ビストロフの橋

ビストロフの橋

October 2, 2005
XML
テーマ: 連載(82)
カテゴリ: カテゴリ未分類


 男は、己のなすべきことを見つけだした。
 もうすでに絶えて久しい、魔法族の旧家が住んでいた館。かつて、呪いの粋を極めたとされ、人々から恐れを持って見られた彼らは、その技術の全てを秘伝書に書き示し、館の中心、歴代当主の書斎に隠したと言う。
 あまりにも強力に過ぎる呪いに、自らをも危険にさらしてしまった彼らは血を跡絶えさせ、秘伝書は書斎に隠されたままとなった。
 何人もの『解呪師』や、好奇心旺盛な魔法族、欲に駆られた盗賊、魔法省の役人たち、大勢の人間が館に入ろうとし、その全ては失敗した。
 館には、考えうる限りの呪いが仕掛けられていて、玄関ホールすらも通り抜けることができなかったのだ。
 男は、この館こそが自分の探し求めていたものだと、そう考えた。
 娘をあんな姿にしたものが呪いであるならば、かの秘伝書にその呪いについても書かれているかも知れない。治す方法も。
 あるいは、自分自身もまた。呪いに捕まり、命を落とすこともあるだろう。それでもいい、男は半ば自虐的に心の中で呟いた。

 以後、男は危険な呪いと向き合って暮らすこととなった。常に死が、死よりも恐ろしい呪いが、男を捕えようとてぐすね引いて待っている。それでも。

 十年後。
 男は傷だらけの姿をある宿に現わした。
 人々は誰もが男と酒を飲み食事をしたがった。男がすばらしかったからでも、偉かったからでもない。
 その男だけが、安全だったからだ。魔法社会から孤立し、誰とも親交を亡くした男には孤独という影はありえても、裏切りという闇はありそうになかったから。
 宿の食堂では、口以外を仮面で覆った人々が二、三人づつ集まり、ボソボソと囁きを交わしていた。
 十年前から何かと話題になっていた『あの人』とその取り巻きである『死喰い人』の行状に付いて、噂をしあっていたのだ。
 十年前にはそれほど驚異とは感じていなかった。が、今ではどうすることもできないほどに強大な組織を作り、魔法世界全域を席巻するまでになっていた。
 誰も信用できない、なのに一人ではいられない人たちが顔を隠してやって来ては、おおっぴらに言うことのできない恐怖や不安、不満を吐き出していくのだ。
 「また一人、殺されたよ」男の脇に座った魔女が、沈痛な声を搾り出した。
 「ケント州のあの町に、『闇の印』が上がった。その下で、ティブルス・ボーンが見つかったとさ」魔女の相手をしている魔法使いがポツリと言った。

 「・・・だったら、親父さんが黙っていないだろう。あの人は息子を溺愛してた。きっと復讐に・・・」もう何年も口をきいていなかったような、抑揚のない言葉を乾いた唇から押し出した男の目に、首を左右に振る魔女と魔法使いの姿が映った。
 「・・・いけないんだよ。復讐になんてね」魔女の声はさらに沈んだ。
 「彼が、最後のボーンだった。・・・ボーン家は全員墓の下さ」魔法使いが言った。
 男は、十年ぶりに感情を取り戻した。枯れたはずの涙が両眼に溢れ出た。ボーン家の人たちにはとても世話になったというのに、何のお返しもしていなかった。
 「ボーン家だけじゃない。マッキノン家、ブルウェット家・・・力も人望もあった人たちが次々に殺されている。・・・さすがにアルバス・ダンブルドアには手出しできないでいるようだがな」

 やがて、男はゆっくりと立ち上がり、再び館へと向かった。娘をすら救えない男に、他人のことを思い煩う資格なんてなかった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  October 2, 2005 08:21:24 AM コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

クラッシュのHP クラッシュ2569さん
まいけるのお部屋 名前のないうさぎさん
凛。きまぐれホーム… RURIKAさん
し ん じ て る 。 沙羅 憐霞さん

Comments

通な俺@ 愛 液ごちそうたまでしたw <small> <a href="http://hiru.kamerock…
ヒゲメタボ@ クマたんと呼ばれてます(^^; 最近はこれが流行ってるって聞いたので …
ディック橋本@ ギリ3人です(笑) <small> <a href="http://iikoto.chorie…
大岩井@ 目覚めたら巨チンってぉぃ あの女ー・・昨日チソコが痛くなるくらい…
ビャルヒ@ あのコスwwwww コ ス プ レセ ク ロ スって思った以上に…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: