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みなさん、こんばんは。およそ140年ぶりに“大人”の定義が変わります。成人年齢を引き下げる改正民法の施行により、ことし4月からは18歳で「成人」となります。今日もアーシュラ・K.ル=グウィンの西のはての年代記シリーズを紹介します。パワー 上下 西のはての年代記Ⅲ (河出文庫)The Chronicles of the Western Shore“Power”アーシュラ・K.ル=グウィン河出書房新社 『ギフト』では北の果ての荒地、『ヴォイス』で“西のはて”の都市国家アンサルが舞台になった西のはて年代記シリーズ、最終作は両者のちょうど真ん中にある都市国家群の一つ、エトラが舞台になる。『ギフト』では為政者の血筋、『ヴォイス』では征服者に支配され、兵士との間に生まれた子供が主人公だったが、本作は生まれながらに奴隷の身分であるガヴィアが主人公だ。家族や友人たちが支えてくれた第一作、家族はいなくても導き手である道の長に守られていた第二作に比べ、彼には庇護者がいない。アルカ館(マンド)の主人夫妻は奴隷たちからファーザー、マザーと呼ばれ慕われているが、身分の差は歴然としており、主人と奴隷の婚姻はない。また主人一家の横暴は見逃されており、ファーザーたる一家の当主は、穏やかな長男より粗暴な次男トームに期待をかけている。そして学者肌の主人公ガヴィアは彼とその子分格であるホビーの標的としていじめられる。先生でさえも主人筋の子供の暴力を止められない。先生もまた主人に雇われている身だからだ。 三作全て大人になった主人公が過去を回想する形式になっているため、最終的に彼等が救済されたことは最初から読者に提示されている点が安心できる。しかし、本作は、そこに至る過程は三作中最も過酷である。ガヴィアはまず、自由という概念を持たなければならない。『ヴォイス』も被征服者によって自由を制限されていたが、彼等には自由とは何かがわかっていた。“自由”を知らないガヴィアは「生まれつき自分や奴隷の運命はこういうものだ」という諦念と共に生きていた。しかし奴隷の幼い少年がいわれなく死んだ時にも違和感を抱き、満足な答えをくれない先生にももやもやした思いは残る。それが何なのかわからないままに、今度は身近な人物の死が訪れ、遂にガヴィアの我慢が切れる。 攫われて奴隷となった少年が、様々な場所を旅しながら、自分とは誰か、何をしたいのかを見つけていくビルドゥングスロマン。第一作、第二作の登場人物も登場して大団円のラスト。パワー 上/ル=グウィン/谷垣暁美【3000円以上送料無料】価格:935円(税込、送料別) (2022/1/7時点)楽天で購入パワー 下/ル=グウィン/谷垣暁美【3000円以上送料無料】価格:935円(税込、送料別) (2022/1/7時点)楽天で購入
January 25, 2022
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みなさん、こんばんは。ブリヂストンの大規模人員削減が行われるそうです。中国企業へ転籍対象の社員には心配も広がっています。今日もアーシュラ・K.ル=グウィンの西のはての年代記シリーズを紹介します。ヴォイス (西のはての年代記 2)The Chronicles of the Western Shore“Voices”アーシュラ・K.ル=グウィン河出書房新社“西のはて”の都市国家アンサルは、オルド人の侵略によってかつての栄光を失い、文字を邪悪なものとして恐れるオルド人から書物をもつことが固く禁じられていた。名家出身の母がオルド人の兵士に襲われて身ごもった子どもである少女メマーは、侵略者たちを憎み、復讐を心に誓いながら成長する。ある日メマーは、交易と文化の担い手だった一族の館の小部屋に本が隠されていることを知り、当主である道の長さルター・ガルヴァからひそかに教育を受けるようになる。メマーが17歳になったばかりの晩春、アンサルに“高地”生まれの詩人オレックと、その妻グライがやって来る。本作も『ギフト』同様、大人になった主人公が過去を回想する形式を取る。 偶像崇拝を禁じ、女性の社会進出を阻み、銃を手に町を闊歩するタリバンから逃れようと、今アフガニスタンの国民は必死で国外逃亡に向かっている。アンサルは、米軍撤退によってタリバンに支配されたアフガンのようだ。書物を禁じ、女性とみれば先のように乱暴な振る舞いに及ぶオルド人が支配層で、アンサルでは反撃の炎を上げようとする者達がいる。その旗振り役に見込まれるのが、 第一作で悩める若者だったオレック。前作で他人から求められるギフトと自ら望むギフトの狭間で悩んだ彼は名のある詩人になっており、アンサルの民にもオルドの王ガンドにも才能を愛でられている。 侵略者の暴力によって生まれたという設定のメマーは、映画『サラエボの花』でセルビア人による集団レイプによって生まれたヒロインを彷彿とさせる。征服者・被征服者いずれの血も引く彼女は道の長の娘として一応は敬われているが、その出自を知らない者はおらず、当人としては被征服者としてオルド人を憎んでいる。作中の言葉「ひとは見たいものだけ見て、聞きたいものだけを聞く」をまたメマーも踏襲している。双方の血を引くからこそ両者融和のシンボルともなり得る存在で、現実はなかなか難しいが、本作では「解放されるために解放する」をキーワードに両者共存が成り立っている。ヴォイス/ル=グウィン/谷垣暁美【3000円以上送料無料】bookfan 1号店 楽天市場店
January 24, 2022
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みなさん、こんばんは。映画『シン・仮面ライダー』の脚本・監督には、総監督を務めた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が興行収入102.8億円を記録する大ヒットを記録したことも記憶に新しい庵野秀明さんがなるそうですね。今日からアーシュラ・K.ル=グウィンの西のはての年代記シリーズを3日間紹介します。ギフト (西のはての年代記 (1))The Chronicles of the Western Shore“Gifts”アーシュラ・K.ル=グウィン河出書房新社書籍の帯にもあるように大ヒットシリーズ『ゲド戦記』完結後38年に、ル=グウィンが始めた新シリーズの第一作。 本作は全てが大人になった主人公オレックの回想であり、いわば話中話形式である。旅人エモンに対して、西の果ての高地の領主がどのように領民を支配してきたかをカスプロマントの領主カノックの息子オレックが話すスタイルで、物語世界が読者に向けて紹介される。この時オレックは視覚を奪われた16歳の少年で、傍には不愛想な少女グライがいる。ところで、“視覚を奪われた”は正確ではない。彼は自ら目隠しをしているのだ。ちなみにこの“自ら目隠し”が第一のフックである。 高地では牛を飼っているので、狩猟ではなく牧畜も含めた農業も行われているとみられる。物々交換はあくまで統治者たる領主が行うのみで、商人の姿はない。ギフトとはオレック言うところの「領土を護り、血筋を純粋に保つための力」である。よってギフトを持つ=為政者の地位に就くことが約束されている。オレックは“もどし”というギフトの持ち主カノックの息子であるため、周囲からは当然ギフトを持っていると思われている。但し母親は高地の人々が蔑む低地出身で、ギフトを持っていない。なかなか能力の顕現がないため焦るオレックだったが、遂にその日がやってくる。 ギフトを持つ者には当然対価も生じる。領民への責任であり、領土を護るためには戦の先頭に立ち相手を倒さなければならない。ところが“もどし”は相手を姿なきまでに叩き壊す能力であり、優しい性格のオレックは乗り気ではなかった。また、制御できないギフトの例としてオレックの祖先の話『盲目のカッダード』が出てくるが、必ずしも自分が力を制御できるわけではない。“もどし”の力が最強であったカッダードは周囲に恐れられていたが、ある日怒りに任せてギフトを使い、はずみで妻子を殺し、悔いて自ら盲目となった過去がある。ここで読者は、冒頭で“自ら目隠しをしたオレック”との共通性に気づくだろう。 一度使えば恐ろしい力を発揮するのでむやみに使わず、ただ持っていることで他者への抑止力となるギフトは、現代の核のメタファーでもある。他には、他者が期待する能力=ギフトと自らが持ちたい能力との対立構造は、若者が成長していく過程でどう自我を確立してゆくかというテーマと結びつく。他者と異なることに対する居心地の悪さと自我への想いの対立、両親の想いと自分の希望との対立というモチーフは現代もの『どこからも彼方にある国 (YA Step!)』と共通。送料無料【中古】ギフト (西のはての年代記 (1))ブックサプライ
January 23, 2022
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みなさん、こんばんは。歌手で俳優の香取慎吾さんが28日、一般女性と結婚したことを発表しましたね。今日はベネディクト・カンバーバッチが主演した映画の原作を紹介します。パワー・オブ・ザ・ドッグトーマス・サヴェージ角川文庫 モンタナ州で広大な牧場を営むフィルとジョージのバーバンク兄弟は、二歳違いで仲良く牧場を切り盛りしていた。フィルは体中に傷がある生粋のカウボーイだが頭脳明晰で、音楽や美術の才もあるという一種の天才だ。弟ジョージは優しい性格だが成績不良で大学を退学。いい歳をした二人が独身であることに思う所のある人達はいたものの、独善的なフィルに物言える人はいなかった。そんな時ジョージが地元の未亡人ローズと出会い結婚。フィルはローズとその息子ピーターが気に入らず、執拗に攻撃を仕掛けてゆくのだが。 一九二五年といえば大戦が終わり、アメリカでは狂騒の20年代と言われる時代だ。ウォール街の株暴落が人々の人生に影響を与えているように、もう西部開拓の時代ではない。しかしフィルは頑なに認めず、ウッドロー・ウィルソン大統領に対しても辛口だ。一方ジョージは「人は時代とともに変わるべきだと思うよ」と至極まっとうな考えの持ち主。考えは違っても、何もなければフィルの意見が大勢を代表し、何事もない日常が続いていったはずだった。ところが彼の妻と息子という第三者が登場したことで、ジョージに自信がつき、今までと違った彼にフィルも戸惑い、その恨みはやはり第三者に向けられる。 「わが魂を剣から解き放ちたまえ。わが愛を犬の力(The Power of the Dog)から解き放ちたまえ」 タイトルは旧約聖書の詩篇二十二章二十節から来ている。その二十二章は、苦難と敵意にさいなまれる民がその窮地からの解放を神に願う件であり、“剣”も“犬”も、民を苦しめいたぶる悪の象徴という意味である。さて、本作の犬とは何なのか。そして犬はどのように退治されるのか。そう、退治されるのだ。なぜならば悪だから。圧倒的な力を持つ犬を、誰がどうやって倒すのか。 ドン・ウィンズロウに同タイトルの作品があるが内容は全くの別物。カウボーイものともう一つ別の要素から『ブロークバック・マウンテン』を比較に挙げる読者もいる。 作家のサヴェージ自身は父親とは死別していないが、再婚相手と暮らし、母親がアルコール依存に陥るのを間近で見ている。自伝的な要素がピーターに投影されている。ベネディクト・カンバーバッチ主演&ジェーン・カンピオン監督映画原作。パワー・オブ・ザ・ドッグ (角川文庫) [ トーマス・サヴェージ ]楽天ブックス
January 13, 2022
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みなさん、こんばんは。12月17日に起こった大阪・北区のクリニック放火殺人事件で入院中の容疑者(61)が死亡したそうです。これで動機は探れなくなりましたね。今日もボストン・テラン作品を紹介します。神は銃弾God Is Bullet文春文庫ボストン・テラン 1995年クリスマス。カリフォルニアの邸宅で警察官の夫ボブ・ハイタワーと離婚し、サムと結婚したサラをカルト教団〈左手の小径〉のサイラスとガター、そしてリーナが襲撃し、二人が殺され娘ギャビは誘拐される。ギャビと連絡が取れないのを気にしたボブの上司・クレイ保安官事務所長ジョン・リーのもとに首謀者のサイラスから犯行声明が届く。ボブはギャビを探すため、元薬物中毒者の女性ケイス・ハーディンの助けを借りて教祖サイラスと〈左手の小径〉を追う。 「銃弾」とはまた、“右の頬を打たれれば左の頬を差し出せ”という神の息子の言葉と相反する単語だ。しかし、今回の相手には、真摯な愛情や説得は通じない。カルト教祖とはいうものの、信念を持って教徒を導くというカリスマ性は感じられない。彼の魅力というより脅威がせいぜい通じるのは長年傍にいる連中だ。やっている事は麻薬と武器の密売で、過激なチンピラといったところだ。しかし通常のやり方ではとても彼にたどり着けない。というわけで、本来なら猫と鼠の如く対立する刑事と麻薬中毒者が、協力して彼を追うことに。 これがボストン・テランのデビュー作か。“困難を乗り切る主人公”という要素は第一作から一貫している。心身ともに痛めつけられても、とことん挫けない。言葉で自分と他人を鼓舞しながら、不可能を可能にしていく有言実行の力強さ。麻薬依存から完全に抜け切れていないのに、ぎりぎりのラインに身を置きながら、何の得もない少女救出に乗り出すオトコ気。ヒロイン・ケイスの存在感が圧倒的。一方で、世間ではセレブと見做されている人達の汚さよ。 彼等に説得されながらも、信じていいか迷いながらも、道行の中でケイスへの心情が変わってゆくボブ。ハーレクイン的恋愛とは対極の同志愛で繋がった二人と、サイラスへの恐怖心で繋がった仲間を対比させている。最後に愛が勝つ。それはとてつもなくバイオレンスな愛であったけれど。2001年のこのミス一位。英国推理作家協会新人賞受賞作。神は銃弾 (文春文庫) [ ボストン・テラン ]楽天ブックス
January 2, 2022
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みなさんこんばんは。みなさんあけましておめでとうございます。今日から2日間ボストン・テラン作品を紹介します。ひとり旅立つ少年よA Child Went Forthボストン・テラン文春文庫 チャーリーは12歳、“少年”と訳すのが少々難しい年齢だ。ましてや彼は年齢よりもだいぶ大人びている。大人の事情で、無理に大人にさせられてしまった大人子どもだ。彼の父親ザカリアは詐欺師で、奴隷解放運動のための資金だと偽って、教会から大金を巻き上げた。金は精神病院にいる母親と一緒に暮らすためと言われて、チャーリーも片棒を担いだ。確かに、単身よりも子供とセットの父親の方が信頼を得やすい。 ところが蛇の道は蛇、あっけなくザカリアは悪者に刺され、大金はチャーリーに託された。そして訪ねた母親は息子の事をわかっていないほど重症だった。父親は母親の状態について息子にも隠していたのだ。序盤で頼れる両親を失ったに等しいチャーリーは、理由を話して大人に託しても良いのに、何と父の代わりに大金を奴隷解放活動家の元に届けようとする。『母を訪ねて三千里』は、少なくとも目的地に母がいると思えたから頑張れた。しかしチャーリーが訪ねていくのは、今まで出会った事がない赤の他人だ。また、正直に事情を告白しなければ大金を受け取ってもらえないが、詐欺師だとわかれば自分はどうなるか。 逡巡はしても打算はせず、チャーリーは奴隷制度に揺れるアメリカを旅する。時に詐欺師の腕を生かして乗り切り、時に正直に話して助けを得る。多くの人間に接して人を見る目だけはできたのだ。それでも少年故の悲しさ、彼を手玉に取る大人もいる。更に父を殺した悪者が、確実に彼の後を追ってくる。“前門の虎、後門の狼”状態で、チャーリーは様々な人物と出会い、成長していく。 ボストン・テラン作品の特徴を挙げるならば“ひたむき”“愚直”である。人生勝ち組・負け組で言えば圧倒的後者が主人公になる。しかし、世間では負け組と見做される彼等がひたむきに頑張る姿が、いつしか読者の胸を打ち、共感を呼ぶ。本編もその例にもれない。ひとり旅立つ少年よ (文春文庫) [ ボストン・テラン ]楽天ブックス
January 1, 2022
