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January 25, 2015

目の前の世界から一歩外へ　　クリスタルが開くインドという国の扉～小説『インドクリスタル』

テーマ：今日どんな本をよみましたか?(90485)

カテゴリ：日本のミステリー小説

みなさん、おはようございます。痛ましい事件がおきてしまいましたね。
海外は日本とはルールが違う、という本を紹介します。

インドクリスタル
篠田節子

人工水晶の核となるマザークリスタルを求め、インドの寒村に赴いた藤岡は、宿泊先で使用人兼売春婦として働いていた少女ロサと出逢う。教育を受けたことがないが優れた記憶力の持ち主である彼女を藤岡は助けようとするのだが…。

　インドとビジネスを行おうとする日本の中小企業を中心に据えたビジネス小説、数奇な運命を辿る少女と出逢った事から思わぬ世界を知る会社社長の冒険小説、未だ森の神の祟りを恐れるインドの庶民の強かさと、彼等から搾取し続ける富裕層の対比が際立つ社会派小説など、どこに焦点を当てるかによって様々な捉え方が出来る作品である。インディ・ジョーンズのように正義の味方がわかりやすく宝を手に入れるわけではなく、悪が滅びてめでたしめでたし、という大団円でもない。主人公の藤岡本人も感覚的には悪人ではないが、かといって善意の人でもない。登場人物それぞれが私欲やずるさを持っていて、ふとした時にそれがぶつかり、ビジネスが迷走し、やがてカタストロフィへ繋がっていく。かなりのボリュームだが一気読みしたくなる。

　インドと聞くと、数学に強い人が多い、四大文明の発祥地、仏教伝来、インドカレー、マサラムービー、ヨガなどイメージは断片的で、では全体的にはと問われると、一言では表現しづらい。領土も日本より大きく、公用語だけでも十八、方言を入れると二百、三百とも言えるインドは、日本の物差しが全く通じない。その捉えどころのないインドの象徴がロサという少女である。一度は処女神として崇められながら、ある時その座から引きずり降ろされ、拾われた組織から残酷な行為を強いられる。フランスで最近起こったテロの容疑者に女性がいたことや、イスラム国の少年兵の処刑というニュースと重ね合わせてみると、波乱万丈の人生を送るロサがとても架空の存在とは思えない。

　最近は電車に乗ると、乗客と目が合わないことがしょっちゅうだ。たまに目が合うとすれば、それは足を踏んでしまった、或いは揺れて体が傾いてしまった時だ。それ以外に彼等が何を見ているかというと、手元のスマホの画面だ。ニュース、本、友達とのライン、買い物。全てが手のひらで済んでしまう。もしかしたら人生さえも。彼等の中で、テロ行為に手を染めた人達のことは、どれくらい印象に残っているのだろう。指を一閃させたら、また自分の知りたい世界に閉じこもる。手のひらの世界から一歩外に出て、世の中の様々な物差しを知り、物事を一面だけで判断しないことこそ、これから生きていく上で必要であろう。本書がその第一歩になればと思う。　