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みなさんこんばんは。セ・リーグは村上選手が、首位打者、ホームラン王、打点王の3つのタイトルを獲得し、三冠王に輝きました。今日もミシェル・ペイヴァーのファンタジーを紹介します。生霊わたり (クロニクル千古の闇 2)Chronicles of Ancient Darkness:Spirit Walkerミシェル・ペイヴァー評論社前巻で悪霊に取り憑かれた大熊を倒し、少女レンのいるワタリガラス族に迎え入れられた天涯孤独の少年トラクは、仲間と共に去っていたウルフの事が忘れられず、密かに遠吠えを繰り返していた(ヘンな奴だ)。ある日狩りの途中で病気の男と出会い「もうすぐそいつがやって来るぞ みんなやられちまう」と言われ、部族のオスラクも病で訳の分からないことを言い始める。トラクはオスラクが「おれの魂を食らってる」と口走ったことから、魂食らい(原題)が関わっているのではと思い始める。魂食らいはそれぞれ別の部族の出身で七人いて、権力欲に取りつかれてしまい部族を離れた。そのうちの一人が大熊でトラクの父を殺していた。 部族を襲う病の元を探るために、誰にも相談せずたった一人で旅立つ決意をするトラクの成長ぶりが窺える。一方オオカミたちと暮らしているウルフも、背高尻尾なしの兄貴(トラクのこと)の事が忘れられず、当てもないのにトラクを探す旅に出る。さあ二人が再会するぞ!(待ってました!) 但し、先にウルフが再会するのは前巻で気に食わない!と思っていたレン。レンもオオカミ語はわからないにしろ何だか気まずかった。そんな両者が‘トラクを探す’という同じ目的で旅をすることで、思いがけずお互いを深く知ることに。 六部作の主役なのだから、大熊を倒したくらいで主人公のミッションが終わるはずもない。見た目普通で、かつ、父と二人暮らしだったために部族のしきたりを知らないでいろいろやらかしてしまうトラクは、新天地で必ず邪険な扱いを受ける。しかし次第にトラク自身の能力や人柄によって仲間を増やす。出自などの外見でなく、中身で仲間を増やすという、まさに王道ヒーローだ。前回の舞台は森だったが、今回は海。山の王者が熊なら、海の王者も…というわけで、今回は海の殺し屋が登場。ところで、今回明らかになったトラクの能力は、若干信じ難い。シャーマンの要素を持つ古代日本の卑弥呼ならば、もしかしたら持っていたのかもしれないが。『中古』生霊わたり (クロニクル千古の闇 2)KSC
October 29, 2022
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みなさんこんばんは。不倫が報じられた声優の櫻井孝宏さんが所属事務所の公式サイトでコメントを発表しました。今日から6日間古代世界を舞台にしたファンタジーを紹介します。オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)Chronicles of Ancient Darkness:Wolf Brotherミシェル・ペイヴァー評論社舞台は石器時代。「いや絶対今のような言葉なんてない!(あーとかうーとか)」と突っ込みをいれたくなるが、YAなのでしっかり英語しゃべっている。そうでないと物語として成立しない。狼には英語のウルフと名付けるなど、言葉は若干クロスオーバー気味だが良しとしよう。 冒頭数ページで、いきなり熊にざっくり内臓をえぐりとられた瀕死の父親を見守る主人公トラク登場。父親は自分の死期を悟っており「人間に近づくんじゃない お前の力が知れたら」と言う。ここがおかしい。この頃は狩猟中心だから、それぞれ部族毎に集団生活を送っていたはずだ。トラクはオオカミ族だから、部族の他の子供達と共に生活するべきなのに、父親はトラクと二人だけで住んでいた。「北へ向かえ。そして…山を見つけるんだ。<天地万物の精霊>が宿る山だ。」死を前にして突然訳の分からない事を言う父親には、何やら秘密の匂いがするし、トラクに全然自覚がない「お前の力」も気になる。 庇護者を失った主人公トラクは、家族皆が死んでしまったちび狼を見つけ、なぜか狼の言っている事がわかると気づく。とはいえ一人立ちするにはお互いに未熟であり、体格も大きいほうではない。<天地万物の精霊>が宿る山を知らないトラクの前に‘案内役がやって来る’とこれも父親が言い残したことを思い出したトラクは、ちょうど目の前に現れたこのちび狼がそれかも?と思い、半信半疑で彼と旅をする。 本編はウルフ視点でも語られる。初めて会った時洪水で流され家族は皆死んでいたが、幼すぎてその事が理解できていない。動物的勘は鋭く、オオカミ語を解するトラクは兄貴分として認めるものの、途中から登場したワタリガラス族の少女レンに、どことなくやきもちをやくシーンもある。困難な旅をするうちに、一人と一匹はかけがえのない絆で結ばれていくが、やがてオオカミと人間の世界が別であることをお互いに知る。 引きのある別れ方をしているので、絶対にウルフ再登場があると期待している。『中古』オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)KSC
October 28, 2022
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みなさんこんばんは。横浜市内の交差点で乗用車にはねられ、病院で治療を受けていたザ・ドリフターズの仲本工事さんが19日、亡くなったことが分かりました。今日は自動発火現象を起こす姉弟と知り合うことになった女性の物語を紹介します。リリアンと燃える双子の終わらない夏Nothing to see hereケヴィン・ウィルソン集英社レジ打ちの仕事を掛け持ちし、自宅の屋根裏部屋でその日暮らしの生活をしているリリアンは28歳、人間嫌いで自己肯定感はかなり低めで、将来への希望もない。1995年、春の終わりにそんなリリアンのもとに、上院議員の妻で友人のマディソンから手紙が届く。おもしろい仕事があるので彼女の暮らすお屋敷まで来てほしいという。頼まれたのは10歳の双子ベッシーとローランドのお世話係。なりゆきに任せて引き受けたけれど、子供たちは興奮すると発火する特異体質だった!? 母親が亡くなり、双子たちは実の父であるマディソンの夫に引き取られたが、愛情あっての行為ではない。政治的野心を持つ双子の父とその伴侶であるマディソンの「スキャンダルを封じ込めたい」意向が強く動いている。そこまで感じ取っているわけではないが、リリアンをはじめとする大人達が「自分たちと一緒にいたいのかどうか」を気にする子供達が痛々しい。家族と一緒に住むわけではなく、監視カメラつきのゲストハウス住まいでは、一家との共同生活とは言えない。 自動発火体質の主人公は、著者の別の短編集にも登場する。よほど拘りがあるらしい。 自動発火現象は映画『人体自然発火/スポンティニアス・コンバッション』になっており、ジャンルで言えば純然たるホラーだ。ところが本編ではホラーにならない。実際危ない場面はあるが、満足に自分の気持ちを表現できない子供達の様々な感情が炎に仮託されているのを感じるからだ。本編はダウナー系リリアンの一人称語りなので、当初諦念が言葉の端々に感じられたが、子供達との出会いを通じて、「何とかしてやりたい」という前向きな主体性が生じると雰囲気が変わってくる。リリアンだけでなく、どこか欠落している登場人物たちの、脆さやずる賢さの隙間にほんの少し見える情の部分が、本編をホラーにせずコメディタッチの人情ドラマにしている。 ケヴィン・ウィルソン作品にはもう一つ映画になった『ファング一家の奇想天外な謎めいた生活』があるが、いずれの作品にも共通しているのが、世間からはみ出してしまった主人公達である。世間と折り合いがよくない彼等はおおむね居心地が悪いが、そんな彼等にもちゃんと居場所があるんだよ、という共通したメッセージが感じられる。レビュアーから指摘があったがアン・タイラーっぽい。リリアンと燃える双子の終わらない夏 [ ケヴィン・ウィルソン ]楽天ブックス
October 21, 2022
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みなさんこんばんは。大相撲の元横綱白鵬の宮城野親方が「白鵬引退宮城野襲名披露大相撲」の開催を発表しました。開催時期は来年初場所後の1月28日で、東京・両国国技館で開催。断髪式はもちろん、幕内、十両取組の他、「白鵬最後の土俵入り」が行われる予定となっています。今日はノアの箱舟をモチーフにした小説を紹介します。箱舟の航海日誌 (光文社古典新訳文庫)The Log of the Arkケネス・ウォーカー 旧約聖書にはいろいろと理不尽な話が多い。ヨナは神に敵国アッシリアの首都ニネヴェに行って「ニネヴェの人々が犯す悪のために40日後に滅ぼされる」という預言を伝えるよう命令される。いや敵国でそんな事言ったら「よくぞ言ってくださった」と涙を流して感謝されるどころか瞬殺されるぞ(但し今回はそうならなかった。“モノガタリ”だよねぇ)。 落ち着いて考えると箱舟もいろいろと理不尽だ。神様が「世界があまりにひどいから洪水で一気に滅ぼすことにしたが君だけは助ける。洪水に耐えられる方舟を作って、君の家族と、あらゆる動物のつがいを1組ずつ乗せよ。」と命じる。えっいつどの時点でどういう基準で決めたんですか神様。そしてなぜノアが救済ミッションインポッシブルメンバーに? と言いたくなるところだが、当のノアは神に命じられた通り、洪水に備えて箱舟を造り、動物たちとともに漂流する。しかし理科で食物連鎖を習った我々ならここで疑問符が。肉食動物と草食動物がいるよね?つまり草食動物は漂流中肉食動物の餌になって死ぬ分も含めて乗り込ませると?これも呉越同舟?(違う) 方舟の食事はオートミールになっている。エネルギー消費量が違うのに肉食獣それで大丈夫なのか?と思うが幸いにして獣達はまだ肉食の味を知らず、果実を食べていたので不満が出ない。ところがスカブという肉食を知る動物が紛れ込み。 スカブとは架空の存在であるが、善・無垢の中に一つ悪が混じると途端に悪に染まっていく様は、既に旧約聖書初めの方のエデンの園でも繰り返される。つまり人間に限らず生物は悪、そして特に強い欲望を伴う悪には染まらずにはいられないということだ。 察して逃げる動物もいるが、やがて洪水が引けば禁断の味を知った肉食獣が彼等を追う事は見えている。浄化され悪が消えたかに見えた地上にも、再び悪が蒔かれてしまうから、いくら試みても無駄なんですよ、わかってます、神様?箱舟の航海日誌 (光文社古典新訳文庫) [ K.ウォーカー ]楽天ブックス
October 20, 2022
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みなさんこんばんは。京セラの稲盛和夫さんが亡くなりましたね。今日はH・G・ウェルズの短編集を紹介します。盗まれた細菌/初めての飛行機 (光文社古典新訳文庫)The Stolen Bacillus/My First AeroplaneH・G・ウェルズ「初めての飛行機My First Aeroplane」ぼくは、はじめてひこうきにのりました。とってもたのしかったです(なぜ平仮名)。…なんて、ほっこりはじめてのお使いノリと思ってたらとんでもなかった初飛行。なぜかというと(もごもご)。「小さな母、メルダーベルクに登るLittle Mother up the Morderberg」多分初めての飛行機に乗った人と同じ語り手。今度は母親と一緒に難所と言われるメルダーベルクに登ろうとする。はじめてのやまのぼりは(もう平仮名はいいから)のノリで読み進めると良いでしょう(嘘です)。「劇評家悲話The Sad Story of a Dramatic critic」「君なら書ける!」上司に見込まれた(きっと皆に言ってる)劇評家に起きてゆく変化。これTragedy=悲劇ではなくComedy=喜劇だと思って読んだ人はナカマナカマ。いやだって舞台化したらとんでもなく面白いぞこれ。「盗まれた細菌The Stolen Bacillus」細菌学者は研究者に招いた男に「これはコレラ菌で世の中にばらまいたら大変な事になる」と言う。細菌学者は男の表情に“病的な悦びの表情”が浮かんでいるのに気づく。“一瞬満足げな表情”がよぎる男。はい、この先男が何を考えているかわかりますね。その通りです。でも、結果はその通りにならないのです。その理由は?「奇妙な蘭の花が咲くThe Flowering of the Strange Orchid」「自分には何も起こらないのがつまらない」とこぼしていたウィンター・ウェダーバーンは即売会で気に入った蘭を購入した。従姉は突き出ている突起が気に入らないが、ウェダーバーンは新種の蘭だと狂喜する。家政婦が蘭の部屋は暑くて頭が痛くなると言うが、ウェダーバーンは気にしない。そしてある日。こちらも予測通りの結果になります。女性は理性的ですが取りつかれた男性は手の付けようがないですね。「ハリンゲイの誘惑The Temptation of Harringay」本当にあったかどうかしらないが、とにかく画家のハリンゲイが言った話として書かれている。ある日絵を書き始めたら絵が文句を言い始めた。そして何と“名作を書かせてやる”と申し出る。もちろん引き換えに望むものはあるわけで…とくれば取引相手の想像はつくでしょう。「紫の茸The Purple Pileus」謹厳実直を絵にかいたようなクームズ氏は、妻がしょっちゅう家に人を呼ぶのが嫌いだった。ある日道端で見かけた紫の茸を毒と知りつつむしゃむしゃ食べてしまう。その結果起こったことは?マジックマッシュルームだったってことですか。「ハマーポンド邸の夜盗The Hammerpond Park Buglary」有名な宝石があることで知られるハマーポンド邸に忍び込もうと企む名うての夜盗。ところがその日に起こったことは。これ、ハッピーエンドってことでいいんですかね。「パイクラフトに関する真実The Tryth about Pyecraft」体格を気にするパイクラフトが、語り手の祖母が知るインドの秘術を求めてやってきた。「軽くなりたいんだ」というので秘術はうってつけだったのだ。確かに‘軽く’はなった。だが…。他「失った遺産The Lost Inheritance」「林檎The Apple」【パーキンズと人類第二十章マックス・ビアボウム 著】【マックス・ビアボウム画H・G・ウェルズ氏】収録。盗まれた細菌/初めての飛行機【電子書籍】[ ウェルズ ]楽天Kobo電子書籍ストア
October 14, 2022
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みなさん、こんばんは。ロシアが8年前、一方的に併合したウクライナ南部のクリミアと、ロシア南部を結ぶ唯一の橋で爆発とともに大きな火災が起き、橋の一部が崩落しました。アレン・エスケンスのジョーを主人公にした連作小説を紹介します。過ちの雨が止むThe Shadows We Hideアレン・エスケンス創元推理文庫授業で身近な年長者の伝記を書くことになった大学生のジョーは、私生活ではアルコール中毒の母キャシーに悩まされ、自閉症の弟ジェレミーの面倒を見ている。訪れた介護施設で、末期がん患者のカールの冤罪を晴らそうとする姿を描いたデビュー作「償いの雪が降る」。原題はThe Life We Buryで今回の原題はThe Shadows We Hide。逃れたり葬っても、いつかは表に出てくる自らの闇。人間はどう立ち向かうべきかを、欠点はありつつも極めてまっとうな考えの持ち主である主人公ジョーの生き方が体現している。 AP通信の記者となったジョーは、議員の妻に対する暴行を告発したことで捏造を疑われている。ちょうどその頃、くすぶっている母親問題に加えて、ジョーを捨てた父親が殺されるという事件が起きる。なんと自分と同じ名前で、別の女性との間に子供がいた。妹の存在を知り、かつ彼女が容疑者扱いされていると知ったジョーは、現実逃避的に自分から事件に関わっていく。 情に厚く誠実で、正義を重んじる王道タイプの主人公だが、試験で大変なライラにジェレミーを預けていく件や、旅先で綺麗な女性にふらふらっとなる件、遺産が得られると知り、やたら金額を口にする件など「目を覚ませよ」と心優しき読者は何度も言いたくなるはずだ。 しかし人間は失敗を経て成長していく。本シリーズはミステリながら主人公ジョーの成長物語でもある。ならば、軽はずみな振る舞いによる手痛い罰を食らい、反省して正しい道を模索する姿まで描くべき。前作で、とても再生の可能性など見いだせないと思っていたキャシーの変わりっぷりに驚く。次作は、ジョーにもキャシーにも優しかったライラが主人公になる。断片的であるが彼女も壮絶な過去を背負っているらしい。過ちの雨が止む (創元推理文庫) [ アレン・エスケンス ]楽天ブックス