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みなさんこんばんは。2021年の紙の出版物(書籍と雑誌の合計)の推定販売金額は前年比約1%減の1兆2100億円台で書籍は児童書などが好調で、約2%増と15年ぶりにプラスに転じる見込みだそうです。本を読む人が増えたのでしょうか。今日はフェル博士シリーズのミステリーを紹介します。時計の中の骸骨The Skelton In The Clockカーター・ディクスン小倉多加志訳ハヤカワ・ミステリ文庫 ルース・キャリスの家で、法廷弁護士のジョン・スタナードと画家マーティン・ドレイクは、幽霊が出るという噂のペンティコスト刑務所で一夜を明かそうと思いつく。また同じ頃、スタナードは、ペンティコストのフリート荘で、18年前皆が見ている前でジョージ・フリート卿が落下した事件を話す。マーティンは一晩会ったきりで駅で別れ、名前しかわからない女性ジェニーをずっと探し続けていたが、オークション会場で再会。彼女は亡くなったフリート卿の息子リチャードと婚約していたが、マーティンが事情を話すと、リチャードはあっさり二人の仲を認める。但し、問題はソフィアの祖母ソフィア・フレイル伯爵夫人。彼女はオークション会場でヘンリー・メリヴェール卿と最悪の出会いを果たし、メリヴェール卿ははずみで、欲しくもないのに、振り子のかわりに骸骨の入った大時計を競り落としてしまう! いやどこでミステリが始まる?と言いたくなるが、ちゃんとメインの謎はある。ただ、今回登場した強烈キャラ、フレイル伯爵夫人にどうしても目が行きがちになる。口の悪い読者は“性格の悪いジジババ対決”と評していた。過去に起こった「衆人環視の中での墜死事件」の謎を解く合間に、骸骨を盗まれて追いかけたり前世はチャールズ一世時代の王冠詩人だと言ってみたり、すっかりコメディパートの主人公だメリヴェール卿。いいのかそんなキャラで。 ところでメリヴェール卿シリーズといえば、相棒のマスターズ主任警部(首席警部という記述も)が欠かせない。メリヴェール卿は第一次大戦中諜報部部長だったが、現在は医師と弁護士資格を持つので実際には捜査権はないからだ。そんなマスターズの言葉遣いが、本作では非常に怪しい。いちいち“うふん”“ふふん”と言うのだ。後者はともかく前者は絶対キャラに合わない。そんなふんわりキャラではない。昔の版なのでこの訳になったかもしれないが、読者はよく違和感を抱かなかったものだ。今なら「へえ」だろう。
December 29, 2021
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みなさん、こんばんは。韓国俳優のパク・シネが妊娠と結婚を発表しました。おめでたいですね。今日から2日間韓国小説を紹介します。世界を超えて私はあなたに会いに行くイ・コンニム矢島暁子訳KADOKAWA 2016年を生きる15歳のウニュは、自分に無関心な父と会話のない2人暮らし。生まれたときから母はおらず、どうしていないのかも父は教えてくれない。ある日、同じ名前の少女ウニュから手紙が届く。そのウニュは1982年に生きていると言う。最初はいたずらかと怒るウニュだったが、「幸運のコイン」をきっかけに、この不思議な手紙を信じるようになる。過去のウニュは、未来のウニュのために母を探しだし、なぜいなくなったのか調べてくれると言うが…。 全て書簡体で表現されている。手紙が繋ぐ二つの時代の物語というと、映画『イル・マーレ』を想起させる。映画では2年先を生きる女性主人公が男性主人公とニアミスする場面があったが、今回は時代が離れすぎているので無し。そのかわり意外な人物との再会が。ああ、こういうからくりだったんだ。 2016年のウニュよりも1982年のウニュの方が成長が早く、最初はお姉さんぶって「年上騙すんじゃないわよ」なんて言っていた未来のウニュの無鉄砲さを、過去のウニュがたしなめるような年齢逆転現象が起こっていくが、こちらも今後の展開を踏まえると不思議ではない。 最近はメールやSNS、韓国ならばカカオトークで瞬時に思っていることを相手に送れるが、本書では一方が手紙しかないため、一度送ってからいろいろな事を考える“間”が存在し、それぞれがもう一度自分を見つめなおす時間にもなっている。 “韓国で10万人が泣いた”“号泣度100%”とやたら泣くことが強調されている煽り文句の如く、いかにも韓国人が喜びそうなストーリー。最近は家族といっても心温まる結束の強い存在ではなく、むしろ枷のように感じている作品や愛憎ドロドロのドラマも散見される。しかしこのような作品が好まれる所を見ると、やはり基本的には韓国人は家族の絆を最上位に置くようだ。第8回文学トンネ青少年文学賞大賞作品。世界を超えて私はあなたに会いに行く(1) [ イ・コンニム ]楽天ブックス
December 24, 2021
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みなさん、こんばんは。今シーズン限りで現役を引退した元日本ハム投手の斎藤佑樹さんが「株式会社斎藤佑樹」を設立したと発表しました。具体的な内容は明かされていませんが、野球経験を活かした事業を行うとのことです。今日もP・D・ジェイムズの作品を紹介します。罪なき血Innocent BloodP・D・ジェイムズ早川書房 一八歳の誕生日を迎えたフィリッパ・パルフリーは、社会学の権威でTVのパーソナリティも務める養父モーリスと平凡な主婦の養母ヒルダに育てられていたが、出生の秘密を探ろうとする。すると父親は獄死、母親のメアリ・ダクトンも幼女殺害の罪で塀の中だった。フィリッパは母親を引き取って、ひっそりと暮らす決意をする。しかし被害者の父親ノーマン・スケイスは、メアリに復讐を果たそうとしていた。 メアリ、フィリッパ、ノーマン他複数視点で物語が進むジェイムズのノン・シリーズ。娘が事件を知り過去を探る探偵役になるかと思いきや、過去の事件は決着しており、今更その事件の真相を探る者は誰もいない。サスペンス要素として追うのは、登場人物の心理状態の変化である。 殺人による罰というならば、刑務所という形で社会が既に課している。それでも尚“殺したい”というのは、スケイスの私怨に他ならない。スケイスはメアリ親子を追跡する中で彼女に娘がいる事を知るが、自分がメアリを殺せば、娘もまた家族を殺された自分と同じ立場になる事に考えが及ばないし、自分が逮捕されるという事が全く頭にない。“彼女を殺す”という一つの考えに固執している。一方で彼がつきあうようになる女性としてヴァイオレットが登場するが、彼女は盲目でありスケイスを見る事ができない。だからこそスケイスは彼女をパートナーとして選んだという意地悪な見方も出来る。 ヒルダとモーリス、モーリスとフィリッパ、フィリッパとヒルダの関係が実の親子だと信じていた頃からある種の緊張感をはらんでおり、モーリスの先の結婚が影響していたのか(ヒルダは二度目の妻)と思っていたら、実はモーリスがフィリッパを引き取ろうと思ったきっかけが明かされることで、もうひとひねり。次から次へと隠された思いが明らかになってゆく。【中古】 罪なき血 / P.D. ジェイムズ, 青木 久恵 / 早川書房 [文庫]【ネコポス発送】もったいない本舗 お急ぎ便店
December 18, 2021
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みなさん、こんばんは.。18歳以下の子供に10万円相当を給付する政府方針を巡り、岸田文雄首相は13日の衆院予算委員会で、地方自治体が希望すれば年内に全額現金10万円を一括給付することを認める意向を示しました。この問題もめてますね。今日もP・D・ジェイムズの作品を紹介します。今回の主役は『女には向かない職業』でダルグリッシュ警視と共演した探偵コーデリア・グレイです。皮膚の下の頭蓋骨The Skull Beneath The SkinP・D・ジェイムズ小泉 喜美子 (翻訳)ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス バーニィ・ブライドを亡くしたコーデリア・グレイは、探偵事務所の経営者として、忙しいが金にならない日々を送っていた。そんな時、ジョージ卿から妻で舞台女優のクラリッサ・ライルの付き添い役を依頼される。彼女は二百年前の不気味な伝説が残る孤島コーシイ島の贅を凝らした壮麗な舞台で演じられる古典劇の主演を務める予定だったが、脅迫状を何度か送られていた。また、クラリッサの義理の息子サイモン、従姉妹ローラ、元愛人で劇評家など、クラリッサと縁の深い七人の男女が島に集まっていた。不吉な雰囲気の漂うなか、開演を目前に、自室で顔を叩き潰されたクラリッサの惨殺体が発見された! 「このハウス・パーティのメンバーの一人が何か害をするのではと妻が疑う理由など一つもないのだ、そう、まったくの話、ただの一つも」と言いつつ、単なるお付きではなく探偵をカモフラージュとして雇った夫が感じていた不安が現実なものに。癖のあるクラリッサに何とか堪えていたコーデリアが、彼女の死体を目にして思わず「申し訳ありません!」と謝ってしまうのが、まだ“すれてない印象”を与えて痛々しい。犯人にとっては彼女なんて脇役に過ぎないのに。 孤島の殺人事件の捜査にやってくるのは赤毛のグローガン主任警部とバクリイ部長刑事。グローガン主任警部は「赤毛のルーファス・グローガンは殺人事件の捜査をまるで恋愛かなんぞのように扱うんだ。彼は事件の容疑者たちに憑かれたようになる。彼らの生活に入りこむ。事件とともに生き、呼吸する。いらいら、くよくよ、そわそわと。犯人逮捕というクライマックスがおとずれるまでな。」と噂がある。つまりは事件に感情移入しやすい、ということだ。コーデリアと馬が合いそうだが、当の彼女は『女には向かない職業』で出会った「青い目の好男子で本庁のアイドル」(えっ40代のアイドル?)ダルグリッシュ主任警視に心を持っていかれたままだ。「彼が現在定着しているはるかかなたの謎のように高い高い地位を考えれば、そんな下っぱの仕事を彼が受け持つことはあり得ないのだ。彼は事件の記事を呼んだだろうか?彼女が巻き込まれているのを知っただろうか?」淡い期待を抱くコーデリアに、「いや、実はその頃ダルグリッシュは…」なんてとても言えない。 探偵は警察より自由に動けるが、一方で逮捕権はない。恋心にも悩みながら捜査に臨むコーデリア・グレイが最後にたどり着いた真実とは?皮膚の下の頭蓋骨【電子書籍】[ P D ジェイムズ ]楽天Kobo電子書籍ストア
December 17, 2021
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みなさん、こんばんは。大手電機メーカーの東芝が、主要事業ごとに会社を3分割する方向で検討していることがわかりました。原子力や火力発電を手がけるインフラ事業、ハードディスクドライブ(HDD)を手がけるデバイス事業、半導体事業の3分野に再編し、それぞれ上場させる方針だということです。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。秘密〔ハヤカワ・ミステリ1833〕ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックスThe Private PatientP・D・ジェイムズ青木 久惠 (翻訳)長年放置してきた顔の傷痕を消す決意をしたジャーナリストのローダは、高名な形成外科医を訪ね、医師の所有する荘園に滞在して手術を受けることになる。庭には古代のストーンサークルがあり、そこでかつて魔女が処刑されたという伝説が残っていた。手術の夜、そのストーンサークルに不審な光が。そして翌朝、ローダはベッドで扼殺死体となっていた。ダルグリッシュ率いる特捜チームが現場に急行するが、事件の影にはさまざまな秘密が! “ついに重要な節目を迎える話題作”という惹句は、主人公アダム・ダルグリッシュ警視長が遂に恋人エマと結婚式を挙げることを指す。もちろん他にも変化はある。今回の事件は、彼でなくても捜査は可能だったが、荘園に滞在している患者が有力者の夫人だったため、彼にお鉢が回ってきたのだった。 事件に入る前に荘園内の人間関係が説明される下りはクリスティ風。婦長ホランドと関係を持ちながら、彼女の結婚の要求は断り続けるチャンドラー・パウエル。同性愛者でパウエルのもとで助手を務めながらアフリカに旅立とうとするマーカス。ずっと祖父の介護をしてきて、今もまたチャンドラーのもとで助手をしている姉キャンダス。荘園にやっとのことで職を得たディーンとキム夫妻。密かにダルグリッシュを思い続けてきたケイトも、遂に区切りをつける時がやってくる。「ケイトは思った。ダルグリッシュの生活のある部分、ケイトが共有している部分は、彼が愛している女性には今でも閉ざされている。今後もずっとそうだろう。エマは詩人のダルグリッシュ、愛する人ダルグリッシュを知っていても、刑事のダルグリッシュ、警察官のダルグリッシュを知らない。ケイトたちの職業は危険な権限を与えられていて、宣誓をしていない者には立ち入れない領域だ。ダルグリッシュの占有はケイトであって、彼の愛情を勝ちえた女性ではない。警察の仕事は実際に携わった者にしか理解できない。」恋人や家族であるより、同僚でいることで良しとするケイト。それでも、頭の中でこれだけ理屈っぽく考えないと心は納得できなかった。なんといじらしい。「昇進すれば当然仕事は変わるが、そのときケイトはこの時間を失ったことを悲しむだろう。話の内容は死であり殺人であり、ときには陰惨を極める事件の場合もあるが、記憶に残る一日最後の検討会にはぬくもりと安心感、自分が認められている充実感が結びついているはずだ。」ダルグリッシュとの時間を慈しむケイトにきゅんきゅん。今回は関係者と話をするうちつい涙ぐみ、ダルグリッシュにいたわられるシーンまであって彼女の大サービス回。秘密 ハヤカワ・ポケット・ミステリ / P・D・ジェームズ 【新書】HMV&BOOKS online 1号店
December 16, 2021
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みなさん、こんばんは。イタリア競争監視当局は優越的な地位を使って競争を阻害したとして、米インターネット通販大手アマゾン・コムに約11億3千万ユーロ(約1450億円)の罰金を科したと発表しました。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。灯台The LighthouseP・D・ジェイムズハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス青木 久惠翻訳本編はダルグリッシュが警察からカム島で起こった変死事件の捜査を依頼される場面から始まる。かつてある一族が私有していたカム島は、現在は高級保養所としてVIPの滞在客のみを迎えていた。要人が使用する予定があるため、その前に事件を解決して欲しいという依頼であった。その後、未だ事件が起こっていない、舞台となるコーンウォール沖に浮かぶ島の人達の様子が描かれ事件発生まで辿る。 滞在中だった世界的作家ネイサンが、無残な首吊り死体で発見された。島には、被害者の娘も含めた少数の滞在客と従業員しかいない。事件の社会的影響に配慮して遠くロンドンからダルグリッシュのチームが島へ派遣されてきた。メンバーはダルグリッシュ警視長、ケイト警部、ベントン・デニス部長刑事の三人のみ。容疑者は限定されていたが、捜査は難航の兆しを見せる。事件の背後に、過去の忌まわしい歴史が潜んでいるのか。ダルグリッシュを尊敬する部下ケイト・ミスキンはまさかのベッドシーンから始まる。この恋の行方は最終作『秘密』で明らかになるが、安らぎを得て幸せそうだ。しかし一方でダルグリッシュへの思いは残っており、今回まさかのダルグリッシュ罹患でピンチヒッターを任されるが、その時も「私もエマも同じ言葉を言いたい。自分がそれをどうして口にできないか、私にはいつも分かっていた。でもエマは彼に愛されているのだから、言えないはずないのに」と動揺している様子をばっちりベントン・デニスに見られ気持ちを見抜かれている。動揺しまくりとはいえ、今回はケイト大活躍の回。コロナ禍に比べれば隔離環境も随分と緩いが、未知の病に怯え「死ぬかもしれない」と恐れる登場人物の思いは共感できる。灯台 (Hayakawa pocket mystery books) [ P.D.ジェームズ ]楽天ブックス
