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双頭の鷲・観賞７　夢と詩

テーマ：【演劇】何か見に行きますか？　行きましたか？(3293)

カテゴリ：美輪明宏さんの舞台＆映画

あなたの人生が、眠っている誰かが見ている夢だとしたら。

【舞台の内容に触れますので、お読みになりたくない方はどうぞスキップなさって下さいね】

スタニスラス
「私たち二人は夢なのですね。眠っている誰かが見ている夢なのですね。
その人は、きっと深く眠っているので、自分が夢を見ていることに気がつかないのです。
でも、用心しましょう。
あまりに激しい夢は、眠っている人を、その眠りから目覚めさせるといいますから。」

しばし浮世逃れに出かけたつもりが、知らず作り手の日常が持ち込まれ
より現実を突きつけられてしまう舞台も数ある中で、
詩人の紡ぐ美辞に満ちた膨大な言葉が「日常語のように」かつ
流麗に吟じられる音に身をひたす喜び。

王妃の科白を、美輪明宏さんは最大３８分もの長きに渡り一人で詠じています。
本来、ほとばしる水のように言葉を遊ばせるべき詩人が、終始無言を決め込む前で、
舞うように、歌うように、詩人以上の吟遊ぶりを数百年続く王家の末裔が
強かに見せつける様を、一瞬たりとも気をそらせずに演じられる驚異。

「自分に満足した人は天狗になる。
自分に満足できないから向上心が生まれる。
まだ足りぬ　踊り踊りて　あの世まで。」

自分に決して満足できないという若く美しいゲストの方に
六代目菊五郎の辞世の句を引いて贈られた言葉からは、
半世紀以上もの長きに渡って、芸術至上主義を貫いた方が
いかに己を持しているかが見えてきます。

コクトーが「八十日間世界一周」を模した旅行で日本にやってきたとき、
観賞に臨んだのがこの六代目菊五郎氏の舞台。
上演前、楽屋で引き合わされて握手を交したとき、フランスの詩人がそっと手を握ったのを、
白粉が落ちぬようにとの繊細な配慮を感じたと、日本の至宝が語られたそう。
同じく舞台を能くする方同士ならではのエピソード。

「まだ足りぬ　踊り踊りて　あの世まで」

この辞世の句に大きな共感を寄せる方の、
芸術至上主義、命を賭けた舞台を目の当たりにしては
目の前で展開する役者の観せる人生が、どんなに常軌に外れた、非道のものであっても
あるいはそれを生きる道もありやとの夢に酔えるのです。

スタニスラス
「私があなたに差し上げるのは、あの双頭の鷲、あなたの紋章を飾っているあの双頭の鷲、
あの鷲にあなたと私とでなるのです。
あなたのお城は、この鷲が飛んで来るのを、久しく待ち侘びて来たのです。」

王妃
「神よ、そなたの神秘の王国に、
何とぞ我らを迎え入れ給え。
我らの秘かなる愛を、
世の人の眼差しに触れさせ給うな。
天国にて、我らの永遠の契りを交させ給え。」

舞台を観賞したのは４月。ふたつの頭を戴く紋章のイメージは
３月末の「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」観賞時に顕著にされた
ぐるぐる回る輪、半神のモチーフにも重なって。

ロックな詩人・ヘドウィグがよじ登る壁は、この世で生きて生きて生き抜く
パワーに溢れていましたけれども
クランツの城壁を登る詩人は、ただこの世ならぬものに繋がることで生き延びた
王妃という頂きに挑み、踏破したところで、類なく甘美な夢の随に漂うことになります。

それもつかの間、互いが激し過ぎる詩ゆえに、すぐに苦味を醸すスピリットに。
単に目覚めるには、あまりにも熱く、胸を焼く嵐の夜の夢と、その朝（あした）。

夢見られる人は、誰もが詩人。

続きます。

「美輪明宏さんの舞台」
「山本耕史くんの舞台」
「堂本光一さん・自信と謙遜」

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