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私のなくなった二人の祖父は、いろんな意味で対照的な人たちでした。 父方の祖父は明治生まれの海軍軍人。志願して海軍に入り、苦労と努力の末、少尉にまで登りつめました。一般の兵から軍歴をはじめて、少尉にまでなるのは1000人に1人と言われた時代の話です。 明治の男らしく、余計な事は一言も言わない祖父でしたが、やはり青春を捧げた海軍には格別の思い入れがあったのでしょう。良くその頃の話をしてくれました。空母「翔鶴」に乗って真珠湾攻撃に参加した事や、南方の航路で船団を襲ってくる潜水艦と戦った話などです。私が戦争というテーマに興味を持ち、調べだしたのは、この父方の祖父の影響が大きかったと思います。 一方、母方の祖父は徴兵されて陸軍に入り、兵士のまま軍歴を終えました。関西人らしく話し好きだった母方の祖父の、軍隊時代の思い出の中でも一番の得意だったのが、大陸での魚釣りの話です。 祖父の配属された部隊の駐屯地は南京でした。そう、あの大虐殺があったとされる南京です。ただ、祖父の話を聞く限りでは、そうした事件は(少なくとも中国が主張するような形では)なかったように思えます。 ある日、川端を通りがかった祖父は、水面に巨大な黒い影を見かけました。釣りが趣味だった祖父は、これは大物とばかりに釣り上げることを決意しますが、内地から持ってきた道具では歯が立ちそうにありません。そこで、仲良くしていた中国人の鍛治屋に、部隊で使わなくなった馬の蹄鉄を渡し、これを削って巨大な釣り針を作ってもらいました。他にも大きな釣竿などを用意し、あの影を見た場所で3日間ほど粘った末、ようやくその大物を釣る事に成功しました。 その話が嘘ではない、と言う証拠に、祖父はその大物の鱗を剥がして作った靴べらを見せてくれましたが、それが本物だったのかどうか、今となっては分かりません。 二人の祖父は私の両親が結婚するまで顔を合わせた事はなかったのですが、一度だけ、その人生が交差したことがあります。1945年8月、広島での事でした。 内地に帰っていた二人は、たまたま広島に近い部隊に配属されており、原爆投下から数日後に、現地に救援に行きました。軍隊時代の話はいろいろとしてくれた二人でしたが、この日広島で見たものについては、二人とも多くを語ろうとはしませんでした。ただ、後に広島の事を特集したテレビ番組などがある度に、二人ともこう言っていたそうです。「それが戦争なんだ」 地獄とまで言われた南方航路の護衛に従事した父方の祖父、激戦の続いた大陸の戦場に立った祖父。二人がどういう思いで孫の私に軍隊の思い出を語ったのか、もう聞く事は出来ません。ただはっきりしているのは、二人とも戦争の悲惨さについてはともかく、自分が属した「軍隊」と言う組織への恨み言や愚痴は一言も口にはしなかった、と言う事です。 祖父たちの話を思い出すとき、私は「戦争に反対する」と言う当たり前の事と同時に、恐らくは二人と同じ思いで「国を守ろう」としている人々への感謝の気持ちもまた、新たにする事にしています。
2005.02.23
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2月19日(土)、テレビ朝日がまたバカな番組を放映していました。「稲垣吾郎のディスクロージャー2」です。「2」って事は第2弾なんですね。第1弾は見逃していましたが……第2弾の内容を見る限りはロクなものではないことは容易に推察できます。 さて、この番組のテーマは「現在進行形で動いている歴史の闇=アメリカ大統領、ジョージ・W・ブッシュ大統領の疑惑にスポットを当てる」だそうです。このテーマだけで既に名誉毀損じゃないのか? と思ってしまうのは私だけでしょうか。 内容はさらに細かく5つに分かれていまして、次のようなサブテーマからなっています。<大統領選挙にブッシュの陰謀はあったのか!?>:フロリダ州の電子投票の謎<戦争とブッシュ大統領の関係とは!?>:ハリバートン社との関係<ブッシュ大統領、その人となりとは?>:ブッシュ大統領は大学時代に秘密結社に入っていた?<テロとブッシュ大統領の関わりとは?>:ラディン一族との関係を追う<コロンビア号とブッシュ大統領>:コロンビア号は米軍のレーザー兵器に撃墜された?……アホでしょうか。 別にブッシュ氏を擁護したいわけではありませんが、批判するならするで、もう少しまともなネタを持ってこれないのでしょうか? どれも「ム○」あたりにでも載っているのがお似合いの「デムパ」ばかりです。