December 15, 2021
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みなさん、こんばんは。漫画家のサトウサンペイさんが亡くなりましたね。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。殺人展示室The Murder RoomP・D・ジェイムズハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス青木 久惠翻訳ダルグリッシュは、友人コンラッド・アクロイドと出会いデュペイン博物館に誘われる。その博物館は有名な殺人事件の数々を扱うユニークな展示で知られていた。博物館で運営理事で創立者の息子ネヴィルが車ごと焼き殺される。その状況は1930年に起きた自動車炎上札事件に酷似していた。博物館は創設者の遺言条項により、存続の危機を迎えていた。模倣犯罪なのか、それとも館の存続を巡る事件か。 一方プライベートでは前作『神学校の死』で出会ったエマとの恋愛が進行中。「彼女のことを考えるだけで、今希望で胸が一杯になるばかりか、次の一週間が明るく照らされる。まるで初恋の少年のように心もとない気分だった。そして初恋と同じ恐怖を抱いていた。あの言葉を口にしたが最後、彼女は去ってしまうのではないか。」 うおお甘酸っぱい。ちなみにダルグリッシュの年齢設定は40歳前後。ダルグリッシュはこの時、来週週末ある言葉を彼女に言うつもりだった。ところが仕事が忙しく、七回デートの約束をして実現したのは四回。この時の週末デートも生憎事件でキャンセル。更にダルグリッシュとエマの間を阻むのは、彼女のルームメイトで同性愛者のクララだ。異性愛者のエマへの思いが成就する望みはないが、クララはダルグリッシュのいるのは「どす黒く濁った世界」だからエマには向かないと大反対。デートキャンセルの電話をかけたダルグリッシュに対しても「どうせどこかで非衛生な死体があなたを待っている」んでしょと捨て台詞を吐いて塩対応。ダルグリッシュ、事件解決より、この壁を突破する方が難しいぞ。殺人展示室 (Hayakawa pocket mystery books) [ P.D.ジェームズ ]楽天ブックス
December 14, 2021
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みなさん、こんばんは。厚生労働省は米ファイザーと米モデルナ製の新型コロナウイルスワクチン接種後、若い男性で通常より高い頻度で報告されている心筋炎や心膜炎の症状について、通常の注意喚起から「重大な副反応」に警戒度を引き上げ、医師らに報告を義務付けることを決めたそうです。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。神学校の死DeathIn Holy OrdersP・D・ジェイムズハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス青木久恵訳冒頭は聖アンセルムズ神学校の住み込み看護婦であるマーガレット・マンローの手記だ。学生ロナルド・トリーヴィスが近くの砂浜で砂の下に埋もれて死んでいるのを発見したのが彼女だった。同校のマーティン神父がマーガレットに「小説のように経緯を書き留めるように」と勧められてのことである。ところがこの手記は突然終わりを告げる。マーガレットが身近な人のふとした事から事件に関連する“何か”を思い出し、“もっとも関わりのある人”に話した後に、何者かが彼女を訪ねてくる。読者の予測通り、訪問者は死の使いだったわけだ。 一方ダルグリッシュは、殺されたロナルドの養父が貴族で事故死の見解に納得せず、副総監に怒鳴り込んできたことから、この事件に関わることに。そしてダルグリッシュはまだ知らなかったが、神学校で新たな出会いが待っていた。 というわけで、後の妻で学者のエマ・ラヴェンナムとダルグリッシュが遂に出会ってしまう(ああケイト!)。二人の出会いシーンがほぼ一目ぼれ!初めての恋じゃないのにビビビと電流が走る!(笑)「彼女は今夜ケンブリッジに帰るんですって。そりゃあ、そうよね。彼女はあそこの人なんだから」「じゃあ、君はどこの人なんだい」「あなたとロビンズ、ADと同じよ。私をどこの人間だと思っているの。これが私の仕事ですからね」と恋敵の退場にひとまず安心するケイトだが、その後ダルグリッシュとエマに「もしお嫌でなかったら、ぜひまたお目にかかりたい。お互いにもっと知り合えたらと思います」「ロンドンとケンブリッジの間の電車は今はとても便利になっています。どちらの方からも」こんな会話があった事をケイトはまだ知らない。神学校の死 (Hayakawa pocket mystery books) [ P.D.ジェームズ ]楽天ブックス
December 13, 2021
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みなさん、こんばんは。石原伸晃内閣官房参与が辞任の意向を固めたことがわかりました。石原氏が代表を務める自民党支部が60万円余りの「雇用調整助成金」を受け取っていたことがわかり与党内からも批判の声が上がっていました。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。正義(上下)A certain justiceP・D・ジェイムズ青木 久惠 (翻訳)ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス「殺人者は普通、被害者に予告しない。おかげで最後の最後に殺されると分かって驚愕する。恐ろしい一瞬があるだろうが、死を前にして恐怖に戦くことがないぶん、ありがたい死に方ではある。」 いやいや、ありがたいとかそういう問題じゃなく、そもそも殺されるのはイヤだよ! というわけでいきなり被害者がネタバレされてしまった。「ヴェニーシャ・オールドリッジに残された人生は、四週間と四時間五十分だった。」 ちなみにその後は従来を踏襲し、ヴェニーシャの周りの人間関係を紹介し、彼女とぶつかる複数の容疑者候補が浮上してくる。ミドル・テンプル法曹学院の学寮長ヒューバート・ラングトンは、自分こそ後継者と思っていた弁護士ドライズデル・ロードに、ヴェニーシャも名乗りを上げていると話す。ドライズデルはこの日のためにラングトンのフォローをしてきたのにと不満だが、ラングトンはヴェニーシャの方が先輩だと譲らない。ヴェニーシャは娘オクタヴィアが自分が弁護して無罪にしたアッシュと婚約したと聞いて大反対。無罪だったならいいじゃないかと思うが、無罪を勝ち取った時のヴェニーシャがアッシュの眼から読み取った感情が「われわれは理解し合っている。何が無罪をもたらしたか、ぼくには分かっているし、あんたにも分かっている。」だったり、「アッシュは助けようとする人の心を、いつもずたずたにしてしまう人間なのよ」とオクタヴィアに言ったり、アッシュについて何か知っているようだ。 さて、前作『原罪』でやらかしてしまったケイトの同僚ダニエルは異動になり、新しい部下として27歳独身のピアーズ・タラントがやってくる。「これまでに一緒に働いた同僚の中では、男性として特別魅力があるほうだ」などと珍しくケイトが満更でもないようだが、やはりダルグリッシュ一筋。うーん、不器用な奴。「われわれの司法制度は人間的で、したがって誤りはつきものである、せいぜい望めるのは、ある程度の正義を実現することだ」完璧な正義というのを、期待するほうが無理ね。悪いことをしない人たちが法の下で安心して生活できるように、時には罪を犯した人も自由にするシステムを取っているのよ 今回はタイトルの“正義”にちなみ司法制度の欠陥が描かれる。警察も司法も必ずしも正義を成せないならば、正義を体現できるものはこの世にあるのか?という反語的な問いかけが物語から感じられる。『中古』正義〈上〉 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)『中古』正義〈下〉 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC
December 12, 2021
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みなさん、こんばんは。アメリカのバイデン大統領が主催し、岸田首相など約110の国や地域の首脳などがオンラインで参加する「民主主義サミット」が始まりましたね。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。原罪(上下)Original SinP・D・ジェイムズ青木 久惠 (翻訳)ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス ダルグリッシュ警視シリーズものはパターンが決まっている。大体クローズドサークルの人間関係が紹介され、その中で「いやどう見てもこの人憎まれるだろ?殺されるのはこの人?」と思っているとその人が殺される。ただ憎む相手が沢山いすぎて誰かわからないので、ダルグリッシュ警視が介入することで人間関係が明らかにされ解決に繋がるパターンだ。 今回もこのパターン。舞台はヴェネツィアの宮殿のような豪華な社屋=イノセント・ハウスを持つ、英国最古の部類に入る老舗出版社。派遣社員として出版社にやってきたばかりのマンディが死体に遭遇。冒頭からいきなり殺人?憎まれてる情報なしに?と思っているとメインの殺人はこの後にやってくる。イノセント・ハウスが英国で異質であるように、出版社もやや時代から取り残されている感あり。そこで創業者の子孫の一人ジェラール・エティエンヌが人員削減や設備売却、売れない作家との契約打ち切りなど大胆な改革案を打ち出すが、皆の敵意が彼に向けられ、蛇を巻き付けられ殺されている所を発見される。 それにしても今回マンディは二度も死体に遭遇する。“死のタイピスト”などと仇名されるが「昇給してくれれば働きます!」とあまりショックを受けていない様子。いわゆる現代っ子か。 マシンガムの後任として、ユダヤ人のダニエル・アーロン警部が登場。優秀な兄に家族の愛情を皆もっていかれ、ユダヤの習慣にもいまいち馴染めない彼は、ダルグリッシュにいい所を見せなければ!と意気盛ん。そのためにとんでもない失敗をやらかしてしまう。彼はこの後レギュラーになれるのだろうか。 一方ケイトはプリンストン大学に行くことが決まっている恋人アダムのプロポーズを振り切って仕事=ダルグリッシュを選ぶ。後にライバルが登場することを考えると、こんな所でぐずぐずせずに、キープ君がいる状態でアタックすればよかったのに!とイライラ。いやしかし、上司と部下の壁は越えがたいか。『中古』原罪〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)KSC
December 11, 2021
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みなさん、こんばんは。皇后さまが58歳の誕生日でしたね。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。策謀と欲望Devices and desiresP・D・ジェイムズハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス青木 久惠 (翻訳) ダルグリッシュ警視長は、伯母が亡くなり風車小屋を相続したので原子力発電所の聳える海沿いの村を休暇で訪れた。その村では最近、女性ばかりを狙う連続絞殺魔が暗い影を落としていた。ダルグリッシュが発電所所長宅の夕食会に招かれた夜、発電所の職員が帰宅途中に絞殺されるという事件が起きた。住民の恐怖が高まるなか、ダルグリッシュは海岸で女性幹部ヒラリーの他殺体を発見する。 P・D・ジェイムズ作品にシリアルキラー登場!と思わせておいて、骨組みは従来シリーズを踏襲。最初にクローズド・サークル=原発村の登場人物を紹介。研究所所長アレックス・メイヤー、その姉で料理研究家のアリス、アレックスの秘書で美人のキャロリン、アレックスと昔訳ありで研究所の管理部長代理ヒラリー、運転管理部長マイルズ、作業班の冴えない男性ジョナサン、反原発運動家のニール、ニールの同居人で子持ちのエイミー、ヒラリーに追い立てを食らっている画家のライアンとその娘テリーザ。ジェイムズ作品の例に漏れず、このうち複数の登場人物から嫌われているのがヒラリーで、予想通り彼女が殺される。折しもシリアルキラーの事件が起きているため、てっきり彼女も犠牲者かと思われたが、微妙なタイミングでシリアルキラーが自殺。え、シリアルキラーやる人間が自殺?あまりジェイムズはシリアルキラーを主眼に据えたくなかった。やはり描きたかったのは狭い世界の人間関係のドロドロらしい。 今回ダルグリッシュは事件の捜査を依頼されたわけではなく、探偵ものあるあるの“偶々来た場所で事件に遭遇”パターン。しかしそれなりに名は知られてるし知り合いもいるしで全くの無関係にはならないが、犯人を断罪するポジションにはいない。 独占欲、性欲、権力欲など、シリーズ中、男性よりも女性達の方がアグレッシブでタイトルの“欲望”は女性達のものだった。【中古】 策謀と欲望 / P.D. ジェイムズ, 青木 久恵 / 早川書房 [新書]【ネコポス発送】もったいない本舗 お急ぎ便店
December 10, 2021
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みなさん、こんばんは。実業家の前澤友作さんなど日本の民間人2人を乗せたロシアの宇宙船が国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられ、宇宙船は予定していた軌道に投入され、打ち上げは成功しましたね。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。死の味〈下〉A Taste for DeathP・D・ジェイムズハヤカワ・ミステリ文庫 不可解なのはポール卿の行動だけではなかった。前妻の事故死、母親を世話していた看護婦の自殺、家政婦の溺死、彼の周辺では過去に謎の怪死事件が続いていた。ふたたび捜査線上に浮かびあがってきたこれらの事件に、今回の事件を解決する鍵があるのか?それぞれに何かいわくありげなベロウン家の人々の複雑な人間関係から、ダルグリッシュ警視長が導きだした推理とは? 下巻でも人間ドラマ>ミステリ傾向は続く。例えばポール卿の愛人と本妻の修羅場は、ミステリとしてはなくても良い。言い合いが原因で、愛人がミスキン警部にある事実を告げる事になるが、経緯を愛人の説明台詞として述べさせる方法もあるし、ばっさりその過程をカットしても良い。なのに作品中に忍ばせるのは、登場人物それぞれの物語を大切にしている証だ。 下巻は解決篇なのでそれぞれの隠していた面が露になるが、それでもレディ・アーシュラの存在感は揺るがない。家名、財産など有り余るものを持ちながら、忠実に支えるのは他人である使用人で、家族からは距離を置かれている。辛さ、苦しさを家族にすら見せることがなく、内面描写もないブラックボックスに据えている彼女の矜持は、その末裔に引き継がれるのか。どうも彼女の死と共に滅びる気がしてならない。このようにいち登場人物の過去と未来に思いを馳せられるのもジェイムズ作品ならではだ。 ミスキン警部のファーストネームがケイト(シェイクスピアの『お気に召すまま』のヒロイン)であり、彼女自身も文学ファンで、シェイクスピアの作品で暗号を匂わせたり、台詞にヘンリー・ジェイムズやグレアム・グリーンが登場するなどブンガク的な要素が多い。主人公からして詩集を出版する詩人でもあり、部下のマシンガムも実はやんごとなき生まれのようで、ヴァランダーシリーズのような派手なドンパチは似合わない。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。ブックオフオンライン楽天市場店
December 9, 2021
