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みなさんこんばんは。ジャニーズ事務所のジャニー喜多川前社長による性加害問題で、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が今月下旬に来日し、被害を訴える当事者への聞き取り調査に乗り出すことが関係者らへの取材で分かりました。今日はドイツのミステリを紹介します。急斜面Schwarzepisteアンドレアス・フェーア 酒寄 進一 (訳)小学館文庫いや、何より前に、何をやってるのクロイトナー?『羊の頭』で賭けで酷い目にあったというのに、またもや賭けトランプで、身ぐるみはがれてしまう。懲りないね。それにしてもお友達よ、制服分捕るのは嫌がらせだよね?だってJKのではなく、警官の制服って売れる?それも今さっきまで着てたような奴だよ、匂うよ?さて寒い中パンツいっちょ(怪しい、この後どんどん脱がされる!)で放り出されたクロイトナーは、立ち寄り先の農婦から秋波を送られるわ、別の家の夫からヘンタイ扱いされて殴られそうになるわ(これは殴る側を理解できる!)、這う這うの体で逃げ、やっと鋭い観察眼で活路を見出す。 それから三年後に物語は飛ぶ。ここでもやはり警官にも関わらず違法を覚悟で叔父の遺灰を撒くべく、クロイトナースキーシーズンのヴァルベルク山へ登る。山頂近くのレストランでベジタリアンを自称するダニエラという女と出会い、その後二人はスキーを履いてともに下山することになった。上級コースを滑り降りてしばらく経つと、月を雲が覆い隠し、辺りが闇に包まれた。ををいい雰囲気?となるかと思いきや、クロイトナー、彼女を泣かせてしまう。ゲレンデを外れた二人はやがて夏のハイキングコースに迷い込み、雪の積もったベンチを見つける。そこに雪だるまが座っていた。しかし雪だるまと思ったそれは、死体だった。 死体とクロイトナーの同伴女性が姉妹だったのは、偶然にしては出来過ぎている。しかしクロイトナー、そちらには関心が向かず、むしろ事件遭遇率が高いので「死体のレーオ」と呼ばれていると知り、あろうことかその二つ名を気に入って、死体発見ツアーまでやる。そして案内した相手を置き去りにする(どちらも、良い子も良い警官も良い人もマネしないように)。 困った困った、このシリーズはいつからコメディになったのだ?もう一人の寒がりヴァルナ―がんばれ!と思いきや、ヴァルナ―は子守をしたがる祖父を「いやそれは危ないから」という本心を言わずにどう止めるかに腐心。さあ救世主は誰?急斜面 [ アンドレアス・フェーア ]楽天ブックス
July 22, 2023
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みなさんこんばんは。 東京新宿区などにまたがる明治神宮外苑の再開発について東京都の審議会で樹木の保全のあり方について議論が続くなか、神宮第二球場の解体工事にあわせ、樹木の伐採が始まることが新宿区への取材でわかりました。今日もアン・クリーヴス作品を紹介します。新シリーズが始まりました。哀惜The Long Callハヤカワ・ミステリ文庫アン・クリーヴス 巻頭に舞台となる場所の地図が書いてある。しかし狭い場所ことなので、正直あまり必要性を感じない。おまけにイルフラクームがイルフラワームと誤記されている。 アン・クリーヴスの新シリーズ第1巻。冒頭はバーンスタブル署のマシュー・ヴェンが、父の葬儀に出向きながら、結局父を見ることなく帰ってくる場面。彼は複合施設ウッドヤードセンターの所長を務めるジョナサン・チャーチという男性のパートナーと暮らしており、母親とは疎遠。性的嗜好が親との疎遠の原因ではない。もっと若い頃に教会と決別しており、熱心な信者である両親とはその時以来疎遠になった。 今回の被害者はウッドヤードセンターにボランティアコックとして通っていたサイモン・ウォールデンだ。勢いジョナサンも内部情報を知る者として事件に関わることになり、マシューもどの程度踏み込むか様子を見ながら慎重に捜査を進めていく。 マシューにはシングルマザーのジェンと父親の縁で酔いどれ主任警部のお気に入りロスという二人の部下がいる。ジェンはロスをライバル視しているが、ロスはそれほど意識していない。捜査スタッフの紹介、マシューのバックグラウンドを紹介しつつ、メインの謎をそろそろと解いていく。同著者のヴェラ・スタンホープと違って、アン・クリーヴスの男性主人公はおしなべておとなしい。哀惜 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
July 17, 2023
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みなさんこんばんは。福島県の北部にある全国有数の果樹産地で、農家が桃を皇室に「献上」したところ、宮内庁から「お礼の木札」が届いた。そんな情報を発端に記者が取材を進めると、「宮内庁関係者」だと名乗る男性に行き当たったそうです。皇室詐欺事件と言われています。今日もアン・クリーヴス作品を紹介します。炎の爪痕Wild Fire (創元推理文庫)アン・クリーヴスペレス警部の自宅を訪れたのは、シェトランド本島に一家で移住してきたヘレナ。彼女は前の持ち主が納屋で自殺して以降、何者かが家に侵入して謎めいた紙片を残していくことに悩まされていた。その納屋で、今度は近所の家の子守りが死体で見つかり、ペレスが捜査担当者となるのだが。 シリーズ最終巻というわけで、ペレスとサンディに幸せが。とはいえペレスには元婚約者との間に後見者指定された娘キャシーとその実父ダンカンがいて、愛するあの人との結婚にすんなりたどり着けない。というか、大人達キャシーを軽く扱いすぎだな。彼女の意向を先に聞こうよ。 メインの事件は連続殺人。この動機はアイルランドものによく出てくる。ご近所さんなら子供時代まで何でも知っている世間が狭いシェトランドで、ターゲットになるのは目立つ新入りというわけで、事件現場となった家の妻ヘレナがターゲットに。人気ファッションデザイナーのヘレナの息子クリストファーは、周囲とうまくコミュニケーションが取れず、変な子扱いされている。夫ダニエルは泣くばかりで当てにならず、ヘレナがペレスにちょっとよろめく場面も!しかしペレスは全くよろめく気配なし。そこはいいんだが、最後の決断に至る過程が結構はしょったなという印象で、「えええいつからあなたそんな事を!」とちょっとびっくり。炎の爪痕 (創元推理文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
July 16, 2023
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みなさんこんばんは。「血と暴力の国」や「ザ・ロード」を執筆し、ピュリツァー賞も受賞した米小説家コーマック・マッカーシー氏が西部ニューメキシコ州サンタフェの自宅で亡くなりました。今日から3日間アン・クリーヴス作品を紹介します。白夜に惑う夏White Nightsアン・クリーヴス創元推理文庫シェトランド島に夏がやってきた。観光客の一団が押し寄せ、人びとを浮き足立たせる白夜の季節が。前作『大鴉の啼く冬』で知りあった画家のフラン・ハンターと地元警察のペレス警部は、フランが有名画家のベラ・シンクレアと開いた絵画展初日の夜、絵を前にして泣くひとりの男と出会う。ペレス警部に、自分は記憶喪失らしいと打ち明けた男は、その翌日、近くの桟橋にある漁師小屋で、首吊り死体となって発見された。なぜか、道化師の仮面を顔にかぶった姿で。身元不明の男を、だれがなぜ殺したのか。 新シリーズは開発という名のもとに外から島に入って来る人とのせめぎ合いがメインテーマだったが、旧シリーズはクローズド・サークルミステリー。今回も、事件の起きた小集落ビディスタの、少人数ゆえの緊密な人間関係が肝であり、昔からよく知っていると思っていた人達の秘密が次々に明かされる。 付き合い始めたばかりのペレスとフランがなんとも初々しい。「泊まっていったら車が誰かに見られるんじゃないか」とか「キャシーはどう思ってるんだろう」とかめちゃくちゃいろんな所に気を遣いまくりつつも、嬉しさを隠し切れない様子が窺える(君ら少年少女か)。何だか隣近所の恋愛をのぞき見しているようで、こっぱずかしい。また、新シリーズラストを読んでいる方は、「この時は“キャシーもいてこそいい関係が保たれる”みたいな事を言っていたのに!」とペレスの心変わりにプチおこモードにならぬようご用心。 肝心の事件については、検死の結果、他殺と判定された男の正体と加害者を突き止めるため、ペレス警部はイギリス本土から再度島を訪れたテイラー主任警部とともに、捜査にあたる。都会派テイラーが、ペレスの何とものんびりした島民への尋問にイライラする場面が度々出てきて笑える。性格の異なるバディが事件を解決するのは王道だが、第一作当初は二人のバディも考えていたんだろうか。白夜に惑う夏 (創元推理文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
July 15, 2023
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みなさんこんばんは。東京にある国立劇場は、日本に昔からある歌舞伎などの伝統芸能を守って伝えてきました。新しい建物にするために10月に閉まります。劇場では1967年から生徒などに歌舞伎教室を開いてきましたが今月で終わります。今日もフィデルマシリーズを紹介します。昏き聖母 下Our Lady of Darkness創元推理文庫 ピーター・トレメイン「かかっても恥ではない三つの病とは?」「痒みと、喉の渇きと、恋ですわね」「一緒に来てくださいませんか?カンタベリーへ、私とともに。それは恥でもなんでもありません。」「はたしてそれは、私にとって賢明な決断かしら?」「私にわかっているのは、めざす港を心に決めなければ、いかなる風も、あなたの人生という船の帆をはらませることはないのです」 ああああうっとうしい!素直に君たち相手の事が好きだと言えんのか!あなたと一緒にいたいからカンタベリーに行きますって言えばいいだけなのに。お姫様難しい!おつきのエイダに、自分が完全に見落としていた事実を指摘され苛立ちを見せようとしたものの、彼の意気揚々とした姿を見て咎めるのをやめるとか、相変わらずお姫様気質。いいのかエイダルフ本当に彼女で? 証人の少女は行方不明、当日の夜警は事故死、そして処刑を目前にエイダルフが牢から消えた。命まで狙われて、ようやくフィデルマはもっと大きな犯罪が背後にあると気づく。それにしても、宗教界乱れ過ぎだ。皆修練が足りん。昏き聖母 下 (創元推理文庫) [ ピーター・トレメイン ]楽天ブックス
July 9, 2023
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みなさんこんばんは。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズなどで知られるマイケル・J・フォックスが、ウーピー・ゴールドバーグが共同MCを務めるABC局のトーク番組「The View」に出演、ウーピーと共演する機会を断った事を後悔していると明かしました。今日もフィデルマシリーズを紹介します。昏き聖母 上 Our Lady of Darkness創元推理文庫 ピーター・トレメイン巡礼の旅に出ていたフィデルマは、良き友であるサクソン人の修道士エイダルフが殺人罪で捕らえられたとの手紙を受け取り、急ぎラーハン王国に向かう…というクリフハンガー状態で終わった第八作 憐れみをなす者 。やっとフィデルマのラーハン行きが始まる。ラーハンはフィデルマの兄が治めるモアンとはもめ事の絶えない隣国。どうやらエイダルフは12歳の少女に対する暴行と殺人の容疑で捕まったらしい。既に処刑は翌朝に決まったと告げられたフィデルマは、なんとか処刑を延期すべく事件の捜査を始めるが。 今回も初っ端から「あなたたちがちゃんとしたもてなしをしなければ法で裁かれますよ」とサクソン人の旅籠の主人にガツン。だからそういうのはね、「私達長旅で疲れているので、心ばかりのもてなしを頂ければ幸いです」と下手に出ればうまくいくのに。ま、骨の髄までお姫様気質だから仕方ないね。 もともと気が合わないラーハンの王や修道院長にも一歩も引かない。確かに、目撃者の修道女は証言したあといなくなるわ、関係者も死んだりいなくなるわ、目撃証言を突き合せたら矛盾ばかりだわ、怪しさ満載。よく衣服に血がついていた程度でエイダルフを有罪にできたもんだ。フィデルマでなくとも簡単に喝破できる。しかし何分にもアウェイ。不利なフィデルマはエイダルフと再会し、食事もとらせてもらえず暴行を受けたと知るや、激おこで修道院長に食ってかかり「あなた何であの人に肩入れするの?」と言われる。「あの人は兄の使節として赴いた人だから、ちゃんとした地位もある人なんです」「私は法の手続きがちゃんとされてないから不平を申し立てているだけなんですっっ!」と言いつつも、それだけではない感情が駄々洩れ。 さて、上巻ではエイダルフが脱走。救い手は書かれているのでこの部分のミステリ要素なし。但しこれではエイダルフが逃亡犯になってしまい、ますます怪しまれる。恋心とミステリの行方はいかに?昏き聖母 上 (創元推理文庫) [ ピーター・トレメイン ]楽天ブックス
July 8, 2023
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みなさんこんばんは。オークションハウスのサザビーズが、イギリスのロックバンド・クイーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーのプライベート・コレクションのオークションを9月に実施し、合わせてコレクションの展覧会も開催されます。今日から3日間フィデルマシリーズを紹介します。蜘蛛の巣 上下The Spider's Web創元推理文庫 ピーター・トレメインマルドウナッハ丘陵の北、山脈に囲まれた谷間の緑深いアラグリンで、族長エベルが殺害される。殺害現場で犯人が拘束され、事件は単純なものに思われた。ところが、兄王の要請で公正な裁きを下すためにアラグリンへ赴いた、裁判官の資格も持つ弁護士のフィデルマが面会した容疑者の若者・モーエンは、目が見えず、耳も聞こえず、口も聞けない青年だった。ある証言からモーエンの無実を確信したフィデルマは、事件の真相を突き止めようとするが、新たに殺人事件が発生する。 シリーズ第5作だが、日本は最初に翻訳された。日本における初登場は、裁判シーンである。「修道女の法衣をまとった二十代半ばか、せいぜい後半といった、うら若い女性であった。すらりと背の高い、人の心を惹きつけずにはおかぬ美貌の尼僧である。修道衣の被り物の下から、赤みを帯びた髪の毛が一房、こぼれるようにのぞいている」ただこの時は、あまりにもさりげなく描かれているので、後のち赤毛が「誰が何といっても言うことを聞かないフィデルマの頑固さの比喩」とはわからない。王妹にしてドーリィー、アンルー、ブレホンと裁判官にして弁護士の資格を持つ最強ヒロインは、不当に土地を奪われただ働きされていた青年を救ったがために、さっそく宿を襲撃される。 しかし、どんな時でもフィデルマは負けない。というのは「互いの異なる意見や人生論を論じあいつつ彼をからかうという楽しみ」 をもたらしてくれ「彼女が投げかける餌にいつも上機嫌で食いついてくる」サックスムンド・ハムの修道士エイダルフがいつも傍にいてくれるからだ。「故意に反対意見を述べて議論を活気づかせようとするのは、彼に対してフィデルマがいつも用いてきた手口だ。餌を投げて彼に食いつかせるために、フィデルマはよくこの戦術を培ってきた。」エイダルフ、初登場時は(から?)犬扱いだ。ひどい。今回赴いた先では、フィデルマに負けないお嬢様気質(実際にお嬢様である)クローンとのお嬢様対決がある。その中には文字通りのマウント合戦も。事情を聴きに行った時に、自分の席がクローンより一段下に置かれていることに気づいたフィデルマ。一度目は「ま、しょうがないわね。この人達もの知らないのよ」で抑えたものの、内心の怒りはエイダルフにしっかりキャッチされている。さて二度目、クローンと母親の前に来た時、またもや自分の席が下になっているのを見ると、今度は実力行使。ただこういう時、最初に行動で示すからフィデルマ反発食らうのだ。仕方ない、お姫様だから。一方クローンも、言いたい事言ってさっさと席を立つフィデルマに「あたしに断らずに出ていくなんて!」と目をぱちくり。しかしクローンお嬢様、上巻ラストで既にデレており、ややデレが早い。なかなか似たような年回りの対決がないのだから、もう少し引き延ばしてくれても良かったのに。蜘蛛の巣(上) (創元推理文庫) [ ピーター・トレメイン ]蜘蛛の巣(下) (創元推理文庫) [ ピーター・トレメイン ]楽天ブックス
