[Stockholm syndrome]...be no-w-here

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2022.08.24
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カテゴリ: 映画
僕は「作品の良し悪しは、脚本と演出でほぼ決まる」という考えだが、今回観た【ラスト・ディール】と【草原の実験】は正にそれを証明する対照的な作品だった。
どちらも脚本としては遜色ない出来なのだが、前者は演出が素直過ぎて次の展開が読めてしまい、最後まで物語の世界に没入できなかった。
一方の後者は、脚本自体は単純ながら演出がとにかく巧みで、台詞が無くて意味の分からない描写でも、次の展開で「なるほど、そういう事か」と気付かされるなど、最初から最後まで集中力が途切れる事なく観られた。

分かり易いが故に単調で想像力を欠いた前者と、何も語らない事で想像力と衝撃を与えた後者。
鑑賞後に「映画を観た」「これぞ映画だ」と感じられるのは、間違いなく後者だろう。
演出一つで作品の印象が大きく変わる事を、改めて感じさせてくれる良い機会となった。

それにしても、このタイミングで【草原の実験】を観た事が、何かの悪い予兆ではない事を心から祈っている。



【ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像】… 満足度★★☆


最初は、冴えない画商の祖父と思春期の孫が絵画を通して交流を深める物語かと思ったが、そこに娘(母親)が加わると実は「世代間」特に「Z世代」を描いた作品だと気付く。
祖父はそもそも商才が無く、おまけに典型的な老害だし、娘(母親)も日々の生活費に追われて頭も心も疲れ切っている。
どちらもいわゆる社会の負け組で、残念な大人として描かれているのだが、孫の機転のおかげで何となく丸く収まり、最後は彼に希望を委ねるという展開になっている。
(タイトルの「ラスト・ディール(最後の賭け)」とは、そういう意味だろう)

良心的な映画だとは思うが、演出まで良心的過ぎたのか次の展開が読めてしまい、全体的に物足りなさを感じた。
大事なクライマックスも、あの状況で孫と社長が取った行動はどちらも演出としては最悪で、せっかくの緊迫感を台無しにしてしまっている。
芸術の価値が常に金額に換算されて語られる事も、個人的には居心地の悪さを感じた。




【草原の実験】… 満足度★★★★


ロシア映画だが、舞台は旧ソ連時代のカザフスタン。
見渡す限りの青空と草原の中に建つ、貧しい一軒家に暮らす父娘を巡る物語。

大好きな映画【とうもろこしの島】も寡黙な作品だったが、本作は全編を通して台詞が一切無く、全てを観る側の解釈に委ねる実験的な作品となっている。
登場人物に関する情報も、ほぼ皆無に等しい。
物語は後半に進むにつれて難解さを増し、突然のラストを迎えるため、一度の鑑賞で全てを理解できる人はいないだろう。

ラストを暗示する描写は幾つもあるのだが、現実離れしたカザフスタンの風景と少女の美しさは、そうした不穏な空気ですら、お伽噺を彩るための1ページのような印象に変えてしまう。
彼女に恋する2人の青年もどこか子供っぽく純情で、嫌な予感をつい忘れそうになる。
そんな少女が、自立と希望の先に見た光景…。
(あのタイミングで少女の自立を描いたのは、あまりに完璧で見事と言う他ない)

言葉による説明が何一つ無いため、確かに疑問の残る点も多いが、そこは監督の意図だろうし、それらを差し引いても間違いなく必見の映画である。
鑑賞後に「セミパラチンスク」や「チャガン湖」について調べてみると、この作品が単なるフィクションではない事が分かるだろう。
(ただし、調べるにはそれなりの覚悟が必要だ)



【草原の実験】予告編





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Last updated  2022.08.27 20:01:23


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