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いつも話し掛けて下さる明るい女性


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2025.11.27
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カテゴリ: 紫式部と源氏物語

源氏物語〔34帖 若菜 58〕

「Dog photography and Essay」では、
「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。




その文には、姫宮のことを頼む気持ちがこめられていて、自分の気持ちをどう思うかと深く考えず、とにかく娘のことを気にかけて世話してほしい、という願いが書かれていた。そうは言いながらも、まだ幼い姫宮が心配でならない様子が文面にはにじんでいた。紫の上にも手紙が届いた。



娘を託す父(朱雀院)と、その婿となる光源氏とのやりとりで、場面としては、朱雀院が出家を前にして、まだ幼い娘の女三の宮を源氏に嫁がせることになり、その際に娘を託す気持ちを表した。朱雀院は「まだ物事を理解できない幼い娘をあなたに差し上げることになったが、どうか邪気のない子として許して世話をしてほしい」と源氏に伝える。



さらに歌「背きにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆なりけれ」(俗世を捨てて出家しても、娘を残していく心残りが、山へ入る私をこの世につなぎ止める縁である)と詠んで、親としての未練を隠さず述べる。まだ物事を理解することもできぬ幼い娘を、あなたのもとに差し上げることになりました。


源氏物語〔34帖 若菜 59〕

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邪気のない子としてどうかお許しいただき、お世話をお願いします。あなたには縁のないことでもないのですから。「背きにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆なりけれ」と詠み、親としての心残りを隠そうともしない心情を綴ってあった。こんな手紙を差し上げるのは本来ならためらわれることだが、それほど胸に迫る思いであるという内容だった。



院はこれを読んで「同情すべき手紙だから、あなたからも丁寧に返事を書いてさしあげなさい」と紫の上に言い、お使いに来た者には女房を遣わせて酒を勧めた。紫の上は「どう返事を書けばよいのか分かりません。書きにくいです」とこぼしたが、言葉を飾る必要のある手紙ではなかったので、そのまま感じたことを歌にした。



「背いた世のうしろめたさは消え難き絆を強いてかければ離れることはありません」そう詠んで返事を書き、女の装束に細長衣を添えてお使いに持たせた。紫の上の筆跡は立派で整っており、それを見た院は、六条院にはこのようにすべてが整った夫人がいるというのに、幼い姫宮が一人の妻としてここに迎え入れられることを思うと、心苦しい気がした。


源氏物語〔34帖 若菜 60〕

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その後、朱雀院が出家すると、かつて院を慕っていた女御や更衣たちはそれぞれ散り散りに自邸へ帰ることになった。みな哀れな境遇であった。尚侍は亡くなった皇太后が住んでいた二条の宮に移って住むことになった。院は姫宮のことを心配するのと並んで、この尚侍のことも特に気にかけていた。



前尚侍は尼になりたいと願っていたが、今その道に入るのは人恋しさからの出家であり、悟りを得た者の行いではないと朱雀院は諭し、自分の寺に納める仏像の製作に心を傾けていた。六条院では、源氏がかつて別れざるを得なかった朧月夜の前尚侍を今なお忘れずに思い続けていた。



いつか再び会える機会があれば、その時の胸をえぐられるような苦しみを打ち明けたいと願っていたが、二人の関係は世間の非難を受ける立場にあり、かつて女に大きな傷を負わせる騒動を引き起こしたことを思えば、軽々しく行動することはできず、ただ忍んで過ごしていた。


源氏物語〔34帖 若菜 61〕

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朱雀院とも別れて独り暮らしになっている今の孤独な生活がいっそう彼の心を掻き立て、どうしても会いたくなるのであり、いけないことだと思いながらも友人への手紙の体裁をとっては忘れがたい熱情を伝え、それが幾度も重なったため、前尚侍ももう若い男女のように危うさを気にする年ではないと考えて時折返事をよこした。



しかも年齢を重ねてなお美しさと完成の跡を見せる朧月夜の君の筆跡はますます源氏の心を魅了し、彼は昔から親しい中納言を介して二人が会える道を開こうとする手紙を送り続け、さらにその兄である前和泉守を呼んでは若き日のように胸を躍らせた。



その光景を前に院は、年月というものは自分の心には長く感じられず、若々しい気持ちは昔のまま変わらぬのだが、こうして孫たちを見せてもらうと、急に年齢を意識させられて恥ずかしい気持ちになる。中納言にも子ができているはずだが、私を疎んでいるのかまだ見せに来ない。あなたが誰よりも早く私の年を数えて子の日の祝いをしてくれるのは、ありがたいが、少し恨めしくもある。