July 7, 2023
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みなさんこんばんは。大ヒットホラー『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』の前日譚となるテレビドラマが、HBO Max で正式にシリーズ化されることになったそうです。今日もエラリイ・クイーンのミステリを紹介します。災厄の町〔新訳版〕Calamity townハヤカワ・ミステリ文庫エラリイ・クイーン 作家エラリイ・クイーンは軍需景気で湧くライツヴィルにやってきて家を借りようとする。すると不動産屋がよりによって災厄の家と呼ばれる家を勧めてくる。その家とは、銀行頭取が結婚する予定だった次女ノーラに贈ったものだが、恋仲だったジム・ヘイトが結婚式直前に失踪したのだ。その後家を買った人が急死し、買い手が長らくつかなかったというが、エラリイは引かず、契約成立。ノーラは家に引きこもり、その姉ローラは離婚して派手な格好をしていたため、町では悪い評判が立っていた。一家の希望は三女のパトリシアで、ライト郡検事カーターから熱烈に言い寄られていた。失踪して三年後、ジムが帰郷してノーラにプロポーズ。8月31日に二人は夫婦となる。ところがある日ノーラとパトリシアは書斎の準備中、ジムが書いたと思われる未投函の封筒を発見する。ノーラはその手紙を隠したが、エラリイとパトリシアは読んでしまう。日付は、11月28日、12月25日、1月1日、宛名は、ミス・ローズマリー・ヘイト、ジムの姉だった。そこには妻の病状が次第に悪化してゆく様が描かれ、三通目には妻の死を知らせる文面が載っていた。封筒が挟まっていた本は、エッジカムの『毒物学』。果たして、これは予定された殺人計画なのか。 11月8日、ジム・ヘイトの姉、ローズマリー・ヘイトがライツヴィルにやってくる。ジムは街の居酒屋で飲んだくれて、エラリイとパットが家まで連れ帰る。ジムは、酔っぱらいの戯言として妻を罵倒し「見ていやがれ! ぼくはあの女を始末してやる!」と口走る。警察署長と郡検事もそこに居合わせる。エラリイは、なんとかその殺人事件を事前に防ごうとするが、殺されたのは意外な人物だった。 父親の警視といる時はいつも「お父さん」と呼び、ぴしっとしているのに、今回単独出演だからなのか、エラリイがえらくプレイボーイだ。他に言い寄られる相手がいるパトリシアが自分の正体を見抜いたが早いか速攻アプローチ。えっあなたそんなタイプでしたっけ。大人の男の手管で彼女を探偵の助手に仕立ててしまう。この作品でエラリイが変わってしまった!という感想も散見されたので、違和感は私だけではなさそうだ。あと原題でもTown=街となっているが、どう考えても特定の家にだけ事件が起こっているので家=Houseが正しかったのでは。尚、ライツヴィルは『フォックス家の殺人』にて再登場。災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ エラリイ・クイーン ]楽天ブックス
June 28, 2023
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みなさんこんばんは。 アメリカのバイデン政権が中国の通信機器大手「ファーウェイ」に対する輸出を全面的に禁止する措置を検討していると欧米の複数のメディアが報じました。今日から2日間エラリイ・クイーンのミステリを紹介します。靴に棲む老婆〔新訳版〕There Was An Old Woman (ハヤカワ・ミステリ文庫) エラリイ・クイーン裁判を傍聴に来ていた探偵のエラリイ・クイーンとその父リチャード・クイーン警視は、弁護士チャールズ・ハンター・パクストンを見かけて声をかける。チャールズが担当している被告がポッツ=壺という意味でサーロウ・ポッツをからかって不敬罪で訴えられていると知り、二人はそちらの裁判を傍聴に。なんとなれば、ポッツ家は母コーネリアが一代で製靴会社を立ち上げ、成功した立志伝中の人物にして、カワリモノ、とのとかくの噂があったのだ。 コーネリアには先夫との間に3人、現夫との間に3人子供がいたが、先夫の子供たちがこれまたいずれもカワリモノだった。サーロウは批判されると誰彼構わずかみつき、今の時代に決闘を申し込む始末。長女ルーエラは誰もわからない研究に打ち込んで男っけなし。次男ホレイショは大人になってもおとぎの国の住人のような振る舞いをする。現夫との間に生まれた息子ロバートとマクリンの二人が、実質的な経営者だった。娘シーラはチャールズと婚約中。なんてこともない口論から、例の調子でサーロウは義弟ロバートに決闘を申し込み、成り行きでエラリイが介添え人にされてしまう。決闘なんてとんでもない!と一計を案じるが、ロバートは亡くなり、次いでマクリンまで死んでしまう。自分も殺されるのではないか?と怯えたシーラを、チャールズに頼まれたエラリイは守ろうとするが。 最初に、ある種答えは出ているのだから、素直にその道を通ればいいものを、なぜかエラリイ、犯人を断定しない。なぜに?いや、あまりに早く話が終わってしまうから?まあ、当たり前すぎてつまらないのか。やたらマザーグースの童話を口にして見立て殺人説を唱える。そもそも決闘をやめさせるのなら、小細工を使わないで、決闘自体をやめさせればよかったものを。名探偵の宿命か、中盤までは常に事件の後を追いかけ、後半スタートダッシュで追い込んで、さて皆さんと大団円に持ち込む。おまけに飛び切りの幸運もゲット。おや、この展開はホームズのあの作品…ごにょごにょ。 解説にも書いてあったが、作品発表当時はポッツ家の先夫との間に生まれたおかしな三兄妹の言動が、変人に見えたかもしれないが、多様性を謳う現代では、そこまで変人に見えない。むしろ「碌でもない兄弟に財産取られちゃう!」と当時は一番まともなことを言ってたシーラが、守銭奴で怪しく見えてくる。価値観の変遷の面白さよ。 ところでおとーさんのクイーン警視結構怒りっぽいですね。怒鳴られてばかりの部下ヴェリー部長刑事が可哀想になってきたよ。靴に棲む老婆〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ エラリイ・クイーン ]楽天ブックス
June 27, 2023
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みなさんこんばんは。ボサノバの名曲「イパネマの娘」で知られるブラジル出身の歌手アストラッド・ジルベルトさんが5日死去しました。昨日は若きエリザベス王女が登場しましたが、今日は大人版エリザベス女王が活躍するミステリを紹介します。エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人(1) Her Majesty The Queen Investigates:The Windsor Knot角川文庫S・J・ベネット 芹澤 恵 (訳)御年90歳になられる世界最高齢の君主エリザベス女王は、ウィンザー城が大のお気に入りだ。そのお気に入りの場所で、若いロシア人ピアニストのあられもない姿の死体が発見される。場所が場所であり、亡くなった状況からスキャンダルの気配も感じられたことから直ちに箝口令が敷かれる。容疑者50人を密かに調査した警察とMI5は「実は彼はロシアのスパイで今度の事はロシアの陰謀」説を女王に示す。しかしたった一人、その推理に異を唱える者が。 その人こそエリザベス女王。解説にも書いてあるように、絶対権力をふるえる人物が探偵になってしまうと、さしたる困難もなく正解にたどり着いてしまうので面白くない。しかし、今回はその絶対権力が壁になる。まず、顔バレしていて隠密の捜査活動ができない。また、第三者が見ている女王のイメージは、「このような事件が起きたことに心を痛める」くらいは表明しても、間違っても事件を解決したいなどと積極的に動くタイプではない。そのため、周囲が彼女を気遣って、なるべく平穏な毎日を過ごさせようと、事件の話題を避ける。「繊細な女王陛下の御心はお守りせにゃならんからな」 しかし、実際のドキュメンタリーを見ると、女王はかなり聡明である。第二次大戦前から新世紀まで、それなりに変化の激しい英国を見てきた人だ。「みなさんはお忘れなのよ。わたしだって戦争を生き抜いてきたタフな人間だってことを。」気のいいおばあちゃんなどと思っていると、足元をすくわれる。隠密行動ができない点については、今回王宮勤めを始めて間がない秘書官補のロージー・オショーディが代行する。前任者に会ったロージーは、これまで女王が密かに行ってきた事を知らされる。 誰も言わない本音と下世話なジョークをぽんぽんぶつけるフィリップ王配がイメージ通りの声高し。習近平、プーチン、オバマ大統領夫妻、メルケルなど各国首脳が出演したり話題に出るのも主役が国家元首ならでは。プーチンの大人げないメルケル虐めなど、女王の感想として書かれているのは、著者の意見?エリザベス女王の事件簿 ウィンザー城の殺人(1) (角川文庫) [ S・J・ベネット ]楽天ブックス
June 9, 2023
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みなさんこんばんは。霧馬山が大関昇進で霧島になるそうです。今日は貧乏お嬢様シリーズの最新刊を紹介します。貧乏お嬢さまの困った招待状God rest ye,royal gentlemenコージーブックス 英国王妃の事件ファイル 15リース・ボウエン原書房 結婚して初めて迎えるクリスマス・パーティーの準備は問題だらけ。友人ベリンダ・ドイツ人の恋人マックスを持つ母・ゾゾらに招待状を送るが、いずれも空振りで兄夫妻くらいしか来ない。ダーシーに「ホームパーティっぽくていい」と慰められるが、そんな矢先ダーシーの変わり者の伯母から思わぬ招待状が届く。彼女は王妃の元侍女として、近くに土地を与えられていた。ジョージーは急遽、伯母のパーティーへ参加することにするが、急な招待の裏では王妃が糸を引いているようだ。 強烈な登場人物が今回は少なそう…と思いきや、土壇場でマックスと喧嘩した母が戻ってきてサンドリンガムに同行するわ、デヴィッド王子と噂の恋人シンプソン夫人がやってくるわで、どうやら穏やかなクリスマスは迎えられそうにない。出会えば喧嘩の二人の喧々囂々の会話がいいスパイスになっている。 訳もなく男性が不審死を遂げるメインのミステリはさておき、今回の肝はとうとう国王が亡くなることだ。エリザベス王妃は相変わらずデヴィッドとその恋人に頭を悩ませているが、デヴィッド皇子は「国王になれば何でもできる」=シンプソン夫人を王妃にできると確信しているかのようだ。これまで「そうなったらどうしよう」と登場人物達が頭を悩ませ、一方史実を知る読者は「運命のXデイはいずれくる」とはらはら。自らの身に起こる激動の運命を知らず、牧歌的な暮らしを楽しむエリザベス王女が不憫だ。貧乏お嬢さまの困った招待状 (コージーブックス 英国王妃の事件ファイル 15) [ リース・ボウエン ]楽天ブックス
June 8, 2023
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みなさんこんばんは。第76回カンヌ国際映画祭でアウト・オブ・コンペティション部門出品作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の公式会見が行われ最後のインディ・ジョーンズ役を務めたハリソン・フォードが前日の公式上映での名誉パルムドール受賞やスタンディングオベーションを思い出し、感極まって言葉を詰まらせる一幕がありましたね。引退した高齢者たちが事件に挑むシリーズ2作目を紹介します。木曜殺人クラブ 二度死んだ男 ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックスThe Man Who Died Twiceリチャード・オスマン 邦題も現代も007を意識しているようだがタイトルの意味はラストまでお待ちを。但し今回は前回と異なりMI5も絡んでくるため、多少007っぽくてもいいかも。 老人探偵グループ〈木曜殺人クラブ〉メンバーのエリザベスが、死んだはずの因縁ある英国の諜報員から手紙を受け取った。彼は2000万ポンド相当のダイヤを盗んだ疑いを掛けられて米国のマフィアから狙われており、協力を求めてきたのだ。そしてクラブのメンバーたちは消えたダイヤとスパイ、凶悪な犯罪者たちにまつわる国際的な大事件に巻き込まれる。果たして彼らは解決することができるのか? そして補足情報。エリザベスに助けを求めてきたのは彼女の元夫にして諜報員で、エリザベスもかつては組織に属してきた。ここで前巻の妙に動じない彼女のバックグラウンドが明らかに。語り掛け口調と三人称視点の混在構成は本巻でも継続される。あまり効果を挙げているとは思えないが、作品自体が堅くなりすぎるのを防いでいるのだろう。会話のテンポが良いので最初から映像化を想定して書かれたのかも。スティーヴン・スピルバーグの映画会社が権利を獲得したとか。主演のエリザベスはヘレン・ミレンがぴったりだ。ダイヤモンド問題はそれこそ諜報機関を巻き込む大問題だが、サイドストーリーで、メンバーの一人イブラハムが町の若者に乱暴される事件がある。イブラハムという名前からユダヤ人だろう。過去の記憶も影響してか、トラウマでなかなか外に出られない彼を再生させるというテーマもある。こちらは中高年特有の問題だ。彼等に協力する気のいいポーランド人ボグダンもその能力の源泉が気になる所だ。シリーズ化されるようなのでその過程で明らかにされるだろう。木曜殺人クラブ 二度死んだ男 (ハヤカワ・ミステリ) [ リチャード・オスマン ]楽天ブックス
May 23, 2023