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みなさん、こんばんは。群馬県太田市の工場で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、5日までに従業員42人の感染が明らかになりました。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。死の味〈上〉A Taste for DeathP・D・ジェイムズハヤカワ・ミステリ文庫 教会の聖具室で血溜まりの中に横たわる二つの死体は、喉を切り裂かれた浮浪者ハリーと元国務大臣のポール・ベロウン卿だった。二人の取り合わせも奇妙だが、死の直前の卿の行動も不可解だった。突然の辞表提出、教会に宿を求めたこと、卿は一体何を考えていたのか?彼の生前の行動を探るため、ダルグリッシュ警視長は名門ベロウン家に足を踏み入れる。 下巻で、ダルグリッシュの部下で主任警部のマシンガムが、ケイト・ミスキン警部に自分達が失敗すれば大多数が“鼻っ柱を折られた一匹狼ダルグリッシュを見て内心ほくそ笑む”だろうと語る。これまで孤高のイメージが強かったダルグリッシュだが、本作ではシリーズ初登場のミスキン警部に『わが職業は死』のマシンガムも加え、政治社会的に慎重な扱いが必要な重大犯罪の捜査にあたる特別専従班チームで捜査を行う。リーダーとしてのダルグリッシュ警視長、マシンガム、ミスキン、それぞれ抱える傷がある。主人公についでその傷がクローズアップされるのは、今回初登場のミスキン警部だ。父親を知らず(下巻で祖母が職業のみ明かす)、所謂養護施設に強烈な不信感を抱く彼女は、クライマックスでさらに厳しい局面を迎える。 物語は事件の第一発見者である老婦人エミリー・ウォートンと、彼女になついている少年ダリル、捜査チーム(集団と個人)、そしてダルグリッシュ達が踏み込んでいこうとするベロウン家など、それぞれの動きを追う。脇役と言えど誰一人疎かにされた人物がいない。一方で人間をそれだけ詳しく描くということは、ミステリよりも人間ドラマ寄りになるという事で、好き嫌いは分れるだろう。個人的にはレディ・アーシュラがお気に入りだ。ベロウン家の中心人物で、息子を亡くした悲しみも、その妻の裏切りも知りながら弱音を一切吐かず、家名を保つことを第一とする。たとえ事件解決に役立つとしても家名を傷つけるような要素を話してくれないわけで、ダルグリッシュにとっての手ごわい壁となる。さて、下巻でこの壁を崩せるか。CWA賞シルヴァー・ダガー賞受賞。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】死の味〈上〉 (ハヤカワ ポケット ミステリ)/P.D. ジェイムズ、青木 久恵買取王子
December 8, 2021
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みなさん、こんばんは。ORICON NEWS恒例企画『第15回 女性が選ぶ“なりたい顔”ランキング』で女優の【新垣結衣】が3年ぶり首位になったそうです。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。わが職業は死Death of an Expert WitnessP・D・ジェイムズ 青木 久惠訳 早川書房犯罪の科学捜査を行なうホガッツ研究所で深夜、所長代理のロリマーが殺された。現場は厳重に戸締まりされており、外部から侵入した形跡は見当たらない。冷徹で高慢な被害者は所内の嫌われ者で、誰からも反感を買っていた。多すぎる動機、密室の謎。ダルグリッシュ警視長は周到な尋問と鋭い推理で、犯罪捜査のエキスパートたちの間に生じた殺人事件の複雑な糸を解きほぐしていく。 物語はロリマーが殺される前の時間軸から始まる。この男、敵ばかりだ。法医学者ヘンリー・ケリソンは妻にばかにされており、娘エレノアはその事をもどかしく思っていた エレノアは自分と父を研究所から放り出そうとしたロリマー博士の人形を潰す。この行為はエレノアの内心をわかりやすく表現している。ホガッツ研究所所長マキシム・ハワースは妹ドメニカが結婚していながらロリマーと恋愛関係にあったことで恨んでいた。一方ロリマーも自分こそが所長になるべきだと自負があり、両者は険悪だ。自信なさげな生物部上級技官クリフォード・ブラッドリーはロリマーから厳しい評価を受けていた。ロリマーのいとこで所長専属秘書のアンジェラ・フォーリーは友人と一緒にコテージを買う予定だったが、祖母が全て遺産をロリマーに渡したので自由になる金がない。ロリマーに資金を頼むが、彼はアンジェラの同居人ステラが彼女を食い物にしていると非難。唯一ロリマーを尊敬していたのは、素直な新人事務官ブレンダ・プリットモアだけだ。さあ、これだけ動機のある敵がいれば誰が殺してもおかしくない。要は、機会を生かしたのは誰かという事だ。 仕事は事件が起これば犯人を見つけて逮捕する事の繰り返しだと割り切っているダルグリッシュだが「殺人事件の解決には犠牲が伴う。ときにはその犠牲が自分に及ぶこともあるが、他人の場合のほうが多かった。フリーボンの言うとおりだ。殺人は罪の有無を問わず、触れた者すべてを汚染する犯罪だった」と社会全体に与える影響について考えていたり、貴族出身の部下マシンガムに「憎しみこそ、この世でもっとも破壊的な力だと人は言うだろう。だが、そんなことを信じてはいかん。一番破壊的なのは愛さ。いい刑事になりたかったら、愛を見分けるすべを会得することだ。」とアドバイスしている。警視長に昇進して見える景色が違ってきたのか。 また今回は、常日頃から死体を見慣れている人達の間で起きた殺人事件だが、例えばロリマーが死んだと知ったミドルマスも「殺人は醜悪で、厄介で、不都合なものだ。しかし、純粋に個人として悲しんでいる者がいるとは思えないな。それに他人の悲劇、他人の危機というのは、自分が安全なかぎり、ある種の幸福感を生みだすものだ」と殺人事件について醒めたコメントを残している。研究所の面々はいずれも癖ありだが、中で新人事務官のブレンダ・プリットモアだけが、まだ“汚れちまった哀しみ”を知らず、皆が嫌っていたロリマーの事も尊敬している救われキャラになっている。【中古】 わが職業は死 / P.D.ジェイムズ, 青木 久惠 / 早川書房 [新書]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
December 7, 2021
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みなさん、こんばんは。みなさん、こんばんは。昨日愛子さまは皇居・宮殿で、秋篠宮さまをはじめとする皇族方や、岸田総理大臣など三権の長から祝賀を受けられました。今日もダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。ナイチンゲールの屍衣Shroud for a NightingaleP・D・ジェイムズ隅田たけ子/訳早川書房「最初の殺人があった朝、総看護会付属看護婦養成所の視学官、ミス・ミュリエル・ビールは、六時をまわってまもなく目をさまし、身じろぎした。」 本作は冒頭の文で、殺人事件は一度ではないこと、殺人現場となる場所まで明かしている。物語の最後もまた同じ女性で締めくくられているため、重要人物のように思われるが、彼女はあくまで傍観者のポジションだ。 今日の視察先ジョン・カーペンダー病院にビールはあまりいい印象を持たなかった「部屋の大部分はあまりにも広すぎることだろう。たとえば、いったいどこに主任教官や臨床教官、事務員たちのための居心地のいいオフィスを見出せるというのだろう?さらにまたこの建物は、充分は暖房を行うにも極めて困難であり、その出窓は、そうしたものの好きな者の目から見れば画趣に富むと言えるだろうが、大量の光をさえぎってしまうだろう。いっそう悪いことに、この建物には何か無気味な、ぞっとするさえ言えそうなものが感じられた。この知的職業が二十世紀に、古くさい身がまえや方式をけとばしながら登場したというのに、若い学生をこんなヴィクトリア朝式大建築に住まわせるとは、まったく気の毒だ。」近代に向かうイギリスに場違いな建物という取り合わせは『原罪』と共通。 看護婦養成所ナイチンゲール・ハウスで、胃に栄養剤を送りこむ実習訓練中、患者役の看護学生が突然苦しみだして息絶えた。数日後今度は別の学生が毒入りウイスキーを飲んで変死を遂げた。捜査を開始したダルグリッシュ警視は、所内の複雑な人間関係の襞に分けいっていく。 看護師として働いたことのあるジェイムズが、よく知っている世界を舞台に据えたミステリ。インフルエンザ流行に伴う様々な変更を外科医コートニー・ブリグスから聞いたビールの感想として「病院が危機に直面した時、まず犠牲にされるのはいつも看護学生なのだ。彼女たちの授業計画は常に妨げられ得る。それはきわめて腹立たしいことであったが、今はとても抗議などしている時ではない。」とあったり、看護師ロルフの「虚栄は外科医のおちいりやすい罪悪の一つなのですよ。へつらいが看護婦のおちいりやすい罪悪であるのとちょうど同じようにね。」という言葉、また、看護学生の全てがそのまま仕事に就くわけではなく、卒業後結婚を望む女性も多い事などは、ジェイムズの体験談なのかもしれない。現代と違って看護師の地位はあくまで助手役で軽く見られていたことが端々に伺える。 ダルグリッシュの部下は貴族出身のマスタースン部長刑事で、ダルグリッシュを嫌いながらも“有能だからこの人についていっとかなくちゃ”という損得勘定が本人に丸わかり。そんな彼が捜査のためにダンスを披露する一幕が実は本書の見どころかも。さて、マスタースン部長刑事が厳しく有能な上司ダルグリッシュに認められる日は来るのか?英国推理作家協会賞シルヴァー・ダガー賞受賞作。【中古】 ナイチンゲールの屍衣 / P.D. ジェイムズ, 隈田 たけ子 / 早川書房 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
December 6, 2021
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みなさん、こんばんは。瀬戸内寂聴さんが亡くなりましたね。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。不自然な死体 Unnatural CausesP・D・ジェイムズハヤカワ・ミステリ文庫今回ダルグリッシュは『女の顔を覆え』で知り合い、『ある殺意』で交際を始めたデボラとの結婚に踏み込むべきか悩んでいた。悩んだダルグリッシュが向かった先は『策謀と欲望』で風車小屋を相続することになる独身の伯母ジェインの所だった。 ところがダルグリッシュ警視が休暇でサフォークのモンクスミア岬にいるジェインを訪ねた日、両手首を切断され都会的なダーク・スーツを着た男の死体が小さなボートに乗って近くの海岸に流れついた。付近の村に多く住む物書きの一人、推理作家のモーリス・シートンだった。さっそく郡警察が捜査を開始したが、解剖の結果、意外な事実が判明した。死因は心臓麻痺。自然死だった。だが、はたして純粋な自然死なのか。手首切断の背景には何があるのか?ダルグリッシュは否応なく事件に巻き込まれていく。 容疑者対象はやはりクローズド・サークル。被害者も作家だったが、純文学の大家で伯母と仲が良いR・B・シンクレア、演劇評論家オリバー・レイサム、恋愛小説家シーリア・カルスロップ、その姪エリザベス・マーリー、ダルグリッシュ自身も詩人なので登場人物の文系要素が濃い。 叔母絡みの『策謀と欲望』と同じく、休暇中に事件に遭遇するダルグリッシュお客様バージョン。私人としてやってきてもダルグリッシュがそれなりに名が知られているため、地元の警官は気になってしかたがない。地元民とは文学者及び伯母を通じて親近感を持たれる。自分の縄張りを守りたいレックレス警部とのバチバチシーンがある。一方、凶器が伯母の鉈だったことから、ダルグリッシュも関わらざるを得ない。控えめにしていようと努めてもやはり血が騒ぐダルグリッシュが遠慮しいしい捜査を進める所が微笑ましい。 さて、本巻でデボラとの関係に決着がつく。デボラはダルグリッシュが警察官であることを嫌い、ダルグリッシュはプライバシーが保たれないのを悩んでいた。というか、本当に好きならそんな事で悩まないのでは、ダルグリッシュ?『中古』不自然な死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)KSC
December 5, 2021
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みなさん、こんばんは。可愛らしかった愛子さまが成年皇族ですか。今日もP・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズを紹介します。ある殺意A mind to murderP・D・ジェイムズハヤカワ・ミステリ文庫山室 まりや 訳 ある秋の晩、ロンドンのスティーン診療所の地下室で、事務長のボーラムの死体が発見された。彼女は心臓をノミで一突きされ、木彫りの人形を胸に乗せて横たわっていた。出版社のパーティに出席していた詩人でもあるダルグリッシュ警視は、副総監から現場に出向くよう命じられる。死亡推定時に、建物に出入りした者はなく、容疑者は内部の者に限定された。尋問の結果、ダルグリッシュはある人物の犯行と確信するが、事件は意外な展開に。 シリーズものでは、必ず名探偵の失敗談も登場させる。例えばホームズは『五つのオレンジの種』で「4回失敗をした、3回は男で、1回は女にしてやられた」と言っているし、ポアロは『チョコレートの箱』で真相を見抜けなかったことをヘイスティングスに話し、「うぬぼれてると思ったらすかさず“チョコレートの箱”と言ってくれ」と言った傍から自画自賛が止まらないというシーンがあった。 ならば名探偵の系譜に連なるダルグリッシュ警視も、という訳で、診療所といういわゆるクローズド・サークルで関係者も限られている本編で、「仕事ではまだ失敗の味というものを知らない」彼が犯人を見誤ってしまう。早めに失敗談を出して読者の反応を見たかったのだろうか。 彼の“詩人”の部分が本編でクローズアップ。自分の才能も詩集の成功も冷めた目で見ていた。自分の超然として皮肉っぽい、奥底でいつもざわついている魂を投影した詩が、たまたま大衆のムードを捕らえたにすぎない。と自分の詩才について客観的に評価できている所はさすが刑事。この時デボラ・リスコー(『女の顔を覆え』のスティーヴンの双子の妹)とパーティで出会い、これから恋が始まるのでは?と気にしていてかわいい。「セックスはテクニックの行使にすぎず、情事は約束にしたがって儀式化されたステップを踏む、後腐れのない感情のダンスでしかない。」とえらく理屈っぽい事を考えているが、パーティの途中で抜け出してきてしまったので「デボラ・リスコーはどこで、誰と夕食をとったのだろうと、ちらりと考えた。彼女と会ったことが、別世界のような気がする」などと考えているし、事件の失敗に落ち込んで「このいつ果てるともしれない憂鬱から解き放たれるには、犯罪と死から一時離れなければだめだ。一晩、恐喝と殺人の影から逃げ出すのだ。」とデボラに電話しよ!と心機一転を図る。後の落ち着いた頼れる上司像からは想像もつかない“若き”ダルグリッシュの姿が拝めるのが楽しい。【中古】 ある殺意 / P.D.ジェイムズ, 山室 まりや / 早川書房 [新書]【メール便送料無料】【あす楽対応】もったいない本舗 楽天市場店
December 4, 2021
