アントンが飛ばした鳩:ホロコーストをめぐる30の物語 Anton the Dove Fancier and Other Tales of the Holocaust バーナード・ゴットフリード/著 柴田元幸/訳 広岡杏子/訳 白水社
「テーブル泥棒Theft of a Table」は、著者の両親が借りたコテージに泥棒が入った時の話だ。数日前に家が火事で焼けてしまった一家の仕業であり、犯人はすぐに判明するが、両親の代わりに著者たち兄弟の面倒を見ていた祖母は、罪人として裁くことを望まず、去る時にテーブルを渡すと約束。盗人達は代わりに鶏をくれた。
本編のタイトル「アントンが飛ばした鳩Anton The Dove Fancier」に登場するアントンは、鳩が好きすぎて、ナチスに押収されると知った前夜に全ての鳩を殺してしまう。ゲシュタポに逮捕され、しばらく行方が分からなくなっていたが、マイダネクの絶滅収容所で再会する。彼は同じユダヤ人を管理するカポになっていたが、顔見知りの著者には優しかった。しかし彼の死後、著者は彼の本心と複雑な家庭環境を知る。誰もが、外見から窺い知れるだけではない、複雑な内面を持っており、それが戦争によって露わにされる様子を、写真を通して知っていたであろう著者の的確な観察眼が映し出す。
他収録作 「サーカスが町にやってくるThe Circus Comes To Town」「吃る人The Stutterer」「音楽の先生The Music Teacher」「結婚写真The Wedding Picture」「バイオリンThe Violin」「デビューMy Debut」「万年筆The Fountain Pen」「GさんMr.G」「マーシャMasha」「祝祭日の鶏The Chicken for the Holidays」「アレクサンドラAlexandra」「クルトKurt」「ヘルムート・ライナーHelmut Reiner」「最後の朝The Last Morning」「三つの卵Three Eggs」「兄の友人My Brother’s Friend」「ハンス・ビュルガー,#15252Hans Burger, #15252」「最後の収容所The Last Camp」「リンツの出会いAn Encounterin Lintz」「インゲInge」「ついにアメリカへAmerica at Last」「昔の友だちOld Friends」「少年時代の足跡をたどってWalking of the Footsteps of My Childhood」「雨の夜にOn a Rainy Night」