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『確かに其処は川原なのに、川は見えず見渡す限り川原が続く。三途川原の六丁目あたりだったからだろうか。』白い舌の三つに割れた先をちょろちょろさせ、朱い雀がそういった。雀は今まで、鈴鳴らすように一体どれだけ嘘ついてきたのか、大方閻魔に舌の先を引き裂かれたのだろう....そしてめまぐるしく動き始めた三つの舌先がこう、風に伝えたのだった。『顔中髭だらけにしたカウボーイ姿の男は薄く色褪せたブルーの瞳だけが、その髭面に似合わず、怯えた少年のような眼差し放ってた。真っ黒な濃い産毛のような髭が顔中覆ってたのは、その表情を見られ心を悟られまいとしていたからか。黒に近い濃いグレーの上着とズボンを身に着け、髭面も一緒に全身真っ黒に見えた。その上着の左の胸には黄金の太陽のバッチだけが怯えた瞳と対照的に強い輝き放ってた。よく見ると金の太陽のすぐ横には薄桃色のバラが蕾のままで、咲き誇る力なく頭垂れてた。 男は保安官の星バッチより上階級の、太陽の印に大得意。それは放浪癖ある彼の望みで憧れだった。彼には知る由もない、こよなく自由愛するその男の魂には黄金バッチより、砂漠の可憐な薔薇ふさわしく、薔薇胸に挿し踊る術をこそ心得ているということを。薔薇は黄金の太陽の熱の激しさに、そのみずみずしい美しさをその内に湛えおくことができないでいることを。 灼熱の太陽はやがて男が身に付けた衣服をも徐々に徐々に、黒く変色させ焦がしゆくだろう。 男は笑み浮かべ自分とよく似た少年の背を追っていた。呼びかければ声が届くであろうに、声も出さず、ただ口角をあげ薄ら嗤い浮かべながら、少年の背を白みがかった瞳で追いかけてた。』***********昨日の朝 髭に顔が覆われたカウボーイの夢を見ました。印象深いキャラクターで、夢覚書のかわりに一風変わったおはなしにしてみました。太陽の光と熱が強すぎたら薔薇も植物も、太陽の庇護で生きているものもすべて枯れていきます。太陽は強すぎ、近すぎたら危険な存在となります。太陽が己の中にあるのならコントロールできるだろうし、せっかくの美しい薔薇を枯らすこともないでしょう。そんなイメージを重ねて書きました。カウボーイ、太陽、薔薇、朱雀の象意は皆様で想像を広げてください。夏に掲載したらもっと良かったかも知れませんが....昨日の夕陽にほんブログ村
2017年01月17日
短編 ”小さな国” 明日という日を拒んでるなんてことは認めてないのに、この口からは幾度となくため息が漏れる。 深夜営業の店の看板がせわしく瞬く国道254号線をひとつ曲がって路地に入れば、ひとつふたつ灯りのついてたり、ついてなかったりする住宅が続く。 見上げた空に輝く星の光はあまりに他人行儀な視線でみつめるから、そんなに寒くもないのに上着の前を両手で合わせて重ねてた。 街灯の光は不十分で、ここで誰かにあたしが今襲われたって相手の顔なんてわかりゃしない。 声を微かにあげられたところで、カップルの痴話喧嘩に思い込まれて誰ひとり気にする者はないだろう。 そんな情景を浮かべてはひとつ曲がり、またひとつ角を曲がってアパートのドアの鍵を開けた。 敷居をあがる前の靴置き場の横には、ガスコンロが一つと違法に取り付けた湯沸かし器。トイレさえもドアの外の通路の向いにあるボロアパート。こんな安アパートの二階ではなく一階しか借りられない今のあたし。トイレは外で、シャワーもなく湯沸かし器しかない小さな、小さな部屋には、収納ボックス四つ横に並べてベッドがわりに。それから姿見と本棚がひとつ。 それでもここは、それでもここは、確かにあたしの小さな国。 にほんブログ村
2016年03月13日
星ではなく、街灯や家々の灯火が遠くせわしく瞬く都会。 その瞬きは、スパンコールがたくさんついた、昔流行った歌手が着てるステージ衣装にみえる。 それでも光がないよりマシで、ずっとマシで…。 星降るようにみえた故郷は、すでに帰るあてなどない。 陽射しさえも淀んでしまう、都会に住み着き住み慣れた彼女は、希望や願望の上にかかった黒い布に、色とりどりの数多のスパンコールを今宵も縫い付け、自身の心を偽るようになっていた。 にほんブログ村
2016年03月07日
いつだってあたしの馬はオーバーヒートするまで暴走する。 そして走ることに無我夢中になった馬は、 どこをどんなスピードで、 あたしを乗せて駆けているのかもわからなくなってしまう。 そんなあたしの馬を固い絆で結びつけて置ける人なんてこれまでいなかった。 あたしにだってできやしないんだもの。 これからもきっと無理。 たとえもの好きな御方が現れて、 きつくきつく綱であたしの馬を結いつけられたとしても、 なんにもならないことを知っている。 いつだってあたしの馬は駆け回りたがり、駆け回っていて、 よほどきつく縛りつけたって、 あたしの馬の口にかけた手綱になんてならないもの。 それでもあえなく断絶した使い物にならなくなった綱が、 切れ端でも残していたらそれをみて、 じゃじゃ馬と化したあたしの心は、 人の心の形態を取り戻すのだろうか? ・・・そんなおとぎ話のようなことはないねえ。 そう、それならいい。 あたしはあたしの馬に口輪をはめよう。 