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みなさんこんばんは。NHKの人気番組「できるかな」ののっぽさんが亡くなりましたね。今日はインドが舞台のミステリを紹介します。帝国の亡霊、そして殺人Midnight at Malabar Houseヴァシーム・カーンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス1949年、共和国化を目前にしたボンベイの大晦日の夜に英国の外交官ジェームズ・ヘリオット卿が殺害された。犯行現場の金庫は空。さらにジェームズ卿の上着からは暗号めいたメモが見つかった。捜査に当たるのは、インド初の女性刑事ペルシス・ワディア警部。 『阿片窟の死』『マハラジャの葬列』アビール・ムカジーのミステリは新生共和国誕生前夜のインドが舞台だった。捜査官二人は独立の気運盛り上がるインドとイギリスの対立を背景に、難しいかじ取りをしながら捜査に挑んだが、共和国が成立すると決まっても、まだインドはごたごたしていた。普通ならば女性捜査官が担当するなどあり得ない。たまたま大晦日で家族持ちは皆休みを取っており、当番だったのが独身のペルシスで、たまたま電話を取ったのがきっかけだ。「権力の回廊では、数万のインド人が殺されても、わずかに眉が吊りあがる程度にしかならないが、殺されたのがたとえひとりでも、それがイギリス人であれば、そこにいる者たちは大騒ぎし神の名を呼ぶ」事実上は存在しないはずのイギリスとインドの格差と対立、更には女性差別とダブルスタンダードを乗り越えるには、直感型で後先考えない猪突猛進タイプの女性警部ペルシスの突破力が必要だった。「富と権力があれば殺人を犯してでも逃げおおせる国に公平な尺度をもたらしたい」という信念は、母親の不幸な死を受けたものだ。信念は理解しつつも、やはり娘を心配して反対する父親との間には蟠りがある。家族も警察署内も全面的に賛成してくれるわけではないだけに、時に彼女は強情になるが、そんな彼女の緩衝材となるのが、お目付け役としてつけられたロンドン警視庁付き犯罪学者アルキメデス・ブラックフィンチだ。独立以前からインド内部にあったカースト制度、多民族国家の対立という幾重にも張り巡らされた困難を乗り越えて事件解決を目指す女性警部の奮闘記。帝国の亡霊、そして殺人 (ハヤカワ・ミステリ) [ ヴァシーム・カーン ]楽天ブックス
May 22, 2023
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みなさんこんばんは。鳥インフルエンザの感染拡大に伴う卵の供給不足や価格高騰など、いわゆる「エッグショック」の影響が外食産業で拡大しているようです。外食大手100社のうち、2023年に入って卵メニューの休止や休売に踏み切り、または表明した企業は、4月5日時点で少なくとも28社に上るそうです。今日もラグナル・ヨナソンの作品を紹介します。閉じ込められた女 (小学館文庫)Misturラグナル・ヨナソン真冬のアイスランド高原地帯。猛吹雪が襲う人里離れた農場に、一人の男が訪ねてくる。農場主の夫妻は、あり得ない天候の下での来訪を不審に思うものの、男を招き入れる。男はレオと名乗り、ハンティング中に仲間とはぐれたと言った。やがて男は、夫婦の隙を見て家の中を探り始めた。真冬にハンティングに来たという男の言い分がそもそもおかしかった。夫のエイーナルが男の荷物を調べると、多額の現金とナイフが見つかる。疑念と怒りを抱いたエイーナルはナイフを手にレオと対峙する。妻のエルラは恐怖にかられて母屋を飛び出し、地下室へと逃げ込んだ。しかし、そこで待っていたのは底知れぬ闇と、永遠に続くかと思われる時間だった。 その頃、レイキャヴィーク警察の女性警部フルダは、若い女性の失踪事件を追っていた。男優位の警察社会で自分の能力を示す必要があった。一方、娘のディンマがフルダに心を閉ざしている様子なのが気がかりだった。家族の中で、思わぬ悲劇が進んでいた。 ラグナル・ヨナソンのフルダを主人公にした三部作の完結編。本シリーズはわざと時系列を逆に辿る。クリスマス直前の出来事なので、冬が長く昼間が短いアイスランドの冬の様子が描かれる。外が明るくなるのは11時頃、冬場は次に新聞を目にするまで数か月経つこともある。気晴らしは特別に貸出期間を延長してくれる図書館で借りた本くらい。当日の新聞は雪深い村には配達が難しい。半分陸の孤島と化す。加えて実質的な暗さ=光の射す時間の短さが、閉塞感を強める。 そんな中の訪問者だから、迎える側は目新しく明るい雰囲気になるはずなのに、エイーナルとエルラの表情は暗いままだ。むしろ訪問者を怖れている。一方訪問者も怪しげな行動を取る。いずれも警戒している中、果たして正義はどちらに?そして“閉じ込められた女”はどこにいるのか? フルダの家は「閉じ込められた」ではなく娘が閉じこもった状態にある。実際娘は最後まで読者の前に出てこないまま亡くなってしまう。その現象のみが提示され、原因については明かされない。第一作でずばり書かれているからだ。本作がシリーズ初の場合、気になるのは、フルダが帰宅した時に「“思いがけず”夫が娘の部屋から出てきた」「もっと遅くなると思っていた、と夫が言った」記述である。読者は娘も閉じこもらざるを得なかった、つまり閉じ込められた女の一人だったことがわかる。最後にフルダの夫への気持ちが提示されるが、この決断がフルダにどういう影響を与えたかが第一作に引き継がれる。 ボーナストラックとしてヨナソンの別シリーズの主人公アリ=ソウルの短編『雪は静かに降りつもる The Silence of the Falling Snow』が収録されている。こちらは一方的に相手が話すのをアリ=ソウルが聞いている形式で、あまり推理力を働かせる余力はない。閉じ込められた女 [ ラグナル・ヨナソン ]楽天ブックス
May 16, 2023
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みなさんこんばんは。デザイナーのマリー・クワントさんが亡くなりましたね。今日から2日間ラグナル・ヨナソンの作品を紹介します。闇という名の娘The HULDA TRILOGY #1:DIMMAラグナル・ヨナソン小学館文庫レイキャヴィーク警察・犯罪捜査部の女性刑事フルダ・ヘルマンスドッティルは、”ガラスの天井”に出世をはばまれ、警部止まりで64歳の定年を迎えようとしていた。ある朝フルダは、20歳も年下の上司に呼び出され、2週間後に部屋を明け渡すように言われる。フルダが担当している事件も、すでに他の者に割り振ったという。体で発見されたロシア人女性の再捜査を始めるのだが。 実は冒頭、フルダはもう一つの事件を抱えている。小児性愛者が自動車でひき殺された事件で、彼女は既に犯人を見つけて自白を得ている。にも拘わらずこの事件を事故として葬ると犯人に告げる。警官としての逸脱行為は、彼女の過去に起因している。 一方でロシア人の行方不明事件については、若い頃なら絶対見逃してはいないだろう一言が思い出せなかったり、独断で動いて警察の秘密捜査をだめにするなど、若い頃なら考えられないミスが目立つ。女性ゆえに能力を不当に評価された過去は確かにあったが、現在の彼女には総合的な能力の衰えも確かにあることが提示される。 闇という名の娘とはフルダの亡くなった娘の名前でもあるが、行方不明になり、事故死として処理された、誰からも顧みられない女性達のことでもある。そしてもう一人、闇に葬られる女性が登場する。第一作のラストがこれ?と信じられない読者多数だが因果応報で日本人にはしっくりくるのでは。闇という名の娘 [ ラグナル・ヨナソン ]楽天ブックス
May 15, 2023
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みなさんこんばんは。逸ノ城が電撃引退だそうです。春場所十両優勝も腰痛限界らしい。まだ若いのに。今日もフィリップ・K・ディック作品を紹介します。トータル・リコール (ディック短篇傑作選)We Can Remenber It for You Wholesale and Other Stories大森望/深町眞理子訳早川書房 「トータル・リコールWe Can Remenber It for You Wholesale」深町眞理子 訳夜ごと火星に行く夢を見ていたクウェールは、念願の火星旅行を実現しようとリコール社を訪れるが…。2度映画化されたが、やはり皆この画像のインパクトが強いのでは。しかし原作にこんなシーンなかったし、実はつおい妻に蹴り入れられるシーンも映画オリジナル。多少かかあ天下程度。「出口はどこかへの入口The Exit Door Leads In」 浅倉久志 訳 人生つまんないなーと思っていたボブ・バイブルマンは、欲しくもない懸賞に無理やり当選させられて、エジプトの大学に送り込まれる。ところがそんな彼が決断を迫られる時がきて…。人生ってタイミングが大事だね、という話。「地球防衛軍The Defenders」浅倉久志 訳地上では放射能がきつすぎて人間が生きられず、ロボットだけが動き回っている。ひょんな事から作家が危険な調査を依頼されて。いかにも核の脅威と隣り合わせの冷戦時代に創られたSF。敵国はソ連。道具のつもりでいたロボットの方が実は賢かった。「訪問者Planet for Transients」浅倉久志 訳放射能汚染により地球には人類が住めなくなった。次に考えるのは移住だ。しかしそんな地球を生き延びられる種がいた!この訪問者という意味がわかると切ない。「世界をわが手にThe Trouble with Bubbles」大森望 訳 皆が地球と同じような姿かたちの地球球で遊ぶ時代。しかし人間には大切に育てたい本能と同じくらい壊したい衝動があって。怖い話。人間ではなく誰かが地球を壊したいと思ったとしたら?「ミスター・スペースシップMr.Spaceship」大森望 訳老教授の脳だけを宇宙にもっていっちゃおう!という発想から始まった宇宙船計画。ところが次第に勝手に振る舞い始めて…何だか『2001年宇宙の旅』のHALみたい。「マイノリティ・リポートThe Minority Report」浅倉久志 訳 こちらもトム・クルーズ主演で映画化。初登場時のアンダートンが禿げていて、腹が出てきて、老けこんだという描写で、自信満々な新人ウィットワーに脅威を感じていたが、映画のトム・クルーズはそんな感じではなかった。トム仕様に主人公が作り替えられたようだ。「犯罪を起こしそうな人を前もって逮捕することで犯罪を抑止すべし」という結構無茶ぶりなプログラムを考案した犯罪予防局のアンダートンが、何と殺人者認定される。そんな馬鹿な事がと慌て始めたアンダートンの奮闘が始まる。映画は眼の中にミニ昆虫メカが触手を伸ばすシーンが印象的。これって映画に妻出てきたっけ。あまり印象がない。少数報告と訳されてしまうと全然別の映画みたい。「吊されたよそ者The Hanging Strancer」(大森望 訳)吊るされた男がいるのに、なぜか誰も気づかない。エド・ロイスは必死に周囲に訴えて回るが…。ラストが怖い。「非ONull-O」(大森望 訳)「フード・メーカーThe Hood Maker」(大森望 訳)収録。いやそれにしても核戦争と放射能で汚染された地球の多いこと多いこと。それだけ当時の皆の描いている未来というのは核戦争一色だったのだ。トータル・リコール/フィリップ・K・ディック/大森望/深町眞理子【1000円以上送料無料】bookfan 2号店 楽天市場店
May 5, 2023
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みなさんこんばんは。作家の海野弘さんが亡くなりましたね。今日から2日間フィリップ・K・ディックの作品を紹介します。ジャック・イジドアの告白Confession s of a Crap Artist(ハヤカワ文庫SF) フィリップ・K・ディック阿部 重夫 (訳)1950年代のカリフォルニア、古タイヤの溝彫りをして働く30代男性ジャック・イジドアは、雑多な知識をただ溜め込んでいる。とんでもないものを万引きして捕まり、妹夫婦と同居することに。わがままな妹フェイと暴力的な夫チャーリー、明るい太陽と乾いた大地の中、人々は誰もが精神を病んでいる。やがてジャックは、「世界が終わる」という予言を信じるようになる。 ユダヤ教、ゾロアスター教、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教、いずれの宗教も終末論が唱えられている。“世界の終わりが来た時に善人が救われ、悪人は地獄に落ちる”というのが共通認識である。つまりは“だから皆さん生きている間に善い行いをしましょう”という教えに結びつけるためである。非常によくできている。1950年代のアメリカでは、ちょうどテレビ伝道が始まっており、宗教がより広まるようになった。しかし、中には世界の終わりが来る事に夢中になってしまう人達がいた。解説に詳しく書かれている本作の女性教祖のモデルとされる人物もその一人である。なんでもUFOが世界の終わりにメンバー達を救いに来てくれると信じていたらしい(んなアホな)。一方で『宇宙戦争』のように、ばりばり宇宙人と闘うSF映画が作られていたのに、一方では救世主扱いされ、宇宙人も大変だ(やれやれ)。 というわけで、ディック作品だからてっきりSFかと思ったら、全然SFではなかった。しかし登場人物が「世界の終わりが来る」と信じており、次第に刹那的な行動に移る様は映画『シャイニング』のようだ。 「告白」と銘打っており、最初の語り手は「ぼく」となっているが、実は語り手は複数いる。ジャックの妹フェイがいきなり「あたしは」と始めたり、三人称視点だがチャーリーやフェイの浮気相手ナットが語り手を務める章もある。作家志望者がこんな作品を書いてきたら「わかりにくい!視点を統一すべし」とアドバイスするが、ディックの事だから意図があってやっている。まあ、カオスの創出だろう。ジャック・イジドアの告白 (ハヤカワ文庫SF) [ フィリップ・K・ディック ]楽天ブックス
May 4, 2023
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みなさんこんばんは。26日未明、日本のベンチャー企業が開発した着陸船が世界初の民間による月面着陸に挑みましたが、着陸予定時刻のあと通信が途絶え、計画していた着陸はできませんでした。今日はミステリを紹介します。海岸の女たちKvinnorna pa Strandenトーヴェ・アルステルダール創元推理文庫海岸でいちゃついてて目が覚めたらパスポートも金もとられてた女性テレーセ。さてこの話がどう発展していくのかと思いきや、舞台美術家のアリーナ・コーンウォールが、意味深な電話を残して失踪した夫パトリックを探す話にシフト。出したからにはどこかでこの二つは繋がるのだろうと思いながら読んでいく。わかってみれば答えは最初から読者に提示されていたのだが、ある情報を敢えて著者が出さなかったために、なかなか見つからない。 アリーナはお腹は目立たないが妊婦である。普通なら誰か信頼できる男性主人公を一人立てるのが理想的だが、外国語があまり得意ではないにも関わらず、彼女は一人で動く。彼を思う愛情の強さ故だと好意的に解釈するが、一方で子供の事をもっと考えればいいとも思う。特にラスト近くで起こってしまうある出来事の後では特に。 パトリックが追っていた特ダネとして浮上するのが、現在ヨーロッパで大きな問題となっている不法移民である。“不法”故に密入国のマージンの相場は天井知らずであり、作品に書かれたように先払いなので安全に目的地に着くかは不透明だ。それでも密入国したい移民の弱みに一方的につけこんだ悪人たちのやりたい放題が通用する悪質な市場である。 こんな社会的テーマを追っていたパトリックの妻なのに、素人のアリーナが彼を探して訪ねる所訪ねる所次々と死体が出る。尾行を巻くなどプロフェッショナル視点を持っていない彼女だからこそ起きる事態であるが、危険を冒して彼女に会い、情報を提供してくれているのに、その人が頼んだことは無視するなんて、仁義にもとるのではないか。この社会的悪を追求する視点をずっと持ち続けてくれていれば良かったのに、どうしても物語が私怨に流れがちになる。必ずしも本作は好意的に受け取られなかったようだが、ヒロインの言動に不審を抱いた読者がいたからではないだろうか。【中古】 海岸の女たち / トーヴェ・アルステルダール, 久山 葉子 / 東京創元社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗 楽天市場店