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みなさん、こんばんは。石川遼さんのCMでおなじみの英会話教材「スピードラーニング」が事業終了していたそうです。理由は「諸般の事情」だとか。今日から16日間P・D・ジェイムズのダルグリッシュ警視シリーズ&女探偵コーデリア・グレイ作品&ノンシリーズを紹介します。女の顔を覆えCover Her FaceP・D・ジェイムズハヤカワ・ミステリ文庫p76でダルグリッシュが登場するがまだ主任警視だ。ちなみに伝聞による彼の印象は「非情で、型破りで仕事の鬼」とあるが、正直本作だけでは、どの言葉にも頷けない。生憎本作がダルグリッシュ警視のデビュー作、この前に作品があれば納得できただろう。 彼が登場するまでは、舞台となるセント・メアリーのマクシー家の人々を中心とした人物紹介である。誰もが嫌っている人物がいて、定石通りその人物が殺される件は『オリエント急行殺人事件』。被害者サリーは未婚の母でメイドとして働いていたが、邸の長男スティーヴンと婚約を発表したばかりだった。 セント・メアリーはクリスティのマープルものに登場するセント・メアリー・ミードのような村で、互いに知りすぎるほど相手の事を知り抜いている住民に更に秘密があるという設定もミス・マープルのコージー・ミステリーと似ている。後のシリーズ作を見ると、本作のダルグリッシュ警視は作家のP・D・ジェイムズ同様試運転中といった態。主役をどこまで出せばいいか、登場人物達のドラマをどこまで描けばいいかを探りながら書いていった感がある。後に何度も書かれる「詩集を一冊出版した過去」は紹介されないが、ダルグリッシュの心の声で、妻と子供を亡くしたことは述べられる。 狭い世界の殺人なので容疑者は限られ、一人一人消されていく。被害者となるサリーが「男性には好かれるけど女性には嫌われる女性」の典型で、身近にもいそうだ。彼女の相手であるスティーヴンをはじめ女性達がいくら口を酸っぱくしてサリーの狡さを訴えても男達には判ってもらえないエピソードがリアル。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。
December 3, 2021
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みなさんこんばんは。スウェーデン初の女性首相に就任した社会民主労働党のアンデション氏は政府が提案した新年度予算案が否決されたことから就任からわずか12時間以内に首相辞任を発表しましたね。今日は見えない相手に脅かされる女性が主人公のミステリを紹介します。不協和音~GRIEVANCE~クリスティーン・ベル小学館文庫 バリトン歌手の夫デズモンドを癌で亡くしてやっと一年たったリリーは、息子二人と犬ゴーゴーと暮らしている。未だに死の哀しみから抜け出せずグリーフケアに通っている。義母は悪気がない人だが、セットで送った食器を「もうあなたたち使わないから返して」と言ってしまうような人だ。姉は看護師で臨んだ葬式をしてもらえなかったことでリリーとはわだかまりがある。そんな彼女のもとにジャズと名乗る女性から「デズモンドの死を今知った。哀しみを分かち合えれば」という便りが届く。手紙の言葉遣いに違和感を感じたリリーは、ジャズという女性に心当たりがなかったことから無視するが、その後様々ないやがらせや不審な出来事が彼女の周りで起こるようになる。 酒や薬を断つ者達の集まりや、癌で苦しむ人たちの集まりなど、日本に比べて西欧、特にアメリカは、自分の心情を吐露することで感情を共有することに特に違和感をもたず、むしろ奨励しているようだ。しかし、自分の心の一番奥深い所を打ち明けていることが、思わぬ危険に繋がることもある。 今回のミステリはその点に注目している。謎の人物について、リリーは家族の次に会のメンバーを疑う。「哀しみを経験した」という部分だけが共通していても、バックグラウンドが異なるのでそれぞれどういう人かは自身が話さないとわからない。全ての不審な出来事が謎の人物によるものではなく、ちょくちょく息子達がやらかしたのも混じっており、余計にリリーを混乱させる。 最後に犯人が登場するわけだから、思い込みではなかった。但し詰めが甘く、本当にリリーを追い詰めるのなら、彼女が妄想に取りつかれているように誘導すればいいのに、実際に怪しい部分を残している。その詰めの甘さは犯人の目的はリリーを排除することではなかったからなのか。目的が明らかになると、とにかく生理的に気持ち悪くて仕方がない。犠牲にする者のトラウマを全然考えておらず、欲望に突き進む恐ろしきサイコパスだ。国際スリラー作家協会賞受賞。不協和音〜GRIEVANCE〜【電子書籍】[ クリスティーン・ベル ]楽天Kobo電子書籍ストア
November 27, 2021
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みなさんこんばんは。ジャングル大帝のレオ役などを担当した声優の太田淑子さんが亡くなりましたね。今日は何と狼男の話を紹介します。人狼ヴァグナーWagner,the wehr‐wolfジョージ・W・M・レノルズ夏来健次 (訳)国書刊行会 1516年、ドイツ〈黒き森〉。嵐が吹き、辺り一面を異様な轟音が覆いつくす漆黒の夜、老いた羊飼いヴァグナーは見知らぬ人物の訪問を受け、奇怪なる契約を交わす。それは、若さと美貌、富と不死の命を手に入れる代価として狼に変身する運命を背負うというものであった。それからおよそ5年後、フィレンツェでも指折りに大きな城館の一室で、リヴェロラ伯爵アンドレアは死の牀にあった。父に寄り添う二人の姉弟ニシダ姫とフランシスコに伯爵は、自らとリヴェロラ家にかかわる秘密を明らかにしてくれるものが収められているという秘密の衣裳室の鑰を渡し、フランシスコが婚姻を果たすその日に扉をあけるよう遺言を残して息絶える。父の死を看取り二人はそれぞれの寝所に戻るが、ほどなくして耳と口を使うことができないニシダ姫が、フランシスコの部屋に忍びこんで鑰を盗み、秘密の衣裳室へ歩を進めていく。数日後、伯爵の葬儀が執り行なわれ、そこに若さを取り戻したヴァグナーの姿があった。 年老いた男に悪魔(と思われる男)が取引を持ち掛ける話といえば、ゲーテの『ファウスト』が想起される。しかし更に遡り、良い条件ばかりを並び立てるが、実は相手の最も大切なものを奪おうとする話のオリジナルは、イエス・キリストの“荒野の誘惑”という逸話がある。イエスはさすがに悪魔の誘惑に乗らなかったが、凡人たる人間は、やはり目の前のわかりやすい好条件に乗ってしまう。ヴァグナーが羊飼いという職業なのも意味深だ(私は善き羊飼いである-ヨハネによる福音書より)。 さて本作、とにかく展開が早い。若返ったヴァグナーは失踪した孫娘アグネスとあっさり出会う。「さすがに真実を言わずに、しばらくはそっと見守るとか?」と思ったら、あっさり正体を告白。そこでアグネスが卒倒して「嘘よ!嘘!嘘!信じない!」と取り乱し、「テレビドラマ2話分くらいは引っ張るのかな?」と思いきや、あっさり信じる(えええ!?)そしてヴァグナーの「他人の前では兄と呼べ」も承諾。「えっ、逡巡とか迷いとか、なし?全然?」と驚くが、何と本編は大団円という最終章まで七十八章ある。フィレンツェ行ったりコンスタンチノープル行ったりひたすら忙しいので、お悩みタイム=溜めはカットされた。通俗小説を多く書いてきた作者は、まったりした展開が読者に飽きられてしまうことをよく知っていたに違いない。 それにしても、よく美辞麗句が次から次へと出てくるものだ。素晴らしきかな古の人々。人狼という語句からはホラーを想像するだろうが、どちらかというと冒険譚、奇譚の域に近い。勢いがつくと一気読みできる。人狼ヴァグナー [ ジョージ・W・M・レノルズ ]楽天ブックス
November 24, 2021
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みなさんこんばんは。神宮輝夫さんが亡くなりましたね。今日は法廷サスペンスも含んだミステリを紹介します。たとえ天が墜ちようともThe Heavens May Fallアレン・エスケンス 務台夏子/訳 創元推理文庫 タイトルは六法全書に挙げられている言葉から取られている。結果がどうであろうとも正義が最上位に来るという理屈は、法を生業とする者にとっては、片腹痛い場合もあるかもしれない。弁護人は、依頼人の利益を守る責任があり、もしそれと“正義”が真っ向対立した場合に、どちらを選べば良いのかジレンマに陥る。 もちろんそんな悪どい依頼を受けなければいいのだが、悪人が最初から「ほら、私は悪人ですよ」と看板をぶら下げてくれるはずはない。また、懐具合などからどうしても依頼を受けざるを得ない場合もある。いろいろ考えると“正義最優先”はとてつもなく高いハードルだ。 そのハードルをタイトルに掲げるからには、真っ向からこの問題とぶつかる人間がいる。一人は刑事のマックス。妻をひき逃げ事故で亡くしているが、被害者の夫であるため事件に関われない。もう一人は弁護士のボーディ。二人はある事件を通じて知り合いになり、ボーディはマックスに命を救われ、またマックスは最も辛い時期にボーディに傍にいてもらっている。いわば親友だ。しかし彼らがある事件を通じて敵対することになる。 彼等と正義とのジレンマを描くなら、“正義”を優先しない立場の人物も登場させねばならない。その事によって二人の主人公を葛藤させ、彼等への読者の共感あるいは反発を強める効果があるからだ。情を選ぶか、正義を選ぶか、はたまたその両方を両立させようとするのか。主人公の決断に息をのむ。 刑事と弁護士がダブル主人公なので、刑事が事件を追うミステリと、法廷サスペンスの二つの要素を持つ。著者が弁護士なので、より後者に力が入った作品になっている。シリーズ物であるが第二作から読んでも“何が何だかわからない”と混乱することはない。たとえ天が墜ちようとも (創元推理文庫) [ アレン・エスケンス ]楽天ブックス
November 13, 2021
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みなさん、こんばんは。ノーベル平和賞を最年少で受賞したマララさんが結婚されましたね。今日はミステリを紹介します。見知らぬ人The Stranger Diariesエリー・グリフィス創元推理文庫 イギリスの中等学校タルガース校の旧館は、かつてヴィクトリア朝時代の作家ホランドの邸宅だった。クレアは同校の教師をしながら、ホランドの研究をしている。ある日、クレアの同僚が自宅で殺害されてしまう。遺体のそばには“地獄はからだ"と書かれたメモが残されていたが、それはホランドの幻想怪奇短編「見知らぬ人」に繰り返し出てくるフレーズだった。 架空の作家ホランドの著作『見知らぬ人』の冒頭が紹介される。一人称小説で主人公はケンブリッジ大学の新入生。新入生の儀式で肝試し大会が行われる。 このまま物語が続くのかと思ったら、いきなり『見知らぬ人』を題材にした授業の場面になる。こちらも一人称小説で語り手は教師のクレア。彼女が同僚教師エラの死を知らされたところでまたもや形式が変わる。 今度はクレアの日記体になった。こちらも一人称小説だ。同じ一人称を用いるならば、なぜエラの死を知らされた所から続けなかったのか。“日記体”という出来事を一旦過去に落とし込んだ形にしたのはなぜなのか。語り手が現在形で語り続けられない理由があるということだ。 さて日記体も最終形態ではなく、今度は捜査する側―ハービンダー部長刑事のまたもや一人称語りが始まる。時制はクレアの日記体と重なる。例えクレアが謎を探ろうとしても所詮一般人、スキルと権限がないから捜査側を引っ張り込んだのか。更にクレアの娘のジョージ―の日記体まで登場。こうも一人称が並ぶと、それぞれの感情表現はふんだんに出来る一方で「客観的にみて今の状態はどうなのか」を提示してくれる存在がない。よって読者が読み解かなければならない。それを狙っているのだろう。 残念だったのは冒頭にも登場させ、以後も小出しにしてすわ「横溝正史の金田一ものによくあるアレを狙ってる?」と思われたホランドの小説が、終わってみればただの目くらましに過ぎなかったことだ。もともとその目的だったのかもしれないが、せっかく昔のゴシックホラーを出したのであれば、事件との共通点なり何なりを出して若干煙に巻いた方が余韻が残ったのでは。見知らぬ人 (創元推理文庫) [ エリー・グリフィス ]楽天ブックス敬老の日のプレゼント 詰合せ ギフト おつまみ おやき が自慢☆【大人気おやき9種詰め合わせセット】【野沢菜・きのこ・なす・野菜・にら・ポテト・あんこ・かぼちゃ・切干大根】【信州 長野 長野県 お土産】 お取り寄せグルメ価格:2980円(税込、送料別) (2021/8/22時点)楽天で購入
November 12, 2021
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みなさんこんばんは。紀子さまのお父さんが亡くなりましたね。そういえば具合悪くて見舞いに行ってましたね。今日はモテまくる殺し屋が主人公のフィルムノワールを紹介します老いた殺し屋の祈りマルコマルターニ訳飯田亮介ハーパーコリンズ・ジャパン 組織のためどんな非道な事もしてきた最強の殺し屋オルソが、たった一度堅気に戻ろうとしたのは、天使のようなアマルに出会い娘グレタをもうけた時だった。しかしオルソに執着するボスのロッソ(フランス人なのにこの名前か)が、「おめえ、堅気になったら妻と娘がどうなるかわかってんだろうな」(ありがちだ)と、やや嫉妬めいた脅しをかけたため、二人の前から姿を消す。ところが還暦を過ぎて心臓発作を起こしたオルソは、再び妻子への思い捨てがたく、一目会いたいと願うが。 妻子といっても随分離れているため、とてもじゃないがオルソを待っているとは考えられない。それどころか、彼が向かうことで二人に危険が及ぶかもしれないのはわかりきっているのに、命のリミットが目の前に来た途端殺し屋の理性が吹っ飛んでしまった。もちろんその道行がスムーズにいくわけもなく、次々とオルソの前には殺し屋やトラブルが。有名な彼を殺して名を挙げたい男たちが現れるのは、これまでのオルソの業でもある。オトシマエを付けないと前には進めないのだ。とはいいつつ、辛く苦しい事ばかりではない。還暦を過ぎているというのに、オルソは幅広い年齢層の男女にモテまくる。件のボスは何だかんだ言ってオルソを裏切らないし、妻子一筋のはずなのに、据え膳は食い、濃厚ベッドシーンを披露(心臓に悪くないのか+笑)。 還暦越えてもこんないい事があるかも?という夢の話かと思いきや、やはりブーメランのように戻ってくるのは自分自身のオトシマエ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』を監督したルッソ兄弟の映画製作会社が映画化権を購入。さて、かっこよすぎるモテ男の還暦殺し屋は誰が演じる?老いた殺し屋の祈り (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H149) [ マルコ・マルターニ ]楽天ブックス
November 6, 2021
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みなさん、こんばんは。小池百合子都知事が過度の疲労で入院だそうですよ。今日もカリン・スローター作品を紹介します。開かれた瞳孔 BlindsightedハーパーBOOKS カリン・スローター 小さな町のレストランのトイレで、大学教授の女性が腹部を十字に切り裂かれて殺害された。偶然にも第一発見者となった検死官サラは、迷いのない切創と異様な暴行の痕に戦慄を覚える。しかも犯人は被害者の習慣を熟知した人物。ならばこの町に暮らす顔見知りに違いない。捜査が難航するなか、第二の事件が発生。犯人の影はサラに忍び寄っていた。 体だけでなく心に負った傷を抱えながら、サラやレナなど女性たちは懸命に任務を務めようとするが、サラの元夫ジェフリーやレナの叔父ハンクは、彼女達を支えようとするものの、女性や薬に逃げる。男たちが持つレイシズムやマチズムに女性達が苦しめられる構図だ。女性達が戦う相手は事件のトラウマといった個人的なものに留まらず、女性らしさを押し付けようとする社会である。 ウィル・トレントシリーズのヒロインかつ本シリーズの主人公サラと後々までいがみあうジェフリーの部下レナとの言い合いシーンが随所にみられる。本質的にこの二人は合わないことがよくわかる。更にサラにとっては、愛情を残しつつも復縁に踏み切れない元夫ジェフリーが、レナにとってはいろいろと問題がある自分を引き立ててくれる理想の上司でもあることから、二人の感情の縺れは更に複雑になり、後のジェフリーの死後まで引きずっていく。 カリン・スローター作品は女性が容赦なく酷い目にあう事件が扱われる。主人公も例外ではなく、過酷な出来事は主人公が乗り越える試練として物語上は扱われる。描写や被害が痛ましいと常々感じていたが、実は第一作から続いていた。「あまりにグロすぎる」と思った読者はここでリタイアしただろう。リトマス試験紙のような第一作だ。開かれた瞳孔 (ハーパーBOOKS 131) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
