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書名不思議の国 ニッポン [ ヤマザキマリ ]目次第1章 「信じる」は美徳なのだろうか?第2章 国境を越えるということ第3章 日本人のバックボーン=神道は多神教第4章 宗教とエンターテインメントと政治を考える第5章 水木しげると手塚治虫感想『テルマエ・ロマエ』の著者、ヤマザキマリさん。いろいろ本を読んで、一通りこの方の考え方の面白さに触れたので、もういいかな、既読の内容が多いし…と思いつつ読んでしまう。今回は、豊田有恒さんという方との対談形式の本。豊田有恒(トヨタアリツネ)1938年、群馬県生まれ。島根県立大学名誉教授。若くしてSF小説界にデビュー。歴史小説や社会評論など幅広い分野で執筆活動を続ける一方、古代日本史を東アジアの流れのなかに位置づける言説を展開して活躍この本に出てくる、「日本人は新しもの好き(Nephilie)、外国好き(Xenophilie)」という言葉。テレビの「YOUは何しに日本へ?」や「世界!ニッポン行きたい人応援団」、あるいは特番やミニコーナーでもある、「外国人が選ぶ〇〇」みたいなもの。それを見る度に、褒められたいんだろうな「わたしたち」は、と思う。それもできれば、欧米の「白人」から認められたい。あるいは、欧米以外のーー内心見下しているーー人たちからは、称賛を。日本はすごいでしょう?日本のこと好きだよね。まだ大丈夫だよね、この国は。昔あった「ここがヘンだよ日本人」は、批判という側面がまだあった。今の無批判な礼賛(を選択して抽出して見せる番組を視聴者が好んで見ること)は、少し怖くなる。外国人技能実習生は、日本は天国じゃなかったと言った。本に登場する「慕夏(華)」(ぼか)という言葉は知らなかった。中華文明を取り入れることのメリットをアピールし、周囲の異民族を誘引する。「中華思想」(中国が真ん中)よりはマイルドなのかな?豊田さんは言う。頭を使い、他者を認めながら自分たちの価値を広めていく。それこそ、今の世の中に足りないものだと思います。日本語が貧しくなっているというくだりでは、「かわいい」という言葉を挙げている。「かわいい」というのは、褒め言葉の要素というふうに単純に捉えがちですが、あくまでその対象物が自分の理解の範疇にある、自分を喜ばせてくれるもの、という風合いを含んでいるように感じられます。(略)対象物が高尚な領域のものだと自分が弾かれてしまう感覚があるけれど、「かわいらしい」というのは上から目線的な感覚というのか。ヤマザキさんは、多種多様なものを「かわいい」というシンプルな表現に収斂させてしまうことを、バリエーションを感受できない社会としての表れではないかと言う。私はこれが、日本の異質なものに対する接し方なんじゃないかと思った。「かわいい」か「かわいくない」。そして、「かわいい」ものだけを受け入れる。可愛いは正義。でもたぶん、「かわいくないもの」を、何故受け付けないのか考えないといけないんだと思う。そして、それはそれとしてそこに存在するのだと、ただ許容することができるか。後半で、日本人の「穢れの意識」と「自分色に染めたい(=無垢である状態)」感覚について触れられていた。かわいい、っていうのは、幼くて未熟で庇護下にある「穢れがない」状態の表明と見ることもできるのかな。この本で初めて知ったのだが、十七条憲法の「和を以て貴しとなす」のあとには「論じろ」と続くのだそうだ。論じろ。どうして「和」ばかりが強調されて、「論じる」ことはなかったのかなあ。日本は空気で決まる。場の共有が意思決定。むしろ、当時から論じることがなかったからこそ、聖徳太子は言ったのか。論じろ。(原文を見に行くと、ちょっと意味あいが違った。支配下にあってよく話し合いなさいよ、みたいな?)ヤマザキさんは、日本ではハウツー本がよく売れていることを、自分の思想を言語化することなく、「自分ではできないから、他人が考えてまとめたものを拝借すればいい」という考えが根底にあるからだと思います。と指摘する。実践して失敗しても、それはハウツー本が悪かったから。自分に責はない。そして出版社は、読者に嫌われないよう、受け入れやすい内容を書くようになるのだと。論じない。ヤマザキさんは言う。信じる、ということはその他の可能性への臆測や想像力を放棄する、怠惰性ともいえます。しかも裏切られた場合は、その責任は自分にはない。ここらへんは耳が痛い。私は読んだ本の影響を受けやすいし、すーぐに色々信じてしまう。そして、自分が人の仕事を決裁してアレコレ言う立場になって思うのは、出来上がったものに難癖つけるほうが圧倒的に楽なんですよ。だって出来上がったものと自分の理想の差異を指摘するだけだから。イチから作り上げるのとは時間も労力も桁違い。でもそれが当たり前になったら、成果品が完成品じゃないことに文句を言うわけだ。楽しているのだ、という思いを持っていないとダメだ。このバックグラウンドにあるもの、を掴んでいなくては。考えろ、論じろ。甘言を享受し、諫言に耳塞ぐなら。なお見たいものだけを見るならば。きっと何も聞こえず、何も見えないのと同じだ。にほんブログ村ランキングに参加しています。「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。
2023.08.31
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書名人新世の「資本論」 (集英社新書) [ 斎藤 幸平 ]作者斎藤幸平(サイトウコウヘイ)1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞目次・あらすじはじめにーーSDGsは「大衆のアヘン」である!第1章:気候変動と帝国的生活様式気候変動が文明を危機に/フロンティアの消滅ー市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義第2章:気候ケインズ主義の限界二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つなぜ資本主義では脱成長は不可能なのか第4章:「人新世」のマルクス地球を〈コモン〉として管理する/〈コモン〉を再建するためのコミュニズム/新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス第5章:加速主義という現実逃避生産力至上主義が生んだ幻想/資本の「包摂」によって無力になる私たち第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム貧しさの原因は資本主義第7章:脱成長コミュニズムが世界を救うコロナ禍も「人新世」の産物/脱成長コミュニズムとは何か第8章 気候正義という「梃子」グローバル・サウスから世界へおわりにーー歴史を終わらせないために引用私たちは経済成長からの恩恵を求めて、一生懸命に働きすぎた。一生懸命働くのは、資本にとって非常に都合がいい。だが、希少性を本質にする資本主義の枠内で、豊かになることを目指しても、全員が豊かになることは不可能である。だから、そんなシステムはやめてしまおう。そして脱成長で置き換えよう。その方法が「ラディカルな潤沢さ」を実現する脱成長コミュニスズムである。そうすれば、人々の生活は経済成長に依存しなくても、より安定して豊かになる。一%の超富裕層と九九%の私たちとの富の偏在を是正し、人工的希少性をなくしていくことで、社会は、これまでよりもずっと少ない労働時間で成立する。しかも、大多数の人々の生活の質は上昇する。さらに、無駄な労働が減ることで、最終的には、地球環境を救うのだ。感想2023年076冊目★★★★本のタイトルを「じんしんせい」と読むのだと思っていたら、「ひとしんせい」だった。人類の経済活動が地球に与えた影響が大きい地質学的な年代。何かがおかしい、と思っている。二酸化炭素。温暖化。異常気象。気候変動。(日本を含めた二酸化炭素排出量上位5カ国で、世界の60%近くの二酸化炭素を排出しているのだそうだ(日本は5番目)。)にわかに取り沙汰される「SDGs」。やたらと多い、覚えきれないほどの項目に煙に巻かれる。テレビは明るい口調でそれを取り上げる。何ら解決になっていないファッショナブルな特集。世を憂え、環境に配慮しているのだという証拠づくりのような。ブルジョワジーのエコロジー。嘘だ、と分かっているのに、その嘘をみんなで信じている。未来へのアリバイを作るみたいに。現在を正当化するように。私たちは、同時代の共犯者。この本は、嘘を暴く。そこはかとなく感じている違和感の理由を明かす。持続可能な成長を鼻で笑い、不可能を不可能と言い放つ。マルクスが宗教を、「大衆のアヘン」だと批判したように。「SDGsは、現代版大衆のアヘン」だと。エコバッグ?それをいったい何枚買う気だ?根本にあるのは、資本主義の限界だ。資本主義は、周辺を奪い尽くす帝国主義的な消費生活を維持することでしか保たない。けれど、もはや先進国が「奪う」ことが、地球から「奪う」こと事態が、不可能になってきている。著者は言う。本当に必要なのは、経済のスケールダウンとスローダウンなのだと。本当はみんな、気づいているんじゃないのか。こんな暮らしは、もう無理なのだと。子々孫々、この暮らしをしていくことは出来ないと。世界中の人々がみな、先進国のような暮らしをすることは出来ないと。だってそこには、多大な犠牲が払われているから。奪って奪って、ようやく成り立つ一握りの使い捨ての「豊かな暮らし」。著者の挙げる変化の目安は、「1970年代後半のレベルまで生活の規模を落とす」ことだ。そんなことはできない?一度覚えた便利な生活を手放すことは耐えられない?世界が滅んでしまっても、か?私は生まれたときから、資本主義の社会だった。正確には、私が幼い頃に社会主義は負けた。敗北?失敗?けれど今、また社会主義が、その観点を変えて、取り上げられるようになってきている。この本によると、昔のゲルマン民族には「マルク協同体」という組織があったのだそうだ。土地を共同所有し、生産方法にも強い規制をかける。なぜならば、土壌養分の循環を外部に流出させないためだ。長く働き、生産力を上げるーーー資本主義の社会では当たり前となったそれを、あえてしない。「経済成長をしない循環型の定常型経済」。権力関係が生まれ、支配や従属関係が生じることを防ごうとした。それは不自由なのだろうか?あるいはそれは形の違う豊かさなのではないか?著者の解説はこうだ。万人にとって有用かつ必要な「使用価値」があるもの(コモンズ)は、だからこそ共同体によって独占的所有が禁止され、商品化されず価格をつけられず、協同的富として管理されてきた。だからこそ、コモンズは無償で潤沢であった。それを人工的に囲い込み、希少性を作り出すことで、市場が価格をつけることが出来るようになる。土地を囲えば利用料を取れる。水をペットボトルに詰めればお金を取れる。気候変動は、これまで価格がつかなかったものーー二酸化炭素の排出量もその例だーーに希少性を見出す。それがまたビジネスチャンスになる。人々は貨幣に換算される「新たな価値」を生み出したようでいて、生活に必要な潤沢だった財への無償のアクセス権を失う。貨幣は何でも手に入れられるが、貨幣を手に入れる方法は限られている。人々は労働力を提供し貨幣を手にしないと、「商品」になった使用価値を手に入れられない。それはむしろ、使用価値が見出される以前よりも、貧しくなっている。前に『僕はお金を使わずに生きることにした』という本を読んだ時、著者が言っていた。道端に成っている実を誰も食べない。それは売り物ではないから。あるいは食べられるかが「わからない」から。この本でも言う。食品売り場に並ぶ、梱包された「商品」しか食べられない私たち。自然の力を前に、かつてなく無力になっている私たち。伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュボンの祈り』。隔絶された場所で暮らす人々。そこでも肉はパックに入って売っていた。一世代、二世代前まで当たり前にできていたこと。それがもう、私(たち)はできなくなっている。作業を細切れに分割する資本主義。効率化して利益を最大化して、知恵と知識と身体的能力と経験は失われる。関係性さえも、商品として売りに出される。そうするともう、「買う」しかなくなる。自分で「作る」ことはできなくなる。あるいは「ない」ことに耐えられなくなる。でも本当に、そんなに必要なんだろうか?本によれば、使用価値は変わらないものを、商品の広告とパッケージ(とおびただしいプラスチックごみ)費用を使い、資本主義は売り続ける。絶えざる消費。消費者の期待は永遠に満たされない。新商品は理想の失敗を織り込み済みだ。次の新しいものを売るために。『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』のか?私の中ではここらへんの、ミニマリストやFIRE(Financial Independence, Retire Early。経済的自立と早期リタイア)はすべて一連なりだ。私たちがこの暮らしを続ければ、その先には『人類は衰退しました』みたいな世界が待っているのかな。それでもまだ、今の怯懦な豊かさを手放すなんて考えられない?でも、だ。著者も指摘するように、「資本主義がすでにこれほど発展しているのに、先進国で暮らす大多数の人々が依然として『貧しい』のは、おかしくないだろうか。」今のこのシステムを続ける限り、奪い続けて勝ち続けなければいけない資本主義を受け入れる限り、私たちは永遠に貧しいままなのだ。生活水準は上がったろう。衛生面は改善しただろう。死亡率は低下しただろう。けれどそれ以上のものは、本当は必要のないものばかりをひたすらに作り続けているだけではないのか?もっと、もっと。より速く、より多く、より便利に。そうすることで、逆説的に手元にあった何を売り渡し、買わなければならないことになったんだろう。金銭を経なければ得られないことになったんだろう。そのためにまた、自分をーー肉体を、時間をーー差し出して、働かなければならなくなったんだろう。資本主義を人間が作った。私たちはその仕組を取り入れて運用しているようでいて、もはやそれに隷属している。私だって、今の便利な暮らしを手放せと言われたら辛い。でも、「そこまでしなくてもいいんじゃないか」と思うことが往々にしてある。健康であれば階段を使えばいい。店は24時間開いていなくてもいい。私はいつも、「千と千尋の神隠し」の場面を思い出す。溢れ出てくる金を、カオナシが千尋に差し出す。千尋は首を振る。金は、泥に変わる。私たちは絶えずそうやって差し出されている。あれが必要でしょう、これが必要でしょう。不便を感じていなかった?感じさせてあげましょう。ほら、ほら、ほら、ーーー。「欲しがれ」そうして誰かから奪ったものを、地球から奪い尽くしたものを、次々と差し出す。でもそろそろ、首を振っていいんじゃないか。要らない。あなたは私が本当に欲しいものを与えられないから。じゃあそれって、何なんだろうね?ランキングに参加しています。「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。にほんブログ村
2023.04.13