October 12, 2022
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みなさん、こんばんは。Netflixが製作する映画『ビバリーヒルズ・コップ』の続編タイトルが『ビバリーヒルズ・コップ:アクセル・フォーリー(原題) / Beverly Hills Cop: Axel Foley』となり、エディ・マーフィが主演に復帰、さらにジョセフ・ゴードン=レヴィットが出演するそうです。今日はデイヴィッド・レヴィサンの「エヴリデイ」続編を紹介します。サムデイSomedayデイヴィッド・レヴィサン小峰書店前作エヴリデイでリアノンの前から姿を消したAは、相変わらず宿主を変えている。しかしリアノンという大切な存在が出来たことで、前よりも宿主の事を考え始める。たった一日しかその体に宿ることができないというのに、自分の感情で行動してしまってよいのか?と。 彼と逆の考え方をするのがXで、Aと対を成す名前になっており、意味を調べると、いかにも宿主を変えるボディ・トラベラー(本作で初めてこの言葉が登場)らしい。 宿主に対して罪の意識を感じ始めていたAに対してXは、彼が抑えてきたポイントをぐさぐさと突いてくる。「これまで常に、自分のことより宿主のことを優先させてきた。自分を完全な一個の人間として扱ってこなかったんだ。(中略)われわれだってひとりの人間なのに。宿主の人間性を守るために、自分の人間性をあきらめてきたんだ。(中略)なぜ宿主の人生のほうがわれわれの人生よりも価値があるんだ?」 確かにXの言っている事にも一理ある。ボディ・トラベラーは自ら望んでその性質を持ったわけではないのに、社会の圧倒的多数がそれらの性質を持たないがために異端者、少数者となり自らの望みを抑えざるを得ない。だが、Xは巧みに「自分か他者か」という二者択一にすり替えているが、自分の人生を貫き通すならば宿主の人生を乗っ取ることになる。宿主もまたボディ・トラベラーと同様罪なき存在であるにも関わらず。初めて自分と同じ体験と記憶を共有するXと話す機会が増えてAの心は揺れるが。 リアノン、ネイサン=善、X=悪というわかりやすいキャラクター分けがされているが、出てきた答えはそう簡単ではない。前作タイトルは毎日宿主が変わる事からきていたが、本作タイトルはAとリアノンの願いがこめられている。サムデイ [ デイヴィッド・レヴィサン ]楽天ブックス
October 1, 2022
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みなさん、こんばんは。作家の光原百合さんが亡くなりましたね。今日もサマセット・モーム作品を紹介します。魔術師 (ちくま文庫)The Magicianサマセット・モーム ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のアルバムジャケットでも肖像が見られる魔術師アレイスター・クロウリー。彼をモデルにした魔術師が登場する、モームにしては珍しいオカルティックな作品。 登場人物の構成はブラム・ストーカーの『ドラキュラ』によく似ている。ドラキュラ→魔術師オリヴァードラキュラに攫われるジョナサンの婚約者ミナ→ドラキュラに魅了されるマーガレットドラキュラに婚約者を奪われるジョナサン・ハーカー→婚約者マーガレットをオリヴァーに奪われる外科医アーサードラキュラを退治せんと目論むヴァン・ヘルシンク博士→アーサーの父親の友人で、医者を引退して神秘学を研究しているポロエ博士 但し、いくつかの相違点もある。『ドラキュラ』では、ミナがあくまでジョナサンへの愛を貫くのに対して、マーガレットは魔術によって容易くオリヴァーに篭絡される。『ドラキュラ』のヴァン・ヘルシンク博士は悪者退治の戦闘に立ったが、本編でオリヴァー追跡&退治の先頭に立つのは被害者アーサーだ。そのため「悪者を倒す正義の戦い」というよりは、恋人を奪われたアーサーの私的復讐といった意味合いが強い。また、オリヴァーは、ある目的によってマーガレットに接近したが、その目的とする対象は、メアリー・シェリーの有名作品と共通点がある。 本編のオリヴァーの描写だが、最初から”肥満している”と書かれているものの、彼がイギリスに戻ってからは、更に信じられない位の巨体になる。生活に支障をきたすレベルと思われるが、彼の実験室では更に120センチはあろうかと思われる大きい容器に入った”あるもの”が登場。なんだか肥満=悪と断じられているようで、すっきりしない。魔術師【電子書籍】[ サマセット・モーム ]楽天Kobo電子書籍ストア
September 20, 2022
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みなさん、こんばんは。台風14号は19日にかけて九州にかなり接近し、上陸するおそれがあるとのことです。今日もサマセット・モーム作品を紹介します。アー・キン The Ah Kingちくま文庫サマセット・モーム増野正衛訳「密林の足跡Footprints in The Jungle」マレーのメラー・タナ―のクラブで警察署長ゲイズの家に滞在していた私はカートライト夫妻に会う。妻は「ゆとりのある皮肉屋」「一応自分なりに腹をくくっていて、しかも思うことを怖れなくずばずば言ってのける女」「小気味よく山葵が利いているが、すこぶる面白くて、よほどの愚物でないかぎり気をわるくさせられるようなことはない」と大絶賛なのに、夫は「疲れていて、大分老けている」対照的なカップルだ。前はああじゃなかったと夫妻の過去を知っているゲイズが語り始めたのは…。最後のゲイズの人間観「人間の本質を現し示してくれるものは、必ずしもその人間の行為じゃありませんよ。」にあなたは同意する?「機会の扉The Door of Oppotunity」任地から戻ってきたアンとアルバン夫妻。ロンドンに戻ってこられて大喜びのアルバンに比べて、アンは「もう何週間も前から決心していたことを実行するときが、とうとうやって来たのだ」と厳しい表情。夫を愛しつつもアンが実行しようとしている事は?そしてその理由は?「怒りの器The Vessel of Wrath 」ならず者で知られているジンジャー・テッドは無人島で取った行動が元でジョーンズ女史に惚れられてしまう。短編集の中ではコメディ色が強い。「書物袋The Book Bag」私はフェザーストーンからある姉弟にまつわる話を聞く。姉オリーヴはフェザーストーンとの求婚を断るが、テッドは別の女性と結婚して戻ってくる。その時悲劇が起こる。「この世の果てThe Back of Beyond」着任したマレー連邦州のテンパン・ブローを離れるジョージ・ムーンは、トム・サファリ―からノビイ・クラークが亡くなったので妻ヴァイオレットと自身は送別会に出られないと言われる。その後ノビイと夫妻の関係を明かしたトムから相談を受けたジョージは。「ニール・マックアダムNeil Mac Adam 」見るからにおぼこいニール・マックアダムがクアラ・ソロールの博物館の助手として赴任する。管理者アンガス・マクロウの夫人ダーリアの事でからかわれたニールはむきになって彼女を弁護するが、後に誘惑されてしまう。 本国英国ではふんぞり返って威張っている男達が、赴任先にあたる南方ではいささか元気がない。変わって女性達が感情のままに突っ走り、男性は女性の勢いを止めようとするがほぼ失敗というパターンの作品が多い。【中古】 アー・キン ちくま文庫/サマセット・モーム(著者),増野正衛(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
September 19, 2022
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みなさん、こんばんは。映画『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』など数多くの名作で知られるフランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールさんが、13日に亡くなったと、フランスのリベラシオン紙が報じました。91歳でした。今日から3日間サマセット・モーム作品を紹介します。カジュアリーナ・トリ―The Casuarina Treeちくま文庫サマセット・モームカジュアリーナ・トリ―とは、南方で育つ奇木で、葉のない枝が立っている。水辺が陸地になり始めると、自然に生えてきて、他の植物が繁茂し始めると自身は自然に枯死する。役目を終えた事を知っているかのように。 南方の未開拓地-この言い方も不遜である、それまで現地の人は何不自由なく住んでいたのだから-を白人に開いたのは冒険者。次に他国-主に西欧-の行政官がやって来る。役目を終え去っていく冒険者達と奇木の果たす役割が重なって見える。「園遊会までBefore The Party」スキナー夫妻は家族を連れて久々の園遊会に出かけようとしていた。夫人は亡き娘婿ハロルドのくれた白鷺の縁なし帽子を被る予定だ。亡くなってまだ一年が経っていないのに喪服を着ようとしないミリセントが気になって、妹キャサリンは聞いた話をぶちまけるが、ミリセントの告白は軽くそれを上回っていた。「手紙The Letter」ミセス・クロスビーが隣人のジェフ・ハモンドを銃で撃って逮捕される。法律事務所のミスター・ジョイスは夫人が6発も撃ったことに不審を抱く。そんな時事務所に勤めている中国人が、ハモンドにあてた夫人の手紙があると言い出して。こちらも『園遊会まで』同様女性豹変編と言える。映画『月光の女』原作。「奥地駐屯所The Outstation」司政官ミスター・ウォーバートンは新任の副司政官クーパーを出迎えるが、彼は現地の人々とトラブルを起こす。雇人が辞めると言い出してはウォーバートンが止める有様だ。やがてそのうちの一人とどうしようもない確執が生まれ。言っても聞かない相手に自ら制裁を加えるのではなく、いつか起こる軋轢を予測していたかのようなウォーバートン。「環境の力The Power of Circumstance」久しぶりに会った夫ガイとは離れ離れだったが、再会するなりラブラブモードのドリス。ところがガイが打ち明け話をするなり彼女の態度が変わり。こちらも女性豹変編だが原因は男性にあり。最後に泣くくらいならやらなきゃよかったのに。つい羽目をはずすのも本国ではないという安心感か。それにしてもラストを見ると男ってほんとに(以下略)。 いずれも南方で起きた事件がテーマである。本国ではなく南方の異国だから起こった事件といえば、まるで場所が悪いみたいだが、要は人の心の持ちようでは。本国と離れ開放的な気分になったり、自身を島流しのような身分にも感じる者もいる。気候も本国とは異なり、習慣や現地人の気質にイライラさせられる日々が続くうち、このような事件を起こすきっかけになったのか。他「東洋航路P&O」「臆病者The Yellow Streak」収録。カジュアリーナ・トリー【中古】 カジュアリーナ・トリー / サマセット モーム, 中野 好夫, 小川 和夫 / 筑摩書房 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗 楽天市場店
September 18, 2022
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みなさん、こんばんは。山東省や河南省で見つかった新たなウイルスは「狼牙ヘニパウイルス」と名付けられ、これまでに35人の感染が確認されています。発熱や咳などの症状が報告されているが、死者や重症者は出ていないそうです。英国領インドでシャーロック・ホームズファンの男性が彼を見習って捜査をする物語を紹介します。ボンベイのシャーロック (HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 1)Murder in Old Bombayネヴ・マーチ高山 真由美 (訳)アビール・ムカジー作品といい、最近大英帝国統治下にあるインド帝国を舞台にしたミステリが多い。本作もその一つだ。 1892年インド、ボンベイ。騎兵連隊を除隊し病院で療養生活を送っていたジム・アグニホトリは、二人の女性がボンベイにある時計塔から転落死した事件の記事を見つける。二人の死に違和感を覚えたジムは、被害者の夫であるアディが書いた投書を読み違和感を確信に変える。アディから事件の調査を依頼されたジムは、敬愛するシャーロック・ホームズに倣い、変装を駆使し、事件の手掛かりを再構成することで真相を究明しようとするが。 ジム・アグニホトリはその姓でわかるようにインド人だが、外見は英国人。つまり父親は英国人である。優秀な兵士だったが負傷により除隊、事件関係者と恋に落ちる設定は原典のワトソンである。しかし自身で捜査も行いボクシングも得意という設定はホームズ。つまり二人の役割を一人でやろうという試みだ。折しも『四つの署名』が大評判であり、『四つの署名』はワトソンとメアリー・モータスンとの出会いが描かれている。メアリも今回ジムが恋に落ちるダイアナも事件関係者の近親者という共通点がある。 今回語り手も一人称の彼なので、捜査というメインプロットに、パールシーであるダイアナとの禁断の恋愛模様が絡む。ちなみに、二人ともかなり情熱的で饒舌だ。禁断の恋ゆえそうなのだ(ということにしておこう)。ダイアナの家族とも親しくなったジムは、彼女から離れようとするが、生涯の人と思い定めた気持ちはそうそう収まらない。英国人、インド人、パールシー、さらにカーストと人種が入り乱れ、英国支配でうまい汁を吸う者と、抵抗運動を目論む主義の対立が潜在するなど、ドラマの要素に事欠かない時代なので、よく舞台に据えられるのだろう。ボンベイのシャーロック (ハヤカワ・ミステリ) [ ネヴ・マーチ ]楽天ブックス
September 8, 2022
