画局(テロ担当)につながる。 この当時、CIAロンドン支局長だったフランク・ウィズナーは計画局の前身、OPCの初代局長。1962年にウィズナーはロンドンから帰国させられて引退し、65年にショットガンで自殺している。 ウィズナーの息子が結婚した女性、クリスティーン・ド・ガナイはニコラ・サルコジの義母。つまり、クリスティーンの元夫はニコラ・サルコジの実父であり、同じ父親を持つニコラの兄弟は法律上、フランク・ウィズナー・ジュニアの子どもになっている。
2013.01.07
ガザでファタハが集会を開き、数万人が参加したという。現在、ガザを統治しているハマスはイスラム同胞団系で、民族派とは敵対関係にある。マフムード・アッバース大統領のパレスチナ自治政府とも対立している。にもかかわらず、集会が開かれた背景にはアメリカ、イスラエル、そしてサウジアラビアの意向が働いている可能性が高い。 調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年に書いた記事によると、その時点でアメリカ、イスラエル、サウジアラビアは協力関係にあり、(1) イランを脅威だと認識し、(2) パレスチナで影響力を持つハマスとファタハ(パレスチナ祖国解放運動。パレスチナ自治政府の中心)との話し合いを促進してイスラエルへの敵対的姿勢を弱め、(3) シーア派の勢力拡大を防ぐためにブッシュ・ジュニア政権はスンニ派の国々と行動を共にし、(4) シリアのバシャール・アル・アサド体制を弱体化させるためにサウジアラビアが資金や物資の援助を行うということを決めていたという。 実際、この3国はイランを敵視、スンニ派の多い湾岸産油国とトルコと手を組み、シリアの体制転覆を目指してサウジアラビアが傭兵を雇い、武器を提供している。あとはハマスとファタハの話し合いを促進してイスラエルへの敵対的な姿勢を弱めるだけ。ガザでの大規模な集会は、NATOや湾岸産油国によるシリア攻撃が最終段階に入りつつあることを示しているのかもしれない。 ヨルダンではイスラエル政府とシリアの反政府派が話し合いを続け、アメリカ、ヨルダン、イスラエルの特殊部隊と反シリア政府軍がシリア政府軍と衝突しているともいう。これまでの報道やウィキリークスの情報によると、イギリス、アメリカ、フランス、ヨルダン、トルコ、カタールといった国の特殊部隊がシリアに潜入して活動している可能性があり、戦闘のないほうが不思議だ。 こうした中、NATOはトルコに「愛国者ミサイル」システムを配備しつつある。この地対空ミサイルは「ミサイル防衛」としてなら無力だが、160キロメートル圏内の航空機を攻撃する能力はあり、NATO側がどのように弁明しようとも、反シリア政府軍を支援することが目的だと見る人は多い。 NATOの地対空ミサイルの配備に対抗し、ロシアは地対地ミサイルの「イスカンダル」(NATOは「SS-26ストーン」と呼んでいる)をシリアへ運び込んだという情報が流れている。配備されるのは合計24システムで、トルコのほか、ヨルダンとイスラエルに向けられるという。また、数百名の海兵隊員を乗せたロシアの上陸艦5隻を新たに地中海の東部へ派遣したと伝えられ、NATOの動きを牽制するのが目的だと推測する人もいる。 地中海東部の天然ガスが目的なのか、「大イスラエル構想」が目標なのか、あるいは別の理由があるのかはわからないが、中東/北アフリカが軍事的に緊迫していることは間違いない。「アラブの春」などという脳天気なシナリオに浸っている場合ではない。 軍事的な緊張の出発点は1990年代の初頭にホワイトハウスのネオコンが描いた世界制覇の青写真。具体的な攻撃目標は2001年秋に作成されたリストに記載されている国々、つまりイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダン。シリアは現在進行形であり、次はイランということになる。 そして、ネオコンは最も警戒している地域である東アジアの破壊を目論んでいる。日本と中国を共倒れにさせようと考えているようだ。
2013.01.06
NATOがトルコに配備しつつある「愛国者ミサイル」システムを操作するため、アメリカ軍部隊がトルコに入ったようだ。少なくとも6部隊はシリアとの国境近くに派遣され、まずミサイルの設置場所を調査するという。 この地対空ミサイルのシステムを配備する目的は、シリアからのミサイル攻撃に備えることにあるとされている。が、「ミサイル防衛」が機能するとは思えず、実際の目標物は航空機だと考える方が合理的。160キロメートル以内を飛行する航空機なら撃ち落とすことができる。 反シリア政府軍を攻撃するシリア軍の戦闘機を撃ち落とす、要するに飛行禁止空域の設定がシステム配備の目的だとも言われている。つまり、愛国者ミサイルで守ろうとしているのは反シリア政府軍。