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部屋の片づけをしながら、ぱらぱらと三年前の手帳をめくり、今年のカレンダーと見くらべて「あっ」と思う。 神さまはときどき、何気ない顔をして、ぼんやりのわたしでも気づかずにいられないような奇跡を起こす。 雪解けとともに、少しずつ体も楽になってきた。 ほぼ寝たきりだったのが、調子のいいときに起き上がって家事をしたり、自宅でマタニティヨガをしたり。 24時間嵐の海で小舟に揺られている気分だったのが、バス旅行の山道くらいに感じられるように。 中の人も順調に育っているようで、真夜中、あお向けに寝ていると、おなかのあたりがむずむずして目がさめることがある。 そんなとき、思い出すのはロシアの小説「ソーネチカ」の一節。 主人公で新妻のソーネチカが、夜、ベッドの中でひとり考えごとをする場面。 「(ソーネチカは)目の前の暗闇と同じ暗がりのなかで、大きさにしてマッチの四分の一くらいの小さな手が、はじめての住みかの柔らかい壁をそっとなでているところを思い描いて、にっこりほほえんだ。」 自分の中にもうひとり別の人がいる、というのは本当にふしぎな感覚。 毎朝、目がさめるたび、「あ、おなかに人がいるんだった!」とびっくりする。 *月が変わったら図書館に戻る予定なので、あたたかい日には、リハビリをかねて軽い散歩をはじめています。 この間は、戌の日に合わせて、実家の父が送ってくれた水天宮の腹帯を巻き(腹帯って、思いのほか巻くのがむずかしい!)、近くの神社へお参りをしてきました。 この季節に外を歩くと、残雪のあいだから顔を出した土がぷんと薫る。春のにおい。 あちこちで、雪解け水の流れる音もする。 おなかの中にもにおいって届くんだろうか…と思いながら、いつもより余計に深呼吸する。 * 数ヶ月ぶりに、ひとりで本屋さんにも行った。 冬のあいだ、何度かくまに連れていってもらったのだけれど、ときどきしゃがみこみながら店内を一周するのがやっと…というありさまで、気になる本を手にとったり、ページをめくって楽しんだりするゆとりはなかった。 入ってすぐの、季節の絵本をならべたコーナーの前に立ったとき、真夏の小犬が水を欲しがるみたいに、目が本をもとめているのを感じた。 「百年の家」という、ある家の歴史を美しい細密画で描いた絵本のページをめくりながら、「これ、うちの図書館にも欲しいなあ」と思い、次に、「いつか、小さい人と一緒に絵本を読む日が来るかな」と思う。 自分が赤ちゃんのおむつを換えたり、ミルクを飲ませたりしているすがたはうまく想像できないのに、その日のことを考えると、わくわくして鼻血が出そうになる。 この人が、わたしにあたらしい夢を連れてきてくれた。
2011.02.27
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おひさしぶりです。年明けからばっさばっさと降りつづいていた雪も、ようやく小康状態。町じゅうに積みあがった雪の壁が融けてしまうには、まだまだ時間がかかりそうですが、昼間には太陽の顔が見えるようになりました。実は、子どもを授かりまして、昨年末からつわりで寝込んでおりました。寝てもさめても気持ちがわるく、ずーっと船酔いみたいな状態。嗅覚は敏感に、味覚は鈍感に、食べられるものがうんと少なくなった。一日じゅうだるくて、立ち上がるだけで吐き気とめまいが。そんなわけで、仕事はお休みし、家事はくまにお願いして、寝床で本ばかり読んでいます。図書館や本屋さんにも行けないから、家にある本をしみじみと再読。いちばん具合がわるいときは、ばななさんと高山なおみさんの本しか読むことができず、村上春樹、小川洋子、佐藤多佳子、いしいしんじと読みすすめてきて、最近はクレスト・ブックスのジュンパ・ラヒリやアリステア・マクラウドも読めるようになりました。大事にとってあるサン=テグジュペリの「夜間飛行」を読むころには、料理をしたり、図書館のカウンターに座ったりできるようになっているはず。体の中にあたらしい人が発生して、しかもその人が、この体の養分を使ってすごい勢いで成長しているという特殊な状況の下、布団の中で身体を丸めてじっとしていると、自分は動物で、この体は借りものなんだなあと強く感じる。思い通りに体を動かせるのは、それだけで、奇跡みたいなことなんだった。誰に教えられなくとも、体は優先順位を知っていて、生存に必要な機能をのこし、あたらしい人の芽生えにエネルギーを集中するように、自動的に切り替わったのだろう。そりゃあ吐き気もするだろう。今まで通り動けるはずがない。わたしが台所に立てないことを知った友達は、お正月、九州から手づくりのおせち料理を送ってくれた。最近赤ちゃんを産んだ友達は、気分が楽になるように…と香りのいい入浴剤をプレゼントしてくれた。実家の父と妹からは、気の早い安産祈願のお守りやら腹帯が送られてきた。たくさんの人に助けられて、わたしもおなかの中の人も果報者であることだ。とうぶんのあいだ、この体はあたらしい人よ、あなたに貸そう。好きなように使って、居心地もよくして、どんどん大きくなっておくれ。と考えることにしたら、すこし気が楽になった。はたらかない頭でわたしがそんなことを考えているあいだにも、子はすくすくと育っている。ちょっと前まで豆みたいだったのに、もう人間のかたちになって、小さい心臓をぴこぴこ動かし、手足を曲げ伸ばして寝返りを打っている。自分の体調はめちゃくちゃだけど、あたらしい人の変化は本当におもしろい。長時間パソコンに向かうと酔ってしまうので、更新やコメントのお返事など気長にお待ちいただければさいわいです。2011年が、みなさまにとって、実り多き年でありますように。
2011.02.06
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