April 27, 2023
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みなさんこんばんは。音楽家の坂本龍一さんが亡くなりました。今日は韓国のSF小説を紹介します。千個の青A Thousand Blueチョン・ソンラン早川書房「ぼくはいま落下している。普通なら落ちるのに三秒もかからないだろう。でもぼくは、三秒より何倍も長い時間をかけてゆっくりと、少しずつ空から遠ざかっている。地面に着いた瞬間、衝撃はあるだろうが痛みは感じないはずだ。でも、体が粉々に砕けるのは避けられないとわかっている。痛みを感じないことがぼくの存在理由であり、最大の長所だと言う人もいたけれど、それはやっぱり間違いだ。もしも痛みを感じられたらこんなふうに落っこちていなかっただろうし、最期を迎えることもなかっただろうから。ぼくの推論によれば、痛みとは生命体だけに備わる最高の防御プログラムだ。痛みが人間を生かし、痛みが人間を成長させる。」 死に向かう人のモノローグとしては実に冷静である。いや、人と言ってしまっていいのか。彼はヒューマノイドで、初登場時は記号C-27で呼ばれていた。しかし後々わかってくるが、彼が物語の中で最も人間らしいのである。 さて、名前がついた彼はコリーと呼ばれる。牧羊犬のようだがブロッコリーの略だ。2035年、近未来の韓国では、ヒューマノイドに人間が仕事を奪われる所まで来ている。もう一人の主人公ヨンジェはそのためにバイト先を首になる。コリーは騎手ロボットだ。通常は走るために必要な事しかプログラミングされていないはずが、学習学習機能が入ったチップが間違って紛れ込んだために、人間から様々な知識&経験を受け取って学習していく。当然基本に忠実なので、理に合わない事はどしどし質問していくが、同時に人間の矛盾を突く事になるわけで、その度に人間がはっとさせられる。結果的に、ヒューマノイドとして人間と認められない彼が、最も人間らしい生き方を貫くことになる。 物語は各人物の三人称小説になっている。競走馬と見なされなくなった馬トゥデイの対応に心を痛める獣医、かつてトゥデイとコリーのマネージャーだったが、二人の人気があがるとあっさりお役御免となる厩舎の管理人ミンジュ、ヨンジェの姉で小児麻痺のウネ、二人の母親で元女優のボギョン、お金持ちの娘でドラマでは絶対悪役設定なのに裏表がないヨンジェのクラスメートのジスなど、キャラクターの描き分けが素晴らしい。名言が多く登場するが、いちばんの名言はあれで決まりでは。千個の青 [ チョン・ソンラン ]楽天ブックス
April 4, 2023
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みなさんこんばんは。沢山のものが値上がりする4月が来ましたね。今日は韓国のSF小説を紹介します。地球の果ての温室でGreenhouse At The End Of The Earthキム・チョヨプ早川書房ダストという毒物の蔓延により動植物が死に絶える大災厄からようやく復興を遂げて60年。生態学者のアヨンは、謎の蔓草モスバナの異常繁殖を調査している時、その地で青い光が見えたという噂に心惹かれた。アヨンはモスバナの秘密を知る者を探すうち、この世界を復興させたとされる女性の一人ナオミにたどり着く。彼女はアヨンに自らの過去を語り出す。それは、食糧を巡り殺し合う時代を生きぬいた幼い姉妹アマラとナオミの物語、そして、今や歴史に埋もれる謎の女性ジスとレイチェルの物語だった。謎の蔓草モスバナの異常繁殖地を調査する植物学者のアヨンは、そこで青い光が見えたという噂に心惹かれる。幼い日に不思議な老婆の温室で見た記憶と一致したからだ。アヨンはモスバナの正体を追ううち、かつての世界的大厄災時代を生き抜いた女性の存在を知る。 話中話のスタイルが採られる。アヨンに語られるナオミの物語の一端は、実は少しだけ先に読者に語られる。というのは、冒頭がナオミとアヨンが隠れ場を求めてやってくる場面なのだ。しかし耐性種として暖かく受け入れられると思っていた二人に対して、銃が向けられる。現在アヨンに話しているのはナオミだから、ナオミは生き延びたのだ。では、アマラは?これが引きになる。 災厄が起こると、大方は、今いる場所を捨てて安全な場所を探しに行く。しかし中には今いる場所を安全にしようと働きかける人もいる。逃げてコロニーを形成した人達も、長い間一緒にいれば人間関係の軋轢も生まれる。よくあるSF小説では、異星人に迫害され、戦いながら人間が生き残るパターンが大勢を占める。しかし著者が仮託した登場人物が描く未来は、人間だけが幸せに暮らせる世界ではない。耐性種も、そうでない人も、サイボーグも、そして植物も、皆が等しく幸せを得られる世界を求めている。こうした発想がアジアのSFから出てきたということが意義深い。 前作でも思ったが、やはり著者にジェイムズ・ティプトリー・ジュニアみを感じる。スタジオドラゴンと契約したというニュースが入ってきたので、いくつかの作品はドラマ化されるかもしれない。地球の果ての温室で [ キム・チョヨプ ]楽天ブックス
April 1, 2023
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みなさんこんばんは。生粋のスポーツカー好き・トヨタ豊田章男社長が今年3月いっぱいでの社長退任を発表しました。今日も韓国小説を紹介します。破果Bruised Fruitク・ビョンモ岩波書店 まずこの表紙絵のインパクトである。毒々しいまでの赤。赤く塗られた爪。そして浮き出る静脈から顔を出さずとも年齢が察せられる。手に始まり、手に終わる物語のヒロインの名は爪角、当年とって65歳である。 稼業ひとすじ45年といえば表彰ものだ。一体何の仕事を?彼女のような職業は、いわゆる防疫と言われる。疫を防ぐ―誰かにとっての駆除すべき害虫、退治すべきネズミを請け負って殺すのだ。しかし65歳といえば老眼が進んでいる。いくら名うてのスナイパーでも照準が合うのか。遠くが見えるようになったといっても、近くに何者からか狙われていてもわからんぞ。そしてスナイパーが逃げ足が遅くては話にならない。そして物忘れもだ。「あれ今ここはどこ私は誰」とかやってた日にゃ、命がいくらあっても足りないぜ。どうする殺し屋。 かつて名を馳せた腕利きの女殺し屋・爪角もやはり老いからは逃れられず、致命的なミスをして契約している医院に駆け込む。ところが偶々いつもいる医師ではなく、薬を取りにきていた別の医師と出会う。守るべきものは作らず執着もしない。ザ・ハードボイルドを生きてきた爪角に、ふと心の隙間が生じた時、最後の闘いが始まる! なんなんだこの展開。誰だ年齢がもう少し若かったらとか言ってる人。韓国では60代でも足腰鍛えないとソウルの街を歩けないのだ。ソウルでも未だ地下鉄では階段が多い。タフでないと高齢者は生きられないのだ。 クライマックスは今ドキの若者が「ばーさん、引っ込んでな」という軽い動機で仕掛けたのかと思いきや、作者、韓国人が因縁好きであることをよくわかっている。そしてどちらも容赦をしない中繰り広げられる、息もつかせぬ最後の闘い。 本作は2013年に出版された際にはさほど評判にならなかったが、折からの#MeToo運動の盛り上がりにより、2018年に改訂版が出版された。破果 [ ク・ビョンモ ]楽天ブックス
March 30, 2023
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みなさんこんばんは。韓国俳優イ・スンギが恋人で女優のイ・ダインとの結婚を電撃発表しました。さて今日は3部作の第二弾を紹介しますね。1794 (小学館文庫)ニクラス・ナット・オ・ダーグヘレンハルメ美穂訳 1794年、ストックホルム。カリブ海に浮かぶ植民地サン・バルテルミー島での過酷な日々を終えて故国に帰還した若者エリックは、幾多の困難を乗り越え将来を誓い合った娘リネーアと、ついに夫婦となろうとしていた。しかし幸福の絶頂である婚礼の日の夜、エリックは刹那にして地獄へと突き落とされる。戦場帰りの風紀取締官カルデルとその相棒の弟エーミルは共に深い傷を抱えながらも、人の成りをした悪魔の正体を暴くため、暴力と奸計渦巻く北の都を奔走する。 全四部構成。第一部の主人公は裕福な家の次男坊エリック。冒頭は彼のモノローグであるが、明らかに元気がない。そこから彼の過去に遡る。第二部はようやくシリーズお馴染みのキャラが登場。引っ立て屋カルデル。風紀取締隊で良心に従ってちゃらんぽらんやっていた彼が、やっと正義を取り戻した相棒セーシル・ヴィンゲを失うが、何と瓜二つの弟エーミルと再会。ところが兄に勝るとも劣らずと評された彼は、今はただのアル中だった。彼はいつも頼りになるある人物と語るが、最近ミステリでこのパターンが多い。第三部もまたお馴染みのキャラ、というか第二部ラストで登場。悲惨な過去を持つアンナ・スティーナ・クナップ。世が世なら、そして生まれが生まれならその才覚でどこででも生きていけただろう彼女も、今は妊婦の身で何かと身軽に動けない。第四部は全ての登場人物が登場する大団円。但しおめでたい響きはない。 国のトップに立つ者が腐っていると政治機構も腐敗し、人々もその空気に緩慢になっていく。そんな中で、打ち捨てられてもいいと思える正義を、世の中の底辺の庶民が持ち合わせているという熱い設定。原文を読んでいるわけではないのにストーリーの勢いに押されて一気読み。完結編の前に主人公クラスを奈落の底に突き落とす2冊目。1794/ニクラス・ナット・オ・ダーグ/ヘレンハルメ美穂【1000円以上送料無料】bookfan 2号店 楽天市場店
March 5, 2023
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みなさんこんばんは。今月値上げされる食品や飲料は5000品目を超えていることが、信用調査会社の調査でわかりました。今日も萩尾望都さんが表紙絵を担当したファンタジーを紹介します。トレマリスの歌術師〈3〉第十の力The Chanters of Tremaris The Tenth Powerケイト・コンスタブルポプラ社とてつもない力を発揮してメリツロス帝国の宮殿崩壊を止めたカルウィンだが、大きすぎる代償を払うことになってしまった。歌術を全て失ってしまったのだ。傷ついたヒロインが戻る所は懐かしき故郷、三つの月に司られる世界・トレマリス。ミカとトラウトを連れてアンタリスへ戻ったカルウィンは、変わり果てた故郷の姿を見る。氷壁に並べられた巫女たちの死体、歌術師だけがかかる雪病の蔓延。目を覚ました長老マーナは、「一の巫女の位を継ぐべきはカルウィンだ」と言い、息絶える直前に、女神の秘儀を伝える。カルウィンは、自分が歌術の才をなくしたことを言えないまま、マーナの話に耳を傾けた。「“環”を見つけよ、“環”が答えを握っている。だが秘密を解き明かすには“第十の力”が必要だ」「第十の力」の秘密とは?カルウィンは万歌の歌い手となり、悪の皇子・サミスを倒すことができるのだろうか? 第1巻で「万能感溢れるヒロイン」を登場させ、さあこれで成長譚&ラブラインの発展に行くのかと思いきや、第2巻で彼女を支えてきた力を奪ってしまう。思いだけではどうにもならない現実を知った上でのカルウィンの行き場のなさが、ダロウの手を退ける。 故郷アンタリスの病気=雪病は、いわゆる伝染病だ。サミスがやってきた後に蔓延したので、外界からの感染ということになると、何やら新型コレラを彷彿とさせる。その後の対応も新型コレラ蔓延初期に倣い、治療薬が見つからない中患者を寝かせておくだけで、必要以上の接触はしない。苦痛を和らげたい人には苦茨を渡す。閉塞した社会の中で、“かかった者が悪い”という風潮が広まり、声の大きい人の意見が通る。発表当初もちろん新型コロナは登場していなかったが、いつの時代も伝染病の扱いは似ていたのだろう。【中古】 トレマリスの歌術師(3) 第十の力/ケイトコンスタブル【著】,小竹由加里【訳】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
February 28, 2023
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みなさんこんばんは。和歌山の3頭のパンダメスの双子の「桜浜」と「桃浜」日本で16頭もの子どもをもうけた「スーパーパパ」とも呼ばれる30歳の「永明」が関西空港から中国に向けて出発しました。今日も萩尾望都さんが表紙絵を担当したファンタジーを紹介します。トレマリスの歌術師〈2〉水のない海The Chanters of Tremaris The Waterless Seaケイト・コンスタブルポプラ社 歌術を力に『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジャック・スパロウみたいになっているカルウィン達の中に、ダロウはいなかった。詳しい事は何も言わないまま去っていったダロウの事が、カルウィンは気になって仕方がない。そんな時「幽閉されている歌術師の子どもを助けて欲しい」と弟妹を攫われた帝国の貴族の息子ヘーベンから頼まれたカルウィンたちは“蜘蛛の巣宮殿”に忍び込む。そこはダロウの秘密が隠された場所でもあった。カルウィン達が宮殿に向かったと知ったダロウは後を追うが。 カルウィンの故郷・トレマリスでは尊ばれていた歌術も、帝国においては薄気味の悪い魔法と見なされ、能力を持つ子供達が幽閉されていると知って、我らがヒロイン・カルウィンが黙っていられるわけがない。更に、前巻であっけなく死んだサミスが、実は生きている(やっぱり!)という話が、帝国の皇女キーラからもたらされ、カルウィン達は驚く。ダロウも死を確認したはずでは?というわけでダロウとサミスの因縁話も本巻で明らかに。第1巻にしてあっけなくラスボスが死んだことに納得のいかない読者もいただろうから、このあたりは順当な展開。 この世で最強の歌い手の称号である“万歌の歌い手”として、次々と新たな歌術を獲得したカルウィンの思いがけない挫折と、本来の自分の場所に戻る決意をしたダロウの葛藤、そしてもどかしい二人の恋愛が描かれる。ラスト、せっかく会えたのに、自分のアイデンティティと言ってもいい歌術を失ってしまったカルウィンは、ダロウを遠ざけてしまう。万能感を抱えたまま物語が進むと、主人公に試練がなくなってしまうので、3巻で完結するつもりならば、本巻の挫折は必要。さあ、ゼロからのスタートを余儀なくされたカルウィンが戻る場所とは?【中古】トレマリスの歌術師〈2〉水のない海ブックサプライ
February 27, 2023