源氏物語〔34帖 若菜 62〕

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もう少し老いを忘れていたいのだがね」と言い、年齢を重ねることへの複雑な思いを洩らした。その一方で玉鬘は、かつて以上に美しさを増しているように見える。玉鬘は、落ち着きと風格を備えた立派な貴婦人となり、その姿は院の栄華と世代の移り変わりを象徴するもののように見えた。



六条院の四十歳の賀の宴がいよいよ本格的に始まる様子が描かれている。まず、式典の中で若菜にちなんだ歌が詠まれる。参列者の一人が「若葉が芽吹く野辺の小松を伴い、今日こうして根元の岩に祈りを捧げる」という趣旨の歌を披露し、大人びた挨拶とした。



祝儀として出された若菜は、沈香の木で作られた四つの折敷に形式的に少しずつ盛り付けられただけであったが、そこに象徴的な意味が込められていた。六条院は杯を手に取り、小松原末のよはひに引かれてや野辺の若菜も年をつむべき、小松の林の末のほうにある若木の松は、やがて年を重ねて立派に成長していく。


源氏物語〔34帖 若菜 63〕

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松の年齢に引き寄せられるようにして、野辺に芽を出したばかりの若菜も、これから年を重ねていくのだろうか。つまり、松の長寿になぞらえて、若菜もこれから年を重ねて成長していくように、自分たちの縁も長く続き、共に年を重ねていきたいという思いを込めたと歌を詠んだ。



これは、自らの年齢を松の齢に重ね、若菜のように年を重ねていきたいという思いを表したもので、集まった人々に深い印象を与えた。高官たちは南の外座敷に着座し、やや気まずさを抱えながらも式部卿宮も出席した。彼は六条院の娘婿でありながら、祝宴の主催者が玉鬘を妻とする左大将であることを見て、内心では不快を覚えたに違いなかった。



しかし一方で、自分の孫である左大将の子どもたちが紫の上の甥としても、主催者の子としても場にふさわしく動き回っている姿を見て、世代の移り変わりを感じざるを得なかった。祝宴では、料理や贈り物も整えられていた。枝に籠詰めの料理が四十添えられ、折櫃に詰められた品々が四十、それらを中納言をはじめ若い親族たちが運び入れた。


源氏物語〔34帖 若菜 64〕

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院の前に並べた。院の席には沈香の木で作られた盆が四つ置かれ、上品な杯台などがささげられた。朱雀院がまだ病から回復していなかったため、専門の楽人は招かれなかったが、音楽の準備は周到であった。玉鬘の実父である太政大臣が担当し、選び抜かれた名器が並べられた。



その際、大臣は「この世に六条院の賀宴以上に高雅な集まりはないだろう」と語り、心を尽くして楽器を揃えた。和琴は大臣が秘蔵してきた逸品であり、かつて名手が弾き込んだために扱いにくいと敬遠されていたが、院の強い求めで右衛門督が演奏することになった。



若者は父譲りの技を見事に発揮し、予想以上の腕前を披露した。その演奏は人々を驚かせ、父から子へと芸が受け継がれることの稀有さを思わせた。特に和琴は中国から伝来した楽器と違い、清掻きだけで他の楽器を統率する難しいものであるが、右衛門督の爪音は澄んで響き渡り、場を圧倒した。


源氏物語〔34帖 若菜 65〕

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六条院の四十歳の賀宴における音楽のやり取りが詳しく描かれている。まず、二つの和琴が用いられた。父である太政大臣が弾いた琴は、絃をやや緩め、柱も低くして余韻を深く重々しく響かせるように調整されていたため、音は落ち着きと深みを持っていた。



それに対して息子の右衛門督が弾いた琴は、華やかに音が立ち上がり、甘美で親しみやすい響きを奏でた。その優れた演奏は人々を驚かせ、親王たちでさえ「ここまで上手だとは思わなかった」と感嘆するほどであった。さらに、兵部卿宮が宮中の名器である琴を手に取った。



この琴は、かつて宜陽殿に納められ、代々第一と称されてきたもので、先帝の晩年には御長皇女が愛用し、下賜された由緒ある楽器であった。今回は賀宴のために太政大臣が借り出してきたものであり、その音色は六条院に、父帝の治世や姉宮の思い出を深く呼び起こした。


源氏物語〔34帖 若菜 66〕

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六条院はその響きに身を沁み入るように聴き入り、兵部卿宮もまた感情を抑えきれず、酔いながら涙を流すほどであった。やがて宮は院の意向を伺い、琴を御前へ移すと、院もその場の気分に抗しきれず、自ら珍しい曲をひとつ弾いた。そのため、決して大規模な演奏ではなかったが、趣のある音楽の夜となった。



