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2023.04.13
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テーマ: 読書(8559)

書名



人新世の「資本論」 (集英社新書) [ 斎藤 幸平 ]

作者


斎藤幸平(サイトウコウヘイ)
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx’s Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞

目次・あらすじ


はじめにーーSDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章:気候変動と帝国的生活様式
気候変動が文明を危機に/フロンティアの消滅ー市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義
第2章:気候ケインズ主義の限界
二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない

なぜ資本主義では脱成長は不可能なのか
第4章:「人新世」のマルクス
地球を〈コモン〉として管理する/〈コモン〉を再建するためのコミュニズム/新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
生産力至上主義が生んだ幻想/資本の「包摂」によって無力になる私たち
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
貧しさの原因は資本主義
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
コロナ禍も「人新世」の産物/脱成長コミュニズムとは何か
第8章 気候正義という「梃子」
グローバル・サウスから世界へ


引用




一%の超富裕層と九九%の私たちとの富の偏在を是正し、人工的希少性をなくしていくことで、社会は、これまでよりもずっと少ない労働時間で成立する。しかも、大多数の人々の生活の質は上昇する。さらに、無駄な労働が減ることで、最終的には、地球環境を救うのだ。


感想


2023年076冊目
★★★★

本のタイトルを「じんしんせい」と読むのだと思っていたら、「ひとしんせい」だった。
人類の経済活動が地球に与えた影響が大きい地質学的な年代。

何かがおかしい、と思っている。
二酸化炭素。温暖化。異常気象。気候変動。
(日本を含めた二酸化炭素排出量上位5カ国で、世界の60%近くの二酸化炭素を排出しているのだそうだ(日本は5番目)。)


やたらと多い、覚えきれないほどの項目に煙に巻かれる。
テレビは明るい口調でそれを取り上げる。
何ら解決になっていないファッショナブルな特集。
世を憂え、環境に配慮しているのだという証拠づくりのような。
ブルジョワジーのエコロジー。

嘘だ、と分かっているのに、その嘘をみんなで信じている。
未来へのアリバイを作るみたいに。
現在を正当化するように。
私たちは、同時代の共犯者。

この本は、嘘を暴く。そこはかとなく感じている違和感の理由を明かす。
持続可能な成長を鼻で笑い、不可能を不可能と言い放つ。
マルクスが宗教を、「大衆のアヘン」だと批判したように。
「SDGsは、現代版大衆のアヘン」だと。

エコバッグ?それをいったい何枚買う気だ?

根本にあるのは、資本主義の限界だ。
資本主義は、周辺を奪い尽くす帝国主義的な消費生活を維持することでしか保たない。
けれど、もはや先進国が「奪う」ことが、地球から「奪う」こと事態が、不可能になってきている。
著者は言う。
本当に必要なのは、経済のスケールダウンとスローダウンなのだと。

本当はみんな、気づいているんじゃないのか。
こんな暮らしは、もう無理なのだと。
子々孫々、この暮らしをしていくことは出来ないと。
世界中の人々がみな、先進国のような暮らしをすることは出来ないと。
だってそこには、多大な犠牲が払われているから。
奪って奪って、ようやく成り立つ一握りの使い捨ての「豊かな暮らし」。

著者の挙げる変化の目安は、「1970年代後半のレベルまで生活の規模を落とす」ことだ。
そんなことはできない?
一度覚えた便利な生活を手放すことは耐えられない?
世界が滅んでしまっても、か?

私は生まれたときから、資本主義の社会だった。
正確には、私が幼い頃に社会主義は負けた。
敗北?失敗?
けれど今、また社会主義が、その観点を変えて、取り上げられるようになってきている。

この本によると、昔のゲルマン民族には「マルク協同体」という組織があったのだそうだ。
土地を共同所有し、生産方法にも強い規制をかける。
なぜならば、土壌養分の循環を外部に流出させないためだ。
長く働き、生産力を上げるーーー資本主義の社会では当たり前となったそれを、あえてしない。
「経済成長をしない循環型の定常型経済」。
権力関係が生まれ、支配や従属関係が生じることを防ごうとした。

それは不自由なのだろうか?
あるいはそれは形の違う豊かさなのではないか?