あんたの口には輪なんてはまってないじゃない?! あんたはあんたの口に自分で輪をはめることなんてできないじゃない!! なんて想像力の欠片もない人に何を言われたっていいの。 あたしは全く気にしない。 ダイヤモンドやルビー、サファイヤ、 まして流行りのパワーストーンなんかにゃ、 まったく興味をそそられないあたしの口輪には、 そんな石ころの変わりに、虹の七色をした甘い金平糖をはめ込むの。 じゃじゃ馬の心模様で七変化する虹の金平糖。 そしてあたしの胸ん裡(なか)でこのじゃじゃ馬が、 落ち着き無く長い時間駆け回り続けていて、 血糖値が下がって血圧があがっていたら、 それを一粒、二粒爪ではがして口に含んで、 金平糖が夜空彩る、おとぎの国の夢の世界へと向かわせてしまおう。 そしてどうしても、 停止させなければいけなくなった時には金平糖のかわりに、 じゃじゃ馬の目を盗んで幾つかはめ込んでおいた正露丸をその口へと放り込むの。 さすがのじゃじゃ馬もお腹の裡にあるもの全部排出せざるを得なくなって、 脱水症状起こして止まらずにはいられなくなるから。 正露丸を放り込む時だって、かけはやるあたしの心をこう欺くの。 これは黄金の金平糖に黒糖をまぶしたものなのよって。 舌が痺れるほど甘味なのは、世にも希な金平糖だからなのって。 にほんブログ村
2015年08月30日
カンカンと陽の照らす 茹だるような昼下がりの庭を そんなものはまったくもって なんでもないさと 澄んだ涼しい眼差しでみつめるあなたに 猛烈な暑さを放ち続けたこの夏の日々 来る日も 来る日も 私のこころは どれほど癒されたことでございましょうか しかし今朝 仄かに秋に色づく風に響き透る あなたの美しい声を耳にしたとき わたしは あなたとのお別れを 予感したのでございます 熱き燃える季節が訪れたとき 澄んだ涼しいあなたの御姿と声に 必ずや再び お逢いできますことを…… 軒の下風鈴さま にほんブログ村
2015年08月17日
村の神社の神木のイチョウは、面(おもて)を空に向け、境内横の狛犬に胸の裡を語りしとか・・・ ああ風は、匂(に)を運び過ぎあの影近づく徴(しるし)告ぐ・・・ まことつまらぬ業を終え継母待つ家路の途、つんつるてんのスカートには傷だらけの膝小僧、瞳にみえるは茶目っ気とおなじ程の寂しさと、まあるい唇愛らしくあの娘は風と競いあい我が懐に駆け寄れり 根元に置かれし廃れた遊器具へと醒めた赤のランドセル、ポンっとむげに投げ放つ あの娘に我差し出(いだ)す最下の枝に腕をかけ幹の突起に足を置き、あの娘は小さな身体の重み両手両足交互に委(ゆだ)ね我が懐(ふところ)へと登りくる、小さな胸には呼吸(いき)弾まして… 今日あの娘は学校で何があったか我知らん 昨日家で継母に何言われたか我知らん あの娘の瞳は深い深い孤独の湖(うみ)の色湛え、我はただただそれのみぞ知る あの娘は小さな身体の重み両手両足交互に委ね我が懐へと登りくる、小さな胸には呼吸(いき)弾まして… わが腕(かいな)は小さき腰抱(いだ)き、いざ手向けん、空と海とがあいみる処 緑の血管透ける頬歓喜でうっすら朱に染まり、琥珀色の瞳の大きく見開かれるを、 我うっとり、うっとり眺むればこのひとときぞ夢心地 日暮れ告ぐる西風は我が思慕冷やかさんと取り囲み、その恥ずかしさで身は震え、我は思わず枝揺らめかす、葉のざわめきはおさまるをしらず 遠く蒼く浮かぶ海 その漣(さざなみ)と 君よ 君よ 耳にしてはくれんか いつか君を空へ、胸にいくつもの傷負う君のなにものからも傷つけられぬよう われいつか君を空へ 君を空へと連れゆかん・・・ にほんブログ村
2015年08月07日
短編 〜スポットライト〜半年ぐらい前には真っ白だったと思われる、着古して黄ばんだシャツをまとった少女は、2年前にはちょうどよかったけれど、今となっては、引き締まった小動物の脚のような彼女の腿を、ほとんど隠すことができてないスカートを身につけていた。最後に切りそろえたのはいつだろうか?というほどに不揃いな、肩を5・6センチ越して伸びた髪を無造作にひとつに結き、公営集合住宅の空き地と隣接した畑を囲ったネット、その上のわずかなスペースの上に、器用に腕と脚で絶妙なバランスを取りながら、身軽そうな細い身体を委ね、彼女は座っていた。それは、よく晴れた初夏のことだった。夕暮れにはまだ早い時刻で、微風が出てきていた。少し傾いてはいるが、真夏を思わせるように輝く日差しを、顔にも、全身にもスポットライトのように浴びながら座っている彼女は、顔を少し左へむけ、奥二重の眼を細めていた。整った目鼻立ちを少し歪ませたその表情は、6・7歳と思われるその少女を、思春期の娘よりも大人びて見せていることに、わたしは驚きを隠せなかったのだった。カメラ片手に散歩していたわたしに気づいても、彼女は姿勢も表情も変えずに座ったままだった。彼女が一体いつからそうして、どこを見ているともなく、風景と風に馴染むようにゆったりと座っていたのか、わからなかったが、そうしていることは、わたしが思うほどには、容易でなかったのかもしれない。驚かせないようにゆっくりとそっと近づき、こんにちは っと少し離れたところから、わたしは彼女に声をかけた。”今”に溶け込むように座っている彼女のこの姿をcameraに収めたい衝動に駆られたからに他ならなかった。それを彼女に伝えようと声をかけたのだったが・・・すると彼女は猫のように全身のバネを縮めてから伸ばし、座っていたとこから小さなつむじ風を起こすかのように、わたしの目の前に降り立ったのだった。こんにちは・・・わたしから何を言われるのか?っと、不安そうではあったがそれを隠すかのように、それまで一文字に引き締めていた唇の端をあげて、微笑するようにして彼女は答えたのだった。そしてこういう結果を思慮することなく、彼女に声をかけてしまったことを、その後長いこと、わたしは後悔することになったのだった。にほんブログ村