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本のタイトル・作者22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる (SB新書) [ 成田悠輔 ]本の目次・あらすじ第1章 故障第2章 闘争第3章 逃走第4章 構想感想2023年050冊目★★★なかなか興味深い話。私は台湾のデジタル担当相、オードリー・タンが大好き。オードリーの民主主義×テクノロジーの話は、読んでいて本当にワクワクする。で、今回のこの本も同じような感じかと思ったら、もうちょい先に進んだ内容だった。「へえええ、そんなこと考えている人いるんだ」「なるほどぉ」「でもなあ」が味わえて大変おもしろかったです。何より自分の内側になかった発想の人の考えを読むのが楽しかった。著者は、成田悠輔(ナリタユウスケ)夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなど多様なテレビ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビュー Innovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞というわけで「賢こ(かしこ)」の子やった。オワコンの民主主義を、どうイノベーションするのか?という様々な提案。荒唐無稽に思えるけれど、「これが未来ならいいのに」と思う。政治家なんて猫とゴキブリでいいじゃねえか、というのは暴論かもしれないが真理だ。複雑化した政策の意思決定を担うのは、マスのビッグデータを集約したAI。人間はただそのアルゴリズムを修正していくだけ。入力データ → アルゴリズム → 出力という機械学習をモデルにした、著者が提唱する「無意識民主主義」はわかりやすかった。真の民意 → アルゴリズム → 政策で、真の民意とは一時的かつ一面的にしか意思表示できない現在の選挙制度に限らず、センサーなどで日常から拾い上げられた民意のこと。真の民意の吸い上げは、監視カメラ社会になるんじゃないかな。ちょっと映画「プラチナデータ」を思い出して怖くなった。多数の情報が集められ、その問題解決のための「政策」が出力される。人間は出てきた結果(政策)から、アルゴリズムを微調整し修正するのみ。だから政治家に必要なのはその「象徴性」。たとえば愛される、愛でられる、注目を集める存在としての猫。これは駅長でもありますしね。たま駅長。そして嫌われものとして叩かれる存在としてのG。あるいはVTuberのようなバーチャルな存在でもいいのだと。紹介されている世界の状況に、「へええ!」と関心しきりだった。日本で生まれて生きて、日本の政治制度は西洋を参考に導入したもので、民主主義が始まった国々から輸入したそれが世界のスタンダードなのだと思っていた。でも、国によってのマイナーチェンジがあって、その共通ではない部分が面白い。シンガポール政府の大臣の給料は、成果報酬型(給与の平均30〜40%はDGPなどの指標の達成度に応じたボーナス)。大臣の基本給は国の高所得者トップ1,000人の中央値から40%引いたものなんだって。決まった金額を貰うより、政策や状況によって収入が変動している労働者の所得を意識するようになるという効果を狙ったものらしい。すごい。政治家や有権者に定年を課している国があるというのも初めて知った。イランは被選挙権が75歳以下。ブータンは65歳以下。カナダやソマリアの任命上限はそれぞれ74歳と75歳以下だ。日本は年寄りのおじいさん政治家ばかりが目につくけれど、それを辞めるならそうするしかないよな。さらに、ブラジルでは70歳以下の有権者のみ投票が義務(罰則付き)で、それ以上は自由なんだって。若者が政治を変えていく方法(年配者が有権者の多くを占めるがために選挙が高齢者優遇の政策ばかりを狙ったものになる)のひとつとして、若者世代が集団移住すれば、首都の重要区の区長選すらジャックできるという話。引き合いに出されいた実話に驚愕。1980年代にアメリカ、オレゴン州で新興宗教団体が自治体を乗っ取り。各地の大量のホームレスを無料バスで生活拠点提供を謳い文句に集め、住民の過半数を握った。これ怖い。国会の答弁を見ていて、「これが我が国…」という気持ちになる。なんかこう、もう、無理なんよな、色々と。一回AI使ってみたいよ。そうしたらどんな解を「最適解」として提示してくれるん?私たちはどうすればええん?それはある種の思考放棄だろうか。いつかどこかで、AIの弾き出した答えに従い、手痛いしっぺがえしを食らう時が来るんだろう。信じてしまったがゆえに。だって入力されるデータが誤っていたなら、出来上がってくるアウトプットも間違っているんだから。ディープラーニングだってそうだ。もはや人は、その「深さ」についていけていない。投入した。答えが出た。ただその間に何があったのか、その思考のプロセスがわからない。私たちはそれを信じていけるのかな?ランキングに参加しています。「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。にほんブログ村
2023.03.12
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本のタイトル・作者ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉 [ 辺見 じゅん ]本の目次・あらすじ第1章 ウラルの俘虜第2章 赤い寒波第3章 アムール句会第4章 祖国からの便り第5章 4通の遺書感想2022年306冊目★★★映画「ラーゲリより愛を込めて」が気になって、とりあえず原作がどんなものなのかコミカライズ版を読んでみた。原作は辺見じゅんさん『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』。コミック化するにあたって端折っているところがあるのだろうなと思った。結局こういうのって、コミカライズ読んで細部が知りたくなって原作も読むことになる。じゃあ最初から原作読んでたらいいやんっていう話なんだけども。取っつきやすいのはコミックなんだよ。第二次世界大戦終了後、ソビエト連邦の強制収容所で捕虜となった日本人兵士たち。元満鉄調査部所属の山本は、ロシア語が堪能。極寒の地でいつ帰国が叶うかも分からない絶望的な状況において、勉強会を開き、句会を開き、文化部長をつとめる。しかし日本との手紙のやり取りが解禁されてもなお帰国は叶わず、山本は病死する。極秘に残された彼の遺書を、仲間たちは生命を賭し分担して暗記する。いつか日本へ帰る日のために――。1956年。一切の文書の日本への持ち帰りを禁じたソビエトから帰国した仲間たちは、それぞれの記憶をたよりに遺書を復元し、山本の妻子へ彼の最後の言葉を届ける。次々と届く仲間たちからの遺書。そして1987年、山本の死去から33年後。最後の遺書が、家族のもとへ届けられた。これもう、最後泣いてしまった。遺書があってもなくても、変わらないと言えば変わらないわけじゃないですか。家族は遺書があったっていうことを知らないのだから。でも、それを、なんとか伝えようと、残そうとしてくれた人たちがいて。何年先か、何十年先かも分からない。自分が生きているうちに日本に帰れるかも分からない。山本の家族に伝えられるかも分からない。けれどその時が来た時のために。ずっと、一言一句たがえずに覚えておけるように、隠れて暗唱し続けて。大丈夫。覚えている。大丈夫。それを絶えず確認して。なんていうかさあ、もうさあ。こういうことがほんの数十年前にあったんだよなあ。私の曾祖父は戦死しているけど、彼らは本当にそこにいたんだよね。遠い物語のように感じるそれは、地続きの、ちょっと前のことで。その傷を抱えながら、御存命の方もいる。―――このあとに続く人は、どれほど幸福な人達だろう。「戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]」で、自分たちが最後の戦争をしているのだと思っていたと書いてあった。最後の戦争。この後に続く平穏で幸せな暮らし。なのにどうして、私たちは同じことを繰り返しているのだろう。これまでの関連レビュー・羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ] ・熱源 [ 川越宗一 ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]・同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂冬馬 ]ランキングに参加しています。「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。にほんブログ村
2022.11.26
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本のタイトル・作者知らないと恥をかく世界の大問題13 現代史の大転換点 (角川新書) [ 池上 彰 ]本の目次・あらすじプロローグ 世界は新たな時代を迎えた 第1章 どうなるバイデン政権の今後第2章 ウクライナ危機。揺れるヨーロッパ 第3章 米中ロの国益が交差するユーラシア 第4章 “経済からイデオロギー”へ。転換した中国 第5章 国際ルールを守らない国、平和を脅かす国 第6章 歴史の韻を踏む、いまの日本は? エピローグ 未来を知るには、未来を創ること引用未来を考える力を身につけることは、自らの人生を考えること。学び方や生き方を選ぶことは、あなた自身に託されています。たくさん読書をしてください。興味を持ったどんな分野でもかまいません。1日30分でもかまいませんから、スマホを置いて活字を読み、真の豊かさとは何か、考える時間をつくってほしいと思います。感想2022年297冊目★★★★これ1冊読んでおけば、とりあえず今ニュースでやっているようなことは背景知識を理解できる。という意味で非常に良い教科書的な内容。図解も多く、分かりやすい。お値段も手ごろ。私は本当に常識がなく社会知識もなく、びっくりするくらい物を知らない。覚えても理解してもすぐに忘れるというのもあるのだけれど…。だから何度でもインプットして、(そして忘れて)またインプットして、の繰り返し。そのうちに少しくらいは覚えておけるかもしれないと期待して。恥ずかしながら、今回のアメリカの中間選挙も「ふーん、選挙か」くらいにしか思っていなかった。アメリカって大統領制だから、日本の首相と違って議員の解散権が大統領にないのね。だから議員は皆、任期を全うすることになる。今回の中間選挙では、上院議員の1/3(34人)と下院議員全員を選び直す。上院議員の議席数は100人。下院は435人。上院は50州から各2人ずつ、下院は人口比率に応じ各州に議席数が配分される。現在議席が一番多いのはカリフォルニア州(53人)、一番少ないのはアラスカ州ほか7州で各1人。州の議席数は10年に1度の国勢調査で割り当てを修正する。テキサス州は個人の所得税を課しておらず(!)節税のために移住する人が増えて議席が増えている。こういう事情を知っていると、ニュースを見る目も変わって来る。池上さんが書いていらしたことのなかで「なるほど」と思ったのが、ソ連が存在していた時は世界に現在のような「超」経済格差は存在していなかった、という指摘。資本主義は、社会の不平等が社会主義への引き金になるとして警戒し、資本主義が行き過ぎないようにブレーキをかけていた。けれど社会主義が敗北し、世界が資本主義に覆われて―――今や、世界のトップに位置する1%の富裕層が、下位50%にあたる層の約20倍の資産を持つのだそうだ。社会主義は高い理想を掲げていたし、その理想自体には「こうだったらいいのに」と思うこともたくさんある。けれど思ったよりも人間はダメな生き物だったんだよな。社会主義だった国も、やがて腐敗する。理想を実現するための力は恒常的な権力として、多大な犠牲をもたらす。どうしてこうなってしまったんだろう。はじめはもっとよい世界を、みんなが平等な暮らしを、ともに豊かであることを、目指していただけだったのに。「年寄りは本気だ はみ出し日本論 [ 養老孟司×池田清彦 ]」で引用されていた「SDGsは『大衆のアヘン』である」がこの本でも紹介されていた。元は、2021年新書大賞1位受賞の斎藤幸平さん『人新世の「資本論」』なのね。カール・マルクスを再評価する本だそう。これも読みたいな。日本は世界第3位の経済大国のはずなのに、先進国の中で賃金や生産性は最低レベル(2020年の平均賃金データはOECD中22位/35カ国中)。最近の円安もあり、「日本は物価の安い国」になってきている。池上さんは、一方で日本は失業率が日本では169番目/189カ国中と、平均給与が高いけれど失業率が高い国とは違う「良さ」もあると言う。休廃業もとても少ないのだそうだ。これから日本はどうなっていくんだろうなあ。私の子どもたちは。これまで「貧しい国」を下に見ていた日本人は、これからそう見られるようになるんじゃないかな。ジャパンアズナンバーワンの幻を見た世代からは、許せないことかもしれないけれど。年配の人と話をしていると、「日本は特別」という思い入れが強いことに違和感を覚える。日本語は美しい、他とは違う。日本文化は素晴らしい。他とは違う。そのうち日本には神風が吹くとか言い出すんじゃなかろうかと思ってしまう。私は日本で生まれ育った。日本に思い入れはある。「私にとって」日本語は特別な言葉であり、日本は特別な国だ。けれどそれは他の人にもそう思われる、そう評価されるということとは別なんだ。それぞれの国の人が、それぞれの国を特別であると感じ、大切に思っているんだよ。あなたが眉をひそめて、「これだから○○人は」と呼んだ人たち。その力はそのまま、あなたに返って来る。そのことを覚えておいた方がいい。何ら特別な言葉も国も文化もないのだと、同じくらい肝に銘じておいた方がいい。私はあまりにも物を知らなくて、いつだって恥をかいてばかりだ。世界はいつも知らないことばかりで、ちっぽけな自分が消えてしまいそうだと感じる。でも時々うれしくなる。知らないことが山ほどあることが。途方もなく広がる世界が。とうてい追い付けない量の知識。先人たちの残した書物。新しくもたらされる情報。生まれてからずっと、この町から出たことがない。きっと死ぬまで、ここにいるんだろうな。でも知っているんだ。世界は広いんだよ。自分の存在が悲しくなるくらい、うんと広いんだ。だから頭に世界の端切れを詰め込んで。胸の前で拳をぎゅうと握りしめて。ちっぽけな自分の人生を、誰にも渡さないように。これまでの関連レビュー・無敵の読解力 [ 池上彰・佐藤優 ]・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]・池上彰の行動経済学入門 [ 池上彰 ]・独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか [ 池上彰 ]ランキングに参加しています。「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです。にほんブログ村
2022.11.17
