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みなさん、こんばんは。新型コロナ騒ぎでマスク着用を拒んだ40代の受験生が共通テストで騒ぎを起こしましたね。今日からジョン・ディクスン・カー作品を紹介します。死者はよみがえるThe Wake the Deadジョン・ディクスン・カー橋本福夫訳創元推理文庫よくある話だ。「小説を書かないではおれないのなら、少なくとも体験を材料にして書くべきだ。人生についての豊富な知識をもとにしてな」 小説の内容は経験から来るという持論を展開したのは友人ダンだった。新進作家クリスチャンの持論は「経験なんかなくてもいい小説は書ける」ならやってみろと言うわけで、ダンはクリスチャンに南アフリカからの無銭旅行をして、再会する日まで指定する賭けを提案。何とかロンドンには着いたものの一文なしになっていたクリスチャンは、約束の日が明日にせまっているというのに空腹を我慢できず、やむなくホテルに飛び込む。客にみせかけて無銭飲食をきめこんだが、ホテルの人に「部屋にいる奥様を見て欲しい」と言われて入った先には女性の死体が。クリスチャンはフェル博士に助けを求める。ミステリ作家が自らミステリに巻き込まれてしまったというわけだ。お得意の推理力を活かして…とはならず、活躍するのはフェル博士。全てを終えたクリスチャンは、まだまだ人間観察が足りないと思い知ったひとこと。「当人と話をしている時ですら、相手が何を考えているかわからないときているんだから。いったいこんな状態をどう名づけたらいいんだろう?」フェル博士「わしなら、そういうのを推理小説(detective story)とよぶね」 しかしフェル博士、あなたは毎度毎度優秀なハドリー警視にいつも何をしてるのか。「あなたのそういう口ぶりにはもうだまされないぞ」「前もっていっとくがね、あなたはそうやって聞いていて、こっちの分析をなにもかもしゃべらせたうえで、手を振って、そんんあことはとっくに知っていたが重要な点などはないなどとかたづけられるのはまっぴらだぞ。今度の事件だけはそっちにも公平にやってもらうつもりだ。賛成しようと反対しようと、そんなことはどうでもいいが、まちがった方向に導いたりしないこと。それでいいかね?」と釘を刺されてしまう。相変わらずいらんことしいの虫はおさまらないようで。死者はよみがえる【新訳版】 (創元推理文庫) [ ジョン・ディクスン・カー ]楽天ブックス
January 27, 2021
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みなさん、こんばんは。日本でも変異種が市中感染ってこわいですね。ユッシ・エーズラ・オールスンの特捜部Qシリーズ最新作を紹介します。特捜部Q―アサドの祈り―Offer 2117ユッシ・エーズラ・オールスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス 前作『自撮りする女たち』がローサ回だとすれば、本作はアサド回。見るからに「あっこいつ熱血だけど弱そうだ」のカールの対極に位置し、常に冷静沈着で無敵だったアサド。彼がいればどんな悪党も倒すことができるだろうと確信を抱かせる絶対的存在。ラクダ絡みの格言を言うのが好きなオトボケ具合もご愛敬。映画版ではイケメン。そんなアサドが記事に映った女性を見て取り乱し、何とロー初っ端からローサとあんなことに。どうしたんだアサド。いきなり別のドラマが始まったかと思ったぞ。1.偶然難民が打ち上げられた現場にいたことから一連の出来事に巻き込まれてしまうジャーナリストのジュアン2.ジュアンの記事に掲載された写真の女性(アサドと訳あり)を見たことから自分にあるミッションを課す引きこもり(語源は日本!)ゲーマーのアレクサンダー3.アサドを仇として狙う一味主に上記の複数視点の物語が展開し、カールとアサドが途中から加わる。某人物には“あとX日”というカウントダウンが書かれることで、いやが上にもサスペンスは盛り上がる。今回は犯人探しのミステリ色は薄く、複数人物がある瞬間に向かってゆく緊張感を味わう物語になっている。中でも3の中の揺るがぬ悪役の存在感が圧倒的だ。こういういい悪役が出て来ると、主人公達の動きもぴりっとする。 3においてアサドの壮絶な過去が明かされる。彼はいかにして無敵になったのか。ラースはなぜ彼を特捜部Qに入れたのか。カールの過去の事件の真相が明かされるような話が出る一方で、アサドには新たな悩みが加わる。家族や友人の絆や倫理観よりも聖戦思想に突き進む自爆テロ犯人が起こす悲劇は、小説の中だけでなく現代社会でも実際に起きている。“家族と幸せに暮らしたい”アサドの願いは皆の願いだ。テロ根絶への想いを強くする一冊。 特捜部Q-アサドの祈りー (ハヤカワ・ミステリ 0) [ ユッシ・エーズラ・オールスン ]楽天ブックス
January 25, 2021
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みなさん、こんばんは。探査機「はやぶさ2」のカプセル地球に帰還し、現地チームが回収したそうです。おかえり、はやぶさ2。今日もリーバスシリーズを紹介します。滝 (Hayakawa pocket mystery books リーバス警部シリーズ)The fallsイアン・ランキンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス銀行家の娘フィリッパが失踪。警察は第一容疑者として彼女の恋人デヴィッドを疑うが、フィリッパのパソコンを調べていたシボーンは、クイズマスターと名乗る人物が彼女にメールを送っていたことを突き止める。失踪と関係があるのではと睨んだシボーンはクイズマスターと連絡を取ろうと試みる。一方アナログ派のリーバスは、フィリッパの実家があるフォールズで、人形が載った小さな棺に目を止める。やがてリーバスはこれまでにも失踪・変死事件が起きていると訴えるが…。 メインとなる事件以外に、署内の人事関係にも焦点が当てられる。『銃と十字架』以来リーバスの上司だったファーマーが退職し、後釜の主任警視にはリーバスの元カノジル・テンプラーが就任。管理者としてリーバスを指導しなければならないジルは、シボーンを自分の後継者と見定めて「出世するならリーバスから離れろ」と暗にアドバイス。言われたシボーンも気持ちがぐらつくが、自分に気のある刑事グラントから「これって、ジョン・リーバスの影響なんだな?何もかも取り込むこと。捜査のすべては自分にかかっており、自分一人の力でやれると思いこむことだよ」と言われるように、他人の方が彼女とリーバスの相似性を見抜いている。シボーンは師弟の情(師弟だけじゃないかもしれないが)を乗り越えて出世街道を進むのか。一方野心に駆られたエレンは与えられた広報係で失敗して焦る。男性より更に狭き門=少ないパイを巡って傷つく女性達に比べ、出世とは一生無縁でいたいリーバスだけがどこ吹く風で事件だけを見つめている。 ドイツ・ミステリ大賞翻訳作品部門受賞。【40%OFFクーポンご利用で1962円 送料無料】 裏起毛 パンツ ボトムス 選べるデザイン ワイドパンツ 10分丈 レディース 大きいサイズ ゆったり 秋冬 冬 あったかい 冷え ぬくぬくパンツ 防寒 バックウエストゴム ミディアム丈 ロング メール便対応可 圧縮価格:3270円(税込、送料無料) (2020/11/15時点)楽天で購入
January 17, 2021
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みなさん、こんばんは。あっという間に緊急事態宣言が11府県に広がりましたね。今日もリーバスシリーズを紹介します。死せる魂 (Hayakawa pocket mystery books リーバス警部シリーズ)Dead soulsイアン・ランキンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス冒頭、身を投げようとする男がいる。背後から近づいてくる人影も描かれているが、男は落とされたのではなく、自ら身を投げた。 その男が誰かはすぐわかる。リーバス言うところの「すべてを兼ね備えていた」刑事ジム・マーゴリスだ。彼は公園の崖から墜死した。動物園で動物を毒殺しようとしている犯人を張っていたリーバスは、小児性愛者ラフを見かけて注意を逸らしてしまう。ポカ続きを上司に見とがめられた彼は、恋人になるかもしれなかった女性ジャニスから、失踪した息子デイモンを探して欲しいと頼まれる。折しもアメリカで連続殺人を犯し、15年の刑期を終えた男オークスが故郷エジンバラに戻って来る。警察は厳戒態勢を敷くが、オークスはそれをあざ笑うかのごとく町を徘徊する。 作品のメインテーマは小児性愛犯罪である。カトリック教の総本山でも問題になったが、問題が問題だけに被害者が訴えづらく、かつ被害者が成長して加害者に転じる危険性も秘めている。スコットランドでも聖職者の名のもとに外見上は立派な大人が子供達に対しておぞましい行為を行い、それらが表ざたにされていないこと、そして犯罪者の再犯率が非常に高いことが本作を書いた動機らしい。 彼の記事を書いて儲けようとする記者を翻弄し、リーバスの知人達の周辺に登場しては彼を挑発する大胆不敵な悪役・オークス。本作一話限りの登場が惜しいくらい大きな存在感を放つ。 対するリーバスは、時系列的には『首吊りの庭』直後になる。相棒刑事モートンを亡くし、娘サミーは車椅子が手放せない身に。本作で頻繁に“亡霊”という言葉が登場するが、50を過ぎた彼に様々つきまとう過去の因縁も“亡霊”である。そのせいで、猪突猛進で前しか見ない彼にしては珍しい、こんなコメントも残している。 「自分が天職意識をまったく持てなくなったこと、警察という機能、というか警察の存在そのものすら肯定的に考えられなくなったことについて、そんな思いに怯えて不眠に苦しめられ、悪夢に取りつかれることについて。昼間ですら自分の周囲に亡霊が出没していることについて。そして今はもう警官であることがいやになっている自分について。」一体どうしたリーバス。昇任まで断って生涯現場主義だったはずなのに。本編では行き過ぎたリーバスの行動が生む悲劇についても触れている。“一度罪を犯した者は一生犯罪者である”という信念のもと、執拗にラフを追い詰めるそのやり方に違和感を覚える読者もいたようだ。『中古』死せる魂—リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC
January 16, 2021
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みなさん、こんばんは。東京オリンピックで東洋の魔女の異名を取ったバレーボール選手井戸川絹子さん、旧姓、谷田絹子さんが亡くなりましたね。今日もリーバスシリーズを紹介します。血の流れるままにLet It Bleedイアン・ランキンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックスリーバスにしては派手なカーチェイスシーンから幕が開く。エジンバラ市長の娘を誘拐した若者二人を追っているのだ。ところが逃げ場を失った彼等は河に身を投げ自殺する。またある時、元受刑者が区議員の前で自殺。それぞれの事件を調べるリーヴスは、有力者や警察から捜査を止めるよう圧力をかけられる。 原題はLet It Bleedでストーンズの曲から取られている。リーバスを悩ませ続ける歯痛の状態、汚職に塗れている国スコットランド、そしてほとんど干からびるまで血を流した(リーバスの)良心を象徴している。 後の上司になるシボーン・クラーク刑事は、署内で四面楚歌のリーヴスの数少ない部下。「署内にいると煩いから休暇を取れ」と言われたリーバスがすんなりその言葉に従うはずもなく、あちこちうろつきまわれるのは、彼女の助けあってこそ。何と本巻でリーバスに昇進話まで持ち上がるが、もちろんこの昇進は条件つき。リーバスならばさもあらん、と思われるが、もったいなくもその話をライバルに譲ってしまう(赴任地が田舎町だったというオチあり)。信念と刑事の勘を頼りに突き進む一匹狼、家庭には恵まれない。ハードボイルドなはみだし刑事は、自分の決断の報いを次作「黒と青」で受ける。 スコットランドのマイクロソフトを作ろうとする企業家の話が作中に登場するが、実際スコットランドは西欧で有数の電子産業生産地だそうだ。『中古』血の流れるままに—リーバス警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)KSC
January 15, 2021
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みなさん、こんばんは。東京オリンピック 野村萬斎さんらが参加の演出チームが解散しちゃうんですね。今日からイアン・ランキンのリーバス刑事シリーズを紹介します。紐と十字架Knots & Crossesイアン・ランキンハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス冒頭で誰かが少女を誘拐する場面が出て来る。当然ながら正体は明かされない。ただ男性というだけだ。各章タイトルがジョン・リーバス刑事に送られてくるメッセージの内容を引用している。 本作がジョン・リーバス第一作で、日本に登場したのは「黒と青」 が先になる。「どれから読んでもらってもいい」とイアン・ランキンは述べているが、リーバス刑事の変化を感じたいならやはり第一作は読んでおくべきだ。最近作のリーバスとはイメージがまるで違うのだ。 リーバス刑事は二人兄弟だが、結婚して子供もいて父の後を継いでいる弟の催眠術師マイケルの方が成功者だ。但しジョンがリンゴ飴みたいな甘い臭いを嗅いだり、彼が帰った後でマイケルが椅子に隠していた灰皿を出したりと、マイケルが“見せかけの成功者”であることは早々に示唆され、徐々に彼の危ない仕事が明らかになってゆく。 マイケルを追いつつも、その兄ジョンも関わっているのではないかと二人を追う新聞社の記者ジェフ・スティーヴンスが本編のもう一人の主人公だ。「陰の大物たちが沈黙を守り、秘密を保ち、素知らぬ顔をしていること」を腹立たしく思いながらも、「陰にいる大物を狙ってはならないという暗黙の了解をわきまえている。そんなことをすればエジンバラ市の実業家や高官、爵位のある地主やニュータウンに住むメルセデス・ベンツの持ち主を巻き込むことになる」という裏の縛りに苛立っている。。“犯罪記事担当の花形記者”と持ち上げられつつ、その実「組織を背景にした力を持つメッセンジャーボーイ」に甘んじている彼にとって弟の麻薬売買に関わっている悪徳刑事は、恰好の標的なのだ。 本編のジョン・リーバスは四十一歳。教師の妻とは離婚したばかりで、仕事にもいまいちやる気がおきない。なんてこった、熱血刑事が熱血じゃない。これでは、まだ登場しない宿敵カファティと渡り合える図太さなど欠片も見当たらない。なぜこうなったのか。離婚の原因にもなったSAS時代のトラウマが随所で紹介され、女性といる時に涙する(こういうことするからもてるんだ)ナイーヴなリーバス刑事の姿が拝める。そんなリーバスが少女誘拐事件と関わり、おまけに謎の人物からメッセージを送られることで、自らの過去と強制的に向き合わされながら、勇気を振り絞って熱血を取り戻しつつある姿が描かれる。とはいえまだ途上。彼にはこれから長い道がある。『中古』紐と十字架 (ハヤカワミステリ文庫)KSC
January 14, 2021
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みなさん、こんばんは。大相撲貴景勝がぴりっとしませんね。さて今日はファンタジー小説を紹介します。銀をつむぐ者 上 氷の王国と魔法の銀Spinning Silverナオミ・ノヴィク訳那波かおり静山社ドイツのグリム童話『ルンペルシュティルツヒェン』では、貧しい粉引きが、王に「うちの娘は藁を紡いで金に変えることが出来る」と嘘をつく。王は娘を王妃にすることを条件に藁を金に変えるように迫り、塔の上に糸車と藁とともに娘を閉じ込める。三日後の朝までに金が紡げないと彼女は殺されてしまう。娘が泣いていると小人が現れ、最初の晩はネックレスと引き換えに金を紡いでやろうと迫る。次の晩は、指輪と引き換えに紡いでやろうと迫る。いよいよ処刑が迫る最後の晩、小人は最初に生まれる子供と引き換えに藁を金に変えると迫り、ついに娘は折れる。 藁を金に紡ぐ約束が果たせ、王妃になった娘が産褥の床についていると、小人が赤ん坊を奪いにやってくる。王妃の懇願を受けた小人は「三日後までに自分の名前を当てられたら子供を連れて行かない」と約束する。王妃は国中の名前を集めさせるが小人の名前は見つからない。困っていると、王が森で奇妙な歌を歌う小人を見たと語る。「今日はパン焼き 明日はビール作り 明後日は女王の子を迎えに 俺様の名前がルンペルシュティルツヒェンだとは うまいことに誰もご存知ない」。三日たって子供を連れ去りにやってきた小人は王妃に名前を言い当てられ激昂し「お前は悪魔から聞いたな!」と地団駄を踏み、逆上の余り自分で自分を引き裂いてしまう。 本編はこの物語がベースになっている。藁から金ではなく、「魔法のように金を生み出す娘」という評判が広がり、「銀貨を金貨に変える」事を命じられるのは、ユダヤ人の娘ミリエム。命じるのはスターリクの国王だが、そもそもスターリクという国が秘密めいている。ミリエムたちが暮らしている場所には領主がいるのに、スターリクはその国の統治とは関わりがない。その国に行けるのは突然道が現れた時だけで、“行く”よりも男達が“やって来る“頻度が高い。男達が何をするかと言うと、略奪である。三度銀貨を金貨に変えたミリエムは王妃に迎えられるが、王は自分の名前を言おうとしない。この点がルンペルシュティルツヒェンの名前当ての件と合致する。 自らを“あたし”と呼ぶユダヤ人のミリエム、自らを“あたい”と呼ぶワンダ、自らを“わたし”と呼ぶイリーナ。自分の呼び方がそれぞれ身分を指す。本編は複数の語り手による一人称視点の物語である。公爵令嬢のイリーナは皇帝と結婚するが、毎日彼に三つ質問が出来る。この件もルンペルシュティルツヒェンの“名前候補を3つ言っていい”とされた件と合致する。当初ミリエムと接点のあったワンダがある事情で村を離れ、一方でミリエムとイリーナは意外な場所で出会う。男性主人公よりも三人のヒロインが逞しい。銀をつむぐ者 上巻 氷の王国と魔法の銀 [ ナオミ・ノヴィク ]銀をつむぐ者 下巻 スターリクの王妃 [ ナオミ・ノヴィク ]楽天ブックス
January 13, 2021