2015年07月12日
短編 〜織姫〜三つ目の湯呑を空けたお天道様が、”それじゃそろそろ・・・”っと重い腰をあげた時、織姫さまはホッとした。”お天道様ったらいつものように、小一時間もここに居座っていらっしゃるんだから・・・きっと今日が何の日なのかすっかり忘れていらっしゃるのね。”今日に限らず、織姫さまは忙しい。年に一度しか戀しい人に逢えないから暇なんじゃない?ってみんなは思い込み、彼にあえなくて寂しいんじゃない?なんて勝手に同情して、招きもしないのに、お茶の時間になれば、毎日のように誰かしらが戸を叩く。”ご心配無用、そんなこと全然ありませんから、ひとりにさせて!”なんて本心を言おうものなら、遠いあの人の耳に届く頃には織姫さん、悠々自適にお暮らしよ、誰かいい人できたのかしら・・・なんて話になっているのが怖くて、本当の気持ちなんて言えないけれど。織姫さまことアタシは忙しい。年に一度しか戀しい人に逢えないから忙しいのに・・・だって、一年の間にしてさしあげたいことを、たったの一日、この許された一日でしなければいけないんですもの。彦星さまが春夏秋冬過ごしやすく、快適にすごせる衣服をこしらえるだけでも、大変なことだって、なんでわかってくれないのかしら???しかも、この一年の間に彦星さまがいったいどれぐらいお太りになられたのか?お痩せになられたのか?去年のままなのか?わたしは知りえようもないのだもの。だからわたしは少し太めと、細めと、そのままの大きさで毎年仕立てるの。それから旬の山菜や木の実、果物を日持ちするように大量に乾かしたり、たまに貴重な兎や鹿や猪の肉が手に入ったら塩漬けにしたりもする。これも一年分こしらえて差し上げるの。晴れて所帯をもつその日まで、彦星さまにはお健やかでいてもらわなければ・・・健康の要は口にするもの、そうよ食材でしょう?彦星さまはアタシより十以上も年が離れているんだもの。一年に一度しか逢えないから、涙が川になっちゃうほど泣き濡れてる女だって、アタシは今も世間にそう思われている。確かにそうではあったけど・・・一年でも二年でも、泣くだけないたら女は、現実に沿った将来設計をして、日々を生産的に過ごすようになるものよ。諦めるんじゃなくて、今許されていることを黙々とこなして日々を過ごすの。夢見る甘ちゃんだったアタシだってその例外じゃなかったってこと。彦星さまに差し上げるものを捻出するのも大変だって、そんな素振りは微塵もみせはしないけれど、生きるってことはタダじゃないし、タダじゃすまない。わたしは職業婦人でもあるのよ。ロマンを食べては生きていけない。いつまでもロマンを食べ続けられるのはむしろ男性、彦星さまの方じゃないかしら?泣いてる暇なんてありゃしない、これは本当のことだけど、知られてはいけない・・・決して誰にも、彦星さまにも!大和の国のジュリエットを名乗り、ロマンを背負い、胸に抱き、美しくも切ないヒロインであり続けるの。嗚呼、今宵はいよいよ天の川を渡り、あの人のもとへ。戀しくない、、、なんていったらそれはそれで、もちろん嘘になる。水面にアタシを映してみると、一人暮らしが身に染まり、たくましく過ごす生活感が顔にも心にも滲みだしてきたみたいにみえる。容姿も衰えていく一方なのね・・・目の下の隈も、ほうれい線も影を増し、今夜はもう、隠し様がないんじゃないかしら?どうか褪せた色香が、少しでも闇夜にまぎれますように。・・・ダメよ、ダメ!そんな弱気は絶対にダメ!疲れてしょぼしょぼになった瞳を見開き、口元には夜露にぬれた花びらのような笑みを浮かべ、張り詰めた肩、前かがみになって丸まった背筋は天井から吊り下げられたようにピーンと伸ばし去年よりも更に厚目に化粧を施し、この肌の色が少しでも映える衣の袖に腕を通し、千年、万年までも褪せず変わらぬ想いを胸に、年に一度の待ち焦がれた逢瀬への溢れる想いに瞳を潤ませ、今宵、天の川原で同じように、出逢った頃と変わらぬ瞳で待っているあの人の元へあの人の胸の中へにほんブログ村
2015年07月08日
