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意外の意外、全く思いも寄らぬ人から、「 骨を刺すような、肺肝を抉(え)ぐるような皮肉を云われるので怖い 」と一本酬(むく)われた。どう考えても何の事だか思い当らず唯(た)だ独り当惑している。筆稿と座談と何れにしても即興即感その場限りで、決して個人的にアテコスツたり、或る一人を傷けたりなんかしないことを繰返して声明しておく。
2026年03月31日
何等かの暗示を受けて人の琴線に触れた時にサッと音立てて響きを発す、それがその日その日の断想なのだ。昨の断想は今の断想でなく、今の所感が自ら明日の所感と違うであろう。一切は時の波浪中に投げ入れて其場限りに「忘れ」て行く。
2026年03月31日
人 生 日 録 生 活
2026年03月30日
生活苦に悩み抜いている或る清貧な人格者を訪れる。その壁に張られた紙片に「今日は死ぬる日、我等の助かる日」と認められてある。何という深刻悲痛な文字だろうと暫く主客沈黙に落ちた。
2026年03月30日
真空の美を味い、全無の粹(いき)に徹するまでに生活を鈍化する。そこには何者よりも犯されず、而(しか)して何人をも犯さない光風境が自展する。
2026年03月30日
芥箱中に捨てるべき屑物のみを捨ててある家は必ず栄える。捨てるべからざるもの即(すなわ)ちまだ食べられる冷飯や、少し汚れた足袋や腰巻を捨ててある家には常に内訌(ないこう)が絶えない。芥箱は最も厳正なる社会科学の実験室だ。
2026年03月29日
必要以上の蓄積は一種の盗みだ。法の制裁を免れているだけに罪は却って深い。生活は唯(た)だ「必要を限度」とする。限度を越えたるものは成るべく社会的意義の下に解放するのだ。それが一身の幸福を守る安全道でもあり、現在に於ける最も堅実なる生き方だ。
2026年03月29日
一生の仕事は唯(た)だ「破る」ことだ。一切万事を破って進みさえすれば可(よ)い。
2026年03月28日
総てを絶望して一切を断念することは容易でないが、併(しか)し光は常に絶望の底から発し、生活は「人間断念」の時より改まるものだ。
2026年03月28日
「つきあい」という名の下に騎虎(きこ)の勢で身分不相応の贅沢に耽った日と、空腹を忍びながら寒風吹かれて活動を続け、ヘトヘトに疲れて家に帰って粗菜で夕食する日と、その心身に興える不愉快と愉快、暗い呵責と明るい清襟(せいきん)。
2026年03月28日
一日に三時間、一切を忘れて遊べ。山林でも公園でも、活動でも芝居でも敢えて方法手段の高下を選ばない。唯(た)だ「無」の世界に没し純然たる忘機三昧に入って生の享楽に耽るのだ。併(しか)しそれが心の休養であり、活動の泉であり、創造力の母胎であらねばならぬ。
2026年03月27日
減食する、入浴する、外出する、それだけで心機転換、軽い病気は治るものだ。飽食する、横臥する、淫業する、心機は寧(むし)ろ転腐(てんぷ)して自ら健康を奪われるのが当然だ。
2026年03月27日
長い自分の過ぎ去った足跡を顧みると、悩ましい苦難の多かった時が最も正しく生きて来た時であった。安楽に衣食住の恵まれた日よりも、明日の米代を案じ苦しんだ夜の方が正しく進歩している。他人に十円の金を施す夜よりも、自分が一円の金を借りに歩いた日の方が人間が生きている。
2026年03月26日
四十の坂を越えたものは誰でも常に動脈硬化に注意して若返法を講ずることだ。若返法の要件は努めて「若素」を取入れるにある。野菜でも肉類でも新しい若いものを選び、服装から装身具から若い色を採る。そして明るい家に住み、清らかな空気に浸ることだ。若(も)し夫(そ)れ精神的の若返法に至っては絶えず「読書」に耽るにある。
2026年03月26日
気分の変ることは決して悪いことではない。気分は寧(むし)ろ常に転換するのが一の長生法だ。大目的、大終局、大方針てなものに変動ない限り絶えず転気移精を試みるのが活力素の発作法だ。
2026年03月25日
「懺悔を売る商買」が地上で一番罪悪の深いものだ。
2026年03月25日
職を失ったものには容捨なく生活の脅威が迫り来る。飢餓は節を売らざるものに訪れる光栄の災禍だ。飢えるものは心が荒(すさ)ぶ。生活に脅かさるれば聖人も忽(たちま)ち猛獣に化する。情けないことではあるが人間として如何(いかん)ともすべからざる行進曲か?