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みなさん、こんばんは。俳優の風間俊介さんもコロナ感染したんですね。広がってますね。さて今日はインドが舞台のミステリを紹介します。ボンベイ、マラバー・ヒルの未亡人たち (小学館文庫)The widows of Malabar Hillスジャータ・マッシー1921年のインド。パールシーの一族の出身で、ボンベイ唯一の女性弁護士のパーヴィーン・ミストリーは、女性であるが故に法廷に立てず、父親の事務所で事務弁護士として働いていた。結婚の失敗という苦い過去を引きずりながらも、いつか父親のような弁護士になることを目指していた彼女は、ムスリムの実業家の屋敷に暮らす三人の未亡人たちの遺産管理のため、高級住宅街マラバー・ヒルを訪れた。想像以上に閉鎖的な生活を送る彼女たちの役に立とうと決意した矢先、屋敷の中で殺人事件が起こる。パーヴィーンは、自分自身のトラウマと対峙しながらも、事件解決に奔走するが……。 未だ独立していなかったインド。宗主国としてイギリスがおり、その下にインドの厳しいカースト制度が存在する。更に女性は男性に服従するという意識が行き渡っており、付き添いがいなければ成人女性は外出もままならない。 そんな中でパールシー(ペルシャ)出身で父親も裕福な資産家にして弁護士という開明的な環境で育ったパーヴィーンは、有力な係累を持つイギリス人女性の友人もいて、比較的自由に活動できる要素を備えた主人公だ。英国のピーター・トレメインが生んだ、王女にして弁護士資格も持っている修道女フィデルマに似ているが、あまりにも堅物のフィデルマに対して、パーヴィーンには若くしてした結婚により負った心身の疵というウィークポイントがある。生きている時代の違いもあろうが、完全無欠で隙の無いフィデルマより、近寄りやすいキャラクターと言える。それにしてもわずか百年前、こんなに女性が不自由だったとは。 同時代のインドを舞台にしたミステリとしては、英国人警部とインド人部長刑事が身分の差を意識しながら英国高官殺人事件を解決する『カルカッタの殺人』がある。こちらでもインド人とイギリス人との民族間の格差、インド人がイギリス人に対して抱く複雑な感情がほの見える。アガサ賞歴史小説部門大賞、メアリー・ヒギンズ・クラーク賞受賞作。ボンベイ、マラバー・ヒルの未亡人たち [ スジャータ・マッシー ]楽天ブックス
January 12, 2021
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みなさん、こんばんは。三菱UFJ銀行の頭取に半沢さんという方が就任されたとかですわドラマのモデル?と盛り上がってますね。今日はファンタジー小説を紹介します。月のケーキMoon Cakeジョーン・エイキン東京創元社しょっちゅうからかっていたにも関わらず、おばあちゃんが孫のポールに形見を残してくれた。大きさがばらばらの包みと、ある一言しか言わないオウムのフォッズ。包みを開けると最初に出てくるのはティーバッグ、その時フォッズは叫んだ。「オユをかけよう!Hot Water」それはそうだ、とお湯をかけるポール。次に登場するのは汚れたシャツ。なんでそんなものを形見に?とはいえ、またもやフォッズは「オユをかけよう!Hot Water」それからも次々と登場するものに対して、フォッズの言うことは決まっている。そして最後に現れたのは…いやぁ、おばあちゃんナイスです!やられたらやり返す、倍返しじゃない所がおばあちゃんの愛があっていいかも。『オユをかけよう!Hot Water』両親の元を離れて医者をやっている祖父のいる村ウェアオンザクリフにやってきたトム。祖母という妻がいたのに海からやってくる女性を待ち続けている祖父、刑務所帰りのグラントさんがいるし、隣人に嫌がらせされて豚を全部売る羽目になったシャープさんなど、皆不満や望みを抱えている人ばかり。そんなトムに「今度はあんたの番だ」と月のケーキを作るミッションが与えられる。祖父の言っていることはどこまでが本当?ケーキを作ると一体何が起こる?そして今度来た時にはトムを迎えてくれるだろう女の人の正体は?様々な謎を残して終わる『月のケーキMoon Cake』店の売り上げを上げたいフリーウェイさんが幼い娘アンナが想像した「バームキン」を宣伝に使って大成功!だが実体のない「バームキン」がひとり歩きしてしまい、世間を大騒ぎさせるどころか最大の誤算は…良い子のみなさん、大人のみなさん、理由はどうあれ嘘はダメだよ(めっ!)『バームキンがいちばん!Barmkins are Best』竜を退治しに騎士がやってきた。古からドラゴンは騎士に退治されるものと相場が決まっているものの、このドラゴンはごみを食べてくれるわ、街の観光大使になってくれるわ、いいところだらけじゃん!それでもドラゴンは退治され、困った町の人達が考えた代替案というのは…『ドラゴンのたまごをかえしたらHatching Trouble』戦争と狩りが大好きという領主としてはまともだが人間としてはサイテーなガストンが、結婚によって豊かな森を手に入れた。ところがガストンは森の木を切り倒そうとする。まあこんな乱暴者にはお定まりの報いというのがやって来る。さて、彼の場合は…タイトル参照『怒りの木The Furious Tree 』他『羽根のしおりThe Feather and the Page』『緑のアーチThe Green Arches』『ふしぎの牧場The Mysterious Meadow』『ペチコートを着たヤシPetticoat Palm』『おとなりの世界The World Next Door』『銀のコップThe Silver Cup』『森の王さまThe King of the Forest』『にぐるま城Wheelbarrow Castle』普通の一ダースではなく魔女の1ダースで編んだ短編集。月のケーキ [ ジョーン・エイキン ]楽天ブックス
January 11, 2021
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みなさん、こんばんは。小松政夫さんが亡くなりましたね。滅びゆく世界を生き抜く人々を描いた短編集を紹介します。鳥の歌いまは絶えWhere Late the Sweet Birds Sangケイト・ウィルヘルム創元SF文庫 放射能汚染によって生殖能力が極端に低くなった地球上の生物群は、緩やかな滅びへと向かっていた。 全体は三部構成。「鳥の歌いまは絶え」は世界各地に資産を持つサムナー一族のデヴィッドが主人公。シェナンドアの谷に暮らすデヴィッドは従妹のシーリアと恋仲だったが、彼女は飢餓に苦しむ南アフリカを救うため旅立ってしまう。失意のデヴィッドは研究所を創り上げ、クローン繁殖の技術によって滅亡を回避しようと試みる一族の事業を手伝う。やがて二人の再会の時が訪れるが…。 「シェナンドア」人間に変わりシェナンドアの谷で暮らすクローン達は、物資不足を補うためグループとなって廃墟となった都会へ赴く。メンバーの中でサリーはこれまでとは違う感覚に目覚める。以後の物語は全くサムナー一族とは関連がない。但し次の章の主人公と本章の主人公は関連がある。「静止点にて」ただ一人クローンを持たないマークは、クローン社会の中では浮いた存在だった。やがて老朽化した施設を修理することもできず朽ち果ててゆく中で、マークは新世界へと飛び立つ。 第一部に登場する滅びに向かう要素のてんこもりなことったらない。大国が次々と原爆実験を行い、飢餓が襲い出生率が下がる。そしてコレラが世界を襲い大量の死者が出る。まるで現在を彷彿とさせるような要素も入っており、出エジプト記で苦しめられるエジプト人の如く、禍が束になってやってきた世界である。 サムナー一族は資産が世界にあまねく分散し、一族だけで大きな施設を作れるくらいとんでもない規模である。選ばれしノアの一族が生き残りの道として選んだのがクローン。現在でも動物実験は行われており、近未来小説としては特に目新しい手段ではない。特異な点はクローンの性格である。本書に登場する“創造物が創造主の意図を裏切る/反乱を起こす”という設定は、神話世界の“人間と神”の関係に重ね合わせられる。 人間の欠点を全て補う意図を持って作られたはずのクローンもまた行き詰まったり、変わり種が絶対発生しない構造のクローンから変異種が登場してくる。どんな科学的要素を詰め込んだとしても、草創期→最盛期→衰退期の一連の流れからは逃れられない、つまりどんな進化もいずれは衰退に向かう。一方で、予期しなかった所から進化の萌芽が芽生えて予測された未来を変えてゆく。ヒューゴー賞長編小説部門&ローカス賞賞長編部門受賞。鳥の歌いまは絶え (創元SF文庫) [ ケイト・ウィルヘルム ]楽天ブックス
December 28, 2020
