全6件 (6件中 1-6件目)
1
ー青春の坂道ー 翌朝、自転車置き場でウエダを見かけた。左目に“眼帯”をしていて、顔が腫れているのがバレバレだ。 周りには新しくできたボクの知らない“子分”が数人いる。 なんだか、可笑しくてたまらない。あのウエダが眼帯で隠さなくちゃいけないくらい殴られるなんて…。ヤツの人生でも初めてのことだろう。 クスッ、クスッ、 マヌケな顔して取り囲む子分がまた笑いを誘う。 なんの役にもたちそうにないなぁ…… クスッ、クスッ、クスッ… ボクはその一団を避けて教室へ向かった。 ウエダとは目も合わさず、すれ違った…。ウエダも知らぬふりをした。 ボクとウエダが一緒にいるとロクなことにならない、、と学習している。 ボクとウエダだけの決まり事だ。 教室棟一階階段口には二人の女の子が待っていた。ボクは素知らぬ顔していそいで階段を上がった。 二年生かな… フンッ! 月が変わり“班変え”が行われた。イナダさんとのお別れは少し残念だが新しい出会いは刺激的だ。 タツタユキコタツタユキコタツタユキコタツタユキコタツタユキコタツタユキコ… 思わず歓喜の雄叫びをあげそうになったがグッとガマンした。 おーぉ、タッタさん。 うん…。 ボクは席順が話し合われる前にタツタさんの横に座った。 新しく班長になった“ヨコヤマケンジ”に向かってこう言った。 …どこでもええんちがう?オレ、ここでええよ… 新班長はニコッと笑いこう言った。 じゃあ、そうしようか! なんだか“借り”が出来たような気がした。 タッタさんをチラッと見ると… ふふふ…。 あー、良かった。 新しい1ヶ月の始まり。 四時間目の授業は体育だ。 教科担任のミキカズシは、、、マスクをして現れた。 気分がスカーーーーーーーッ!!!とした。 日本晴れだーーーー!! ヤッパリ、ウエダはスゴいな、根性あるな、そう思った。 恥をかいたのは、生徒を殴りつけ、殴られ、マスクで隠さなくちゃならないほど反撃された教師。 ミキカズシ。 名をあげ、存在感を示したのは、教師に立ち向かい、殴り合い、謝罪なんてしなかった生徒。 ウエダマサヒロ。 その影で、教師達から信頼を得た、ボク。 理由はこうだ。 ウエダの担任のスエマサ先生が“学年会議”で“事件”の成り行きを説明した。当然、ボクの担任であるマエダシノブ先生にも事情を説明した。野球部の監督であり社会科担当であるカタヤマ先生にも事情を話した。ミキカズシ先生は“厳重注意”となった。学年主任は理科教科担任のツカモト先生だ。 やはり、ウエダは入学前から名前が知られていた。担任はスエマサ先生と決められた。 学年会議の最後にスエマサ先生は監督不行き届きを謝罪し、こう言った。 ウエダマサヒロが謝罪に来ました。 先生方は、えっ?!と驚いた。ウエダが謝るなんて思ってもいなかったのだろう。 ウエダは、こう言ったそうだ。 オレは別に謝る気なんてなかったけど、関係ない四組のアキまで呼び出されてアキには申し訳ない思って電話した。そしたらアキは、オレのことは気にするなよお前の好きなようにやれよ、って言ってくれた。そして、スエマサ先生は、ええ教師ちがうか?信用出来るん違うか?って言うてくれた。だからオレはスエマサ先生を信用するわ、だから謝るわ。 ボクはマエダシノブ先生に呼ばれた。 アキ君… はいっ、 アキ君は六組のウエダ君とは親友なの? 友達です。 そう、友達は大切にしなくちゃね! ………。 なんの話やねんっ!! 残念だが、ボクはキミ達が誤解してくれてるような“いい子”なんかじゃありません。立派な反抗期ど真ん中の中学一年生でーす。 フンッ!どうでもええわっ!! …駆け上がれっ!!