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みなさんこんばんは。女子テニスの四大大会通算23勝を誇るセリーナ・ウィリアムズ選手が、全米オープンに出場後、テニスから引退すると表明しました。「自分にとって大切なほかのこと」に集中するためだそうです。今日もフィリップ・リーヴ作品を紹介します。氷上都市の秘宝Infernal Devicesフィリップ・リーヴ創元SF文庫トムとヘスターはかつての氷上都市アンカレジで平穏に暮らしていた。前作から16年。二人の間に娘レンが生まれる。今は学校の先生になっている元辺境伯フレイアから手伝いを頼まれているが、平穏な暮らしに飽きていた。そんな日常に物足りなさを感じていたレンが、現れたロストボーイの言うままアンカレジ図書館から「ブリキの本」を盗み出したが、結果的に拉致されブライトンで奴隷として売られる羽目に。 愛娘を救わんと必死で後を追うトムとヘスターがたどり着いたのは、水上都市ブライトンだった。 前作でまんまと逃げおおせた嘘つきペニーロイヤルがちゃっかり市長になっていて驚く。彼は骨の髄まで嘘つきだが、そんな彼のたった一つの真実が一家を不幸に突き落とす。冒険好きの母と好奇心旺盛な父親の血を引いているレンがメインパートに押し出されてくる。終盤のレンの脱走劇と、脱走劇と同時進行するトムとヘスターによる「レン救出作戦」が最大の見所。父親になり、常識的な所が上塗りされたトムと、16年間自分を抑えながら生きて来たへスターの亀裂が決定的に。そこに現れた過去の亡霊にふらーっとなるのもある程度理解はできるが、母親としてはそれでいいのか。氷上都市の秘宝【電子書籍】[ フィリップ・リーヴ ]楽天Kobo電子書籍ストア
September 5, 2022
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みなさんこんばんは。ダルビッシュ選手が、 日米通算、野茂以来2人目3000奪三振を成し遂げました。今日もフィリップ・リーヴ作品を紹介します。掠奪都市の黄金 移動都市クロニクル (創元SF文庫)Predator’s Goldフィリップ・リーヴ 古代兵器の暴走でロンドンが炎上して二年あまり、トムとヘスターは飛行船ジェニー・ハニヴァーを飛ばし物資の輸送を請け負っていた。だがベストセラー作家で冒険家のニムロッド・ペニーロイヤル教授と名乗る胡散臭い人物を同乗させた際に、反移動都市同盟の戦闘飛行戦隊に攻撃される。実はジェニー・ハニヴァーは今は亡きアナ・ファンの愛機で、二人は正式に譲り受けたわけではなかった。アナ・ファンは同盟のスパイと見做されていたため、機体を見て反移動都市同盟から攻撃されたのだ。北の氷原で移動都市アンカレジに不時着する二人。アンカレジは歴史と伝統を誇る美しい都市で、古代の細菌兵器による伝染病で住民の大半が逃げるか死ぬかして、今は16歳の美少女フレイア・ラスムッセンが辺境伯として残り少ない人々をまとめていた。 『移動都市』続編。浮き草稼業が性に合っているへスターと、ロンドン育ちで物知りのペニーロイヤルや美しい辺境伯に惹かれるトムとは、実の所まるっきり望む生活スタイルが異なる。先に気が付いたへスターが、トムとフレイアの決定的場面を目撃して衝動的な行動に出るのも仕方ない。というか、この二人いろいろ考えすぎる。 しかし互いに嫉妬する/しない、相手が自分の事を好きか嫌いかわからないと惑っている状態でも、しっかりやることはやっていたことが終盤分かる。なんだ、それなら心配することなかったのに!次巻は二人の娘が登場。前作でかっこいい大人代表だったアナ・ファンがまさかの姿で再登場。掠奪都市の黄金【電子書籍】[ フィリップ・リーヴ ]楽天Kobo電子書籍ストア
September 4, 2022
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みなさんこんばんは。性被害の加害者として謝罪した俳優の香川照之がTBS系朝の情報番組「THE TIME,」(毎週月~金曜あさ5時20分~8時)金曜MCを降板することが同局より発表されました。そして今日は映画版原作シリーズの紹介です。今日から3日間フィリップ・リーヴ作品を紹介します。移動都市Mortal Enginesフィリップ・リーヴ安野 玲 訳創元推理文庫 60分戦争で文明が荒廃した未来社会。地殻大変動が起きて、一か所への定住が不可能になった。人類は都市にスチームエンジンと巨大なキャタピラーをつけて、まるごと移動する。世界は都市間淘汰主義(ダーウィニズム)に走り、移動しながら物資や奴隷を得るために共食いをする、弱肉強食の時代に。 史学ギルドの下っ端見習いトムはみなしごで、偉大な冒険家ヴァレンタインに憧れていたが、仕事は博物館の雑用だ。ひょんなことからトムはヴァレンタインと一緒にロンドン下層部で仕事をすることに。そこに現れたのが顔に酷い傷跡のある少女へスター・ショウ。彼女からヴァレンタインを救おうとしたトムは、彼女もろとも荒れ果てた地表に落とされてしまう。移動を続けるロンドンに戻るために、ヴァレンタインを追うへスターと行動を共にすることに。 映画版では原作とは異なる点がいくつかある。1.悪の親玉はロンドン市長チャドリー・ポムロイだが、映画版ではヴァレンタインの暴走になっている。2.上記の行為も含め、ヴァレンタインが映画版ではかなり悪者になっている。原作ではポムロイに逆らえない設定。3.ヴァレンタインの娘キャサリンの性格は映画版・原作同じだがラストが異なる。4.映画版では対決シーンでヴァレンタインがへスターに父親宣言しているが、原作ではキャサリンにのみ打ち明けている。しかも「もしかしたらそうかも」程度。5.アナ・ファンとヴァレンタインの対決場所の違い。 そのため映画版を先に読むと、原作版ヴァレンタインの印象が全然違うはずだ。映画版ではヴァレインタインをヒューゴ・ウィ―ヴィングが演じていたのでラスボスに押し上げたのかもしれない。未来でもストーカーはストーカーという名称そのままだった。【中古】 移動都市 / フィリップ・リーヴ, 安野 玲 / 東京創元社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗 楽天市場店
September 3, 2022
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みなさん、こんばんは。ファッションデザイナーの三宅一生さんががんで亡くなっていたことが分かりました。84歳でした。ベルナール・ミニエ作品の人気シリーズセルヴァズ警部が活躍する詩r-図を紹介します。姉妹殺しSoeursハーパーBOOKS H170ベルナール・ミニエ 坂田雪子訳プレリュードは1988年。いけない遊びに好奇心いっぱいのアリスとアンブル姉妹は、憧れの作家ラングの所に、作品の登場人物のコスプレでやってくる。「先生は、わたしたちになんでもお願いすることができるの。なんでもよ」「男を操るのは簡単だった。拍子抜けするくらい簡単だ。美しさや知性は必要ない。ただ、男が望んでいるものをあたえてやればいいだけなのだ。ただし、早すぎてはいけない」いやいやどこでそんなテクをお嬢様方。悪魔の囁きを聞いた作家がどうしたかはここでぶったぎられる。 1993年、トゥールーズの森で大学生の姉妹が殺された。駆け出しの刑事セルヴァズが目にしたのは、白いドレス姿で木につながれた異様な遺体。姉のほうは美しい顔を潰されていた。容疑者に浮上したのは人気ミステリー作家エリック・ラング。プレリュードで姉妹に誘惑されていた作家その人だ。犯行手口が彼の小説と酷似しており、姉妹との関係も判明するため当然彼が最有力の容疑者だったが、犯人と名乗り出たのは意外な人物だった。そして25年後、今度はラングの妻アマリアが白いドレス姿で作中の手口で殺される。 今回何と言っても、24歳のセルヴァズに会えるのが嬉しい。警察学校で優秀な成績を収め、パリ勤務でも高い評価を得て、警察の要職に就く伯父の引き立てで、地元のトゥールーズ署に勤務している。まだハルトマンに毒=執着されておらず、エリートコースをまっしぐら。客室乗務員の美しき妻アレクサンドラとの夫婦生活は、時に喧嘩くらいはするものの、破綻していない。但し4年前の父の自殺が暗い影を落とす。また、事件関係者の女性にモテるが、同僚刑事からの覚えはめでたくない。「髪を切って、ネクタイをするべきだ」「この仕事に向いてない」と陰口を叩かれ、先輩刑事コヴァルスキーの行き過ぎた暴力や脅迫に違和感を唱えても、正論だけでは事件解決に繋がらないと一喝される。「二十年や三十年後、自分はどうなっているのだろう。四十代や五十代になった頃も、この仕事を続けているのだろうか。」大丈夫。続けているよ。望む姿であるかはわからないけれど。 真打ち40代のセルヴァズは勿論後から登場する。こちらはどっぷりストーカーハルトマンに挑発されて人生を狂わされ、見た事のない息子と対面の波乱万丈真っただ中。はみだし刑事の異名をすっかりわが物に。大学文学部を出たインテリ刑事の欠片はすっかりない。ハルトマンを父と信じて暮らしてきた息子ギュスターヴの様子も心配だ。今回はどこにハルトマンが?とほぼセミレギュラー化した悪党の存在をつい探してしまうが、メインの事件が薄れるからか、今回は登場しないのでご安心を(誰ですか、がっかりしてるのは)。姉妹殺し (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H170) [ ベルナール・ミニエ ]楽天ブックス
August 26, 2022
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みなさん、こんばんは。日本を代表するファッションデザイナーで文化勲章受章者の森英恵氏が老衰のため死去しました。96歳でした。今日は映画化もされた有名なミステリを紹介します。わらの女 【新版】La Femme De Pailleカトリーヌ・アルレー創元推理文庫34歳で翻訳をしているヒルデガード・メーナーは、毎週金曜日必ず新聞を、それも第六面を読む。そこには求縁申し込み欄があるからだ。 「これが人生とはとても思えない。生きるというのはもっとはるかに胸躍る、いまの暮らしとはかけ離れた営みであるはずだ。だからここは通過点でしかなく、いずれなにかが起こるに違いないと彼女は信じていた。」 要約すると「今の人生に何となく不満を抱いているが、積極的に自分から変えていこうという気はなく、何かきっかけを探している」状態。そんな彼女の前に飛び込んできたのがタイトルの求縁広告。但し当人が出したものではなかったことが、面接に向かった時にわかる。そこで帰れば物語はこれ以上進まなかったが、ヒルデガードは面談に現れた富豪カール・リッチモンドの世話係と名乗るコルフの企みに載ろうと決意しタッグを組む。 映画化された事もあるのでラストのオチも結構知られている。ヒルデガードがコルフを出し抜いてやろうとか、リッチモンドを殺したいなどヒロインが積極的に動く前に、あっという間に事態が動いてしまう。但し前兆はいくつもあった。「ずっとのちに、ヒルデガルトはこの奇妙な結婚話の始まりを思い返し、そういえば新聞広告にも、手紙にも、ある言葉が書かれていなかったと気づくことになる。そこにただ一つ欠けていたもの、それは愛という言葉だった。」「コルフは彼女を変えていった。少しずつ、こうあるべきだと思う姿に近づけていった。ただし大事なのはもっぱら容姿であって、知性を磨こうというのではない。知性ならコルフが二人分もっていて、それで十分だったのだから。」 まだ結審されてないのに、得意顔でコルフが事の顛末から何からまあべらべら喋るシーンは、来たる未来をある程度予測していないと実行できないという欠点も指摘されている。『中古』わらの女 【新版】 (創元推理文庫)KSC
August 25, 2022
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みなさんこんばんは。台湾国防部は中国軍が台湾東部の海域に複数の弾道ミサイルを発射したと発表しました。今日は有名なSF小説を紹介します。夏への扉 [新版]The Door Into Summerハヤカワ文庫SFロバート・A・ハインライン「冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる飼い猫のピート。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ」という惹句から、きっと「夏への扉」がある時開き、飼い主ダニエルとピートだけが不思議の世界へ行ける。そんなSFだと思っていた。 しかし全然違っていた。ダニエルは1970年12月、親友マイルズと恋人ベラと会社を経営し、次々と発明品を発表し、結婚間近で順風満帆!と思いきや、二人に裏切られ、発明までだましとられたあげく、冷凍睡眠で30年後に送られてしまう。何もかもなくしたダニエルの反撃なるか!というかなりドタバタ調だった。 本小説の未来=2000年が既に私達の過去となっているのが感慨深い。冷凍睡眠は実現していないが、ダニエルが力を入れていた人型ロボットはかなり普及しており、もろ“ルンバ”も出てくる。ちなみに今だとピートの翻訳機が登場している発想もありかも。 ダニエルがいわゆる技術馬鹿でお人好しで、見るからに「あーこりゃ騙されるわー」って感じのいい人。騙すベラはとんでもない悪女で、対極にいるのがリッキーという女性だ。しかしリッキー、過去においてはティーンというより少女である。冷凍睡眠によりダニエルが年齢を止めておけるから辛うじて成り立つが、そうでなければちょっと危ない恋愛かもしれない。夏への扉〔新版〕 (ハヤカワ文庫SF) [ ロバート・A・ハインライン ]楽天ブックス
August 18, 2022
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みなさん、こんばんは。「走れコウタロー」シンガー・ソングライターの山本コウタローさん死去が73歳で脳内出血で亡くなったそうです。今日はミステリを紹介します。噤みの家Never Tellリサ・ガードナー小学館文庫 ある夜、ボストンの住宅街に響いた銃声。警察が駆けつけると、部屋には頭を撃ち抜かれた男の遺体と12発の弾丸を受けたコンピュータ、そして銃を手にした男の妻がいた。殺人容疑で逮捕された妊娠中の妻イーヴィは容疑を否定するが、彼女は16年前の16歳の時に、父親を誤って射殺してしまった過去があり、当時彼女を取り調べたボストン市警部長刑事のD・D・ウォレンは早速この事件の捜査に乗り出した。一方、6年前に472日間にわたる誘拐・監禁から生還者した女性フローラは、事件を知り愕然とする。彼女はかつてジェイコブに連れられて行ったバーで、一度だけ被害者の男に会っていたのだった。 D・D・ウォレンと第一作『棺の女』で長年に渡って幽閉されていた男を自らの手で殺した壮絶な過去を持つフローラコンビの第三作。 解説に出てくるカリン・スローターのウィル・トレントシリーズとグラント郡シリーズも、女性を毎回とんでもなく悲惨な目に遭わせているが、フローラもなかなか壮絶さでは負けていない。忘れたい過去から離れるどころか、同じような体験をした人達を助ける仕事をしている。何度となくトラウマに苦しめられていそうなのに、勿論人前ではそんな素振りは全然見せない。今回はなんと自分が苦しんだ場所に行き、もっとも辛かった記憶を引き出そうとするのだ。決めた後で躊躇いながらも、結局自分で何とかするしかない!という思いにたどり着くまでの葛藤が見事。正直メインプロットよりも彼女の内面の戦いの方が印象に残った。 Never Tell=が口を噤(つぐ)む=噤みの家となる今回の邦題はナイス。噤みの家 [ リサ・ガードナー ]楽天ブックス
July 30, 2022