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みなさん、こんばんは。アパレル業界で有名なレナウンが廃業ですね。今日はソーンダイク博士シリーズを紹介します。ソーンダイク博士短篇全集:第1巻 歌う骨Dr.Thorndyke The Complete Short Storiesリチャード・オースティン・フリーマン訳渕上痩平国書刊行会シャーロック・ホームズ最大のライバルと呼ばれるが、シャーロック・ホームズほど尊大でない医学博士にして法廷弁護士のジョン・ソーンダイク博士の活躍を描いた短編集第1巻。第一短篇集『ジョン・ソーンダイクの事件記録John Thorndyke’s Case』と、倒叙形式の発明でミステリ史における里程標的短篇集『歌う骨The Singing Bone』に、作者自身による名探偵紹介「ソーンダイク博士をご紹介」を収録。ソーンダイク博士が七つ道具として持ち歩く緑色のケースに入っている顕微鏡にリアル感を持たせるために、せっかく作者のフリーマンが作品用に作中に登場する砂や綿埃の顕微鏡写真を提供したのに、当時は写真技術がさほど精巧ではないためちゃんと映らず却下された。今回は写真も復活し、挿絵や見取り図も挿入された。フリーマン、喜んでるかな?『ジョン・ソーンダイクの事件記録John Thorndyke’s Case』篇よりソーンダイク博士のもとで刺激的な生活を送っているジャーヴィスも、時たまフツーの医師に戻りたくなる。旧友の医師の診療を引き継いでいた時に、医師の義理の姪ルーシーが連れていった息子フレッドが行方不明になるという事件が起きる。それまで上品な態度を取っていたフレッドの母のハンショー夫人が、息子の行方不明を知るや血相を変え、財産目当てで姪が誘拐したと決めつける。激昂した夫人はソーンダイク博士まで呼びつけて息子発見を託す。珍しくソーンダイク博士と犯人の格闘シーンがあるが、事件解決後この家族は果してこじれた叔母姪の奸計を修復できるのか不安だ。『歌う骨The Singing Bone』篇より「練り上げた事前計画A Case of Premeditation」は、脱獄して今は成功している男性ペンバリーが、“人の顔を一度見たら忘れない”元看守プラットと同じ列車に乗り合わせてしまう。脅迫されたペンバリーは、さりげなく看守の近況を聞いた後に、完全犯罪を計画。『歌う骨The Singing Bone』篇は後半がソーンダイク博士のワトソン役ジャーヴィス医学博士の手記になっている。ペンバリーの巧みな計画により、誤った人間が容疑者扱いされてしまうが、その決め手になったのがプラットの元同僚にして元刑務所署長が飼っていたブラッドハウンドだ。ブラッドハウンドが匂いを辿って向かった先が犯人だと警察があまりにも力説するので、温厚なソーンダイク博士がその度に「ブラッドハウンドのことはまったくの妄想ですよ」と反論するのがおかしい。『ジョン・ソーンダイクの事件記録John Thorndyke’s Case』篇「鋲底靴の男The Man with the Nailed Shoes」「よそ者の鍵The Stranger’s Latchkey」「博識な人類学者The Anthropologist at Large」「青いスパンコールThe Blue Sequin」「モアブ語の暗号The Moabite Cipher」「清の高官の真珠The Mandarin’s Pearl」「アルミニウムの短剣The Alminium Dagger」「深海からのメッセージA Message from the Deep Sea」『歌う骨The Singing Bone』篇「オスカー・ブロドスキー事件The Case of Oscar Brodski」「練り上げた事前計画A Case of Premeditation」「船上犯罪の因果The Echo of a Mutiny」「ろくでなしのロマンスA Wastrel's Romance」「前科者The Old Lag」収録。歌う骨 (ソーンダイク博士短編全集 第1巻) [ リチャード・オースティン・フリーマン ]価格:3960円(税込、送料無料) (2020/12/9時点)楽天で購入
December 10, 2020
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みなさん、こんばんは。社民党が分裂しちゃいましたね。土井たか子さんの時は飛ぶ鳥落とす勢いだったのに。今日もルース・レンデル&バーバラ・ヴァイン作品を紹介します。ロウフィールド館の惨劇A Judgement in Stoneルース・レンデル角川文庫「ユーニス・パーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。」本編は第一行で「誰が誰をなぜ殺したか」を明言している。ミステリーでこれを書いてしまうと、ほとんどの読者はそこで先を読む必要もないと感じる。しかし先を読みたくなる。なぜならば、こう続くからだ。犯行の二週間後ユーニスは殺人のかどで逮捕された―それも字が読めなかったばかりに。だがそればかりではない経緯があったのだ。“それだけではない何か”は頁を繰らないとわからない。 ユーニス・パーチマンは家政婦としてカヴァデイル家にやって来る。職業柄メモを渡され買い物や用事を頼まれる事があったにも関わらず、ユーニスは類まれな記憶力や知恵により窮地を切り抜ける。頼まれた用事が出来ていなくて何か変だと思った主人のジェームズも妻のジャックリーンも、立ち入って訊くことはせずに流してしまう。それはひとえに、ユーニスが彼等の友人でも家族でもなかったからだ。当たり前のことながら。「カヴァデイル夫妻が、ユーニス・パーチマンについて考えたことは、彼女の仕事の能力と、自分たちに対して礼儀正しくふるまうかどうかという点だった。」「荷役馬によい厩と飼葉桶をあてがうように。彼女に満足してもらいたかった、満足してもらえれば居ついてくれるだろうから。だが彼女をひとりの人間として考えたことは一度もなかった。」「ユーニス・パーチマンの過去がどうであったかというようなことは思いうかばなかった、ここに来ることに不安をいだいているかどうか、自分たちにおとずれたような希望や怖れに彼女も見舞われたかどうかというような考えは。その時点ではユーニスは彼らにとっては機械にすぎず、その機械が満足に動くかどうかは、ほどよく油がさされるかどうか、屋根裏部屋までの階段に不服をとなえないかどうかにかかっていた。」 これでもか、とばかりにカヴァデイル夫妻の“上から目線”とも言えるユーニス観が並べられるが、実際彼等が特段非難されるべきではない。むしろアッパーミドルクラスが家政婦を雇う際の、ごく当たり前の感情であろう。そもそもユーニスの爆発を招いたのは、一家の娘ミリアムの、いかにも良家の子女風の“差別するのはいけない”という考えから出た一言だった。いや、この一言が出たとしても、とある人物さえいなければ、ユーニスは冒頭の行動に移さなかったかもしれない。自分は絶対正しいと信じる人&自分を丸ごと受け入れてくれる人(思惑はさておき)の後ろ盾によって、世にも恐ろしい事件の引き金が引かれる。 最後を最初に知らされているので、読者としてはもう気が気でない。その日がいつかまでも知らされているのだから、季節が進むのを安穏と眺めてなどいられない。「ああ、この時に気づいていたら」「この時こうしていたら」と地団太を踏みながら、変えられない一日に向って私達読者はただ頁を繰る事しかできないのだ。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】文庫 ≪海外文学≫ ロウフィールド館の惨劇 / ルース・インデル 【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
December 5, 2020
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みなさん、こんばんは。来年の大河のキャスティングが早くも発表になりました。早いですね。今日もバーバラ・ヴァイン&ルース・レンデルの作品を紹介します。引き攣る肉Live Fleshルース・レンデル角川文庫 女性を人質に取った男性ヴィクターが立てこもっている家の外で、張り込んでいる刑事ディヴィッドの視点から物語は始まる。ディヴィッドの上司は、ヴィクターの持っている銃が模造ガンだと思っていた。しかし実弾が入っており取り乱したヴィクターはディヴィッドを撃つ。その際に発した言葉に殺意があったと見なされヴィクターは刑務所で十年間服役する。 これ以後物語の視点はヴィクターに移る。それ以外の人達の描写は外見の反応のみで、読者は加害者ヴィクターの心理を見たい放題だ。ああ、これは先々の展開が読めて分かりやすくて得だ!いいや、とんでもない。 彼の心理に肉薄することになるので痛しかゆしだ。共感できなければ特に。そして大抵の場合共感できない。というのは、ヴィクターの考え方がどこまでも自己中心的だからだ。撃たれたことにより、ディヴィッドの将来は破談以外にもいろいろと変わっているのに、わざわざ会いに行こうという行動も理解できない。行ったら行ったで謝りに行くだけで留めておけば良いものを、くどくどと言い訳を述べる。これでは相手を不快にさせるだけだ。更に亡き父が使っていた車椅子をまだ使えるからと、ディヴィッドの贈り物にしようと考える件も違和感が否めない。実際その話を聞いた時に、ディヴィッドは一瞬おかしな顔をするが、そのようなかすかな反応をヴィクターは一切意に介しない。見たい者だけを見てきたヴィクターを最後に破滅に追いやったのが、一番見たくないものだったというのは何とも皮肉である。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。『中古』引き攣る肉 (角川文庫)KSC
December 4, 2020