短編 月影のなき秋にぞ想うあなたとお逢いすることがなくなって、随分久しくなりますね。こちらはもうすぐ木枯らしが吹き、秋雨が降り続き、周囲の山々の峰に雪衣を纏わせてしまえば、あっという間に冬となるでしょう。あれは偶然だったのか、必然だったのか?先日、久しぶりにあなたの御姿を拝見いたしました。天の采配があまりに巧妙であったからか、わたしはしばらくの間、それがあなただと気がつきませんでした。勿論、今でもそれは明確ではありませんし、その事実を確かめるために、それをあなたに問うだけの勇気は、今のわたしには・・・いいえ、おそらくこれからもずっと、わたしには御座いませんでしょう。わたしがそう感じたのは、わたしが初めてあなたにお逢いしたあの夜と同じように、心も、そして身体も、ガタガタと震え、その震えは指の先へまで及んだからでした。わたしはその自分の身体の反応から、唯そう思い込んでいるだけなのかもしれません。あなたの横顔と、振り返った時の笑顔は、あなたの営みで溢れていました。そしてその笑顔がわたしに示していたのは、あなたの瞳に映る、時々の風景であり、あなたの日々に欠かせない人や物や色、香りであり、様々なあなたの心の象でもありました。そしてそれは、あなたとお逢いしていた時も、また、お逢いすることがなくなった今でもやはり変わらず、わたしとはかけ離れた、遠い遠い異郷の風景でもありました。テレビのモニターを介してはおりましたが、その御姿を嬉しくもあり、寂しくもあり、懐かしく、その情景の中に溶け込んで、わたしは眺めていたように思います。あなたは、相変わらずわたしのこころを揺すり、揺らし、その振動は、心から全身に伝わり、わたしの指先まで浸透していきます。そしてそれが、あなたとお逢いできなくなった理由でございました。今こうして再び、偶然あなたの御姿を目にしたことが、わたしにどのような影響を及ぼすのか、及ぼさないのか、わたし自身にもわかる術はございませんが、偶然目にしたあなたの御姿を、わたしは自分の心に、刻みつけてしまったのだろうとは思っております。そして、あなたの瞳が映していた遠い異郷のような景色の中の処々に、蜉蝣のように浮遊するわたしの亡骸をみつけるにつけ、過去であったにせよ、記憶となってしまったにせよ、あなたとわたしが同じ空の下で触れ合っていたことに気づき涙するのです。あはれ知る 人失ひて久しきを 月影のなき 秋にぞ想ふ寒い、厳しい季節がもうすぐやってまいります。どうぞご自愛くださいませ。にほんブログ村
2015年06月09日
物語詩 〜 オアシス 〜風が吹き抜ける四方八方東西 南北より風が吹く何処から何処へどんなふうに吹くのか風にもわからぬままに砂漠の熱き黄砂さらいはるか南方より風は至りて覆い尽す灼熱の太陽の光さえラクダ連れた商隊は行く手阻まれ脚をその場に踏み留めんとすはぐれぬようにと仲間と声掛け合いおののくラクダ引く綱強く握り重心を下げ風圧を低くすその甲斐虚しく彼らは既に半身を砂と化したすべてを砂と化す風は今まさに砂と化さむとする人々が愛する人の声を伝うラクダの背に積まれた荷を心待ちする人々の声運ぶその声はまるで風に弄ばれ狂ったように紙屑が如く流さる鳥のようにだがそんな時でさえオアシスは歌うように水涌きいだす気まぐれな宙(そら)吹きいだす風にオアシスはその美しき顔に波紋寄せ波紋は波紋を生み広ぐけれど・・・乾いた砂漠の美しきオアシス何にも歪むことなき冷たく徹る横顔をさらけだしオアシスの底は静かにその様を映しいだす人々の身も心も癒すオアシスはオアシスはオアシスはただその様を映し出すのみ…… にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2015年05月29日
短編 ~風が風であるなら~五月も二十日を過ぎ、あなたの街の風も、街路樹の青葉と同じ薫りを漂わせている頃でしょうか?わたしの佇む異国の窓辺には、南の町には澱んだ靄が気怠く寄りかかり、北の山には緑萌え、真っ青な空には大きく厚い真っ白な雲が、灼熱の国の物語の、ランプの精のように突然姿をあらわして、今年の猛暑の兆(きざし)をみせているようです。突然・・・連絡を絶ったことをお許しください。あなたの心に投石する行為だったら、お許しください。わたしがこう望んだとか、これで良かったのだとか、わたしはわたし自身のことであるのに、言い切ることができないでおります。もしかしたら、優柔不断で煮え切らぬわたし自身の心に、身体が苛立ち、衝動的にお傍を立ち去ったのかもしれません。わたしの身体は、わたしが気づいているよりずっとずっと、あなたのお近くにいるだけで甘ったれ、ほっとかれたら弱くて脆い、そんな 心 に我慢がならなくなっていたのかもしれません。そしてまた、あなたから少し離れさえすれば、わたしの心はふたたび引き締まり、地面をしっかり踏みしめるだろう、そんなわたしの心の強さの一面を、わたしの身体は知っていたのかもしれません。・・・・・・・・・こんなふうにもっともらしく、あなたに書いてみてはいるけれど、わたしがあなたに語る説明やら言い訳は、まったく何の意味にも、理由にもなっていないし、本当は意味も、理由もないのでしょう。わたしはふと、こんな風に感じたのです。無数のあなたという風が無数のわたしという風がこの相対の世界のなかで異なる風向きに異なる温度異なる強さで時に 優しく混じり合い時に 激しくぶつかり合いいつでもどこでも吹き透っていますある日突然わたしがあなたと出逢いまたある日突然わたし(あなた)があなた(わたし)の前から去っていくのはあなたとわたしの正体が風であり風が風であるならば不自然ではなくむしろ自然の成り行きだったのではないか?っと。もしかしたらいつかまたおなじような時期の同じような気候に少し温度と風向きを変えてあなたという風とわたしという風は出逢うのかもしれません・・・そしてまた出逢うことは二度とないのかもしれません・・・にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2015年05月24日
