日々草

日々草

2005.07.18
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カテゴリ: 教育・子育て
 昨年孫娘が誕生した時、新米ママの娘とこのオババは赤ちゃんの扱い方で対立、衝突を繰り返した。

その新米ママの娘が信奉している育児の書は、「シアーズ博士夫妻のベビーブック」。

その対立、衝突の一番は、「赤ちゃんの抱きぐせ」は良いか悪いかである。
新米ママは「抱きぐせ」という言葉は今では死語で育児からなくなっている、と言うのである。赤ちゃんが泣いたらすぐにママは反応して赤ちゃんとコミュニケーションを取るべきだと言う。

そこで、私もシアーズ博士夫妻の『25 Things Every New Mother Should Know 』を読んでみることにした。
Dr.William Sears は、 カリフォルニア大学アーヴァイン校医学部助教授。妻の Martha は、看護婦で自らは8人の子供達を生み育てた母親でもあった。そして、現在その子供の長男と次男とともに家族で小児科病院を開業していると言う。まさに、生み育てる事を自ら実践して、それを職業にして生きている家族がそこにはいた。

このシアーズ博士夫妻の本は、私にとても驚きと感動をあたえた。

この本はただ単なるhow to 的な育児書ではない。

21世紀の家族はどうあるべきか、母性はどう育てるべきかを驚くべき新鮮さで私に問いかけてくる。
家族のありようが激変し混乱している今日の世界に、人間とは何か、どう生きるべきかという根源のところから母性の素晴らしさ、母性を育て、確たるものにすることの困難さ、しかし、やりがいのある楽しいものでもあることを私たちに語りかけてくれる。

ごく普通の一人の女性が、出産、育児を通してどのように母性を獲得して豊かにしていけるかを妻マーサがその経験から述べている。夫のビルもところどころで、父親としてどうあるべきかをアドバイスしている。

彼らが主張している育児は、生まれた時から、赤ちゃんに寄り添い、泣いたらこまやかにこたえ、赤ちゃんを身にまとい、添い寝をし、母乳育児をすることである。
このような膨大な、気の遠くなるような日常の赤ちゃんとの暮らしの積み重ねが、母性を磨き、豊かにする。
同時に母親との濃密な密着をたっぷり体験した赤ちゃんは、成長してからの後の独立心が信頼や安心感にもとづいた確かなものになる、と述べている。
更に赤ちゃんの時のこの濃密な、細やかな愛情で結ばれた親子関係は大人になっていくとき、他者と良い関係を築ける

私を一番、驚かせたのはシアーズ夫妻の述べている、赤ちゃんに寄り添い、身にまとい、添い寝し、などというのはアメリカ人の最も好まない、批判してきた育児ではなかったのか。子供に独立心を養うには最も悪いやりかたではなかったのか。
そのようなやり方は子供を甘やかしだめにする、というのが確か私たちが子育てをしている時代に言われたことだ。

しかし、そのアメリカで、このシアーズ博士の育児書は1993年発行以来ベストセラーを続け、その育児方法はもっとも支持されているという。

シアーズ博士夫妻のこの主張は、私達の日本の祖母や曾祖母の時代には極々当たり前のこと、誰もがしていた事ばかりだ。すなわち、生まれた時から赤ちゃんに寄り添い、泣いたら細やかに応え、赤ちゃんを身にまとい、添い寝をし、母乳を育児の中心にする、というものである。

日本の私達の母や祖母たちは貧しかった、1日中背中に赤子をおんぶして野良で仕事をしていた。添い寝する意外にやりようがなかった。庶民にはミルクなどというものがなかったので、赤ちゃんは母親のおっぱいにぶらさがっている以外に術がなかった。子供の人数も多かった。

シアーズ博士の言を待つまでもなく、日本の私たちの母や祖母は濃密な母子のアタチメントのなかで子育てしてきたのだ。
その子どもたちが私たち60歳代より上の世代である。

しかし1970~80年代の育児は、日本経済の高度成長とともに、このような親達の貧しい惨めな育児から解放される物質的基盤が出来、ことごとくこれらとは反対の事が主張され、よしとされたと思う。

すなわち、抱き癖はいけない。幼い時から一人で寝かせなくては自立心が育たない。母乳よりミルクに高い栄養価があるので、病院がミルクを推奨していた。
家庭で出産する自然分娩など、もっとも惨めな貧しい非文化的なものとして拒否された。