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本のタイトル・作者栄西を生きる [ ひろさちや ]本の目次・あらすじ第1章 栄西の人気第2章 第一回入宋第3章 第二回入宋第4章 『興禅護国論』第5章 鎌倉と京都第6章 戒律の重視第7章 総括として感想2022年280冊目★★ひろさちや、という名前を聞いたことがあるなあと思って。最近けっこう昔(私の歴史の捉え方がわかるなあ!笑)が舞台の小説を読んだりするので、ちょっとそこらへんの仏教とかの背景を知りたくて読んでみた。そしてどうもこれは『日蓮を生きる』『最澄を生きる』などのシリーズのひとつだったよう。いや別に私も栄西に思い入れある訳じゃないんやけどな。たまたま目についたのがこれだっただけ…。ひろさちやさん、30代後半くらいのお坊さんのイメージだったら、1936年生まれで2022年にお亡くなりになられていた。私、ものごとの位置関係を把握するのが非常に苦手。人の名前と顔を覚えるのもリアルライフで出来ない(同じ係の人の名前すら忘れるので、座席表をパソコンに貼り付けている…)。いやもうこれ脳に何かしらの問題生じてるんじゃね?と思ってる。バグ過ぎる…。空間認識とか数字の概念も弱い。たとえば数字のどちらが大きいとか、図形のどちらかが広いとかが瞬時に判断できない。よう仕事して普通に生きていけてんなとたまに思う。はい、つまるところ、「歴史」が苦手って話。パラレルに存在し、同時並行で進行していくさまざまな事象…。夥しい数の人名…。(キャラ立ちしている人はまだ覚えられる)ギャアアアアア…。(蘇る定期テスト前の短期記憶詰め込み学習)だから「栄西」って聞いても「前にどこかで…?」という程度。1141~(平安時代末期から鎌倉時代初期)のお坊さん。中国との往来がなくなった(遣唐使廃止)あとに2度も中国へ渡ったスゴイ人でもある。この本だとあんまり栄西がこうしました!こんな人でした!というのが分からなかった。史実があんまり残っていないのか?歴史書を引用して説明してるのだけど、人としての肉付けではなく淡々としているから「ふーん…?」という感じ。むしろ面白かったのは、仏教の解説。「加持祈祷」の「加持」は、仏から衆生に対する働きかけ=親から子供への愛情のようなもの(加)、衆生がそれを受け止めたもつこと=子供は親の愛情を受け止めるだけ(持)のことなんだ!とか、それは密教の専門用語だったんだ!とか。いやそもそも密教って何よ、と思ってた。仏さまの悟りを言語化した教え(顕教。経典)に対し、言語化できない真理をその一部でも追体験することを「密教」と言うのだそうだ。なーるー!筆者によると、栄西は日本の仏教を「僧物」から「仏物」に変えようとしたのだという。寺社は誰の物?というと在家信者は支援者に過ぎない今の仏教では、僧物。そこでは家主は僧侶なので、信者たちは使用人となる。しかし寺社が仏の物であるとすれば、仏さまが家主だ。僧は自ら修行(禅)に励む。だとしたら、栄西は仏教界の体制を根本から転覆させる可能性があった人物となる。(結果、今の日本の仏教では「僧物」なのだけど)ちなみに栄西、中国からお茶っぱを持ち帰って育てはじめた茶の祖らしい。日本で宗教が必要とされるタイミングって、「冠婚葬祭」なんだよな。日常のなかにその居場所がない。それは、言語化された仏教(顕教)、それも和訳されたものではない音だけの経典を有難がってきた(権威化した)というもののなれの果て、なんだろうか。宗教って、「人が生まれ、生き、死ぬうえで悩み苦しむこと」へのQA集みたいな面あるじゃないですか。人間やるのはじめてですか?はい、「よくあるお問い合わせはこちら」みたいな。で、そこにある解答で納得できるかもしれないんですよ。生老病死だけじゃなくて。冠婚葬祭も、その見せかけの「システム」だけが必要なのであれば、別に宗教じゃなくていいんだよね。写真スタジオでの撮影、派遣神父、葬儀会社。祭礼はまだ宗教と密接に繋がっているかな?質問の集積が、誰かの悩みに答える。集合知がよりマクロな視点での導きを示す。日常における宗教は「寄り添う」のか。「示す」のか。欧米の映画やドラマだと、よく登場人物が心の中でイエス・キリストに語り掛ける。日本の宗教は、そういった存在にはなっていない。これから先、世界は宗教を必要としていかないのか。小説『天使と悪魔』で、私たちは違う宗教を―――「科学」という名前の新しい宗教をみんなで信じているだけだ、という記載があった。そうして科学という新しい宗教は、困窮する人々に手を差し伸べないのだ、と。しかし困っている人を作りだし、痛めつけてきたのもまた、宗教だ。これまでの関連レビュー・みんな、忙しすぎませんかね? しんどい時は仏教で考える。 [ 釈徹宗 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.10.30
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本のタイトル・作者ロシアとシリア ウクライナ侵攻の論理 [ 青山 弘之 ]本の目次・あらすじ第1章 干渉国から「侵略未遂国」へ1 近代との遭遇ーー「東方問題」と宗派主義2 ロシアの離脱3 シリアとは?4 フランスの委任統治5 ヨーロッパから移植された混乱の火種第2章 友好国、同盟国から主権の「守護者」へ1 友好国、同盟国となったロシア2 勧善懲悪と予定調和で理解された「アラブの春」3 シリア内戦4 グレード・ダウンされる介入の根拠5 主権に基づくロシア、イランの介入第3章 知が裏打ちする怒り、怒りを支える無知1 主戦場となったウクライナ2 集団ヒステリーに苛まれる欧米諸国3 知がもたらす感情移入と差別4 デフォルメされる現実5 黙殺される違法行為第4章 弱者による代理戦争1 三者三様の反応2 行き過ぎた人道主義3 「国際義勇軍」派遣の動き4 ロシアの傭兵5 シリア政府支配地の機運に乗じるロシアおわりにあとがき略年表参考文献一覧索引引用良い戦争などない。それゆえ、ウクライナ侵攻を食い止めたいという思いから声を上げ、行動し、報じることは人として当然のことだ。だが、こうした思いが、自分が信じる正義に反し、政治的立場を異にする敵への怒りや憎しみ、あるいは没交渉をもたらすのであれば、それは戦争の一方の当事者となり、戦闘を煽ることと同じである。欧米諸国や日本のメディア、そして政府、一部の市民は、戦争の悲惨さを伝え、それを憂いていた。だが、侵略に対する抵抗を美化することで、期せずして戦闘行為を正当化し、煽ってしまっていた。それだけではない。自らの正義に従おうとしない他者を蔑み、その声をかき消そうとする動きさえ感じられた。感想2022年255冊目★★★ロシア、ウクライナ関係の本をいろいろ読んでみている。でも、読んでいてちょっと思ったのだ。同じことをみんな言う。これ、あまりにも画一的で一面的だよな。そういうときは、何かが取りこぼされている。入って来る情報は一方通行だ。その逆には、何があるんだろう?これは、ちょっと視点を変えて書かれた本。著者は1968年生まれ、1995~1997年と1999~2001年シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所(IFPO、旧IFEAD)に所属。1997~2008年JETROアジア経済研究所。というわけで専門は現代東アラブ地域。その目から見た「ロシアのウクライナ侵攻」。戦争がはじまり、それはもはや「世界対ロシア」になっている。その「世界」側が主張する「民主主義への挑戦」。声高な喧伝。それへの違和感。ニュースでは「世界」から軍事支援を受け配備された最新の戦車が映し出される。ウクライナ側がそれを発射する。その兵器がいかに精度が高いか、ロシア側にダメージを与えているか、ナレーションが言う。私は思う。その大砲を撃った人のことを。そしてその先で大砲があたった人のことを。なぜ私たちは、それを片側からしか見ないのかと。著者はいう。シリア内戦で勧善懲悪と予定調和の物語が描かれたのと、ウクライナで起こっていることは同じだと。事実はより複雑で流動的だったにもかかわらず、真実の名のもとで過剰一般化されたステレオタイプのなかに押し込められていった。これとまったく同じことがウクライナ侵攻でも起きた。プーチン大統領が絶対悪、ウクライナ、国際社会(と欧米諸国や日本が呼ぶもの)、そしてプーチン大統領を批判する市民が正義と位置づけられ、悪に立ち向かう正義の物語が作り出されることで、徹底抗戦や軍事支援が正当化された。無辜の民が攻撃される。ミサイルが飛んできて、日常が破壊される。それを「わが事」として捉え、攻撃をしてきた者に恐れと怒りをぶつける。感情的に理解できる。私もそうだ。これは遠い国の戦争ではなく、私たちの日常と地続きにあると感じる。その危機感。けれど著者はヨーロッパでの報道について触れる。ウクライナがこれほど支援されるのは、彼らが金髪に青い目で白い肌をしており、西洋的な現代生活を送っていたからじゃないのか?これが別の場所で起こっていたなら―――違う宗教で、違う肌の色で、違う生活様式だったら、彼らはこうも支援の手を伸べただろうか?「ヨーロッパの優越主義とレイシズム」は何も変わりはしないのだ、と著者は言う。これにはハッとした。私がウクライナの空爆映像に激しいショックを受けたのは、彼らの生活様式が私たちと同じだったから、そこに住んでいるのが、まさに攻撃を受けているのが自分の家のように思われたからだ。ロシアは絶対悪であり、プーチンは常軌を逸した大虐殺の首謀者である。画一的な報道。それもまたプロバガンダではないのか?そこから逸脱した言葉は黙殺される。ロシアの報道をプロバガンダとしながら。市民の一部動員が決まり、ロシアから大勢の人が逃げ出す。「誰かお願い、プーチンを止めて」国外へ逃れる際、口に出すことを恐れながらもメディアに訴える女性。ウクライナの映画監督が負の歴史を描いた「バビ・ヤール」。(NHKニュースウォッチ9「「負の歴史」と向き合う ウクライナ映画監督」)ナチスに協力し虐殺に加担したウクライナ人がいたことは、この映画がロシアのプロバガンダに使われるのではないかという批判を招いた。終戦記念日に、原爆の日に。その死を悼み、二度とその愚を繰り返さないことを誓う。一方で私は思う。他国でその日がどう扱われるか。掬い上げられた語り継ぐことを選ばれた「共通の記憶」ではないもの。今起きていることを、私は許容できない。どんな主張も言説も、今ウクライナで起きていることを納得させられない。けれど大きな文字で描かれた「正義」しか見えなくなる時、私たちはまた過去と同じことを繰り返しているのではないのか?私たちは正しい!過ちは正されなければならない。悪は殲滅されなければならない。その声が大きくなればなるほど、私は恐ろしくなる。拳を振り上げろ、さあ、声を出していないのは誰だ?その正しさはすべてを薙ぎ倒し踏みつける。一面黄金の麦畑を行く戦車のように。これまでの関連レビュー・世界史と時事ニュースが同時にわかる 新地政学 [ 祝田秀全 ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]・同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂冬馬 ]・プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争 [ 山田敏弘 ]・世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命 [ クーリエ・ジャポン ]・佐藤優の地政学入門 [ 佐藤優 ]・世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」 [ 倉井高志 ]・独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか [ 池上彰 ]・戦場の秘密図書館 シリアに残された希望 [ マイク・トムソン ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.10.03
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本のタイトル・作者独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層 [ 池上 彰 ]本の目次・あらすじはじめに1 世界を驚かせたプーチンの暴挙 2022・ウクライナはどんな国?・解決のカギは「ミンスク合意」 ・ウクライナをめぐる情報戦 ・ロシアが承認する「国家」とは・ロシアを金融封鎖する制裁 ・「ナチス」はどちらか? ・ウクライナ軍、「善戦」の理由 ・プーチンを宗教から分析する ・ロシア軍の別動隊「民間軍事組織」・ウクライナで過去にもあった悲劇・ウクライナ危機が世界食糧危機に2 すべてはクリミア併合から始まった 2014~2021・ウクライナはどんな国? ・戦争の火種クリミア半島・クリミア半島はいま(前編) ・クリミア半島はいま(後編) ・「おそロシア」になってしまった ・広告収入を断つという発想 ・対「イスラム国」にロシアも参戦? ・「ロシアのエージェント」トランプ大統領? ・ロシアとの秘密交渉は誰の意思? ・ロシア軍の軍事演習が怪しい ・スウェーデン、戦争に備え徴兵制 ・ロシア、またも元スパイ襲撃?・トランプ、ロシアに猶予与え攻撃 ・北方領土は二島返還?・再び核開発競争へ ・究極の恐怖のミサイル爆発事故 ・プーチン大統領、「院政」狙いか ・ロシア、またも毒物で襲撃事件 ・「毒物はパンツに仕込んだ」 ・「猫に鈴をつける」民間調査組織・ベラルーシ、難民を武器にした ・ロシア軍、ウクライナ侵攻? 3 独裁者・習近平にどう対峙すべきか 2016~2021・香港で中国当局が「拉致」か ・香港の富豪が大陸へ拉致?・共産党のトップはなぜ「総書記」・中国、再び個人崇拝へ・いま「独裁者誕生」を目撃する・そもそも香港とは・火事場泥棒的に香港の自主性剥奪・中国共産党の一〇〇年・二つの「辛亥年」-中国の反撃あとがきにかえてーーもっと詳しく知りたい人のためのブックガイド感想2022年249冊目★★★「週間文春」連載の「池上彰のそこからですか!?」を再編集したもの。新しいもの(2022年)のものもあれば、もっと前のものもあるし、ウクライナだけじゃなくて中国の記事もある。なので、「今のウクライナの状況を知りたい」「なぜ今こうなっているのかを知りたい」という人には包括的に見られる内容ではないので、概略が分かっている人が当時の受け止め方を知りたいときに読む本という感じ。今翻ってみると、という視点でものごとを見られて、「ああそうだ、あのときはこう言っていたんだ」と思う。誰もウクライナの大統領なんて知らなかった頃。ロシアが本当にウクライナに攻め入るなんて思っていなかった頃。予言者は存在せず、けれど私たちは過去を振り返ることが出来る。そのただなかにいて、少しずつ足跡をたどる。この道はどこから来たのか。あの時、他の道はどこへ繋がっていたのか。なぜ、この道だったのか。それが何をもたらしたか。それを何度も繰り返して来たのにね。すぐに忘れて、同じ轍を踏む。少しずつ賢くなっているようで、同じ愚かさから逃れられない。今回この本を読んで知ったのは、ウクライナの閣僚で最年少のミハイロ・フョードロフ副首相兼デジタル転換相(31歳)。イーロン・マスクに対し、スペースXが所有するスターリンク衛星通信網の接続機器提供を求めたのは彼だったんだ。池上さんが台湾のオードリー・タンと並べているように、デジタルが状況を変える。今後、こういう人がたくさん出てくるんじゃないかな。引っ張っていくリーダーシップというよりは、何だろう。共同体のプラットフォームを整備するリーダーシップ。その人にすべてを任せるのではなく、ともに考える。完璧な答えではなく、臨機応変な答えを出しながら進む。ともに変わっていく。この本で触れられていた2020年8月にロシアの反体制指導者が毒物で暗殺されそうになった事件。ロシアのエージェントが犯行に関わっていることを暴露したのは、イギリスの民間調査報道機関「ベリングキャット」。この組織も初めて知った。組織運営者は元ジャーナリスト志望のゲーマーで、2011年のアラブの春を機にパソコンを駆使して現地取材を開始。2014年マレーシア航空機撃墜事件(ロシア製地対空ミサイルにより、ウクライナ東部上空を飛行していた航空機が追撃された)で、ミサイルがロシアのものであることをSNSに投稿された画像から特定。すごいのは、この組織が「安楽椅子探偵」のように、部屋から一歩も出ないまま、オープンにされたSNSなどの膨大な量のインターネット情報から真実を突き止める、という捜査方法。これは、「オープンソース・インテリジェンス」(OSINT)というのですって。機密情報はゼロ。ただ溢れる情報を結びあわせ、繋ぎ合わせてたった一つの事実に辿り着く。うっひゃああ、かっこいい…!!!!組織名は「猫に鈴をつける」ネズミの逸話から。ちいさなネズミでも、その目があれば―――真実はあぶり出されるのか。じゅうぶんな数の目があれば。この本だけでは詳しいことは分からないのだけど、そこは池上さんもご承知のうえで、「あとがきにかえてーーもっと詳しく知りたい人のためのブックガイド」におすすめの本が紹介されている。私は、元ウクライナ大使の書いた黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』を読みたいなと思った。この本で出てきた知らない言葉。○切歯扼腕(せっしやくわん)…歯ぎしりをして自分の腕をにぎりしめること。憤慨したりくやしがったりするときの様子。(コトバンク)これまでの関連レビュー・世界史と時事ニュースが同時にわかる 新地政学 [ 祝田秀全 ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]・同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂冬馬 ]・プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争 [ 山田敏弘 ]・世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命 [ クーリエ・ジャポン ]・佐藤優の地政学入門 [ 佐藤優 ]・世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」 [ 倉井高志 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.09.27