稲垣吾郎君はSMAPメンバーの中では好きな方なんですが、もう少し仕事を選んで欲しいです。 やれやれと思いつつ日曜になって朝刊を見ますと、今度はコラムでまたバカが「デムパ」を飛ばしていました。2月の13日に、スペイン・マドリードで高層ビルが火災になったと言うニュースは皆さんお聞きになったと思いますが、そのニュースに便乗して曰く。「燃えたマドリードのビルは倒れなかった。つまり、火災になったからと言ってビルが倒壊するのはおかしい。だから、9.11テロはアメリカの自作自演なのだ」 だそうです。もうツッコミ入れるのも嫌気がさしますが、東京新聞は公器である事の自覚を持って、バカに紙面を与えないでください。 こういうバカな番組・紙面作りをしている報道機関が、その事を信じているとは私は思いませんが、うっかり真に受けてしまう人もある程度いることを考えると、こういうデマ同然の情報をまき散らす事の罪深さは計り知れません。テレビ朝日と東京新聞には猛省を求めたいところです。 最後に、件の番組中で、ブッシュと癒着して戦災特需を貪った事にされているらしいハリバートン社が、テレビ朝日の取材申し込みを断った時のメールの文面を紹介しましょう。 「貴方方の取材に対し、貴方方が望むような答を出す事はない。よって断る。我々は米軍の支援を行なえる事を誇りに思う。その為に国内の批判に晒されてもやむをえないと思っている」 最初から結論ありきの人間とは話しても無駄だ、と言うことをハリバートンは良く知っていたようですね。この返答は、安易な陰謀論を弄ぶ人間に対する、痛烈な批判と言えるでしょう。
2005.02.20
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Kimgongsungさんが前々回の日記の後編に対して、日記をアップしました。これまでの主張と変わらないように見えて、少しは変化の兆しが見られますが…… うーん、私は彼女から見れば「テロ支持者(テロリスト)」なのですか。自分では一貫してテロに反対していたつもりなのですが。彼女には以前「ジャングルの法則の信奉者」扱いされた事もありますが、悪レベルがグレードアップしてるんでしょうかね(苦笑)。>私は事実を言っているだけです。自衛隊は人殺しの訓練を行っているし、いざとなれば人殺しをするでしょう。私はむしろ「軍隊」という呼び方の方が、軍隊の本質をぼかしているのではないかと思います。本気で軍隊を差別しないのなら、軍隊を「人殺し集団」と呼ぼうが(本質を表しているのですから)何ら問題ないでしょう。>ナナシイさんがむしろ「人殺し集団」を差別しているのではないでしょうか。「がんばって人を殺してください」と言えばよいのです。そのための組織ですから。アメリカあたりなら多分その言い方で通用するでしょう。 軍隊が殺人を行うのは「本質」ではない、と何度言っても分かりませんか? もう一度繰り返しますが、軍隊の目的とは「国民の守護」です。殺人・破壊を行う能力を持つ事は、その目的を達成するための「手段」です。 貴女が言っているのは、それを持つ事で殺人を行う能力があるからといって、包丁やゴルフクラブを殺人兵器とみなすのと同じレベルの妄言です。 また、本質を表せば差別ではない、と言う言い方にも納得がいきません。「人殺し集団」と言う言い方に敬意がこもっているとでも言うのですか? かつて、江戸時代に罪人を取り締まっていた役人は、罪人と言う「穢れた存在」に触れるがゆえに「不浄役人」と呼ばれ、今でも弁護士には黒を白と言いくるめてでも依頼人の利益を守る事を指して「三百代言」と呼ぶことがありますが、これらは全て差別的な言い方です。身障者に対する「めくら」「かたわ」なども同様です。本質を付けば差別では無いというのは幻想に過ぎません。>何が言いたいかよくわかりませんが……>軍隊が機関銃や戦車やミサイルを持っている「目的」は何ですか?>軍隊の存在する目的が何なのかお考えをお教えください。 国民に危害を加える意志を持って侵攻してくる「敵対勢力」を破壊、除去するためです。 軍隊の装備は全て「国民に危害を加える存在」を除去するためにあります。>軍隊が本当に政府や国民の「手段」であり続けられるかどうか、私は懐疑的です。>一部の人間の意志により軍事行動や非合法活動が起こったとしても、軍事機密として隠蔽される可能性があるとしたら、軍隊が国民の「手段」から離れて勝手に動き出す危険は常にあります。 懐疑的になる事は重要です。いかなるものに対しても、無制限かつ盲目的に信頼を寄せる事は良くありません。相手が力を持つ存在ならなおさらです。 