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みなさん、こんばんは。旅行業界最大手のJTBも新型コロナウイルスの影響で国内外で全社員の20%程度に当たる6500人を削減する方針を明らかにしました。旅行業界深刻ですね。今日もバーバラ・ヴァイン&ルース・レンデルの作品を紹介します。ソロモン王の絨毯King Solomon's carpetバーバラ・ヴァイン 角川文庫タイトルは「緑のシルクでできたこの魔法の絨毯は、すべての人間がその上に建てるぐらい大きい。用意ができると、ソロモンは行きたい場所を命令し、絨毯は空中に舞い上がり、望みの役で一人一人を下ろした。地下鉄はこの絨毯のことを連想させる」から来ている。一旦乗れば希望の場所まで連れて行ってくれる地下鉄は、現代のソロモン王の絨毯だと言うわけだ。しかし絨毯から振り落とされる人もいる。「世間の人々が当たり前のようにやっている多種多様のことを、彼女は一度もしたことがなかた。それらはごく日常的なことだったが、その富と病弱のせいで、やらずにすんだのだ。彼女はアイロンをかけたことも、針に糸を通したことも、バスに乗ったことも、誰かのために料理したことも、金を稼いだことも、必要があって早起きしたことも、医者の診察の順番を待つことも、列に並んだことも、一度もなかった。」そんな彼女が危険に遭う確率は、ごく低いと思われた。しかし、ロンドンの混んだ地下鉄で、圧死したのは、まぎれもなく彼女だった。手に、ペルーの花嫁衣裳を握ったまま…。無数の乗客が意図もないのに一人の女性をゆっくりと殺していく過程は恐ろしい。 さて、この事件が一体何と関係していくのかは、なかなか読者には明かされない。次に始まるのは、地下鉄の音が聞こえる場所に住む人達の紹介だ。 地下鉄マニアのジャーヴィスは祖父が残してくれた学校をアパートにしている家主。地下鉄に関する本を書くのが夢で、ただのような値段で部屋を人に貸している。そこに集まってきたのは、出戻りの親戚で自由奔放なティナと、地下鉄を使った危険な遊びに興じるその子供たち、将来有望ながら事故に遭い、地下鉄構内でフルートを吹くトム、夫と娘を捨てヴァイオリニストを目指すアリス。ここまでなら単なる人間群像ドラマで済むが、あいにくミステリ作家バーバラ・ヴァインがただの物語を描くわけがない。最後に登場するアクセルによって、アパートの住人達の人間関係が動き出す。複数のプロットで人間関係を読み解きながら、不審な動きを始めるアクセルの目的に思いを馳せて読む。まあ勘のいい人なら彼の目的にはすぐ気づくだろう。ゴールド・ダガー賞受賞作。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】 ソロモン王の絨毯 角川文庫/バーバラ・ヴァイン(著者),羽田詩津子(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
December 3, 2020
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みなさん、こんばんは。近畿日本ツーリストも従業員3分の1削減とか。大失業時代ですね。今日もバーバラ・ヴァイン&ルース・レンデルの作品を紹介します。運命の倒置法A Fatal Inversionバーバラ・ヴァイン角川文庫 豊かな自然に囲まれたカントリー・ハウスで、チップステッド夫妻は愛犬の埋葬の最中に若い女と赤ん坊の白骨死体を掘り出した。 「エカルペモスで起きたことは考えるまい、とアダムは努めてきた。」第一発見者に続いて登場するアダム・ヴァーン=スミスは、この後何度もエカルペモスという奇妙な響きの言葉を思い出す。「夢のなかで彼らとめぐりあった。舞台はいつもエカルペモス」のように。アダムはカントリー・ハウスの元所有者だった。同じ体験を共有した人々とは「今後はいまだかつて出会ったことも知り合ったことも一緒に暮らしたこともないかのようにふるまおう、見ず知らずの他人に、いや他人よりも無縁な者どうしとなろう」と申し合わせた。これほどまでに隠そうとする理由は何か?順当に考えて、良い経験ではない。 娘を連れて戻ってきたアダムは、空港でかつての仲間シヴァを見たように思う。実際その人物とはシヴァだったが、先の申し合わせがあるために声をかけずに来た。白骨死体発見には心穏やかではない彼もまた、忘れようとしても思い出してしまう、記憶に取りつかれた一人だ。そしてかつてカントリー・ハウスでアダムに慕われていたルーファスも。これほどまでに多くの人を縛る過去とは何か?そして明かされた時に現在にどんな影響が出てくるのか? 現在と過去を交錯させながら物語は進む。日本人好みの勧善懲悪になるのかなぁと思わせて、因果応報の定説から外した相手をここぞとばかりに登場。いやぁ、読者を振り回すのがうまいですな。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。『中古』運命の倒置法 (角川文庫)KSC
December 2, 2020
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みなさん、こんばんは。NTTがドコモを完全子会社化しますね。今日から5日間バーバラ・ヴァイン&ルース・レンデルの作品を紹介します。死との抱擁A Dark-Adapted Eyeバーバラ・ヴァイン創元推理文庫 主人公(女性)フェイス・セヴァーンは、殺人罪によって絞首刑に処せられた叔母ヴェラ・ヒリヤードについての本を書こうとしているノンフィクション作家ダニエル・スチュアート(男性)から、内容の確認を求められる。但し、この時点でヴェラが“誰を”殺したのかは明らかにされない。“誰を”がわからないと、動機もわかりにくい。ここで分かるのは、おそらく初犯であるのに絞首刑なので、かなり残忍な事をやってのけたであろう事が察せられるのみだ。答えはとことん焦らされてから現れる。 読者は作家が送りつけてきた原稿の流れ通り、時系列に沿ってヴェラとその家族に纏わる歴史を紐解いてゆくことになる。主人公にとってヴェラは叔母にあたる。ヴェラは主人公の父と双子の兄妹で、更に下に妹イーヴァン、上に異母姉のヘレンがいる。ヴェラは結婚して息子フランシスがいる。フランシスはヴェラに辛くあたるが、ヴェラは敢えて甘んじて受けているようにフェイスには見えていた。やがてヴェラにはもう一人男の子が生まれるが、なぜかヴェラは夫と別居状態に陥る。一方イーヴァンは恋多き女性だったが、裕福な男性と結婚する。 イーヴァンの結婚までは、年齢からも立場からも、「結婚して子供がいる良き母、良き妻」としてヴェラが優位に立っていたが、結婚を境に二人の力関係も変わる。シブリング・ライバリィ(Sibling Rivalry)にある人物への愛情が絡み、とことん姉妹の仲は縺れてゆく。加害者が明確にされているので、このあたりでやっと誰が被害者になるのか察しはつくが、残念ながら動機はセットで明らかにはされない。読者はとことんもつれきった心理の底の底まで読み進むことを余儀なくされる。 語り手を女性にしたのは、事実を淡々と描いた原稿に対して、その時、その時の主人公の感情を加えることで、出来事をより立体的に描こうとする意図であろう。加えて物語の中心にいるヴェラを、家族の皆がどのように見ていたかを知らしめることで、多面的なキャラクターを作り出す意図もある。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】 死との抱擁 / バーバラ ヴァイン, 大村 美根子 / 角川書店 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
December 1, 2020
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みなさん、こんばんは。今年はドラフト会議もひっそりしてましたね。今日はタイトルに偽りあり!の小説を紹介します。正義の四人/ロンドン大包囲網 (海外ミステリGem Collection)The Four Just Menエドガー・ウォーレス長崎出版 アンチヒーローです、という断り書きはあった。だから必殺仕事人みたいなものかな、とも。しかし「彼等は世に多大なる悪影響を及ぼすとして、ある法案を通過させまいと英国外務大臣に警告を発した。その警告とは法案を取り下げねば、命を奪うというものだった。既に彼らは一六人もの大物をヨーロッパや他の国で暗殺することに成功している。」テロリストじゃないか?彼等は。法案がとんでもない悪法ならば“悪徳大臣”のレッテルも貼れてもっと国内喧々囂々としそうなものだ。だが、外国人逃亡犯罪人引渡法案自体はさほど悪くも思えない。特定の人物を捕えさせないために法案通過を阻むというならば、捕まっては困る人をどこかに移動すればいい話だったのでは。かなり論理に飛躍があるように思われる。それに彼等の善悪の判断によって「殺すべき人」が決まっているのも変な話だ。やはり彼等は義賊ではなく彼等はテロリストだ。なぜこれがガーディアンの必読1000冊にランクインしたのか。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。『中古』正義の四人/ロンドン大包囲網 (海外ミステリGem Collection)KSC
November 7, 2020