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本のタイトル・作者世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」 [ 倉井 高志 ]本の目次・あらすじ第1章 ウクライナとはどういう国かー国家としてのアイデンティティとロシアとの関係第2章 ロシアの軍事侵攻第3章 ウクライナの抵抗第4章 ウクライナが見せた「覚悟」-国家の安全はいかにして確保すべきか第5章 ロシアによるウクライナ侵攻と中国第6章 ウクライナとロシア、そして日本引用今回の軍事侵攻は、誰もが心の底では理解しながら口に出して言うには躊躇を感じる、いくつかの冷厳な事実を改めて認識させることとなった。それは第一に、結局のところ「力には力で対処するしかない」ということ。第二は「軍事大国に対抗するためには自ら軍事大国になるか、あるいは軍事大国を含む集団防衛体制の中に組み込まれるしかない」ということ。そして第三は「国連安保理常任理事国が何らかの形で関与する紛争に対して、安保理の紛争解決システムは機能しない」ということである。感想2022年240冊目★★★★この本、よかったです。今、雨後の筍のごとく出版されているウクライナ・ロシア・旧ソビエト連邦関連の本。書店の一角を占める本の中から何を選ぶか迷ったら、・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]で概略を把握したのち、細部理解にはこれをオススメしたい。著者は、直近の2019年1月~2021年10月までウクライナ大使を務めていた外交官。ソ連時代を含め計約10年間在ロシア日本大使館に勤務。その後、在パキスタン大使を経て、在ウクライナ大使として3年弱首都キーウに勤務。なので、これは珍しく「内側から(部外者が見た)ウクライナ」という構造になっている。ほかの本がおしなべて「外側から見たウクライナ」であることに対して、違う目線で見ているから「へえ、そうなんだ!」という気付きがたくさんあった。たとえば、2021年8月24日に行われたウクライナ独立30周年記念式典。その行進部隊の足の上げ方が、ロシア式の高く上げるやり方ではなく、西側流に高さ15cm程度になっていたこと(脱ロシアとNATOへの志向性が現れている)。2015年にドイツがG7議長国であったとき、「7大使ウクライナ・サポートグループ」が設立され、G7大使が本国と連携しウクライナ改革を支援していく取り組みが行われていたのも初めて知った。著者の仕事の1/3はこのグループの関連業務だったというから、かなり突っ込んだものだったのだろう。ゼレンスキー大統領と直に言葉を交わした間だからこそ、大統領の人となりについて語る言葉にも信憑性がある。大統領の「国民の僕(しもべ)」党の立候補条件は、「政治家としての経験のないこと」だったそうだ。すごい。あれは、ポーズではないんだ。ゼレンスキー大統領は両親ともユダヤ人で、本人もユダヤ人なんですね。彼が大統領に就任した2019年5月は首相もユダヤ人で、著者はその政権をロシアが「ナチ政権」と呼ぶのはあまりにもユニークな主張である、と言う。クリミアには水問題があり、クリミアの水供給の70~80%はウクライナのドニプロ川から行われていたが、「併合」によりこの水路を閉じたそう。へえええ。今は水、どうしてるんだろう。著者が英国スコットランドのエジンバラ大学在籍中にソ連軍事問題の大家ジョーン・エリクソン教授から教えられた「ソ連を理解するためには世界からソ連がどう見えるかではなく、ソ連から見て世界がどう見えるかを考えなければならない」という言葉。これ、今のロシア(プーチン)も同じだ。2022年は日ウクライナ外交関係樹立30周年だったのだそうだ。2017年の25周年のとき、ウクライナ各地に桜2500本を植える取り組みが1800本で終わり、2022年には残りの700本を植える予定だったという。ウクライナの人に好評で、ぜひうちの町にも植えてくれと言われていた桜。植えられなかった桜。そして、植えられた桜は、どうなったんだろう。遠い国の戦争。ではない。ロシアと中国に海を挟んで隣接する日本。今テレビ越しに見ている惨状が、この国に起らないと言える?なされないと思っていたことが、なされてしまった。私たちが生きているのは、その後の世界だ。これまでの関連レビュー・世界史と時事ニュースが同時にわかる 新地政学 [ 祝田秀全 ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]・同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂冬馬 ]・プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争 [ 山田敏弘 ]・世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命 [ クーリエ・ジャポン ]・佐藤優の地政学入門 [ 佐藤優 ]・バチカン大使日記 [ 中村芳夫 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.09.18
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本のタイトル・作者佐藤優の地政学入門 (働く君に伝えたい「本物の教養」) [ 佐藤優 ]本の目次・あらすじIntroduction 地政学でわかる! 世界の紛争・事件の本当の理由PART1 これだけは知っておきたい! 地政学のキホンPART2 アメリカ・中国・ロシア 大国の戦略PART3 地政学で読み解く 日本とアジアのリアルPART4 中東、ヨーロッパは何を考えているのかPART5 地政学で先読み! 世界の未来予想図感想2022年214冊目★★★ソ連のウクライナ侵攻で、にわかに脚光を浴びている地政学。この本はテーマ別なので、地政学というよりは普通にテーマごとの時事問題(紛争と、その歴史)という感じでした。「池上彰の行動経済学入門 [ 池上彰 ]」と同じシリーズ(働く君に伝えたい「本物の教養」)。つまりは著名人の「監修」だけなのかもな。地政学(地理的な事情からその国の歴史的傾向が変わるというもの)については、以前に読んだ「世界史と時事ニュースが同時にわかる 新地政学 [ 祝田秀全 ]」がとても良かったです。こちらのほうがおススメ。私はものすごく忘れっぽいので、何度も手を変え品を変え、情報を何度も目にすることで、なんとか自分にそれを落とし込んでいこうとしている。世界中で起こっていること。ニュースをつけて右から左へ流れていく。けれどそこには日常があり、そこで生まれ、生きている人がある。生活は続いていく。切れ端のテレビ画面の外で。忘れて、思い出しもしない、そのどこかの国で。知らないことは、裏切りのような気がしている。安全な場所で一瞬胸を痛め、忘却する傲慢。平坦に映し出された戦火の慟哭に、涙を流しながら。どこかで、わかっている。可哀想な人たち。なんて酷い世界。憤り、泣き、そこにいない私。その身の幸運を比して。だから。繰り返し思い出すように。存在することを忘れないように。私もその世界の一部だということ。幸運と幸福は誰かの上にあること。ただの巡り合わせで、それは表裏一体であったこと。だから私が忘れるのは、裏切るのは、私自身であり、別の世界の私なのだと。鏡の世界で彼女は、レンズを睨む。見られながら、彼女は見ている。そちら側のお前たちは分かるまい。画面から外れれば、すぐに忘れてしまうのだろう。私は画面の向こう側から彼女を見ている。レンズを見ている彼女は、私を見ている。世界は反転する。彼女は私を糾弾する。裏切り者。それは、違う言葉を話す、私の声だ。これまでの関連レビュー・世界史と時事ニュースが同時にわかる 新地政学 [ 祝田秀全 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.08.22
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本のタイトル・作者世界の賢人12人が見た ウクライナの未来 プーチンの運命 (講談社+α新書) [ クーリエ・ジャポン ]本の目次・あらすじ第一章 この戦争が意味するものユヴァル・ノア・ハラリ「ロシアの侵略を許せば世界中の独裁者がプーチンを真似るだろう」ニーアル・ファーガソン「プーチンはウクライナ戦争で何を目論んでいるのか」ノーム・チョムスキー「ウクライナ戦争による米露対立は、全人類への死刑宣告になる」〈世界のコラム〉「世界の軍需企業」はウクライナ戦争でこれほど莫大な富を得ている第二章 プーチンとは何者なのかミシェル・エルチャニノフ「世界はプーチンの核の脅しを真剣に受け取ったほうがいい」ウラジーミル・ソローキン「プーチンはいかにして怪物となったのか」キャサリン・メリデール「プーチンが恐れているもの、それは自身の死と民主主義だ」〈世界のコラム〉ウラジーミル・プーチンという男の思考回路を読む第三章 いま私たちに求められているものトマ・ピケティ「欧米諸国の考える『制裁措置』は“標的”を大きく見誤っている」タイラー・コーエン「利他主義や慈善は戦時にどう対処すべきか?」フランシス・フクヤマ「プーチンは完敗するーー私が楽観論を唱える理由」〈世界のコラム〉ウクライナ侵攻のシンボルになったアルファベット「Z」の謎第四章 この戦争の行方を読むジョージ・ソロス「プーチンと習近平は第三次世界大戦の引き金になろうとしている」ジョン・ボルトン「中国とロシアの協調こそが世界の脅威になる」ロバート・ケーガンほか「ウクライナが“完全支配”されたら何が起きるのか?」〈世界のコラム〉プーチンが「核のボタン」を押すなら、どこが標的となるのか感想2022年193冊目★★★知らない人も多数いるけど、(たぶん)錚々たるメンバー。内容は、雑誌や新聞などの短い記事の翻訳の寄せ集めなので、すぐに読める。海外でどんな風にとらえられているか、というのが知りたかったので面白かった。以下印象に残ったことのメモ。(ユヴァル・ノア・ハラリ)・ウクライナは全世界の未来の輪郭。観察者に留まってはいけない。今は立ち上がり、態度を示すとき。(ノーム・チョムスキー)・プーチンは何年も前から主張してきたことを実行している。・ロシアの安全保障上越えてはいけないレッドライン(ジョージアとウクライナ)をアメリカが平然と踏みにじった。(ミシェル・エルチャニノフ)・プーチンの内側の論理は一貫しているが複雑な実世界との接点がなくなっている。・彼はこのイデオロギーを20年間ずっと語って来た。・世界各国の指導者はそれに目を瞑ってプーチンを支持してきた。(世界のコラム)・キリル文字に「Z」は存在しない。・「Z」が何を意味しているのかロシア国防省はコメントしていない。・「ザパド(西)」を意味する可能性が高い。・国防省はInstagramに「Za pobedu(勝利のために」を意味すると投稿。読めば読むほど、不思議になる。ひとりの人の妄執だとして、それが現実になることが。たったひとりの思い込みや思い付きで、たくさんの人に災厄が訪れる。そんなことがあり得るのだ、ということ。戦争というのは、たくさんの人が「何か」を信じるのだと思った。信じたいものを。そしてその人たちが戦争を始めるのだと。ロシアの人たちは、プーチンを支持しているんだろうか?ほんとうに?いまでも?頭の中が現実の世界を侵食する。けれど、私はプーチンは幸せじゃなかろうな、と思った。クレムリンの中にいて、ひとりぼっちだ。ひとりぼっち。ドラえもんの「どくさいスイッチ」では、言うことをきかない者を消すボタンをのび太が押し続け、世界はついに最後にのび太ひとりになる。電気の供給も止まり、世界は闇に包まれる。彼はその光景の中にいるように思う。でもそこまで来ても、ドラえもんはいない。だからもう、虚構を信じるしかない。自分はひとりではないのだという物語を。大衆に望まれ、君臨する皇帝。失われた祖国を取り戻すのだ。偉大なるロシア。強国の歪んだイデオロギーに打ち勝って、歴史に名を刻む大統領。ウラジーミル・ソローキン氏は、プーチンは『ロード・オブ・ザ・リング』の呪われた指輪をはめたのだと喩える。王座についた賢明な役人。権力の頂点に固執することがないはずだった彼は、運命の指輪をはめ、帝国主義の怪物となる。怪物は街を焼き払う。怪物は人々を飲み込む。後には荒廃だけが残される。今目にしているものを、私はどう捉えればよいのだろう。その怪物を、どう捕らえれば。私はそこでふと、思い出す。「ぺにろいやるのおにたいじ」。 (2020.12.06「今年やり残した目標、絵本の読み聞かせ(こどものとも復刻版)」)人々が怖がる鬼を退治に、ぺにろいやるは出掛ける。そうしてぺにろいやるはお城の中で、鬼を見つけ一緒に遊ぶのだ。鬼はちいさな男の子だった。恐ろしい大きなお城は、ちいさな透明なテントに変わる。ふたりは夢中で遊ぶ。世界がそんなふうに、ゆけばよいのに。どうせ物語になぞらえるのなら。ノーム・チョムスキー氏の話の中に、「オリーブの枝ではなく六連装式の銃を手にとる」という表現があり、独特で聞いたことないなと思ったら1 オリーブの枝(◇平和の象徴;ノア(Noah)の放ったハトが,洪水の引いた印としてくちばしにくわえて箱舟に帰ってきたことから)2 和解の印として差し出すものなのだそうだ(goo辞書)。これまでの関連レビュー・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]・同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂冬馬 ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]・プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争 [ 山田敏弘 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.07.31
