2012年10月28日
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カテゴリ: シリーズ京歩き

明治の哲学者たちが、思索にふけりながら散策したという哲学の道。

清流の音しか聞こえない。
往時は、本当に何もない静かな小道で、考え事を深めるには、
さぞ、最適の散歩道であったであろうことが偲ばれます。


哲学の道.jpg


哲学の道の傍らを流れるのは、琵琶湖疏水の支流。

海運や発電により、京都の近代化を推し進めた琵琶湖疏水ではありますが、
その流れも、このあたりまでくると、実用面よりも、しっとりとした風情を感じさせます。

ここが、今のような遊歩道として整備されたのは、昭和45年のこと。
日本の道100選にも選ばれているという、代表的な散歩道であり、
また、この周辺は、いくつもの名刹や古社が点在している地域でもあります。

先日は、この哲学の道に沿い、周辺の寺社のいくつかを訪ねてみました。



若王子橋.jpg



哲学の道の南の出発点は、若王子橋。
ここから、北端の銀閣寺橋へと向けて歩いていきます。


この若王子橋のたもとに建っているのが、「熊野若王子神社」。

後白河法皇が、紀伊から熊野権現を勧進して建立したという古社であります。


熊野若王子神社.jpg



歴代の足利将軍からも崇敬を集めた神社であったということで、
足利義政は、ここで盛大な花見の会を開いたと伝えられています。

その後の応仁の乱で社殿が焼失。
現在の社殿は、豊臣秀吉により再建されたものなのだそうです。


大豊神社.jpg



こちらの神社は、「大豊神社」。
平安中期、宇多天皇の病気回復を願って建立されたという由緒を持つ神社です。

この大豊神社は、椿や紫陽花の名所としても知られているところですが、
何と言っても、ここでの必見は、摂社・大黒社の狛鼠。

鼠が大国主命を助けたという故事に因んだもので、
狛犬の代わりに狛鼠が祠の両脇に鎮座しています。


狛鼠.jpg



この境内には、狛鼠の他にも、狛猿や狛鳶などの姿もあり、
ここは、色々な狛動物たちが勢ぞろいしているさまが楽しめる神社でもあります。



道しるべ.jpg



哲学の道に戻ってきました。

この哲学の道。
元々は、何もなかったはずではありますが、
今や、休日の日中ともなると、多くの観光客で賑わいます。

道沿いには、飲食店や雑貨屋さんなどの店もあり、
かつての思索の道も、今では、すっかり観光の道になっています。

哲学の道を離れ、また、寺社めぐりを続けます。


霊鑑寺.jpg



こちらは、後水尾天皇の皇女が開いたとされる「霊鑑寺」。

代々、皇女が住持を務めていたというお寺で、
またの名を「谷の御所」とも呼ばれる尼門跡寺院であります。

ただ、この寺院が拝観できるのは、春秋に行われる特別公開の時のみで、
訪れたこの日は、拝観することが出来ませんでした。



安楽寺.jpg



こちらは、浄土宗の名刹「安楽寺」。

後鳥羽上皇の女官であった松虫・鈴虫の哀しい物語が伝わる寺で、
「松虫鈴虫寺」とも呼ばれています。

この寺も、通常は非公開なのですが、たまたま、この日は公開の時期にあたっていて、
内部を拝観することが出来ました。



安楽寺2.jpg


この松虫・鈴虫にまつわる話というのは、
鎌倉仏教の歴史において、大きなエポックとなった事件。

少し、その概要に触れてみます。

***


後鳥羽上皇は、松虫・鈴虫という2人の女官を、ことの外、寵愛していましたが、
この2人が、いつしか浄土宗の教えに魅せられて、
ある日、御所を抜け出し「安楽寺」で行われていた念仏法会に参加します。

