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2022.10.03
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本のタイトル・作者



ロシアとシリア ウクライナ侵攻の論理 [ 青山 弘之 ]

本の目次・あらすじ


第1章 干渉国から「侵略未遂国」へ
1 近代との遭遇ーー「東方問題」と宗派主義
2 ロシアの離脱
3 シリアとは?
4 フランスの委任統治
5 ヨーロッパから移植された混乱の火種

第2章 友好国、同盟国から主権の「守護者」へ

2 勧善懲悪と予定調和で理解された「アラブの春」
3 シリア内戦
4 グレード・ダウンされる介入の根拠
5 主権に基づくロシア、イランの介入

第3章 知が裏打ちする怒り、怒りを支える無知
1 主戦場となったウクライナ
2 集団ヒステリーに苛まれる欧米諸国
3 知がもたらす感情移入と差別
4 デフォルメされる現実
5 黙殺される違法行為

第4章 弱者による代理戦争

2 行き過ぎた人道主義
3 「国際義勇軍」派遣の動き
4 ロシアの傭兵
5 シリア政府支配地の機運に乗じるロシア

おわりに


略年表
参考文献一覧
索引

引用


良い戦争などない。それゆえ、ウクライナ侵攻を食い止めたいという思いから声を上げ、行動し、報じることは人として当然のことだ。だが、こうした思いが、自分が信じる正義に反し、政治的立場を異にする敵への怒りや憎しみ、あるいは没交渉をもたらすのであれば、それは戦争の一方の当事者となり、戦闘を煽ることと同じである。欧米諸国や日本のメディア、そして政府、一部の市民は、戦争の悲惨さを伝え、それを憂いていた。だが、侵略に対する抵抗を美化することで、期せずして戦闘行為を正当化し、煽ってしまっていた。
それだけではない。自らの正義に従おうとしない他者を蔑み、その声をかき消そうとする動きさえ感じられた。


感想


2022年255冊目
★★★

ロシア、ウクライナ関係の本をいろいろ読んでみている。
でも、読んでいてちょっと思ったのだ。
同じことをみんな言う。
これ、あまりにも画一的で一面的だよな。
そういうときは、何かが取りこぼされている。
入って来る情報は一方通行だ。
その逆には、何があるんだろう?

これは、ちょっと視点を変えて書かれた本。
著者は1968年生まれ、1995~1997年と1999~2001年シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所(IFPO、旧IFEAD)に所属。1997~2008年JETROアジア経済研究所。
というわけで専門は現代東アラブ地域。
その目から見た「ロシアのウクライナ侵攻」。

戦争がはじまり、それはもはや「世界対ロシア」になっている。
その「世界」側が主張する「民主主義への挑戦」。
声高な喧伝。それへの違和感。
ニュースでは「世界」から軍事支援を受け配備された最新の戦車が映し出される。
ウクライナ側がそれを発射する。
その兵器がいかに精度が高いか、ロシア側にダメージを与えているか、ナレーションが言う。
私は思う。
その大砲を撃った人のことを。
そしてその先で大砲があたった人のことを。
なぜ私たちは、それを片側からしか見ないのかと。

著者はいう。
シリア内戦で勧善懲悪と予定調和の物語が描かれたのと、ウクライナで起こっていることは同じだと。

事実はより複雑で流動的だったにもかかわらず、真実の名のもとで過剰一般化されたステレオタイプのなかに押し込められていった。
これとまったく同じことがウクライナ侵攻でも起きた。プーチン大統領が絶対悪、ウクライナ、国際社会(と欧米諸国や日本が呼ぶもの)、そしてプーチン大統領を批判する市民が正義と位置づけられ、悪に立ち向かう正義の物語が作り出されることで、徹底抗戦や軍事支援が正当化された。


無辜の民が攻撃される。
ミサイルが飛んできて、日常が破壊される。
それを「わが事」として捉え、攻撃をしてきた者に恐れと怒りをぶつける。
感情的に理解できる。私もそうだ。
これは遠い国の戦争ではなく、私たちの日常と地続きにあると感じる。
その危機感。

けれど著者はヨーロッパでの報道について触れる。
ウクライナがこれほど支援されるのは、彼らが金髪に青い目で白い肌をしており、西洋的な現代生活を送っていたからじゃないのか?
これが別の場所で起こっていたなら―――違う宗教で、違う肌の色で、違う生活様式だったら、彼らはこうも支援の手を伸べただろうか?
「ヨーロッパの優越主義とレイシズム」は何も変わりはしないのだ、と著者は言う。

これにはハッとした。
私がウクライナの空爆映像に激しいショックを受けたのは、彼らの生活様式が私たちと同じだったから、そこに住んでいるのが、まさに攻撃を受けているのが自分の家のように思われたからだ。

ロシアは絶対悪であり、プーチンは常軌を逸した大虐殺の首謀者である。
画一的な報道。それもまたプロバガンダではないのか?
そこから逸脱した言葉は黙殺される。ロシアの報道をプロバガンダとしながら。

市民の一部動員が決まり、ロシアから大勢の人が逃げ出す。
「誰かお願い、プーチンを止めて」
国外へ逃れる際、口に出すことを恐れながらもメディアに訴える女性。

ウクライナの映画監督が負の歴史を描いた「バビ・ヤール」。
(NHKニュースウォッチ9「 「負の歴史」と向き合う ウクライナ映画監督 」)
ナチスに協力し虐殺に加担したウクライナ人がいたことは、この映画がロシアのプロバガンダに使われるのではないかという批判を招いた。

終戦記念日に、原爆の日に。
その死を悼み、二度とその愚を繰り返さないことを誓う。
一方で私は思う。
他国でその日がどう扱われるか。
掬い上げられた語り継ぐことを選ばれた「共通の記憶」ではないもの。

今起きていることを、私は許容できない。
どんな主張も言説も、今ウクライナで起きていることを納得させられない。

けれど大きな文字で描かれた「正義」しか見えなくなる時、私たちはまた過去と同じことを繰り返しているのではないのか?

私たちは正しい!
過ちは正されなければならない。悪は殲滅されなければならない。
その声が大きくなればなるほど、私は恐ろしくなる。
拳を振り上げろ、さあ、声を出していないのは誰だ?

その正しさはすべてを薙ぎ倒し踏みつける。
一面黄金の麦畑を行く戦車のように。

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最終更新日  2022.12.03 23:34:07
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