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本のタイトル・作者プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争 (文春新書) [ 山田 敏弘 ]本の目次・あらすじ第一章 プーチンの戦争とサイバー戦第二章 中国は技術を盗んで大国になった第三章 デジタル・シルクロードと米中デジタル覇権第四章 中国に騙されたトランプ第五章 アメリカファーストから「同盟強化」へ第六章 日本はサイバー軍を作れ引用サイバー攻撃で相手を混乱させ、電撃作戦で中枢を制圧する―――ロシア軍にとって、この作戦は伝家の宝刀となった。2013年にロシア軍の参謀総長ワレリー・ゲラシモフが、サイバー線などを含んだ新しいロシアの戦争の形を論文で発表した(通称「ゲラシモフ・ドクトリン」)。そこには、これからの戦争は平時、有事の境目が曖昧なままの状態で進む、と記された。サイバー戦はまさにその中核として重要視されている。今回の戦争もそのドクトリンに沿ったものといえるだろう。感想2022年182冊目★★★先日、何気なくNHKの特集で見たサイバー戦争が興味深く、それに関する本を読んでみた。→「世界に飛び火 “サイバー市民戦争” パンドラの箱は開かれた 」いやあ、「見えない戦争」が本当に間近にあるんだな…。情報という名の財を奪い、利用する戦争。細田守監督の映画「サマーウォーズ」(これも「戦争」というタイトルだ)で、全世界に利用者がいるネットサービス「oz」がハッキングされ、世界中が混乱に陥る。アメリカ大統領のアカウントを奪えば、核のスイッチだって押せちゃうんだ―――。映画の中で、人工知能ラブマシーンは、衛星「あらわし」の軌道を狂わせ、地上に、原子力発電施設に落下させようとする。仮想世界のものだと思っていた物語が、途端に身近に感じられた一冊。アメリカが、ロシアが、中国が、仮想の世界で現実の世界を伴って戦っている。そして、情報戦。はじめ、ロシアがウクライナを侵攻したという時。ウクライナ東部の親ロシア派地域の独立を認めるかどうか、という安全保障会議の様子をニュースで見ていて、プーチンに「はいか、いいえか、どっちなんだ!」と詰られていた人を覚えている。あれは、SVR(ロシア対外情報庁)長官セルゲイ・ナルィシュキンという人だったんだね。議員か何かなのかと思っていた。ロシアが仕組んだものと、欧米が仕掛けたもの。結果的に世界は欧米のストーリーで今回の戦争を見ているけれど、ロシアの中にいる人たちはまた違ったあらすじを与えられているのだろう。人は自分が受け取ったものの中から判断する。そして信じたいものを信じる。私が見ているものだってそうかもしれない。この本で触れられていたけれど、「ウクライナ軍がロシア軍をやっつけた」は報道される。「ウクライナ軍がロシア軍にやられた」は報道されない。ウクライナ軍の被害は報告される。ロシア軍の被害は報告されない。正義と善。侵略と悪。民主主義への挑戦。プロバガンダの下に覆われているものは見えなくなる。「お前、あほちゃうか!いったい何時の時代やと思うてるねん!!令和やぞ!!」これが、私が開戦とともにプーチンに言った言葉ではあるけれど。私は情報にアクセスできる(と、自分では思っている)。国に特定の言葉を調べることを禁止されていたりしない。他の国の情報に触れることを咎められたりしない。でも、いつそうなるのか分からないのだ。いつだって。好きに物事を述べることができる。でもこれが、変わってしまったら?私は口を噤むだろう。そして今書いているこういったものが掘り起こされ、過去の罪として断じられたら?捕らえられてしまったら?中国で今起きているのは、そういうことだ。私のスマホは、前にフアーウェイを使っていて、今オッポ。どちらも中国企業のもの。この本を読んでいたら恐ろしくてとてもじゃないけど使えない…。情報を抜き取り、関連付ける。購入履歴。行動記録。家族情報。交友関係。勤務先。取引先。防犯カメラの顔認証システムと相まって、それは完全なる監視社会を生み出している。すべてが糸のようにつながった世界。そこで刃向かう者を見つけ、消し去るのがいかに容易か。恐ろしい。民主主義の根幹をなす選挙。これも、サイバーテロの攻撃にされてしまえば、思うがままに票数の操作が可能だ。この本で2016年のアメリカ大統領選挙について触れられていたけれど、結局今のところ一番安全な選挙の正当性確保の方法は「紙で残すこと」だったという。これ、オードリー・タンも言っていた。現状、最も安全な方法は「紙」なのだと。すべてがデジタル化されていく中で。アナログこそがもっとも強い、という結論に到達することがこの先もあるのかもしれない。アニメ「ヨルムンガンド」では、すべての空の利用を全世界同時に禁止するという方法で世界平和を強制的に実現する。それはインターネット以前の世界への逆戻りだ。人々はもはや陸路か船(それも、GPSのない)を行くしかない。でもきっと、人間はまた別の残虐な方法を生み出すんだろうな。これまで、戦争のたびに技術革新が進んできたように。インターネットがそうやって発展したみたいに。これまでの関連レビュー・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]・同志少女よ、敵を撃て [ 逢坂冬馬 ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.07.20
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本のタイトル・作者コロナ後の未来 (文春新書) [ ユヴァル・ノア・ハラリ ]本の目次・あらすじ第1章 デジタル独裁主義の悪夢を阻むには ユヴァル・ノア・ハラリ第2章 mRNAワクチンが切り拓く可能性 カタリン・カリコ第3章 生命とは何か? ウイルスとは何か? ポール・ナース第4章 コロナ後の働き方はハイブリッドワーク リンダ・グラットン第5章 未来の都市は「第三の場所」を求める リチャード・フロリダ第6章 GAFAの勝者アマゾンは医療を目指す スコット・ギャロウェイ第7章 コロナ後の「Gゼロの世界」 イアン・ブレマー引用ポスト・パンデミックの世界は、プリ・パンデミックの状態に戻ると主張する人もいますが、最大の変化は本当の富裕層が体現するようになることでしょう。彼らこそが、住む場所や働く場所を実際に変えている人々です。その次に変化があるのは、クリエイティブ・クラスです。ですから、社会階級の分断はさらに大きくなるでしょう。リモートワークができる知的労働階級と、サービス業や肉体労働で身動きが取れない人たちとの格差は、単に収入の面だけではなく、ライフスタイルにも生じてきます。特権階級の方が、はるかに選択肢が多いのです。第5章 未来の都市は「第三の場所」を求める(リチャード・フロリダ)感想2022年181冊目★★★各方面で有名な7人のリモート・インタビュー。2020年刊『コロナ後の世界』の続編。それぞれの人はさすがにすごいことを言っているんだけど、この薄さ(208p)で7人なので、どうしてもそれぞれのインタビューが薄くなってしまって、表層をさらっと撫ぜただけ、という感じ。カタリン・カリコさんの話なんかも、ご本人が話していらっしゃること、テレビの特集で前にやっていて見たそのまんまだなあという印象だった。ここからそれぞれの人の書いたもの・読んだものに移っていく、その取っ掛かり、イントロダクションとしてはいいかもしれない。プリコロナ(プリゴロ太のような響き…)とポストコロナ。私は働き方も当初こそリモートが~とか言っていたけど、波が過ぎれば元通りでいっさい影響を受けず。相変わらず通勤電車に乗り、人のひしめくオフィスで働いている。リモートワークが難しい(というのが、デジタル化が単に進んでおらず、それにかける予算もない、ということなんだけど)のもあるけど、毎日毎日リモートの人ってどんな感じなのだろう。私は、家を出て駅まで英語を聴き、通勤電車に乗って本を読み、仕事をして、昼休みに時間があれば本を読み、仕事をして、無駄口を叩き、ストレスをため込み、また電車に乗って本を読み、保育園へ迎えに行き…としている。リモートワークをやっていた期間は、このライフスタイルが乱れまくった。特に、家にいるとどうしても家事をしてしまって、結局「自分の時間」が皆無、という状態になる。気づけば昼休みに晩ご飯の用意をしていたりして、通勤時間の分だけ浮いたはずの時間はどこかへ紛れてて消えてしまっていた。なので、私は通勤も悪くない派。あと家から出ないと単純に運動不足になる。この本では「第三の居場所」としてコワーキングスペースやカフェが紹介されていた。職住近接で、徒歩十分以内くらいのところで働けたらいいのにな。子どものお迎えとかのことを考えると、特に小学生以降は在宅いいなあとも思うのだけど。残業も、帰宅して子どもを寝かしつけてからリモートで出来たらいいのにな、とか。成果主義が導入されたら、タスクを次々塗りこなしていく私の仕事量が一目瞭然になるだろうに…!!!日本の「仕事をする」は結局、「職場にいること」なのだ。この本では、日本の工場は、その労働力だけでなく、その人をまるごと包摂する「新しい工場」だったという表記が出てきたけど、私はそれには首を傾げる。それはあれだよね、昔の「家制度」の崩壊とともに、会社がかりそめの「家」のように機能していた時代の話?「場」が、そこに「存在すること」が何よりも大切だから、「残業は偉い」となる。残業して、残って働いて、がんばっていて、えらい。だから、時短勤務は、残業が出来ないことは、休むことは、悪だ。それは、「働かない」ことだ。うんざりなんだよな。もう。そういうの。時間効率が悪く、作業効率が悪く、自分の単価を考えもしない。結果的に会社に損害を与えている。それで褒められるってどういう了見よ?閑話休題。リモートワークの話。一方でそれが初めから不可能な職種の人もいる。時間(可処分時間)と場所が制約される仕事。引用部のように、仕事によってその格差と分断は広がっていくんじゃないか、と思う。クリック一つで物が届く、という時に。その便利さの陰で動いているリアルな人間はどこまで意識されているのだろう。そんなことを考える。けれど世界はもしかしたら、「クリックする」人間と、「クリックされたもののために働く」人間に分かれていくのかもしれない。もうすでに、そうなってきているように。これまでの関連レビュー・年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済学 [ 森永卓郎 ]・パンデミックブルー(感染爆発不安)から心と体と暮らしを守る50の方法 [ 古賀良彦 ]・コロナ後の世界を生きる 私たちの提言 [ 村上陽一郎 ]・コロナ後の世界 いま、この地点から考える [ 筑摩書房編集部 ]・なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない [ 辻仁成 ]・コロナ禍日記 [ 辻本力 ]・武漢支援日記 コロナウイルスと闘った68日の記録 [ 査瓊芳 ]・コロナの時代の僕ら [ パオロ・ジョルダーノ ]・いっしょなら [ ルーク・アダム・ホーカー ]・コロナ自粛の大罪 [ 鳥集徹 ]・たちどまって考える [ ヤマザキマリ ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.07.19
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本のタイトル・作者池上彰の行動経済学入門 (働く君に伝えたい「本物の教養」) [ 池上彰 ]本の目次・あらすじintroduction そもそも行動経済学とは何か? 序 章 経済は「人の心」で動いている! ~行動経済学のキホン~第1章 身近にあふれる! 行動経済学を利用したビジネス戦略第2章 意思決定をする直感~「ヒューリスティック」とは? ~第3章 「損したくない」が行動を決める! ? ~「プロスペクト理論」とは? ~第4章 人は将来よりも「今」を重視する! ~「現在バイアス」「社会的選好」とは? ~第5章 人を操る魔法の理論~「ナッジ」とは? ~第6章 行動経済学が切り拓く未来感想2022年160冊目★★★なんで池上さんが行動経済学の本を…?と思ったら、これ「池上彰・監修」なんですよ。「おわりに」に、「私も加わってのブレインストーミングで方向性を定め、竹内孝夫さんらが執筆したのち、私が内容や文章をチェックする形をとりました」ってある。いやいや…ってなった。著者紹介すらない。ゴーストライターやん…。薄くてイラストが多くて、内容は分かりやすい。これまでの経済学が扱っていた前提「合理的で賢い人間」のように人間は行動しない。それを踏まえて修正したのが「行動経済学」。人間は「合理的・自制的・利己的」だという経済学の前提は、行動経済学では「ほどよく合理的・ほどよく自制的・ほどよく利己的」となる。この本は一冊でざっとその内容を摑める。経済学系の本を何冊か読んでいる人には既出の内容が多いけど、やっぱり楽しい。仕事のうえでも、行動経済学をふまえ「こういう書き方やアプローチをしたら相手の行動が変わるのでは?」と思える。試してみたくなった。人は1日に約5万回ヒューリスティック(即決型思考)の意思決定をしているらしい。これほんと、疲れるよね…。私は決裁権のある立場になってから、もう考えて、決めるのがしんどい。なるべくヒューリスティックのことに思考のリソースを割きたくない。だからなるべく日々のルーチンを固定化している。食べるもの(調理方法)。着るもの。白米も、毎回予定やメニューにあわせて考えるのが面倒なので「毎回夕食に5合炊く」と決めた。残ったら朝ごはんや冷凍に。冷凍が一食分貯まったら炊かない。「炊く」or「炊かない」にして、「今日は○合炊く」という選択肢をなくした。そういう積み重ね。これまでの関連レビュー・無敵の読解力 [ 池上彰・佐藤優 ]・池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 [ 池上彰 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.06.27
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本のタイトル・作者池上彰の世界の見方 東欧・旧ソ連の国々 ロシアに服属するか、敵となるか [ 池上 彰 ]本の目次・あらすじ第1章 ソ連中央に支配された連邦の国々と東欧第2章 ソ連が崩壊し、15の共和国が誕生した第3章 ロシアの脅威に身構えるバルト三国第4章 「スタン」の名がつくイスラム諸国第5章 ロシアにすり寄ったベラルーシ、侵攻されたウクライナ第6章 EUとの溝が深まるポーランドとハンガリー感想2022年153冊目★★★★2022年3月27日現在の情報を記載。東京都立青山高等学校で行われた授業をもとにしていて、池上さんが滔々と歴史を解説し、質問を投げかけ、生徒が答える方式。めちゃくちゃ読みやすく、分かりやすかった。ウクライナのニュースを見ても「なぜに…?」という疑問が解消されなかったのがすっきりした。「いったい今、なぜこうなっているのか?旧ソ連の国々間、そしてヨーロッパとの歴史と関係性は?」と思っている人にはおすすめの一冊。・タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]ここらへんを読んだときも、「なぜに…?」という歴史的背景がよく分からなかったのが、この本を読んで「そういうことだったのか」と納得。セットで読むと理解が深まる。というかこっちを先に読んだ方が良かった。独ソ戦が始まった時、首都モスクワまでドイツ軍が来たのは、優秀な将校がみんな殺されていたからだったんだ…。武器もなくて戦車に齧りついて戦った、とあったの、それが原因だったんだ。いやもう、スターリンやばない?この人がまき散らした呪いが、今あちこちで紛争の原因となっていて、プーチンもそのやり方を踏襲してる。プ―チンが今まさに行っている戦争も、未来の呪いになりはしないか。なぜベラルーシがロシアに味方するのか。なぜウクライナはロシアに抵抗するのか。なぜポーランドはウクライナ難民を受け入れるのか。歴史を知らなければ、今ここで起こっていることを正しく知ることが出来ない。これまでの関連レビュー・タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]・戦争は女の顔をしていない [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.06.20