2026年03月25日
世間がどうだの、人の口が何うだのと外に向かって神経を疲らす不徹底な人がある。そんなことは畢竟(ひっきょう)何うでも構わないことだ。要は汝自身の内省如何(いかん)にあるのだ。その行動が汝の心にさえ苦痛でなくば其れで善いのだ。汝が安眠さえ得るならば高美豪壮の殿堂も決して世の呪とはならぬ。
2026年03月24日
憂鬱は「暇」から生れる。故に暇を無くすることが憂鬱退治の秘訣だ。神経衰弱なども少し多量な仕事を課すると早く全治するそうだ。
2026年03月24日
米国では動脈硬化で死ぬるものが癌で斃れる人の七倍を占めている。されば動硬を「死の王様」と呼ばれ疫病界のギャングとされている。その予防としては菜食主義より外に手段がないので盛んに肉食排除が流行している。若(も)し菜食で三代を貫いた後の人は必ず二百歳までの生命の延長は難くなかろうとさえ叫ばれている。之に聯關(れんかん)して最近欧米人の間に、日本の僧堂生活の研究熱が高くなって来たそうだ。
2026年03月24日
天晴れて春服歩く人の群れ
2026年03月23日
人相というものはその人の生活内容によって種々変って行くものだ。少し気を付けていると、その人の日常心事がありありと顔色の上に現れて来る。三日見ぬ間の桜かな、十日、一月、半歳と時日を隔(へだ)てて会った時の第一印象ほど最も正直にその人を語っているものはあるまい。
2026年03月23日
料理屋は食うために馳走を作るのではなく、贅沢な客に捨てしめるために佳肴(かこう)珍物を造っているのだ。二次会は飲むため食うためではなく、美酒を撒くため、珍味を捨てるための享楽世界だ。罰が当ろう。
2026年03月23日
現代人は底の底でヤケクソ気分に溢れている。その日暮しの生活に浸っている傾向が見える。恐るべき思想海の悪気流、各自にシカと腹帯を締めよ。危いぞ。
2026年03月22日
生ける以上、食うことが一番大事だ。併(しか)し豊かに食い得るものは多く魂を失っている。食う以上に大切な魂の糧は飢(ひも)じい人でなくては味われないらしい。地上に於ては飢えたる人は最も幸福だろう。
2026年03月21日
始終生活難中の人、シケる、イジける、ズズ汚くなる、だから人にイヤがられる、敬遠される、益々コジれて孤独者になる。故らに元気に語っても木に竹を継いだようなギコチなさ。何れも半ば死しつつもある廃人の姿だ。こんな人はインテリ層に最も多い。
2026年03月20日
学校教授と娼妓(しょうぎ)というものは同じ心理傾向を持っている。1週4時間、1時間いくらに当る、是ぐらい貴重な尊い肉体だと頭の中にコビリ付いている。だから他の仕事に使われる時には直ぐ安いとか高いとか自認する。娼妓と教授、何と面白い対照じゃないか。
2026年03月19日
生活苦は人間を骨抜きにする。食えぬが悲しさに節を売るものあれば、気楽に食えるものまで食えぬと吹聴して人間市場に腐肉を提供する。
2026年03月19日
望月百合子女史から「生の倦怠なんか一掃して、飽(あく)まで元気で長く長く日誌を私共のためにお書き下さい」と仰せ越される。「私共のために」は嬉しく響きました。そして生の倦怠は私の可なり長い間の持病です。人生というものの真景、自己というものの本質、あるが儘ということの意義、そんなものは畢竟(ひっきょう)人間言葉の遊戯だとさえ思います。倦怠しても休まれもせず、厭世と云っても死なれもせず、スーと起きてポカーンと考えて、ゲナーツと働いてグスーツと寝るそれが我等のつれづれの其日です。誠に困った余生です。
2026年03月18日
半ば朽ち果てた住家がある。それが自分の所有なるだけに一の禍となる。自分所有の家さえなくば病気保養のためにも何処へでも行かれる自由が恵まれる。他へ行って家賃を払うよりも古ぼけた我家に住めばタダで居られる。そのタダが存外高い代金を払わされているのだ。腐った空気を吸いジメジメとした湯壁に横わって自ら生命を縮める。家を有つものの不仕合せを考えさせられる。人間至る処に借家ありだ。
2026年03月18日
たとい廃墟の瓦を拾い集めていても、時人(じじん)の活動以上に生活意義を有(たも)つことがある。
2026年03月18日
人生日録・処世 生 活
2026年03月18日
憎まれまいとする。年が年中好い児ばかり通ろうとする。敵にも味方にも好感を持たれて、その間に巧みに甘い汁を吸おうとする。一人の赤ッ面なくして大芝居の打てよう筈がない。
2026年03月17日
四分の一の人間を全額に買上げるのは一の堕落教唆罪だ。
2026年03月17日
団体生活とは互いに個性を殺し合う処だ。侮辱だの屈従だのいう堅くるしい意識を有する頑固者の入るべからざる地獄のような楽園だ。
2026年03月17日
直ぐ「ムキ」になる人がある。正直ではあるが一寸面倒だ。その煩瑣(はんさ)たるや、何でも「茶化」して行くズルイ人と同じ程度だ。「志士」は尊むべきも親しむに由なく、「老獪(ろうかい)」は慣れ易くして疎(うとん)んぜられる。
2026年03月16日
口の人に答うるに腹の芸を以てするは全く無用なり。
2026年03月16日
近代の人間は人一倍にひどく怒るが、成るべく当の敵には聴えぬように怒る。聴こえたら憎まれるのが嫌なのだ。
2026年03月16日
どこ見ても天に膨らむ春の山
2026年03月15日
今様人格に、成るべく貧乏を売る型と、成るべく裕福を装う型との二種がある。ところが一人で此二種を併用するものが多い。即(すなわ)ち若い女に向っては裕福そうに、同性仲間では貧乏そうに当代紳士術も可なり苦しげだ。
2026年03月15日
「真面目」でさえ「腐る」と鼻につくのだ。度を過ぎた誠意なんか却って人を害するものだ。
2026年03月15日
人間は不平の動物だというが、ドンナに身分以上の幸福な地に置かれても必ず何等かの口実名目を求めて不平を鳴したがる性癖を持つものだ。一つの処に長く留って平安を得ていると、何だか意気地のない人間のように自他共に云いふらす。そこで実は内心に満足を得ていても表に満足がると卑怯者のように思われるから、わざと不平があるが如くに装うて自他を欺(あざむ)く。此種の不平病者は所詮治療の効のないものだ。「満足の不平」さてさて皮肉な処世法もあるものかな。
2026年03月14日
静かに人の虚僞(きょぎ)を看破するは明なり。即(すなわ)ち化の皮をヒンムクは酷なり。明や尊むべく、酷や慎むべし。僞(にせ)を僞のままに看(み)、化の皮を化の皮のままに見るを雅量とする。
2026年03月14日
眼力の鋭きものは不幸なり。他人の心理状態の微細に観らるるは却って苦痛なり。眼は常に半開なるを貴び、人を見るに明るすぎるを忌むべし。
2026年03月14日
談話に要する返辞は一にて可なり。ヘイヘイ、ハイハイは返辞の濫費なり。人間安売の声なり。
2026年03月14日
年が寄れば金でも撒かざれば女など近付くものにあらず、徳なくして青年を集めんとすれば「血税」の負担は元より当然。
2026年03月13日
「自分はそうは思わぬが」と前提して、第三者の声を偽造して其処に悲しき自分を生かさんと粉飾するものがある。渡世の術が手に入り過ぎて却って危険だ。平凡に素直なのが一番尊い。
2026年03月13日
無理想と思われては苟(いやしく)も 估券 (こけん)を傷ける。そこで一夜漬の理想を製造して「深遠なる自己」を競売せんとする。
2026年03月13日
大モノに取入るの秘訣は、何か一ツ皆に知れては困る痛い自分の秘密を思い切って其人の前にブチ投げることだ。そして天上天下自分の暗い弱点を知るものは「閣下」だけだと持ちかける。たとい不成績としても五部以上の成功は必ず請合だ。何(どれ)も学問だ。 一ツ試して見たまえ。
2026年03月12日
「謹慎」の象徴としては白足袋はいて絶えず口の中でお念仏を唱えて見せるにかぎる。大きな声を出したり、苟 (いやし) くも睨まれた人と物を云うたりしてはイケない。それでも信ぜられなきあ、頭髪を伸ばし頬髭でも剃らぬことだ。
2026年03月12日
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