森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2014.07.08
XML
元小学校教師の戸塚滝登氏の「コンピーターが連れてきた子供たち」の290ページより転載です。

赴任した小学校でウサギを飼っていました。
放課後の飼育当番がうっかり柵の戸を閉め忘れ、ウサギたちが外へ逃げ出したことがあるそうです。
幸い、ウサギたちはすぐに見つかりました。
何しろ生まれた時から人間慣れしているウサギたちです。
遊び疲れるとやがて小屋のほうに自分から戻ってきたのです。

しかし、一羽だけは見つかりません。
このウサギは野生の本能が強く残っているらしく、なかなか人間になつかず、すばっしこく走り回るので、子供たちは手を焼いていたのです。
2日たち、3日経ってもポムと名付けられたウサギは帰ってきません。


草むらから「カサッ、カサッ」という音がしたという情報がありました。
翌日熱心にウサギの世話をしていたあゆちゃんという子が、ポムを探してみることにしました。
すると草むらから「カサッ、カサッ」という音がしたそうです。
あゆちゃんが歩くと、ポムがあゆちゃんの後を追いかけているのだそうです。
やがてあゆちゃんは草むらにしゃがみ込みました。
するとウサギがそっと少女の足下にすり寄るように近づいてくるのが見えました。

それを見ていた先生は気が付きました。
ウサギは何十メートルも離れた場所からでも、あゆちゃんの足音を聞き分けることができていたのです。
自分を世話してくれているあゆちゃんの足跡を聞き分けていたのです。
このウサギは、あゆちゃんをお母さんのように慕っていたのです。

雨が降ろうと風が吹こうと、あゆちゃんは飼育小屋に通い詰めウサギの世話をし続けました。


しかし1月の寒い日ポムは極寒に耐えられずに死んでしまいました。
あゆちゃんはポムを抱きしめてポロポロ涙をこぼしました。

そうして、卒業式の前日までウサギの世話をして中学校に巣立ってゆきました。

先生は言います。あゆちゃんは同じ世代の子供たちがもはや知ることも、感じることもできない、秘密のような感覚、命のはかなさ、そして、いのちの足音のひそやかさを、体ごと理解していたに違いありません。
あゆちゃんは、学校教育もさることながら、素晴らしい経験をすることができました。


12歳ぐらいで完成されるという子供たちの幼い脳は、実際の五感や体感の機会が持てないうちに形作られてしまう。
一旦人工の感覚に置き換えられてしまったら、恐ろしいことが起きる。
脳はもはや本来の自然を感じたり、理解することができなくなってしまうのです。

子供たちの脳は、人工の感覚を基準として作られてしまう。
人工の五感こそ標準だと思ってしまう。
人工の五感は、実に薄っぺらいものです。
その辺の山とヒマラヤの山ぐらいな差があります。
直接体験を避けて、五感をそぎ落とし、身体感覚をはぎとり、現実感覚を失ってしまう。
すると薄っぺらい偽の感情が発生し、その一つの感情のみが増幅される。
豊かな感受性の欠落した、ロボットのような人間の出現である。
末恐ろしい時代が静かに進行している。

我々森田理論学習をしたものは、人間らしい豊かな感情とは何か。
身体感覚の体験が感情の発生にいかに大きな影響を与えているのか。
こうした問題にも、考えを及ばさなくてはならない時代に突入してきていると思う。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2014.07.08 07:24:53
コメント(2) | コメントを書く
[森田理論の基本的な考え方] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Keyword Search

▼キーワード検索

Profile

森田生涯

森田生涯

Calendar

Comments

森田生涯 @ Re[3]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ 今の生活は日中のほとんどが…
stst@ Re[2]:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、返信アドバイスをしていただ…
森田生涯 @ Re[1]:強情と盲従の弊害について(02/27) ststさんへ コメントありがとうございま…
stst@ Re:強情と盲従の弊害について(02/27) 森田生涯様、こんばんは。 過去に何度かコ…
軸受国富論@ Re:森田の正道を歩むとはどういうことか(06/05) かの有名なドクターDXの理論ですね。ほか…

© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: