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2022.05.27
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テーマ: 読書(8289)

本のタイトル・作者



戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫) [ スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ ]

本の目次・あらすじ


第二次世界大戦中、ドイツとの戦争に従事した百万人のソ連女性。
戦後、口を噤んだ彼女たちの声を、著者は聞き取る。
広大な国土の隅々から集められた、五百人を超える戦争の物語。
そこに、英雄はいない。

引用



その戦争の物語を書きたい。女たちのものがたりを。


感想


2022年冊130目
★★★★★

著者は、1948年ウクライナ生まれ。国立ベラルーシ大学卒業後、ジャーナリストの道を歩む。2015年ノーベル文学賞受賞。

よくフェミニストの本で引用されるので読んでみたかったのだけど、今回ロシアのウクライナ侵攻と、2022年本屋大賞 『同志少女よ、敵を撃て』がここらへんを題材にしているみたいだったので、この機会に読んでみた。

凄まじかった。本当に言葉がない。

あちらこちらから聞こえてくる、ちいさな声の集合体。
さんざめくような、歌うような、呻くような。
木漏れ日がちらちらと陰を落とすように、波が浜に寄せては返すように。

私は漠然と、従軍というのは徴兵制度を指しているのだと思っていた。
社会主義の国では、男女の別なく兵を募っていたのだと。
違う。
彼らは、共産主義の理想の旗を掲げるため、ファシズムを打ち破るため、自ら志願した。
長いおさげ髪で、大学生で、ハイヒールを履いていて、妻で、娘で。
どこにでもいる、勇敢でもない、ふつうの女たち。
その人たちが、自分たちを売り込むため、最前線で銃を持って戦うため、直訴し、汽車に隠れて乗り込み、戦いへ向かった。
男ばかりの戦場は、はじめ狼狽えた。

けれど彼女たちの意志は固い。
戦うのだ。思想を、国を、家族を守るために。

髪は白くなり、血に塗れる。
死ぬ。毎分毎秒、ひとが死ぬ。
彼女たちは戦う。凍てつきながら。


戦勝記念日をプーチン大統領が利用した、と憤っているロシア人のニュースを見て、私は不思議だった。
でもこれで分かった。
彼らにとって、戦勝記念日がどれほどのものなのか。
何に値するのか。

ファシズムと戦い、勝利した。
村ごと生きながら焼かれながら、娘のスカートの下に爆弾を仕込みながら、勝利した。
勝利!
彼らは思う。
武器や兵器は、未来永劫すべて廃棄されるだろう。
わたしたちの後に生きる人は、なんて幸福なのだろう―――。

けれどどうだろう?
今のこの状況は?
彼らの犠牲は何に報いたのか?

勝利した彼らは、ドイツに入って驚愕する。
レースのカーテン、魔法瓶のコーヒー、自動洗濯機。
土豪で凍えながら暮らしていた自分たちとは、なんて違うのか。
憎いドイツ人のファシストたちの顔を見てやろうと思っていたのに、そこにいたのは。

ふつうの、人間だったのだ。

戦争のなかにある、残虐で目を覆いたくなる行為の数々。
そしてそれと同じように存在する、慈悲深い愛の行為。
人間の本質はどちらなのだろう?

著者は、「「姿が見えなければ、痕跡は残らない」なんて悪魔に思わせないために」話してくれと彼女たちに頼む。
私たちはそこから何を学んだのか?

ふと、怖くなる。
私が今生きている日常は、戦争と戦争の間の小休止に過ぎないのではないか。
戦争こそが人の世の常態で―――ほんのこの数十年だけが例外だったのではないか。

これまでの関連レビュー


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熱源 [ 川越宗一 ]
タタール人少女の手記 もう戻るまいと決めた旅なのに [ ザイトゥナ・アレットクーロヴァ ]
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最終更新日  2022.12.04 00:10:35
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