ことごとく母性を育てない育児、母子の関係に信頼と自己犠牲的な愛情を細やかに育てない育児である。

その時代に生まれた子供達が今結婚し、出産する適齢期を迎えている。
そして結婚をしないことを選択している女性も多い。

現在、社会では赤ちゃんが泣き止まないから投げて殺す、育児に自信が持てないから子を殺す、などわが子への虐待によって親も子も深い傷を負う暗澹とさせる事件が次々におきている。

これらの事件の根底には、共通してその親や子供の育ちの問題が潜んでいるのではないのか。

どんなに追い詰められ、妄想に駆られ、殺意や、自殺に追い込まれても人間は心のどこかにそれを拒否する何かがある。たっぷりとした、無償の愛情に育まれた人間は、自分が追い詰められれば追い詰められるほどそういう目に見えぬ抑止力を心のどこかで感じてはいないだろうか。

私の年代が育てた、息子や娘達、さらにその子供達の多くは希薄な愛情しか知らない。事件の抑止力となるような肉親の深い無償の愛を知らない子供達だ。

昔の日本の母は本当に情の深い、無償の愛を子供に注いでいた。
どんなに高いレベルの問題を抱えていようと、あくまでわが子の成長に向けてあらゆる可能性を求めて日夜、子供と関っていた。自己犠牲などと感じてはいなかった。当然の事として普通にやっていた。

母の悲しい顔が思い浮かぶと道を踏みはずせない、自殺はできないという母子の信頼関係である。

シアーズ博士はこのような親子関係を築く育児を提唱している。自らも8人の子供をそうやって育ててきた。
「その子の必要なレベルに応じる」育児。
たとえば、いわゆる手のかかる子どもには、その子供に必要な高いレベルの要求に応じる育児の技術を、親が自ら創造していかなくてはいけない。
他の親がやったことのないような育児の技能を親が開発し、子と関ることで高いレベルのしっかりした親子関係が築ければ、子育てを成功的に導き、親自身も其れによって多くを得る豊かな人生になる、と彼は言っている。

シアーズ博士のめざす子供像は、他者と良い関係を築ける子ども、他者と絆を結んでいける子供を育てること、そのためのツールをお教えすること、と言っている。

このシアーズ夫妻の提唱している親子関係も、昔の日本の母たちがごく普通にやってきたことで、さして新しいものではない。

よくよく振り返ってみれば、私自身も別にシアーズ夫妻の育児論を読んでいた訳ではないが、彼らが提唱していることを私は無意識にやってきた。
祖母たちから刷り込まれた子育ての技能みたいなものだ。
そうしなければ子供が育たなかったからである。

このごく当たり前の人間の育ちの技能が、現代社会から失われている。とてもシンプルなこの母性の父性の育ちを促す子育てが見失われている。

シアーズ博士のこの育児がアメリカで多くの支持を得ているということは、この現代が陥っている混迷を何よりもよく物語っている。
アメリカの子供たちも健やかに、人としての絆を他者と結んでいける子供に育ちにくい社会状況があることを意味している。

日本の子供たちは、さらにこの健やかさの育ちが困難になっている。

今日本では、少子化の問題点がかまびすしく論じられているが、それ以前に今を生きている子供たちが健やかに、しつかりと社会のなかで人と絆を結んで生きていける大人に育てる社会環境や、大人たちが支援することの方が緊急にして必要不可欠な課題ではないか。

そして其れはとてもシンプルなこと。
母が母となり、父が父となる子育てをすることではないか。

21世紀の育児は巧妙なビジネスにさえなっている。
何が子供の育ちにとつて本物かを見抜く、母性を父性を育てる必要が現代はあるのだ。
大変な時代なのである。



シアーズ夫妻(Dr.William Sears & Martha Sears)の育児書。現在日本で翻訳されている書籍は以下のようです。

シアーズ夫妻の本は出産や結婚のお祝い、恋人などに贈るといい本かも。

日本のおばあちゃんの「言い伝え」みたいな本ですよ。

1)「ママになったあなたへの25章」    岩井満理訳 (主婦の友社)
 この本は若い娘をお持ちの年配の方や、未婚の男女が母性や父性について考えるのにとても参考になる良いほんですよ。
2)「シアーズ博士のマタニティブック」
3)「シアーズ博士のベビーブック」
4)「シアーズ博士のチャイルドブック」








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最終更新日  2005.07.18 11:34:58
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