2010.09.27
コメント(0)
ー青春の坂道ー 思春期の価値観をぶつけ合い、せめぎ合い、重ね合わせて行く作業を名付けるなら“青春”と言うのだろう… 保健体育の教科担任は“新任”のミキカズシと言う。やる気満々精気溢れるままの、わかりやすい教師だ。 ボクは好きだ。楽しく遊んで過ごす教科だし、保健の授業なんてなんてことない。 ある日、噂が流れてきた。 “ウエダとミキがどつき合いのケンカをした…” 疑う余地はない。 そのとばっちりがボクに降りかかってきた。 まだ教師と生徒の間にも緊張感がある時期。 ウエダの担任はスエマサと言い、国語教師でボクのクラスも担当していた。剣道部の顧問でもある。そしてミキカズシは剣道の“スペシャリスト”だった。 つながった…。 ボクはスエマサに職員室に呼ばれた。 缶ジュースを差し出し、 “飲んでええぞっ…” 二年前の光景が思い浮かんだ。そう“作法室”の景色だ。 わかりやすいヤツや…そう思った。 ボクは警戒レベルを最高にして身構えた。 ウエダと友達やろ? えっ?!ウエダの話なんですかぁ… 緊張が走った。 ウエダの一番の友達やって聞いたから呼んだんや。 ウエダと友達やったら呼ばれるんですかぁ… スエマサに怒りと戸惑いの表情が走った。そして、缶コーヒーを開けて一口飲んだ。 当たり前だがボクは缶ジュースに触れもしない。 やわらかな睨み合い。 態度が少し、変わった。 実はな、ウエダのこと色々知りたくて親友のアキに話聞きたくて来てもらったんや。 …最初からそう言えばいいのに… ウエダはボクの友達です。 そうか、ミキ先生とのことは知ってるな? 知りません、なんの話ですかぁ? 知らん? はいっ、クラスも違うし、階も違うし、会うことも無いですから。なにかあったんですか?ミキ先生と…。 知らないハズがない。当時、先生殴るなんてことは有り得ない時代だったのだ。そしてその話は大きくなって三年生の不良グループさえ知っていたのだから…。 本当に知らんのか? 知りません、ウエダとは話してないですから。 スエマサは、いい教師かも知れない。なんとなくそう思えた。 そうか、知らんか? はいっ! 少しの沈黙の後、こう言った。 そうやな、ウエダのこと知りたかったらウエダに聞くのが当たり前やな。 はいっ! は、はいっ? スエマサ先生は驚き、笑った。 アキに誤解させてしまったみたいやな、先生はウエダのこと調べてる訳やないんや… ………。 ウエダのこと色々知りたいだけや、どうやったらうまくやっていけるか… …最初からそう言えばいいのに… どうすればええかなぁ なにもしなくていいんじゃないですか? えっ?! ウエダウエダって目で見るからイケないんじゃないですか? ん? ウエダだって同じ一年生だし、反抗期なんです。みんなと同じようにしてやればいいんじゃないですか? うーん。 そうやな、そうかもな… はいっ! そうか、アキはウエダの親友やもんな… 友達です。 ボクが職員室に呼び出され長時間拘束されたことも、あっという間に広がった。 その日の夜。 もしもし… ん? ウエダやけど… おぉーウエダ… 気まずい空気だ。 ウエダが野球部に来なくなってから初めて話すのだから… ウエダも電話してくるのに勇気がいっただろう、そう思った。 スエマサのことか? うん、オレのこと聞かれたんちがうかなぁ、と思ってな… うん、聞かれたけど話すことないからナンも言わんかったで… なんか言うてたか?スエマサ… うん、お前のこと知りたいって、うまくやりたいって… そうか… スエマサは、ええ先生違うかなぁ?信用できるん違うかなぁ… えっ?! オレがお前のこと話す気ないと思ったら、それ以上は聞いて来んかったし、先生やから言うてエラそうにもしてなかったし… うん… でも、それはオレが思っただけやから気にせんと好きなようにやったらええんちがう? うん… アキ、色々ありがとうな… なに言うてんねん、オレはなんもしてないし、なんも思ってないから… うん… この“事件”でボクとウエダは益々有名になってしまった。 ウエダは教師を殴った根性あるヤツとして三年生からは一目置かれ、同級生からは恐れられるようになった。 そしてボクは、そのウエダの一番の親友で先生にチクらなかったヤツとして信頼されるようになった。 そんなこともあったからかどうかはわからないが… “熱視線”が露骨に突き刺さるようになって来た。 自転車置き場で、 階段で、 休み時間に、 放課後に、 練習中に、 ヒトミちゃんの言葉が思い浮かんだ… カンバッテね、アキ君♪ フンッ! …駆け上がれっ!!