October 29, 2021
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みなさん、こんばんは。長らくドイツを率いてきたメルケル首相が政界を去りますね。さて今日から二日間、カリン・スローター作品を紹介します。スクリームThe Silent Wifeカリン・スローター訳鈴木美朋ハーパーコリンズ・ジャパン ウィルにもサラにもかつて人生のパートナーがいた。ウィルには同じ傷をなめ合うようにして一緒になったアンジー、サラには声望の高い前グラント郡警察署長ジェフリー。ましてや後者は亡くなっているので、正に“死んだ恋人には勝てない”パターンだ。かてて加えてウィルには虐待の過去などいろいろ厄介な問題もある。それでも著者の「ウィルにジェフリーを乗り越えさせたい」思いは強かったらしく本作で挑戦している。 刑務所内の暴動中に起きた殺人事件の捜査にあたるウィルは、服役中の男から犯人を教える代わりに8年前の連続殺人事件を再捜査するよう取引を持ちかけられる。不正捜査によって男を逮捕したという人物は、ウィルもよく知る人物だった。時を置かず当時と同じ異様な手口で傷つけられた女性の遺体が発見され。本シリーズに限らず『羊たちの沈黙』でクラリスがハンニバル博士に聞きに行くように、容疑者の所に刑事が訪ねていくパターンが最近多い。そして大抵、聞きにいく当の相手も一癖も二癖もある相手なので一筋縄ではいかない。今回も衝撃の事実を提示される。ウィルにとっては恋敵の―それも反論できない―旧悪を暴くことになるので複雑な心境だ。それでなくてもサラとのコミュニケーションは、サラがかなり譲歩して成り立っているだけに、秘密を抱えたウィルとの仲はぎくしゃく。なるほど高いハードルだ。 メインの事件は相変わらず陰惨で必ず女性が酷い目に遭う。それほどの残虐性を持っている男性が多いわけではないが、心身ともに傷つけられた女性の哀しみは深い。リアルタイムではなかなか被害者が声をあげることが少なく詳細も見えてこない。フィクションという形で犯罪の惨さを伝えるのもまた、凶悪犯罪を防ぐ一助となろう。スクリーム (ハーパーBOOKS ハーパーBOOKS H156) [ カリン・スローター ]楽天ブックス
October 28, 2021
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みなさん、こんばんは。もう“様”をつけなくていい小室夫婦の会見ですね。でも質問NGNGなんですって。ならやらなきゃいいのに。今日はチェスタトンの短編集を紹介します。裏切りの塔The Tower of Treason and Other StoriesG・K・チェスタトン創元推理文庫イギリスで教育を受けたアイルランド人の大地主ヴェインの土地には、人を食う樹としておそれられる三又の樹があった。庭師は不吉な樹だから切ってしまうよう進言するが、ヴェインは迷信だと言ってはねのける。彼に招かれたイタリアに住むアメリカ人批評家シブリアン・ペインター氏は、アフリカの話として樹に関する伝説を披露。地元民の迷信に悩まされたヴェインは、樹に上る賭けをする。ところがヴェインの姿が何日経っても現れず、あろうことか…。 すわホラーもの?と思わせて人間消失ミステリになっている『高慢の樹』。しかし著者が本当に言いたかったことは、人間の矛盾に満ちた思考である。「あなた方は自分の合理主義にしがみつく。そしてあなた方の合理主義とは、何千という人間が真だと思った故に、そのことは虚偽に違いない―多くの人間の眼が見た故に、それが存在するはずはないというものだったのです」薔薇が好きな医師夫人が謎の死を遂げる。話し相手として雇われた女性にある男性が言う「中へ入る前に、外のことを憶えておいてくれ。僕のことじゃなく、君のことをだ。雲一つない空と、あらゆる平凡な美徳と、風のように澄んだ強いものをだ。信じてくれ。結局はそういうものが現実なんだ。この呪われた家にかかっている雲よりも現実なんだ。それにしがみついていてくれ。神様の風と洗い流す川が実在するんだと自分に言い聞かせてくれ。少なくとも、この部屋の中にある物と同じくらい実在するんだとね」というセリフが清涼剤だった『煙の庭 』決闘で息子が死んだと聞いてやってくる父親に、スコットランドヤードの警部が真相を明かす『剣の五 』えっ探偵が真相を明かさずに亡くなる?そんなのあり?の架空の国トランシルヴァニアの事件を扱った『裏切りの塔The Tower of Treason 』ファンタジーを信じる姉と超現実主義者の弟のために後見人の公爵が呼び寄せた相手とは?本編中唯一の戯曲で殺人事件が起こらない『魔術 Magic』 原題は『The man Who Know Too Much And Other Stories』で、『知りすぎた男』の訳書から漏れた「Other Stories」を一冊に纏めた。裏切りの塔 G・K・チェスタトン作品集 (創元推理文庫) [ G・K・チェスタトン ]楽天ブックス
October 26, 2021
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みなさん、こんばんは。人間国宝の落語家・柳家小三治さんが、心不全のために亡くなられたとか。今日もダナ・タート作品を紹介します。シークレット・ヒストリー〈下〉 (扶桑社ミステリー)The Secret Historyドナ・タート吉浦 澄子 訳 バニーを殺害したヘンリーたち5人は、アリバイをつくるため奔走する。4月にしてはめずらしい大雪のおかげでバニーの死体はなかなか発見されない。音信が途絶えた息子の身を案じたバニーの父親は、彼を捜し出した者に5万ドルの礼金を支払うと新聞に告知した。警察、FBI、マスコミをはじめ、ハンプデンの町中がバニー捜しに躍起になる。一方、バニーを殺したという罪悪感からヘンリーたちの精神は蝕まれ、固い絆で結ばれていたはずの友情はもろくも崩れていく。 上巻はシダを餌にバニーを誘い込む場面で終わっており、決定的なその行為については意図的に飛ばされている。誰が何をどのように分担したのかは、その後の彼らの反応によって明かされる。酒に溺れたり、友人たちの間で疑心暗鬼に駆られたり、邪魔者を排除して楽園を形成したはずなのに、彼らは地獄にはまり込んだ。ならば地獄から救い出してくれるのは、頼れる大人しかいない。ところが、神のように崇め彼の言葉を信じてギリシャ風の祭りまで行ったのに、あっけなく教授に逃げられてしまう。ある程度年齢のいった読者ならば、ジュリアンの薄っぺらさに気づいていたろうが、ただでさえ他の学生から隔てられ、まるで自分たちが特権階級のようにふるまっていたメンバーは、意外に脆かった。 それにしても彼らが思い悩むのは、あくまでバニーの死であって、彼の死を招くことになった第一の死については一切苦しんでいないようなのが、スノッブな彼ららしい。【中古】文庫 ≪英米文学≫ シークレット・ヒストリー(下) 【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
October 24, 2021
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みなさん、こんばんは。上皇后さま87歳だそうです。孫の結婚に頭が痛いでしょうね。今日はドナ・タートのミステリを紹介します。シークレット・ヒストリー〈上〉 (扶桑社ミステリー)The Secret Historyドナ・タート吉浦 澄子 訳冒頭、バニーという彼らの友人が死んだこと、その死には語り手たる主人公も関わっていることが明かされる。「これから物語るのは私の狂気の歴史だ」と語るのはリチャード・パーペン。現在二十八歳で、ガソリンスタンドを経営する父と専業主婦との間に生まれたリチャードが、バニーたち五人と知り合ったのは、ハンプテン・カレッジの古代ギリシア語を学ぶジュリアン・モロー教授のクラスだった。既に関係が出来上がっている中に、ヘンリーが実家がセントルイスの大金持ち、バニーは銀行副頭取の息子、フランシスが名家の出身だったため、奨学生のリチャードは臆するが、次第に彼らの仲間として迎え入れられるようになる。 語学の天才でリーダー格のヘンリー、同性愛者のフランシス、双子の妹で紅一点のカミラ、最初からリチャードに優しかったチャーリー。こう書いてきた中で、やはり仲間内には鬼っ子が必要だ。ストーリーのアクセントになるのがバニー。ある事を知ってから、バニーの仲間たちへの態度がガラリと変わり、仲間たちにとっては恐怖の的となる。決して根っからの悪人ではなく、限度を知らないで甘えてしまった事が悪意を生むことになってしまうバニーのキャラクターの匙加減が絶妙。彼らのティーンという年頃も相まって、クローズド・サークルのメンバーの思考は一つの方向に向かってゆく。 冒頭で“死んだ”と言われるバニーが、リチャード達を含める仲間たちの厄介者となっていく過程が描かれ、さぁいよいよ、というところで下巻に。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】文庫 ≪英米文学≫ シークレット・ヒストリー(下) 【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
October 23, 2021
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みなさん、こんばんは。第18回ショパン国際ピアノコンクールで反田恭平さんが2位、小林愛実さんが4位入賞という快挙です。今日はスノーボーダーが主人公のミステリを紹介します。寒慄【かんりつ】Shiverアリー・レナルズ訳国弘喜美代ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス ハヤカワ・ポケット・ミステリの表紙デザインは秀逸なものが多い。今回もまるで白銀の大地に描かれるシュプールのように白を背景に赤文字で原題が描かれ、その後ろに小さくボーダーが見える。 寒慄という言葉はてっきり造語かと思っていたら「ふるえおののくこと。ぞっとすること」と意味が載っていた。戦慄という言葉でもいいのに、わざわざ「寒」の文字を加えたということは、更なる寒さがその震えや恐怖に加わるということだ。 かつてのボーダー仲間が縁の場所に、仲間の名前を借りたメールで10年ぶりに招集される。以前と違うのは二人メンバーが欠けていることだ。一人はケガでボーダーをやめ、もう一人は訳ありだ。ところが集まってみると送り主に心当たりはない。ケーブルで宿泊所に向かった後、従業員たちの姿は見ないのに夕食は用意されている。やがて彼等にミッションが与えられる。どうやら過去の事件を掘り起こす狙いがあるようで…。 外は雪、ゴンドラは動かせない、一人ボーダーじゃない人がいて全員脱出は難しい等陸の孤島設定、登場人物達全てが訳あり、時間を追う事に彼等の秘密が明らかになっていく過程はアガサ・クリスティ―の『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせる。さっさと外界と連絡を取って救助に来てもらえばいいじゃないかと思うかもしれないが、携帯を取り上げられて外界とも連絡が取れない。そもそも山は電波が繋がりにくい。さあどうする? 窮地に陥った彼等の現在と、10年前が交錯して描かれる。一人称語り手だが、語り手自身が秘密を抱えているので、いわゆる信頼できない語り手である。謎の人物に急かされて10年前の事件を調査するはめになるが、それぞれ本当に真実を明らかにしたいと思っているのかも疑問だ。クローズドサークルの心理戦が展開する。作者もイギリスチームに在籍していたことがあるボーダーなので、登場人物が日本人選手のすごい技について話す場面もある。こういう所は文字の羅列で場面が目に浮かぶボーダーが読むと面白いだろう。寒慄【かんりつ】 (ハヤカワ・ミステリ) [ アリー・レナルズ ]楽天ブックス
October 22, 2021
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みなさん、こんばんは。今度の選挙で引退する政治家も結構いるんですね。麻生さんはやめないんですかそうですか。今日はミステリを紹介します。囁き男The Whisper Manアレックス・ノース小学館文庫表紙絵は木の間から除く二つの穴。おそらく目と見まごうようにデザインされている。ここから受けるイメージはホラーだ。 愛する妻を突然喪い、幼い息子ジェイクと二人、取り残されたトム。内向的で周囲に馴染めないジェイクの父親として、親子の関係をうまく築くことが出来ずに悩むトムは、心機一転、新たな町に引っ越し、生活をやり直そうと決意する。しかしそこには、20年前に起きた連続児童殺人事件の犯人で、現在は服役中の「囁き男」の影が色濃く残されていた。やがて、当時の事件を彷彿させる事件が起きる。 連続児童殺人事件の捜査を担当し、5人中4人の死体を発見したものの、どうしても5人目が見つからなかったことを20年間悔やんできたピート・ウィリス警部補ら警察の視点も交えながら、トムのパートだけ一人称で綴られる。もちろんそれには理由があり、一人称でトムの心情を描く事が物語のもう一人の登場人物の因縁に繋がる。 ピートは見つからない5人目の手がかりを探して、事件の容疑者として拘留中のフランク・カーターに会いに行くが、利用するのではなく翻弄されている。それにしても、最近作品ではベルナール・ミニエのセルヴァズ警部シリーズといい、容疑者と刑事が刑務所で会って前者が後者を翻弄するパターンが多い。ハンニバルシリーズのレクター博士の人気故か。作品中でジェイクが読んでいるのがダイアナ・ウィン・ジョーンズの『呪われた首輪の物語』。2020年イアン・フレミング・スチール・ダガー賞最終候補作、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の監督・ルッソ兄弟による映画化も進行中。囁き男 [ アレックス・ ノース ]楽天ブックス
October 17, 2021
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みなさん、こんばんは。嵐・櫻井翔&相葉雅紀が結婚するそうですね。今日もダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品を紹介します。呪われた首環の物語Power of Threeダイアナ・ウィン・ジョーンズ佐竹美保絵野口絵美訳徳間書店 折からのジョーンズブームで、1976年に本国で出版され、ガーディアン賞候補になった作品が日本でも刊行。異なる種族が呪いを解くという共通の目的のために、首輪をあるべき所に戻そうと協力する話。どこかで聞いた事があると思ったら、トールキンの『指輪物語』の指輪が首輪になっただけ。そういえば、ジョーンズはトールキンに師事していたのだから、初期の作品が似通っていても不思議はない。但し、全くのファンタジーではなく、現実の環境問題が入ってくるのはジョーンズのオリジナル。 既存の作品を読んでいたので、ある種の先入観を持って読んでいったが、近作とはかなり違っている。ファンタジーのセオリーにかなり忠実なので、毒気を期待していると肩透かしをくらう。また、ど派手な魔法も出てこず、原始的な呪文が出てくるのみ。《人間》の子オーバンが「よいドリグは死んだドリグだけだ。」と言う。これはアメリカ人の台詞「良いインディアンは死んだインディアンだけだ。」を想起させる。後に『ダークホルムの闇の君』で、あからさまにディズニーを揶揄したキャラクターが出てくるが、本作では現代社会への皮肉という意味で使ったのではないと思う。つまり、この作品、ジョーンズ作品にしては、すこぶる素直なのだ。 とはいえ、彼女の特徴もちゃんと出ている。まず、名前は大地を意味するガイアから取られた のだろう主人公・ゲイアのキャラクター。先見=予言者の姉、遠見や人の心理を動かす能力を持つ弟に挟まれて、目立たない存在である事を恥じていた少年が、物語の鍵を握る存在となってゆく過程で自信を得てゆく物語の骨格は、「クレストマンシー」シリーズに受け継がれている。 また、もう一つ。今回表紙には、沼の底で目だけがこちらを見ている謎の存在のみが描かれていて、人物がない。人物紹介もなかったが、中盤あたりでその謎が解ける。挿絵でも単独で人物を登場させたり、複数の種族を登場させる時には、近景と遠景で配置して、もともとの大きさを認識させないように気を配っており、物語に配慮した挿絵に驚く。異端、はぐれものと人は言うが、それはあくまで言っている側をスタンダードとした時の見方。では、視点を変えてみればどうなのか? この後『グリフィンの年』でもう少し入り組んで伝えられるメッセージ「みんなそれぞれ違っていても、うまくやっていく事はできるよ」が、とっても素直にストレートに打ち出された作品。【中古】 呪われた首環の物語 / ダイアナ・ウィン・ジョーンズ, 佐竹美保, 野口絵美 / 徳間書店 [単行本]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