楽器の演奏が終わると、階段のあたりに集められた声のよい若い殿上人たちが合唱を行い、「青柳」が歌われる頃には、すでにねぐらに帰っていたはずの鶯さえ驚いて鳴き出すかと思われるほど華やかでにぎやかな響きが広がった。宴は形式上は左大将の主催であったが、六条院自身の側からも纏頭の贈り物が用意され、場の盛り上がりをさらに際立たせた。



やがて夜が明け、玉鬘の尚侍は自邸へ戻ることとなる。その際、六条院から贈り物が与えられ、祝宴の余韻を残しながらこの一夜の華やかな出来事は締めくくられた。 六条院が四十歳を迎えて賀宴を開いた後の、彼自身の心境の吐露と、その後に続く朱雀院の女三の宮入内の場面が描かれている。


源氏物語〔34帖 若菜 67〕

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まず六条院は、自分がもう世の中の表舞台から退き、好き勝手な隠居のような生活をしているので、月日の流れを意識することも少なくなっていたと語る。ところが、周囲の人々が四十歳という年齢を祝い、年を数えてくれることで、改めて老いが自分の身に迫っていると実感し、急に心細さを感じたのだと述べる。



そして、気軽に訪れて昔と今を比べるように自分を見に来てほしいと頼むが、今の立場では自由に人に会いに行けない不自由さもあり、自分から会いに行くことができずに寂しく思っている、とこぼす。この言葉には、老いを意識しながらも、まだ人との交流や愛情を求める六条院の人間的な思いがにじんでいる。



その一方で、玉鬘の側もまた複雑な感情を抱いている。実父である太政大臣への親子としての情はもちろんあるものの、実際に自分を育て導き、今の幸福な境遇を与えてくれたのは六条院であるという感謝の念が強く、年月が経つほどにその思いは深まっていた。しかし、玉鬘が六条院のもとを訪れても、長居せず早く帰ってしまうことがあり、六条院はその態度をどこか物足りなく感じていた。


源氏物語〔34帖 若菜 68〕

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「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。