この法会を主催していたのが、安楽と住蓮という2人の僧。
この松虫と鈴虫2人のひたむきさに打たれた安楽と住蓮は、
松虫と鈴虫の剃髪を行い、出家を認めます。


寵愛する女官が、2人して出家。
このことを知った後鳥羽上皇は激怒し、
安楽と住蓮の2人を捕えて処刑してしまいました。

さらに、それでも怒りがおさまらない上皇は、念仏の停止令を発し、
また、2人の師である法然とその主だった弟子たちまでも、
僧籍をはく奪し、流刑に処しました。

これにより、法然は讃岐国へ、その弟子であった親鸞も越後国へと
配流されることとなりました。


***


法難にもめげず、信仰を貫き通した安楽と住蓮。
ここ「安楽寺」は、そうした歴史を伝えている古刹なのであります。


法然院1.jpg



一方、こちらも法然上人にゆかりの寺。

法然が、念仏道場として開いた「法然院」というお寺です。


法然院2.jpg


木々に包まれた境内で、滝からの流れが、池に注ぎ込まれています。
深い森の中といった感じがして、とても雰囲気の良いお寺であります。

また、ここは、谷崎潤一郎や河上肇など、
著名な学者や文人のお墓が多いということでも知られています。


さて、「法然院」から再び、哲学の道に戻ってきました。

「法然院」へ向かう分岐点の近くにあるのが、
哲学の道を象徴する、この石碑です。


西田幾多郎歌碑.jpg



そこに刻まれているのは、
かつて、この道を散策していたとされる明治の哲学者・西田幾多郎の歌。

「人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を 吾は行くなり」

独立自尊の精神というのは、明治人の特徴なのでしょうか。

しかし、ただそれだけではなく、この歌からは、
孤高の哲学者が味わっていた、孤独な悲哀のようなものも、感じられるように思います。



銀閣寺橋.jpg


北の終着点、銀閣寺橋につきました。

この哲学の道というのは、1.6kmの距離なのだそうですが、
寄り道をしながら歩いたせいもあるのか、
とても凝縮された時間であったように感じられました。

この後は、銀閣寺へと向かったのですが、続きは、また次回です。






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最終更新日  2012年10月28日 22時30分21秒
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Re:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
KAZNY  さん
哲学の道、大好きな道です。何度か歩きました。色々な寄り道の見どころがたくさんですね。
整備される前はどんなところだたのでしょうか。
(2012年10月29日 05時14分57秒)

Re:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
特別公開の日に合わせて京都を訪れていた学生の頃ははるか昔なので、もうすっかり忘れていた地域ですね。哲学の道は、銀閣寺などに訪れるときにチャット歩きますが、ところどころなのでずっと通して歩くほどの時間が今は無く、興味深く読ませていただきました。
なくなった義父が京都の大学に行っていたので、よく哲学の道と湯豆腐の話を懐かしそうにしていましたね。 (2012年10月29日 07時48分27秒)

Re:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
picchuko  さん
gundayuuさ~ん!お元気でしたか?
更新を楽しみに待っておりました。^^

私お哲学の道は何度か歩いたことがありますが、いつも店先で買った何かを頬張りながら(笑)、無駄話に勤しんであっという間に通り過ぎていたように思います。^^;
でも、法然院はその風情が好きで、覚えています。

承元の法難については、初めて知りました。^^
だから、香川のあちこちに法然の足跡が残されているのか~と納得☆
以前、gundayuuさんが崇徳上皇についても教えてくださって、何故に香川に西行の足跡があるのか納得した時と同じ、すっきり感がありました~。^^
四国は神さまいっぱ~いいる愛された地なので、こういう偉大な方が引き寄せられるんですよ。(爆)
gundayuuさんも、また香川の地へお越しくださいませ。
善通寺の国宝館、崇徳天皇陵、鼓岡神社などなど、まだまだgundayuuさん好みの場所が待ってますよ。^^ (2012年10月29日 11時16分35秒)

Re:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
ほほえみ塾  さん
gundayuuさんへ

久しぶりの更新ですね。
後鳥羽上皇の女官であった松虫・鈴虫の哀しい物語というのは、全く知りませんでした。

信仰するということについて、、
深く考えさせられました。

法の道を信じ、法難を自らに受けた人の心の深さに胸を打たれます。
私たちはなんのために生まれて来たのか?

