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性に根ざした愛は徹底せざる間のみ花だ。底に徹すれば忽(たちま)ち冷えて枯れる。故に常に不徹底を味うものにして永き享楽の夢に浸り得る。それが即(すなわ)ち徹底境なのだ。全部を奪うことは即ち全部を失うことだ。
2026年05月31日
女より不倫の恋を投げられたる時、「同情します」と泣いた一語、それは永遠に禍して、その人の一生を引きづられて苦しみ抜くものだ。真実から出た最初の一語、次から次へと虚為に彩られて行く。
2026年05月31日
映画館の闇に手を握った機会に、処も名も知らぬ若い男女に性の結合が恵まれる。
2026年05月30日
男と女とが徒(いたず)らに相寄ったからって、終日徒らに喃々 (のうのう) と語合ったからって何でもあり得ない。魂と魂との接触を欠いたものは一堂尚千里の差だ。
2026年05月30日
全部を捧ぐる心は即(すなわ)ち全部を奪う心だ。而(しか)してそれが恋の真実だ。性の望み達し得られざる時に相手を殺す。その行為は悪としてもその心は誠実だ。憎みの刃を以てしては容易に人の心臓は貫かれざるも、愛の剣を以てはたやすく人の生命は絶ち得るものだろう。
2026年05月29日
大なる愛は常に残忍の形を以て現われるものだ。飢えに叫ぶ赤児に乳を与うるは慈悲、更に忍んで或る時間内与えざるは更に大なる慈悲、両性の愛は、愛するよりも寧(むし)ろ愛を捨てるを以て大なる愛とされる場合が多い。情に動かされて相抱くも愛、涙を呑んで突ッ離すのは更に大なる愛だろう。
2026年05月29日
一人の煩悶、二人の幸福、三人の争闘。
2026年05月29日
周囲から毒づかるれば毒づかるれる程、恋は熱くなる。更に親兄弟から讃められても讃められても恋は冷めて行く。愛は自然だ。恋は更に自然だ。自分自身としても如何ともすることのならぬ力、そこには第三者の存在があり得よう筈がない。けれども遠く山を隔て海を越ゆれば相見るの機は奪われる。そこには去る者は日に疎 (うと) しの真実が味われるも是非なし。
2026年05月28日
くろの女は 墮 (だ) する前には考うれども、堕しての後に更に良心動かず。しろの女は 壊 (くだ) ける前には堅けれども壊けての後に自ら煩悶絶えず。彼は汚前に人か、此は汚後に人か、獣を去ることいずれか遠き。
2026年05月28日
旅人の持つトランクには、角に丸に菱に大小無数のレーベルが貼られている。その多いほどが足跡の広さを示す誇とされている。性の上から見たる男性は素より、特に近代婦人、それは皆トランクのような生活者だ。
2026年05月27日
危険を 冐 (おか) さざれば真の愉快なし、享楽には必ず何等かの惨苦 (さんく) を求めて自ら色彩を添ゆ。白刃を懷(なつ)いて恋の勝利を夢み、黒影を踏みて愛の甘味に酔わんとす。心理作用の機微察すべし。
2026年05月27日
肩書と財産、現代結婚の必須条件なり。肩書は多く男より競売するもの、財産は多く女より持参するもの、容貌の美醜は問うに及ばず。節と操とは殆んど無用の虚飾のみ。
2026年05月26日
素純と厚顔無恥とは結果を一にする。ことほど左様に紛わしい形態で人の感情に迫るものだ。
2026年05月26日
男女二人相対して一室中に平然として語る。何等 疚 (やま) しき関係なきなり。若(も)し一点曇り初(そ)むるや故(いたず)らに窓を開き、差して用もなきに 頻 (しき) りに他人を呼ぶ。蓋 (ふた) し公開を装える秘密の 哀愁 (あいしゅう) なり。
2026年05月25日
甲と乙との男に通じ、両方より金を貪(むさぼ)る女あり。之を淫売と呼べば 怫然 (ふつぜん) として怒って曰く。妾は淫売にあらず女将なりと。正に知る「女将と云う淫売」なり。
2026年05月25日
男女関係は誰にも疑われ易い。けれども一関だに正しければ疑いは終に晴れる。いかに技巧を凝らし粉飾を施したって、一関ある以上決して永く包み果せるものではない。
2026年05月24日
恋の暗路には一番に親しいものが第一番の障害物だ。義兄と相親しむ妹にはその姉が軽く呪われる障害物であり、若き燕と眤懇たる妻にはその夫が尊敬される邪魔物である。親密なる友と友との間には恋の争闘は起り易く、血族間の両性には絶えずある秘密が蔵されるものだ。
2026年05月24日