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みなさん、こんばんは。東京オリンピック・パラリンピックで使用するプールがお披露目されましたね。今日はファンタジー小説を紹介します。カッコーの歌Cuckoo Songフランシス・ハーディング東京創元社表紙では鳥たちが少女の周りを回る。一見微笑ましいが、少女の足許は暗く、何だか鳥たちが少女の髪を引っ張っているようにも見える。暖かな物語のようには見えない。少女の名はトリス。の、はずだ。 耳元で囁かれる“何かの”タイムリミット。病的なまでにトリスを外に出すのを嫌がる母。あからさまに敵意を抱きトリスを偽者宣言する妹のペン。抜けた記憶。不穏な空気をまず序盤に振りまいて、読者は不確かな主人公視点で物語に分け入っていく。 偽者宣言する妹が正しいのか、記憶喪失の主人公は一方的な被害者なのか、が第一のポイントだ。見極めればどちらの言っている事が正しいかわかる。物語の巧みな所は、主人公の外見描写を中盤まで意図的に隠している点だ。“旺盛な食欲に囚われているのに、いくら食べても太らない主人公”というのは、対象を人間と考えれば確かにおかしい。しかし、そうでないならば…ほら、最初のほころびが見つかった。 カッコウには托卵という習慣がある。自分の子供を他の鳥に育てさせ、もともと巣にいたヒナを殺す。どこまでも自己チューな習慣である。タイトルにカッコーを戴く本書にも、托卵を思わせるエピソードがある。イギリスをはじめ世界に広まる取り換え子伝承だ。何らかの障害を持つ子供を持った親が“自分の子供ではない。きっと取り換え子に違いない”と主張した事に遠因する。つまりは、親の自己チューが招いた現象である。人間も、カッコーとあまり変わりない。本編も「嘘の木」に続き、父親の為した事のツケをヒロインが払う物語だ。いや、今回の場合は母親も加担していると言っていい。 神は世界を7日で作ったと言われているが、実際の所は働いたのは6日で、7日目は休んでいる。今回主人公に与えられたタイムリミットも同じく7日。神も大人だったはずだ、それも完璧な。しかし実際の所人間には欠けたる所が多い。記憶というアイデンティティに関わる部分が欠落した主人公には、最初からハンディがある。さあ、彼女は完璧な大人が作った世界を作り直すことができるのか? 第一次大戦が終わり、大きな喪失を抱えた英国を舞台にした幻想小説。映画向き。カッコーの歌 [ フランシス・ハーディング ]楽天ブックス
November 6, 2020
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みなさん、こんばんは。大統領選気になりますね。エジソンといえば天才発明家のイメージが強いですよね。でもその発明を守るためにいくつもの訴訟を起こしてきました。そんなエピソードを生かした小説を紹介します。訴訟王エジソンの標的The Last Days of Nightグレアム・ムーアハヤカワ文庫 2020年5月、米国General Electric Company=通称GEが、照明を含む消費者向け事業を売却。実はGeneral Electric社は、もともとEdison General Electric Companyだった。エジソンの発明で知られる電球事業が、世紀を超えて遂に他社に移管されることとなった。かつて電球を巡って熱い戦いを繰り広げた創業者エジソンは、この結果をどう思ってみているのだろう。 時代を遡って19世紀末のニューヨーク。発明王エジソンは、実業家ウェスティングハウスの製造する白熱電球に対し、特許権侵害訴訟を起こしていた。訴訟で連戦連勝のエジソンに対し、ウェスティングハウスに雇われた新進気鋭の弁護士ポールは電球の特許の欠陥を暴こうとする。 小学生の頃教師に「お前の脳は腐ってる」(ひどいな)と言われたエジソンが“メロンパークの魔術師”と呼ばれ大企業の経営者となるのだから、人生わからないものだ。そこの君、教師に言われた事なんか忘れてしまうよーに。 “弱小弁護士事務所の若手弁護士が、海千山千の企業家エジソンに戦いを挑む”とまとめてしまうと、何だか半沢直樹的だ。で、まあ実際そうであるし、物語として予測通りに物語が進んでくれないと面白くない。ところが、実はこれほぼ史実であるところがミソ。結構自由に動いている主人公ポールは架空の人物かと思ったら実在していた。まあそうはいっても当代きっての歌姫との恋愛とか嘘っぽい。また、直球勝負ばかりだと面白くないので、とびきりの変化球を投げる天才がもう一人登場する。“稲妻博士”の異名を持つ二コラ・テスラである。本編では儲けよりも実験に関心がある浮世離れしたキャラクターに描かれているが、実際はかなりエジソンと喧々囂々やったらしい。史実と本編を比べてみるのも一興。また、ラスト近くにウェスティングハウスらに新人類扱いされている有名人がもう一人登場する。その彼にしてみても新たな技術が次々と生み出されている現代から見れば過去の偉人に過ぎない。“日進月歩で進む技術”などという言い回しがあるが、そのようにして世の中は前へ前へと進んできたのだ。 ドラマの脚本家なので人物の掘り下げが上手い。偉人の伝記からエジソンを知った人は、いかにも天才っぽい独特のこだわりを持つ彼にびっくりするだろう。ウェスティングハウスとエジソンの関係は、事実上の創業者が複数いるマクドナルドが主体の映画「ファウンダー」を参考にするといいだろう。 映画「エジソンズゲーム」原作。訴訟王エジソンの標的 (ハヤカワ文庫NV) [ グレアム・ムーア ]楽天ブックス
November 4, 2020
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みなさん、こんばんは。ショーン・コネリーが亡くなりましたね。ところで何でも知ってる男って人生バラ色のように見えますよね?でもそうではないんですよ。知りすぎた男The Man Who Knew Too MuchG・K・チェスタトン南条竹則訳金髪白皙で背が高く痩せていて鼻も高いが、年齢の割に額は禿げている。一見年齢不詳に思える彼の名はホーン・フィッシャー。さして人目を引く風貌ではないが、陸軍大臣→従兄文部大臣→また従兄労働大臣→義理の兄弟伝道と道徳向上大臣→義理の伯父首相→父の友人外務大臣→義兄財務長官→従兄と国の主だった人物との人脈がある。これだけコネがあれば何にでもなれるが、生憎本人にギラギラした野心はない。議員に当選しているのだから志はあろうが、なぜか国会には一度も行っていない。皆が知らない世間の裏の裏まで“知りすぎて“いて、総てに興味を失った所謂世捨て人なのか? 本編の探偵役は、知りすぎている男フィッシャーになる。何分“知りすぎて”いるのであーだこーだ考えている時間がほぼない。ならばワトソン役がその役回りを担うのかと思われるが、本編のワトソン役も従来の探偵ものとは異なる。但し“性格が主人公と逆”というのは踏襲している。初登場時は“新進気鋭のジャーナリスト“で社会批評家という触れ込みだった本編のワトソン役ハロルド・マーチは、最終作では“当代一流の政治記者“に出世している。どちらかというと上流階級に属し権力に近いフィッシャーに対して、マーチは庶民派、現状打破派だ。こんな二人なら激しく議論を戦わせても良いようなものだが、フィッシャーがゆるキャラなのでそれはない。”知りすぎている男”フィッシャーは真相を知りながらも裁き手ではない。善悪二元論では世の中が立ち行かないことを、昔からその場に身を置いて知っているのだ。そのため従来の探偵物語のカタルシスとは無縁である。これだけ世の中を悟っている彼の本音が聞けるのは、最終作まで待たねばならない。「標的の顔」「消えたプリンス」「少年の心」「底なしの井戸」「塀の穴」「釣師のこだわり」一家の馬鹿息子」彫像の復讐」収録。「標的の顔」「消えたプリンス」「少年の心」「底なしの井戸」「塀の穴」「釣師のこだわり」一家の馬鹿息子」彫像の復讐」収録。知りすぎた男 (創元推理文庫) [ G・K・チェスタトン ]楽天ブックス
November 3, 2020
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みなさん、こんばんは。皇后さまが86歳とか。ご高齢ですね。レッド・クイーンシリーズ最終作を紹介します。レッド・クイーン 4 暁の嵐上 下War Storm ヴィクトリアエイヴヤード訳田内志文ハーパーBOOKS今まで真正面を向いていた“クイーン”メアが、今度は横向きだ。上巻は目を閉じている。下巻も、視線がどこを見ているのかわからない。但し、バックは白。重苦しい黒は取り払われた。 第一巻はクイーンズ・トライアルなどという王子様争奪戦、第二巻はX-MENばりのサイキックパワーバトル、第三巻はプリズンブレイク。巻毎にカラーを変えてきたシリーズも今回が最終巻。やはり締めは国家論だ。 暴君のメイヴンを倒したあとの国家像について、レッド=被支配者、シルバー=支配者という今までの構図を変えないままシルバーの君主制を取るのか、モンフォートのように民主的に国のトップを選ぶのか(アメリカを模している)。更にファンタジーにもLGBTの波が来る。同性パートナーを持つモンフォートの首相に、兄の妻となった親友と密かな愛を育んでいたエヴァンジェリンは大いに心動かされる。 本巻も前巻同様、複数視点で物語が進行。前巻はメア、キャメロン、そしてライヴァルだったエヴァンジェリンの三人だったが、最終巻たる本巻は更に増え、メア、エヴァンジェリン、そしてライヴァルのアイリス、カルとメイヴンの男性視点と大盤振る舞いだ。それぞれが単独行動を取る場面も増えたことから、全体の動きを追う上で必要と判断したのだろう。本国のレビューで好評だったキャラは意外にもアイリス。悩み苦しむ宿命を背負うヒロインが割を食った形になった。男性キャラで同情を集めたのはメイヴン。著者の狙い通りか。 「好きだけど国王になった彼とはいられない」カル、「自分の体に刻印までつけた相手だが似た所がある」メイヴン、メアを巡る異母兄弟の争いも遂に決着が。 映画化を最初から念頭に置いて書かれたそうだが、一作では恐らく書ききれないので続編込の二作が妥当だろう。レッド・クイーン 4 暁の嵐 上 (ハーパーBOOKS 135) [ ヴィクトリア・エイヴヤード ]レッド・クイーン 4 暁の嵐 下 (ハーパーBOOKS 136) [ ヴィクトリア・エイヴヤード ]楽天ブックス
October 31, 2020
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みなさん、こんばんは。ベルリン映画祭で黒沢清監督の『スパイの妻』が銀獅子賞を取ったとか。すごいですね。今日はミステリを紹介します。悪の猿 The Fourth MonkeyJ・D・バーカー訳富永和子ハーパーBOOKS シカゴを震撼させる連続殺人犯“四猿”。「見ざる、聞かざる、言わざる」になぞらえ被害者の身体の部位を家族に送りつけてから殺す手口で、長年捜査を進める刑事ポーターも未だその尻尾を掴めずにいた。だが事態は急変する。四猿と思しき男が車に轢かれ死んだのだ。しかも防犯カメラにより、ただの事故ではなく自殺と判明。所持品には四猿の日記が。日記を読み始めたポーターは、新たな歪んだゲームに呑まれていく。一方新たな犠牲者の耳が送りつけられて来る。 日光東照宮をはじめとして様々な所に三猿があるため「見ざる 聞かざる 言わざる」は日本産と思っている読者もいるのではないだろうか。実はアメリカやヨーロッパ、アフリカにも似たような伝承はある。そして日本の「見ざる 聞かざる 言わざる」が「都合の悪いことは見ないし聞かないし言わない」という長いものには巻かれろ的な処世訓であるのに対して、英語版では「See No Evil,Hear No Evil,Speak No Evil」という悪事は決して行うなかれという厳しい内容になっている。そして本当は三猿ではなく四猿で、もう一つ「悪い事はするな」が加わる。 四猿を名乗るにしては残虐な行為を繰り返す犯人だが、実は狙われる相手には殺される相手の家族が必ず悪事に手を染めているという共通項がある。こう考えると義賊のようだが、だからといって私的制裁を勝手放題にやっていいわけはない。 とはいえ、冒頭で犯人が死んだのだから、四猿による犯罪はこれからは行われない。ご丁寧にも犯人は日記を残してくれているので、ただ物語は犯人の犯行に至る―大抵は不幸な家庭環境―背景を辿り、囚われている被害者を発見すればいい。何て親切な。しかし山も谷もない。 …と思っていたら思いっきり足許を掬われる。歩いていた道が歪み出し、周囲の風景も揺らめき出す。刑事たちが捜査する【現在】と犯人の日記の【過去】パートが交錯しながら進むが、特に後半日記のボリュームが少なくなるにつれて切り返しが頻繁になり、まさに映画のカットバック。刑事たちの捜査手法はジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムがお手本。 自信家で頭が良い犯人がお気に入りの刑事をやたら挑発する構図は英国探偵シャーロック・ホームズとモリアーティのそれをなぞるようだ。続編も既に刊行されているが、四猿を捕まえるのはお気に入りの刑事なのか、それともこれから登場する別の人物なのか。更に第三の選択として四猿が探している相手からあっさり返り討ちを食らうという展開も。 本文中には日本の三猿についての言及あり。悪の猿 (ハーパーBOOKS 94) [ J・D・バーカー ]楽天ブックス
October 20, 2020
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みなさん、こんばんは。菅首相の学術会議の6人の推薦を拒否したの、いやらしいですね。貧乏お嬢さまシリーズを紹介します。貧乏お嬢さま、イタリアへOn Her Majesty’s Frightfully Secret Serviceリース・ボウエン原書房コージーブックス ダーシーが行ってしまいスコットランドに残されたジョージアナ。気難しい未来の舅と二人きりでいるのが何とも気詰まりな彼女は、出産を控えたベリンダから「心細いから来てほしい」と言われたのを幸い、イタリア旅行を決意。えっイタリア旅行?全然貧乏じゃないじゃん!と言いたくなったそこのあなた。旅行は友人持ちなので、相変わらず貧乏なのだ。やれやれ、ずっとこの路線は続くのか。 傍迷惑なクイ―二―はいなくなったものの、新任のメイドが「スコットランドを離れるのは嫌です」と言い出したため、何とメイドも連れずにイタリア旅行に出かけることになった。するとその事を知った王妃殿下からは、これ幸いとシンプソン夫人絡みの依頼が。しかし別名“事件を呼ぶ女”のジョージ―が行く所、必ず事件あり‼今回も例外ではなくて…。 「貴族の館で事件が起こり全員容疑者」と言う設定はクリスティ作品でも定番の設定だ。列車の中でジョージ―を誘惑するアブないドイツの伯爵やら、かつての友人とその夫、そして王妃の監視対象であるデヴィッド王子とシンプソン夫人、ジョージ―の母とその彼、そしてお約束のダーシーまで登場。ただ、クリスティ作品ではメイドら使用人にも個性的なキャラクターを割り振っていたが、本作では「この人に注目!」とばかりに特定の人物のみかなり詳しい描写になっているため、犯人当ては簡単だ。 時代色としてはヒトラーの台頭がいよいよ話題になる頻度が上がる。後のウィンザー公爵ことデヴィッド王子やジョージ―の母の恋人達がヒトラーに対してまんざらではない事を言う場面は、歴史を知る者なら「さもありなん」と頷くことしきりでは。宙ぶらりんは落ち着かないので、少なくとも第二次大戦が始まる前に結婚式を終えて欲しいものだ。 今回の着目ポイントはかなりダーシーがベリンダに対して辛らつだったことだ。婚約者の友人なのだからもう少し大目に見ては?と思う。また、今回かなり大胆な写真を撮られたらしい母親を持っているのに、ジョージアナがかまととすぎる! 貧乏お嬢さま、イタリアへ (コージーブックス 英国王妃の事件ファイル 11) [ リース・ボウエン ]楽天ブックス
October 15, 2020
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みなさん、こんばんは。トランプ大統領もう選挙活動を再開してますよ。危ないですよね。今日もヒラリー・ウォー作品を紹介します。待ちうける影Madman at My Doorヒラリー・ウォー 創元推理文庫 女性二人を殺した後、教師マードックの妻を殺し、マードックに撃たれて致命的な傷を負った連続婦女暴行殺人犯エリオット。精神病院に収容されたが、九年後厳正なる審査に合格して退院。このニュースを聞きつけた記者コールズは加害者・被害者それぞれにアプローチしてスクープをものにしようとする。さて、エリオットはどう出るのか? 加害者が精神鑑定を経て心神耗弱・心神喪失で無罪になるケースは日本でもよく見られる。ならば皆が心神耗弱を願い出て無罪を狙いそうなものだが、実際認められたとしても再犯率の確率は少ないそうだ。しかし、このケースを悪用する者もいる。一方で判断基準は人間の心身という目に見えない部分なので、例えどんなに経験値が高い医師であっても、正確な判断を下すのは難しい。 本編は最初からエリオットの意図がわかっているため、読者は自然に孤立無援のマードックに感情移入する。しかし、仮にエリオットに全くその意思がなくてもコールズにプライベートを暴かれ周囲から偏見を抱かれたら、精神的損害は計り知れない。一度罪を犯したら一生罪人のままなのか、人間に更生のチャンスを与えないのか、という問題にもなる。本編ではマスコミを代表するコールズは、自分の名声のために二人を利用し、わざと情報を与えなかったり嘘の情報を伝えたりと典型的な“無責任な第三者”を演じる。犯罪報道の在り方に一石を投じる作品でもある。【中古】 待ちうける影 / ヒラリー ウォー, 法村 里絵 / 東京創元社 [文庫]【ネコポス発送】もったいない本舗 お急ぎ便店
October 14, 2020
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みなさん、こんばんは。GOTOEATも始まって人出も増えてますが大丈夫なんでしょうか?今日から2日間ヒラリー・ウォー作品を紹介します。この町の誰かがA Death in a Townヒラリー・ウォー創元推理文庫 ベビーシッターのアルバイトをしていた女子高校生サリーが死体で発見される。最初はわかりやすく発見された不審者が容疑者と思われたが、彼には留置されていたという立派なアリバイがあった。そこで街は俄に緊張感に包まれる。“この町の誰かが”サリーを殺したのかもしれない。 少女の家族やベビーシッター先の家族、通報を受けた警察、地元誌の記者など、様々な立場の人々のインタビュー形式で語られる事件の全貌がまるで本当の事件記事のようだった。語り手の主観100%というインタビューを複数取り入れることで、読者は俯瞰して事件を見ることができる神視点を手に入れる。 また、事件によって初めて被害者の知られざる一面が明らかになったり、今まで表に出てこなかった偏見が露になるなど、単に事件に留まらず“平和でリベラルなコミュニティ”クロックフォードが変化してゆく様も描かれる。中盤からは限定メンバーによるミーティングの記録も挿入されるが、あくまで第三者視点を貫くことで、読者の必要以上の感情移入を避けている。【中古】 この町の誰かが / ヒラリー ウォー, 法村 里絵 / 東京創元社 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
