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2023.04.21
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テーマ: 読書(8559)
カテゴリ: 【読書】時間術

書名



限りある時間の使い方 [ オリバー・バークマン ]

感想


2023年083冊目
★★★★

英題は"FOUR THOUSAND WEEKS"。
4,000週。
これは、80歳まで生きるとしたときの、人生の時間。



私はこの数字を見た時、Gleeの"Seasons of Love"を思い出した。

飛ぶように過ぎていく日々。留めておきたくても指からすり抜けていく日々。
あるいは憂鬱な月曜日。
早く過ぎ去ってくれないかと願う日々。終わりを心待ちにする日々。



この本は、これまでの時間術の本に異論を唱える。
ライフハック、タイムマネジメント。
そんな小手先で時間をコントロールした気になって、「もっと詰め込める」時間を作る。
でもそれ自体が間違いなんじゃないか?

アメリカの文化人類学者、エドワード・T・ホールは、現代社会の生活をベルトコンベアにたとえたという。
生産的に仕事をするほど、ベルトの速度は上がる。
あるいは、加速しすぎて壊れてしまう。
現代人にとっての1時間や1日、1年は、ベルトコンベアで運ばれてくる容器のようなもの。
時間を有効活用化するためには、それが通り過ぎる前にせっせと埋める。
容器が埋まらないまま流れていくと、「時間を無駄にした」と感じる。
雇い主は、その容器を(時間を)買っている。「仕事」を詰めるために。

076.人新世の「資本論」 [ 斎藤幸平 ] 」とも通底する。
もっと速く物事をこなせば、もっと多くのものを時間という容器に詰め込める?
便利な家電が登場して、デジタル化が進み、それでも労働時間は短くならない。
スピードが上がるほど、そのスピードに合わせていかないといけないから。
私たちは永遠に豊かになれない。満たされることはない。


で、これって資本主義とおんなじ。
時間を取り戻す?働きすぎに対抗する?
でもそれは何のためだーーー「十分に休息を取って仕事の生産性を上げるため」?

ライフハックを試しまくって、効率厨だった著者は、そのことに気づく。
違う。そうじゃない。
僕は、現実を直視するのが怖くて、生産性やタイムマネジメントにしがみついているんじゃないのか?
自分の生き方は正しいのか?
諦めなければならないことがあるんじゃないのか?
不安になること。失敗を認めること。無力で現実に縛られていると感じること。
本当に考えないことは、別にあるのでは?
たった4,000週間の命を、人生を、生きるために

詩人リルケの「問いを生きる」。
そこから逃げているならば、よく生きているということは出来ないだろう。
著者は、心理療法家ジェイムズ・ホリスの言葉を引用する。
「この選択は自分を小さくするか、それとも大きくするか?」
重要な決断をするとき、深いところにある目的に触れる必要があると。
(私はこういう場面で、伊坂幸太郎の小説の言葉「俺よ、俺はこんな俺を許すのか?」をいつも思い出す)

私は、日本語での「余暇」という言葉事態が罪深いなと思った。
余った暇。つまり、それはあらかじめ「仕事」で埋められた残り。
ずたずたにされた切れ端。
何もかもを手に入れることは出来ない。
何者かになることは出来ない。
それを認めて、手放す。
そうして注力する。

ほかにも面白いことが色々書いてあった。
・「人が忙しいかどうか判断する方法?誰が菜食主義かどうかを判断するのと同じだ。心配しなくても、向こうから教えてくれるさ」
・2013年のオランダの研究での示唆。本気で忙しい人は忙しさの調査に参加する暇さえないから、忙しさに関するデータはかなりの暇人から集めた結果なのではないか。
・オーロラを見に行って、実物を目にした時に著者は思う。「ああ、これ、スクリーンセーバーで見たやつだ」
・スウェーデン人の休暇データ(みんな同時に休暇を取るとみんな幸せになれる)
→いつも私は思うのだけど、GWや年末年始にみんなが休んでも世界は滅びない(もちろんそれでも働かなくてはならない人がそこにいてくれているからだけど)
・ソ連で1929年に4日働いて1日休むという労働者を5色のグループにわけ、シフト制で休み、工場を常に稼働させる計画がスタート。これによりソ連の一般市民の生活はぼろぼろになった。

ほかの時間術の本とは、一線を画す一冊。
著者が言うように、これまでの時間術の本はあまりに近視眼的だったんだろう。
時間って何だ?というところから考えた内容で面白かった。

時間について書かれた本を読むたび、ミヒャエル・エンデ『モモ』に書かれた内容が真理を突いているのだと思う。
学者がよってたかって研究したことを、すでに現している。
作家ってすごいな。

時間泥棒が奪っていく。
時間銀行に貯金しろと彼らは迫る。
おしゃべりする時間を節約し、みんな時間を貯める。
そうして何を失うのか。

ライフハック、時間術の本は、穴が空いた容器に、とっておいた水を注ぐようなものだと思う。
時間銀行に貯めたはずの時間は、誰かに吸い上げられて霧散する。
自分には二度と帰ってこない。

「ちっぽけな僕の人生を、誰にも渡さないんだ。」

以前、何かの本で見かけたこの一文が胸に刺さっている。
私の時間のコンベアは、毎日すごい勢いで流れていく。
速すぎてついていけない。コンテナに入れるものが溢れている。
間に合わないから、しっちゃかめっちゃかに詰め込んで溢れてーーー。
機械をメンテナンスする時間もない。

その時間の捉え方自体が、概念が、見直せたならな。
作業を止めるストップボタンが、緊急停止のスイッチが、機械にだってついているのに。



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最終更新日  2023.04.21 00:00:11
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