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本のタイトル・作者親ガチャという病 (宝島社新書) [ 池田 清彦 ]本の目次・あらすじ第1章 親ガチャという病生きづらさのなかで固定化されゆく“自己像”土井隆義(社会学者)第2章 無敵の人という病「真犯人」は拡大自殺報道を垂れ流すマスコミ和田秀樹(精神科医、評論家)第3章 キャンセルカルチャーという病被害者への過度な感情移入が議論をシャットアウトする森達也(映画監督、作家)第4章 ツイフェミという病フェミニズムを攻撃や誹謗中傷の「隠れ蓑」にしてほしくない室井佑月(作家)第5章 正義バカという病スケープゴート叩きの裏に潜む「不都合な真実」池田清彦(生物学者)第6章 ルッキズムという病「相手ファースト」で委縮し“素顔”を覆い隠す若者たち香山リカ(精神科医)第7章 反出生主義という病「人生の虚しさ」の大衆化により蔓延している苦しさ中島義道(哲学者)引用「弱者」というのは努力せずに理解されたいと思う人のことです。理解してほしいと主張するからには、理解されるためにどれだけの努力をしたのかという話になりますが、それが、ほとんど努力していない。これに対して、理解されるための最大の努力をし、しかも理解されたいと思わない人が「強者」です。あるいは「弱者」を「善人」と呼んでもいい。いつも優しくていい人でいたいし、相手にもそれを求める。人の心にある差別意識や悪の感情を、ただ否定し逃げる。傷つきそうなあらゆることから逃げる。(中島義道)感想2022年149冊目★★★上り坂ではない時代。高原に生きる若者たち。努力すれば報われる、這い上がってのし上がるなんて夢のまた夢。だとすれば、今の自分の不幸は「親」という要因において決定される。宿命論の運命論。「親ガチャ」という言葉を聞いたとき、納得したのを覚えている。今はもう、生育環境が将来を決める重要な要素になっている。それを肯定している自分に気付く。階級の再生産。でもそれを否と言いたい自分がいて、この本を読んでみた。ネットで何も失う者がなく、無差別殺人や拡大自殺を起こす人のことを「無敵の人」と呼ぶということは初めて知った。過去に起こした問題を糾弾しその人を引きずり下ろすことは「キャンセルカルチャー」というらしい。この本によると、「親ガチャ」というのは、もとは虐待を受けていた子供が自分の生きづらさを語る際に使った言葉だという。(本当かな?)過去を他者に開示する際に、気を使わせないように、「相手を不快にさせないように」、自嘲的で無力感溢れるこの言葉が生まれた。土井さんはそれを相互理解の努力の放棄、と言う。これ、香山さんの章でSNSでの今時の子の投稿について述べたところと繋がる。相手のノイズになりたくない、相手を楽しませたい。「見せたくない」ではなく「見たくないだろう」。軸足が自分ではなく、他人にある。自分が透明な存在のように振る舞う。この指摘は新しい。SNSは「良い自分だけを見せる」「自分をよく見せる」ために使われているのだと思っていた。そういう考え方もあるのか。でも透明というのとは、やっぱり私は違う気がする。それは「コンテンツとしての自分」(消費される自分)ということなのかな。綺麗で、素敵で、良いもの。あるいは、可笑しくて、ネタになるもの。私を見て。この私を。それは、本当の自分の前に板を置いて、映像を映し出しているような。その内側の存在は、はたして透明になってしまうんだろうか。むしろ色濃く、これまで以上に「そうじゃない私」が意識されそうな気がする。これまでだって、人は建前と本音を使い分けてきた。場に応じて演じる役割を、被る仮面を変えてきた。それと「SNSに現れる私」という存在は、どう違うんだろう?メタバースが広がっていくと、またここは変わって来るんだろうな。そこにはおそらく、「あちら側へ行きたい」も含まれるんだろう。その時、内側の私は本当に透明になる。肉体は邪魔なものになるかもしれない。意識だけが人を作るんだろうか?その人の思考パターンを永遠に生成し続けるAIがいたら、その人は生きていると言える?私は、「親ガチャ」という言葉で、漫画『おまけの小林クン』を思い出した。主人公は幼い頃に交通事故で両親と姉を亡くし、大けがを負い自分だけが生き残る。親戚中をたらい回しにされながら虐待を受け、「遺産のおまけ」と扱われる。自分はおまけだ、という主人公に、友人は言う。「おまけには当たりも外れもあるだろう。お前は当たりだ」外れくじを引いた、ガチャに失敗した。でも私は、思うんだけど。今ここでこうして生きていることを、当たりにしていくしかないんだ。過去は変えられない。生育環境は選べない。弱者として永遠に自分を憐れみ生きていくことが望みならそこにいればいい。でも、これから先を見るしかない。ここから先を行くのは自分しかいない。変えられるのは未来だけ。それを選べるのは自分だけだ。お前は当たりだ。↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.06.16
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本のタイトル・作者オードリー・タンが語るデジタル民主主義 (NHK出版新書670 670) [ 大野 和基 ]本の目次・あらすじ序 章 デジタルで民主主義を改良する第1章 開かれた行政府をつくる第2章 私はなぜ民主主義に関わるようになったのか第3章 市民参加型の討論を実現第4章 投票方法のアップデート第5章 さまざまな問題をどう乗り越えるか引用一方で、デジタル民主主義や多元的民主主義において、その価値基準はじつに多様です。市民はそれぞれ、自分なりの価値観を持っているからです。そのため私は「グッド・イナフ(good enough)」のコンセンサス(合意)を持つことを強調しています。完全ではないけれど、「そこまで合意を得られたのなら、前に進めていい」という意味です。しかしこの「グッド・イナフ」という考え方は常に、将来の世代に対して余地を残します。まだ対話の中に含まれていないけれども、これから徐々に含まれる世代に対してです。感想2022年128冊目★★★★すっかりファンになったオードリーさん。今回はデジタル×民主主義についてのインタビュー。台湾が市民参加の盛んなポータルを運用していることに他の本で触れられていたので、「それは衆愚政治に陥るのでは?」と思っていた。しかし違う。相変わらず目から鱗がぽろぽろ落ちる内容だった。台湾は、走りながら考えている国。不都合がある。困っている人がいる。じゃあ出来る人がとりあえず始めてみる。いろんな人が参加する。追加する。削除する。自然と淘汰されて行く。そうしてみんなで制度にアップデートをかけていく。台湾だけ100年くらい先の未来を行っていないか?そしてそれを可能にする社会的柔軟性(台湾はものすごい実力主義らしく、だからこそオードリーが異例の大抜擢を受けた)。はたしてこれが日本で可能になるのは、いったい何時になる事やら。何よりも、閉塞感のある現代の民主主義において、原初的な理想に立ち返り、それを技術(デジタル)がサポートするという感覚。市民の不信――お前らはどうせ俺たちを騙しているんだろう――に、政治家の不信――お前らには分からないだろう――を掛け合わせた今の政治。それをどうすれば解消できるのか?冒頭で、インタビュアーは「なぜこうした透明性のある相互関係にもとづいた政治が可能になったのか?」と問う。台湾の政治は、「相互関係」に尽きる。徹底した情報公開に、説明責任を果たそうとする姿勢、市民に対する信頼。オードリーが指摘しているけれど、オープンデータは逆に行政府からリスクを取り除くのだ。情報公開で検閲・編集したものを世に出すと、その編纂者は責を負う。しかしすべてに透明性を確保し、誰でも見られる状態にしておけば、行政府は死角(それが意図的であれ無意識であれ)についての責任に怯えなくて済む。オードリーはこれを、「十分な数の目ん玉があれば、すべてのバグは洗い出される」(アメリカのプログラマー、エリック・レイモンドのソフトフェア開発における「リーナスの法則」)と言う。特定の、少数の誰かの目に頼るのではなく、広く世間にその目を求めること。そのためにお互いを信頼に足る存在とすること。台湾では、市民が政治について意見を表明できる独自のプラットフォーム、オンラインの公共インフラ「Join」を運営している。政策を電子請願し、60日以内に5,000人以上の市民が賛成したら、政府は必ず議題に取り上げ、2カ月以内に検討結果を公表する。このスピード感が、数年に一回の選挙では追い付かない時々刻々の問題を、政治に反映できる。そしてこれには、未成年も参加できる。つまり、実際の有権者とそれ以外が平等に参加できるのだ。以前、環境問題で、トランプ大統領とグレタさんとの対比で思ったことがある。実際に政治を運用する彼らは利権に塗れ、自分たちは逃げ切る世代だと知っている。そうして素知らぬ顔で下の世代に負債を負わせるのだ。それに声をあげることが何故できないのだろう?台湾では、プラスチックストローの廃止、学校の開始時間の繰り上げなど、未成年者が問題の当事者として声をあげ、政治に参加している。それでも衆愚政治に陥らないのは、・実名と匿名の間の中間の名前(SNSに紐づいたアカウント)を使用・「賛成」と「反対」のみで「返信」はないといったデジタルの運用方法に加え、「何が問題であるのか」を徹底的に話し合う姿勢だ。標準時刻を変える/変えないという議論が拮抗したとき、「なぜそうしたいのか」という核の部分について話し合い、双方が根底にある「台湾をユニークな国にしたい」という思いを共有し、ほかの方法をもってそれに協働する。すごい。台湾では、「クアドラティック・ボーティング」という方法も試されていて、投票者が99ポイントを各団体に振り分ける。1票=1ポイント、2票=4ポイント、3票=9ポイントという方式で投票を行うこのやり方は、「結果しか分からない」という複数式の投票に「その人の次点は何だったのか」という視点を取り入れている。台湾のクリアなこの政治体制は、過去の教訓をもとに作られた。今もまだ試行錯誤を繰り返し、永遠に完成しない。でも、それでいいんじゃないか。だって問題は次々に起こり、刻々と変化していくのだから。ひとりの人間が持てる知見には限りがある。最終的な判断は必要だろうが、それに至るプロセスが歪んでいないとは言いきれない。時間は有限だ。人的資源も。無意識のバイアスもあるだろう。私たちは、その重責を負う(あるいは喜んで誤用する)人を、もう信じていない。「どうせ何を言っても同じだ」と諦め、政治から離れて。問題が起こった時は責任の所在を行政に見出し糾弾する。もうそんな不毛な関係はやめにしよう、と台湾の新たな試みは言っているように思う。私たちは現時点でのベターな判断をしよう。誰かの声がある。だからその解決のために、みんなの目と耳と手を貸してほしい。余白をたっぷり残しておこう。ベストな判断は、変わる。一度した決断に固執するのはやめよう。未来のために、アップデートできる改善の余地を、ゆとりを持っておこう。走りながら考えよう。だから一緒に走って欲しい。なんだか、今の日本の政治は、観客と審判しかいないように思う。その競技の参加者は、どこへ消えてしまったのか?皆が椅子を立ち、審判の札を外し、フィールドへ下りたら。ウォーミングアップを始め、走り出したら。走れない人を、転んだ人を助けられるようになったら。何かが変わるに違いない。選手不在のルールブック作りも。野次を飛ばすだけの不毛な行為も。そこではきっと、意味を成さない。幼い頃にした鬼ごっこを思い出す。一緒に走りながら、大きな子は、小さな子にハンデをつける。みんなが楽しめるように。これまでの関連レビュー・オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学 [ 早川友久 ]・天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード [ オードリー・タン ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.05.25
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本のタイトル・作者バチカン大使日記 (小学館新書) [ 中村 芳夫 ]本の目次・あらすじ大使の一日私的聖地ガイド昭和天皇の写真教皇から手渡された3冊カトリックとの出会いスイス衛兵への敬意マザー・テレサ列聖式日本のカトリック界への疑問ビジネス界出身の大使として世界の宗教指導者が集うスポーツと信仰日本バチカン国交樹立75周年教皇フランシスコの訪日聖職者による性的虐待中国訪問という「夢」土光敏夫会長の思い出コロナとともに引用足跡を見ず。過去は振り返らず。前を見て進む。それが土光さんの流儀で、スタッフへの教えだった。感想2022年120冊目★★★★バチカンに日本大使がいるなんて知らなかった。タイトルが気になって読んでみた本。著者は、1942年生まれ。経団連に入局し税制を担当。土光敏夫会長、豊田章一郎会長、今井敬会長、奥田碩会長、御手洗富士夫会長から教授を受ける。2010年経団連副会長・事務総長に就任。2014年第2次安倍内閣・内閣官房参与(産業政策)。この本は、2016~2020年に駐バチカン大使を務め、教皇来日を実現した著者の日々の記録。バチカン市国は、イタリア・ローマに位置する面積0.44㎡、人口615人の国。もちろん大使館はバチカンの中にはなく、イタリア、サンタンジェロ城の近くに「在バチカン日本大使館」がある。(日本人はもちろんバチカン市国にいないにも関わらず!)なのにどうしてバチカンがそこまで重要視されるのだろう?と疑問だったけど、この本を読んでわかった。どのような辺境の地にも張り巡らされた情報網。全世界に13億人にいるカトリック信者。その影響力。著者はカトリック教徒だけど、妻との結婚を機に信徒になったので、生家がキリスト教なわけではない。カトリック名は「マタイ」。マタイはキリストの弟子になる前、徴税人として働いていた。租税政策を勉強する著者は、そこから名づけられた。ちなみにキリスト教徒であることは駐バチカン大使の条件ではないそうだ。著者が赴任時にかかげた目標は三つ。・教皇の訪日実現(教皇は初のイエズス会からの選出であり、日本もまたイエズス会により布教された国だ)・日本からの枢機卿の選出・日本バチカン国交樹立75周年事業(太平洋戦争勃発の翌年1942年にアメリカの反対を押し切ってバチカンは国交を樹立)この本を読んでいると、外交とは「接待」であり「人心掌握」なのだな、と思う。著者は庭師も含めたバチカンに仕える人々と交流し、日本の地位を高め存在感を強めるよう動く。そしてついに教皇来日を実現させる。家族の面会もちゃっかり取り付けていたり、この人たぶん清廉潔白なだけじゃない。でもたぶん、そういうものじゃないところで、いろんな物事が動いたりしているんだろうな。人は「利」で動き、しかしまた「情」で動く。信任状捧呈式で、教皇フランスシスコから著者が渡された3冊の本。『回勅 ラウダート・シ―――ともに暮らす家を大切に』『使徒的勧告 福音の喜び』『使徒的勧告 愛の喜び』2015年に発表された「ラウダート・シ」は環境に会する回勅(教皇が司教を通じ、全世界の信徒に出す公文書)だそうで、そんなものが存在していたことを初めて知った。行き過ぎた資本主義。技術への過信。戦争。核。ウクライナ侵攻の際、教皇が「どうかみなさん、戦争に慣れないでください」と言っていた。それを聞いたとき、「慣れることなんてないだろう」と思っていたのだけれど―――人は、慣れる。ニュースは戦争を報道する。毎日毎日。それが当たり前になる。そうして気付けば後戻りが出来ないところまで来てしまう。気づいたときには「あの時」がずいぶん遠ざかっている。戦争に慣れた自分に気づく。天気予報を見るように日常に溶け込んだそれを当然のように受け入れている自分に。そうやって、「しかたがない」と、「やむをえない」と、進んだのだろうか。かつての戦争も。私は幼い頃に救いを求めてひとりキリスト教の門戸を叩き、救われずして人知れず去った者なので、キリスト教に対しては「どうしてあの時、私を助けてくれなかったのですか」と思う気持ちがある。教義もろくすっぽ学ばずして、キリスト教の側からしたら逆恨みも良い所なのだが。宗教は、信仰は、縋るものを与え、人を支える。それゆえの良い面もあれば、悪い面もある。教皇が訪日の際に「青年との集い」で話していた内容はとても良かった。「相手を上から下へ見てよい唯一正当な場合は、相手を起き上がらせるために手を貸すとき」。世界中に、それぞれの宗教がその良き影響を与えてくれるように願う。○この本に出てきて辞書を引いた言葉・謦咳(けいがい)…せきばらい。しわぶき。「謦咳に接する」で目上の方に直接お目にかかること。・捧呈(ほうてい)…手に捧げて奉ること。「信任状の捧呈」・陥穽(かんせい)…人を陥れるはかりごと。「陥穽にはまる」・真福八端(しんぷくはったん)…至福の教え。エス・キリストが「山上の教え」の冒頭で、真の幸福とは何かを語ったもの。カトリックでは「真福八端」という。↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.05.17