ウサギ あの娘は俺のこゝろをチラリと覗いてから こう伝えてきたっけ・・・ ”こゝろの地下鉄駅には出入り口がなくてさ 嗚呼 っと 小さいため息もらしたって トン っと 崩れた膝が地面と鳴らす微かな音だって どんどん大きく響いてく あんたが出したそれらの音に あんたのウサギが血走った眼をして身を縮こませるの” っと・・・ ********** あの娘がどこの誰かなんて俺は知らない これまでどうしてたなんてことも 知らん顔して過ごしてるさ 俺だって俺自身が いつからここにこうして座って過ごしているかなんて すっかり忘れ去ってるんだし 俺はこのギターとともに うつろう太陽と月の満ち欠けと流れる星を背景に このベンチで寝転んだり座ったりしてきたんだ 来る日も来る日も 来るあてもないバスを待つベンチで… でも そう想っているのは俺で 俺は流れ来ては去ってく窓の景色を遮断してるだけで このベンチこそがもしかしたら 俺の日常というバスかもしれないけど… 陽が傾きかけた時刻だったか 俺の傍らにもう一人ぐらい座れるだけのスペースをあけて 気がついたらあの娘の影があったんだ 俺と同じようにあの娘の胸の真ん中にも ウサギ が住み着いていた 憂さ という毛を纏った生き物さ あの娘の胸の真ん中の大きくポッカリ空いた穴に頭からその身をつっこんで 真っ白いフワフワの毛のしっぽと後ろ足だけこちらに晒してたよ 俺の胸の真っ黒いウサギも顔出して あの娘のウサギのまあるいしっぽを怪訝そうに覗いてた 俺もあの娘も俺たちが胸に抱えてるウサギになんか ちっとも気づかない素振りしてたけど あの娘は下ろしたリュックの中から ノートと鉛筆を取り出して描きはじめた あの娘より高い座高を利用して 俺はそのノートの中身を横目で覗いたんだ そのノートはウサギの森のウサギの住処だった きっとあの娘は毎日毎日飽きもせず ウサギの森を刻銘に描いて過ごしてきたのだろう 絵を描いてるあの娘の横顔の唇と頬が 澱んだこの俺の瞳にさえも愛らしくて 俺の存在を重苦しくあの娘が感じないように 俺はギターを引き寄せ 毎日欠かさず指慣らしがてらに弾く曲を鳴らし始めた 俺がギターを鳴らし始めたって君は振り向くこともなく 聴いているのか いないのか? その耳には届いているのか? 君はノートの白地に線を引いて陰影を描き続けてた まあいいさ 俺はそのうち 君の素振りや存在が気にならなくなるほどに ギターが放つ音の波に深く沈んでいったのだった 藍色のveilを纏った海底に 金粉を撒き散らして鈴のような唄声がきこえてきた 俺にはわからない言葉響かせ その言葉は 牛馬のように鎖繋がれ連れ回され 売られて散々働かされる人々が 仲間同士で遣う言葉だろうか そんなことはどうでもいいさ 押し寄せる波が渦巻くような 俺のギターが奏でるメロディーにぴったりの声色なら 君が征服者に従う婢なら 俺はフラフラ土地から土地へ 竪琴片手に唄い彷徨う吟遊詩人で その吟遊詩人はいつしか 竪琴に合わせて唄う声を失っていたのだから スっとまっすぐ俺に向けられ 君が差し出した真っ赤な林檎は 綺麗に半分に割られてた 嗚呼 そうだね この林檎は君が鎖につながれ 昼夜を問わず働いて得た林檎 そして君は 俺の胸のウサギにも食べさせてやるようにと 小さくて白い手の 鉛で真っ黒に染まった指で 俺にそう伝えてたんだ にほんブログ村 にほんブログ村 にほんブログ村
2015年05月15日
”木憶 きおく”高台にはえるあたしは一本の木だった毎年春になるとくれなゐの花を咲かせ人々の目と心を彩ったお紅(おこう)とあたしは呼ばれてたある年の春あたしは例年に増して色濃いくれなゐの花を真っ青な空に挿頭してたあたしのその艶姿は一匹の白蛇に見初められた蛇はそのまま去るにされずあたしのうろに居着いたのさそれからまもなくおとずれたのはあたしが一世一代の艶姿を脱ぎ捨てた日でそれはあたしが禁犯した日であたしに恋した白蛇とあたしはひとこと言葉交わしたにわかに空かき曇り風吹き荒れ暗雲立ち込め神の怒りのイカヅチがあたしの身を砕きあたしはあたしを取り上げられあたしでしかないあたしだけを許されて微塵にされて木っ端となって崖から荒れ狂う海へと堕ちてったうねりに巻かれ巻きつけられてあたしはあたしはおちておちておちておちておちきるとこまで堕ちてったそしてそのあと木っ端となったこの身ゆえながいながいながいながいとしつきかけて海の面に浮かび上がってた目を開けたら青空の海に太陽が浮かんでた風のざわめきで目が覚めた太陽と目が重なった太陽と目が重なったのに眩しくなくて気がついたらあたしはその目を見つめてたあたしは自分のことを碧い風に漂う波と思ってたけどヒンヤリ ソッとあたしの上を行ったり来たりしてるのは波だったあたしの身とあたしの頬を愛おしそうに眺めながらずっとずっとずっとずっとあたしをなぞってたのは波だったそして波は長々と畝ねる白波はあたしの耳に繰り返し繰り返し繰り返し繰り返しこう囁いてたわすれないよわすれない わすれないでよわすれないで・・・ 追記: 文章は記した時点で、読者の方にご覧頂いた時点でひとり歩きしていきます。 どのように受け取ってくださっても良いのです。 おこう が 木のままであるのが良かったか、 木っ端になって良かったか? は読者の方々にお任せ致します。 おこう は善悪では自分の道を決めらなかったかも。 心中もの と言う分野が文学にあります。 今の時代より裁きの厳しい時代のこと、 そんな時代の恋を想い記しました。 にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2015年05月12日