ここには、親子や養父子という関係を超えた、複雑な絆と距離感が描かれている。やがて二月十余日、朱雀院の娘である女三の宮が六条院に入る日がやってくる。六条院の邸宅でもその準備が整えられていた。先日の若菜の賀で使われた寝殿の西の対に帳台が立てられ、さらにその周辺の部屋や渡殿も女房たちの居所として割り当てられ、華やかな婚礼の場が整った。形式は入内に準じるもので、朱雀院からも婚礼道具が運び込まれ、列の行列はきらびやかで、随行する者の中には高官も多く混じっていた。その中には、かつて姫宮を正妻にと望みながら叶わなかった大納言の姿もあり、彼は心の中で涙を飲みながら従っていた。そして行列が六条院に到着すると、六条院自らが出迎え、姫宮を車から抱き下ろすという前例のない行動をとる。これは天皇の入内の儀式でもなく、また親王夫人の婚礼とも異なる、特別な性格を持った婚礼の場であった。この出来事には、六条院の立場の特異さ、また彼の人生の円熟と新しい局面が示されている。婚礼の三日間は、婿側である六条院からも、舅である朱雀院からも華やかなおもてなしが行われ、邸内は大勢の人々で賑わい、祝いの雰囲気に包まれていた。だが、そんな華やかさの中で紫の上はひとり寂しさを覚えていた。彼女自身は、六条院との夫婦関係がこれによって不安定になるとは思ってないし、これまで誰よりも愛される妻として確固とした地位を保ってきた自信もある。だが、まだ幼いとはいえ内親王という高貴な身分の女性が新しい妻として迎えられたことを考えると、どうしても自分が退いていくような気がし、心の奥で羞恥や寂しさが湧き上がってしまう。それでも紫の上はその気持ちを押さえ、むしろ大らかに、女三の宮が移ってくる前の支度を六条院と共に進めるという健気で可憐な態度をとった。この姿に六条院も深く感激していた。一方、女三の宮はというと、あまりにも幼く、子どもっぽさしかない存在であった。六条院はかつて若き日の紫の上を二条院に迎えた時のことを思い出し、比較してみる。紫の上はその年頃でも才気が見え、話していて楽しい少女であったが、女三の宮にはそうした生き生きとした魅力がなく、ただ子供らしいばかりだった。六条院は「これならば、あまりに出過ぎたことをせず、慎み深いだろう」と自分に言い聞かせて好意的に見ようとするが、それでもどこか張り合いのない新婦だと感じ、内心で落胆していた。その三日の間、六条院は新妻のもとに通うが、紫の上にとってはこれまで経験したことのない孤独な時間であった。心の底から寂しさが湧いてきて、どうしようもない。六条院が女三の宮のもとへ向かうための装束に薫香を焚かせながら、物思いに沈む紫の上の姿は、憂いを帯びてひときわ美しく映っていた。源氏は「本来なら自分は妻を二人持つべきではなかったのに、このことだけは断り切れず、心の弱さから受け入れてしまったために、紫の上にこんなつらい思いをさせてしまった」と深く悔やみ、自分自身を恨む気持ちで涙ぐむ。彼は紫の上に向かって「あと一晩だけは世間並みの義理を果たすために女三の宮のもとへ行かせてほしい。その後もあちらばかりに通うようなことをするなら、自分自身を軽蔑することになるだろう。しかし紫の上はどう思うだろうか」と苦しげに語る。その姿は痛々しいが、紫の上は少し微笑んで「ほらご覧なさい、ご自身の心だって定まらないのですもの。道理のある方が強いとはおっしゃっても、それを貫けないのでしょう」と答える。これは諦念と皮肉が入り混じった言葉であり、源氏は恥ずかしさを覚えて頬杖をつき、うっとりと横になる。紫の上は硯を引き寄せて和歌を書きつける。「目の前に見えるものですら移り変わるこの世に、行く末までも頼りにしてしまったのだなあ」と記し、さらに同じ趣旨の古歌も書き添える。源氏はそれを手に取り、彼女の気持ちに胸を打たれ、憐れみを感じる。そして自らも和歌を返す。「命が尽きても絶えることはないだろう、定めなき世の常とは違う、特別な私たちの契りは」と書き、彼女への誠意を示すが、実際にはそのまま出かけることをやめようとはしない。やがて紫の上が「遅くなっては体裁が悪いでしょう」と促すと、源氏は直衣を改め、香を焚きしめた衣に着替えて出かけていく。その姿を見送る紫の上の心は、とても平静ではいられなかった。これまで源氏は、時に新たな妻を迎え入れようとする素振りを見せることはあった。しかし、そのたびに思い直し、実際には行動に移さずにきた。そのため紫の上は「これからも平穏に幸せが続いていく」と信じて疑わなかった。ところが今回はついに女三の宮が正妻として六条院に迎え入れられ、紫の上のこれまでの安定した立場が揺らぐことになった。彼女は「この世には永遠に変わらないものなどなく、これから先どんな運命に出会うかもわからないのだ」と考えるようになり、心の底に不安を抱える。だが、紫の上はその動揺を表に出さず、いつも通り穏やかにふるまっている。けれども女房たちは不安を隠せずにささやき合う。「これまで他の女性がいても、あなたと競い合えると思う人はいなかったから安心だったのに、今度ばかりは紫の上をも眼中に置かないほど高貴な宮様がいらしたのではどうなるのだろう。これほどの方に劣ってしまうことは耐えられないはずだし、また宮様の側からすれば紫の上が気に病んでいるように見えても、大げさな事と軽く扱われるかもしれない。そうなれば必ず争いや心労が生じ、奥方はつらい思いをなさるに違いない」と。そのような周囲の心配や嘆きにも紫の上は顔色を変えず、にこやかに皆と語らいながら夜更けまで座敷に出ていた。