2010.09.26
コメント(0)
ー青春の坂道ー 紺色の重々しい制服は “東洋大姫路高等学校” 今、売り出し中の西播地区の私立の“雄”である。 クロダから聞いたエピソードが笑ける。 投げる球が速くて、重くて、ノーーーコンでまともに捕球できるチームメートがいなかった。 ストレートしか投げられなかった。 バッティングもスゴくてライト後方にはネットが張られていたが、それを超して“川ポチャ”を連発していた。 そして、 アホだった。学年でワースト10に常にランクインしていた。とてもじゃないが私立高校にさえ進学できないだろうと思われていた。 奇跡が舞い降りた。 “野球特待生” そして、上級生達がゴールデンウイーク遠征に出払っている今日、母校に “凱旋” そんなことらしい。 フンッ!どうでもええわっ! ほどなくして、監督の社会科教師の一年三組担任のカタヤマ先生が部室にやって来てマチモトショウジ先輩を連れて行った。 どうでもよかったが、その日からわが野球部のあいさつの“シキタリ”が変わった。 おはようございます、は… “エーーーーッス!!” こんにちは、は… “チワーーーーッ!!” さようなら、は… “サーーーーーッ!!” すべて、東洋大姫路高等学校野球部の“受け売り”だ。それが野球部の伝統となってゆく… フンッ!どうでもええわっ! ボクはこんなくだらない一日の、くだらない無関係のアホの先輩のわずか数十分の出来事と映像を忘れなかった。 この光景は不安と不満に満たされ始めていたボクに大切なホントに大切なことを教えてくれた。 ボクは学習した。 この理不尽な日々は、遠い先輩方も通った道なんだ、これが縦社会の世界なんだ、ルールなんだ、と。 “巨人の星”や“エースを狙え”や“アタックNO1”で見てきた光景なんだ。 ボクはそう理解することが出来た。クロダだってそう思ってるに違いない。野球が大好きで続けたいと思っているから… でも、ウエダにはガマン出来なかった。その気持ちもよく理解できた。だからウエダのことは“根性無し”とは思わなかった。あえてウエダには何も言わなかった、言えなかった。 …友達だから。 でも、ケツバットはイタくて嫌だった。 毎日プロ野球を一生懸命見てルールを学び、王選手や、柴田選手や、張本選手や、高橋投手や、江夏投手を見て、ひとり公園の壁に向かい、投げたり、素振りしたりした。 ボクは、サウスポーで、ピッチャーになりたくて、ホームランバッターになりたかったから。 野球はテレビから、ひとりで学んだ。 先輩たちに学ぶものはなにもない…。 ガマンや。 ガマンや。 そんなある日。 理科の授業は楽しい。教科担任のツカモトは一年一組の担任でただのオッサンだけどボクは好きだった。兵庫の西の端の田舎中学校の教師のくせに語尾を“標準語”で締めくくる。 あーで、こーで、そう、、なるんですっ! クスッ、 興が乗って来ると、 あーで、こーで、そう、、、なっちゃうもんねっ!! クスッ、クスッ… そんなボクを見て、 なんなんだ、アキ。先生なにか面白いこと言ったか? いえ、わかりやすくて面白いなぁって… そうか、面白いか、じゃいいだろう… ツカモト先生とは二年後の“爆発事故”で大変お世話になることになる。 実験のある日は“理科実験室”で授業が行われる。本校舎一階に移動しなくてはいけない。 イヤだなぁ、先輩たちに会わなきゃいいけど… 一階渡り廊下購買部前を歩いていると… あっ! アキ君… ミヤモトヒトミちゃんだ。 周りには同級生たち。 ヒトミちゃんは気にもしてないように、 ちょっといい? うんっ、いいよ。 なぁに? あのね、アキ君モテモテだよっ!! えっ?! みんな一年四組にカッコいい男子いるってウワサしてるよっ! えっ、でもボクのこと? 決まってるじゃない、四組で野球部でって言ったら… そうかなぁ… そのうちみんなで一年四組行ってみようって言ってたよ~ はぁ? ガンバってねっ!! ??? じゃあね… ヒトミちゃんはエレガントに走り去って行った。 