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みなさんこんばんは。ウクライナへの侵攻を続けるロシア軍は、兵器や装備品の不足が深刻化していると指摘されています。こうした中、戦況を分析するイギリス国防省はロシアの軍需企業が刑務所に服役する受刑者を雇用し、兵器の増産など対応に乗り出しているという見方を示しています。今日から3日間萩尾望都さんが表紙絵を担当したファンタジーを紹介します。トレマリスの歌術師〈1〉万歌の歌い手The Chanters of Tremaris The Singer of All Songsケイトコンスタブルポプラ社 三つの月に司られる世界・トレマリスでは、かつて「歌による魔法」が広く行われ信じられていたが、今は忘れられようとしていた。トレマリスの国々のひとつ、氷の壁に囲まれた小国アンタリスは月の女神タリスに仕える巫女たちの国。巫女たちは氷の歌術で壁を強め、外敵の侵入を防ぎ、山中にひっそりと暮らしていた。ある日、見習い巫女のカルウィンは、何者をも通さぬはずの氷壁の内側に、見知らぬ外地の若者が大怪我をして倒れているのを発見する。ダロウと名乗る若者は、砂漠の帝国メリツロス出身の鉄芸師(鉄芸を操る歌術師)だった。徐々に回復するにつれ、ダロウはサミスという邪悪で強力な歌術師に追われていること、そしてサミスは九つの歌術すべてを修め、全トレマリスの帝王になる野望を抱いていることを話す。カルウィンは、ダロウを助けるため、禁じられている氷の壁の外に出て、仲間とともに、サミスの野望を阻止する旅へ出ることになる。 顔が小っちゃくておさげ髪の表紙の少女がカルウィンだ。好奇心旺盛で、外の世界への憧れを抱いていた、規則ずくめの社会の異端者だった彼女が、外界からのまれびと=ダロウと出会い、外で起きている問題に対処することで成長していくビルドゥングスロマン。「氷の力」を持つカルウィン、風使いのミカ、生成の力を持つ樹海の民ハラサー、カルウィンを助けた事から学校を飛び出すことになったミターテスの学生で発明好きのトラウト、サミスとの戦いで弟を失った漁師トンノ、サミスとはかつて友だった鉄芸師ダロウが、メリツロス帝国の皇子サミスに立ち向かう。 歌が魔力を持つ世界で、九つの歌をすべてものにした歌い手=万歌の歌い手(原題)となった者が、世界を想いのままにする力を持つ。声域が異なるので、男女いずれであっても九つの歌を習得するのは難しいはずだが、オールラウンドプレイヤーとされている万歌の歌い手には可能らしい。そして我らがヒロインカルウィンが、どうやらそうらしい…というのが次第に明かされていく。さあ、そうなるとダロウを守ってきたはずのカルウィンが今度は狙われる存在になり、守るVS守られる関係の逆転によって、二人の間にも別の感情が生まれていく。恋愛と物語、両方の中心に未知数の力を秘めたヒロインがいる、王道ファンタジー。 おモーさまこと萩尾望都が表紙絵とイラストを担当。ファンタジーとおモー様は相性がいい。長らく翻訳者として活躍してきた浅羽 莢子さんの最後の訳書でもある。『中古』トレマリスの歌術師〈1〉万歌の歌い手KSC
February 26, 2023
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みなさんこんばんは。作家の永井路子さんが97歳で亡くなられたそうです。さて今日は有名なスタンリイ・エリンの短編集を紹介します。特別料理Mystery Storiesハヤカワ・ミステリ文庫 スタンリイ・エリン「特別料理The Specialty of the House」コステインは雇主ラフラーに見込まれて隠れ家レストラン“スビローズ”に連れて行かれる。メニューは一つきり、調味料もなしという風変わりだが、供される料理はどれもが絶品ばかり。コステインとラフラーは滅多に出ないという「特別料理」を味わい夢中になる。材料はラフラー言うところのアミルスタン羊らしいが、スピローははっきり答えない。これだけなら謎めいたレストランに通う二人のほのぼのグルメ小説なのだが、そこここに不穏の種が蒔かれている。常連客はほぼ固定だが、ある時から来なくなったメンバーがいて、その後に特別料理が供される。コステインが窮地を救った給仕から必死な形相である頼み事をされるが、スピローが無言の圧力で給仕を黙らせる。そしてコステインがしばらくレストランに来られなくなった時、スピローからある申し出が。いや、最後の「肉づきのいい肩」にかかる手の怖いこと。「君にそっくりThe Best of Everything」両親を亡くし高校を中退してホートン・アンド・サンで働くアーサーは、ある日オフィスにやってきた若者の事を、雇主のホートンが「いい若い者」と言ったことに猛烈な嫉妬心を書きたてられ、ホートンの娘アンと結婚するために、是非とも良家の息子の風格を身につけなければと意気込む。そんな彼の前に現れたのが、父親から毎月黙っていても仕送りを受けられる文字通りのボンボン、チャーリー・プリンス。同居させる条件で、彼の仕草を盗み取っていくアーサーだったが、アンと結婚するには雰囲気だけでは足りない!と思い至るのは想定内。ところが最後にわかった事実で!おや、何だか映画にもなったあの作品に似てますな。「クリスマス・イヴの凶事Death on Christmas Eve」顧問弁護士がベーラム邸を訪ねると、いがみあっている姉弟に出くわす。今年こそは弟チャーリーを飲みに連れ出そうと考えていたが、果たして首尾は?これもまたクリスマスの繰り返される行事のように書かれているが、これを何年繰り返しているかが明かされると!「パーティーの夜The House Party」「気がついたらしい」と言う声で目覚めたマイルスは、もう舞台に立たないと宣言し、愛人をなだめ妻と別居宣言をする忙しい夜を過ごす。自分のことをにやにや笑って見つめている医師のことが気になるマイルスだったが、その謎はラストまでお待ちを。「お先棒かつぎThe Cat's Paw」「アプルビー氏の乱れなき世界The Orderly World of Mr.Appleby」「好敵手Fool's Mate」「壁をへだてた目撃者The Betralers」「専用列車Broker's Special」「決断の時The Moment of Decision」収録。特別料理 ハヤカワ・ミステリ文庫 / スタンリイ・エリン 【文庫】HMV&BOOKS online 1号店
February 10, 2023
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みなさんこんばんは。土屋太鳳さんとGENERATIONS片寄涼太が2人のInstagramと公式サイトを通じて連名で結婚発表しました。結婚の準備を進めている最中に、妊娠がわかったと経緯を説明しています。SNSの功罪のうち罪の部分にスポットをあてた小説を紹介します。翼っていうのは嘘だけどElle a Menti Pour Les Ailesフランチェスカ・セラ早川書房フランスの小さな町に住む15歳のガランスにとって、SNSは世界の全てだった。平凡な高校生だった彼女は、ハロウィーンの夜、上級生の人気グループに仲間入りを果たし、一躍スクールカーストの上位に躍り出る。SNSでも常に注目の的だったガランスは、町で開催されたモデルコンテストでも順調に予選を通過していたのに、ある日突然謎の失踪を遂げ、SNSアカウントも全て閉鎖されていた。警察が捜査に乗り出したところ、ガランスの失踪前、彼女の動画がネット上に流出していたことが判明し。 章の時制は意図的に入れ替えられており、読者は「優等生ガランスがなぜ変わっていったのか」を知る。GoogleやFacebookが活躍の場を与えたことで、自分達に価値があることを知ってしまったインターネット世代を主役に据えた、まさにSNSありきの時代だからこそ出てきたミステリ。フランスは個人主義というイメージが強いが、そうはいっても自我確立の真っ最中のティーンにはまだ「私は私」の割り切り方はできない。ガランスをフォローしてくれた彼女の憧れの上級生であるモードやその取り巻きの上級生達の化けの皮は、後々明かされてゆkが、正直オトナ読者から見ると、彼等の薄っぺらさはかなりわかりやすく描かれている。だが、わずか15歳で人間の本質を見極めることなど不可能だ。一足飛びにいろいろ分かったオトナの世界に出てくることも。 一旦拡散されたらどこまで広がるかわからず、どのように利用されるかわからない。そしてデジタル遺産として自分が死んだ後もいつまでも残ってしまう。たった一言で人間を絶望の淵においやってしまえるツイートの残虐性。「いつでもどこでも誰とでも繋がれる」と利点がアピールされてきたSNSが、一人の女子高生をアナログ社会からも追い出してしまう様は本当に恐ろしい。翼っていうのは嘘だけど [ フランチェスカ・セラ ]楽天ブックス
February 5, 2023
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みなさん、こんばんは。女優のジーナ・ロロブリジーダさんが亡くなりましたね。今日もナオミ・ノヴィク作品を紹介します。今日は上下巻のうちの下巻です。ドラゴンの塔 下巻 森の秘密 Uprootedナオミ・ノヴィク 静山社ドラゴンとアグニシュカたちは、計り知れない犠牲を払い、長いあいだ〈森〉に囚われていた王妃を奪還した。だが、王妃はまるで人形のように何も反応しない。〈森〉の侵入を食い止めるため奮闘するドラゴンを残し、アグニシュカは援軍を請いに、国王の住まう都に向かう。しかし、待ち受けていたのは、彼女の「能力」を認めようとしない魔法使いたちと、〈森〉の恐るべき罠だった。罠に翻弄されながらも、ドラゴンの塔を目指すアグニシュカだったが。暴かれる真相と、ドラゴンとアグニシュカのロマンス。そして、怒濤のラストへ。 本編を「子供向きじゃない」という読者もいて、それは上下巻それぞれいきなりハーレクイン的描写があるからだ、それも女子から迫っちゃう(んま、大胆)。それなりに詳しく書かれているので、これはおこちゃま確かに刺激が強い。 スラヴのバーバヤガーが下敷らしい。バーバヤガーはムソルグスキー『展覧会の絵』で一躍有名になったが、鶏の足の上に立つ家に住んでいる。高床式倉庫みたいなイメージらしい。魔女の必須アイテム箒を持ち、なんと臼で移動する。人骨を食べる設定は日本の山姥伝説と共通。ドラゴンの塔 下巻 森の秘密 [ ナオミ ノヴィク ]楽天ブックス
January 18, 2023
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みなさん、こんばんは。新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の数は感染拡大の第8波で急増し、先月以降のおよそ1か月半で全国で1万2000人を超えています。今日もナオミ・ノヴィク作品を紹介します。今日は上下巻のうちの上巻です。ドラゴンの塔 上巻 魔女の娘Uprootedナオミ・ノヴィク 静山社 東欧のとある谷間の村には、奇妙な風習があった。100年以上生きていると言われる魔法使い「ドラゴン」によって、10年に一度、17歳になる娘が一人選ばれる。その娘は、谷はずれの塔に連れていかれ、ドラゴンとともに暮らさなければならない。10年経って塔から出てきた娘は、まるで別人のようになり、村に戻ってくることはないという。 アグニシュカは17歳。そして今年はドラゴンがやってくる年。平凡でなんの取り柄もない自分が選ばれることはないと思っていた。選ばれるのは親友で性格容姿申し分のないカテアだと。ところがドラゴンに指名されたのは、アグニシュカだった。 はいもうこの展開わかりますね。本人には自覚はないが何かを持っているパターンか、それとも偶々か。今回はどうやら後者?なぜなら、屋敷につくなりドラゴンこと領主サルカンはあっさりと呪文を教え始めるからだ。えっ訓練も何もなしに唱えるだけで実現するの?それとも直観でデキル人だとわかった?ただ魔法習得のためだけとするなら、10年間は長すぎる。もっと他に目的がありそうだ。 いきなり訪ねてくる国王の第二王子マレクと魔法使いハヤブサとの距離感から、魔法使いVS普通の人々という対立構造かと思いきや、真の敵は後半に顔を出す。 ドラゴンの役割を巡る謎、じわじわと存在感を増す森、お約束のアグニシュカとサルカンの正反対キャラが反発しつつも惹かれ合うロマンスなど複数プロットが動き出した所で、隣国王子と駆け落ちした(トロイのヘレンみたい)王妃が帰還して上巻は幕。ドラゴンの塔 上巻 魔女の娘 [ ナオミ ノヴィク ]楽天ブックス
January 17, 2023
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みなさん、こんばんは。「月はどっちに出ている」「血と骨」など在日コリアンの物語をリアルに描いた作品で知られる映画監督で、前日本映画監督協会理事長の崔洋一さんががんでなくなりましたね。今日もナオミ・ノヴィク作品を紹介します。テメレア戦記VI 大海蛇の舌Tongues of Serpentsヴィレッジブックスナオミ・ノヴィクシリーズは第4巻を分岐点として、テメレア&ローレンスの扱いががらりと変わる。貴重種セレスチャルと、それを飼いならせる(ローレンスが聞くと異論が出そうな言葉だが)担い手コンビとして、英国で一目置かれていた一人と一匹が、常に周囲から蔑みと怖れがないまぜになったような視線を浴びるようになる。自らの正義(というよりテメレアの熱意)に負けて、竜疫を防ぐ特効薬を敵国に届けたローレンスは戦功によって罪を減じられる。ジェーン・ローランドから孵化を待つ龍の卵三つを託されて、英国連邦の流罪植民地オーストラリアにやって来る。現地では、植民地の秩序を守るはずの軍隊が植民地総督を追い出して自治政府を作ろうという反乱が起きていた。3個の卵のうち、ひとつが孵るも、その担い手として後続船で派遣されてきたのは、なんと自分のドラゴンを虐待していた宿敵ランキンだった。 孵った龍たちがいずれも個性的。担い手ランキン同様タカビーなカエサル(何と自分で名前を決める)、もしかしたら生きられないかもしれないと思うような姿で生まれてきたクルンギル、ナポレオン&リエンと闘う事に両者とも異議はないが、今回も自分本位な英国連邦のやり方を必ずしも良いとは思えない事態が起こる。映画化がぽしゃったため翻訳が途中になっている。サルカイからの誘いを断ってきたローレンスだが、最終的にイギリスを離れるのだろうか。 今回邦題に登場する大海蛇はラスト近くちょっとしか出てこない。テメレア戦記6 大海蛇の舌 上【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]テメレア戦記6 大海蛇の舌 下【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]楽天Kobo電子書籍ストア
January 16, 2023
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みなさん、こんばんは。フィギュアスケートの宇野昌磨くんと本田真凜さんが交際しているそうですね。今日もナオミ・ノヴィク作品を紹介します。テメレア戦記V 鷲の勝利Victory of Eaglesヴィレッジブックスナオミ・ノヴィク英国は小国ながら、一度も他国に占領されたことがないのが自慢だ。龍のいるフィクションの世界では、何とナポレオンの鷲の旗が英国に翻る。それどころかロンドンが占領され、国王ジョージ3世は精神錯乱に。この辺りは史実と絡めている。 本編より視点がテメレア&ローレンスと分かれる。テメレアは繁殖場に置かれ、貴重なセレスチャル種の子孫を作らんと次々と龍をあてがわれる種龍扱い、ローレンスは獄に繋がれているからだが、共に行動する次巻においてもその傾向は続く。お互いが勝手な行動をすれば片方の処遇に響くから勝手な行動ができない、いわば見えない鎖に繋がれている。本来ならば死刑のはずのローレンスが生きられるのも、貴重なセレスチャル種の担い手だからだ。 この国家存亡の機に、遂にテメレアと担い手ローレンスにお声がかかる。空中停止と神の咆哮という二大武器を持つ、遥かに経験豊かなセレスチャル種リエンがナポレオンの傍らにいるからだ。前巻で「感染症にかかったドラゴンを敵方に送り込む」という非道な作戦を取った軍人に憤っても、お互い国家への愛&忠誠は持っているテメレアとローレンスは戦いに挑む。 テメレアは母親のいる中国における竜への厚遇を見ており、いずれは英国も同様の世界になることを望んでいる。ローレンスは表立って反対しないが、現実的ではないと思っている。立場の違いはあってもお互いを思い合う一人と一匹。呼びかけが「愛しいテメレア」ときたもんだ。 彼等の周辺も少しずつ変わり始める。ローレンスの恋人ジェーンは高い地位にのぼりつめるが、ローレンスの単独行動によって国から攻められる。リリーを担うキャサリン・ハーコートはローレンスの海軍時代の部下トム・ライリーと結婚。ジェーンの娘エミリーの噂を聞いたローランドの母親アレンデール卿夫人は、彼女がローレンスの隠し子では?と勘繰る。 戦いを終えてローレンスとテメレアに科されたのは、英国を離れることだった。英国連邦は世界に植民地を持っているので、流刑地には事欠かないが、次の任地は少々荒っぽそうだ。さあ、どうする、どうなる、テメレア&ローレンス?【中古】 テメレア戦記V 鷲の勝利バリューコネクト
