日々草

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2008.04.09
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カテゴリ: 本の紹介

       (1) アメリカの高齢者医療制度(メディアケア設立法)と
          日本の「後期高齢者医療制度」の共通性は何か

          『 ルポ  貧困大国アメリカ』      堤 未果 著  (岩波新書)

 堤 未果さんは、若いジャーナリストである。アメリカの大学で学び、9.11同時多発テロを米国野村證券に勤務中に遭遇し、それ以後ジャーナリストとして活躍しておられる。上記の著書以外にも、「空飛ぶチキン」(創現社)、「グランド・ゼロがくれた希望」(ポプラ社)、「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命ーなぜあの国にまだ希望があるのか」(海鳴社)と、一般メディアの伝えないアメリカの社会の現実を丹念にルポして、「生存権」が確保できる社会とはいかにあるべきかを鋭く問いかけている。

 堤未果さんの『ルポ アメリカの貧困』を、私は、以下のように2回に分けて紹介したい。
 (1) アメリカの公的な高齢者医療制度について
 (2) イラク戦争のもつ今日的意味とは何か

 現在、在日米国商工会は、日本政府に「 病院における株式会社経営参入早期実現」 と称して、病院への市場原理の導入を申し入れている。

 アメリカが市場原理を病院に持ち込み、医療保険制度をはじめとして、病院経営を民営化することによって、今何がが起こっているか。病院が利潤をあげることを第一にした株式会社経営と、儲け第一とする民間の医療保険システムによって、アメリカは、すさまじまでの、高額な医療費、高い保険料が普通のこととなっている。それによって、病気になった時、まともな医療を受けることができないばかりか、1回でも入院をするような病気をすれば、支払い不能となり、自己破産におちいる中間層が続出している。

(2005年の全米の破産件数208万件のうち、企業破産は4万件に過ぎず、204万件は個人の自己破産、その原因の半数以上が、高額な医療費負担が原因だという)

 例えば、ごく普通の電気技師だったホセは、2005年の初めに急性虫垂炎で入院し、手術を受けた。たった1日の入院なのに、請求された医療費は1万2000ドル(132万円)。会社の保険ではカバーしきれなく、クレジットカードで支払っている間に、妻の出産費(すべて自己負担で入院出産費用の相場は1万5000ドル)とが重なって、あっという間に借金地獄となったという。

 ホセの場合、保険の掛け金は年間9086ドルにも達しているのに、その保険ではカバーできない高額の医療費(保険会社はあれこれの理由をつけ支払いを拒否)、払いきれないために自己破産した。

これが、医療保険制度を民営化し、病院経営を株式会社にして、市場原理にまかせた結果生じた現実である。(ごく平均的な中産階層が支払いきれない医療なんて、何のための医療ぞ)

では、このような医療保険から、はみ出している貧困層や、高齢者はどうなっているか。アメリカの公的な医療支援としては、政府負担のメディアケア(高齢者医療保険制度)と政府と州が半分づつ負担する、メディケイド(低所得者医療扶助)の2種類がある。

高齢者医療保険制度(メディアケア)は、1965年に設立された。これは、「ソーウシャル・セキュリティ・タックス」と呼ばれる社会保障税を10年以上払うと65歳で受給資格を得ることが出来、受給者は年100ドルを支払うと、医療費の20%を自己負担するだけでよく、60日までの入院は一律800ドル収めればよいことになっている。

1965年この制度の設立に際して、当時の大統領ジョンソンは、 「アメリカの老人が現代医学の奇跡的な力を享受できないということはもう起こりえない。老人達が一生かけてこつこつためてきた貯えが、病気ゆえに失われることもなくなり、老人達が残された年月を人間として、威厳を保ちながら過ごすことが可能となる。病気の親を助けるという道義的義務を果たす為に、若い人々が自分自身の収入や望みを犠牲にしなくてはならないこともなくなるであろう。」(Public papers of the Presidents of the United States. Vol.II.1965)

 ジョンソン大統領のこの遠大な理想に満ちた演説は、30余年後の今日どうなってしまったか。
 メディアケアの実施にあたって、さまざまな制限がつけられているばかりでなく、病院は市場原理の競争に勝ち残る為に、効率の悪い、利益率の低い高齢者の医療を、真っ先に切り捨てたり、徹底したコストダウンのための合理化を行なっている。
たとえば、糖尿病や心臓病などの慢性的に薬を必用としている高齢者は、処方箋薬(非常に高価)は、全額自己負担なので、お金が続かないので、節約して処方量の半分だけを飲んでいる人さえいるのである。
ジョンソン大統領のいう、「残された人生を威厳に満ちて過ごすこと」など到底出来ない、おぞましい現実がある。
長期入院は勿論のこと、重度看護の料金はこの保険では、カバーされていない。

さらに、1983年レーガン政権が、高齢者の医療費を出来高払いから、定額支払いのDRG(診断群別定額支払い制)という新方式をメディアケアに導入した。
DRGとは、全疾患を468の診断群の分類し、その群に応じて、実際にかかったコストとは無関係に政府が病院側に定額を支払う制度である。
この高齢者医療定額制によって、病院側は、コスト削減のため、患者の入院期間を極端に短縮する、検査、処置などを素早く済ませるなどの、医療サービスの質の低下を余儀なくされた。重症患者は、コストが高くつくので、受け入れを渋るという実態が起きている。

 このように、アメリカの公的な医療支援は崩壊状態にあるのみならず、その支援を受けざるをいない人々の数は、年々増加し、政府や州の財政を圧迫させている。増大する貧困による重症患者、慢性病などが、更に「大きな公的支援」なしには、社会が立ち行かない所まで来ている。
「小さば政府」のための「構造改革」。市場原理にすべてをまかせて民営化するという新市場主義者たちの改革は、貧困層の拡大とその質の深刻さによって、逆に「公的な負担」を益々増大させる結果になっている。

 現在、日本においても、4月1日から「 後期高齢者医療保険制度 」が実施され、役所も高齢者も混乱におちいっている。

 この「後期高齢者医療保険制度」の中にも、アメリカのレーガン政権が導入した「高齢者医療定額制」に類似したシステムが導入された。

75歳以上だけを対象にした 定額制の「後期高齢者診療料」 がはじめて導入された。

 これは、糖尿病、高血圧、認知症などの慢性疾患の75歳以上のお年寄りを、一人の開業医(主治医)が、総合的・継続的に診察する為の報酬である。この報酬が支払われるのは、患者一人につき「一医療機関のみ」と限定されている。(月6000円)

 これは、明らかに、複数の病気を抱える75歳以上のお年寄りを、担当する医師を一人に限る方向へ誘導することで、複数の医療機関を受診しないようにすることを狙っている。
 後期高齢者診療料は「検査」・「画像診断」・「処置」・「医療管理」すべてを含んで月額・6千円の定額制である。「いくら検査や治療をしても同じ額」という上限をつけることで、必要な検査ができない場合もでてくるのである。医療が高度化すればするほどその可能性は大きい。

このような75歳以上の高齢者に定額制を導入し、アメリカが要求している病院の株式会社化へと移行していったなら、アメリカの今と同じ悲惨と、益々公的な医療保険制度の崩壊へと突き進むばかりである。

さらに 、「後期高齢者終末期相談支援料」 というものを新たに作った。

これは、医師が「回復を見込むことが難しい」と判断した場合、医師と患者・家族らが終末期の診療方針を話し合って文書などにまとめたときの「文書作成料」である。
 なぜ、75歳以上だけにこのような「特別な診療報酬」を持ち込むのか?
 75歳以上になれば、どうせ死ぬ身なのだから、延命治療をする必要はない、という狙いが浮かび上がってくる。医療費を無駄に使うな!延命治療を止めて医療費を節約した病院にはお金が入る仕組みなのである。(75歳以上だけに限っている所が高齢者を人と思っていない)

 さらに、さらに 「後期高齢者退院調整加算」 という項目を新設した。
 これは、75歳以上はできるだけ入院期間を短くしよう!(アメリカのメディアケアの高齢者医療定額制によって生じた現状と同じ)。どうせ死ぬ身なので、無駄な入院費を使うな!

これらの項目は、世間に周知されていない 。目立たない所に隠されている。
 75歳以上の老人には、お金をかけるな。という項目は、最初は隠されて控えめに制度のなかに潜ませてある。

75歳と年齢を区切るところが余りにもひどい。
 厚労省は、2006年度の医療費総額・34兆円が、2025年度には65兆円に増え、うち35兆円を75歳以上の人の分を占めると試算している。この高齢者にかかる医療費を減らすことがこの制度導入の目的でもある。
 高齢者の人口比率が増え、医療費の比率が増えることは、当然の理。それが無駄で必要ないというのがこの制度の趣旨。まさに「姥捨て」制度である。
 今の若者たちが壮年になった時、この若者達が、今の老人並の医療費を必要とする世代に成長するかも分からない(そう成りそうな体力・食生活・生活習慣)。老人の医療費の節約より、こちらの保健活動にお金をかけたほうが、長い目でみれば安くつくのでは。

老人たちは、なるべく元気で生きながらえるよう、涙ぐましい努力を皆している。

更に、穿った見方をするなら、
 在日米国商工会が、日本政府に要求している「病院における株式会社参入早期実現」が日本に導入される準備が、「後期高齢者医療制度」なのかもしれない。
アメリカ商工会にとっては、日本の 公的な医療皆保険制度 は「目の上の瘤」邪魔者だ。こんなものがあっては、保険会社が、べらぼうに儲ける事できない。そのためには、まず、一番弱く、わけの分からぬ年寄りのところから狙おうというのが「後期高齢者医療保険制度」ではないのか。
まず、始めに、一元化された皆保険を破壊しようというのが彼らの狙いだ。

 今、閉塞した混乱に乗じて、再び小泉元首相や竹中平蔵を、再度、表舞台に呼び戻そうという気配がある。彼らが再度登場したら、「病院における株式会社早期実現」の自由化をおこなうに違いない。
それで、日本に未来があるか。よくよく目をこらさねばならない。

 堤 未果さんの「貧困大国アメリカ」の本には、株式会社化されたアメリカの医療の現実が、赤裸々に描かれている。凄まじいまでの「人権の侵害」「生存権の危機」が描かれている。
それは、アメリカの後追いをしている日本の未来の姿でもある。






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最終更新日  2008.04.17 08:39:29
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