女房たちの不安が外に漏れて、源氏に不快に思われるのを避けるために、むしろ自ら前向きな言葉をかける。「院にはこれまでも多くの女性がいたけれど、理想的な配偶者と胸を張って言えるほどの人はなかった。だから物足りなさを感じておいでになったのだろう。けれども宮様を迎えられて、これでようやくすべてが整い、完全になったのだ」と。紫の上は、自分がまだ大人として達観できていない部分を自覚していて、まだ子供っぽい気持ちが抜けきらず、源氏とただ楽しく一緒に過ごしていたいと思うのに、周囲の人が私の気持ちを思い量り、かえって関係を難しくしてしまう。普通なら、同じ身分か自分より下の女性が愛されれば嫉妬や不愉快な気持ちになるものだが、相手の女三の宮は高貴な出自であり、また不遇な事情で源氏の妻として六条院に迎えられたのだから、紫の上としては「せめて自分がその人に悪く思われてはいけない」と努めている。彼女は自分の感情に流されまいと気を配り、相手への思いやりを第一にしようとしているのである。それをそばで聞いていた女房の中将や中務は、互いに目を見交わしながら「女王様は思いやりがありすぎる」とひそかに言う。彼女たちはかつて源氏の愛人だった。須磨に流された時期から紫の上に仕えるようになり、深く彼女を慕っている。そのため、紫の上の無理な自己抑制を痛ましく感じているのである。さらに他の女房の中には、「私たちは最初から愛されないことを覚悟しているから平気だけれど、誰よりも愛されてきたあなたが今の状況をどう思っているのだろう」と慰めの言葉をかける者もいた。しかし紫の上にとってそうした同情はむしろ辛く、自分の痛みを改めて意識させられるものとなる。彼女は「この無常の世で、夫婦愛にそれほど執着しているわけではない」と思おうとするが、それでも心の底から寂しさが湧いてくる。夜更けになり、眠らずに過ごしている自分の姿を周囲が不自然に思うのも嫌で、紫の上は帳台に入る。女房が夜着を掛けてくれると、ようやく「人から哀れまれているように、確かに自分は孤独なのだ」と思い、噛みしめているものは苦さだけで他の味わいではないと実感する。同時に彼女の心には、須磨に源氏が流された頃の記憶も蘇り、あの時も深い孤独の中で、遠く離れていても源氏が生きていることだけを心の支えにして過ごした。そして「あの時の悲しみで、もし源氏や自分が死んでしまっていたなら、それから後の幸福は味わえなかったのだ」とも思い直し、今ある境遇の中で自分を慰めようとする。夜は風が吹き、冷え込みも厳しかったので、女王はなかなか眠ることができなかった。近くに仕えている女房が自分の寝返りの気配を感じ取って心配するのではないかと思うと、それもまた気がかりで、寝床の中でじっとしていることさえ苦しく思われた。やがて一番鶏の声が響くと、その声は胸に沁み入るようで、女王の孤独やつらさをいっそう際立たせるものになった。女王はただ恨みだけに心を傾けていたわけではなかったが、彼女の苦しむ思いが通じたのか、院は夢の中で女王の姿を見て目を覚まし、不安に胸騒ぎを覚えた。鶏の鳴き声を聞きながらじっとしていたが、声が止むとすぐに宮殿を出て女王のもとへ向かった。しかしまだ若い宮であるため、そばには乳母たちが控えており、院が妻戸を開けて外に出るのを見送った。夜明け前で、しばし暗さが増すころ、雪の光に照らされて院の姿がぼんやり浮かび上がった。衣からただよう香りが濃く残っているのに気づいた乳母たちは、「春の夜の闇はあやなし梅の花」と古い歌を思わず口にした。院は庭に積もる雪の白さを砂子の散りばめられた模様と見分けがつかないほどだと眺めながら、女王のいる対へ向かい、口の中で「残れる雪」とつぶやいた。格子を叩いて入ろうとしたが、夜明け近くに訪れることなど久しくなかったので、女王に仕える女房たちは腹立たしく思い、すぐには応じず、しばらく寝たふりをしたのちにようやく格子を上げた。院は、「外で長く待たされて身体が冷え切ったのは、私があなたを恐れて気がねした心のせいで、女房たちに罪はなかったのだろう」と言いながら女王の夜着をそっと引き寄せてみると、下に着ている単衣の袖が涙で少し濡れていた。それを隠そうとする仕草が美しく、院の心に深く響いた。しかし女王の心にはどこか打ち解けきれないところがある。それがかえって上品で艶やかな趣を漂わせてもいた。院は、完璧に整わぬところを残したこの女性の姿を前に、新妻の宮と紫の上の二人を思い浮かべ、心の中で比べていた。そして、二人がたどってきたこれまでの道を振り返るように話しかけ、恨みを捨てきれない女王をなだめて、その日は一日中そばを離れずに過ごした。夜になっても宮のもとへは行かず、手紙だけを届けさせた。今朝の雪で身体をこわしそうになり、苦しいので、しばらく気楽なところで養生しようと思います」という文を乳母に伝えさせたが、返事は「そのとおりにお伝えしました」というだけだった。朱雀院がこれをどう思うだろうかと気がかりで、しばらくは朱雀院を立てるように振る舞わねばと考える一方、それを実行する苦しさに耐えきれず、悲しみに沈んだ。女王もまた、「あちらに思いやりが欠けているのではないか」と感じ、自分の立場に苦しんでいた。次の日も院は自室で目を覚まし、宮へ手紙を書いた。晴れやかな気持ちを抱く相手ではなかったが、白い紙を選び筆をとって、「中道を隔つほどはなけれども心乱るる今朝のあは雪」と詠み、梅の枝に添えて侍に持たせ、「西の渡殿から参上せよ」と命じた。院は縁に近い座敷に座り、庭を眺めながら梅の枝の残りを手に弄んだ。