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みなさん、こんばんは。 女優の島田陽子さんが7月25日、都内の病院で亡くなりました。69歳でした。島田さんはかねて大腸がんで闘病生活を送っていました。レオ・ペルッツが太陽王時代を舞台に描いた歴史小説を紹介します。テュルリュパン ――ある運命の話Turlupinちくま文庫レオ・ぺルッツ 垂野 創一郎 (訳)むかしむかしパリにとんでもなく思い込みの激しい床屋の若者がおりました。名前はテュルリュパン。自分が貴族の御落胤と信じているテュルリュパンは、いわくつきの葬式に出かけて自分をじっと見つめる女性こそが生みの母である!と確信(とんでもなく思い込みの激しい)し訪ねる決心を致しました。ところが名宰相リシュリュー枢機卿のもと、泰平の世であったはずのパリは、風雲急を告げようとしていたのでありました。 リシュリュー枢機卿はルイ13世治下で勢力を伸ばしていましたが、後に貴族達と衝突するようになりました(これはホントの話)。絶対王政を目指すリシュリューにとって、貴族は邪魔者以外の何者でもなかったのです。そこで彼が考えた奇策とは、実際は1789年に起こったあの出来事を、自身の手で起こしてしまおう、ということです。但しここで倒すのは国王ではなく貴族です。バイイ、ラファイエット、ジロンド派、タレイランら、フランス革命の立役者に代わる人物はそれぞれいました。そして欠かせないキャラクターの一人、ミラボーに代わる人物を、枢機卿は既にパリ市内に潜入させて、市民を扇動する日まで決めていました。そんな彼の行く手を阻んだのは、とんでもなく思い込みの激しいあの男でした。 「神はサイコロを振らない」は因果律の存在しない法則をどうしても受け入れることができないアインシュタインの言葉です。物事には全て原因があるはずだというのです。ならば思い込みの激しい性格だったテュルリュパンが偶々決心した日と、リシュリュー一世一代の賭けが決行される日が同じだった事にも原因がある理屈になりますが、どこをどう転がしても、見えてこないのです。やはり神もサイコロを振りたくなるのでは。まあ、暇だと何かしたくなりますよね、誰でも。 しがない床屋の若者が当代きっての権力者とどうやってつながりを?という疑問は、そこはそれ、360度ひねってもとの位置に戻ってきたストーリーが「あれ、なぜこうなった?」を作り出してきたペルッツのストーリーテリングの冴えをご覧あれ。テュルリュパン ある運命の話 (ちくま文庫 へー13-3) [ レオ・ペルッツ ]楽天ブックス
July 26, 2022
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みなさんこんばんは。安倍元首相が銃撃され死亡した事件の犯人の背景が段々明らかになってきましたね。戦時下のベルリンで起きた殺人事件に挑むミステリを紹介します。ベルリンに堕ちる闇Blackoutサイモン・スカロウハヤカワ・ミステリ文庫訳北野寿美枝 1939年、ベルリン。自らの信条によってナチス・ドイツへの入党を拒否している元レーシングドライバーの警部補ホルスト・シェンケは、部下達と共に配給券偽造事件の捜査に当たっていた。ところがある日、ゲシュタポ局長ハインリヒ・ミュラーから呼びつけられて、元女優である党幹部の妻ゲルダが殺された事件の捜査を命じられる。党内派閥の摩擦を引き起こさないよう、党の体面を損ねないよう、犯人を突きとめることを命じられるシェンケは、どの派閥にも属さず、一歩間違えれば党内の勢力図を変えかねないこの事件を調査するのに適任だった。だが、捜査を進めていくうちに、もう一つの事件が起こり。 第二次世界大戦下のベルリンを描き出した歴史ミステリ。金髪の野獣と呼ばれたラインハルト・ハイドリヒ(後に暗殺)など、実在の人物も登場。第二次大戦に突入しようとする、ひたひたと忍び寄る思想統制の闇が不気味であり、当時のドイツ社会の閉塞感や市民に広がる疑心暗鬼、ユダヤ人排斥の空気、些細なことで密告される恐れのある重苦しい雰囲気が詳細に描かれており、現在のロシアもこうであろうかと想像される。 同僚の中には体面を保つためにナチ党に入党している人ハウザー部長刑事のような人物もいる。ある意図を持って捜査を誘導しようとする見えざる力=ゲシュタポからお目付け役の軍曹をつけられながも、圧力・妨害などをかいくぐり事件を追うシェンケ警部補が頼れるヒーロー像を体現している。ゲシュタポのやり方に疑問を抱いているものの表立って楯突くことができず、それでも彼等の権威を最大限利用して事件解決に邁進するシュンケの葛藤する様子がとても生々しい。ベルリンに堕ちる闇 (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ サイモン・スカロウ ]楽天ブックス
July 12, 2022
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みなさん、こんばんは。ジョンソン英国首相が辞任しますね。今日はミステリを紹介します。木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ)The Thursday Murder Clubリチャード・オスマン羽田 詩津子 (訳)引退者用の高級施設クーパーズ・チェイスで、未解決事件の調査を趣味とする老人が集まる〈木曜殺人クラブ〉が結成される。彼らは、施設の共同経営者のひとりが何者かに殺されたのをきっかけに、事件の真相究明に乗り出すが。 全二部構成。第一部【1】は【ジョイス】の語り掛け口調から始まる。てっきり彼女視点で物語が展開するのかと思いきや【2】はドナ・デ・フレイタス巡査の三人称語りになる。警察側の人間を引き入れておかないと、いくら安楽椅子探偵でも情報入手に壁があるので、これは妥当である。そして【3】は誰の視点でもなく、物語の舞台となるクーパーズ・チェイスの歴史が語られ、そしてまた【4】でジョイス視点に戻ってくる。ジョイス視点は彼女がつけた日記という設定であり、若干くだけている。くだけた口調は読者を物語に引き込む効果があるが、ジョイスの日記にした理由がわからない。わかりすぎている人の視点に設定したとしても、書きようによっては面白く書けたのではないか。せっかくジョイスを主な語り手とするならば“彼女だけが知っている何かがある”ようなメリットをラストにどかんと持ってきた方が良かったが、今回その役割は別の人物に割り振られている。特に意図がないならば、視点がころころ変わると読者としては読みづらいので整理して欲しい。 とある人物が、なぜあれだけの人脈と肝っ玉を持つに至ったか?という背景が明かされていない。ドラマ脚本を書いていたとのことなので、視点で埋まらなかった所は映像化した時に埋めれば何とかなるという発想なのか。 木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ) [ リチャード・オスマン ]楽天ブックス
July 11, 2022
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みなさん、こんばんは。欧米などで幼い子どもを中心に報告が相次いでいる原因不明の急性肝炎について、国内でも同様の症状が報告されていることから、子どもの肝臓病の専門医などで作る団体が詳しい症状などを調査することになりました。今日はらせん階段のあるお屋敷のある一夜を描いたミステリを紹介します。らせん階段Some Must Watchエセル・リナ・ホワイト山本 俊子 (訳)ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス荒涼とした田園地帯にそびえ立つ“サミット”邸。夫を銃で撃ったという噂のあるレディ・ウォレン。彼女の血のつながらない養子であるウォレン教授とその妹ミス・ウォレン、教授の息子ニュートンと、教授の教え子スティーヴンにモーションをかけるその妻シモーン、一風変わった家族が住む屋敷にメイドとして雇われたヘレンは、不吉な予感に震えていた。近隣の町で若い女が連続して殺されていたからだ。そして激しい嵐の夜、殺人鬼の影に怯えるヘレンの耳に聞こえてきたのは、屋敷裏のらせん階段を歩く何者かの足音だった。 ヘレンは同じく雇われ人の立場の家政婦ミセス・オーツから“普通はレディしか雇わない”家に仕方なく雇ってあげたのよ、と言わんばかりの事を言われる。実は次々とメイドが亡くなり変な噂が立ったので、まともなメイドが応募しなくなったのが真相だが、屋敷側の人間としてミセス・オーツはおくびにも出さない。 挨拶に行ったレディ・ウォレンはこの屋敷の一番偉い人として恐れられながら、体も弱っていて自分一人では何もできないと周囲から見做されている。初対面のヘレンを孫の妻だと思っていたレディ・ウォレンがメイドと知るなり「この家から出てお行き 木が多すぎる」と意味深な事を言ったかと思うと「あんた、今夜あたしと一緒に寝ておくれでないか」と頼む。その直後彼女がピストルを隠し持っているのを知ったヘレンは、てっきりレディ・ウォレンがおかしくなったのだと思って、夜の付き添いを回避しようとするが、屋敷からは一人、また一人と頼りにできる人がいなくなってしまう。うーん、『そして誰もいなくなった』っぽいですね、ここの展開は。 新参者のヘレンは、先入観がないからこそ様々な不審事が見てとれるのに、新参者故に信じてもらえない。一方、精神を病んでいるのではなく、屋敷の中で唯一真実が見えていた大奥様も、挙動不審故にヘレン同様言っていることを信じてもらえない。信じてもらえない者どうし早めにタッグを組めばいいものを、階級制度が壁になる。屋敷の女性達の年代層として、最も若いのが19歳のヘレン、次が若奥様ミセス・ウォレンやミセス・オーツ、ミス・ウォレンの中間層、最後が女性陣のトップに立つレディ・ウォレン。若くて未経験でおどおどするが好奇心だけが強い若年層、結婚しても悩みがつきない中間層に比べて「するべきことをしてしまうまで、死ぬわけにはいかないんだ」と秘密と哀しみを長い間胸のうちに抱え続けた大奥様の強さよ。 ロバート・シオドマク監督が映画化し、その後三度にわたって映像化されたゴシック・サスペンス。『中古』らせん階段 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC
July 10, 2022
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みなさん、こんばんは。先進7カ国(G7)はドイツの首都ベルリンで外相会合を開き、アフリカや中東各国で深刻化する食料危機はウクライナ侵攻を続けるロシアによって引き起こされたとの認識で一致しました。今日はミステリを紹介します。匿名作家は二人もいらないアレキサンドラ・アンドリューズ早川書房訳大谷瑠璃子 作家になることを夢見るフローレンス・ダロウはある日、匿名のベストセラー作家、モード・ディクソンのアシスタントとして雇われる。最初はまじめに仕事をしていた彼女だったが、次第にモードの原稿へ自分の文章を入れ込み、共同執筆者じみたことに快感を覚えるようになる。そしてとある事故がきっかけとなり、作家になりたいというフローレンスの野心が顔を出し。 「ある女流作家の罪と罰」という映画がある。伝記を書きたいと思いながら出版社に企画を受け入れてもらえない一発屋作家が、お試しで書いてみた有名作家をかたった手紙が売れた事から、次第に自らが作家になったかのように錯覚していく。 本編のフローレンスも、モードの文章をただ筆写するのではなく、自分で考えたアイデアを入れるうちに、まるで自分が作家になったような感覚に陥る。実際編集者は違和感なく受け入れているし、ただモードが世に知られているから彼女の作品だと多くが見做すだけで、どこまでがモードでどこからがフローレンスの作品かなどという事は実際の所曖昧だ。 昔から作家になりたい一心で頑張ってきたモードが道を踏み外していく様を見ている前半は痛かったが、後半は彼女をも驚かせる人物の所業が明らかになる。 解説を見ると本作のオマージュとされる作品が出てくるため、絶対に解説から読まないように。 ユニバーサルピクチャーが映画化権を取得、20ヵ国以上で翻訳が決定。匿名作家は二人もいらない (ハヤカワ・ミステリ文庫) [ アレキサンドラ・アンドリューズ ]楽天ブックス
July 5, 2022
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みなさんこんばんは。KDDIは2日から続いている通信障害の復旧作業について、西日本エリアは3日11時頃、東日本エリアは17時30分頃に終了予定としています。さて今回はヴァンパイア小説を紹介します。ヴァンパイアはご機嫌ななめUndead and Unwedメアリジャニス・デヴィッドスン早川書房 長身でブロンドの元モデルベッツィ。職業はエグゼクティブ・アシスタント。高価なブランドものの靴を買うのが大好き。そんな彼女の30歳の誕生日は、最低最悪だった。まず寝坊してバスに乗り遅れ、会社に遅刻すると解雇を言いわたされ、天気が悪くて誕生日パーティーは中止、そのうえなんと、交通事故にあって死んでしまった!さらに最悪なのは、目が覚めると棺の中で、安っぽいドレスに継母のお古の安物の靴をはかされていた!ショックのあまり、もういちど死んでしまおうとするが、ベッツィは死ねなかった。不死身のヴァンパイアになっていたからだ!?けれど、ヴァンパイアになったにしては、教会に行っても、十字架を持っても、聖水を浴びても、とくになにも起こらない。おまけにノストロなんていうヴァンパイアのボスからは手下になれと脅されるし、エリック・シンクレアという吸血鬼からは、「あなたこそヴァンパイアの女王だ」なんてつきまとわれて、もうほんと、やってられないわ! と惹句の如く、ベッツィが一人称で自らの境遇を語りつつ、結構楽しくヴァンパイア・ライフを送っていくシリーズ第一弾。シリーズ化されているのに日本には続編が来ていない。原題はUndead and Unwedでシリーズ作は全て「Undead and」が原題についている。ちなみに軽くノストロなんて書いているが本名はノストラダムスだ。当年とって500歳。 ベッツィの本名はエリザベス・テイラー。両親が訳ありで亡くなった親友で大富豪のジェシカ、ベッツィの事が大嫌いだが彼女の靴コレクションには興味がある継母、まだよくヴァンパイアの習性がわかっていない時にベッツィが噛んだ医師でゲイのマーク、エリックをヴァンパイアにしたティーナ、ベッツィの生前の最後の恋人で警官のニック、ヴァンパイア一族も含めて皆キャラクターが濃い。ベッツィはなりゆきでジェシカが買い取った家にマークと同居中。一人暮らしができないのは、戸籍上一度は死んでしまったから。生前はぱっとしなかったのに、ヴァンパイアになるや否や、ありとあらゆる男性がベッツィに「血を吸ってくれ!」と言いながら色目を使ってくるようになり、動物までも彼女に夢中になる設定が爆笑もの。『ポーの一族』のバンパネラのイメージと真逆。 電子書籍から書籍刊行という道筋を辿った本書はエロティック描写が凄まじい。いや映像化するのか(したいのか)?ちょっとハーレクイン・ロマンスっぽい表紙絵が誤解を生みそう。【中古】ヴァンパイアはご機嫌ななめ / メアリ・ジャニス・デヴィッドスンネットオフ楽天市場支店
July 4, 2022
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みなさん、こんばんは。映画監督の河瀬直美氏が、自身が代表を務める映像制作会社「組画」のスタッフに暴行し、スタッフが同社を退職していたことが「 週刊文春 」の取材でわかりましたね。今日はフレンチミステリを紹介します。ヌヌ 完璧なベビーシッター Chanson Douce集英社文庫レイラ・スリマニ 子守りと家事を任された“ヌヌ”であるルイーズが、若い夫婦の幼い長女ミラと長男アダムを殺した。そしてルイーズも後を追うように自殺を図る。突然の事に動揺する子供達の両親ポールとミリアムは錯乱するばかりだ。 本作は捜査担当役の捜査官が最後に登場する。よって「なぜこんな事が起きたのか」を現在進行形で探る探偵役はいない。しかしルイーズがやってきた所から、事件が起こった現在まで遡る経緯を辿っていくと、ルイーズが告白しなくても彼女が殺意を抱くに至った理由は何となくわかる。 ルイーズには20歳になる娘がいるが、ヌヌをずっと仕事にしてきた関係で、ろくに面倒も見てこなかった。ルイーズの結婚相手も借金を残して亡くなり、彼女の本当の家族はいない。 ヌヌとして訪れていた雇用者を家族と勘違いしていて、その間違いに気づいたから殺したのではない。ヌヌはそもそも乳離れしない子供、一人で放っておいても大丈夫な子供がいる家庭では必要がない。「メアリー・ポピンズ」でメアリーがマイケルとジェーン、双子達に対してかなり威圧的だが、彼らが成長すれば関係性は変わる。彼女がナニーでしかないからだ。ヌヌは一生続くものではなく、一家を渡り歩く職業なのに、いつしかルイーズは自分がこの家に居続けるためにヌヌとして働く条件を作ろうとまでし始める。もともとヌヌが必要だった環境に偶々自分が来ただけなのに、環境を自分が都合よいものに変えようとし、無意識に意識のすり替えが行われた。 あまり人付き合いをしないルイーズの心情に気づいた者はおらず、唯一仕事仲間の一人だけが意識の変化に気づくが、言っていく先がないし忠告するような関係性でもない。ポールとミリアムも彼女の意識の変化に気づくが、辞めてもらえばいいだけと軽く考えている。なぜならヌヌなどいくらでも取り換えのきく存在だからだ。家政婦としてやってきた女性が、勤め先一家を惨殺する『ロウフィールド館の惨劇』と似ている。 2016年ゴンクール賞受賞。ヌヌ 完璧なベビーシッター (集英社文庫(海外)) [ レイラ・スリマニ ]楽天ブックス
June 24, 2022
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みなさん、こんばんは。NHK党の立花孝志党首が16日夜、生放送で出演していたニュース番組「報道ステーション」を途中で退席する一幕がありました。いわゆる放送事故というやつです。今日は時をかける女性が主人公の小説を紹介します。アディ・ラルーの誰も知らない人生 上下The Invisible Life of Addie LarueV・E・シュワブ早川書房高里 ひろ (訳) 1714年、フランスの小さな村で、望まぬ結婚を強いられたアディは古い神々のひとり闇の神であるルークと取引をする。アディは「永久に誰にも属さず、自由でいる」ことを願い、ルークはひきかえに彼女の魂を求めた。望みどおり自由に生きる時間を手に入れる。老いない身体、瞬く間に癒える傷、決して消えない命。しかし、その取引には落とし穴があった。彼女は誰の記憶にも残らなくなるのだ。ところが2014年のある日、翌日も彼女を覚えていてくれる男性ヘンリーと出会い。 時空を越えて生きられるなんてヴァージニア・ウルフの『オーランドー』のようだ。ただしオーランド―が性を変えられるのに対してアディはずっと契約時の状態-若い女性-のままで様々な時代を生きる。但し自分の証明書は書けず、他人が誰も記憶してくれていないため、ひと所にずっといることは難しい。胡散臭い神との取引などそんなものだ。 上巻・下巻とも、そもそもの契約の始まりになった十八世紀からフランス革命、第一次世界大戦、アメリカ禁酒法時代、第二次世界大戦を経て現在までの彼女が辿る人生と、現在の彼女を描く2014年パートを交互に登場させる。本編を読んで思い出したのはあしべゆうほさんの漫画『悪魔の花嫁』だ。と書いたらおそらくアディが取引した相手は想像できる。神は何としてでもアディに現世を捨てさせ魂を得ようとするのだが、アディが特定の相手と真剣になるにつれ、彼女への執着を露わにし始めるあたりが『悪魔の花嫁』のデイモス=悪魔と美奈子の関係に似ており、後半は三角関係のラブストーリーの態になる。自分のために永遠を手に入れたアディが何と引き換えならせっかく得た自由を手放すことができるのかを見届けるまで一気読み。アディ・ラルーの誰も知らない人生 上 [ V・E・シュワブ ]アディ・ラルーの誰も知らない人生 下 [ V・E・シュワブ ]楽天ブックス
June 19, 2022
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みなさん、こんばんは。俳優のウィリアム・ハートさんが亡くなりましたね。今日はミステリを紹介します。ゲストリストThe Guest List ルーシー・フォーリーハヤカワ・ポケット・ミステリ アイルランド沖、泥炭と湿地に覆われた孤島にて、メディアで活躍するふたりの豪華な結婚式が開かれる。花嫁は急成長中のオンライン雑誌の創設者、花婿はテレビで自分のサバイバル番組をもつ人気者。だが、誰もが憧れるカップルへの祝福の裏には、さまざまな思惑が潜んでいた。謎めいた警告の手紙、姉妹の秘密、過去の遺恨。そして婚礼の夜、ついに凄惨な事件が発生する。徐々に明らかになる事件の全貌。誰が殺し、誰が殺されるのか? “時系列を交錯させ巧みに描いたミステリ”の惹句通り冒頭から嵐の中孤島を歩き回る男達の描写が断続的に現れる。美男美女でそれぞれに成功した者同士、友人にも恵まれているそんな絵にかいたような結婚式なんて、そうそうあるはずがない。それも格安で。ほら、怪しい匂いがぷんぷん。 というわけでタイトル通りの胸が悪くなるような人達が多数登場。というか、名門学校卒業という割には柄悪くないか?もっと友達選ぼうよ。それとも類は友を呼ぶという奴? 途中からある人物の化けの皮が剥がれてくるので“ああ多分殺される人って…”と殆どの人が想像できてしまう被害者当ては易しいミステリ。では加害者はというと、こちらはやりたい動機とできそうな機会が与えられている人物が複数いるので一瞬迷うかも。 うーん孤島にする意味って何だったんだろう。普通は犯人を特定するためにクローズドサークル化させる環境作りとして選ばれるのだけれど、そもそも結婚式という狭い世界の話だから、容疑者は増えようがないんじゃ?ゲストリスト (ハヤカワ・ミステリ) [ ルーシー・フォーリー ]楽天ブックス
May 11, 2022
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みなさん、こんばんは。露によるウクライナ侵攻を受け、トリドールHDが露での閉店を決定した丸亀製麺について、現在も営業が続けられていることが分かりました。フランチャイズ契約を結んでいた露企業がブランドとノウハウを無断で使用しているとみられます。今日はタニス・リーの幻想小説を紹介します。水底の仮面―ヴェヌスの秘録〈1〉 (ヴェヌスの秘録 1)Faces Under Water:The Secret books of Venu:bk1産業編集センタータニス・リー 夜な夜な錬金術師シャーキンの依頼で不可解な死体を集めていた美貌の青年フリアンは、夜の運がで不吉な作りの仮面を拾う。若き天才音楽家のものと噂されるアポロの仮面は秘密ギルドによってつくられたものだった。ギルドの仮面をつけた者が皆不審死を遂げている事から謎を探っていたフリアンは、やがて青い蝶の仮面をつけた美しいエウリデュケと出会う。 ヴェヌスはイタリアのヴェニスがモデルなので人々はゴンドラで移動する。仮面使用が義務付けられている点がリアルヴェニスとは異なり、つまりは簡単に本心を見せない人ばかりであることを示唆している。 ヒーロー&ヒロインが超美形でセクシーという設定がいかにもタニス・リー的。「なぜギルドの親玉がフリアンに執着するのか本文を読んでわからない」という意見もあったが、タニス・リー作品では、美形は不特定多数から理由なき執着を向けられるものであるので、そこは突っ込まない方がよい。退廃の極みのような都でやりたい放題やっている大人たち。その中で唯一清純派エウリデュケが泥中の蓮と思わせて実は…の意外性。数々の障害を乗り越えつつも、とんでもなくセクシーなラブシーンを披露する二人を堪能するが良し。脇キャラではシャーキンが何よりも愛してやまないカササギの印象が強かった。魔術の通用する世界なので何があってもおかしくないのだが、有能かつ不死身すぎる。【中古】水底の仮面—ヴェヌスの秘録〈1〉 (ヴェヌスの秘録 1)/タニス リー、Tanith Lee、柿沼 瑛子買取王子
April 25, 2022
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みなさん、23日、北海道・知床半島の沖合を航行中の観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が浸水し、乗客乗員26人が安否不明となった事故が発生しました。捜索している第1管区海上保安本部は24日、海上や岩場などで計10人を見つけたと発表しました。今日もアビール・ムカジーのミステリを紹介します。阿片窟の死 (Hayakawa pocket mystery books)Smoke and Ashesアビール・ムカジーハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス 本巻はウィンダムが逃亡する場面から始まる。悪者から逃げていればカッコいい!のだが、実は阿片窟でキセルの夢に溺れていた時に、警察のガサ入れが入ったのだ。そう、お仲間から逃げていたのだ。なんとカッコ悪い!意識もうろうとしてるもんだから、警察が絶対やってはいけない証拠物件持ち出しもやってしまう。本当に、何やってんだウィンダム!いつかこういう日が来ると思ったよ! 1921年12月、英領カルカッタ。インド帝国警察の英国人警部ウィンダムが慌てて逃げだす途中、両眼をえぐられ腹を刺された男が現れ眼前で息を引き取る。だが翌日、死体の目撃情報はなく、阿片の見せた幻にも思えたが、別の場所で同様の死体が発見される。折しも英国皇太子とガンジーの側近のカルカッタ訪問で独立運動が激化するなか、ウィンダムと相棒のインド人部長刑事バネルジーはこの奇妙な連続殺人の謎を解けるのか? 今回はガンジー(名前だけ)とスバス・チャンドラ・ボースらインド独立運動家たちが登場する。後に不慮の死を遂げるボースはまだ若く、血気盛んだ。実際の独立は第二次大戦後なのでまだ先だが、「非暴力、不服従(サティヤーグラハ)」を標榜するガンジーにインドの民衆の支持が集まりつつあり、大英帝国を支えてきた大国の屋台骨が揺らぎ始めているのを感じる。暴動が起きそうな集会が予定される中での殺人事件の捜査は困難を極め、薬物中毒がH機関にばれ、捜査に圧力がかかるなどウィンダムが薬に逃げたくなる要素が積みあがり、更に前作からいい雰囲気だったアニーにもライバルが登場。一方、独立の気運が高まる中で支配者側に属していると見做されるバネルジーも家族との関係が複雑だ。国を想う個人と、公僕としての使命感に引き裂かれる彼の葛藤も見どころの一つである。阿片窟の死 (ハヤカワ・ミステリ) [ アビール・ムカジー ]楽天ブックス
April 24, 2022
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みなさん、こんばんは。ロシア大統領府によると、プーチン大統領はウクライナの首都キーウ(キエフ)近郊ブチャで、民間人殺害に関与した疑惑が指摘される軍部隊に「親衛隊」の称号を与えたそうです。プーチン氏は「祖国と国益を守る軍事行動において、英雄的行為と勇気を示した」などと部隊の功績をたたえたとか。ますますナチスドイツに似てきました。今日から二日間アビール・ムカジーのミステリを紹介します。マハラジャの葬列 (Hayakawa pocket mystery books)A Necessary Evil アビール・ムカジーハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス1920年英国領のインドを舞台にした英国人警部とインド人部長警部の活躍を描くヒストリカル・ミステリー第二弾。1920年6月、英国統治下のカルカッタで、藩王国サンバルプールの王太子が暗殺された。実行犯に目前で自殺されたインド帝国警察の英国人警部ウィンダムは、相棒で同居人のインド人部長刑事バネルジーと共に、真相を追ってサンバルプールへ赴く。だが、王宮の独特な慣習に翻弄されて捜査は難航。しかも、さらなる暗殺事件が起こり、背後には英国諜報機関の影が。 イギリスでは人の眼があって吸えない(いや、インドでも気にして欲しいんだけど)アヘンをインドで見るや取りつかれたようになって吸いに行くウィンダムは、ヤバイヤク中刑事である。しかしなぜか、妻を亡くした悲しみから立ち直れない、憂いの独身男は強力なアピールポイントになっていてやたらモテる。果ては気になる女性アニーとの恋の駆け引きを楽しんだりもしている。いや、甘やかしすぎでは? インド独立は1945年とまだまだ先。1919年にガンジーが主導していた非暴力独立運動(サティヤーグラハ)が、1919年4月13日のアムリットサル事件を契機に、それに抗議する形でそれまで知識人主導であったインドの民族運動を幅広く大衆運動になり、独立の気運はまだ一部にしかない。 今回焦点が当たるのは、身分制度が厳しいインドの中でも更に厳しい女性達だ。王太子を愛していても結婚できない欧米人女性、インドのために身を投じる覚悟を決めている女性、無能な男達の蔓延る宮廷で密かに牙をむいていた女性、等々。 身分と民族の異なるバディだからこそ事件に抱く感慨も時には別になる。恐らく決定的に決裂の時が来るのはそれぞれの国への忠誠が試される時だろう。その頃にはウィンダムから薬が抜けてくれているといいのだけれど。ウィルバー・スミス冒険小説賞受賞作。マハラジャの葬列 (ハヤカワ・ミステリ) [ アビール・ムカジー ]楽天ブックス
April 23, 2022
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みなさん、こんばんは。ヤクルトは21日、関係者の新型コロナウイルス陽性判定を受け、つば九郎とつばみが濃厚接触者疑いに該当すると判断されたと発表しました。阪神3連戦(神宮)は出演を自粛するそうです。今日はアプルビイ警部シリーズを紹介します。ある詩人への挽歌Lament For A Makerマイケル・イネス社会思想社語り手が次から次へと語るウィルキー・コリンズの『月長石』に、今回マイケル・イネスも挑戦してみた(らしい)。 最初の語り手は靴直しのイーワン・ベルが振られる。失礼ながら、なぜ普段文章を書かないような人がトップバッターに?と思うが、どうやら彼は村の長老らしい。エディンバラの弁護士に「牧師と学校の教師の次に物知りなのは靴直しであることはこの教区ではよく知られたことじゃありませんか」と、めっちゃローカルなお勧めをされて書き始めたのが、金持ちでどケチの変わり者ラナルド・ガスリーが死んだ長い長い顛末のうち、彼の家に訪問者があった所までだ。イーワンはラナルドの姪クリスティンから秘密の相談をされていた。シェイクスピア作品の台詞が多数登場するが、クリスティンとラナルドの関係も『テンペスト』のプロスペローとミランダに擬せられている。となれば、ミランダと恋に落ちる王子様もいるわけで、騒動の火種が持ち上がる。 次の語り手はノエル・ギルビー。ロンドンの恋人ダイアナに宛てた手紙形式で物語が続く。偶然ガスリーの従姉シビルの車にぶつけて屋敷にお邪魔することになったノエルなら、部外者のイーワンが知るはずもない屋敷の中で起こったことを書ける、ということで白羽の矢が立った。今度は「なぜ頼まれたのか」という言い訳はなし。 こうして次々語り手が変わるので、主役のアプルビイ警部が登場するのは371p中266pとかなり遅い。にも拘わらず事件の矛盾点にすぐ気づいて事件を事実上解決するのは、主役の威光のたまものだ。 ただ、アプルビイ警部シリーズに月長石パターンは合わないのでは。やはり主役はもう少し露出を増やして欲しい。【中古】 ある詩人への挽歌 / マイクル イネス, 桐藤 ゆき子 / 社会思想社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗 楽天市場店