今の時代こそ、、
法の道を信じて人間としての道理を身につけねばいけないと
心から思います。
宗教と言うくくりではなく、
人の道を歩むことこそ法の道のような気がします。

人間の真理は、、
数千年前からなんら変わっていないのに
それすら忘れてしまった人の多い今の時代です。
人間の原点に立ち戻りたいと思う今日この頃です。

(2012年10月29日 23時58分16秒)

Re[1]:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
KAZNYさん
こんばんわ~

>哲学の道、大好きな道です。何度か歩きました。色々な寄り道の見どころがたくさんですね。
>整備される前はどんなところだたのでしょうか。


哲学の道を挟んで、南禅寺から銀閣寺。
このあたりは、色々な社寺が集まっているところで、
京都でも、一番楽しめる地域の一つですね。
整備される前も、土手になっていたのでしょうけど、
その頃から、桜並木があったようです。
(2012年11月03日 23時19分22秒)

Re[1]:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
灰色ウサギ0646さん
こんばんわ~

>特別公開の日に合わせて京都を訪れていた学生の頃ははるか昔なので、もうすっかり忘れていた地域ですね。
哲学の道は、銀閣寺などに訪れるときにチャット歩きますが、ところどころなのでずっと通して歩くほどの時間が今は無く、興味深く読ませていただきました。
>なくなった義父が京都の大学に行っていたので、よく哲学の道と湯豆腐の話を懐かしそうにしていましたね。

ちょうど今は、特別公開の時期ですね。
普段は見れない、入れないところを拝観できるので、私も楽しみにしています。
今年の特別公開で、行ってみたいところがあるのですが、行けるかどうか。
南禅寺の湯豆腐は有名で、色々な店がありますが、中に入ったことはないんです。
(2012年11月03日 23時21分53秒)

Re[1]:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
picchukoさん
こんばんわ~

>gundayuuさ~ん!お元気でしたか?
>更新を楽しみに待っておりました。^^

いつも、ありがとうございます。

>私お哲学の道は何度か歩いたことがありますが、いつも店先で買った何かを頬張りながら(笑)、
無駄話に勤しんであっという間に通り過ぎていたように思います。^^;
>でも、法然院はその風情が好きで、覚えています。

ははは、哲学の道は、考え事をするんじゃなくても、語らいの道でもありますね。
法然院、風情があって私も好きなところです。
でも、建物の中は、公開日以外見ること出来ないんですよね。


>承元の法難については、初めて知りました。^^
>だから、香川のあちこちに法然の足跡が残されているのか~と納得☆
>以前、gundayuuさんが崇徳上皇についても教えてくださって、何故に香川に西行の足跡があるのか納得した時と同じ、すっきり感がありました~。^^

法然と、親鸞にしても、これは、思わぬとばっちり。
この機に、浄土宗をたたいておこうという上皇の意図があったという説もあるようですが。
香川にも、法然の史跡がいくつか残っているのでしょうね。


>四国は神さまいっぱ~いいる愛された地なので、こういう偉大な方が引き寄せられるんですよ。(爆)

そうかも知れない。
確かに、四国は、山や川に神々が宿っているのかと思わせるような、
不思議な雰囲気を感じさせるところがありますね。


>gundayuuさんも、また香川の地へお越しくださいませ。
>善通寺の国宝館、崇徳天皇陵、鼓岡神社などなど、まだまだgundayuuさん好みの場所が待ってますよ。^^

はい。有難うございます。
善通寺国宝館や崇徳天皇陵は、前回、行きそびれましたね。
(2012年11月03日 23時28分30秒)

Re[1]:哲学の道と周辺の社寺(10/28)  
ほほえみ塾さん
こんばんわ~

>後鳥羽上皇の女官であった松虫・鈴虫の哀しい物語というのは、全く知りませんでした。
>信仰するということについて、、深く考えさせられました。


南無阿弥陀仏を唱えれば、誰でも極楽往生ができるという浄土宗の教え、
庶民の間にも広まって行きましたが、当時において、とても魅力のある教えだったのでしょう。
松虫・鈴虫も、魅せられたんでしょうね。


>法の道を信じ、法難を自らに受けた人の心の深さに胸を打たれます。
>私たちはなんのために生まれて来たのか?
今の時代こそ、、法の道を信じて人間としての道理を身につけねばいけないと心から思います。
>宗教と言うくくりではなく、
人の道を歩むことこそ法の道のような気がします。
>人間の真理は、、数千年前からなんら変わっていないのに
、それすら忘れてしまった人の多い今の時代です。
>人間の原点に立ち戻りたいと思う今日この頃です。

そうですね。
真理を追究することこそが、宗教の神髄といえるのかも知れません。
宗教も、哲学も、科学も、つきつめると、その求めるものは同じなのかなとも思います。
純粋さを大切に、原点に立ち戻れれば見えてくるものがあるのだと思いますね。
(2012年11月03日 23時34分37秒)

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