ですが、無制限に不信をもって接するのも良くありません。「信頼できない、なら無くしてしまえ」というのは余りにも乱暴な論調です。「信頼はするが、それを裏切る事はしてくれるな」と言うのが正しい接し方ではありませんか? 仮に貴女が軍人なら、自分を不信の眼でしか見ない人々を守りたいと考えられますか? もっとも、そこで「どんな国民であっても守る」と言うのが軍隊ですけどね。 >北朝鮮軍の数倍の人を「無法に」あるいは「相手の意見を認めない元での合法で」殺してきたアメリカ軍や、そのアメリカ軍を支持し人殺しを支援している自衛隊の前科を問わないのは、まったく偏向しています。>だからナナシイさんが「人殺し主義者」(テロリスト)だと考えざるを得ないのです。 それは「戦争」と「テロリズム」を同一視する貴女の乱暴な見方によるものです。私は二つを分けて考えています。法律上でも両者は全く別個のものです。 ラングーン事件など、北朝鮮と韓国の対立に無関係なビルマ(ミャンマー)を巻き添えにして行われた行為ですし、大韓航空機爆破にしても、犯行の舞台となったのはやはり関係ない第三国のアラブ首長国連邦です。 無関係の第三者を巻き込んで行われるテロリズムと戦争の区別をいい加減付けて下さい。>これは自衛隊の救援活動に対して感謝している言葉であって、自衛隊が来た時に「助けに来てくれた!」と安心している証拠ではありません。たしかに自衛隊が救援活動を行えば、活動そのものに対しては感謝するのが当然でしょう。 あの、言語矛盾してませんか? 「自衛隊の救援活動に対して感謝している言葉」が「自衛隊が来た時に「助けに来てくれた!」と安心している証拠」で無ければいったいなんだと言うのでしょうか? まぁ、貴女はhttp://plaza.rakuten.co.jp/kimdongsung/diary/200501160000/の日記において >そこまで書かれるのであれば、それが「普通」である証拠を出してください。ナナシイさんのお考えの方が「日本人的お人好し」に見えます。 と書きましたね。そこから「たしかに自衛隊が救援活動を行えば、活動そのものに対しては感謝するのが当然でしょう」と言われるようになったのですから、少しは自衛隊(軍隊)の救援活動に意義を認めるようにはなったのですね。これまでの議論が全く無意味でなかった事を知って嬉しく思います。>東南アジアで戦争の取材をしていると「現在でも日本は侵略をしている」と怒られた。 >フィリピンでは2001年山村に爆撃があり、村の人が難民となった。今のその跡地>では外資系企業が油田を掘っている。 (中略)>工場での労働運動を政府が弾圧している。環境基準が日本より緩いので、日本で使え>ない古いプラントを輸出している。東南アジア諸国は基本的に「開発独裁政権」で、>日本はこの政府を守るために(自衛隊を)派兵している。 >8年前ある漁港が爆撃され、その後に港が再開発された。この再開発の資金は日本の>ODAによるもので、地元の人は「第2の侵略だ」と言っている。 (後略)>上の文章は高岩仁さんという映画監督が調べたり聞いたりした「事実」です。 高岩氏がそう言う話を聞いたのは事実なのでしょう。ですが、公式には自衛隊は日本権益保護のための海外派兵はしていませんし、この高村氏の伝聞にはそれを覆す証拠能力はありません。 第一、山村や漁港への「爆撃」を実行したのは何処の勢力なのでしょうか? 自衛隊とは一言も書かれていませんね。 この事件が本当だとして、フィリピンには反政府勢力が存在しますから、フィリピン軍が反政府勢力支配地域への爆撃を実施し、その後の復興を日本企業に発注したと考えるのが自然だと思いますが。内乱の復興の手伝いまで「侵略」扱いするのは言いがかりに過ぎます。>また、こういう裁判もありますよ。>http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ka1484zu/trial/trial_index.html コトパンジャンダムは確かに失敗例です。こうした失敗を繰り返さないようにする事は重要ですが、この件を持って、ODAが無意味であるとするのも、日本企業が侵略をを行っているとするのも暴論です。 例えば、先日のスマトラ島地震の津波被害を大いに低減したモルディブ・マレ島の護岸壁は、日本のODAによって建設され、事業体は大成建設でした。これは失敗なり侵略ですか? >たとえば沖縄では、米軍による有形無形の国民に対する被害があります。あれだけの基地が駐留している様は「占領されている」とも言えます。基地に対する反対運動もずっと続いています。