ビストロフの橋

ビストロフの橋

October 21, 2005
XML
テーマ: 連載(82)
カテゴリ: カテゴリ未分類
 時計を見ると、すでに十一時を過ぎていた。
 もうすでに人気のなくなった『漏れ鍋』ではクルミの様な顔のマスターが、まだ起きていて皿を拭いていた。
 「あの、部屋は空いていますか?」部屋は空いていた。一番奥の部屋へと案内してもらいながら、ウィルは九月一日までの休み中借りたらいくらになるかと聞いた。
 素泊まりなら二十二ガリオン、朝食付きなら二十六ガリオンという答えだったが、朝の仕込と夜の皿洗いを手伝ってくれるなら朝食付きで十ガリオンにしてくれると言うので、喜んで手伝うことにした。
 「がんばんなよ、坊や」
 部屋に入ると、壁に掛けられた鏡が眠そうに言った。ウィルはもう童話を作り話としては読まないことを決意した。
 置いてあったパジャマに着替えて、ベッドに入ったウィルだがとても眠れそうになかった。たとえしゃべる鏡が寝言を言ったりしなくても、枕が代わってなくても、多分眠れなかったろう。今日一日であまりにもいろんなことがありすぎた。
 ベッドに入り、天井を見上げていたウィルだが腕時計が1時を指したところで眠るのを諦めた。
 トランクの三番を開け、教科書を取り出して読み始めた。教科書はとてもおもしろかった。ウィルは夜が明けるまで教科書に没頭していた。

 オリバンダー翁は杖の造り方を手取り足とリ、教えようとはしなかった。ウィルが質問をしても、たいていの場合無視された。
 「オリバンダーの杖はな。一本一本に、強力な魔力を持った芯を使っておる。一角獣のたてがみ、不死鳥の尾の羽根、ドラゴンの心臓の琴線。一角獣も、ドラゴンも、不死鳥もみなそれぞれ違う。もちろん、芯を覆う木も同じものはない。オリバンダーの杖に同じ杖は一本としてないのじゃ」
 そう最初に言った後、翁はただ一つのことを教えた。杖の中で唯一、まったく同じ物を使っている場所。芯と木を一つのものとするそして、魔力の伝わり方を一定に保つための『釉薬』の基本材料とその調合方法だ。
 樹齢千年を超える杉の樹液に、月桂樹の葉、猫の髭、一角獣の角の粉を、火に掛け、とろとろと煮込む。樹液を焦がさないようにかきまぜ続けるのが、なによりも難しい作業だった。なにしろ重い粘液をかきまぜ棒でかき回し続けなくてはならない。結構重労働なのだ。
 「よいかな? これは『杖』のための『釉薬』の造り方じゃ。『オリバンダーの杖』のではないぞ。杖の造り方は職人一人一人違う。当然、おまえさんの作る杖はおまえさんのオリジナルでなくてはならん。わしは一角獣、ドラゴン、不死鳥しか使わんが芯となるものはいくらでもある。その中で芯に何を選ぶのか、木は何を使うのか、その組み合わせをどうするのか、それはおまえさんが考えることで、わしが教えることではない。『釉薬』にしても、これは基本じゃでな職人の個性はここに何を足すかで決まる。これもまた、おぬしが自分で考えるべきことじゃて」
 もちろん、それだけを覚えたわけではなかった。ウィルはオリバンダー翁に、もっとたくさんのことを教わった。
 まずは杖を使って火をおこす方法。ウィルは当然呪文を使うものと思い込んでいた。なのに、呪文を使わずとも杖の一振りでおこすことができるのだ。振り方に独特の規則性はあったが、覚えてしまえば実に単純なものだった。
 樹液を桶から鍋に入れ替えるときに便利な、軽量化の魔法、こぼれた薬を消し去る魔法、一番肝心な、ウィルが正真正銘魔法使いの素質を持つ者であるという事実。
 ウィルはその日から一カ月あまり、朝の五時に起きて『漏れ鍋』の仕込を手伝い、十時から十八時までオリバンダー翁の仕事場で基本の『釉薬』を作り、オリバンダー翁が木を削るのを眺める。そして再び『漏れ鍋』へ戻って皿洗いと掃除を手伝う。そんな日々を送った。
 もちろん、かなり疲れたが、そんなのは気にならないくらい充実した日々だった。
 漏れ鍋にはいつでもイギリス中から一般に魔法生物と言われるものたちが客としてやってきたし、さすがに吸血鬼は見かけなかったが鬼婆、藍色の肌に白く長い牙と鉄の爪をした魔女、ならたくさん見ることができた。ただし、マスターのトムはウィルには絶対に鬼婆、の接客をするなと言いつけていた。鬼婆にとって、ウィルは最高のディナーに見えるからだそうだ。

 そんなふうに次々に風変わりな、マグルの世界で考えればということだけど、客と出会う度に魔法世界が実在することを強く信じることができたし、魔法世界の日常をわずかながら知ることができた。
 楽しい時というのは時間が飛ぶように過ぎて行くものだ。御多分に漏れず、ウィルは八月最後の日の朝、トムに言われて初めて、明日にはホグワーツへと旅立つのだと気がつき、少なからず動揺したものだ。
 しばらく呆然と立ち尽くし、ハッと我に返って慌てて『オリバンダーの店』へ駆けつけた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  October 21, 2005 09:31:16 AM
コメント(0) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

クラッシュのHP クラッシュ2569さん
まいけるのお部屋 名前のないうさぎさん
凛。きまぐれホーム… RURIKAさん
し ん じ て る 。 沙羅 憐霞さん

Comments

通な俺@ 愛 液ごちそうたまでしたw <small> <a href="http://hiru.kamerock…
ヒゲメタボ@ クマたんと呼ばれてます(^^; 最近はこれが流行ってるって聞いたので …
ディック橋本@ ギリ3人です(笑) <small> <a href="http://iikoto.chorie…
大岩井@ 目覚めたら巨チンってぉぃ あの女ー・・昨日チソコが痛くなるくらい…
ビャルヒ@ あのコスwwwww コ ス プ レセ ク ロ スって思った以上に…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: