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高い頬骨と、鷲鼻。
曲がった腰。
彼は、杖を突きながら、ゆっくり歩く。
石の転がる地面を睨みつけながら。
一歩一歩踏み出すごと、身体は痛みに耐える。
ため息を吐くように、荒い息が漏れる。
―――ここまで来るのは、とても大変だった。
凍てつく空気、暗く閉ざされた世界。
長い時と、積み重なった疲弊。
どこへ行けばよいのか、わからなくなる。
彼は、立ち止まる。
途方に暮れた、迷子のように。
踏み出す力が、自分にはもう残されていないように感じる。
ーーーんぎゃあ、んぎゃあ。
どこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえる。
力強く、それは闇をつんざく。
老爺は、遠くなった耳でそれを聞く。
世界を切り裂くように、一筋の光が差す。
日の出だ。
彼は、地面ばかり見ていた目を、上へ向ける。
薄紫に藍、橙。
刻一刻と、様々に色を変えてゆく空。
明るくなっていく世界。
彼は目を見張る。
長らく忘れていた、その美しさに胸を打たれる。
言葉をなくして立ち尽くす。
どこかで赤ん坊が泣いている。
誕生の喜びに胸を躍らせて。
かつて赤ん坊として生まれた老爺は、遠い記憶にそのことを思い出す。
良いこともあった、悪いこともあった。
喜びも悲しみも、私の上を通り過ぎて行った。
ここまで来るのはとても大変だった。
けれど、なんて美しい世界だろう。
なんて素敵な世界だろう。
漲る力の成れの果て。
それでもまだ、また一歩足を進める。
さあ、どこへ行こう。