October 16, 2021
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みなさん、こんばんは。衆議院解散しましたね。今日から2日間ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作品を紹介します。魔法がいっぱい―大魔法使いクレストマンシー外伝Mixed Magicsダイアナ・ウィン・ジョーンズ徳間書店最も美しく、最も恐ろしく、最強。そしてクール。ひと昔前の魔法使いのイメージは、ジョーンズ作品には当てはまらない。何せ、このシリーズ中最強の魔法使いとされるクレストマンシーでさえ、流感にかかって冴えないパジャマ姿で呼び出されるのだから。ジュリアン・サンズ演じる魔法使いと同じ名を持つ「なんでも屋の魔法つかい」もまた最初から、魔力を取られ、次に犯罪で食べていく事を考えるしょぼくれた奴として登場し、早々とこの定説を覆してくれる。盗もうと思った車に乗っていた、こまっしゃくれた少女、図体の大きな犬、果ては車のナビゲーターまでが、魔法使いをコケにする。とんだ車を選んでしまった魔法使いが運命の歯車に散々にいたぶられる物語「妖術使いの運命の車Warlock at the Wheel」をはじめ、「自分の立場をわきまえておらず、ひとところに落ち着いていることができないし、底が知れなくて何をしでかすかわからない」と人間を散々にこき下ろしたあげくに、人間界にやっかいを持ち込む神々の話「見えないドラゴンに聞けThe Sage of Theare」新参者のトニーノ(トニーノの歌う魔法―大魔法使いクレストマンシー)に対して人間並みに焼もちをやくキャット(「魔女と暮らせば」)の冒険を語る「キャットとトニーノと魂泥棒Stealer of Souls」ディズニーに続いて、映画製作者か、映画監督のパロディ?と思われる『夢見師』キャロルの物語「キャロル・オニールの百番目の夢Carol Oneir's Hudreth Dream」収録。とりわけ、「見えないドラゴンに聞け」は、親の方針でギリシア神話を読まされて、嫌で嫌でたまらなかったジョーンズのうっぷん晴らしとも言える神々の皮肉っぽい描写に大笑い。佐竹さんの、どこかデフォルメした挿絵が、普通でないジョーンズ・ワールドにはよく似合う。『中古』魔法がいっぱい—大魔法使いクレストマンシー外伝KSC
October 15, 2021
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みなさん、こんばんは。上皇さまが2日、誕生からの日数が3万2031日となり、史実がはっきりしている歴代天皇で最長寿だった昭和天皇(1901~89年)の生涯日数と並んだそうですね。今日も韓国小説を紹介します。声をあげます (チョン・セランの本 3)斎藤真理子訳亜紀書房SF小説を書く者なら誰でも一度は扱いたい地球滅亡、或いは管理が徹底した未来社会。チョン・セランの短編集にももちろん前者が登場。地球自ら地球温暖化等で滅びていくパターンと、外敵により滅びていくパターンがあり、後者は派手なドンパチが描ける。さて、チョン・セランが描く地球を滅ぼす相手とは意外で…。『リセット』地球滅亡、今回の場合は何と空から巨大ミミズが降ってきた!ミミズといえば食物連鎖の最下位に位置し、鳥やモグラに食われる運命にあるのに、地球を滅ぼすほどの力があるとはおみそれしました!いや、そもそも土を食うのに人間を滅ぼせるのか?いきなり肉食獣化?にしてはあのビジュアルのまま?さて、そんなミミズはどこからやってきたのか?答えはWEBで、じゃなくて本作で。『七時間め』大絶滅時代を経た近未来のお話。現代の風習のあれこれが、ここではえっらく気持ち悪がられている。そしてウィルス登場。全世界に広がるまでにそれほど長くかかりませんでした。最多の死亡者を出したアジアの独裁国家がWHOに対して発生を隠していたことも状況を悪化させましたおいおいおい。『メダリストのゾンビ時代』オリンピックがコロナ禍で大変な事になっているが、こっちの世界でもゾンビが出没し大変な事に。メダリストを目指す弓ガールだったジュンユンは、ツナ缶を食べながらゾンビ化したかつての恋人スンフンの攻撃を躱している。しかしそれもいつまで続くか。やがてジュンユンの体力が尽きた時現れるのは救済かそれとも。『新・感・染』か『ウォーキング・デッド』。『十一分の一』病気理由で辞表を出したユギョンが、本当の理由を打ち明けたい相手へジョンに書いた書簡体が小説になっている。かつて大学のサークルで紅一点だったユギョンには、憧れの先輩ギジュンがいた。しかし大学院に入った頃にギジュンの癌が再発して学校を辞め、サークルは空中分解する。そして変わり果てたギジュンとサークルの先輩たちに会ったユギョンは…。ベースとなっているのは白鳥に変わった兄を救うために健気な妹エルザが奮闘する童話『エルサと白鳥の王子』。ユギョンも自身をエルザに例えているということは、可愛いという自覚があるということだ。先輩社員がやたらユギョンのタメ口を咎めるのは、日本よりさらに年齢へのこだわりが強い韓国ならでは。本作は、著者が大学生の時に女性部員が全員脱走したサークルに残ってしまった経験がもとになっているらしい。物語もさることながら、女性部員が逃げ出す何をやったのか知りたいぞ男性部員。『 声をあげます』特殊能力を持つ仲間たちと共に収容所に入れられているスンギュンが主人公。彼の武器は声であり、殺人者を目覚めさせてしまうらしい。所長は声帯除去手術を勧めるがスンギョンは拒否。そんな時ヨンソンという新たなメンバーがやってきて彼の決心が揺らぐ。アレクサンドル・ソルジェニーツィンの『イワン・デニーソヴィチの一日』にインスパイアされたという。さあどの辺が?と思うかたは是非。『地球ランド革命記』なんだか健康ランドみたいなネーミングだが、れっきとしたテーマパーク。それも惑星全体がというからそのスケールたるや。なぜかというと、オリジナル地球がおっそろしく汚れちまった哀しみだから(そうは書いてない)。そんな第二地球に天使が登場するがトレードマークの羽に問題発生!神の領域の問題を人間が解決できるのか?他『小さな空色の錠剤』『ミッシング・フィンガーとジャンピング・ガールの大冒険』収録。声をあげます/チョンセラン/斎藤真理子【1000円以上送料無料】bookfan 2号店 楽天市場店
October 10, 2021
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みなさん、こんばんは。「Wの悲劇」の監督・脚本、「麻雀放浪記」の脚本などを手掛けた 澤井信一郎監督もなくなりましたね。今日も韓国小説を紹介します。サハマンションSaha Mansionチョ・ナムジュ斎藤真理子訳筑摩書房 名前は韓国風だが韓国とは特定していない近未来のどこかの国の物語。トギョンが死んでいるスーを置いて逃げる。トギョンの姉ジンギョンはスーパーから戻ってきてニュースでスーが死んだことを知る。トギョンを心配するジンギョンに、サハマンションの管理人が「やめとけ!」と鋭く言う。さあ、一体何が起こったのか? 最初の【姉弟】の章の次【サハマンション】にて物語の世界観が説明される。なぜかいち企業が国家を作ってしまった。その名は「タウン」で各分野に秀でた七人の総理が統治する体制をとっている。一見合議制のようだが議員はおらず、テレビラジオも一本化されて一局のみで新聞は統廃合、休日に三人以上の成人が集まる際は事前に許可が必要、等々事実上の独裁国家の態である。モデルは異なるが、現在じわじわと追い詰められているアジアの島を想起させる。 タウンでは専門技術或いは知識を持ち居住権を持つLと、二年間期間限定で居住権を持ち、引き続き権利を得るために検査を受け続けなければならないL2という国民のランクがある。正規社員と契約・派遣社員のようなものだ。更にその下位にランク付けされているのが、サハという。サハマンションにやってくる人達は皆訳ありだが、サハとは住人だけを指すのではない。誰もが厭がる仕事をこなし、蔑まれ、どう扱われようと、タウンの他の人達は気にもしない種の人々だ。住人たちの何人かの過去が後の章で明かされる。中心人物は【姉弟】の章の取り残された姉ジンギョンだが章の中には【現在】ではない時制も含まれジンギョンが知らない事実もある。 とことんまで虐げられた民衆の反攻に日本の小説よりも断然説得力がある。『82年生まれ、キム・ジヨン』 と同じ作者とは思えないハードボイルドSFだった。サハマンション [ チョ・ナムジュ ]楽天ブックス
October 9, 2021
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みなさん、こんばんは。「はらぺこあおむし」などの絵本で知られるエリック・カールさんが亡くなりましたね。今日から韓国の小説&映画を紹介します。まずは小説からです。誘拐の日 (ハーパーBOOKS)The Day of Kidnappingチョン・ヘヨンハーパーBOOKS物語は1989年4月24日、病院で妻子を失った男から始まる。「軍事独裁打倒を叫んで街路で火炎瓶を投げたこともある」という記述から、民主化運動真っただ中が青春だったことがわかる。彼は院長に切りつけるはずだったが、はずみで院長が連れていた少女を傷つけてしまう。 ここから物語は2019年に飛び、表紙の冴えないパーカーを着ている男ミョンジュンが、やはり何かを決意した場面で始まる。彼もまた白血病の娘のために病院長の娘を誘拐するところだった。とはいえ小心者の彼が計画を立てたわけではない。娘を生んだのち、あっさり離婚した元妻ヘウンが立案者だ。ところが車で飛び出してきた誘拐相手のロヒを轢いてしまい、ロヒが記憶喪失に(きたよ韓ドラ定番!)。彼女に父親だと宣言して家に連れてくるものの、贅沢になれたロヒは、あれこれ文句を言ってミョンジュンを困らせる。電話だけの指示でヘウンの計画に乗ったり、ロヒに翻弄される描写から、間違いなくミョンジュンはヘタレ主人公設定だ。誘拐犯とはいえ「逃げたら殺すぞ」と脅す風もないことから、彼の人の好さはたとえ記憶喪失でもロヒには駄々洩れだ。ドラマ化決定しているらしいが、おそらくミョンジュンにはイケメン枠を当ててくる。 物語は疑似家族と化していくミョンジュンとロヒの道行と、全ての計画を立てたヘウンの目的が明かされる過程を並行して描く。金持ちにない情が貧乏人にありあまる韓国人情ドラマのようなミステリ。送料無料【中古】誘拐の日 (ハーパーBOOKS)ブックサプライ
October 8, 2021
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みなさん、こんばんは。ノーベル物理学賞が5日に発表され、日本出身でアメリカ国籍の真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員らが選ばれました。真鍋氏は二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化に影響するという予測モデルを世界に先駆けて発表した人物です。さて今日は蜂視点で書かれたSF小説を紹介します。蜂の物語The Beesラリーン・ポール 早川書房 蜂の世界にも階級がある。もちろんトップは女王蜂だ。働きバチは全て雌で、蜂の社会では雄蜂は巣の中では働き蜂に餌をもらう以外特に何もしない。ただ女王蜂との交尾が終わると雄蜂は速やかに死亡し、新女王蜂はこの死体をぶら下げてしばらく飛翔する。やがて交尾器がちぎれて雄蜂の死体は落下する。童貞脱出の一瞬後は死。これぞ至福のエクスタシー。雄蜂は一瞬に命を賭けて消えていく花火。交尾に成功しなかった雄蜂は生き永らえるかと思いきや、繁殖期が終わると働きバチに巣を追い出される粗大ごみと化して死に絶える。 果樹園の蜂の巣で、最下層の蜂として生を享けたフローラ七一七。女王を崇めて労働を称える教理により厳重に管理される蜂社会で、フローラはほかの蜂とは異なっていた。育児室の世話をし、花蜜を集めることになった彼女は、巣の存続の危機が迫るなか、女王にのみ許される神聖な母性を手にした。卵を産めるのだ。これがどれくらい特別な事かというと、普通働きバチは女王蜂の分泌するフェロモン(女王物質)の作用で卵巣が萎縮するので産めない性となる。要は「あんたはじっこ歩きなさいよ」と言われて心身ともに遠慮するわけだ。ところがフローラは違った。 同じ種類の蜂の中でキャラクター分けをどうするか。作者は摘んでくる蜜に由来して、サルビア族などの名前を付けた。ヒロインはフローラ族。Flora=雑食食いという意味で、極上の花の蜜をとれないから最下位扱いなのだろう。 蜜蜂の実際の生態をもとにして蜂の巣の全体主義的社会を描き、『侍女の物語』になぞらえて評された。「受け入れ、したがい、仕えよ」「われらが母よ、汝は子を産むものなり」等、謎のマントラを唱える所がその理由だ。人間を含めた自然界の脅威が、蜂にとってはこんな風に見えるのか。物語を読むために蜂の身になってあんなことやこんなことをイメージするのは新鮮な読書体験であった。蜂の物語 [ ラリーン・ポール ]楽天ブックス
October 7, 2021
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みなさん、こんばんは。フランス1部のマルセイユを退団したサッカー日本代表DF長友佑都が、古巣のFC東京に11年ぶりに電撃復帰するそうです。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。これもフレンチが警視になってからの話です。フレンチ油田を掘りあてるFrenchi Strikees OilF・W・クロフツ創元推理文庫井上勇訳邦題では、まるでフレンチ警視が警察をやめて石油成金になって暮らすかのようだ。いや、あの庭仕事が趣味の彼が?ないない。原題は英語の慣用句で「うまい儲け口にありつく」という意味と実際に石油を掘り当てる話とを両方踏まえている。 ロドニー・ヴェールは弁護士として働くはずが、出征して勲章をもらったことから、平凡な日常に物足りなさを覚えていた。常に冒険を追い求めている彼に持ち込まれたのが石油採掘だ。しかし一攫千金の賭けに身を投ずるなら、辺り一帯を買占め、当人たちも別の場所で生活する必要がある。家長でありロドニーの父親サー・リーは合議制で決めようと提案。賛成したのはサー・リーの甥ジョージ、次男のルパート、反対したのは、長男モーリス。中立の立場にいるのが、サー・リーとジョージの妻ポーリン。モーリスは申し分のない長男だが、それだけにお堅い。ルパートは出征したが、弟のロバートより階級が下で、ポーリンに言わせると“一家の黒い羊”らしい。そして数日後、モーリスの死体が踏切で発見。自殺か事故か、はたまた他殺か。 本来警視になっているフレンチが自ら乗り出す事件ではないのだが、副総監が「風邪ひいてるみたいだから転地療養みたいな感じでちょっと行ってくれば?」と言われ、いそいそと出向く。なんていい上司だ。本来倒叙方式なので、先に事件の真相が明かされ、フレンチ警視が後追いするパターン。ところが本編ではモーリスが死んだ事のみが明かされ、読者はフレンチ警視と同様、何か隠しているらしい関係者の秘密を探っていく。フレンチもいつものこつこつ捜査で「この人が犯人では?」という相手を早々に見つけるが、能力、動機、状況証拠があっても決定的な目撃証言がないためラスト直前までもつれる。さて、あなたはフレンチより先に犯人を見つけられるか?