April 22, 2022
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みなさんこんばんは。ウクライナ原発周辺の立ち入り制限区域の管理当局は現地時間10日、同国北部のチョルノービリ原子力発電所を占領していたロシア軍が、研究所から133個の高レベルの放射性物質を盗み出したことを明らかにしました。今日は人気ミステリオリヴァー&ピアシリーズの最新作を紹介します。母の日に死んだMuttertag創元推理文庫ネレ・ノイハウス酒寄進一 プロローグは1981年5月10日。ここで溺れている少女を殺してしまう少年が早くも登場。勿論少年の名前は明かされない。 次は36年後-2017年3月19日に飛ぶ。長い間会わなかった父親と娘の感動の再会とは程遠い、修羅場のような一幕の後、父親が気になる事を言う。さて、この言葉を聞いた娘はどうする。 そして2017年4月18日。いつものオリヴァーとピアがいる現在時制に戻ってきた。30人もの里子を引き取って育てていた一見美談の主ライフェンラート家の主人テオが死体で発見され、更に飼い犬のケージ付近の床下から、ラップフィルムにくるまれ死蝋化した三人の遺体が出てきた。かつて孤児院から子どもを引き取り、里子として育てていたライフェンラート家の邸から、死後数日経過した遺体が発見された。死んでいたのは邸の主人だったが、ピアが現場付近を捜索したところ、事件は一変する。 メインストーリーの事件に先の2つがやがて絡んでくるはずなのはノイハウス作品の常連ならば想像がつくはず。 長期休暇を取ったばかりのオリヴァーは公私ともに順調。一方、妹キムとパートナー関係だった署長が喧嘩している所を見てしまったピアは、今回かなりイライラしている場面が多い。独白シーン&誰かに投げる言葉における“!”の多かったことよ。おそらく原文がそうだったからなのだろうが、中には「そんなに私情を事件関係者にぶつけていいのか?」と思えるシーンもあり。 オリヴァー達の部署が『コールドケース』のように過去の事件を捜査できるようになったことから、今後彼等が扱える事件の幅も広がる事が予測される。母の日に死んだ (創元推理文庫) [ ネレ・ノイハウス ]楽天ブックス
April 15, 2022
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みなさんこんばんは。英首相官邸は9日、ジョンソン首相がウクライナの首都キーウを電撃訪問したことを発表しました。ゼレンスキー大統領と会談し装甲車120台と対艦ミサイルシステムをウクライナに提供する新たな軍事支援を示したとのことです。さて今日は歴史改変SFの下巻を紹介します。NSA 下 (ハヤカワ文庫SF)アンドレアス・エシュバッハ NSAで監視プログラムを作成するヘレーネは、脱走兵の恋人をこっそりかくまっていた。彼が当局に見つからないようNSAのデータに手を加えていくことに。一方アナリストのレトケは、少年時代に受けた屈辱を今も恨みに思い、NSAのデータを利用して女性たちに仕返しをしていく。戦争がつづく中で、二人の行為が明るみに出てしまい。 なんだかんだ言って、結構皆ドイツが好きに違いない。なぜならフィリップ・K・ディックのSF小説『高い城の男』ファージング三部作など、歴史改変小説ではきまって第二次大戦でドイツが勝つのだ。魅力的な悪役がわんさかいるからか、それとも実は“やればできる”地味だが堅実なゲルマン魂のファンがいるのか。 現代にある情報技術を駆使できる夢のような物語世界だが、主人公二人が優れた技術を世界征服には目覚めず、あくまでも個人的な欲望にしか使っていないあたりが、“らしい”といえば“らしい”。描かれているのはあくまで“あり得なかった過去”とはいえ、SNSを使った情報攪乱やどこで情報を搾取されているかわかったものではない監視社会は、“あり得る現実”と被るあたりは痛烈な皮肉か。ここで披露される技術はあくまでも二次元に留まり、三次元=CG=仮想現実までは作り出せなかった。これが使えれば、例えば実際に空爆を行わなくても加工した映像を送り付けて戦意喪失できたかもしれないのに。 ところで作品中「プログラマーは女子の仕事」と蔑まれた設定だが、さすがの彼等も未来のドイツでリケジョが国のトップに立ち、ヨーロッパを主導する優れたリーダーになるとは想像できなかったに違いない。NSA 下 (ハヤカワ文庫SF) [ アンドレアス・エシュバッハ ]楽天ブックス
April 11, 2022
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みなさん、こんばんは。国連総会は国連人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止するための決議案を賛成93カ国、反対24カ国で採択しました。人権理事国の資格停止は、安保理常任理事国としては初めてだということです。今日は歴史改変SFの上巻を紹介します。NSA 上 (ハヤカワ文庫SF)アンドレアス・エシュバッハ イギリスの数学者チャールズ・バベッジは、世界で初めて「プログラム可能」な計算機を考案したと言われる。その計算機とは現代のいわゆるコンピュータだ。1991年、バベッジの本来の設計に基づいて階差機関が組み立てられ完全に機能した。バベッジのマシンが当時完成していれば動作していたことを証明した。では彼の考えが完成していたら?本書はそんな改変歴史世界のドイツが舞台の物語だ。 ヒトラーが強烈な脇役の映画「帰ってきたヒトラー」ではテレビをはじめとする現代の技術革新にヒトラーが驚きつつも、次第に巧みにそれらを利用する様が描かれた。ヒトラーは技術に詳しくないが、質実剛健なドイツ人の中には優秀な者もいる。すべてのデータを監視し、保存していた国家保安局NSA(米国NSA=国家安全保障局のパロディ)が有用性を示すデモを行う過程で、買い物履歴から家庭の消費カロリーが分析され「どうみても届け出ている人数より消費量が多すぎる!」という理由から、あの有名人の隠れ家が見つかってしまう…というのが冒頭のエピソードだ。 本編はNSAのメンバーとなる優秀な女性プログラマ、ヘレーネと上司にあたる分析官レトケの物語が二本柱で進む。優秀な医師の娘として育ったヘレーネは、母親から押し付けられる将来のイメージ“産めよ増やせよ”の良妻賢母が嫌で、伯父から送られたコンピュータに夢中になり、優秀なプログラマーになる。戦争の英雄の息子として様々な特典を得ていたレトケは、少年時代に男女の集団に馬鹿にされた事を根に持って、その時現場にいた女性を探しながら、何とかして戦場に出るのを阻止しようとする。プロパガンダや得た情報を元にした脅迫など、現代社会で行われていることに近い。電子マネーや携帯が行き渡るが、勿論使用履歴はチェックされている。ヘレーネが恋人のためにレトケのあるものを盗んだ事から二人の間に繋がりが出来たところまでが上巻。NSA 上 (ハヤカワ文庫SF) [ アンドレアス・エシュバッハ ]楽天ブックス
April 10, 2022
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みなさんこんばんは。センバツ高校野球大阪桐蔭が優勝しましたね。今日はカリン・スローターの人気シリーズの一つ、グラント郡シリーズの最新刊を紹介します。凍てついた痣A Faint Cold FearハーパーBOOKS カリン・スローターカリン・スローターはウィル・トレントシリーズとグラント郡シリーズを並行して刊行している。前者からすれば後者は過去にあたり、ヒロインサラは新しいパートナーを得て幸せいっぱいなのに、グラント郡シリーズでは浮気が原因で別れた前夫ジェフリーとくっついたり離れたりを繰り返している。そのため未来を知る読者は若干欲求不満気味を感じるようだ。過去編を全て完結させてからウィル編の方が話の流れとしてはすんなり読めたと思うが、大人の事情か。 いざ事件が起こって弱い部分が刺激されると、サラが頼っていく先は彼の所だ。ましてや事件となれば検視官と保安官は顔をつきあわせる機会が多い。今回サラの妹テッサを事件現場に連れて行き、重症を負ったことで二人の仲は更に近づく。 一方で『ざわめく傷痕』が原因で警察を離れたレナは、過去を皆に知られている事だけでも神経を張り詰めて生きているのに、理解者ジェフリーとはぎくしゃくし、同僚はいけすかない奴で、最悪の職場環境だ。彼女にいくらか同情的なサラにはジェフリー絡みで反発し通しなので、差し伸べられている手を自ら拒否している彼女にも責任はあるのだが。ややこしい彼女を助けようとする大学生イーサンが現れるが、彼もまた訳ありの過去がある。カラダの関係から始まった二人は、果たして恋愛関係に発展するのか。 救いの手を差し伸べられても動こうとしない女性が本編にはもう一人登場する。女性に加えられる残酷な暴力がスローター作品の売りだが、邦題の“痣”が残るほど身体を傷つけられても加害者から逃げられない被害者もいる。共依存の関係が加害者を助長させ、第三者に明るみに出るまで暴挙は止まない。日本でも海外でも、女性が声をあげるのは難しそうだ。凍てついた痣 (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H166) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
April 2, 2022
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みなさん、こんばんは。日本テレビの桝太一アナウンサーが3月いっぱいで同局を退社することを『真相報道 バンキシャ!』内で発表しました。「科学の伝え方」を研究・実践するため、同志社大学ハリス理化学研究所の専任研究所員(助教)として、進む意向とのことです。今日はミステリを紹介します。念入りに殺された男 (Hayakawa pocket mystery books)Son autre mortエルザ・マルポ加藤 かおり (訳) 小説家志望のアレックスは夫と二人の子供に恵まれ、ペンションを営んでいた。そこへベストセラー作家でゴンクール賞受賞もしているシャルル・ペリエが偶然客としてやってきた。作家志望として憧れの存在でもあったペリエと会話を重ねるアレックスだが、ある日彼に襲われて撃退した時に、打ち所が悪く彼を死なせてしまう。しかし神経を病んだ経験があるアレックスが正当防衛を言い立てても信じてもらえるか自信がなく、彼の死をとりあえず隠すことに。 被害者も加害者もわかっていて、作品は加害者寄り。いかにして死んだアレックスを生きてように見せるため、加害者があたふたするコメディ。作家との浮気を疑う夫とは疎遠になってしまうし夫婦生活は間違いなく危機に陥る。しかし、長編を書く才能も短編もぱっとしなかったアレックスが、実生活でその場その場の嘘を積み重ねていくのは抜群に上手く、その才能?を発揮してゆく様が確かに面白い。一方いくらにわか作りのアシスタントが彼との連絡先を一手に引き受けていると言っても、随分長い間姿を見せないのに作家仲間・舅・妻、愛人にすぐに不審がられて警察に通報されないのはペリエによほど信用がないとみた。いや、風変わりと見られるのも考えものだ。 作者は今後もアレックスについて書きたいようだが、本作で一応完結しているので、更なる彼女の活躍?は特に見たくない。念入りに殺された男 (ハヤカワ・ミステリ) [ エルザ・マルポ ]楽天ブックスpc=http%3A%2F%2Fwww.rakuten.co.jp%2Fbook%2F&m=http%3A%2F%2Fm.rakuten.co.jp%2Fbook%2F" target="_blank">楽天ブックス
March 31, 2022
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みなさんこんばんは。トラベルミステリの第一人者だった西村京太郎さんが亡くなりましたね。今日はヒュー・ウォルポールのミステリを紹介します。暗い広場の上でAbove the Dark Circusハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックスヒュー・ウォルポール第一次大戦後のロンドン、十二月の夕方。リチャード・ガンは、友人であり雇人であったハリー・カードンの死で、藩クラウン硬貨一枚しか持ち合わせがなくなってしまった。これで髪をさっぱりするか、それとも腹を満たすか。紳士として生きるなら前者、でも生きるためなら…。 選べなかったリチャードは街のサインで理髪店に行くが、そこで十四年以上探し求めてきた脅迫者リロイ・ペンジェリーと再会する。 実はリチャード本人はリロイに酷い目に遭わされたわけではない。ハリーの友人で、かっとなりやすいジョン・オズマンド、定職を持たないチャーリー・フラー、その仲間パーシイ・ヘンチがペンジェリーの計画に乗せられた挙句、告発され罪に問われたのだ。ではなぜリチャードが怒っているかというと、オズマンドの友人として怒っていたのはもちろん、彼の婚約者ヘレンに実はリチャードは恋していた。 リチャードはペンジェリーに次いでフラー、ヘンチ、オズマンドに再会するが、皆なぜかリチャードにぎこちない。実は彼らにはペンジェリーに対する計画があった。 原題はAbove the Dark Curccus。ロンドン、ピカデリー・サーカスが頻繁に登場するのでCircusは場所を指すようにも見えるが、シェイクスピアの「人生は舞台」という台詞を想起すると、Circusのもともとの意味=バカ騒ぎを指すようでもある。オズマンドやペンジェリーのごたごたは当人たちにとっては一大事かもしれないが、実は世の中という大きな広場で繰り広げられるバカ騒ぎの一つに過ぎないというペシミズムを感じる。『中古』暗い広場の上で (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC
March 27, 2022
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みなさんこんばんは。昨日の地震怖かったですね。今日はヴィクトリア朝を舞台にしたミステリを紹介します。テムズ川の娘Once Upon A Riverダイアン ・セッターフィールド 小学館ある冬至の夜、テムズ川沿いのちいさな村ラドコットにある酒場兼宿屋〈白鳥亭(ザ・スワン)〉では常連客たちがいつものように酒と物語に興じていた。すると突然ドアが開け放たれ、顔に重傷を負い、女の子の人形を抱えた大男が現れる。人形に見えていたのは、実は少女の死体だということが判明するが、少女はその日のうちに息を吹き返す。この奇跡が近隣の村にまで広まると、少女は自分の家族だと主張する3つの家族が現れる。少女は誰なのか? どこから来たのか? あの晩、少女に何が起きたのか? 謎が明らかになるにつれ、それぞれの家族の抱える秘密が複雑に絡み合う。 イギリス19世紀、ヴィクトリア朝。ヴィクトリア女王のもとこの上なく国家は繁栄していくのに、全ての国民に富の分配がなされてない不公平を包含していたいびつな時代でもある。現代ならSNSで瞬く間に広がる“死んだと思っていた少女が生き返った”知らせが人々の口伝えに広まってゆく様子が、まさに物語が作られていく過程を見るようで面白い。イギリスの新聞はというとまだ大衆紙が出てきたくらいで、文字が読めない庶民は人が語ることを聞いてまた次の人へ、そして第三者に…と伝わるうちには話に尾鰭が散々ついて、もとの話とは似ても似つかぬものになっていく。しかし本作ではこの人づての情報の伝播がむしろいい方向で捉えられ、少女を身内と思った人たちが集まってくる契機にもなっている。チャールズ・ダーウィンの『種の起源』が発表されロンドン万博など近代化に向かっていく一方で、未だ犯人が見つかっていない切り裂きジャック事件が起こっていた英国。京極夏彦作品では“まだ不思議が許されていた江戸時代”“文明開化で怪が表に出てこられなくなった明治”ときっぱり分けられているが、本作は科学と言い伝えが混然一体としていた英国だからこそ生きるストーリーになっている。物語は科学がちがちだと想像力を膨らませる余裕がないかもしれない。 『13番目の物語』の著者ダイアン・セッターフィールドの2番目の著作。もっと日本に入ってきて欲しい。ストーリーテラーといっていい作家だ。そして物語るのがとても好きなのだという事がよくわかる。もっと日本に著作が入ってきて欲しいが寡作のようだ。テムズ川の娘 [ ダイアン ・セッターフィールド ]楽天ブックス