或る瞬間を除いては愛の絶対性はあり得ない。次の瞬間には髪の毛の赤いのや白粉の 斑 (まだ) らが眼に着く。心のギャップが発見される。
2026年05月24日
若い独身者は至る処に青山を夢みるのは寧(むし)ろ当然だろう。中老インテリの徒で郷土に妻子を残して外遊したものは必ず尻が臭い。何等かの汚物が浸み附いて洗わんとしても洗い得ない人間苦が潜んでいる。売笑婦とか売春婦とかの職業婦人ならばサヨナラで問題はないが、相当良家の子女、それが処女であった場合、新歸朝者(しんきちょうしゃ) は幾多の辛い苦杯を仰がねばならぬ。国際インテリの愛欲は到る処に多い。
2026年05月23日
近代人は刺激の先鋭化を欲する。それが恋愛の上にもハッキリと響いている。今の女性は相当浮世の辛酸を 甞 (な) めた苦労人を 需 (もと) める。今の男性は生活苦に追われて、オモチャのような処女を忌(い)み嫌う傾向が生れている。つまり肉としては「最初の人」を要求するが、恋としては「最後の人」を掴みたいという心理作用だろう。
2026年05月23日
多くの異性を知るものは一人の異性を知らないものだ。真に一を理解するものは決してその他の多くを解さない。
2026年05月23日
恋に燃えた二人は万難を破って結婚した。そして半年を経た。一日相携えて郊外の春に散歩する。二人の眼は絶えず他の幸福を羨むが如く往来の若い男女に注がれる。本望を遂げたる悲劇は茲に第一幕を開いている。
2026年05月22日
姦通は全く醜い淫楽であっても、夫に対する一の復讐だと叫ばれる。と同じく畜妾は最も汚い淫楽であるのに、妻に対する一の報復だと称せられる。
2026年05月22日
性欲の自己満足を問えば百人中九十九人まで之を行う。最後の一人は唯(た)だ真実を答えざるのみと。聖者は常に嘘を吐くものなり。俗衆は淡き純一なり。人間総ての暗い罪悪は百人中の一人が独醒を装いて九十九人の共犯者を陥るに名づくるものなり。
2026年05月21日
男は浮気、女は移り気、これが現代だ。良人、情人、愛人、耳の恋、眼の恋、肚の恋、さてさて複雑な世の中だ。
2026年05月21日
途上若い女と立話した。そこを知人が通った。知人は必ず見て見ぬ振りをする。ハハア臭いなと思ったのだ。見られた男は何かの機会に必ず説明しようと努める。自ら潔白を広告したいのだ。
2026年05月21日
年増男女にして新しい変態の恋を得たる時は、何となく血色滑かに紅艶を放って見えるものだ。それは酒色に包まれた内行の「皮膚告白」だ。そして或る躓きに当面すれば忽(たちま)ち顔色は蒼ざめ来る。即ち罪の「血色自白」だ。
2026年05月20日
普通の信書は多く上部の封が切られる。恋人の手紙は妙に下部の封が切られる。それは口唇の香を長く失うまじとする熱情から湧く反映作用だ。ソッと便所に持って行って読むような手紙でないと真実に甲と乙とが結合していない。便所は人間の魂から魂への無電局だ。臭気を伝って流れる電波は骨にまで感徹するものだ。
2026年05月20日
「理想の女」など誰でも口には云うけれど、実際問題としてそんなものはあり得ないのがホントだ。理想と云うよりも「縁」だと或人は云った。げにや縁というものがあって初めて理想化されて行くのが男女の関係だろう。
2026年05月19日
或る僧堂の一雲水に「皮下に燃ゆる青春の血を如何にするや」と問うた。多くは「実験が無いから割に抑制される」と事もなげに答えた。そして遊郭に遊ぶ客の多くは妻子を持つ男である事実を挙げて「実験」の恐しさを語った。
2026年05月19日
結婚準備として情夫を造る「処女」が多く、蜜夫と情を結ぶ便宜法として結婚する「良妻」が少くない。
2026年05月18日
金づくにあらずと云う女は、助けて下さいと常に 強請 (ゆす) る女よりも、十倍以上に金を搾り取るものなり。不思議や男は前者に熱く後者に冷かなり。
2026年05月18日
脱線のみに警戒すれば内より漏電の災起る。油断のならぬ時節なり。而(しか)して人は生殖器を有する電車なり。
2026年05月17日
年若くして職業を失って自殺するものは左程に多くないが、恋人を失って 悶死 (もんし) するものは割合に多い。人の生命は食よりも性にあるか、否か。
2026年05月17日
思い切って焼餅をやき得られる程の強烈な異性が欲しいと思う日がある。
2026年05月16日