January 15, 2023
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みなさん、こんばんは。グラミー賞を8度受賞するなど、世界的なギタリストとして知られるジェフ・ベックさんが亡くなりました。78歳でした。今日もナオミ・ノヴィク作品を紹介します。テメレア戦記Ⅳ 象牙の帝国Empire of Ivoryヴィレッジブックスナオミ・ノヴィク 命からがらのプロイセンからの敗走、援軍はついに来なかった—祖国でいったい何が起きているのか?小さな火噴き竜イスキエルカとともに帰国したテメレアとローレンスを待っていたのは。 前回卵の運搬を頼まれたローレンスは、祖国で起こった災厄を知る。生まれたばかりの竜イスキエルカは、言い方はかわいいがあたりかまわず火をまき散らし人間を脅かす。 今回は有名人総登場の回。まず前巻に続くナポレオン・ボナパルト。トラファルガー海戦でナポレオンに苦汁を飲ませ自らは戦死したはずのネルソン提督も、竜のいるパラレルワールドでは絶賛生存中。ただ奴隷制度賛成論者として、今回はローレンスの敵になる。イギリスの政治家で奴隷廃止論者のウィルバーフォースはローレンスの父の友人として登場。救国の英雄として知られているローレンスを、奴隷反対運動の旗頭にしようとするが、賢いローレンスにやんわりと断られる。しかし百戦錬磨の政治家ウィルバーフォース、今度はテメレア達の待遇改善と絡めてローレンスに奴隷制度廃止をたきつける。 ドラゴン達を襲う災厄の治療薬は意外な所に、というわけで今回テメレア達はアフリカ大陸へ。奴隷の主たる供給地だったアフリカへ赴いたローレンスは同行を願い出た牧師の本当の目的を知る。やはり主人公、騒動には巻き込まれる運命にある。 本当は両者が一致しているべきなのに、国と良心に引き裂かれる紳士たろうとするローレンスのこちらも苦渋の決断で幕。テメレア戦記4 象牙の帝国 上【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]テメレア戦記4 象牙の帝国 下【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]楽天Kobo電子書籍ストア
January 14, 2023
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みなさんこんばんは。英王室のハリー王子が、近く出版予定の回顧録で、祖母エリザベス女王の死去をBBCのサイトで知ったと書いていることが明らかになりました。王子はさらに、女王が亡くなる4日前に最後に電話で会話した内容にも触れています。今日もナオミ・ノヴィク作品を紹介します。テメレア戦記III 黒雲の彼方へBlack Powder Warヴィレッジブックスナオミ・ノヴィク 冒頭は前巻で亡くなったヨンシン皇子の埋葬だ。彼を乗せていた雌竜リエンが英国の敵国でナポレオンの国フランスの大使と話しているのを見ていたローレンスは、不吉な予感に襲われる。一方中国での竜の自由度を知ったテメレアは、英国での待遇改善を目論むが、ローレンスは「そううまくはいかない」と確信している。それでも勇猛果敢にして心優しき竜テメレアは、固い絆で結ばれた担い手ローレンスのため、ふたたび英国へ戻り、対仏戦争の戦力とならんとする。しかし途中で、孵化直前のドラゴンの卵を受け取るため、一刻も早くオスマン帝国へゆけという密命がくだる。オアシスをたどり、イスタンブールを目指すテメレア一行の前に現れたのは。 戦闘能力に優れ、すさまじい破壊力を発揮する咆哮“神の嵐”を持つテメレアは、まさしく敵なし!のはずだったが、前巻で登場したリエンがライバルに浮上。悪いことにはヨンシン皇子の一件で、彼女がテメレアの敵に回る。テメレアより遥かに思慮深く、世故にも長けている彼女が組んだのは、今世界を騒がせているあの男。名前を聞けば現代社会でも誰もが知っている有名人で当世きっての天才。さあ、手ごわいタッグが組まれたぞ。 ローレンス達はのらりくらりと追及をかわして卵を渡さないトルコ、ゲルマン魂の権化のようなプロイセンと遭遇。後者とはいきなり組んでフランスと戦闘を行う羽目になるが、何せ国のタイプが違い過ぎて、全く気が合わない。テメレアもプロイセンのドラゴン達の戦闘スタイルがお気に召さない。 今回新キャラとしてトルコの卵から孵化したイスキエルカが登場。それに伴い、空軍育ちで海軍からやってきたローレンスと何かと対立してきたジョン・グランピーが、遂に竜乗りに。生まれたばかりで感情のままに行動するイスキエルカと、乗り手になりたてで言われ放題のグランピーコンビは、まるで初期の頃のテメレアとローレンスを見る想い(しみじみ)。 3巻目だから、ローレンスとテメレアのタッグがリエンとその乗り手との最終対決はまだまだ先のはずだ。テメレアの目指す英国での竜待遇改善の実現も気になる。テメレア戦記3 黒雲の彼方へ 上【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]テメレア戦記3 黒雲の彼方へ 下【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]楽天Kobo電子書籍ストア
January 13, 2023
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みなさん、こんばんは。ブラジルで前大統領派が大統領府や議会、最高裁を襲撃し、政府は200人以上逮捕しました。なんだかアメリカの前大統領の時みたいですね。今日からナオミ・ノヴィク作品を紹介します。まずはテメレア戦記シリーズ。テメレア戦記II 翡翠の玉座Throne of Jadeナオミ・ノヴィクヴィレッジブックス テメレアが稀少種、ましてや天の使い種であることがわかり、中国のヨンシン皇子を頭に頂く使節団が奪還要求にやってくる。テメレア‐ロン・ティエン・シエン(龍天翔)‐が「牛馬と変わらぬ扱いを受け、荷を運び、戦場であらゆる蛮行にさらされている。しかもその連れというのが、ただの空佐にすぎぬ男」と散々に罵られ、様々な試練を乗り越えてここまできたローレンスも心穏やかではない。もっと穏やかでないのはテメレアで、「ローレンスは別の竜に乗る。」と嘘をつかれ皆の前で神の声-咆哮-を披露。中国がフランスに送った卵をフランスと戦闘中の英国艦が奪取した事は、戦闘態勢にある国として咎められる行為ではない。しかし表立って対立しているわけではない大国(フィクションでも!)中国には遠慮しなければならない英国の苦しい立場もある。折衷案として、ローレンスとテメレアは中国に赴くことに。 今回もローレンスとテメレアの熱い絆は健在どころかますます強くなる。中国が英国行きの船を力ずくで接収したと知り、怒りがおさまらないローレンスを「でも、中国との戦争はなんとしても避けなくちゃいけなんでしょう?」と外交官ばりの正論で宥めるテメレア。大人になったねえ。中国行において新脇役も登場。真面目で一見仕事ができそうな外交官ハモンド、口が悪いが腕はいいドラゴン医ケインズ、中国使節の中では比較的理性的に話せるリウ・バオ。奪還に赴いたヨンシン皇子は実在の人物で、清朝第六代乾隆帝の第十一子。 物語同様当時の中国-清-は自由貿易と貿易港の拡大を拒否しており、銀の流出を抑えるために英国は阿片を清に売り込む。これが後の阿片戦争になったのは史実の通り。原題がThrone of Jadeとまるでゲーム・オブ・スローン。表紙絵の丸の中には中国天安門広場の写真でおなじみのあの建物。いまや美しき成竜となっても、相変わらずローレンス一筋のテメレア。しかし中国に赴き、イギリスとの龍の待遇の違いに気づく。最初は「中国に行くなんてとんでもない」モードだったローレンス&テメレアが、新たな世界を知り根底から価値観を覆される。そして二人の選択は。テメレア戦記2 翡翠の玉座 上【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]テメレア戦記2 翡翠の玉座 下【電子書籍】[ ナオミ・ノヴィク ]楽天Kobo電子書籍ストア
January 12, 2023
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みなさんあけましておめでとうございます。「サッカーの王様」と呼ばれた元ブラジル代表のペレ(本名エドソン・アランテス・ド・ナシメント)さんが29日亡くなりましたね。今日はあまり耳慣れないと思いますがキッズインフルエンサーをテーマにした小説を紹介します。子供が王様 (海外文学セレクション)Les enfants sont roisデルフィーヌ・ド・ヴィガン東京創元社若い頃、テレビのリアリティ・ショーに夢中になったメラニー。彼女は今や、サミーとキミ―という兄妹の母となり、子供たちをYouTubeで公開して、何百万人もの視聴者を獲得する。サミーとキミ―はキッズインフルエンサーとして有名になり、沢山のスポンサーがついていた。しかしある日、かくれんぼの最中に7歳になった娘が失踪。誘拐が疑われ、脅迫状も届く。金目当て? 成功者への嫉妬? 彼女と同世代の警察官クララが事件を精査し始める。クララもまたかつては、親に隠れてリアリティ番組を見ていた少女だった。 インターネットの普及は、フツーの人を有名人にした。無人島に一人で生活したり、独身男性に何人もの女性がアプローチしたり、私たちは時としてリアリティ番組に夢中になる。アメリカではリアリティショーで有名となったドナルド・トランプが大統領にまでなった。「意外な人の素顔/日常を見たい」という好奇心故だが、実はその素顔や日常は、編集の手が入る以上、“作られた”ものだ。また、大人は見られていることも意識しているし、日常を切り売りすることも納得ずくだが、幼い子供たちに、いずれの認識もない。それなのに彼等の名前は不特定多数に知られ、日常は世界中に配信される。嫌だという権利を一切与えられないままに。邦題はもちろん皮肉であり、子供は王様ではない。もし王様だというなら、自分が裸にされていることを知らない“裸の王様”だ。 メインが誘拐事件なのでミステリかと思いきや、芯になる部分はその後になる。キッズインフルエンサーが成人して自身の体験を振り返った時の心身の傷、「自分は間違っていない」という親との対立など、家族関係の崩壊など深刻な局面に向かっていく。法の整備が明らかに追いついていない中、キッズたちの安心・安全をいかに確保するかが課題である。子供が王様 (海外文学セレクション) [ デルフィーヌ・ド・ヴィガン ]楽天ブックス
January 1, 2023
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みなさんこんばんは。ヒット曲「Romanticが止まらない」で知られるバンド・C-C-Bのメンバー・笠浩二さん(ドラム・ヴォーカル)が、脳梗塞のため60歳で亡くなりました。今日もマーガレット・アトウッド作品を紹介します。またの名をグレイス 下Alias Graceマーガレット・アトウッド 岩波書店上巻ではアイルランド出身のグレイスが、母を失い酒飲みの父と家族から離れて住み込みで働き始めた経緯が、精神科医に語る形式で紹介された。下巻は遂に核心の事件当日に話が及ぶ。上巻でも「私についてあれこれ書かれたことを考えてみる。冷酷な女悪魔だとか、身の危険を感じて、仕方なく悪党に従った罪のない犠牲者だとか、あまりに無知なため正しい行動がとれなかったとか、私を絞首刑にするのは司法による殺人だとか、私は動物が好きだとか、艶のある顔をしたすごい美人だとか、青い目をしているとか、緑の目をしているとか、髪の毛は鳶色だとか、茶色だとか、背が高いとか、あるいは平均以上の高さではないとか、健康そうで見苦しくない服装をしているとか、そう見せるために死んだ女のものを奪ったとか、仕事は手早くそつなくやるとか、怒りっぽいすねた性格だとか、見た目は卑しい身分には見えないとか、従順な性格の善良な女であり悪意がないとか、ずるくてひねくれているとか、頭は弱いが白痴よりややましだとか。そして、どうして、一度にこんなに違うものになれるんだろう、と考えてしまう。」皆が言うグレイスは私ではありませんよ、と示唆する場面が度々登場するが、下巻においても周囲の見方との乖離を訴える文言が続く。また、碌な教育も受けておらず愚かだから騙されたと彼女を見る周囲に対しても、「私はすべて覚えている。逮捕された時語ったこと、弁護士のマッケンジー先生にこう言いなさいと言われたこと、マッケンジー先生にさえ言わなかったこと、裁判の際に言ったこと、またそれとも異なる裁判後に語ったこと、それに私が言ったとマクダーモットが語ったことや、私が言ったはずだと語る第三者の話も。というのは、自分たちの考えたことを人に押しつけて、当人の口からしゃべらせる連中が常にいるからだ。それにその手合いというのは、祭りや見世物で、自分の声を木彫りの人形が話しているように見せかける手品師のようなもの。」と強かさと隠された知性を述べて見せる。しかしそれを言葉に出して第三者に示すことはない。 19世紀は交霊会など心霊現象の研究が盛んだった。なかなか真相にたどり着けないサイモンは押されてグレイスをある実験に差し出すが、そこでとんでもないことが。 アトウッド作品では虐げられた女性が抗うエネルギーが物語を動かしているが、本編もまたしかり。またの名をグレイス 下 (岩波現代文庫 文芸302) [ マーガレット・アトウッド ]楽天ブックス
December 29, 2022
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みなさんこんばんは。シンガー・ソングライターの吉田拓郎さんが年内で芸能活動を終了する意向だそうです。今日から2日間マーガレット・アトウッド作品を紹介します。またの名をグレイス 上Alias Graceマーガレット・アトウッド 岩波書店 1843年8月、アッパー・カナダのリッチモンド・ヒルで、裕福な独身地主トマス・キニアと、女中頭のナンシー・モンゴメリーが殺される。同じ家で女中として働いていたグレイス・マークスと、使用人ジェイムス・マクダ-モットが逃亡先のアメリカで捕まる。裁判はキニア殺人事件のみ行われ、ナンシー殺害に関しては審理不要。マクダーモットは早々に絞首刑に処せられたが、グレイスは記憶が定かでないため監獄に収監。 ここまでがカナダで実際に起こった事件の顛末だ。マクダーモットは直前までグレイスに唆されたと主張していた。若くて美しいグレイスは濡れ衣を着せられたのか?それとも唆す悪女だったのか?彼女に興味を持った若き精神科医サイモンは、聞き取り調査を開始する。 16歳で事件に関わり約30年間服役した、同国犯罪史上最も悪名高いと言われている女性犯グレイス・マークスの物語。昏き目の暗殺者同様こちらもキルトが登場。各章のタイトルは、その章の内容を示唆したキルトのパターン名で、最初のページにその図案が描かれている。 キルトのイメージといえば、様々なパターンを縫い合わせて一つの作品を作ることだ。本編も、グレイスがサイモンに語る/語らない場合の一人称、記事等の客観的描写、サイモンの三人称など様々な視点から物語を作り上げており、一つのキルトと言える。またの名をグレイス 上 (岩波現代文庫 文芸301) [ マーガレット・アトウッド ]楽天ブックス
