森田理論学習のすすめ

森田理論学習のすすめ

2016.09.05
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精神科医に大平健さんという方がおられる。この方は優れたカウンセラーでもある。

予備校生の18歳の少女が診察を受けにきた。
主訴は、「人と会うと涙が止まらない。入試の面接で涙が止まらないと困るので治しておきたい」
実際話をしているうちに、急に涙があふれてきて、ハンカチを取り出すと瞼に押し当てていた。
「別に悲しくもないのに、急に涙が出てきて抑えられない。こんなの治りますか」
「入試で面接を受けるということで、ずっと涙のことで悩むということはイヤだし、そのために受験をあきらめるのはもっとイヤだし・・・」

こうなったきっかけはありました。
高2の古文の授業中のこと。女性の先生から、紀貫之はどう感じていたか聞かれました。
「わかりません」といいました。すると先生は「何が分からないの」と聞き返しました。

それは「分かりません」と言ったら先生をバカにしているみたいじゃないですか。
その先生は案外やさしい先生で、投げやりな言葉で傷つけたらいけないと思っていたんだと思います。
そうしたら、「黙っていては分かりません。何でもいいから答えなさい」って言うんです。
そしたらいつの間にか涙がすっと出てきちゃったんです。
それを見て先生があわてちゃって「もういいわ。座りなさい」といいました。

この方は小さい頃は泣き虫サッちゃんと呼ばれていた。泣き虫だか強情とも言われていた。
泣いていると周りの人がどうしたのと聞いてくれた。
それに対して何があったのか、何が悲しいのか絶対に言わない子どもでした。
人に話してみたところで悲しいこと、悔しいという事実はどうしようもないことだと思っていたのだそうです。黙って泣いているのが当たり前で自然なことだと思っていたそうです。
逆にいえば、悲しいこと悔しいことを訴えることで周囲の大人たちの同情をかおうとはしなかったのです。
それは嫌だった。それが強情にみられる原因だったのです。


「それはうっとうしいですね。そのつもりがなくても同情をかっているみたいでイヤです」
「そうすると古典の先生が、あなたの涙を見て狼狽したというのは、先生に同情を求めていると受け止められるのがイヤだということですか」
「そうですよ。もちろんそれは誤解なんですが、先生を狼狽させたということは、同情してくださいと言っているのと同じことじゃないですか」

「初めからやさしくない人はいいんです。こちらからやさしくしなくてもいいのだから。
一見やさしそうにみえる人への対応が厄介なんですよ」

「そんなのはできませんよ。学校は集団生活だし。協調しないといけないと思います。
人間関係が貧しくなってしまう。孤立してしまうのは悲劇ですよ」

高校の先生や親との人間関係はホットだと思う。
特に親は私が涙を流すとおろおろしたり、「そんなことで泣くな」とお説教したりする。
「そう言えは私が涙を流す人はみんなホットな人ばかりだ。
ホットな人は自分の心の中に土足で遠慮なく入り込んでくる人だ。それはとても息苦しい」

「友だちはどうなの」
「友だちとの関係はホットでもないし、クールでもない。そうだ。ウォームな感じですよ」
それは、友だち同士はお互いに、相手の気持ちに踏みこんでいかないように気をつけながら、滑らかで温かい人間関係を保っていこうとしているからだそうだ。

そんなやりとりをしているうちに、この相談者は大きなひらめきがあったようです。
「先生、私、なんで悲しいことがないのに泣いちゃうのか分かりましたよ。
私はホットなのが苦手なんですよ。自分がウォームだから。
自分がウォームなのにホットな人がいると、熱が伝わってきて、自分もホットになりそうになるのが嫌で・・・自分がホットさんに巻き込まれるのが嫌で、泣いて、逃れていたんだと分かりました」

「面接の試験官はクールですよね。たまにホットなことを言う人がいても、それはホットさんの巻き込みと考えればいいわけで、もう恐れることはないですよね。先生これが正解でしょ」

素晴らしいカウンセリングだと思います。
ここではホットな人間関係がいいのか、ウォームな人間関係を構築していくのがよいのかが問題ではありません。それは別の問題です。
ところが普通集談会ではどちらの人間関係がよいのかという議論になりがちです。
これは森田理論学習の本来の目的を見失っている状態と言えます。

ここでは相談者がカウンセラーと話をすることによって、自分の今まで気がつかなかったことを明確に意識できたということが肝心なことです。
集談会では傾聴、受容、共感に集中して交流を続けることで、これに近い気づきを得ることができるのだということを理解していただきたいと思います。
(やさしさの精神病理 大平健 岩波新書 52ページから73ページの要約を引用)






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Last updated  2016.09.05 07:32:49
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kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) 申し訳ございません。生涯森田様でした。
kurokawa@ Re:感情と行動を分離して行動する(11/11) 障害森田様 この記事の中で「心とは裏腹…
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