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本のタイトル・作者無敵の読解力 (文春新書) [ 池上 彰 ]本の目次・あらすじ【第一章】人新世から見た仕事論■SDGsは現代版「大衆のアヘン」■グレタ・トゥーンベリと三・五%の人間の抗議活動■「脱成長」による「豊かさ」とは■ローマクラブと『清貧の思想』■階級闘争史観による怒り■疎外論と窮乏化論■ディープステートは存在する!?■『資本論』は資本家が読むもの■メリトクラシーが行きつくところ■ブルシット・ジョブの世界観はついて回る【第二章】米中対立 新冷戦か帝国主義戦争か■ミアシャイマーの最悪情勢分析■帝国と帝国主義の違い■中国はレーニンの帝国主義そのもの■マルクスは中国にとって危険思想■レーニンとスターリン■習近平の慢心■誰が国家の主人なのか■アメリカ型の普遍的価値の限界■習近平が取りつかれた夢■オバマはしたたか、バイデンは稚拙■アメリカ人と中国人はどちらが均質か■インテリジェンスのゆがみと暴走■中国とは挨拶はするけど、握手はしない■米中関係から日中関係へ■共通の敵、柔軟な日中関係【第三章】オリンピックはなぜやめられなかったのか■一九六四年の東京五輪との違い ■オリンピックというものに抱く幻想■オリンピックに熱狂するのは一部の国だけ■幻のモスクワオリンピック■オリンピックとテロ■IOCの恐るべき闇■限定合理性で突き進んだ日本軍■東京五輪はそもそもやるべきだったのか■皇軍の伝統は生きている■複数の部分合理性を知ることの重要性■共同主観性という根っこ【第四章】愛読書から見るリーダー論■小泉純一郎の恐るべき浅さ■田中眞紀子の演劇性■枝野幸男の恐るべき空虚■左派陣営の人たち■中曽根康弘と細川護熙は教養陣営?■菅直人と「最小不幸社会」■菅義偉の愛読書『君主論』のインパクト■マキアヴェリズムを駆使する政治家■『君主論』は権力者たちの無意識を言語化したもの■レーニン型とヒトラー型■政治家と官僚の低学歴■マルローとルカーチ【第五章】日本人論の名著を再読する■『菊と刀』とその原型■戦後日本のグランド・デザイン■『菊と刀』のおかしな部分と優れた部分■『菊と刀』の画期的な意味■『桜の枝』はソ連人がはじめて描いた日本人の諸相■『桜の枝』が二種類ある理由■『菊と刀』をパクったことの意味■日本文化への肯定的な評価■大きな役割を果たした大使、ライシャワー■日本の神秘性を剥ぐ■外国人が書いた日本人論の見どころ■対米従属論のどこがいけないのか■今、日本人論を扱う意味引用本当に読む力をつけようと思ったら、やはり書籍なんです。一冊の書籍が成り立つまでには、いくつものふるいにかけられている。要らないものを省き、論旨を明確にしないと、そもそも売り物にならない。さらにいえば、古典にじっくり取り組むこと。これが「読解力」をつける一番の早道なんです。感想2022年101冊目★★★「その人の本棚を見ればその人が分かる」というけれど―――これは電子書籍が隆盛する現代では、アーカイブを見れば、ということになるのか―――歴代首相の愛読書についての本で著者2人は政治家たちをひたすら扱き下ろしていた。そこで挙げられる愛読書が娯楽に限られている。浅い。ものすごい量の本を読み、知識を得たお二人からしたら、そうなのだろうな。しかし(政治家でなければ)読書は娯楽のものでもあるから、一般人はそれでもいいだろう。でも、私の中にも「娯楽本ばかり読んでいて大丈夫?」と思う気持ちがある。それは柔らかいものばかり咀嚼していたら、噛む力がなくなることを心配するという心境。だからけちょんけちょんに言われている政治家たちの読書遍歴の章は、自戒も込めて私は読んだ。(ところで、「端倪(たんげい)」「壟断(ろうだん)」は初めて出会った単語。覚えておこう。)たくさんの本が紹介され、お二人が対談の中で触れられた本がまた章末に紹介される形式。読みたいと思っていた本もあったけど、結局読んだことのない本ばかりだ。私も結局、読みやすい本ばかりを読んでいるんだろうな。古典になんて、よほどのことがないと手が伸びない。考えること。自分の頭で考えること。でもそのためには、自分の中にたくさんの考えを蓄積しておかなければいけない。たくさん蓄えて、かき混ぜて、そしてよく見る。それが考えることなのだと、思う。私は圧倒的に足りていない。何も知らない。無知が過ぎて嫌になる。けれどそれを開き直れるほど厚顔でもないのだ。知らないことは、知ればいい。知っていけばいい。すぐに忘れるなら、また覚えればいい。何度でも、何度でも。死ぬまで、学び続けるしかないのだから。なぜ生まれたのか、生きるのか、死ぬのか。考えて考えて、自分で答えを探し続けるしかないのだから。自分で自分を、諦めないこと。自分が自分を、信じること。その信頼に悖らないこと。人は過ちを繰り返す。現在進行形でそれは進んでいく。学んだはずのことが、忘れられていく。だから人は文字に記す。語り継ぐ。書籍に残す。私はここにいて、ここからどこへも行けなくて、でもどこへでも行ける。目を啓け、心を開け。世界を貪欲に吸収せよ。書籍はそのためにある。↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.04.27
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本のタイトル・作者天才IT大臣オードリー・タンが初めて明かす 問題解決の4ステップと15キーワード [ オードリー・タン ]本の目次・あらすじCHAPTER 1 問題と向き合うKeyword1:解決思考Keyword2:傾聴によるエンパシーKeyword3:多重視点Keyword4:取捨折衷CHAPTER 2 問題を受け入れるKeyword5:持続可能な開発Keyword6:集合知keyword7:不完全主義CHAPTER 3 問題に対処するKeyword8:透明性Keyword9:ソーシャル・イノベーションKeyword10:市民協力Keyword11:読書(熟読・精読)CHAPTER 4 問題を手放すKeyword 12:競争からの脱却Keyword13 :自分と向き合う(孤独の確保 自己整合)Keyword114:至高の喜びKeyword15 :死を見つめる巻末教えてオードリー! 人生相談室に寄せられた10の質問引用もちろん現代社会の中では、自分にラベルが何枚も貼られていると感じることもあるでしょうが、実はその体験によって、サルトルの言う「地獄とは他人のことだ」を自分が自覚できていることに気づけるのです。他人への不当なラベル貼りから脱却する唯一の方法は、構造的な方法によって他人を理解することですが、そうするためには多重視点を取り入れて、絶えず修正を重ねていく必要があります。しかも、別の人が将来こうした状況に置かれる確率を下げなければ、他人にラベルを貼りたがる思考から抜け出したとは言えません。これはたくさんの視点が自分の中に蓄積されてゆくプロセスですが、一本の正確な水平線に向かって走っていれば、いつか地平線と水平線が重なり合う日が来るでしょう。その光景を幻のままで終わらせたくないなら、多重視点を増やし続けながら、繰り返し他者と共創していくことが大切です。感想2022年084冊目★★★以前読んだ『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』がすごく良くて、もっとこの人の考え方を知りたくなった。多分この人、未来から来たんじゃないかな…。と思うほど、すごい。視点が違う。視座が違う。広く、深く、遠い。こんな人が同時代にいるということに驚くし、純粋にその能力を世のため人のために使おうとしていることに畏敬の念を覚える。この人の目には、世界はどんなふうに見えているんだろう。この本は、ジャーナリストとの対談形式。どこからがオードリーなのか、ページの切り替えがちょっと分かりにくかった。(ページに色がついているところがジャーナリスト、そうじゃないところがオードリー)以前に読んだ本と基本的なスタンスは同じで、繰り返し同じことが語られている。オードリーさんって多分、すごく忍耐強いのだろうな。悟り開いてそうだ。ご本人は否定されるだろうけど。「開門造車、你行你来」は、ことわざの「閉門」を「開門」にもじってオードリー氏がもじって使い始めた言葉。「閉じこもって大八車を作って門を出ると、もう同じものがあった」ことから、「門を開けて作る」ことを提唱している。氏は「シェア」を徹底する。知識のシェア。誰でもそれにアクセスし、発言できること。変えていけること。彼女はどのように今のウクライナ情勢を見ているのだろうと、ふと思った。…と思ったら、Twitterやってらっしゃった。リストに追加。もちろん英語だよね…。こういう時、英語を勉強しなくてはと思う。オードリー(と、呼ばせて。ここまで「氏」と「彼女」と呼んできて、どちらもしっくりこない。オードリーはオードリーだ)は、本を読むときに「判断を下さずひたすら傾聴する」のだそうだ。これ、すごく難しい。本を読んでいる時って、ずーっと自我が喋っているから。過去の記憶も引っ張り出して、ひたすら己の独演会。だから、私は読書は本とのおしゃべりだと思っている。そんなわけで、自分の意識を黙らせるの難しい…。でもそれって、常に自分の内側で「情報」→「判断」→「反応」をしているから。著者の声を聞かずに、自分に喋らせている。これを、傾聴の姿勢で黙って聞く。「情報」のまま受け入れる。うううう、至難の業。オードリーはまた、知識を蓄えて必要に応じて使うためには、「よそのお宅にお邪魔して話を聞かせてもらう」という気持ちが大事だと言う。そうすれば問題解決はできなくても、少なくとも問題を見つけることは出来る。そして世の中にある問題は、すでにほとんど解決できていて、それが知られていないだけなのだと。だからこその、「開門造車、你行你来」。「自分の既存モデルを自分で打破する種をまく」というのも面白いなあと思った。オードリーはそのために移住を薦めている。(台湾では生活習慣が違う民族が地域ごとに暮らしているので、国内で移住するだけでも普段の環境を一変できるそうだ。)経済価値ではなく、社会貢献で自分を測る。…耳が痛い。何が出来るんだろうな?と思う。自分のことでいっぱいいっぱいな日々の暮らしの中で。オードリーは1日15分でも、社会貢献をすることで(それはたとえばウィキペディアの執筆に参加するということであっても)気分が良くなり、同じような他者に気付くという。私ができること。なんだろう。オードリーが1日8時間寝るというのは驚き。なんとなく、こういう頭の回転が抜群に速い人は睡眠時間が短いイメージだった。人間関係に疲れていたらたっぷり寝ること、と言っていて「めっちゃふつうのこと言う!でもこのひとが言うなら真実!ねる!」と思った笑。単純。私は睡眠時間はパソコンでいうデフラグが行われている気がする。だから睡眠不足だとデータがあちこちに散らばっていて非効率。寝よう。うん。私は最低6時間寝るとなんとか生きていけるので、どうしてもやりたいことを優先して6時間睡眠になるのだけど、科学的には7時間がよいらしいし、実際7時間寝ると体調が平常時の1.2倍くらい良いので、もう少し寝たほうがいいんだろうな…。オードリー・タン。この本のタイトルにあるように、「天才IT大臣」という華々しい冠を彼女は笑う。IT180の180は、私の身長のことですよ、と。(なんとなくもっと小柄なイメージだったので驚いた。)この人に見えているものを、もっと教えてほしいな。他の本も読みたい。これまでの関連レビュー・オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学 [ 早川友久 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.04.06
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本のタイトル・作者世界のニュースを日本人は何も知らない3 - 大変革期にやりたい放題の海外事情 - (ワニブックスPLUS新書) [ 谷本 真由美 ]本の目次・あらすじ第1章 世界の「ずさんな戦略」を日本人は何も知らない第2章 世界の「オリンピック熱」を日本人は何も知らない第3章 世界の「日本のイメージ」を日本人は何も知らない第4章 世界の「日本の人気」を日本人は何も知らない第5章 世界の「同調圧力」を日本人は何も知らない第6章 世界の「ヤバすぎる国民性」を日本人は何も知らない第7章 世界の「イギリス王室と政治家」を日本人は何も知らない第8章 世界の「風俗とドラッグ」を日本人は何も知らない第9章 世界の「エンタメ事情」を日本人は何も知らない第10章 世界の「重大なニュース」を知る方法引用幅広い情報を得るのにたいへん重要なのが「英語で情報を探す」ことです。なぜかというと、日本語と比べて英語を使っているユーザーは世界中に数多く存在していて、情報を発信する場合でも英語のほうが明らかに多いからです。(中略)「あたりをつける」ことは、どこに自分が求める情報があるかを経験から理解することなので、英語で相当量の情報を読んでいなければ身につかないのです。豊かな情報を得たいと思う方は、今からでも遅くないので英語を一生懸命勉強してください。感想2022年072冊目★★★日本人が思っている「世界」(というか欧米?ヨーロッパ?)と現実とのギャップを紹介した本。池上彰氏のニュース本とは違い、時事ネタは薄め。内容の感じは『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のブレイディみかこさんがお好きなら良いかと。私は「これヘタリアで読んだやつー!」ってなりながら読みました。笑・オリンピック競技は元々上流階級のものなので、庶民がオリンピックを楽しむ国は珍しい・海外ではマキタ、RYOBIが人気・欧米には個人所有の飛行機をシェアする「Wingly」というアプリがある・日本のように妻が家計を管理するのはヨーロッパ全体で珍しいこと・当初海賊版だったアニメサイト「Crunchyroll」が合法的提供で全世界で人気ここらへんが面白かった。マキタとRYOBIの株、買おうかな。妻の家計管理については、・女性差別はどう作られてきたか [ 中村敏子 ]を読んだときに書いてあったな。西洋は女性は男性の一部となるから財産権がなくなるけれど、日本では長く「マネジャー」として他家からのスカウトでやってきた。だから財布のひもを握るのは女性、という話。「おわりに」で英語の必要性を述べていらして、よし頑張ろうと思った。翻訳ソフトの性能が上がるにつれ、外国語を学ぶことが過小評価されていると感じる。それは「ここにないもの」を「ここ」で理解しようとすること、というか。本当は違うものを、言語のフィルターを通して、さも理解したかのように思ってしまう。言葉が違うことは、歴史も文化も宗教も、何もかもが違うことをベースに考えないと…。私は豊かな情報を得たいから、頑張ろう。これまでの関連レビュー・日本人が知らない世界標準の働き方 [ 谷本真由美 ]・日本の女性がグローバル社会で戦う方法 [ 谷本真由美 ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.03.24