白い衣をまとい、雪の残る庭を前に、紅梅の梢で鳴く鶯の声を耳にして「袖こそ匂へ」と古歌を口ずさみ、梅の花を持った手を袖に引き入れながら外を眺める姿は、院という高い身分の人とは思えないほど若々しかった。やがて寝殿からの返事が遅いのを気にして、院は居室に戻り、梅の花を手に女王のもとを訪れた。院と女王が梅の花を前に語り合っていた。女王は「花ならこれほどの香りを持っていたいものね。もし桜がこの香りを持っていたら、他の花はみんな忘れ去られてしまうでしょうね」と言う。夫人は「今は梅が唯一の花だからこそ良いと思えるのですよ。春に百花が咲きそろったとき、他の花と比べてどう思えるかしら」と答えた。そんなやりとりの最中に、宮からの返事が届いた。紅い薄紙に包まれた手紙が目を引き、院は思わずどきりとした。幼い宮の書きぶりは当分女王には見せたくない。隔てなく心を向けているとはいえ、あまりに拙い文字を見せれば、宮の身分にかえって傷をつけることになりかねないと院は思った。しかし隠してしまうのも女王には不快だろうと考え、結局は半ば見せるようにして手紙を広げた。女王は横になったまま横目でそれを見た。「はかなくて上の空にぞ消えぬべき風に漂ふ春のあは雪」宮の文字はやはり稚拙であった。十五にもなればこんなものではないはずだが、と目にとめつつも、女王は見ないふりをした。他の女性の手紙なら、院は辛辣な感想の一つも口にしただろうが、宮の身分を思ってそれは控え、「安心していてよいのだ」とだけ女王に声をかけた。その日、院は昼間に宮のもとを訪れた。特に念入りに化粧を施した院の美しさに、初めて間近に接した女房は興奮していた。年老いた女房の中には、「どう見ても幸福なのはあちらの奥方だけで、この宮は不快な思いを味わうのではないか」と密かに考える者もいた。姫宮はまだ子どもらしく、小柄で、立派な部屋の調度品と釣り合わぬほどに素朴で無邪気な姿であった。衣に埋もれるように座るその姿は愛らしく、格別に恥ずかしがるわけでもなく、人見知りのない子供のように扱いやすく思われた。朱雀院は学問の奥義には通じていないと人から言われたが、芸術的な感性は豊かで優れている人物だった。それなのに、どうして愛娘をここまで凡庸な姫に育ててしまったのだろう、と院は残念に思った。それでも愛情が湧かないわけではなかった。姫宮は院の言葉に従い、素直で、返事も教えられたことをそのまま繰り返すだけで、自分から言葉を生み出すことはない。かつての自分であれば退屈に思い、愛想を尽かしてしまったかもしれない。しかし今の院は、完全なものなど得られないのだと知っていた。欠けた部分は心で補い、平凡な相手に満足すべきだという人生の教訓を積み重ねてきたのだ。だからこそ、この姫宮をも妻の一人として受け入れられる。世間の人はきっと「好ましい結婚相手を得た」と見るだろう。そう思うと、長年ともに過ごした紫の女王の価値があらためて胸に迫り、自分が与えた教育の成果を認めざるをえなかった。ただ一夜離れただけで、翌朝にはその人の恋しさで胸がいっぱいになり、すぐに会えない時間がもどかしくてならない。院の心は結局、紫の女王へと傾いていった。なぜこれほどまでに思い詰めるのか、自分自身を疑うほどに、院の愛情は深まっていった。朱雀院はやがて出家して御寺へ移ることになっていたので、このころは六条院へたびたび手紙を送っていた。その文には、姫宮のことを頼む気持ちがこめられていて、自分の気持ちをどう思うかと深く考えず、とにかく娘のことを気にかけて世話してほしい、という願いが書かれていた。そうは言いながらも、まだ幼い姫宮が心配でならない様子が文面にはにじんでいた。紫の上にも手紙が届いた。娘を託す父(朱雀院)と、その婿となる光源氏とのやりとりで、場面としては、朱雀院が出家を前にして、まだ幼い娘の女三の宮を源氏に嫁がせることになり、その際に娘を託す気持ちを表した。朱雀院は「まだ物事を理解できない幼い娘をあなたに差し上げることになったが、どうか邪気のない子として許して世話をしてほしい」と源氏に伝える。さらに歌「背きにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆なりけれ」(俗世を捨てて出家しても、娘を残していく心残りが、山へ入る私をこの世につなぎ止める縁である)と詠んで、親としての未練を隠さず述べる。「まだ物事を理解することもできぬ幼い娘を、あなたのもとに差し上げることになりましたが、邪気のない子としてどうかお許しいただき、お世話をお願いします。あなたには縁のないことでもないのですから。」「背きにしこの世に残る心こそ入る山みちの絆なりけれ」と詠み、親としての心残りを隠そうともしない心情を綴ってあった。こんな手紙を差し上げるのは本来ならためらわれることだが、それほど胸に迫る思いである、という内容だった。院はこれを読んで「同情すべき手紙だから、あなたからも丁寧に返事を書いてさしあげなさい」と紫の上に言い、お使いに来た者には女房を遣わせて酒を勧めた。紫の上は「どう返事を書けばよいのか分かりません。書きにくいです」とこぼしたが、言葉を飾る必要のある手紙ではなかったので、そのまま感じたことを歌にした。「背いた世のうしろめたさは消え難き絆を強いてかければ離れることはありません」そう詠んで返事を書き、女の装束に細長衣を添えてお使いに持たせた。紫の上の筆跡は立派で整っており、それを見た院は、六条院にはこのようにすべてが整った夫人がいるというのに、幼い姫宮が一人の妻としてここに迎え入れられることを思うと、心苦しい気がした。