>しかし日本国民のアメリカに対する感情を調査すれば、全体としては好感を示すものが多いでしょう。つまり世論調査は、一部の人間に対する被害を正確に反映することはできません。実際に経済協力などによって、日本企業や日本製品から利益を得ている人もいるでしょう。しかしそれが、日本企業の「侵略」が起こっていないという証拠にはなりません。 同様に「日本企業の「侵略」が起こっている」と言う証拠にもなりません。何が言いたいのですか? このアンケートは「日本を信頼する」「日本の企業を歓迎する」と言う声が多数を占めている、と言うデータです。「一部の人間に対する被害を正確に反映すること」を目的にしたものではありません。それらは別の調査によって個別にケアされるべき性質のものです。 また、企業を歓迎すると言う意見の数字が低いのは、どんな国でも自国の産業を保護しなければならないのですから、当然です。無意味な事を言わないで下さい。>>水島氏にしても貴女にしても、「自衛隊(軍隊)は殺人『しかしない』集団である」>>と言う思い込みが強すぎます。>私の文章のどの部分で「しかしない」と言う意味になっているかご指摘ください。 貴女が度々「人殺し集団」と連呼するのを、私はそう言う趣旨に捉えました。「人殺し集団」と言う言い方からは、自衛隊や軍隊が殺人以外の事を行う、と言うニュアンスは伝わってきません。 >歴史の中でまた現実に、軍隊は相手の人権を奪うものであり、暴走した事実も数限りありません。軍隊が人殺し以外の目的で活動するとしたら、それは「包丁で釘を打つ」ようなものです。包丁で釘が打てないことはありませんが、それは包丁本来の目的ではありませんし、釘を打っている人自身にその意志がなくても、包丁を振り回すこと自体が危険です。釘は金槌で打てばよいのです。>くどいですが、私はここで「包丁(軍隊)はいらない」という主張をしたいのではありません。このような天災で多くの人が亡くなる現状を前にして、金槌を買う気がないのは、命を大切にしていない証拠ではないか、と言いたいのです。 軍隊は包丁ではなく、工具箱みたいなものです。中にはナイフもあれば金槌もありますし、ドライバーも入っています。殺人しかできない単機能の道具ではありません。 だいいち、金槌で殴っても人は殺せます。何度も言いますが、道具(軍隊)の持つ「能力」と、それを行使する「意思」(政府の決定)は区別して考えてください。一緒くたに考えるから、軍隊は民主主義と相容れないと言う暴論に繋がるのです。 民主主義を守るために暴力が行使される事もあるのですよ。民主主義が暴力と相容れないと言うのが正しければ、今ごろ世界はファシズムかスターリニズムによって支配されていたでしょう。>本当に民主主義を標榜するのなら、テロリストだろうが安倍氏のような「反日分子」だろうが、犯罪行為と犯罪者そのものの人権は「区別」しなければなりません。>私がナナシイさんの人権を尊重するように。 私は犯罪者がその犯した罪の重さによって、人権を制限されるのは当然だと考えます。それは「法治主義」というものです。民主主義とは関係ありません。 そして、私から見れば、平和に生きている人々の人権を、己の主張を通すために無法に蹂躙するテロリストは、既に生存権すら否定されてしかるべき存在なのです。
2005.02.14
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ここ数日、政府が自衛隊をスーダン内戦における平和維持軍の活動に投入する事を検討している、という報道がなされています。 このスーダンという国は人口の4分の3がアラブ系(ムスリム)、残りが黒人(大半がキリスト教徒)という見るからに対立の生じやすい構造を持つ国です。それを裏付けるように、1956年に独立した直後から内戦が勃発。72年に一度休戦協定が結ばれますが、83年に政府がイスラム法体系を導入したのをきっかけに再開。実にその歴史の4分の3が内戦によって占められるという、悲劇の歴史を持っています。 第二次内戦の和平会談は、98年に政府側と、反政府組織の最大派閥であるSPLA(スーダン人民解放軍)を除く4派閥の間で始まり、2002年に米国、エジプト、リビアなどが仲介に入る事でようやくSPLAも和平プロセスに参加。2008年にSPLAの実効支配下にある南部諸州の帰属をめぐる住民投票を行う事、国内油田から得られる収益を折半する事、などを条件に、2004年にようやく和平が成立しました。 この第一次、第二次合計で37年間に及ぶ内戦の犠牲者は、推定200万人以上と言われ、また周辺諸国に150万人以上の難民が流出しています。