めまぐるしくひとつのことを確信した。 ボクもヒトミちゃんもお互い楽しい思い出や想いはあるが、それはハッピーエンドしているんだと。それはお互い小学生の頃の価値観なんだと…。 なんだか気持ちが軽くなった。ヒトミちゃんとは仲良く友達でいられると思えた。そんなことをひとりにやけながら思っていたら… ジーーーッ! “熱視線” ハマサキユミコイナダアキコミウラチエコ… ち、ちがう。 と、言おうと思ったが、やめた。 どうでもいいもん。 色々ボク自身のことが、周りでおこる出来事や、人々の反応によってわかりはじめた、気がする。 フンッ!どうでもいいもんねっ!! …駆け上がれっ!!
2010.09.25
コメント(0)
ー青春の坂道ー 刺激的な1ヶ月が過ぎた。 ある日突然、君は今日から中学生です。これが今から一年間共に過ごす12歳の同級生です。 これは残酷で無慈悲で選択の余地など微塵もない。 〔怖くない?〕 ボクは引きこもった。 ひとたび鉄筋校舎三階の一年四組の教室に入ると、そこから動かなくなった。授業中はもちろん、合間の休憩時間も昼休みもボクは自分の机から離れなかった。 校内で先輩達に会うのがイヤで、挨拶するのが面倒で、関わりたくなかったのだ。 気がつけば、小学校の時の同級生とも交流はなくなっていた。 ボクのそばにはいつもイナダアキコちゃんがいた。メガネの向こうにある大きな瞳とシュッとした顔立ちと目と目が合えば素知らぬふりをする立ち居振る舞いがボクを安心させてくれた。休憩時間になるとイナダアキコちゃんのもとにヤマノサト小学校の時からの仲良しの女の子がやって来た。 ミウラチエコちゃんとハマサキユミコちゃんだ。 ボクは三人を勝手に“ヤマノサト三人トリオ”と呼んでいた。 おとなしいイナダアキコちゃんもミウラチエコちゃんもハマサキユミコちゃんも三人集まると豹変した。ワイワイガヤガヤワイワイガヤガヤ…。そして爆笑!そう、イナダアキコちゃんは“笑い上戸”だったのである。 ハマサキユミコちゃんはボクとミヤモトヒトミちゃんの事をちらつかせ、うふふ、と含み笑いするのだった。口癖は両手をパンって合わせ“あっ、そうや…”するとミウラチエコちゃんとイナダアキコちゃんは爆笑するのだった。 どうってことないが三人はそれぞれ賢くておとなしくて可愛いのでボクは居心地が良かったのである。 ボクが気を使わなくても三人で勝手に喋り、勝手に盛り上がり、勝手にボクのことを理解してくれるので居心地が良かった。 ねぇ、アキさん… ん? なんや? ミヤモトさんと付き合ってるんでしょ? えっ?!なんでや? 困ったボクを見て三人がそれぞれ、ふふふ…。 ミヤモト先輩キレイやもんねっ? ふふふ…。 あはははははは。 笑ってごまかした。 昼休みも終わり、五時間目の授業が始まると憂鬱な気分になる。 もうすぐ、放課後や、もうすぐ、クラブや…。 野球部と言ったって、 オェーーーーッ、 オェーーーーッ、 オェーーーーッ、 だけだ。 今日はどんな無理難題を押し付けられるんだろう… 今日はケツバットされるのかなぁ… 今日は誰が来なくなるんだろう… 考えるだけで気分が滅入った。 今日も沈んだ気持ちで部室へと向かう… いつもと、景色が違った。 いつもと空気が違った。 部室の前には二年生達が整列して並び、 部室の中の三年生達も立ち並び、 ひとり、見知らぬ制服の真っ黒に日焼けした、デッカい人が、ドッカーンと座っていた。 誰や? マツモト先輩や、 と、クロダ。 先輩?誰の? どこのだれやねんっ! フンッ! どうでもええわっ! ただ、いつも偉そうに、大して野球も上手くないのに威張ってる三年生が直立不動で立ってる姿は、キャプテンという名のコタニがペコペコしてる姿は、 “心地よかった” 少し、 気分が、 晴れた。 これが、ボクの華麗なる球歴に、ことあるごとに現れる迷惑な“大先輩” マツモトショウジ との出会いだった。 …駆け上がれっ!!