December 28, 2022
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みなさまこんばんは。カタールワールドカップはPK戦の末、アルゼンチン代表 がフランスに勝利しましたね。1986年大会以来 36年ぶり、通算3度目の世界王者に輝きました。キャリア最後の FIFAワールドカップ となった メッシ がMVP賞です。今回はPKが試合を制する場面が多かったですね。今日はアントニー・バークリーのミステリを紹介します。服用禁止 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)Not to Be Taken原書房アントニイ・バークリー「わたしはこの日付をどうしても見過ごすことができない。そして毎年、その日が巡ってくると、決まって退廃的な一日に思えるのだ。終わりかけの夏と始まったばかりの秋の一番悪いところを合わせたような」「わたしはあの九月三日をどうしても忘れることができない。ひとりの男が苦悶のうちに死んでいくのを目の当たりにするなんて、とうてい忘れられないだろう」はいわかりやすい前振りをどうも。 アニーペニーで果樹栽培を営むダグラスと妻フランシスは、元電気技師のジョン・ウォーターハウスとその妻アンジェラと家族ぐるみの付き合いをしていた。ウォーターハウス家ではドイツ人のミッツィ・バーグマンをメイドとして雇っていた。9月3日「ジョンが具合が悪くなった」とミッツィ―がやってきて、医師のグレン・ブルームと連絡がつかないと取り乱す。行って見ると玄関でダグラスを出向かえたのはジョンで、二階で臥せっていたのはアンジェラという、誰が患者なのかわからない有様だった。ちょうどグレンの妹ローナがやってきて治療を施す。ローナはオックスフォード大学で優秀な成績を修め、ロンドンのフェミニスト界で高い地位に就いていたが、父が亡くなると兄を支えるためアニーペニーに戻ってきていた。 一時期持ち直したかと思われたジョンが亡くなった。ジョンの弟で実業家のシリルがやってきて検死解剖を要求し、ジョンの死は俄かに噂を呼ぶ。 ジョンの意外な素顔が明らかとなり、同時に関係者たちも複雑な仮面をかぶっていたことを知る。登場人物全てに容赦なく裏の顔があるので、もしかして語り手も?と推測したがそれはなかった。但し探偵役が素人なので、犯人は裁きを受けず、逆に犯人に開き直られてしまうという結果はカタルシスには程遠い。中盤で【読者に挑戦】コーナーがある。【送料無料】 服用禁止 ヴィンテージ・ミステリ / アントニイ・バークリー 【本】HMV&BOOKS online 1号店
December 20, 2022
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みなさん、こんにちは。ツイッターでも大量の解雇者が出ましたがFacebookを運営するメタでも解雇者が出たようです。今日はミステリータッチのYA小説を紹介します。闇のダイヤモンドDiamonds in the shadow評論社海外ミステリーboxキャロライン・B.クーニー フィンチ家では教会のボランティアの一環として、アフリカからの難民家族を一時預かることになった。ところがやってきた難民たちには恐ろしい秘密があった。 預かる家族側も4人、来る側も4人だが、家族それぞれに温度差があった。例えばフィンチ家の母親カーラは自ら手を挙げただけあって、受け入れにも積極的。だが一方で、受け入れた事実を他者に向かってアピールしたい思いも若干強い。父親は積極的に意見を表明しない。どうせ家族の世話は母親がするものだと決め込んでいる。高校生思春期真っただ中のジャレッドは善行なので表立って反対はできないが、他人が家に入り込むのは面倒だと思っている。娘モプシーは単純に見知らぬ人が増える事を喜んでいる。モプシーが一番純粋に彼等との暮らしを歓迎している。 そんな意思統一ができていない一家の元にやってきた難民一家。こちらも父親アンドレは両手を切り落とされており、母親セレスティーヌは彼を支えている。息子マトゥは完璧な英語を話し、娘アレイクは一言も話さない。よその家だから遠慮している素振りがあっても頷けるが、家族だというのによそよそしい。そして家族写真を取られるのを執拗に嫌がる。また、彼等の到着と時を同じくして、一人の人物の動向がこちらも執拗に描かれる。どうやら4人と同一行動を取らなければならないのに、ニューヨークでなくテキサスで下ろされてしまう。この別離は幸運なのか、不運なのか。フィンチ一家や周囲の助けを経て、アメリカで暮らす準備を始める難民一家と、5人目の男の追跡が並行して描かれサスペンスを盛り上げる。最初は嫌がっていたジャレッドだが「In a civil war, people forget that they are people. Next they forget anyone else is a person. (内戦では人は人であることを忘れる。次に他の人が人であることを忘れる。)」などという台詞からアメリカとは異なるアフリカの厳しさを知り、頼もしき若者に成長していく。 小冊子BOOKMARKの紹介で読了。YA小説というくくりだが、内容からは大人向けでもいいようだ。クリストファー賞受賞。闇のダイヤモンド (海外ミステリーbox) [ カロライン・B.クーニイ ]楽天ブックス
November 29, 2022
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みなさんこんばんは。 King&Princeの平野紫耀、岸優太、神宮寺勇太、が来年5月にグループから脱退し、平野と神宮寺は同月、岸は来秋にジャニーズ事務所を退社すると公式サイトなどで発表されました。何かあったんでしょうかジャニーズ。今日はフィリップ王配の元カノが登場するミステリを紹介します。ローズ・コードThe Rose CodeハーパーBOOKSケイト・クイン 第二次世界大戦下、社交界の令嬢オスラは国に召喚され、ブレッチリー・パークに辿り着く。そこには秘密裏にドイツの暗号解読に挑む政府暗号学校があった。オスラは下町育ちのマブ、パズルの名手ベスと知り合い友情を育むが、ある事件から3人に悲劇が訪れ、ばらばらになる。それはかつて自分を裏切った友人が助けを求める手紙だった。 冒頭はオスラが友人からの暗号を受け取る場面である。そこから裕福な父親の遺産を受け継ぎホテルの一室を貸し切りにして遊び回っている母親との間に生まれた社交界の有名人オスラ、気の強い美人マブ、常に母親から「役立たず」呼ばわりされているベスの生い立ちと、彼女達の出会いとそれぞれの恋の行方という過去パートが、現在パートと並行して描かれる。過去パートは彼女達が働くことになるブレッチリ―・パークの人間模様も描かれ、かなりボリューミィだ。機密情報を扱うため、他人に業務を話せないジレンマを抱える彼等の苦しみも描かれる。エニグマ暗号解読機によりナチス・ドイツの暗号解読を行ったのもこの場所だが、彼等の働きによって第二次大戦終結が二年早まったとも言われるのに、実際の業績はその機密性により明かされることがなかった。 三人のうちオスラのみが実在の人物オスラ・ベニングをモデルにしている。下の名前は変えているが、最近亡くなったエリザベス女王の伴侶・フィリップ王配の結婚前の恋人だ。王女に捧ぐ身辺調査にもその名前が登場する。史実通りに物語は進むので二人は結ばれないが、最後に彼女が切る啖呵がかっこいいのと、結婚しても彼女を守ろうとするフィリップとの愛情から友情への変遷が美しく描かれる。英国スキャンダルがあれだけドロドロなので、ここだけこんなにキレイに終わったはずない!と思いつつも物語なのである程度フィクションだと納得して読める。 フィリップ王配、エリザベス女王、チャーチル首相など時の有名人他、ブレッチリ―・パークと言えば忘れてはならないアラン・チューリング博士など脇役が豪華。ローズ・コード (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H176) [ ケイト・クイン ]楽天ブックス
November 27, 2022
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みなさんこんばんは。W杯の最中ですがクリスティアーノ・ロナウド選手が退団しますね。今日は辛い過去を背負ったきょうだいが清算に向かうまでを描いた小説を紹介します。レックスが囚われた過去にGirl Aアビゲイル・ディーン ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス 企業で弁護士として働くレックス(アレクザンドラ)は、子供時代をすっかり捨て去ったつもりだった。実の両親からきょうだい7人が虐待されていた状況を、逃げ出した彼女が救ったのだ。いまは充実した毎日を送っている彼女は、刑務所で亡くなった母親の遺言をきっかけに、事件後ばらばらになったきょうだいのそれぞれと連絡をとる。"恐怖の館"と呼ばれるようになる家とわずかな財産を、母親は彼女に残していた。売り手のいない家と土地の再生計画を妹イーヴィと練ったレックスは、賛成してもらうために、兄イーサン、妹デライラ、弟ゲイブリエル、ダニエル、ノアらを訪ね歩く。 レックスが兄妹達を訪ねながらイーヴィと話す現在パートと、一家が狂信的な父のもと、少しずつおかしくなっていく様を描く過去パートが交錯して描かれる。一番頼れる家族が同じ家族に刃を向け傷つける。元凶は父なのだが、外界に向けても同じであるため、次第に地域社会からもはじかれる。するとますます自分を受け入れてくれる唯一のcommunity=家族に執着せざるを得ず、お互いがお互いを傷つけあう悲惨な道に向かってゆく。長い間一緒に暮らしていると、ともすると価値観に飲み込まれて自分もおかしくなりそうだが、正常な感覚を持ち続けて父の強要する暮らしを続けることも難しい。映画『万引き家族』でも描かれたが、加害者も被害者も家族であった場合、第三者たる社会・行政がどこまで踏み込んでいけるのかは現代社会に存在する課題である。タイトルロールで一番しっかりしているかに見えたレックスが囚われていた過去が明らかになる件は何ともスリリング。 モデルとなったのは、英国で起こった、夫妻による、作中に登場した館のニックネームと同じ“恐怖の館”連続殺人事件や、2018年アメリカで起こった実の両親による児童虐待事件である。後者で監禁されていた子供の一人が脱出して警察に通報したことから事件発覚に繋がっており、本編のレックスと被る。レックスが囚われた過去に (ハヤカワ・ミステリ) [ アビゲイル・ディーン ]楽天ブックス
November 26, 2022
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みなさんこんにちは。政府観光局が16日発表した推計によると、10月の訪日客は前年同月比22・5倍の推計49万8600人でした。10月11日に水際対策が大幅緩和されたことが原因と思われます。今日も韓国小説を紹介します。大丈夫な人 (エクス・リブリス) 白水社エクス・リブリスカン・ファギル小山内 園子 (訳)「湖――別の人」親友ミニョンの恋人で、周囲から「すごくいい人」と評判の男性イハンと湖に行くのがひどく憂鬱だった「私」=ジニョン。その湖はミニョンが暴行された現場であり、ミニョンは腕に痣があり、怖がっているようだった。イハンに何度も同行を求められ、彼を疑い続ける自分も信じられなくなってきた「私」は、ついに湖に一緒に行くことにする。イハンがわざわざ“自分”と対象を断って「ミニョンが自分について何か言わなかったか?」と執拗に聞く場面がおかしい。また、友人達がミニョンが酒を飲んでいた過去のエピソードを紹介した時に、イハンの表情が変わる。表面いい人だが、彼は実は暴力を振るう人なのでは?と匂わせておいて私はゆっくり彼と顔を合わせた。そしてすべきことをした。そうするべきだと思ったでばさっと幕。さて、私は一体何をしたのだろうか?。「ニコラ幼稚園――貴い人」著者がよく物語の舞台に選ぶアンジンが舞台。「ここに入れば出世する」と噂のニコラ幼稚園の園児募集に、二年続けて落ちた娘ミヌを是が非でも入れようと奔走する「私」。韓国が教育熱心な事はよく知られているので、今回もその類かと思っていた。ましてや「私」は読み書きを教えてもらえず惨めな思いをした自分の二の舞にならないようにという思い入れが強い。しかし他の子のお母さんから「ミヌはちょっと変わってる」と言われたり、補欠二番手なのに呼ばれている不思議があったり、また面接している相手が本当に有力者なのか曖昧な描写があるなど、「私」の精神状態に疑問符がつき、信頼できない語り手なのでは?という疑いが浮上する。 「大丈夫な人」婚約者の彼と一緒に暮らす家を見に行くため車に乗っている「私」。彼は高収入の弁護士。「私」は母親が亡くなり質素な生活をしていたから、他人からはこの結婚が幸運に見えるだろう。だが今車内で「私」は不穏な何かを感じている。実は私は彼に突き飛ばされていた。単なるはずみなのか、それとも恒常的な暴力なのか。見極めがつかない「私」のモノローグは読者をも惑わせる。 男性優位の家父長制の影響を色濃く受けて育った人達は映画化もされた『82年生まれ、キム・ジヨン』でも描かれてきた。キム・ジヨンは肉体的暴力を受けたことはなかったが、「女だから気をつけなければいけない」「女はこうあらねばならない」という精神的抑圧を受けてきた。それらは言葉にした所で万民に伝わらず、目にも見えないから厄介だ。短編の中では実際に登場人物達が受けた精神的・肉体的暴力があからさまに描かれていないため、不満を抱く読者もいよう。しかし書かれなくとも想像が出来てしまう読者もまた多数いる。潜在的な記憶や長い歴史の中で、男性による女性への暴力を受容し、それでも‘大丈夫’だと言い切ってしまえる空気があることこそが問題なのである。他「虫たち」「あなたに似た歌」「手」「雪だるま」「グル・マリクが記憶していること」収録。大丈夫な人 (エクス・リブリス) [ カン・ファギル ]楽天ブックス
November 18, 2022
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みなさんこんにちは。男子テニスで元世界ランキング1位のロジャー・フェデラー選手(スイス)が現役を引退すると発表しました。今日も韓国小説を紹介します。地球でハナだけ (チョン・セランの本 05)チョン・セランすんみ 訳亜紀書房 優しい心を持つハナは、つき合って11年になるキョンミンに振り回されてばかり。この夏休みだってハナを置いて、流星群を見にカナダへひとりで出かけてしまう。そしてカナダで隕石落下事故が起こり音信不通に。心配をよそに無事帰国したキョンミンだが、どうも様子がおかしい。いつもとは違ってハナを思いやり、言葉使いも優しい。嫌いだったナスも食べている。ついには口から青いビームを出し始めて。 はいこの「口からビーム」設定で帰って来たキョンミンの正体はバレバレ。皆さんのご想像通り。いまや地球人の男性は女性に優しくなれんのか。もちろんそれだけではなく、今まで地球を知らない人から見た違和感を焙り出すことで、現在社会の問題点を言わせているわけですな。地球人ではないので、環境破壊の影響を受けている動物ともコンタクトできてしまう帰ってきたキョンミン。単なるコメディに終わっていない所がチョン・セランらしい。 メインCPハナ&キョンミンに加えて登場するのが、人気スターアポロと彼に心酔するファンクラブのジュヨン、そして韓国で起こる怪現象といえば立ち上がる国家情報院のジュンギョ。ジュヨンもまたハナ(=一人)のために大きな決断をするもう一人のヒロインなので、欲を言えば彼女の物語ももう少し見てみたかった。それにしてもチョン・セランの作品になると、「国家情報院=怖い」のイメージではなくなるな。これもドラマになるのでは。地球でハナだけ (チョン・セランの本 05) [ チョン・セラン ]楽天ブックス