内戦の傷跡を癒し、難民を帰還させるにはまだ相当の年月がかかることが予想され、国連はそのために一万人規模のPKFが必要との見方を示しています。自衛隊が派遣を検討されているのは、この事案です。 しかし、スーダンが抱える問題はこれだけではありません。 イスラム国家であるスーダンでは、一時期アルカイダの浸透が盛んだった事があります。彼らが関与したとされるケニア・タンザニア米大使館同時爆弾テロ(98年)の後、米軍がスーダン領内のアルカイダ拠点に対する攻撃を行った事で、その活動は低調になりましたが、影響力が皆無になったと考えるのは、楽観的に過ぎるでしょう。ちなみに、有名な「テロとの戦争」という言葉は、このとき当時のクリントン大統領が初めて使いました。決してブッシュ現大統領の専売特許ではないことに注意です。 他にも、東部国境地帯では隣国エリトリアとの軍事的緊張が高まっていますし、何と言っても大きな問題なのが、西部のダルフール紛争です。 2003年にはじまったダルフール紛争は南北の内戦とは異なり、宗教的には同じムスリムでありながら、アラブ系と黒人系の人種間紛争という点で、凄惨を極めたものとなっています。戦いは政府の支援を受け、人口的にも優勢なアラブ系民兵組織が優位に進めており、黒人系の多くの村が破壊され、犠牲者は推定で5~8万人以上。難民の数は100万を越え、彼らが隣国チャドへ脱出するにいたって、民兵とチャド軍が交戦するなど、国際紛争の様相も見せています。 現地では虐殺、レイプなどが多発し、国連では「ボスニアよりも多様化した戦術による民族浄化が進んでいる」と報告されています。アナン事務総長はイラクの時には見せなかった強い態度でスーダンへの制裁も含む、強硬手段を用いた紛争解決を訴えました。 今のところ、自衛隊がダルフール紛争に対するPKFとして出動する事は考慮されていませんが、それを考えても、スーダンPKFへの派遣が決定した場合、イラクよりも複雑かつ深刻な事情を持つ地域に出動する事になります。 個人的にはスーダン内戦の傷跡の深さや、ダルフール紛争の悲惨さを聞くにつれ、その復興や解決に日本が関与することについては、特に反対するものではありません。アフリカ中央部にあるスーダンの安定は、アフリカ全域の安定に良い影響をもたらすでしょう。 また、スーダン国内には有望な油田が存在するとの事なので、援助によって友好関係を築く事ができれば、将来の国益に利するところも多いでしょう。 しかしながら、上記のような事情を良く踏まえ、同国の現状を把握した上でなければ、派遣される自衛隊がイラクよりも危険な状態に置かれる可能性は否定できません。治安・衛生状況ともイラクよりは劣悪ですし、米軍もPKFへの参加を予定しているため、アルカイダなど国際テロ組織がイラクからスーダンへ活動の主軸を移す事も予想されます。 何と言っても、自衛隊の人員削減が議論されている最中に、これ以上の海外派遣を行う事には、限界があるのではないかと言うのが、一番の懸念ですね。あるいは、財務省案や民主党案を潰すための実績作りなのかもしれませんが、できればそう言う不純な動機での派遣はやめてもらいたいです。 ともかく、政府には慎重な議論を重ね、かつ万一の事態にも万全の備えをした上で、自衛隊の派遣を検討してもらいたいと思います。 さて、自衛隊派遣となると、おそらく反戦平和団体の猛反発が予想されると思います。今はまだそうした動きは見られませんが、本格的な議論が深まれば、確実に「自衛隊をスーダンに送るな」「アフリカ侵略反対」などの声が聞こえてくるかと思います。ええ、彼らが「軍靴の音」を聞くように確実に(苦笑)。 しかし、スーダン問題は多くのNGOでさえ「活動に限界がある」と感じたほどの状態にあり、民間による救援・援助ではカバーしきれない状態になっています。ダルフールではNGOの多くが撤退や活動縮小に追い込まれましたし、内戦のほうもいつどんなきっかけで再燃するかわかりません。非イスラム圏に打撃を与えたくて仕方がないテロリストの活動も、スーダンへの注目度が上がれば、活発化するのは確実です。 そのような危険地帯で、自分の身を守りながら活動できるのは軍隊だけであり、その行動は「内戦再開の防止」であり、決して侵略などではない(むしろ究極の反戦活動)、と言うことを認識して、無意味な反対運動など起こさないようにしてもらいたいものです。……と言っても、自衛隊叩きは彼らの本能なので無理でしょうが……
2005.02.03
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