2010.09.22
コメント(0)
ー青春の坂道ー 入学から3週間… “春の遠足” ゴールデンウイーク前のこの時期、クラスメートとも馴染み始めた頃“サイクリング遠足”が行われた。 中学生となり“自転車通学”をする生徒達の為に“訓練”を兼ねての“課外学習授業”である。 楽しい。前夜はわくわくして眠れなかった。 そして、いつの時代のどこの国のどんな学校とも同じように、ボク達の遠足も“雨”に降られた。 舩坂の山のてっぺんにある“神社”目指して自転車こいで到着し楽しい楽しい“お弁当”の時間。待ってましたとばかりに雨は降って来た。容赦なく。激しく。冷たく。 ボク達は“雨合羽”を着て全速力で山を下り、フルスロットルで今来た道を走り抜けて帰った… ふふふ… ずぶ濡れで学校の自転車置き場にたどり着いて、誰ともなしにボクは呟いた。 なにしに行ったんかわからんなぁ… ふふふ… それは、学級副委員長のタツタユキコちゃんの微笑みだった。 “チャンス到来!!” ボクはタツタユキコちゃんだけに語りかけた。 なぁ、タッタ。お前なんか高田の山奥の“正福寺”からはるばる学校へ来て、また自転車乗って舩坂の山奥の見ず知らずの寺まで行かされて、すぐ雨降って合羽着て帰らされて…。タッタ、お前、楽しい?? ふふふ…。 なに笑うてるんや? 長い沈黙。でもなぜか心地よい時間…。 優等生で、可愛くて、おとなしいタツタユキコちゃんはこう言った。 アキさんって、おもしろい…。 はぁ…??? ふふふ…。 自転車置き場から鉄筋校舎三階の教室までふたりで話しながら戻る道のりは、永遠に楽しい。 何を話したかなんてまったく覚えていない。 ちょうちょ ちょうちょ 菜の花にとまれ~ 雨よ、降り止むなよ。 放課後になっても降り続けろよ。 クラブ中止になれよ。 心の底からそう願った。 一年生野球部員は10数名となっていた。 ウエダも来なくなっていた。 …マサヒロのこと頼むで、アキ君。 ボクにはなにもできない、なにもしてやれない。 …アキさんって、おもしろい。 タツタユキコちゃんの好意的な眼差しと、笑顔に少し、ほんの少し、救われた気がした。 その日の夜。 あっ!この子覚えてるっ!! それは 去年“スター誕生”で小坂明子の“あなた”を熱唱し優勝した女の子だった。 “あなたがいて わたしがいて ほかになにもない ただ秘密の匂い立ちこめるだけ あなたが好き ほんとに好き ふたりそれだけを ただ小鳥ように繰り返すだけ~” “二重奏(デュエット)・岩崎宏美” 駅前の“相生書房”にレコードを買いに行った。 レコードジャケットの風景をボクはずっと忘れない。 …駆け上がれっ!!
