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2008.07.11
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カテゴリ: Movie
<きのうから続く>

パレロワイヤル庭園を囲む回廊の一角にある「ル・グラン・ヴェフール」で、マレーとコクトーは食事をしていた。このレストランはモンパンシエのアパルトマンとは目と鼻の先にあり、コクトーは常連だった。1953年には、ヴェフールのために絵皿28枚を制作している。

「夏のバカンスはどうするんだ?」
コクトーはマレーに聞いた。
「サン・ジャンの壁画がだいぶできたんだよ。君の寝室の装飾はとりわけ傑作だ。きのうも君のベッドに寝そべって天井画をじっくり眺めてみた。君が気に入ってくれるかどうか、早く見に来て欲しいな」

コクトーはフランシーヌ・ヴェスヴェレール夫人の依頼で、 サン・ジャン・カップ・フェラの別荘サント・ソスピールの白壁に壁画を描いていた 。マレーのための部屋も用意して、いつでも滞在できるように図らっていたのだ。マレーのほうは浮かない顔だった。

「夏休みはなさそうなんだ。コメディが閉まってる間は、映画を撮らないといけない」
「映画だって? そんなに出たい映画があるの」
「いや、むしろ今は映画は撮りたくないんだけどね。リュリュにせっつかれてる」
「リュリュが?」
「うん。もう1年以上映画を断わってるからね」
「だからって、バカンスを取らずに映画を撮るのか?」
「そういうことになりそうなんだ」
「ジャノ、それは間違っているよ。芸術活動というのは、『吸って』『吐く』ものなんだよ。休暇もとらずに演じてばかりでは、何も吸わずに吐いているようなものじゃないか。それじゃからっぽになってしまう。リュリュも困った人だね。せっかくラシーヌがうまくいっているというのに、映画で君を疲弊させようとはね。彼女も目先のはした金になんかに惑わされず、もっと長い目で君の栄光を考えるべきだな。ぼくからも言っておくよ」
「いや、そうじゃなくてね」
「うん?」
「税金がね……」
「税金か!」

税務署に悩まされているのはコクトーも同じだった。マレーとコクトーは翌年の税金のために収入の一部を留保しておくという考えがほとんどない点で、実によく似ていた。『占領下日記』には、税金のために資産がマイナスになったコクトーの憤りが綴られている。

「今年はいくら払うんだ」
「1100万フラン」
「何だって?」
コクトーは驚いて、ナイフとフォークを止めた。
「1100万フランあったら、家がもう一軒買えるぞ」
「まったくだよ」
「払えるのかい?」
「そのために映画を撮るんだ。あとは、まあ…… 銀行に借りるかな」
「そして、銀行にまた利子をくれてやるのか」
「そういうことだね」
「ぼくのジャノ、君が金のために仕事をするなんて、ぼくには耐えられないよ。そんなのは負け犬のすることだ」
「ジャン、世の中の人間はたいてい金のために仕事をするんだよ。君のような天才は例外さ。ぼくは俳優で、いろいろな役をやるのが仕事だ。税金のことは心配しないでよ。なんとかなるさ。映画だって、もちろん役を選ぶ。それより君の仕事の話を聞かせてよ。シャンゼリゼ劇場での稽古はいつから?」
「来週からだよ。君が演ったコロスは今度はぼくだ。つまり、舞台で君になるってわけさ」

このときコクトーは、かつて若きマレーを抜擢した戯曲『オイディプス王』をオラトリオ形式に翻案し、シャンゼリゼ劇場で舞台にのせようとしていた。指揮はストラビンスキー。コクトー自身が、かつてマレーに与えたコロス役(合唱団員の1人で劇の進行を説明するナレーターでもある)を演じた。オラトリオ『オイディプス王』はのちにロンドンでも再演されるが、このときもコクトーはコロス役を他人に譲らず、自ら舞台に立っている。

「だけど、君と仕事ができないのは、なんとも淋しいな。ねえ、ジャノ。君の体がもっと自由になったら、また芝居をもって巡業に出ないか」
「中東の巡業は、本当にうまく行ったよね」
「あれを世界中でやりたい。ヨーロッパだけじゃなく、アメリカやアジアも回るんだ。ぼくの『地獄の機械』と『ブリタニキュス』をもって。ジョルジュも来たがるようなら、バレエを入れてもいい。プログラムの絵も一緒に描こう。昼はぼくの講演、夜は君の芝居」
「イスタンブールでの君の講演は素晴らしかったな。君はトルコに行く前は、『どうしてコンスタンチノープルではなくイスタンブールに行くの』なんて言っていたのに、いざ講演となると、トルコの歴史から言語から文化から、とうとうと語って拍手喝采。まったく驚いたよ」
「あの前の晩、大学で特別講義を受けたからね。君ときたら、背中の曲がった哀れな少年に物乞いされて、すっかり同情して。小銭をあげたとたん……」
「そいつは背筋をシャンとのばしやがって」
「大笑いされたよね。君は演技で君を騙したその子をすっかり気に入ってしまって」
「毎晩、芝居のはねた小屋の外で会ってた」
「あの子を養子にしたいって言い出したときは、ぼくもイヴォンヌも困ったよ」
「よく考えれば、あの子はあの役しかできないんだよね」
「今でもまだやっているのかな、あの役を」

3年前、大成功をおさめた中東巡業をコクトーとマレーは懐かしく思い出した。2人の「舞台」が次第に離れていっていることを本能的に察していたコクトーは、世界巡業という新たなアイディアを持ち出すことで、なんとかマレーを再び手繰り寄せようとしていた。詩人は彼の愛してやまない俳優とともにもう一度巡業の旅に出る夢を持ち続けるが、それはついにかなうことはない。

マレーは自分が世界巡業に出る余裕はないとわかっていた。巡業は博打の要素が強い。それよりも確実な収入の得られる映画で、悪化した自身の財政を立て直さなければならなかった。だが、コクトーにミリィ・ラ・フォレの別荘の話はしなかった。

<明日へ続く>





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最終更新日  2008.07.12 01:33:29


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