夕暮れになると思い出すのはあなたとの語らいいつも夕暮れどきに語り合ったわけじゃないけど語らったといういくつもの思い出があるわけじゃないけどわたしは美味しそうなオレンジ色に染まりながらやっぱり同じように柔らかい色に染まったあなたの横にいた語らいがいつもおだやかだったわけでなく和やかだったわけでなくあなたが熱心に語る言葉をわたしは熱心にきいていたわけでなくわたしが一生懸命伝えようとしたことがあなたにきちんと伝わっていたわけでなくあなたが語るユーモアをわたしはさっぱり解さなかったり真面目に語るわたしの言葉にあなたが急に吹き出したりわたしたちの語らいはいつも和音を奏でていたわけではなかったけれど思い浮かぶ匂いも笑顔も声のtoneも体温もその全てはわたしの目の前に輝いている今日の夕陽そのものだったのよわたしにとってあなたは・・・***************↑ 妄想ポエムでござんす。わたしデートって現夫としかしたことないんです。でもうちの夫さん、花鳥風月・自然などに胸打たれたり、こころ動かされるタイプではなく、実に現実的な御方でして、公園のベンチで風景や景色を楽しみ、語り合うということは、、、、しません。結婚前にもなかったです。それだけ生活力ありますし、わたしのように、夢を喰うバクのような女にはもったいなく、実に有難い人であると思います。にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2015年01月18日
~ ひなたぼっこ ~ ショートストーリー冬の季節にもかかわらず、眩しいと感じるほどの光が窓から差し込んでいる。数日たくさん降った雨でお空がとても澄んでいるわ~っと私は思った。そのことにきっとあなたも気がつきなさったのね。あなたは足の指の爪をきっているようで、背中を丸めて縁側に座っていた。陽光をシャワーのように浴びているあなたの背中も台所でしばらく、食器の後片付けをしていたわたしの瞳(め)には、眩しくて、眩しくて・・・そして暖かくて、暖かくて・・・あなたにお茶を差し上げに来たのだけれど、わたしは猫のように、音も立てずにスっとあなたのお傍に擦り寄った。 陽光と、さっきまであなたが燻らしていた煙草の香りと、あなたの匂いを胸いっぱいに吸ってみた。わたしの身体は、幾重もの暖かさでとろけそうになった。そしてとろけて、そのままあなたの中に流れ込みたくなった。そんなわたしの気持ちをわかっていらっしゃるくせに、一体君は、何をそんなにうっとりした顔しちゃってんだい?なんてとぼけたお顔で、あなたはわたしをみていらっしゃる。でもそれは、あなたのいつもの癖で、その裏には、わたしのことが可愛くて可愛くて仕方がないんだよ、そんな照れ隠しした、あなたの想いが見え隠れしていてわたしはついつい笑ってしまうの。そしてあなたは、お茶いれてくれたんだっていいながら、お湯呑みではなくて、わたしの手を引き寄せて、そのまま抱き寄せようとするのだけど、そうすると今度はわたしの癖でダメよ、ここ縁側じゃない、、、って身を硬くするの。本当は、本当は、この瞬間、この陽光のように温かい、あなたの腕と胸に強く抱きしめられたいのにね。 にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2015年01月03日
ある方より ”自分のこころ以外には、なんの証もない想い” (十字架 ~ あなたの説いた愛を背に ~ より)ということについて、コメントを頂戴いたしました。<(_ _)> 外的要因に変化するものは想いでは有りません。ひとつのいのちが唯一のように、想いも唯一のもの。想いに証は必要ないけれどもし有るとしたら、いのちそのものが証になる のかもしれませんね。想いが交差したとき、その想いを守り通すこゝろを持つ事かなと私は思っています。*************わたしのお返事想いのような無形のものの証って難しいですね。それは想いだけでなく、過去の出来事・・・だけどそれは過ぎ去った出来事になってしまったこと、などにも言えるかもしれません。目は口ほどに物を言う という言葉がありますが、言葉にしなくても、瞳に想いを込めることもできますが・・・何もいわなくても、相手にそれを感じるだけの感受性のようなものがあれば、瞳を向けただけで、相手はその気持ちを、実際に受け入れるかどうかは別として、瞳に込められた想いを察知するでしょうね。もちろんそれは瞳、視線だけではありませんけれど。 証・・・には有形、無形のものがあるとおもいますが、相手の心に、脳に刻まれていれば、証 といえるのかもしれません。ただ、相手にその証というものを、常に水(想い)を溜めておくために、水(想い)を掬い続けるように、心や記憶として保ってもらわないと実際に顔を合わせる時間がある場合は別ですが、、、相手が遠い存在である場合は、なかなか難しいでしょう。また実際に相手と共有した時間や想いが、過去のある時点で存在したとしても、その過去の出来事を相手がすっかり忘れてしまっていたら、それもまた、過去のある時点で証であったとしても、 現在では 証 の意味をなさないものかもしれませんし。そう言う意味ではいのちそのものが証になるこれは強烈な証でしょう。ある人のいのちそのものが証であるならば、その人とある人は、ぴったりと重なる部分を、多かれ少なかれ有しているのかもしれません。にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2015年01月03日