その主力はサウジアラビアやカタールに雇われた傭兵。NATOなどの訓練を受けている。 例えば、一昨年の春、政府軍に対するゲリラ戦が始まった当時から、トルコにある米空軍インシルリク基地で反シリア政府軍は訓練を受けている。教官はアメリカの情報機関員や特殊部隊員、あるいはイギリスとフランスの特殊部隊員。トルコ政府はシリアを攻撃する拠点も提供してきた。 また、昨年10月までの時点でアメリカやイスラエルはヨルダンで反シリア政府軍の戦闘員を訓練し始めたと伝えられている。訓練にはヨルダン、アメリカ、イギリスの軍人、あるは情報機関員が立ち会い、対戦車ミサイルのコブラや携帯式の対空ミサイルのスティンガーを含む武器の扱い方を教えている。 反シリア政府軍を訓練する施設がヨルダンには5カ所以上あり、アメリカ、イギリス、フランス、チェコ、ポーランドの教官がいるとされている。反政府軍に武器を提供しているのは湾岸産油国のサウジアラビアやカタールで、その中にはイスラエル製の武器も含まれているようだ。 反政府軍の主力はシリアの外から入ってきた傭兵だが、その中で中心的な役割を果たしてきたのがムスリム同胞団と結びついているサラフィ派。各地でゲリラ戦を展開しているのはサラフィ派を隠れ蓑に使った「ジハード(聖戦)勢力」だとする指摘もあるが、ここではとりあえず「サラフィ派」と表現する。 サラフィ派は歴史的にサウジアラビアの国教になっているワッハーブ派と密接な関係にあり、各地で展開されているゲリラ戦でアル・カイダ(データ・ベース)と協力関係にある。アル・カイダの「顔」だったオサマ・ビン・ラディンはサウジアラビア王室と結びついている一族の出身であり、その面からもサラフィ派とアル・カイダは結びつく。シリアの反政府軍とアル・カイダの結びつきを示す映像もインターネット上では流れている。 アル・カイダを含むイスラム武装勢力は1980年代にアメリカの情報機関や軍を中心にして、パキスタンやサウジアラビアが協力して創設された。ソ連軍と戦う手駒として使うため、資金や武器を提供し、武器の使い方や戦術などを訓練している。 その当時、アメリカ政府はイスラム武装勢力を「自由の戦士」と呼んでいたが、ソ連が消滅してから役割が逆転、今では「テロリスト」の代名詞のように扱われている。そのテロリストをNATOはリビアの体制転覆作戦で地上軍の主力として利用、その構図はシリアでも続いている。 例えば、シリアのホウラでの虐殺。当初、「西側」はシリア政府軍、あるいは親シリア政府軍の仕業だと宣伝していたが、現地を調査した東方カトリックの修道院長はサラフィ派や外国人傭兵が実行したと報告、ドイツのフランクフルター・アルゲマイネ紙も同じ趣旨の内容を報道している。シリアでの戦闘が長引くにつれ、こうした構図は明確になり、サラフィ派/アル・カイダの残虐行為を「西側」も隠しきれなくなっている。 そのサラフィ派は「アラブの春」でも重要な役割を果たしている。ここにきて「勢力が伸長している」のではなく、活動が表面化、あるいはメディアが報道し始めただけのことだ。2001年9月11日の攻撃から6週間後には作成されていたアメリカ政府の攻撃予定国リストには、イラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンが載っていたとウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官は語っている。 2000年代に入ると、地中海の東側、エジプトからギリシャにかけての海域で膨大な量のエネルギー資源が発見された。USGS(アメリカ地質調査所)の推定によると、天然ガスが9兆8000億立方メートル、原油が34億バーレルだ。この発見が「アラブの春」やギリシャの「債務危機」を引き起こした一因だとする見方もある。 ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、2007年初頭までにアメリカ政府は攻撃の矛先をレバノン、シリア、イランに向け、秘密工作を始めていたという。この方針転換を指揮したのがリチャード・チェイニー副大統領を中心とする勢力。 この時点までにアメリカ政府は、イスラエルやサウジアラビアとこの戦略転換について話し合っていたようだ。イラク情勢の悪化を受けてのことだとされていたが、2001年の段階で作成されていた計画通りに動き始めただけのことである。 イスラム武装勢力はコソボなど旧ユーゴスラビアでの戦闘、つまり国家解体プロジェクトにNATO側の一員として参加、チェチェンでもロシア軍と戦っている。さらに戦線を北や中国との国境近辺に移動させる動きもある。これからもNATOの手駒として活動しそうだ。
2013.01.05