March 18, 2022
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みなさん、こんばんは。コロナ禍の中で迎える3度目の卒業式シーズンですね。今日はフランシス・ハーディングのファンタジー小説を紹介します。ガラスの顔A face like glassフランシス・ハーディング児玉敦子訳前作『カッコーの歌』に続きまたもや表紙には鳥が登場。いや、ヒロインが鳥かごの中の鳥のようだ。どれどれ、一緒に籠に入っているのは?チーズに、ワインに、蛇に、お面?逃げるかもしれない鳥や蛇ならともかく、なぜ生き物でないものが籠の中に? 実は表紙に登場する全てのものは、物語を構成する重要なアイテムだ。舞台は地下都市カヴェルナ。ここの人々は表情を持たず、《面》と呼ばれる作られた表情を教わる。教師役は面細工師といい、当代きっての人気はヴェスペルタ・アぺリン。そんなカヴェルナに住むチーズ造りの親方に拾われた少女はネヴァフェルと名づけられ、一瞬たりともじっとしていられない好奇心のかたまりのような少女に育つ。ある日親方のトンネルを抜け出た彼女は、カヴェルナ全体を揺るがす陰謀のただ中に放り込まれる。 ネヴァフェルは考えた事が全て顔に出てしまっても全然怖くない。一方カヴェルナの人々は本心を隠すために面を被る。彼女とこの世界の人を隔てるのはお面。ネヴァフェルを見たカヴェルナの人々は、ひと眼で彼女を「この世界の人ではない」と見抜き、嘘がつけない彼女を利用しようと考える。一方で彼女は何者かに命を狙われる。ならば彼女には何かの秘密があるはずだ。その秘密をヒロインの背中に乗っかって読者も追いかける。 ハーディング作品は困ったちゃんパパを娘が正そうとするパターンが多いが、今回そのラインは敵方に登場、但し父と娘ではなく伯父姪になる。一方ネヴァフェルはみなしごなので両親がいない。その代わり飛び込んできたネヴァフェルを匿ってきたチーズ造りの親方が父の役割を果たす。とはいってもネヴァフェルを守るために普段は溢れる父性を隠している所が萌えポイントだ。他にも国の最も尊い宝を盗もうと考える泥棒や裕福なワイン商のこじらせ娘など、萌えポイントを持つ脇役キャラが大いに物語を盛り上げてくれるので乞うご期待。ガラスの顔 [ フランシス・ハーディング ]楽天ブックス
March 17, 2022
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みなさんこんばんは。 画家の原田泰治さんが亡くなりました。今日はメリヴェール卿シリーズを紹介します。黒死荘の殺人 (創元推理文庫)The Plague Court Murderカーター・ディクソン陸軍省のマイクロフト、ヘンリ・メリヴェール卿が「殺人事件の顛末を誰か書いてくれ!」とごねているが誰も手を挙げない。そこで貧乏くじを引いたのが、今回の語り手ケンウッド・ブレークだ。なんでもポーカーで負けたらしい。彼はスコットランド・ヤードのマスターズ主任警部とも知り合いで、事件の関係者と知り合いだったことから、書き手としてはうってつけだったのだ。ブレークはプレーグ・コートの持ち主であるディーン・ハリディから「叔母のベニング夫人と婚約者のマリオンが幽霊が出ると騒ぐので幽霊屋敷で一夜明かしてくれないか?」と頼まれる。そんな時ブレークが思い出したのが「オカルトなんて全部科学で説明がつく」説を譲らないマスターズ主任警部だ。「幽霊狩人のマスターズ、大柄で頑健、そのくせ粋なところもあり、いかさまのカード師のごとく人あたりがよく、奇術師フーディニのように皮肉たっぷりの男」「第一次大戦後、イギリスに流行した心霊ブームの折、彼は部長刑事としてニセ霊媒の摘発に乗り出した。その時以来、彼の関心は高まり道楽となり、喜ぶ子供相手に、室内奇術の新工夫に凝り、すっかりそれに満足していた。」マスターズ主任警部も初登場時、変なおじさんじゃないか? マスターズはもちろんこの話に乗ってくるが、その時死刑囚の監房を模したロンドン博物館の展示室から、死刑執行人の短剣が盗まれた事を話す。死刑執行人ルイス・プレイジは、18世紀にペスト(=黒死病)が流行した際、屋敷に救いを求めて拒否され、恨みを残して死んでいた。その因縁付きの屋敷プレーグ・コート(黒死荘)での心霊実験だったので、マスターズはノリノリだ。 ところが、庭の石室にこもっていた心霊学者ダーワースが、短剣のようなもので刺し殺されてしまった。しかも、石室の周囲には足跡一つなかった。つまり密室というわけ。ルイス・プレイジの怨念が、短剣を盗み、ダーワースを殺したのだろうか? いやいやそんな事ないでしょうとやって来るのがヘンリ・メリヴェール卿、これが初登場作品になる。物話が半分以上進んだ所でやっと登場。カーがモデルとしたチャーチル首相(怖れ多い!)に劣らず、酒好き、美人好き、口が悪いの三拍子揃った、およそ近づきになりたくない御仁だが、推理力だけはめっぽうある。 既存の探偵についてあれこれと文句を言うのは「俺はそんな輩とは違うぞ!」というカーなりのエクスキューズ。解説に書かれたペンネーム誕生逸話に爆笑。いいかげんだなぁ。黒死荘の殺人 (創元推理文庫) [ カーター・ディクソン ]楽天ブックス
March 16, 2022
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みなさん、こんばんは。スノーボード女子ビッグエアで、村瀬心椛選手の銅メダルが確定しました。17歳のメダル獲得は冬季大会の日本女子最年少となります!今日も貧乏お嬢さまシリーズを紹介します。貧乏お嬢さま、追憶の館へ (コージーブックス 英国王妃の事件ファイル 14) The Last Mrs,Summersリース・ボウエン田辺千幸訳原書房コージーブックス ダーシーはジョージ―の「デスクワークなんかしてないあなたが好き」宣言に背中を押され、相変わらず世界を飛び回っている。しかしカッコいいことを言ったものの置き去り状態のジョージ―は遊んでくれる存在が皆無で寂しい。祖父にも振られてしまう。こんな時は、とんでもない頼まれごとをされた王宮さえ懐かしい!?そんな時、ジョージ―は親友のベリンダとコーンウォールを訪れることになった。ベリンダにとってそこは子どもの頃を過ごした楽しい思い出の場所。ところが、幼馴染たちが長い年月を経て集ったことで、忌まわしい過去の扉が開くことに? 裕福な家の女主人が不幸な事故で亡くなり、貧しい身分の女性が後妻に収まる。前の女主人をひたすら崇拝する召使がいて、ことある毎に後妻に「あなたはこの館にふさわしくない」攻撃をびしばし。そして場所がコーンウォールとくれば、名作の誉れたかい『レベッカ』。本作はそのパロディだ。 といっても人妻になったジョージ―がいじめられる「わたし」ではない。更に殺されるのは屋敷の主人で容疑者とされたのは現場で血の付いた凶器を手にしていたベリンダ。親友の危機というまたとない動機を得たジョージ―が、久々に推理を頑張る。それにしてもいいかげん「わお」はやめてくれないかなぁ。原作では決め文句なのかしらん。貧乏お嬢さま、追憶の館へ (コージーブックス 英国王妃の事件ファイル 14) [ リース・ボウエン ]楽天ブックス
February 27, 2022
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みなさん、こんばんは。ロシア軍はウクライナへの侵攻を開始しました。ウクライナ大統領府はウクライナ北部のチェルノブイリ原子力発電所が、ロシア軍に占拠されたと発表しました。今日から2日間貧乏お嬢さまシリーズを紹介します。貧乏お嬢さまの危ない新婚旅行Love and Death Among the Cheetahsリース・ボウエン田辺千幸訳原書房コージーブックス 前作でやっとダーシーと結婚、国王夫妻にも出席してもらい、義姉にもいい顔が出来たジョージ―。それにしても、貧乏はともかくとして、結婚してもう“お嬢様”ではないのに、この邦題は続くのか。お母さんになっても? ロンドンでボート遊びも貧乏同士なら仕方がない?と思っていたが、突然ダーシーが国王夫妻にケニアの新婚旅行計画を打ち明ける。寝耳に水のジョージ―だが、さすがに夫とは長い付き合いなので、訳なしとは考えない。案の定ケニアで事件が起きて…。 原題はLove and Death Among the Cheetahs-チーターの間の愛と死-だが、チーターは勿論犯人ではない。実際にケニアで起きた、乱倫ぶりが評判となった男性の殺人事件がベースになっている。アイザック・ディネーセンの『アフリカの日々』にも登場するケニアだが、こちらでは白人がやりたい放題で現地の人達を明らかに見下しており、開放感溢れる異国でやっている事は決して褒められない。あと、やはりミステリなので犯人はクリアにして欲しい。ダーシーとジョージーの部屋に肉を置いていった相手は名乗らないままである。 それにしても、どんな所でもシンプソン夫人が現れる。まだ結婚前だがこんなにいつも一緒状態だったのだろうか。目立って仕方がないだろう。史実ではナチスドイツに接近したと噂のある二人、“国王の具合が悪い”という知らせも届く中、ジョージ―評“シンプソン夫人なしならいい人”の決断の時が迫っている。貧乏お嬢さまの危ない新婚旅行 (コージーブックス 英国王妃の事件ファイル 13) [ リース・ボウエン ]楽天ブックス
February 26, 2022
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みなさん、こんばんは。11月に解散したアイドルグループ「V6」の元メンバーで俳優の坂本昌行さんと、元宝塚歌劇団トップスターで俳優の朝海ひかるさんが結婚したそうでおめでたいですね。今日もロンドンで結婚相談所を営む女性のコンビが活躍するミステリを紹介します。王女に捧ぐ身辺調査: ロンドン謎解き結婚相談所The Royal Affairアリスン・モントクレア創元推理文庫戦後ロンドンで結婚相談所を営むアイリスとグウェンに、英国王妃に仕えるグウェンのいとこから驚愕の依頼が持ちこまれる。エリザベス王女が想いを寄せるギリシャのフィリップ王子について、その母親のスキャンダルをほのめかす脅迫状が届いたのだという。英国王室の危機を救うため、ふたりは極秘で、王子の家族と脅迫者を調べることに。元情報部員でスパイ活動のスキルを持つアイリスと、人の内面を見抜く優れた目と貴族社会での人脈を持つグウェン。対照的な女性コンビの活躍を描くシリーズ第2弾。 前作で義母と少し歩み寄れたグウェンと、スパイの世界に戻って来いと元上司・准将から誘いを受けながら普通の世界に踏みとどまっているアイリスの、会話文を中心としたテンポの良い物語が展開される。ウィットに富む会話が飛び交うためドラマにしても面白いはず。 ドラマ「ザ・クラウン」でも出自が取り沙汰された故エディンバラ公爵フィリップ王配の、今回も問題になるのは出自。ドラマでも「いいのかこんなことまで書いて」と驚いたものだがこちらも驚きの設定を持ってきた。しかし最後に登場するあの人が全てを持っていく。素直で明るく愛らしく聡明な未来の君主は、やはり双葉より芳しかったのだ(「彼はプロポーズするかしら?」ときゃっきゃしている彼女に「いや、その結婚いろいろ大変ですよ…」とはとても言えないっっ!)。王女に捧ぐ身辺調査 ロンドン謎解き結婚相談所 (創元推理文庫) [ アリスン・モントクレア ]楽天ブックス
February 24, 2022
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みなさん、こんばんは。大関に昇進した御嶽海が結婚を発表しました。めでたいですね。今日から2日間タイプの異なる女性が結婚相談所を開いたシリーズを紹介します。ロンドン謎解き結婚相談所The Right Sort of Manアリスン・モントクレア創元推理文庫 1946年のロンドン。アイリス・スパークスとグウェン・ベインブリッジはライト・ソート結婚相談所を共同経営していた。アイリスはともかくとして、良家ご出身のグウェンがなぜ職業婦人に?と疑問が湧くが、彼女はきちんと仕事が出来る状態であることを示さなければならなかった。 グウェンが訳ありならアイリスも同じ。戦時中情報部に関わっており、裏社会も表社会の裏ルートも人脈がとにかく豊か。これだけなら無双ヒロインだが、普段強気な彼女も戦争のトラウマを抱えている。 登録した美女テリーに会計士の青年を紹介したところ、彼女が殺され、二人がお相手に選んだ優しそうな会計士の青年ディッキー・トロワ―が犯人として逮捕される。優しいグウェンの義侠心&新聞に相談所の事が悪意で掲載された事もあって、引っ張られた形のアイリスと二人、それぞれの異なる長所を生かして真犯人を探すことに。 第一作のため、登場人物それぞれが、一話限りの登場なのか、それとも今後も脇を固めていくのかの見極めはまだつかない。しかしキャラの濃淡はつけてあるので、だいたいその見当は合っているだろう。 作者は覆面作家だそうだ。会話のテンポがよく、サクサク読める。戦後一年ということで戦争の傷跡は町にも人にも色濃く残っている。配給切符により物が満足に入手できないというのがその最たるものだ。母として、自立した女性として、気丈に振る舞いながらも、不意に襲ってくる悲しみや痛みを何とか乗り越えていこうという意志の強さ、逞しさが印象に残る。ロンドン謎解き結婚相談所 (創元推理文庫) [ アリスン・モントクレア ]楽天ブックス
February 23, 2022