~ 開かれた小路 ~ ショートストーリーあなたと出会ったのは、ほんの偶然、でもそれは必然だったのかもしれない・・・その日わたしは、傘をさしながらゆっくり歩いていた。そして通りの喫茶店の前で、その中へ入ろうか、どうしようか、、、っと迷っていたの。地味だけれど落ち着いた佇まいの、ぬくもりを感じる喫茶店、そのカウンターにかかっていた、アンティークっぽい壁掛時計にわたしはこころ奪われたから。でも・・・きっとここのコーヒー一杯は、ファミレスの倍以上の値段がするんじゃないかしら?金銭的余裕のないわたしの心に、そんな考えが浮かんできたから。その時、後ろから声が聞こえてきた。あの~、入るんでしょうか?それとも入らんのでしょうか?わたしが振り返ると、そこには目尻にたくさん皺を作って笑っている男性が。それがあなただった。優柔不断なわたしは、わたしが感じている以上の時間、その喫茶店の入口の前に足を留めていたのかしら。振り返ったわたしは尋ねられても、ただその男性をみつめて黙っていた。けっして無口でも、口が重いわけでもないのだけれど、突然誰かに、何かを言われると、わたしはとっさに受け答えができない。そして、こういうとき無理して反応すると、もっと相手がびっくりしたり、戸惑ったり、気持ち悪がったりすることがあるのでわたしはただ黙ってみつめていたのだけれど。その男性は、クスっと笑ってじゃあ、一緒に入りませんか?どうぞお先に・・・っといって喫茶店のドアを開けたのだった。So Much In Love - TIMOTHY B. SCHMITオリジナルは1963年ですが、私は TIMOTHY B. SCHMIT版を高校時代愛聴しておりました。にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2014年12月27日
十字架 ~ あなたの説いた愛を胸に ~いつもの街からXmasソングが流れ、人々の心を躍らせている・・・Xmas、eveか。あの人に逢えないのはわかっている。でも・・・好きよ。ううん、今日だけじゃない。これまでも、これからも、逢えなくても。自分のこころ以外には、なんの証もない想いだけど、それでも彼が好き。彼がわたしの想いに気がついていなくても、気がついて、応えてくれなくても、・・・彼に恋人がいても。好きだから好き。ただそれだけで、それでいいんだと思ったの。そのことに気がついたら・・・すごく涙がでてきた。切なくて、切なくて。でも、何かを 望まなければ、何かを 求めなければ、何かを 思い描かなければ、どんな状況にもそして過去・現在・未来にもこの想い は、左右されることも、影響を受けることもないとわかったの。そして報われない想いを抱き続ける自責の念からもわたしは 解放されたわ。今日という一年で一番、彼への想いが募る日は、わたしもあなたのように、十字架を背負って過ごしましょう。わたしの十字架はあなたのものの数万分の一に過ぎないけれど・・・あなたの説いた愛を胸に。ジーザスクライスト・・・にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2014年12月24日
”一筋の日矢”朝目覚めたら、あなたの姿はなかった。休日出勤だったんだ・・・お布団をあなたの代わりに、私の身体にしっかり絡ませて、あなたはお出かけなさったのね。愛おしさを伝えるところがなかったので、わたしはあなたの残り香のする布団と枕をギュッと抱きしめてみた。窓からは陽が差し込まず、どんよりとした空がのぞいていた。曇天や雨天の日の休日は、いつもより1時間以上も遅く目が覚めるのよね・・・っとわたしは声にだして言ってみた。上半身を起こすと、あなたが煎れていった、コーヒーの香りらしきものが漂ってきて、わたしは空腹に気がついた。それからわたしは顔をあらって、髪を梳かした。その鏡に映っている顔は、もう決して若いとは言えなかった。一週間の仕事の疲れが残っているかのように、目にはうっすら隈があり、口を大きく開けて歯ブラシを動かすと、口の横には細かいけれど、たくさんの皺ができていた。これが今のわたしの姿っとなんの感慨もなくもうひとりのわたしに、そのわたしをみつめさせた。あなたの煎れてくださったコーヒーを温めながら、バターを冷蔵庫から出し、フライパンを温め、卵を割り、トーストを焼いた。トマトを薄く切って卵に添えた。あなたと一緒だったら、チーズ入りのサラダも作っていたけれど、ひとりの朝食ならこれで充分だもの。あなたはいつだって、この素敵なお城で、わたしが好きなように過ごすのを許してくれる。わたしは気まぐれだから、野良猫のように、寂しくなったり、心身が寒くなったり、あるいはあなたが迎えに来てくれたり、手招いてくれるとここへやってくるの。