その後、朱雀院が出家すると、かつて院を慕っていた女御や更衣たちはそれぞれ散り散りに自邸へ帰ることになった。みな哀れな境遇であった。尚侍は亡くなった皇太后が住んでいた二条の宮に移って住むことになった。院は姫宮のことを心配するのと並んで、この尚侍のことも特に気にかけていた。前尚侍は尼になりたいと願っていたが、今その道に入るのは人恋しさからの出家であり、悟りを得た者の行いではないと朱雀院は諭し、自分の寺に納める仏像の製作に心を傾けていた。六条院では、源氏がかつて別れざるを得なかった朧月夜の前尚侍を今なお忘れずに思い続け、いつか再び会える機会があれば、その時の胸をえぐられるような苦しみを打ち明けたいと願っていたが、二人の関係は世間の非難を受ける立場にあり、かつて女に大きな傷を負わせる騒動を引き起こしたことを思えば、軽々しく行動することはできず、ただ忍んで過ごしていた。朱雀院とも別れて独り暮らしになっている今の孤独な生活がいっそう彼の心を掻き立て、どうしても会いたくなるのであり、いけないことだと思いながらも友人への手紙の体裁をとっては忘れがたい熱情を伝え、それが幾度も重なったため、前尚侍ももう若い男女のように危うさを気にする年ではないと考えて時折返事をよこし、しかも年齢を重ねてなお美しさと完成の跡を見せる朧月夜の君の筆跡はますます源氏の心を魅了し、彼は昔から親しい中納言を介して二人が会える道を開こうとする手紙を送り続け、さらにその兄である前和泉守を呼んでは若き日のように胸を躍らせた。胸を躍らせながら相談したので、源氏は取り次ぎを通すのではなく、直接顔を合わせなくても物越しに話せばよい、どうしても話さねばならないことがあるから尚侍の承諾をとってほしい、今の自分は表立ってそんなことができる身分ではないが、それでも会おうとするのだから向こうも秘密を守ってくれるに違いないと語り、それを中納言が伝えると尚侍は、それは必要のない会見であり、自分はもうあの頃のように幼い心で人生を見てはいない。昔から誠のない愛しか与えてくれなかった人の誘いに今さら乗るはずもない。法皇をあのようにお気の毒な暮らしに置いておけない。昔の話を持ち出すなど自分には受け入れられない、たとえ秘密にするとしても自分の心に恥じることになるとため息をつき、そんなことは決して考えられないと断り続けたのであった。源氏は、すべてを無視して苦しみながらも愛し合った二人の仲なのだから、今さら相手が清らかな顔をしても、かつて世間に立った浮名を取り消すことはできないのだと考え、出家した朱雀院に対しては後ろめたさはあったが、結局は昔の関係を繰り返すだけのことだと心の中で言い聞かせ、にわかに前和泉守を案内役にして朧月夜の尚侍のいる二条の宮を訪ねる決心を固めた。そこで、妻の女王には、東の院にいる常陸の宮の女王がずっと病気で、その見舞いに取り紛れて行かれなかったのが気の毒だから、昼間は人目があるので夜になってから出かけるつもりだと口実を作り、誰にも知らせず出かけるのだと伝えて、外出の支度を整えた。女王にはそれがただ事ではないように見え、普段はそんな出かけ方をすることもないので不審に思ったが、思い当たる節もないではなくても、女三の宮が来てからは昔のようにすぐ疑いを口にすることを控えていたので、表向きは知らぬ顔をしていた。その日は寝殿にも行かず、ただ手紙をやりとりするだけで過ごした。入念に薫物の香を袖に焚き染め、日が暮れるのを待って四、五人の親しい者だけを連れて、昔のようなひそやかな外出に使った網代車で出かけた。六条院が訪れたと聞いて、尚侍はどうして来たのか、自分の返事をどう誤解したのだろうと不機嫌になったが、中納言は、適当な理由をつけて帰っていただくのは失礼だと説き、無理やりにでも源氏を座敷へ案内した。源氏はまず見舞いの挨拶を取り次がせた後、近い所まで出てきて物越しにでも話してくれないか、今日はもう昔のような無分別なことをしようと思っているわけではないのだと切実に頼んだ。尚侍はため息をつきながら出てきたので、源氏はやはり軽率な人だと思いつつも満足し、二人にとっては久しぶりの顔合わせとなった。遠い昔の記憶が女の心にもよみがえらないわけではなかった。源氏は東の対の、南東の端の座敷に座り、隣の間にいる尚侍との間は襖が閉ざされていた。そこで源氏は、若者のような扱いを受けているようで落ち着かない、あれからどれだけの年月が過ぎたかを私は一日たりとも忘れたことはないのに、あなたの冷たさが恨めしく思われてならない、と切なく訴え、夜は更けていった。池のほとりでは鴛鴦の声がもの悲しく聞こえ、しっとりと人けの少ない宮の中の空気が身に沁み、かつての栄華を誇った屋敷がすっかり移り変わってしまったことを思うと、人生のはかなさが胸に迫った。源氏は女の心を動かそうとするための見せかけの涙ではなく、自然に真実の涙がこぼれてくるのを覚えた。そして、昔のように焦った若者ではなく、年を重ねて落ち着いたふうを装いながら、恋の思いを切々と語り、「このまま何もなく終わってしまうのですか」と言って襖を引き寄せた。源氏は歌を詠み、年月を隔てて逢うことの難しさを涙に託したが、朧月夜は「涙をせき止めることもできない清水のように、私たちの道はもう絶えてしまった」と冷たくも突き放すような歌を返した。しかし心の奥では、昔を思い返し、この人が遠ざかって漂うような辛い生活を送ることになった。





