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2023.01.22
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テーマ: 読書(8447)

本のタイトル・作者



京都に咲く一輪の薔薇 [ ミュリエル・バルベリ ]

本の目次・あらすじ


ローズ。
薔薇の名前を持つフランス人の彼女は、見たこともない父の遺言を聞くために、はじめて日本の地を踏んだ。
それからは、京都の寺院をあちこち連れ回される日々。
父のアシスタントをしていたという、ベルギー人のポール。
彼を通じて亡き父を知るうちに、頑なな彼女の氷は溶けるのか―――。

引用



ベスはローズの手を取り、愛情深く握りしめた。
「そうじゃないと、地獄に行く前から地獄を生きることになる」


感想


2023年009冊目
★★

著者の『優雅なハリネズミ』が結構好きな雰囲気で、期待して読んだら「なんじゃこれ」となった。
主人公ローズにもまったく共感できず(なんやねんこいつ?)。

ローズに惹かれた理由がよくわからない…。
ほんとはひと目見て運命だと思ったみたいなこと言ってたけど、それ安易な理由付けすぎないか。

喪失と回復の物語、なんだろうか。
ずっとしっとり雨が降っているようなイメージ。

舞台は京都。
たぶんこれは、日本人で、京都に行ったことがあるから思うのかもしれない。
架空の場所キョート。夢の国ジパング。
幻想的な雰囲気で、常に霧に見せかけたスモークが焚かれているような。

前に、フランス語の先生が言っていた。
パリは、街がミュージアムだから。京都も同じね。
昔の街は、「歩ける距離」にある。


この本はそれだと思った。
キラキラ落ちてくる雪を見て、それはすべてを覆い尽くす。
醜いものを。

きれいなところだけを、上澄みだけを見たら、きっと日本はこんなところになる。

作中登場するイギリス人女性ベスが言う。

ローズはそれを「不幸を無抵抗に受け入れること」と言う。
諸行無常、万物流転。
この災害の国にあって、それはある意味しかたのないこと―――ということさえ、不幸を無抵抗に受け入れていることになるんだろうか。

この本は、各章の冒頭に短い寓話?があり、そのあとにその話の内容を章題にとって話が展開していく。
羊は安らかに草を食み [ 宇佐美まこと ]
みたいな。
こういう構成大好きなので、そこは良かった。あと寓話が美しかった。
史実っぽく見えるけど、訳者あとがきによると、作者のフィクションらしい。

また、主人公ローズと日本人(片言)の会話はすべて英語で、そこにカッコ書きで和訳が付されている書かれ方。
ここで面白いなと思ったのは、
I am at the tea house,can you come?
と言うだけで、この「the」があるから「この間の茶屋」と分かって、店の名前を言わなくてもわかるんだなという冠詞のニュアンスのことだとか、
We have lilac in Japan. Rairakku.
という「RとLの区別」のことだとか。

本の中に引用されている小林一茶の「世の中は地獄の上の花見かな」は、ぞっとするけれど本質をよく捉えているとも言える。
それでもその花を待ち―――待つうちに己のうちに花を咲かす。
同じく引用されている大島蓼太の「世の中は三日見ぬ間に桜かな」。

すべては移り変わり、同じ状態のままではいられない。
深い悲しみが、喪失の慟哭が、日常の風化に晒されていくように。
新たな人に出会い、愛することもあるだろう。
氷が溶けて、奔流となり迸ることもあるだろう。
けれどそれもまた、一時のこと。

春を悼み、夏を飲み、秋を追い、冬に噤む。
木々は芽吹いては葉を落とし、花は咲いては枯れてゆく。

生まれたものは皆、遅かれ早かれ、いつか死ぬ。

NHKラジオの「飛ぶ教室」で、植物の話をしていたときに、高橋源一郎さんが「僕達は死んでいるほうが長いんだ」と言っていた。
生きている期間よりも、生まれる前と死んだあとのほうが長い。
つまり、「死んでいること」のほうが普通なんだ、と。

世の中は地獄の上の花見かな。

生きているその間が、ほんの短い花の盛りであるならば。
目を開けて、よく見なくては。その一片一片の舞い落ちるところまで。
秒速5センチメートルの儚さを目に焼き付けて。
いつか花がすべてなくなってしまうときに、己のうちにあるように。

地獄の上に花を散らそう。



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最終更新日  2023.01.22 00:00:14
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