2010.09.20
コメント(0)
ー青春の坂道ー 入学4日目。 放課後… 部室の前には溢れるほどの一年生がいた。 50人? この胸の高鳴りはなんなんだろう。入学してからどこにいても何をしても緊張の連続。 部室へ入ってゆく先輩達。みんな凄く大きく、凄くカッコ良く見えた。 毎年の事なのだろう。ボク達一年生はグランドに集合するように言われた。しかし凄い人数だ。 当時、少年の憧れのスポーツは断然野球だった。我が中学校にはサッカー部さえ無い。 えっ?!タ・ネ・ツ・グ!? おぅ、アキちゃん。 お前、野球部入るんか? うんっ、 お前、野球好きやったか? うんっ、中学校入ったら野球やろうって決めてた で、出来るか? うんっ、頑張るわ ………。 タネツグは体も小さく足も速いわけじゃなく、なによりソフトボールさえやってなかった。 整列した一年生の前にやがてユニホーム姿の先輩達が現れた。 背の高い、 真っ黒に日焼けした、 銀縁メガネ… キャプテンのコタニです。 はぁ? 一年生は外野の後ろで“球拾い”するように… はぁ? たしか、入学式の日に、ピアノ弾いてたヤツだ。 よしっ!走って行けーーーっ!!!!! 無我夢中…。 オエッー! オエッー!! オエッー!!! ひたすら声を出して球拾い。 クタクタに疲れて帰った。 どうやった? うん、ずっと、オエッー!って声出して球拾い。 そうか、一年坊主やもんなぁ… パパはそう言って笑った。 翌朝。 声が枯れて、体中が筋肉痛で起き上がるのもつらかった。 何でやろ?球拾いするだけやのに、何でこんなにしんどいんやろ? 放課後。 部室の前に集まったのは40人くらいだった。 オエッー! オエッー!! 翌日。 部室の前に集まったのは30人だった。 オエッー! オエッー!! オエッー!!! 一週間後。 一年坊主は20人になっていた。 キャプテン・コタニはこう言った。 よしっ、お前ら一年生は今日から正式な野球部員になった。 はぁ? この入部届に必要事項を書いて明日持ってくるように…。それから体操服には“大きな白地の布に、ひらがなで名前書いて付けてくるように”それと、明日から“グローブ”持ってきてもええぞっ、それに“帽子”かぶってもええぞっ!! ボク達一年生は、やっと野球部員として認められ、グローブを持ち帽子をかぶることを許され、名前で呼んでもらえるようになった。 でも、 オエッー!オエッー! それだけだ。 この日からがホントの“理不尽”な“奴隷”のような毎日の始まりだった。 翌日の昼休み。 アキさん。 ヤマノサト小学校出身のイナダアキコちゃんの友達でテニス部のハマサキユミコちゃんがボクを呼んでいる。 その向こうの廊下には二人の女の子がいた。 あっ!!! 入学おめでとう♪ う、うんっ!! 野球部入ったんだね♪ う、うんっ!!! 久しぶりやね、アキ君。 うん、 ミヤモトヒトミちゃんとニシカワミドリちゃんだった。 セーラー服のミヤモトヒトミちゃんとニシカワミドリちゃんはオトナになっていた。 ヒトミちゃん、テニス部? うん、 二年生のミヤモトヒトミちゃんはボクのクラス知っててくれて、新入部員のハマサキユミコちゃんがボクとクラスメートだと知って来てくれたらしい。 教室がざわめきだした… まだまだ緊張状態の一年生クラスの三階に美少女二人がボクを訪ねて来てる。 マズい… アキ君、野球頑張ってね!応援してるから♪ わたしもっ♪と、ミドリちゃん。 うん、頑張るわ。ヒトミちゃんもミドリちゃんもテニス頑張って!! 少し、落ち着いてきた。冷静になれた。 うん、ありがとう♪ ボクは一年前を思い出した。 こう言った。 ヒトミ、エー エースを ねらえっ!でしょ? ミヤモトヒトミちゃんとニシカワミドリちゃんとボクだけが笑った。 教室全体が“耳ダンボ”となっていた… ミヤモトヒトミちゃんとはこの後も何度か立ち話したことはあったが、それ以上の発展はなかった。 この日からボクのまわりは“ざわめきの日々”となるのだった… …駆け上がれっ!!
2010.09.01
コメント(0)
全6件 (6件中 1-6件目)
1