或場合、何人も色情狂たらざるもの無し。之が心理療法は唯(た)だ「老」の一字あるのみ。老いん哉、老ゆれば狂たらんと欲するも、狂たらしむべき敵手を失えばなり。窮したれども亦慰むべきかな。
2026年05月16日
今日、13時予約を入れ行きつけの理髪店で散髪をした。シャンプー、顔そり込みで4400円だった。
2026年05月15日
「女の瞳を見る男は負ける。女の鼻を見る男は勝つ」というが、また「男の口を視る女は負ける。男の眼を視る女は勝つ」という。その心理作用は説明の限りにあらず。
2026年05月15日
若い男と女が相対してニコッともしない真顔を見ると、却って一切が読み得られる。
2026年05月14日
女が見て美人と賞する女は男が見て左まで魅惑されない。女の仲間にチヤホヤ 囃 (はや) し立てられる男は男の中では 寧 (むし) ろ醜の部に属する男だ。皮肉なる男は女の顔よりも手足の美に惹かれる。遊郭の女は色の白いよりも歯の美しい男に魅せられるとか。
2026年05月14日
彼は絶えず自制し難き本能に悩み続けている。その枯淡 (こたん) な聖職に顧みて、その精力の余りに旺盛なのに人知れず泣き通している。而( しか) して、酒に隠れて自己陶酔に一切を忘れんと努める。而 (しか) も「酒魔」のために却って業火を煽 (あお) られる結果の皮肉を感じている。拜 ( おが ) まれる人は拜める人を怨み、中心に覚 (さ) めたる彼は世上 (せじょう ) の眠れる人を 羨 (うらや ) みつつある。今夕「一時の痺 (しび ) れ 」に浸って明朝更に呵責の重荷を苦しみ抜く。奈何 ( なん ) ともし難い。その矛盾性は唯(た) だ「時の裁き」に待つの外に解決の道なし。所詮人間は終に人間なるかな。
2026年05月13日
ドンナ醜い男女でも、髪の色、皮膚、手の指、爪、歯、唇、眉毛、眼、瞳子 (どうし)、鼻、耳、足の裏と点検し来れば、何処かにソレ相当に人を引く力を具 (そな) えているものだ。美は全体としての調和を要する。枯木一枝、それは部分として殺風景であっても全山としては尚幾多の詩趣 (ししゅ) を添えるようなものだ。
2026年05月12日
青年の恋する美は「顔」にのみある。中年の憧れる美は「体」にある。「 叛 (そむ) きたる女を思う秋の暮 」、「 呪わしや恋しや女秋の暮 」などいう古人の句の思出される今日此頃だ。
2026年05月12日
両性は、特に男は誰でも多少とも「残虐の美」を愛する。後ろ手に縛り上げて鞭打つと女は一段と美しく見えるものだという。よく若い夫婦の間に訳の解らぬ喧嘩が絶えなかったり、美妻の膚に生傷の斑点を見るなどは皆それだ。恋は凄艶を最上条件とするものか。
2026年05月12日
五万円か、美しい愛人か、二ツに一ツと問われた時に今の青年は何れと答うるや。百万円か、十年の若返りか、二ツに一ツと問われた時に今の六十男は何れと答うるや。現代は唯(た)だ金と女よりない世の中だ。「二ツに一ツ」と云う問が既に意味をなさぬ。二ツながら 雙手両掴 (もろてりょうづかみ) と甘い夢を見るものばかりだと高笑い。
2026年05月11日
失恋の男は 燭光 (しょつこう) まばゆき遊郭に走って自ら苦悩を慰めんとし、失恋の女は 燦爛眼 (さんらんがん)を奪う百貨店に入って半日の忘愁に過さんとする。
2026年05月10日
男性美の権威は化粧水を待って落ち、女性美の芳香は新流行を追うて 褪 (あせ) る。
2026年05月10日
人 生 日 録 夫 婦
2026年05月10日
新緑や川辺で遊ぶ子らがいて
2026年05月09日
嫉妬に燃ゆる夫は若き妻に向いて、「 ホントのことを白状せよ、屹度 (きっと) 許してやる 」と呼吸苦しく迫った。「 許してくれればホントの事を云う 」と妻は云った。そして妻は心底深く他の男性を慕っていることを白状した。夫は忽(たちま)ち怒髪 (どはつ) 天を衝いて殆んど狂気の如く若妻を殴って傷(きずつ)けた。そして直ぐ後悔の 臍 (ほぞ) を噛んで苦しみ悩んだ。「真実を語れ」と要求しながら「真実」に触れることを恐れた。「真実を求むるものは却って「虚為」を望んでいるのだ。若(も)し妻が「嘘の告白」を試みたら彼は疑いつつ尚平和の夢に浸ったであろう。真実に徹底することは、人生の最も憧れながらに避けようとする危険線だ。
2026年05月09日
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