著者の解説はこうだ。
万人にとって有用かつ必要な「使用価値」があるもの(コモンズ)は、だからこそ共同体によって独占的所有が禁止され、商品化されず価格をつけられず、協同的富として管理されてきた。
だからこそ、コモンズは無償で潤沢であった。
それを人工的に囲い込み、希少性を作り出すことで、市場が価格をつけることが出来るようになる。
土地を囲えば利用料を取れる。
水をペットボトルに詰めればお金を取れる。
気候変動は、これまで価格がつかなかったものーー二酸化炭素の排出量もその例だーーに希少性を見出す。それがまたビジネスチャンスになる。
人々は貨幣に換算される「新たな価値」を生み出したようでいて、生活に必要な潤沢だった財への無償のアクセス権を失う。
貨幣は何でも手に入れられるが、貨幣を手に入れる方法は限られている。
人々は労働力を提供し貨幣を手にしないと、「商品」になった使用価値を手に入れられない。
それはむしろ、使用価値が見出される以前よりも、貧しくなっている。

前に『僕はお金を使わずに生きることにした』という本を読んだ時、著者が言っていた。
道端に成っている実を誰も食べない。それは売り物ではないから。
あるいは食べられるかが「わからない」から。

この本でも言う。
食品売り場に並ぶ、梱包された「商品」しか食べられない私たち。
自然の力を前に、かつてなく無力になっている私たち。

伊坂幸太郎のデビュー作『オーデュボンの祈り』。
隔絶された場所で暮らす人々。
そこでも肉はパックに入って売っていた。

一世代、二世代前まで当たり前にできていたこと。
それがもう、私(たち)はできなくなっている。
作業を細切れに分割する資本主義。
効率化して利益を最大化して、知恵と知識と身体的能力と経験は失われる。
関係性さえも、商品として売りに出される。
そうするともう、「買う」しかなくなる。
自分で「作る」ことはできなくなる。
あるいは「ない」ことに耐えられなくなる。

でも本当に、そんなに必要なんだろうか?
本によれば、使用価値は変わらないものを、商品の広告とパッケージ(とおびただしいプラスチックごみ)費用を使い、資本主義は売り続ける。
絶えざる消費。消費者の期待は永遠に満たされない。
新商品は理想の失敗を織り込み済みだ。次の新しいものを売るために。

『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』のか?
私の中ではここらへんの、ミニマリストやFIRE(Financial Independence, Retire Early。経済的自立と早期リタイア)はすべて一連なりだ。
私たちがこの暮らしを続ければ、その先には『人類は衰退しました』みたいな世界が待っているのかな。
それでもまだ、今の怯懦な豊かさを手放すなんて考えられない?

でも、だ。
著者も指摘するように、「資本主義がすでにこれほど発展しているのに、先進国で暮らす大多数の人々が依然として『貧しい』のは、おかしくないだろうか。」

今のこのシステムを続ける限り、奪い続けて勝ち続けなければいけない資本主義を受け入れる限り、私たちは永遠に貧しいままなのだ。
生活水準は上がったろう。衛生面は改善しただろう。死亡率は低下しただろう。
けれどそれ以上のものは、本当は必要のないものばかりをひたすらに作り続けているだけではないのか?

もっと、もっと。より速く、より多く、より便利に。
そうすることで、逆説的に手元にあった何を売り渡し、買わなければならないことになったんだろう。
金銭を経なければ得られないことになったんだろう。
そのためにまた、自分をーー肉体を、時間をーー差し出して、働かなければならなくなったんだろう。

資本主義を人間が作った。
私たちはその仕組を取り入れて運用しているようでいて、もはやそれに隷属している。

私だって、今の便利な暮らしを手放せと言われたら辛い。
でも、「そこまでしなくてもいいんじゃないか」と思うことが往々にしてある。
健康であれば階段を使えばいい。店は24時間開いていなくてもいい。

私はいつも、「千と千尋の神隠し」の場面を思い出す。
溢れ出てくる金を、カオナシが千尋に差し出す。
千尋は首を振る。
金は、泥に変わる。

私たちは絶えずそうやって差し出されている。
あれが必要でしょう、これが必要でしょう。
不便を感じていなかった?感じさせてあげましょう。
ほら、ほら、ほら、ーーー。

「欲しがれ」

そうして誰かから奪ったものを、地球から奪い尽くしたものを、次々と差し出す。
でもそろそろ、首を振っていいんじゃないか。
要らない。あなたは私が本当に欲しいものを与えられないから。

じゃあそれって、何なんだろうね?



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最終更新日  2023.04.13 06:35:58
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