イスラエル政府がシリアの反政府派とヨルダンで話し合いを続けていると報道されている。ゴラン高原の支配を続けるためにイスラエルとアメリカが軍事作戦を展開する可能性を見通してのことだという。また、すでにシリア軍の特殊部隊とシリアへ軍事介入している国々の部隊、つまりアメリカ、ヨルダン、イスラエルの特殊部隊と反シリア政府軍がヨルダンとシリアの国境付近で衝突しているともいう。 特殊部隊が戦闘に参加しても不思議ではない。本ブログでも何度か書いたことだが、イギリスとカタールの特殊部隊がシリアに潜入しているとイスラエルのメディアが報道している。また、ウィキリークスが公表した民間情報会社ストラトフォーの電子メールにはアメリカ、イギリス、フランス、ヨルダン、トルコの特殊部隊が入っているという推測も書かれている。 昨年10月までの時点でアメリカなどがヨルダンで反シリア政府軍の戦闘員を訓練し始めたと伝えられている。訓練にはヨルダン、アメリカ、イギリスの軍人、あるは情報機関員が立ち会い、対戦車ミサイルのコブラや携帯式の対空ミサイルのスティンガーを含む武器の扱い方を教え、サウジアラビアやカタールなど湾岸産油国が武器提供の役割を負っているという。 ここにきて流れている情報によると、ヨルダンには反シリア政府軍を訓練する軍事施設が少なくとも5カ所あり、アメリカ、イギリス、フランス、チェコ、ポーランドの教官がいるとされている。しかも、シリア政府側がイスラエル製を含む大量の武器を押収したとも伝えられている。 シリアを含む国々の体制を転覆させる計画は1990年代の初頭にできあがあり、2000年代半ばにアメリカの国務省は反シリア政府派を支援し始め、2007年までの時点で、アメリカはイスラエルやサウジアラビアと非公式の同盟関係を結んで軍事介入を始めていたと報道されている。サウジアラビアが戦闘員として使っているのがムスリム同胞団やサラフィ派だ。反シリア政府軍の主力はそうした戦闘員であり、そうした武装集団がイスラエル政府と話し合いを持つのは必然だと言えるだろう。 こうした反シリア政府軍がシリアのパレスチナ難民のキャンプを襲撃しているとも言われている。反シリア政府軍はスンニ派が多いパレスチナ人を戦闘に巻き込もうとしたが、拒否されたことが原因だという。キャンプを襲撃した武装集団の中にイスラエルの情報機関モサドの要員が含まれているとする噂もある。
2013.01.03
2013年を迎え、ローマ教皇ベネディクト16世が出した最初のメッセージは箍(たが)の外れた資本主義に対する批判だった。強欲な資本主義は身勝手で利己的な考え方を「是」とし、ごく一部の社会的な強者は不公正な仕組みで富を独占し、貧富の差は拡大する。そうした貧富の差がテロリズムや犯罪を生み出すというわけだ。 かつて、日本では「勝ち組」や「負け組」といった表現が流行った。勝負の前提は「公正なルール」なのだが、新自由主義は公正さと無縁。つまり、この表現自体が詐欺的だ。 たとえルールが公正であっても、球技であろうと格闘技であろうと、あらゆる競技の勝負には「時の運」がつきものである。遊びならそれでも良いだろうが、社会生活では大きな問題。「運」を修正する必要がある。が、そうした修正の仕組みを「規制緩和」や「小さな政府」という呪文を使って破壊したのが新自由主義者たち。 この新自由主義を国の政策として最初に採り入れたのはチリの軍事独裁政権だ。チリでは1973年、CIAの支援を受けたオーグスト・ピノチェトを中心とする軍人がクーデターを起こし、サルバドール・アジェンデ政権を倒した。アジェンデは民主的なプロセスを経て誕生していたが、アメリカの巨大資本にとって都合が悪いということで、暴力的に排除したわけである。アメリカは民主主義の破壊者だ。 クーデター後、シカゴ大学のフリードマン教授やアーノルド・ハーバーガー教授といった経済学者の弟子たち、いわゆる「シカゴ・ボーイズ」が大企業/富裕層を優遇する政策を実施する。勿論、大企業の中心はアメリカの多国籍企業。フリードマンとハーバーガーも1975年にチリを3日間訪問、3万ドルを報酬として受け取ったという。 シカゴ・ボーイズは国有企業を私有化し、労働者を保護する法律を廃止するだけでなく労働組合を禁止、そして外国からの投資を促進した。1979年頃になると、年金や教育まで全てを私有化しようとしている。こうした政策が新自由主義の核心であり、TPPも同じ方向を目指すことになる。日本の「エリート」はこうした社会を築こうとしているわけだ。 規制緩和でチリは外国の金融機関から多額の資金を調達するのだが、1980年代に債務危機が起こると外国の金融機関は銀行の「国有化」を求めてくる。国有化された彼らの債権は私有化された国有企業の株券と交換され、チリの重要な企業は外国の投資家に格安のコストで乗っ取られることになった。 フリードマンの師にあたるフリードリッヒ・フォン・ハイエクはイギリスのマーガレット・サッチャーに新自由主義を売り込む。