November 15, 2022
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みなさん、こんばんは。杏さんが子供と一緒にフランス移住を決めたそうですね。今日はミステリを紹介します。ブルックリンの少女La fille de Brooklynギヨーム・ミュッソ集英社文庫吉田恒雄 (訳) よせばいいのに婚約者アンナに「嘘を抱えながらでは生きていけないと思う」と始めてしまったバツイチ子持ちの小説家ラファエル。アンナは同意するが「嘘をつかずに生きることは、秘密を持たないということと一緒ではないでしょう」と食い下がる。気づかなければいいものを「ということは、きみは秘密があることを認めているんじゃないか」あーあ、気づいちゃったよ。いや、この先秘密を持たない夫婦生活なんてあり得ないと思うぞ。 ただ、この時点でラファエルが考えていた秘密とは、親との不仲とか以前の恋人の数とか、昔やらかしちゃったあんなことやこんなこと、くらいのノリだったはずだ。ところが観念した彼女が出してきたのは、衝撃的な光景が撮影された写真。絶句したラファエルの前から彼女は姿を消してしまう。ほらね、ドン引きするくらいなら知らなかったと思うだろ、ラファエル。秘密を打ち明けて欲しいっていうのは覚悟を必要とするのだよ。ラファエルが調査を進めると、かつて起きた不審な事件や事故が浮上し。 『夜と少女』に続き(順番としてはこちらが先)主人公が作家設定。『作家の秘められた人生』では探られる側、『夜と少女』と本書では探る側。作家は取材などで見知らぬ人に事情を聞くのは何ともないかもしれないが、テクニックには長けていない。その部分を補うのが、おあつらえむきにラファエルの友人にいた。元刑事だが「刑事は一生刑事」が座右の銘のマルク。職業上のネットワークも使いながらアンナを調査するが、調べれば調べるほど次々と意外な事実が明らかになって来る。この辺りは定石通り。まあ最初の謎は「彼女は誰?」次は「どこから来たの?」と5W1Hが次々と明かされていく。フランスの話なのに邦題が「ブルックリンの少女」なのだから何をかいわんや、半ばネタバレされている。しかーし、ずーっと安心して読んでいると、最後にうっちゃりを食らわされるのでご用心を。ブルックリンの少女 (集英社文庫(海外)) [ ギヨーム・ミュッソ ]楽天ブックス
November 8, 2022
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みなさんこんばんは。日野自動車は、排ガスなどのデータの不正問題で記者会見を開き、小木曽聡社長が陳謝しました。経営責任を明確にするため、社長の報酬の減額や取締役を含む役員4人の辞任、さらに歴代の社長などに報酬の自主返納を求めるとしています。カリン・スローターのノンシリーズを紹介します。偽りの眼(上下)False Witnessカリン・スローターハーパーBOOKS鈴木美朋 (訳)2021年アトランタ。大手法律事務所に勤める弁護士リーは、大企業の御曹司による陰惨なレイプ事件の担当を突如命じられる。残忍な犯行を裏付ける複数の証拠が揃い、類似事件の犯行も疑われるなか、男は無罪を主張していた。しかし大事な公判直前になって、なぜ自分を指名したのか?依頼人に面会したリーは衝撃とともに悟る。23年前、完璧に葬ったはずの過去が報復に訪れたのだ。 原文をそのまま生かしたと思われるが、某人物の台詞のみ句読点が一切入らず太字表記である。いかにも感情のない人物らしいが、一方でこれは台詞を聞いている人物の主観が入っている表記かもしれない。聞いている人物はそれどころではない。しかし時間が経っても台詞だけは覚えていて、体の痛みと共に記憶となって本人を苛む。一方で、それ以外の人物の台詞は、乱暴な台詞も混じるがきちんと句読点が入っている。事態の異常性はこんな所からも読み取れる。 加害者のいかに強大なこと、そして被害者のいかに無力なこと。女性が受ける凄惨な暴力と、負けずに立ち上がる強さを同時に描くカリン・スローターのノン・シリーズ。物語自体はフィクションだがパンデミックは存在する世界となっている。偽りの眼 上 (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H173) [ カリン・スローター ]偽りの眼 下 (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H174) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
November 7, 2022
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みなさんこんばんは。ジャニーズ事務所の滝沢秀明副社長が、10月末をもって退任し、事務所を退社したことがわかりました。兼務していた関連会社「ジャニーズアイランド」社長の後任には、元V6の井ノ原快彦さんが就任したということです。今日は中国ミステリを紹介します。邪悪催眠師 (ハーパーBOOKS H177)Wound In The Heart周 浩暉 龍州市で奇妙な連続怪死事件が発生。やがて生死を操れるという「世界一の催眠師」を名乗る人物による犯行予告がネット上で発見される。刑事の羅飛は、催眠療法の第一人者である凌明鼎に協力を仰ぎ、捜査を進めるが。 催眠術といっても「本人が望まない事は強制できない」のが不文律である。それなのに本編では、ある男はゾンビのように人の顔を食いちぎり、またある男はハトのようにビルから飛び立ち死亡。もともと猟奇的OR破滅的な性格だったわけではもちろんない人達が、催眠術によってそんな行動に走れるのか。本編では“心穴”(英語題名Wound In The Heart)-人に誰でもある弱点-を探り当てることによって、その人を操れる仕組みを作り出している。常識に凝り固まった刑事達に解けない謎を、スーパー刑事隊長羅飛が解き明かしてゆく天才VSこちらも天才の犯人の対立がメイン。 刑事の羅飛と殺人鬼〈エウメニデス〉との死闘を描く物語は、2010年発表の『宿命』、2011年発表の『離別曲』とともに三部作である。『暗黑者』のタイトルで2014年に始まり、計3シーズン放映されたネットドラマ版は累計閲覧数が24億回に達した。台湾や香港でも出版されたほか、2018年には英訳版が、2019年にはフランス語訳版が出版された。その後羅飛が活躍する新たな三部作である〈邪悪催眠師〉連作として書かれた作品のうちの一つ。但し日本ではまだ死亡通知書が全て刊行されていないため、重ねて読もうとするとややこしい。邪悪催眠師 (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H177) [ 周 浩暉 ]楽天ブックス
November 5, 2022
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みなさんこんばんは。日本シリーズはオリックスが優勝しましたね。今日もミシェル・ペイヴァーのファンタジーを紹介します。決戦のとき (クロニクル千古の闇 6) Chronicles of Ancient Darkness:Ghost Hunterミシェル・ペイヴァー評論社 最終巻は冒頭から危険な雰囲気がちらほら。フィン・ケディンはトラクが死ぬ運命にあるとレンに話す。レンもトラクが死ぬ不吉な夢を見るようになっていた。また、トラクは父の幻を見て、自分に助けを求めていると確信。「もう待てないんです!あの女に立ち向かうのは、ぼくの定めなんです」第1巻でレンの兄に手もなく捕まった頼りない12歳の少年ももう15歳。家庭を築こうかという話になるが、レンとトラクが一緒になることは、レンがワタリガラス族を離れることになる。「あいつはワタリガラス族のもとにとどまりはしない。あいつは、さまよい人じゃ。生まれつきそういう定めなのじゃ。おまえはとどまる。あいつは出ていく。どうしようもないぞ」とセイアンから言われるレン。最強の“魂食らい”イオストラと対決するため、トラクは決死の覚悟で幽霊山へと入っていく。あとを追うレンとウルフ。イオストラの恐ろしい企みとは?最終巻とあって、今までのキャストフル出演。そして、度々出てきたあの人の意外な正体が明かされる! 2010年ガーディアン受賞作。【中古】決戦のとき (クロニクル千古の闇 6) / ペイヴァー ミシェル〈Paver Michelle〉 さくまゆみこ 酒井駒子 / 評論社心理学の古本屋たむら書房
November 2, 2022
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みなさんこんばんは。英与党保守党新党首にスナク元財務相が選ばれ、新首相に就任することになりました。今日もミシェル・ペイヴァーのファンタジーを紹介します。復讐の誓い (クロニクル千古の闇 5)Chronicles of Ancient Darkness:Oath Breakerミシェル・ペイヴァー評論社前巻で登場したベイルと一緒にいるレンにトラクが嫉妬。あまずっぱい古代アオハルの始まりかと思っていたら、冒頭いきなりベイルが「レンにプロポーズしようと思っている」とトラクに打ち明ける。わけのわからない気持ちで(ひゅーひゅー♪)いてもたってもいられなくて、トラクは怒ってその場を立ち去る。ところがその日見張り番だったベイルが死んでいた。自責の念に駆られたトラクは、レンへの気持ちも打ち明けないまま、ファイアオパールを盗みベイルを殺した魔導師シアジを倒して復讐の旅へ。 殺すという負の感情に駆られて、誰の言うことも聞かずひたすら進むトラク。放っておけなくて彼を追うレンとウルフという構図はお馴染み。但し今回初めて兄貴と慕ったトラクを「同じ狼じゃないんだ!(今頃か!)」と知ったウルフが大ショック。理由は姿かたちが違うからではなく、狼は復讐をしないかららしい。ショックが高じたのか(違う)群れから離れてわざわざやってきてくれた黒毛とカップルになり、トラクより一足先に家族を作る。 主人公が復讐とはいえ人を殺して大丈夫?と思っていたらちゃんとしこりの残らない展開になっていた。さあ、魂食らいはあと一人。頼れる父代わりフィン・ケディンとレンのお師匠であるセイアンも年老いてきたので次巻は世代交代になるのか。『中古』復讐の誓い (クロニクル千古の闇 5)KSC
November 1, 2022
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みなさんこんばんは。韓国ソウルの繁華街のイテウォン(梨泰院)で29日夜遅く、大勢の人が折り重なるようにして倒れ、これまでに149人が死亡し、76人がけがをしました。今日もミシェル・ペイヴァーのファンタジーを紹介します。追放されしもの (クロニクル千古の闇 4)Chronicles of Ancient Darkness:Outcastミシェル・ペイヴァー評論社前巻でウルフを助けるために、魂食らいたちの儀式に潜入したトラクは、胸に邪悪な印を刻まれてしまう。なんかイヤな予感がしたが、それが的中。ワタリガラス族の族長フィン=ケディンに「氏族の掟に従い、おまえをハズシにして追放しなくてはならん」と言われ、氏族からハズされ追われる身となる。トラクに寄り添ってくれるのは、オオカミのウルフだけ。 「ハズシになってしまった相手と出会ったら、忌むべき存在なので殺さなければならない」という恐ろしい掟がある。本人の性格がどうであろうと、そういう決まりになっている。明らかな差別だが、薬もない時代、悪い要素を少しでも排除したいと思うのが古代人だ。 トラクはオオカミ族の父とアザラシ族の母との間に生まれたので、ワタリガラス族から放逐されると、父方の部族が引き取る決まりだ。現代の法律っぽい。ところがオオカミ族の族長は、「トラクは部族なしだ」と宣言したため、どの部族からも庇護されない本当のはぐれ者になってしまう。 そんな時でもトラクについてきてくれるのが頼もしきウルフ。ウルフこそ種類は違うし部族=仲間はいる。人間を庇護する義務なんてない。今回はダメ押しのように、仲間の狼から「狼は二つの群れを持つことはできない」宣言される。これはウルフの人生にわたる選択であり、大変なことだ。にも拘わらず、ウルフはきっぱりとトラクを選ぶ。人間よりも情が厚い狼なんて、とんでもないキャラクターを登場させたものだ。 さあ、こうなると人間も負けていられない。レンと、トラクと血縁関係にあるアザラシ族のベイルがトラクを追ってきてくれる。「どんな気持ちだったか、わかる。切り出すのがむずかしいのよね、秘密って」とトラクに謎めいた事を言っていたレンにも、秘密があったことが明らかになる。後半は彼女の活躍回でもある。ベイルとレンの様子を見てトラクがやきもちをやく場面も出てきたので、古代の少年少女にも、いよいよ青春の到来か。
October 31, 2022
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みなさんこんばんは。日本テレビ系お笑い番組『笑点』などで活躍した落語家の三遊亭円楽さんが72歳で亡くなりました。今日もミシェル・ペイヴァーのファンタジーを紹介します。魂食らい (クロニクル千古の闇 3)Chronicles of Ancient Darkness:Soul Eaterミシェル・ペイヴァー評論社前巻ですっかり仲良しになったトラクとウルフとレン。三人が狩りをしていると、突然ウルフが「奇妙な獲物だ」と言ったきり姿を消す。直前トラクは不吉なワシミミズクを見ていた。何者かに攫われたウルフを追って、レンとトラクは、今度は極北の地へ旅をする。 前巻で出会った、ちょっと頭のねじが外れているキャラ“歩き屋”が再登場。言葉遣いはいつも乱暴で理不尽な要求をするが、「何かしてもらったらお返しをしなければならない」という最低限の掟は覚えており、ウルフの行方を捜す手がかりをくれる。狂っているふりをしているのか、全く狂っているのかが、トラク達には読み取れないのがポイントだ。前巻でその恐ろしさが明らかになった魂食らいが遂に登場。「今の世の中は秩序がないから秩序のある世に作り替える」として、悪霊を解き放つ儀式を行おうとする。ウルフは生贄の一つとして攫われた。ところで秩序のために悪霊が必要というのも変だ。悪霊たちを制御できるはずもなく、悪霊たちが人の心に入り込んだらそもそも秩序はない。彼等が目指す秩序というのも、それぞれの場所で違った生活をして違ったものを食べている人達を統一しようという意味らしいが、気候や地形など条件が異なるのに、全体主義的やり方が通るとは思えない。 長らく部族と共同生活をしていなかったからそもそも規制になれておらず、ウルフとの絆のために何度も無茶をするトラクを、時には止め、時には協力することでレンとの絆が深まる。「ウルフの代わりはいない」と言われて「じゃああたしはどうなのよ?」とむっとする場面も出てきたので、そろそろ恋の話も出てくる?『中古』魂食らい (クロニクル千古の闇 3)KSC
October 30, 2022
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