そんな時がもう5年以上続いている。わたしは自分がどうしたいか・・・あまり考えない。なんとなく自分の気持ちには気がついているけれど。ではあなたの気持ちはどうなのか?それもわたしは考えない。あなたが煎れてくださるコーヒーは上物で、いつだってわたしの舌と鼻にすばらしい刺激を与えてくれる。カップに残り少なくなったコーヒーを惜しみながら、わたしは使った食器を洗った。ふと気が付くと雲間から太陽が顔を覗かせ、窓越しにわたしの顔を照らした。・・・まだ私達の上の空は曇ばかりの空なのね。でも、いつかきっとその厚い雲の間から、あなたとわたしの上にも、陽が差し込むときがくるのでしょう。ご機嫌なときに出てくるあなたのいつもの鼻歌を、わたしも口ずさんでいた。 にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2014年12月21日
~クリスマス間近の二人~ ショートストーリー 職場にいたわたしにあなたから、クリスマスはどこへいきたい?っとmailがありました。わたしは、夜景が美しいところ、海が見えるところへ行きたかったのでした。いつもだったら、人影のすくない、薄暗い、星空や月が美しいところをお願いしたかもしれなけれど、クリスマスは、たくさんの幸せな表情をした人々とともにわたしは過ごしたいのでした。でも本当は、あなたがわたしの傍にいてくれたらどこでもいいのですけれど。わたしの方は、クリスマスのプレゼントは何がいいかしら?っとこの数週間ずっと考えていました。クリスマスにお誘いがあったら、どんな服装でいこうかしら?っとなやんでいました。そんなことを考えるだけで、胸が一杯になるのでした。クリスマスのお誘いがあった次の日の23日に、再び職場にいた私にmailが来ました。ダメだ、熱でた~~~っとそのmailには記してありました。わたしはびっくりして、すぐにmailのお返事をいたしました。すぐにお電話ができないことが、わたしはとても悲しかったのでした・・・お返事したあと、これでは、クリスマスのお出かけは無理かしら?っと思いました。でも・・・暖かいお部屋で、暖かい食べ物を煮て、心温まる人の傍で、手をにぎったり、足を温めたりすることもなんて、、、魅力的なんだろうっと思い直しました。だって・・・いつもはちっともジッとしていてくれない人がまな板のうえの鯉になったようでそう思うと、わたしはワクワクしてしまうのです。いつも寝顔をじっとみたくても、わたしのほうが先に眠ってしまって、あなたの寝顔をじっくりと、眺めたことがなかったんですもの。少し強めの風邪薬に、暖かい食べ物や飲み物でぐっすりと眠ってもらって、わたしはあなたの寝顔をじっくりと眺めているところを想像して、とても幸せな気分になりました。ようやく仕事を終えて、わたしはあなたのお部屋へ急ぎました。途中でお買い物もしました。あなたの大好きな葱をたっぷりいれて、おうどんを作ろうとおもいました。新鮮な卵も買いました。鶏肉のささみも、さっぱりしていて食べやすいかしら?と。レモンと蜂蜜と生姜も、お湯で割って身体の奥から温まってもらおうと思いました。今夜はきっとお泊りになるので、自分用の下着と靴下も買っていきました。そのほかのものは、あなたのものをお借りするつもりです。最後にあなたのお部屋の近くの薬局で、ビタミンドリンクと、風邪薬と熱冷ましを買って、あなたのお部屋へは合鍵を使ってそっと、そっと中へはいりました。とても寂しがり屋のあなたはいつものように、こんなに具合が悪い時でも、煌々と部屋の電気をつけているのでした。あなたは眠っているのか、物音ひとつしません。わたしは音を立てないように、内側から鍵をかけなおし、靴をぬぎ、靴下をぬぎ、上着をぬいで、手を洗って、そっとそっと足音を忍ばせて、あなたの枕元へ向いました。あなたは思いのほか、穏やかな表情で眠っていました。でも頬には多少、火照りがあるようでした。わたしは洗った手をお布団で温めてから、そっとあなたの額に手を当てました。あなたの顔が少し動きました。わたしはそっとあなたの額に唇をあてました。すると、あなたは私をゆっくりと抱きしめたのでした。来てくれたんだね、君の匂い・・・僕にはすぐにわかったよ。あなたは眼をつぶったままでしたが、わたしには、あなたがなんと言っているのかわかりました。風邪をひいていなかったら、きっとあなたはそのままわたしの唇を吸い取っていたことでしょう。律儀なあなたは、まだ熱があってフラフラしているのに、上半身を起こそうとしました。起きてはダメよっと、わたしはあなたにソッとささやきました。買い物してきたことを話し、食欲はあるのかしら?食べ物、飲み物のご所望はないかしら?と尋ねたら。ぼくは、きみが食べたいんだホントは・・・っと私の耳元へ、いつもの半分程の元気であなたは囁くのでした。ううん今夜はあなたの手足を、身体をマッサージして、あなたをゆっくり、じっくり調理して、わたしがいただくのよっと答えました。その時のわたしの笑顔にはきっと、いたずら天使と、いたずら悪魔が同居していたかもしれません。 にほんブログ村にほんブログ村にほんブログ村
2014年12月20日
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