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みなさん、こんばんは。北京オリンピックのスキージャンプ男子ラージヒルで、小林陵侑選手が銀メダルを獲得しました。今日もアン・ラドクリフの古典的な恐怖小説を紹介します。ユドルフォ城の怪奇 下The mysteries of Udolphoアン・ラドクリフ作品社 さて、伯母マダム・シェロンの再婚相手モントーニの居城ユドルフォ城では、改心した伯母が(やっとか)息も絶え絶えになりながらエミリーに「あなたに譲る土地は絶対に夫には渡さない」と宣言し他界。一方ユドルフォ城には胡散臭い連中が出入りしているようだ。 ところでエミリーは想像力が豊かで、城に捕虜がいると聞けば、愛しいヴァランクールの声を聴いたような気がして落ち着かない。まだ死んでもいない時に「伯母が死んじゃったのかも!土地を譲ると言えばよかったのかしら?ああ!」と赤毛のアンばりに想像力を逞しくして、悪い方へ悪い方へと自分を追い込んでいく。父親からの教え「自制心を持つように」はあっさり忘れたようだ。そこへもってきてワイルド彼氏ののろけが止まらない侍女が城にまつわる幽霊話を聞かせるものだから、エミリーも想像力の暴走がどうにも止まらない! その想像力は溢れんばかりの詩心として上下巻で披露される。詩のタイトルが『憂鬱に寄する詩』『蝙蝠に寄する詩』ととにかく暗い。憂鬱はともかく蝙蝠ってなんだ。 物語最大のヴィランであるはずのモントーニ、ラストは結構しょぼい。山賊まがいの蛮行を繰り広げて軍に目を付けられ、そのどさくさにエミリーにも逃げられるという体たらく。エミリーや伯母など絶対自分に歯向かわないとわかっている相手には強く出るが、実は“小悪党”クラスでは。クライマックスで皆に攻められて自害するという華々しいラストが用意されてもよかったはずだが、そうならなかったのだから、ラスボスではない。彼に殺されたのではないか?と噂の某夫人ですら、結局逃げられたことがわかると、言えば言うほど情けない。 さて、上巻でラヴァレーを手放さないようにと言い残し、自分が遺して来た手紙を決して見ないで処分するようにと言い残し、意味深な女性の肖像画を残したり…と娘に不審を抱かせるような怪しい事しかしてこなかったエミリーパパと、不幸かつ不審死を遂げた侯爵夫人、幽霊話の主人公である魅惑的なイタリア女性の三題噺のオチは、そして思い込みが強いエミリーとストーカー彼氏の恋の行方、そして今度こそ本物の幽霊は登場するか?2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。ユドルフォ城の怪奇 下 [ アン・ラドクリフ ]楽天ブックス
February 17, 2022
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みなさん、こんばんは。北京オリンピックスノーボード男子ハーフパイプは11日に決勝が行われ、平野歩夢選手が金メダルを獲得しましたね。すごいですね。今日から2日間アン・ラドクリフの古典的な恐怖小説を紹介します。ユドルフォ城の怪奇 上The mysteries of Udolphoアン・ラドクリフ作品社 1584年、フランス、ガスコーニュの牧歌的地方。エミリーは、名門の一族出身だが栄誉よりもささやかな幸せを願う父ムッシュ・サントベールと気立てのよい母の間に生まれ幸せに暮らしていた。ところが、好事魔多し。二人の息子が亡くなり、父親は、残された娘がなまじ美しいと性格が悪くなってしまうと、とことん自制心を植え付ける。やがて病気になった父の看病をしていた母が亡くなり、気落ちした父親も後を追う。更にその直前、娘と旅行に出た時に、父親は財産を託していた相手が破産したため、一文無しになったと娘に告げていた。父が託した後見人である伯母マダム・シェロンのもとで暮らすことになったエミリーの運命は? これどこかでホラーになるのか?両親の死、破産、イジワルな伯母の登場と、韓国ドラマばりのヒロインを襲う不幸のつるべ打ち。おまけに伯母の再婚相手モントーニも俗物で、金がないのにある振りをして伯母を篭絡。ヒロインに味方なし。良い要素といえば、父との旅の途中で出会った性格も家柄も良い若者ヴァランクールと互いに好意を抱く中になったことだが、当時はいきなり結婚などという運びにはならないので、好意を伝え合う過程すらもどかしい。 タイトルロールのユドルフォ城は後半でやっと登場。両親がおらず自立なんてとんでもない時代の女性は流され人生しか選択肢がない。ところで、エミリーもヴァランクールも少々エキセントリックだ。恋のなせるわざと言ってしまえば認められるのかもしれないが、ヴァランクールは、エミリーがいつか現れるのではないかと、以前出会った場所をストーカーばりに張る。相思相愛という設定だからいいが、そうでなければ怖い。ちなみに彼は軍隊に勤めている次男坊だがそんなに時間が自由なのか。自由時間の夜必ず徘徊するならますますストーカーだ。 一方エミリーもあまりにジコチューな人達に囲まれて何を言っても聞いてもらえない毎日を送っているからなのか、痛みに対して鈍感になっている。伯母に乱暴するモントーニを止めようとして自分も頭に傷ができたのに、伯母の看病に専念。そのため召使に「お嬢様!頭から血が!」と言われて血がタラ―なんて、若干コントめいたやり取りが繰り広げられる。 怪奇とつくので幽霊が登場するのかと思いきや、上巻ではそのものずばりは訪れない。下巻こそ幽霊が現れて全てをひっくり返してくれるのか?ユドルフォ城の怪奇 上 [ アン・ラドクリフ ]楽天ブックス
February 16, 2022
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みなさん、こんばんは。北京オリンピックのスキーフリースタイル男子モーグルで、堀島行真選手が銅メダルを獲得しましたね。今大会、日本にとって、最初のメダル獲得です。今日もマーガレット・アトウッドの小説を紹介します。誓願The Testamentsマーガレット・アトウッド早川書房鴻巣友季子訳 ファーストネームが同じということで、『風と共に去りぬ』の続編を切望されながらも書かなかったマーガレット・ミッチェルが例に挙がっている。こちらは以前出版されていたが、米国のトランプ政権発足とドラマ化により再注目された『侍女の物語』の続編である。完結編といってもいいだろう。『侍女の物語』は名前も子供も自由も奪われたオブフレッドという侍女が、そこから抜け出す術を見つけ出すまでを彼女の語りで綴っていた。 今度の語り手は3人である。意図的に時系列がずらされており、いずれも“ある事”が終わった時点で書かれているので内容は全て過去だ。語り手が複数いる章は最初のページにそれとわかるマークが書かれている。 一人目は『侍女の物語』でオブフレッドの教育係として登場する小母リディア。脇役から堂々主役の一人への昇格だ。彼女の語りは【アルドゥア・ホール手稿】というタイトル。数々の家庭のトラブルに遭遇してきた彼女は、男性が支配するこの国家で、いつしか司令官すら手玉に取る存在になっていた。 二人目は司令官の娘アグネス。彼女の語りは【証人の供述369Aの書き起こし】というタイトル。彼女の恵まれた環境は、母タビサの死によって一変する。父は若い後妻を貰い、その後妻に子供を産む能力がなかった事から侍女が家にやってくる。子供は生まれるが侍女は死に、アグネスは年の離れた男性との結婚を強いられる。 三人目はカナダに住む古書店の娘デイジー。彼女の語りは【証人の供述369Bの書き起こし】というタイトル。ギレアデ共和国の事は別の国の話だったが、彼女も両親が爆殺された事で、本当の親ではなかった事を知る。 地殻変動、経済の悪化による社会不安により民衆の不満が募り、キリスト教原理主義の超保守勢力によるクーデターで政権が転覆したというギレアデ共和国成立の経緯も明かされる。これと全くイコールではないが、軍の撤退と共にあっという間にイスラム主義組織タリバン政権が掌握したアフガニスタンを想起させる。奇しくもタリバン政権も女性の権利を剥奪し、政教不分離の歪な政体である。 歪な国家の実態を外に向かって告発することで崩壊を迎える物語はSNSが大きな影響を与えたアラブの春を想起させた。 2019年ブッカー賞受賞作。誓願 [ マーガレット・アトウッド ]楽天ブックス
February 7, 2022
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みなさん、こんばんは。石原慎太郎さんが亡くなりましたね。今日はストーカーめいた犯人に目をつけられた捜査官シリーズの第一作を紹介します。氷結 上下Glace ベルナール・ミニエハーパーBOOKS雪と氷に閉ざされたピレネー山脈にある標高2000Mの水力発電所で、皮を剥がれ吊るされた首なし死体が見つかった。捜査に向かったのはセルヴァズ警部と美貌の憲兵隊大尉ジーグラーだが、別の事件を追っていたセルヴァズはあまり乗り気でない。死体とは人間ではなく馬だったからだ。大富豪ロンバールの馬だったことから、ホームレス殺人事件から駆り出されたセルヴァズはお冠。そして今度は人間の死体も登場。 本編はセルヴァズ達捜査陣と、ヴァルニエ精神医療研究所に赴任した心理学者ディアーヌの動きを並行して追う。前者は事件を扱っているからわかるが、後者を追う理由は?実はこの研究所には、元検事でサイコパスのジュリアン・フロイス・ハルトマンが収容されていた。そして馬が乗ったゴンドラでは、ハルトマンのDNAが見つかる。 シリーズをずっと追ってきた読者なら“ハルトマン”はパワーワードだ。何せセルヴァズはこの先ずっと、彼から愛情にも似た執着を向けられる事になるのだ。本作において、既に3年間精神科医にかかっているにも関わらず、一向に回復の兆しが見えないと書かれている。もともと刑事をやるにはナイーヴな性格なのだ。それなのに、この先メンタルをずたずたにされようとは。ハルトマンがマーラー好きと聞いてちょっと興味を惹かれてる場合じゃないよセルヴァズ。ああこの事件さえなかったら!馬の事件に関わる前にセルヴァズが捜査していたのはホームレス殺人事件で、容疑者は皆ティーンだった「こういう事件が少しも特別ではないということだ。世界は、神や悪魔や運命が試験管の中でかき混ぜるまでもなく、ますますより常軌を逸した巨大な実験場となっている」と世の中の変貌に心を痛めるセルヴァズだったが、“実験場”で最大の脅威となるのがさしずめハルトマンと言えよう。教養人の外見に恐ろしい欲望を抱くキャラクターは『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターの流れを汲む。 主人公の宿命として、今後もれなく登場する女性達と恋に落ちるセルヴァズだが、初登場の本作では、部下の妻シャルレーヌに密かに好意を抱き続いており「すべてが軽やかで、才気を感じさせ、繊細」とべた褒め。ずっとその思いは続く。夫は素直に自分を慕ってくれるいい後輩だというのに、これもまた何と背徳的な。 氷結 上 (ハーパーBOOKS 39) [ ベルナール・ミニエ ]氷結 下 (ハーパーBOOKS 40) [ ベルナール・ミニエ ]楽天ブックス
February 2, 2022
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みなさんこんばんは。黒人で初めてアカデミー主演男優賞を受賞したシドニー・ポワチエが亡くなりましたね。アン・クリーヴスのシェトランド4部作の第一作を紹介します。大鴉の啼く冬Raven Blackアン・クリーヴス創元推理文庫シリーズものを後から読んでしまうと、「ああ、この人とこの人はこうなって、この人物の先も知っている。」という思いをどうしても拭うことはできない。しかし、まあ最初を知っておくのもいいか、と最後は納得。 シェトランド島の新年。孤独な老人マグナス(新シリーズ第三作『地の告発』は彼の葬列から始まる)は対照的な女子高生サリーとキャサリンの訪問を受ける。とかくの噂のある彼を訪ねることは、彼女たちにとって一種の肝試しのようなものだった。ところが四日後、キャサリンが死体で発見される。本土からやってきたテイラー警部と、シェトランド出身のペレス警部が捜査に当たるが。 ペレス警部初登場&運命の相手フランとの出会い回。ペレス警部は地元出身ということで今回の事件に呼ばれるが、実は彼は僻地と言われるフェア島出身で、本島の連中とは若干距離がある。一方フランもロンドンからの転居組で、元結婚相手が“島の皇太子”の異名を持つ男性だったため、やはり居辛さを感じていた。今から思えば島との中途半端な距離感と疎外感が、二人を結び付けたのかもしれない。初対面から何となく好意を抱いていた風は匂わされており、フランの娘キャシーの誘拐事件が二人を結び付ける。 物語は全て三人称視点。心理描写はあるものの、喋りすぎると犯人がわかってしまうので、作者は語らせすぎない。また、怪しい人はそれなりに怪しげに誘導しているのだ。うまいなぁ。外からやってきて島というクローズドサークルを客観的に見られる人、逃れられない人、庇い合う人達がそれぞれの立場から登場人物を見ているので彼等を多面的に捉えられる。そんな中でも地元出身の若き巡査サンディが「絶対この人が犯人!」と発言を繰り返すのに対して、疑念は抱きながらもそれだけで決断しないよういさめるペレス警部が最初から大人の対応だった。CWA最優秀長篇賞受賞作。大鴉の啼く冬 (創元推理文庫) [ アン・クリーヴス ]楽天ブックス
February 1, 2022
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みなさんこんばんは。国際ジャーナリスト連盟(IFJ、本部ブリュッセル)は2021年12月31日、21年中に世界で殺害された記者は計45人だったと発表。痛ましいですね。今日はナチスの凄腕スパイを追う者達の小説を紹介します。亡国のハントレスThe HuntressハーパーBOOKSケイト・クイン表紙の女性の表情は、陰になっていて見えない。笑っているようでもあるし、沈んでいるようでもある。タイトルロールのハントレスなのか。ちなみにハントレスとはHunterの女性形だ。そもそも女性に狩猟反応があるのか?と思う人もいるだろう。通常の概念としては女性は暴力の被害者だ。しかし、中には嗜虐的行為に快感を覚える女性もいるらしい。ハントレスもその一人だ。 プロローグは間違いなくハントレスの描写だが、彼女がその後どうなったかは出てこない。勿論そうだろう。ハントレスはこの後追う者ではなく追われる側に立つ。簡単に行方と正体がわかってしまうと興覚めだ。 物語は三層構造で進み、それぞれの時代と主人公も異なる。 まず1946年、アメリカ・ボストンのジョーダン。学生時代からのステディギャレットもいて、母を亡くした父と二人暮らしだったが、今度父がアンネリーゼという女性と再婚することになった。写真に興味を持つジョーダンが、あまり写真に写りたがらないアンネリーゼを撮った時、“彼女は見えている通りの人ではないのでは”と疑いを抱く。 実は、この第一の主人公編で、勘のいい人にはハントレスの正体がわかる。よってハントレスは誰=Whoを明かすのではなく、When=いつ、誰が=Whoハントレスの正体を暴くかという点にサスペンス要素がシフトされる。 第二の主人公は、弟をハントレスに殺されたジャーナリストのイアンだ。私心の復讐と、ジャーナリストとしての正義の狭間で苦悩する、定番のヒーローポジションと言える。1950年と第一の主人公と時代も近い。主人公は勿論フィクションだが、実在の人物フリッツ・バウアーと会話する場面もある。また、ケイト・クイン作品を読んだ人だけにわかる“あの人”も再登場。但しほんのすれ違いなのが残念。 第三の主人公が実は一番輝いている。後に、第二の主人公イアンとも繋がりが出来るロシア人のニーナだ。子沢山の一家に生まれたため最初から相手にされず、果ては父から魔女と恐れられ、池に沈められる虐待を受ける。しかし与えられた運命にノーを突きつけ、ロシアの飛行士になろうと村を飛び出す。1941年で唯一の戦中時代を描いている。ソ連の支配者は粛清大好きスターリンなので、戦中といえど熱心な共産主義者でさえ安心してはいられない。持ち前の気の強さと持って生まれた才能で、恋と戦いに躍り出ていく彼女パートが最も読み応えがある。あまり書き込み過ぎると正体がばれてしまうのを恐れてか、ターゲットとされたハントレスが表に出る場面が少ない。そのため、二人目のハントレスとなるニーナが、実質主役のような全体のボリュームだった。第一作『戦場のアリス』に続き、戦場で輝く女性達を描いたケイト・クインの第二作。亡国のハントレス (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H161) [ ケイト・クイン ]楽天ブックス
January 31, 2022
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