ビストロフの橋

ビストロフの橋

October 4, 2005
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テーマ: 連載(82)
カテゴリ: カテゴリ未分類
   ウサギ穴
 「どうしようかなぁ」ウィリアム・ゴールドマン。通称ウィルは机に向かったまま、代わり映えしないつぶやきを漏らしていた。
 収まりの悪い金褐色の髪をかき回し、すみれ色の目で机に置かれた書類の束をにらみつけた。九月から行くはずの中等学校、どの学校に行こうかとパンフを机一杯に広げて考えていたのだ。
 普通なら近くの学校、と単純に決めてしまえばいいのだが、ある事情がウィルを悩ませていた。そのひとつがウィルはアパートに一人で暮らしているという事実だ。母親はいるにはいるが個人輸入の仕事をしていて世界中を飛び回っている。
 定期的に手紙はくれるが、落ち着いて顔を見て話すことなんて年に数えるほどしかない。
 以前、クリスマスにプレゼント持って帰ってきたときにはサイズが二つも違う服を買ってきて笑うしかなかったこともある。行く先々から送られた絵葉書が古いクローゼット一つを完全に占領しているし、貯金箱にはポンドはもちろんドルやフランやペソやマルク・・・円、世界中のお金が入っている。
 父親にいたっては、名前も知らない。母ですら相手が誰なのか把握していないのではないかとウィルは考えている。
 一応生活に必要なお金はちゃんと口座に振り込まれるし、振り込まれたお金はウィルの裁量でどう使ってもいいことになっている。しかもウィルは無駄な出費を抑えてきたのでかなりの貯えがあった。だから、その気になればイギリス中のどこに引っ越しても構わないし、どの学校に入学してもいいというわけ。
 もう一つの事情、それはウィルには友達がいないということだ。同じ年頃の子供たちはサッカーに夢中で、暇さえあれば図書館にいるようなウィルとつきあおうとはしなかったし、多分これからもしない。

 もっともウィル自身はこのアパートが気に入っていた。窓の外にはあのべーカー街がある。あこがれのシャーロック・ホームズの事務所のある通りが見下ろせるこの場所には愛着があった。
 ハンティング帽をかぶった人が一人もいなくても、パイプをくゆらせる人より煙草をふかす人のほうが多くても、馬車ではなく車が走っていたとしても、だ。
 どうしようかなぁ」
 今日七度目のどうしようを口にしたとき、ウィルはウサギの穴に転がり落ちた。





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Last updated  October 4, 2005 10:25:03 PM
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