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2007.01.05
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カテゴリ: I write
男は小奇麗なレストランの前で佇んでいた。そして、
いつものように迷っていた。メニューに、価格に、
いや、店自体を選択することに迷っていた。
それは、男を象徴する姿だった。
あのときもこうして迷っていた。そして、ようやく訪れた
チャンスを、いともあっさりと失ってしまったーー。

(一)気分が悪い
その日は朝から気分が悪かった。目覚ましが鳴り、
飛び起きたが、あと5分寝ようか、起きようかと迷った。

「こんなことなら、寝ると決めればよかった」
と、損した気持ちになった。
歯磨きをするとき、電動歯ブラシを使うか、普通の
歯ブラシを使うか迷ったが、重い電動歯ブラシを持つのが
うざったかったので、普通の歯ブラシを使った。
しかし、電動歯ブラシほどきれいに磨けていないような
気がして気分が悪かった。
家を出るとき、コートを着ていくかどうか迷ったが、
天気が悪く、気温が低そうだったので、着ていくことに
した。

起きたときから気分が悪かったので、電車では座りたい

電車を待った。電車がホームに滑り込んできた。すかさず
ドアの前に立ち、ドアが開いたと同時に左側に乗り
込んだ。
「ない」
空席がなかった。右側を振り返った。

3人分ほどあいている。踵を返したところで、若い男女が
ドカッと座り込んだ。いかにも“今風の若者”の二人だが、
女性が男性に絡みつくように寄り添っている。3人分の
座席を二人で占領しているのだが、男には注意する勇気が
ない。急行や準急に乗り換える大勢の客が降りる
ターミナル駅で座れるだろうと考えた。
男はふと気付いた。
「暑い」
寒いと思ってコートを着てきたが、飽和状態の湿気と
むせかえるような熱気に、衣服の中が高温になっている
ことがわかった。
「ハーフコートかジャケットでよかった」
男は、重いウールのコートをうとましく思った。
ターミナル駅に到着した。乗り換え客がたくさん降りた
ため、座席があいた。男はすかさず座った。とにかく
座りたかった。座れてほっとした。
ドアが閉まり電車が発車した。
ふと連結部に目をやると、足元のおぼつかない老婆がいる。
ゆっくり、男の方に歩を進める。男はいやな予感がして
顔を上げた。
「し、しまった」
〈優先座席〉に座っていた。老婆が来ないことを祈った。
しかし、その期待はもろくも打ち砕かれ、老婆が
男の前に立った。男はいやな表情を見せることなく、
「どうぞ」
と老婆に言って立ち上がった。老婆は遠慮がちに辞したが、
「ありがとうございます」
と言って男の座っていた座席に座った。
男は空席を探した。
「あった」
空席を見つけ、そちらに移動しようとしたとき、ドアが
開いた。ものすごい数の客が乗り込んできた。空席は
瞬く間に埋まった。
「くそっ」
しかし、男は思い直した。
「あと二駅だ。乗り換えてから座れるだろう」
乗り換え駅まで二駅であることに気付いた男は、次に
乗る電車に望みをつないだ。と、その刹那、電車は
急ブレーキをかけて停車した。車内がざわついた。
「何だ、何があったんだ」
2、3分経過したところで、車内アナウンスがあった。
「ただいま、踏切で人身事故が発生しました。
しばらく停車します。お急ぎのところ恐れ入りますが、
少々お待ちください」
男は気分が悪くなった。
「前の電車に乗っておけばよかった…」
結局、運転再開のメドが立たないということで、
線路の上を一駅近く歩かされることになった。
「遅刻だ…」
男は、果てしなく深くて暗い穴に落ち込んだかのような
気分に陥った。

                    〈つづく〉






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Last updated  2007.01.05 16:32:57
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