1982年にアルゼンチンとの間で「フォークランド/マルビナス戦争」が始まると、これを利用してサッチャー政権は新自由主義を一気に導入した。戦争で興奮状態になったイギリス人は、何が起ころうとしているのかを考えなかったようだ。 戦争はアルゼンチンの軍事政権が仕掛けたのだが、その原因を作ったのはアメリカをはじめとする欧米の巨大資本。軍事政権に莫大な資金を融資、それをオフショア市場/タックス・ヘイブンの個人口座へ還流させ、債務をアルゼンチン国民に押しつけたのだが、その結果として債務問題が深刻化して体制を戦争へと導いたのである。ちなみにアルゼンチンの軍事政権と最も親しかった銀行家はハイエクの弟子だというデイビッド・ロックフェラーだ。 ビルダーバーグ・グループでの決定(ヘンリー・キッシンジャーの意向)に基づいて1973年に石油価格が大幅に上昇、北海油田が利益を生み出すようになり、イギリス経済は立ち直っている。勿論、これは新自由主義と無関係な話。 サッチャーの後をアメリカのロナルド・レーガン大統領や日本の中曽根康弘首相も追いかけたが、1980年代に入ると中国が、1990年代にはロシアも新自由主義を採り入れた。 中国では社会主義という箍が機能して「害」は緩和されたものの、ボリス・エリツィン政権のロシアは惨憺たる事態になる。不公正な取り引きで巨万の富を得る人物が登場する一方で、大多数の庶民は貧困化したのだ。これを修正したのがウラジミール・プーチン。「西側」のメディアがプーチンを嫌う最大の理由はここにあるのだろう。
2013.01.02
一昨年からイギリス、フランス、アメリカ、トルコをはじめとするNATO諸国、そしてサウジアラビアやカタールなどの湾岸産油国は傭兵を使い、シリアの体制転覆を目指して軍事侵略している。 イラクではシーア派、スンニ派、クルドで3分割、リビアもサヌーシ教団(王党派)が支配する東部の分離などがありえ、シリアもNATO、トルコ、イスラエルで3分割されると主張する人もいる。次のターゲットはイランだ。 その一方、大量の核兵器を保有、パレスチナ人に対して破壊と殺戮を繰り返して隔離政策を推進しているイスラエル、イスラム武装勢力を傭兵として使っている奴隷制国家のサウジアラビアなどとは手を組んでいる。 最近、サウジアラビアの聖職者であるモハメド・アル・アリフィは、傭兵向けの「慰安婦」を認めると受け取れるファトワー(教令)を出したというが、サウジアラビアの実態を考えると不思議ではない。 中東/北アフリカを侵略するシナリオを作成したのはネオコン(アメリカの親イスラエル派)である。彼らは1992年、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領の時代にDPGの草案を作成している。この草案は覇権主義的な色彩が濃く、途中で問題になって書き直しているようだが、消え去ったわけではなかった。2000年にPNACが出した『アメリカ国防の再構築』で息を吹き返し、ジョージ・W・ブッシュ政権で政策に反映される。 何度も書いていることだが、ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官によると、1991年にネオコン(親イスラエル派)のポール・ウォルフォウィッツ国防次官は、シリア、イラン、イラクを掃除すると話していたという。 ウィキリークスが公表したアメリカ政府の外交文書によると、アメリカの国務省はシリアの反政府派へ2000年代半ばには資金援助を開始、「米国アフリカ軍」の設立が宣言された2007年にシーモア・ハーシュが発表した記事によると、アメリカはイスラエルやサウジアラビアと非公式の同盟関係を結んでいた。サウジアラビアと緊密な関係にあるムスリム同胞団やサラフィ派がシリアの体制転覆を目指す反政府軍の主力になっている。 中東/北アフリカに対する本格的な軍事介入が始まる切っ掛けになったのが2001年9月11日の出来事。言うまでもなく、航空機がニューヨークの世界貿易センターにあった超高層ビル2棟に突入、ペンタゴンが攻撃された、あの出来事だ。 クラーク元司令官によると、911の6週間後にブッシュ・ジュニア政権はイラク、イラン、シリア、リビア、レバノン、ソマリア、スーダンに軍事侵攻する計画を作成していた。 侵略軍による破壊と殺戮を国連が傍観しているシリアの状況は今後、さらに悪くなる可能性が高いが、ネオコンが作成したリストに従えばイランに対する戦争も始まり、東アジアでの軍事的な緊張も高まる可能性が高い。ネオコンは中国と日本を戦わせ、両国を疲弊させるつもりだ。ネオコンとの関係を断つことができないなら、日本は破滅する。
2013.01.01
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