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Last updated  2025.11.27 11:30:05
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Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
コメント有難うございました(^‐^)
今日は・・かなりの長文ですね(^0^;
煮込み料理の内容を見ると~「闇鍋」?を連想してしまいます(^0^) (2025.11.27 12:17:53)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
新しいIH設置で料理も楽しいようですね〜〜

マンゴーで生姜の辛さをマイルドにするとは!?
目から鱗です。マンゴーはデザートでしか食べたことがないので。
泡が出るのも知らなかったですよ。。。 (2025.11.27 13:43:21)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
サカエ  さん
お世話になります
長文にビックリですが

マンゴープリン作れるんですか(汗
すごい。
野沢菜と梅干と聞いただけでこの時間。。。お腹がなりました。

(2025.11.27 17:57:54)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
今日はとても長いお話しでした。

新しい食べ方発見ですね。
試してみるものですね
。 (2025.11.27 18:33:59)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
和活喜  さん

 今晩は。木曜日です。福岡・宗像は曇りです。
ご来訪、そしてランキング応援、有難うございます。
 今日は、朝からボランティア仲間の会合で博多に出向きました。
65歳以上の参加資格で「支えられる側から支える側へ」を、
合言葉に、奉仕活動をしている団体の総会・懇親会でした。
 先ほど、帰宅しましたので、ご訪問が遅れました。
 今日も佳き一日でありますように。
 応援(^-^)V
(2025.11.27 19:25:01)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
こんばんは♪
今日のももちゃんも、とっても可愛いですね♪

源氏物語〔34帖 若菜 58〕の更新、お疲れ様でした。

脳の検査結果、問題が無かった様で良かったですね♪
時々、こういう検査をしていれば、安心できますよね。
(2025.11.27 19:25:14)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
こんばんは。
今回は長文ですね。
検査前に酒を止めるのもありですが、
いつもの体調で検査したほうが良いと思います。
結果薬だけが増えるのは勘弁してもらいたいですが・・・ (2025.11.27 19:27:02)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
chiichan60  さん
今晩は。

色鮮やかのお半お写真ともも間の写真を楽しませていただきました。

源氏物語の更新、ご苦労さまでした。

34帖若菜68までご苦労さまでした。
よくわかりました。 (2025.11.27 19:59:24)

Re:源氏物語〔34帖 若菜 58〕(11/27)  
今回は、すごい長文ですね。
大変だったことでしょう。

脳のMRIで、脳梗塞や脳出血の痕跡はなく至って健康だそうで、おめでとうございます。
私は今年はいろいろと心配な症状があったので、進んでMRIをお願いしました。(MRIは大の苦手ですが)
特に問題がなかったのですが、やはりやりたくない検査のひとつです。('◇')ゞ
(2025.11.27 20:46:51)

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