September 28, 2021
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みなさん、こんばんは。プロ野球、日本ハムでチームメートに暴力をふるい出場停止の処分を受けた中田翔選手が巨人に無償でトレードされましたね。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。ただしこの作品では警視になってますけどね。フレンチ警視最初の事件Silence for the murdererF・W・クロフツ創元推理文庫リデル弁護士はダルシー・ヒースの奇妙な依頼を反芻していた。裕福な老紳士が亡くなり自殺と評決された後に他殺と判明して真相が解明される、そんな推理小説を書きたい。犯人が仕掛けたトリックを考えてくれという依頼だ。何だかおかしい、本当に小説を書くのが目的なのか。リデルはミス・ヒースを調べさせ、ついにはスコットランドヤードのフレンチ警視に自分の憂慮を打ち明ける。サー・ローランド事件の再捜査が始まると、検視審問の評決が覆る。 この話の前に、まずダルシーが熱愛してやまないフランクを迎える所から始まる。このフランク、ダルシーも充分自覚しているように「話に乗せられやすく、自分のものと他人のものの区別がきちんとできない」「ひと目見て気に入るとくだらない物でもむやみに買ってしまう」典型的なだめんずだ。しかし恋は盲目、ダルシーにとっては全ての欠点が「彼には私がいなくては」という強烈な動機になり、ずるずると彼の詐欺に加担することに。やがてフランクが玉の輿の縁を手にしたため縁遠くなったにも関わらず、一途に彼を思い続ける。 まあ本作の登場人物たちの優しいこと!どんなにだめんずでも、自分を捨てていこうとする男でも変わらず愛し続けるダルシーを筆頭に、彼女とフランクを一度雇っていた医師のバートやその患者たちも、二人に多大なる迷惑をかけられたにも関わらず許してしまう。何でそんなに優しい?初犯だから?心に余裕がある人達だ。もうちょっと二人にはお灸をすえてほしかった。
September 27, 2021
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みなさん、こんばんは。体操の白井健三さんが引退を表明しましたね。今日もF・W・クロフツのフレンチ警部シリーズを紹介します。山師タラントJames Tarrant adventurerF・W・クロフツ創元推理文庫本シリーズは倒叙形式のため、我らがフレンチ警視が登場するのは、いつも物語の序盤以降だ。本編でも同様である。そのため「タラントは金がー金と贅沢と、なににもまして、金がもたらす権力がほしかったのである。金のためなら、もし、それが満足するだけ得られるものなら、よろこんで魂とひきかえただろう。」という記述にもあるように、途中までは野望を持った男性がのし上がっていくピカレスク小説のようでもある。手元不如意のタラントが眼をつけたのは、銀行に金を持ち、看護師で薬製造の責任者として適任な女性・マールだった。「娘たちはすすんで、喜んでタラントに拠れこみ、じっさい、時にはそれがあまり手軽すぎて、とまどいさせられるほどたった。タラント自身は、彼女たちに気はなかったーいずれにせよ、たいしては。」と書かれているタラントだから、彼女の篭絡などお手のものだ。彼女はタラントの思惑も知らず、たちまち彼に夢中になる。「ついに求婚だ。マールはそれ以外には、なにもありえないと感じた。ふたりの間には、ほかになにものも、いままで話したり、当面したりしていたなにものもなかった。そうだ、長いあいだ待ちに待ったものがついにやってきたのだ―彼女の生涯の最大の日が。」彼女の協力を得て詐欺まがいの商法で顧客を増やし、既存医薬会社との攻防に至る過程は、企業小説のようだ。そして終幕には裁判が登場し、さしずめ法廷劇である。p192にしてようやくフレンチ警部登場。庭で「してはいけないと知っていることをしていて、ある程度の危険を犯そうとでもしているように見えた」と何とも物騒な登場の仕方だが、要は妻のいないうちに芝を掘り起こそうとしていただけだ。そこに事件捜査の電話が入る。ラスト、フレンチ警部が上司に「終わりよければすべてよしだよ」と慰められる。ををシェイクスピアだ。フレンチ警部に何が?
September 26, 2021
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みなさん、こんばんは。真子様ととかく噂のあった小室圭さんが年内結婚されるとか。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。死の鉄路Death On The WayF・W・クロフツ創元推理文庫「停止! 停止! 線路上に何かある!」複線化工事に従事する見習技師パリーの乗った機関車が停まったときには、すでに黒い塊を轢いたあとだった。そしてそれは彼の上司アッカリーの無残な死体だったのだ。翌朝の検死審問では事故死の評決が下されるが、フレンチ警部が捜査に乗り出すや、事件の様相は一変する。 クロフツが、作家になる前鉄道技師をしていた事はよく知られている。本作はその強みが生かされた。グリンズミード事件(『二重の悲劇』)直後のフレンチ警部は、ブリュッセルに行くことになっていたが、レッドチャーチの轢死事件を調査するよう依頼される。 ロンドンだけでない事件を解決するために“何かと理由をつけて”地方の事件に引っ張り出されるフレンチだが、地方はスコットランドヤードが出張ってくることを、必ずしも快くは思っていない。そのため地元警察との反発を避けるために、いろいろとフレンチは気を遣う。例えばこんな知らない振りも。「フレンチはていねいに応じたものの、腹のなかでは笑っていた。地方からの依頼で捜査に出向くと、きまってこういう調子の前口上を聞かされる。地元の職員が捜査に取り組んだのだが、とても歯が立たないことがはっきりした、と打ち明けられた例はなかった。他の事件で手がふさがっていて、お願いした件には専念できない状態にある、というのがきまり文句なのだ。まあしかし、それは人間としては避けがたいことだ。その点に関して、フレンチは常に地元の人の顔を立てることにしていたし、このやり方はご利益があった。」 しかし地元警察に気を遣っても、それ以外の所から綻びが出てくることもある。活躍を書いてくれるワトソン博士がいないにも関わらず、フレンチ警部は地方では有名人らしい(クチコミ効果?)。チャールズ・ユーイングという貝類学者が、事件に関係する自転車を見ていたことをフレンチに打ち明けにくる。その時にフレンチを有名人扱いしたため、地元のレッドチャーチのロード警視がちょっとむっとする場面があり、フレンチもその事に気づく。 とはいえ、地元警察の捜査が往々にして稚拙であることも確かで、フレンチ警部は密かにこんな事を思っていたりもする。例えば地方警察が見落としていた証拠を見つけた時は「わたしのおこなったこの実地検証の見事さはどうだ!地元の捜査官など遠くおよぶところではない。エメリーがこの梁を調べていないことに、かなりまとまった金を賭けてもいい。かりに調べていたとしても、それが物語っていることに気づかなかったのだ。それに、わたしばかりでなくロードや署長も灯りのことを知っているのに、彼らはその重要性に気づくだけの頭を持っていないのだ。因果なことに地方の警官には、想像力がまるでない!連中がスコットランドヤードに助けを求めるのも無理からぬことだ。」をを、ちょっと自慢気? そうかと思えば「うん、こいつは警告だ。このところわたしは、あまりにも調子にのりすぎていた。その結果がこのざまだ。」と自己嫌悪に陥る。今回のフレンチ警部は、心の葛藤がいろいろと忙しい。
September 25, 2021
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みなさん、こんばんは。林遣都くんがAKB48の大島優子さんと結婚しましたね。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。フレンチ警部と紫色の鎌The Purple Sickle MurdersF・W・クロフツ創元推理文庫 コナン・ドイルの『赤毛連盟』やクリスティの『料理人の失踪』は、一見犯罪とは関係のなさそうな出来事が、後に大事件に繋がっていく。本編も同様である。 映画館の切符売りをしている女性がフレンチ警部を訪ねてくる。誘われるままに深入りした賭け事で借金を作ってしまい、返済のために怪しげな提案をのまざるを得なくなった彼女は、紹介された男の手首に紫色の鎌形のあざを見つけて、変死した知り合いの娘が残した言葉を思い出したというのだ。彼女は更に「最近友達が亡くなったが、実は殺されたのではないかと思っている。そして私も殺されるのでは?と思っている」と言い出すので、妄想が過ぎるのではないかと軽く聞いていたフレンチだが、次第に彼女の話に興味を持つ。 紫色の鎌が凶器?と思わせる邦題だが、犯人の特徴に過ぎない。もっと他の邦題でもよかったのでは。 本編では珍しくフレンチが訴えてきた相手をみすみす死なせてしまい、のっけから後悔にさいなまれる。倒叙ではないので読者にも犯人たちの狙いがわからず、糸口が見つからないフレンチはつい弱音を吐くが、そんな時に彼を励ますのが頼れる奥様だ。別作品ではクルーズに連れていってもらっているが、内助の功の積み重ねを考えると、そんなご褒美では足りないのでは(その時もご褒美ではなく仕事だったし)。 いざという時の切符売りの女性モリーの勇気ある行動といい、本編は女性の強さが目立った。「妻がいなければプロポーズしてたかも」とフレンチ警部が彼女に言う場面も。
September 24, 2021
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みなさん、こんばんは。NHKの桑子アナと小沢征悦さんが結婚しましたね。今日もクロフツ作品を紹介します。フレンチ警部の多忙な休暇Fatal Venture.W.クロフツ中村能三訳 旅行会社の事務員ハリー・モリソンは、行った事がないのに客の質問には何でも答えられるペーパー添乗員。ある時社員のピンチヒッターとしてチャンスが回ってきた旅行先で、イギリス周遊の観光船企画を持ち掛けられる。新規事業なので資金が必要だが、そこでハリーが目をつけたのは「ありとあらゆる旅行をしてきた」と豪語する事業家ジョン・M・ストットだ。幸いストットはハリーを気に入っており、出資に意欲を示す。ところが周遊船の計画はいつしか賭博室を設けた観光船運航になり、完成したエレニータ号によって、アイルランド沿岸の名所めぐりが始まった。モリソンはストットの姪マーゴットに夢中になり、彼女もまた好意を抱くが、一方でストットには不満が溜まっていた。そんな時殺人事件が起こる。 「第一部の語り手ハリーがおバカすぎる」という書き込みが散見された。確かに自分の会社に就職している状態で、有力顧客を他社の出資計画に誘うなんて明らかな裏切り行為である。また、彼は被害者を偶然見つけてしまうが、すぐに通報しない。自分が被害者に悪感情を抱いていたのを知っている人がおり、容疑者になるのを避けるためだ。更に、死体からある人のボタンを取ってきてしまうという怪しい行為を重ねてしまう。うーんやっぱりおバカかも。 今回遂にフレンチ警部の妻が登場!なんと夫と一緒にクルーズ旅行に!えっ、ご褒美旅行?そんなに暇かフレンチ警部。世界は平和なのか。いや、これもちゃんと捜査の一環。というか、妻を引っ張り出すなんてワーカホリックが過ぎるフレンチ警部。「仕事は仕事、プライベートの旅行は旅行!」とちゃんと断ろうよ。エレニータ号はイギリスを周遊しながらも国籍はフランスにしてあるため、限定的にしかイギリスの司法権が及ばない。かねてから賭博船の存在をいまいましく感じていた政府筋から依頼を受けたフレンチ警部が、別人としてエレニータ号に乗り込む。するとそこで事件に遭遇し、結局もとのフレンチ警部に戻る。さあ、フレンチ警部は殺人事件の解決と賭博の阻止、二つのミッションを成し遂げられるのか?
September 23, 2021
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みなさん、こんばんは。今夜は中秋の名月でしたね。今日もクロフツ作品を紹介します。マギル卿最後の旅Sir John Magill's last journeyF・W・クロフツ東京創元社 本作はフレンチ警部シリーズでも一、二を争う“代表作”らしい。とあって、著者も煽る煽る。「ジョン・マギル卿事件は、フレンチが今までに取組んだ難解な事件中でも最大の難解な事件と言ってよかった」「長いあいだその例を見なかったほどの陰惨な悲劇の、開幕を告げるベルが鳴りだしたわけなのだ」 ところが、当のフレンチ警部はこの事件に乗り気ではない。時系列としては『フレンチ警部と紫色の鎌』から13か月経過という設定。大変な事件をこなしてきたばかりだ。 上司のミッチェル主席警部に呼ばれたフレンチ警部は、ベルファスト駐在のアルスター警察署の部長刑事アダム・マクラングから協力を頼まれる。ロンドンの富豪マギル卿が息子の工場へ出向くといって邸を出たまま、消息を絶ってしまった。北アイルランド警察の捜査では卿の帽子が見つかっただけだった。アイルランドでいなくなったんだからアイルランド警察が探せばいいじゃん!とフレンチ警部は何度も固辞するが、なぜかアイルランド警察は退かない。マクラング警部「われわれの知りたがっていることは、たいていロンドンで探れるのではないかと思います。」アルスター警察署長レイニイ警視「イングランドで計画し、イングランドの悪人どものやった、イングランドの犯罪だよ!ぼくが前にも言ったとおりではないか?」「きみにはロンドンで努力してみてもらう必要がある。ジョン卿の家から、あの男の足どりが辿れるかもしれない。」「“問題はぼくの一番最初の理論に帰ってくることになる―つまり、完全な解答は、ロンドンで見出せるはずだ”という」あくまで謎の中心はロンドン説を唱える。 上司にも言われて渋々捜査したフレンチ警部だが「だいたいに、彼はなじみのない警察と協力して仕事をするのは嫌いだった。常に、こちらは招かれて行っているにもかかわらず、嫉妬が生じた。彼が仕事を手伝ってやっている人たちが、鼎の軽重を問われているように思うらしかった。従って、しばしば暗黙の敵意に当面させられ、それを征服するために、エネルギーの半分をつかわせられるしまつだった。それだけではなく、どんなに好意を持っていてくれたにしても、なじみのない人からは、平成自分の訓練した部下から絵ているような助力は、頼めるものではなかった。」という優秀な刑事故の悩みに加えて「一方フレンチ警部はこの事件の謎の解決はアイルランドにひそんでいると、彼は信じていただけでなく、ロンドンで調べる必要のあることはもうこれで片づいたという気がした。」「フレンチは首を振った。自分には、ロンドンで探り出せることはもうないように思う。そりゃ悦んで引き返して、もう一度やってはみるが、その結果にはほとんど希望が持てない、と彼は言った。」鍵はアイルランド!という考えが消えない。この問答が作中かなりのボリュームで登場。いや、どっちでもいいから早く事件解決を!そもそもイングランドとアイルランドは歴史上の対立もあったので、その辺りを意識しているのかもしれない。『中古』マギル卿最後の旅 (創元推理文庫)KSC
September 22, 2021
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みなさん、こんばんは。海の向こうで大谷選手の活躍が止まりませんね。今日もフレンチ警部シリーズを紹介します。サウサンプトンの殺人Mystery of Southampton WaterF・W・クロフツ創元推理文庫大庭忠男訳セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、経営危機に陥った会社を救うためにライバル会社の工場に忍び込む。セメントの新製法を盗み出そうとしたのだが夜警につかまり、殴り殺してしまう。自動車事故を偽装して死体を始末するが、主席警部フレンチが立ち上がる!ジョイマウント社は近頃業績不振に悩んでいた。というのもライバルであるチェイル社のセメントの方が、遥かに品質がよく、かつ安価なのだ。技術者ならばライバルに負けない製品を作る方に注力すれば良いものを、最初から社長の飲み物に一服盛って鍵を手に入れようとしたり、やり方がおよそ技術者らしくない。切羽詰まっているとはいえ、他人の技術を盗んでそれで満足なのか。大体ライバル社が気づかないとでも?売り出した製品は勝手に調査できるから、同じ成分だったらあっさりばれてしまう。技術競争するよりも、偽装したり盗んだりと犯罪に傾きがちなジョイマウントの社風が大いに心配だ。 さて、今回クロフツは主席警部昇格直後である。出世志向が強かっただけに喜んでいるかと思いきや、元同僚との間に壁を感じて落ち込んだり、なかなか事件の糸口が見つからずカーターに八つ当たりする(こらこら)。というのは、ジョイマウント社、結構頑張るのだ。まんまと秘密を手に入れたと思いきや、やはりあっさりバレて今度は恐喝されるが、それでも何とかして企業存続のために力を尽くす。“企業存続に奔走する”と書いたら池井戸潤作品みたいでいい話のように映るが、そもそもの出発点が間違ってるから!『中古』サウサンプトンの殺人 (創元推理文庫)KSC
September 21, 2021
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