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本のタイトル・作者コロナ自粛の大罪 (宝島社新書) [ 鳥集 徹 ]本の目次・あらすじ第1章「病床数世界一」でなぜ医療崩壊が起きるのか 森田洋之(医師/南日本ヘルスリサーチラボ代表)第2章「コロナ死」だけを特別視するのはもうやめろ萬田緑平(緩和ケア萬田診療所院長)第3章5類感染症に指定すればコロナ騒動は終わる長尾和宏(長尾クリニック院長)第4章長引く自粛生活が高齢者の健康寿命を縮める和田秀樹(精神科医)第5章“未知のワクチン”を打つほどのウイルスなのか本間真二郎(小児科医/七合診療所所長)第6章ほとんどの日本人の身体は「風邪対応」で処理高橋 泰(国際医療福祉大学大学院教授)第7章国民は頑張っている。厚労省と医師会はもっと努力を木村盛世(医師/作家/元厚生労働省医系技官)感想2022年025冊目★★★★著者は羽鳥慎一さんの『モーニングショー』にコメンテーターとして出演している玉川さんのことが嫌いなんだな…ということがよく伝わって来た。分かる…。ものごとがひとつの面しか見せない時―――見せないようになっている時。私は、その反対側にあるものを見たいと思う。一方の声が大きくなり、もう片方の声が聴こえなくなる時。きっと何かを隠し、忘れようとしている。見たいものだけを見て、都合の悪いことから目を逸らす。2021年3月発行。そこから1年近くたって、事態はまた変わっている。でも今言われていることが、この時に言われていることだったりして(コロナを2類から5類に)、じゃあ何故この時にはその意見を聞かなかったんだろう?コロナに何人かかりました。何人死にました。その情報だけじゃだめだ、と医師は言う。癌で死んでいる人がいる。心筋梗塞で死んでいる人がいる。その数を数え上げずに、コロナだけを数えるから、恐怖を煽られる。テレビはそれを増幅する。裏にある思惑、空気を読む政治。何を信じればよいのか分からなくなる。「上医国を医す(いやす)」という言葉、はじめて知った。上医は国を医し、中医は人を医し、下医は病を医す。すぐれた医師は国の疾病を救う、のだそうだ。著者は、コロナ分科会や感染症専門医、日本医師会は「上医」であるべきなのに出来ていない、という。確かに。ステイホームが老人の認知能力や身体能力にどう影響するのか?ワクチンは子どもたちに将来的にどんな影響を及ぼすのか?コロナの死亡者を防ぐために、自殺者がどれほど増加するのか?俯瞰的に、総合的に見なくてはいけない。すべてのものごとは繋がっている。セロトニンはたんぱく質を材料に作られてるんですね。知らなかった。私、人間ドックで「栄養不足」と言われてから、プロテインとるようにしてます。そしたらちょっとメンタル安定している気がするんです。気がするだけかもだけど。そういう意味でも繋がってるのね。もしも徳川家康が総理大臣になったら [ 眞邊明人 ]で、「政(まつりごと)とは、良いことと悪いこととの間を取り持つこと」と家康が言っていた。そこにあるものを見なくては、ちゃんと見なくては、良いことと悪いことを見分けられないだろう。空気、だ。この国を動かしているもの。雰囲気、と言ってもいい。首謀者はいない。主犯者はいない。漠然とした、「空気」という圧力。誰も責任を持たない。誰も責任を取らない。民衆が望むもの、民衆に望ませるもの、それだけに流されて、どこまでも。時折怖くなる。その流れの中にいること。抗う術を持たないこと。右を見ても左を見ても、みな同じところへ向かっていくように感じる時がある。立ち止まることもなく、進んでいく。盲目的に。どこへ向かうかも知らずに破滅の道を行く。ある意味しあわせな、羊たち。戦争はきっと、こんなふうだったのだろう、と思う。気づけばあと戻りが出来ないところまで来ていて。異を唱えることも叶わず、空気に包まれて動けない。そして大切なものを差し出して、多大な犠牲を払う。考えなかったからだ。分かりやすいものを信じたからだ。抗わなかったからだ。考えろ、考えろ。自分の頭で考えることを止めるな。差し出される安易な解答がどれほど甘美だとしても。その誘惑に負けないように。これまでの関連レビュー・年収200万円でもたのしく暮らせます コロナ恐慌を生き抜く経済学 [ 森永卓郎 ]・パンデミックブルー(感染爆発不安)から心と体と暮らしを守る50の方法 [ 古賀良彦 ]・コロナ後の世界を生きる 私たちの提言 [ 村上陽一郎 ]・コロナ後の世界 いま、この地点から考える [ 筑摩書房編集部 ]・なぜ、生きているのかと考えてみるのが今かもしれない [ 辻仁成 ]・コロナ禍日記 [ 辻本力 ]・武漢支援日記 コロナウイルスと闘った68日の記録 [ 査瓊芳 ]・コロナの時代の僕ら [ パオロ・ジョルダーノ ]・いっしょなら [ ルーク・アダム・ホーカー ]↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2022.02.03
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本のタイトル・作者室町は今日もハードボイルドー日本中世のアナーキーな世界ー【電子書籍】[ 清水克行 ]本の目次・あらすじはじめに第1部 僧侶も農民も! 荒ぶる中世人第1話 悪口のはなし おまえのカアちゃん、でべそ第2話 山賊・海賊のはなし びわ湖無差別殺傷事件第3話 職業意識のはなし 無敵の桶屋第4話 ムラのはなし “隠れ里”の一五〇年戦争第2部 細かくて大らかな中世人第5話 枡のはなし みんなちがって、みんないい第6話 年号のはなし 改元フィーバー、列島を揺るがす第7話 人身売買のはなし 餓身を助からんがため……第8話 国家のはなし ディストピアか、ユートピアか?第3部 中世人、その愛のかたち第9話 婚姻のはなし ゲス不倫の対処法第10話 人質のはなし 命より大切なもの第11話 切腹のはなし アイツだけは許さない第12話 落書きのはなし 信仰のエクスタシー第4部 過激に信じる中世人 第13話 呪いのはなし リアル デスノート第14話 所有のはなし アンダー・ザ・レインボー第15話 荘園のはなし ケガレ・クラスター第16話 合理主義のはなし 神々のたそがれおわりに参考文献引用「歴史から学ぶ」とは、いいふるされた言葉ではあるが、過去から何を学ぼうと思っても、しょせん過去は過去。時代背景も倫理観も異なる。私たちが生きる現代とは別の世界なのだ。(中略)しかし、過去をそのまま現代に当てはめることの危うさに、私たちはそろそろ気づいたほうが良いのかも知れない。人々の心性は時代を超えて変わらないものがある一方で、時代によって大きく異なるものもある。このことは、歴史から何かを学びとろうとするとき、つねに頭の片隅に置いておいてもらいたいことである。感想2021年268冊目★★★★トリビア的な内容が多く、それぞれに「へえ」と思って興味深く読んだ。室町って大変だったんだな。自助の時代。救われない。けれどサバイバルで力強い時代でもあった。私は大学の専攻が日本語学だったので、『後奈良院御撰何曾』の「母とは二度会うけれど、父とは一度も合わないもの、な~んだ?」として冒頭で紹介されていた戦国なぞなぞ、懐かしく思い出した。母は昔パパだった、でしたっけ。ファファと発音されていた、という話。罵詈雑言の数のカウントに、著者がイエズス会の宣教師によって出版された『日葡辞書』を調べていたけれど、これも日本語学では欠かせない資料。懐かしい。こういうのめちゃくちゃ楽しいんだよね…古い文献あたるの…。年の途中で改元があった時の「元二年」といったカウントの仕方、面白い。その年いっぱいを非公式に前の年号にし、翌年を「元二年」としていたそうだ。年内は「平成31年」を使って、その翌年が「令和元2年」という感じか。中国(明・清)では「踰年(ゆねん)改元」といって皇帝が死んでも翌年までは前の元号を使い続けたそうだ。いろんなやり方があるのだな。ころころ年号が変わったけれど、民間では「六十干支」(十干×十二支)を使って「甲子(こうし・きのえね)」などと暦を数え、60年で一巡していたそうだ。へー!今なら西暦がそれに代わっているもんねえ。「世界政府」に統合されてしまったら世界中に逃げ場がない、という著者の指摘は興味深かった。『隷属なき道 AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働 [ ルトガー・ブレグマン ] 』を読んだときに、そこに国境をなくし、国境を開くことで浸透圧のように世界は均質化されていくのだ、というようなことが書いてあった。私はそれに賛成だな、と思ったのだけれど、すべての国家が「ひとつ」のようなまとまりになってしまえば、それはそれで逃げ場がないのだな…。虹が立ったらそこで市を開かなければいけない、という謎の習慣、面白い。中世ではモノに対する思い入れが今の比ではなく、モノ=自分の一部(魂)という認識が強く、それを売買するには神仏によって日常とは異なる「時空」として切り離されている必要があった。虹=天界(異界)への架け橋だから、虹が立ったところは市場を開いてOK!という認識。へえええええ!そして、引用部分の著者の言葉に首肯する。ともすれば歴史(過去)は美化されがちで、そこに浪漫を見、物語性を持たせてしまうのだけれど、時代が変われば考え方もガラリと変わっているわけで、そのことをよく理解しておかなければいけないよな…。昔からずっとこうなのだ、脈々と受け継がれてきた伝統だ、これが正統だと、誰かが声高に言う時に。慎重にならなければならない。疑り深くならなければいけない。それは何かを覆い隠し、目隠しする。あたかも正解が存在したかのように、示される時。疑問符をつけ加えなくては。↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2021.11.14
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本のタイトル・作者タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに 私の戦後ソビエト時代の真実 [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]本の目次・あらすじ日本のみなさまへ第一話 祖父の軽四輪馬車と祖母の山羊たち第二話 党の兵士第三話 タシケントの田園暮らし第四話 出戻りのステルリタマク、失った家訳者あとがき感想2021年236冊目★★表紙とタイトルから想像していた内容と違った。なんか…延々とおじいさんの話だった…。自費出版の手記&自動翻訳に手を入れました、みたいな…。タタール人って何だっけ?とか(ウィキペディアで調べた)作中の地図を見て「フィンランドってロシアと地続きなんだ?!」となったり。無知だなあ。私にロシアの歴史についての知識がないので、時代背景もよく分からず。そもそも社会主義下の体制と生活がいまいちピンとこなかった。(ここらへんもまた、これから知りたい事だ。)ただ、すごく大変な時代を生きてきたのだな、ということが分かった。著者は1945年生まれ。赤ん坊の頃に祖父母に引き取られ、育てられる。祖父母が体験した2つの革命、3つの戦争、1920年代の飢餓と欠乏生活。子供時代の話は、『大きな森の小さな家』を読んでいるようだった。たまに驚くのは、これらがほんの少し前の話だ、ということだ。わずか数十年で世界は大きく変わった。そして今もまた、変化の中にいるのだろう。その流れの中にいるときは、今が「なに」なのか、分からないまま。↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2021.10.12
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本のタイトル・作者新 地政学 世界史と時事ニュースが同時にわかる [ 祝田秀全 ]本の目次・あらすじ第1章 地政学を知る基礎知識第2章 地政学から学ぶ近現代史第3章 日本を取り巻く状況第4章 中国の覇権と東アジア第5章 「シーパワー大国」アメリカ第6章 対立続くヨーロッパとロシア第7章 思惑が絡む中東情勢第8章 エリア別に見る地政学感想2021年読書:228冊目おすすめ度:★★★★面白かったー!私は高校時代、ほとんどの授業を本を読んで過ごしていて、まともに授業を聞いていた記憶がほぼない。というわけで、歴史関係の知識もお粗末。最近、人種差別の本や、シリア内戦の本を読んでいて、自分の無知が恐ろしくなった。というわけで、一冊網羅的に学べる本を読んでみようと思って読んでみた。この本はフルカラーで、図解も豊富。大人向けの図録という感じ。高校時代に、テスト勉強でキーワードだけは聞いたことがある。ただそれが、点として存在しているだけで、流れの中でどう位置するのか、関係しているのかがまったく分からなかった。(私は位置関係や空間的にものごとを把握するのが苦手だ)この本は、地政学(地理的要因から歴史や政治を読み解く)なので、すごく分かりやすかった。これまでの「?」がぱーっと晴れた感じ。すぐ忘れるんだけど。忘れたらまた勉強すればいい。大人になって勉強するのって、楽しいんだな。自分が知らないことが分かっていて、知りたいことが分かっていて、それが分かるってめちゃくちゃ嬉しい。学生時代にこの境地に達していたならば…な…?(遠い目)読了メモ。社会科が苦手過ぎて、学生時代に「これを同時代に同時刻で、『一方その頃ヨーロッパでは…』みたいに見せてくれたらなあ」と思っていた。時間軸がばーっと進んでいく、育成ゲームみたいなイメージ。スローにしてそれぞれの事件なんかも見れて、興味のある国を追いかけてもいいし、世界全体の動きを見てもいい。そういうのがあれば、理解しやすいのになあって。これ、今ならアプリで出来そう。いいな、今の子は…。ああ、せめて学生時代にヘタリア(国を擬人化した漫画)があったならば、私の社会科の成績はもう少しまともなものであっただろうに。今回も、脳内でヘタリアのキャラに変換しながら読んだらすごく理解しやすかった。テーマ別だから理解が深まる日本史 (朝日文庫 だからわかるシリーズ) [ 山岸良二 ]エリア別だから流れがつながる世界史 (朝日文庫 だからわかるシリーズ) [ 祝田秀全 ]シリーズのこれも読みたいな。↓ 「見たよ」のクリック頂けると嬉しいです ↓
2021.10.05
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