October 13, 2020
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みなさん、こんばんは。石原さとみさんの結婚のニュースが飛び込んできましたね。めでたい。今日はツンデレ上司&部下のコンビのミステリを紹介します。ネプチューンの影Sous les vents de Neptuneフレッド・ヴァルガス創元推理文庫 もう冒頭からダングラールとアダムスベルグ署長のコンビがかます。かましてくれる。 なぜか乗った飛行機が墜落する夢ばかり見るダングラールは、カナダの研修から逃れたくて仕方がない。アダムスベルグは折あしくボイラーが故障したのは、行きたくないダングラールの仕業ではないかと考える。ちなみにカナダ研修はちゃんと行く。だが行ったら行ったで大変なのだ。それはまた別の話。 アダムスベルグのダングラール評「彼の教養は無限で、ときには有害でさえある。というのは、彼の場合、突然、知識が爆発するのだ。しかも、その発作は頻発し、抑えようもない。馬がブルっと鼻嵐を吹く、そんな感じだ。あまり使われない言葉とか、曖昧な表現など、ちょっとした刺激があると、たちまち爆発し、滔々たる博識の弁舌に発展する。それが必ずしも時宜を得ていない」 要はオタクアンテナにひっかかるととめどなく喋ってしまうという事ですな。一方夢見る警察署長という二つ名(何だそれは)を持つアダムスベルグは、ダングラールが事件の報告書を作成した後で犯人は別人だと言ってしまうようなKY要素の持ち主。で、こちらがダングラールの署長評「ダングラールにとっては署長の直感は原始時代の軟体動物のようなものだった。手足もなければ、上下もわからない、澱んだ水に浮かぶ半透明体。(中略)署長の軟体動物的直観はどんな予知能力の恩恵か知らないが、あらゆる精密な論理にも挑み、これまで何度も的中している」そもそも軟体動物の直感って褒めてるのかけなしてるのかよくわからん。そんな二人は会えば喧嘩。「せっかく彼女とのデートをセッティングしたのに自分でぶちこわしにして!」「そんなの君に関係ない」痴話げんかか。 なのに、夜中にアダムスベルグに呼び出された時のダングラールの気持ちときたら「アダムスベルグはさっきの彼の無礼を根に持たないばかりか、常軌を逸した愉快な場面を用意してくれたのだ。ダングラールの心は上司に対する感謝の念でいっぱいになった。アダムスベルグだけだ、平凡な日常から突飛な展開を引き出し、奇想天外なひらめきを見せてくれるのは。それだから、真夜中を過ぎて眠りを醒まされ、凍てついた冬の街に引っ張り出され、ネプチューンの前に立たされても、ちっともかまわない」なぜだ、なぜ喜ぶ。同じ日に怒ってたろうダングラール。なぜ、寒い冬の真夜中に「この絵について説明しろ」と無茶ぶりされて「ハデスとネプチューンとゼウスは兄弟で云々」と蘊蓄を披露するのかダングラール。ツンデレか。とにかく変な所に拘るダングラールといやなんでそういう方向に行っちゃうの普通は違うだろのアダムスベルグが登場すると本筋がぶっとぶ。ここまで書いて大分尺を取ってしまった。アダムスベルグが弟を酷い目に合わせた名物判事をずっと追っていくのが本筋。ほらメインプロットが一行で済んじゃったよ。どうするのこれ。【中古】 ネプチューンの影 創元推理文庫/フレッド・ヴァルガス(著者),田中千春(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
October 11, 2020
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みなさん、こんばんは。藤木孝さんも80歳で自殺されてましたよね。本当に芸能界自殺が多い。今日もマーガレット・ミラー作品を紹介します。見知らぬ者の墓A Stranger in My Graveマーガレット・ミラー創元推理文庫 本編はイメージ画像の表紙だが、1988年版の表紙絵は、まさにヒロイン・デイジーが見た夢の通りである。木の下に立派過ぎる墓石。刻まれているのは「デイジー・ヴェロニク・ハーカー」没年が1955年12月2日。あまりにも具体的すぎる内容に、デイジーは疑いを抱く。その日は自分にとってどんな日だったのか? マーガレット・ミラーお馴染みの“失踪”ネタはこのように早々に登場。母親の家もすぐそばに建ててくれる裕福な夫がいて、悩みは子供がいないことと風来坊の父親くらい。世間的には恵まれているヒロインが、確かすぎる夢が気になり探偵という“まれびと”を引き込んだことから、これまでの日常が崩壊してゆく筋立ては、ミラーが好んで用いる。また“周りが大事に思って何も知らせないようにしているヒロインが実は強い”というヒロイン設定も好きらしく「耳をすます壁」と共通。当然ながら“外見はかなげ 内面強し”などというギャップは恋愛においては萌え要素の一つなので、デイジーを恋する相手も現れる。正直さほど恋愛描写が多かったわけではないので「えっ いつの間に あなた彼を名前呼び?」のような唐突感はあるが、恋愛も含めたヒロインの成長劇としたかったのだろう。見知らぬ者の墓 (創元推理文庫) [ マーガレット・ミラー ]楽天ブックス
October 10, 2020
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みなさん、こんばんは。トランプ大統領が10年間脱税してたそうです。何だよ!今日もマーガレット・ミラー作品を紹介します。耳をすます壁The Listening Wallsマーガレット・ミラー創元推理文庫1990年版の表紙は、あどけない少女のような女性がまっすぐ前を向いている絵だった。ただ彼女の前には柵らしきものが描かれ、閉じ込められている印象が強い。この女性の名前はエイミー。一緒にメキシコ旅行に出かけたウィルマ、夫のルパート、兄のギル、ルパートの秘書のパット、皆がエイミーに抱くイメージはまさにこの絵の彼女で、一人にしておくとちょっと危なっかしい。そんな彼女が事件に巻き込まれてしまったため、周囲は大騒ぎ。この“巻き込まれた”というのも周囲が思い込んでいるだけで、彼女が自ら言ったわけではない。 友人ウィルマの発案で、エイミーはメキシコ旅行に出かけるが、滞在中のホテルでウィルマがホテルのバルコニーから墜落して死ぬ。壁越しに二人の会話を聞いた女性(原題=The Listening Wallsは彼女のことだ)によれば、ウィルマは常に不機嫌で、旅行の言い出しっぺであったにもかかわらず終始エイミーにきつい物言いをしていたという。ウィルマの死が事故か事件か判然としない場合、普通なら同室で友人のエイミーが第一容疑者として疑われる状況なのに、家族達は揃ってエイミーを“巻き込まれただけだ”と断じる。夫と共に戻ってくるはずだったエイミーが姿を消したことから、一層エイミー=被害者という認識は各人の中で強まる。 この中に投入されるのが、ギルが頼んだ私立探偵ドッドだ。これまでの経緯を知らない彼がまっさらな目で見たエイミーは一体どんな人間なのか。エイミーという“人物に関する謎”と“事件に関する謎“が物語を牽引する。が、このラストを予想できた人は果して何人いるか。『中古』耳をすます壁 (創元推理文庫)KSC
October 9, 2020
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みなさん、こんばんは。少年隊の錦織一清と植草克秀が9月20日、年内いっぱいでジャニーズ事務所を退所するとか。東山くんは残るんですね。今日から3日間マーガレット・ミラー作品を紹介します。ミランダ殺しThe Murder of Mirandaマーガレット・ミラー 創元推理文庫 カリフォルニアのビーチクラブに集うのは、匿名の中傷文(Poison Pen Letter)を書くのに忙しいチャールズ・ヴァン・アイク、金持ちの両親や学校にもて余されて、年齢よりかなり大人びた言葉遣いをする9才の少年フレデリック・クイン、夫を亡くしたミランダ・ショー、ヴァン・アイクの義弟で退役海軍准将クーパーと三十代になる二人の娘コーデリアとジュリエット。従業員にはビーチクラブのマネージャーのウォルター、秘書のエレン、プールの監視員グレイディーがいた。ある者は隣人に興味深々、またある者は逆に構われたくない。心底の友人関係など一つもない彼等のうち、男女二人が突然失踪する。そのうちの一人がミランダだ。 ここでタイトルロールが出てきたのだから、彼女がなぜ、いつ、どのように殺されたのかを明かす話になるのだろう…と普通ならば考える。ところが彼女は呆気なく見つかり戻って来る。ならばタイトルに偽りありと思うようだが、ラストまで読むとこの邦題がどんぴしゃだったことがわかる。彼女は確かに死に向ってゆくのだ。 理由が全く本人に原因のない言いがかりであるならば、これほど悲惨な語はない。ところが作品を読むうちに、読者はミランダのいわゆる“残念さ”に気づき、事ここに至ったのは、彼女にも少しは原因があったと感じるようになる。ビーチクラブの面々の誰一人として全くの善人はおらず、どこかで「自分がいかに得をすべきか」を考えている。だからといって罪に問うほどの極悪人ではない。作者の“さりげなく読者の思考をその方向に持ってゆく”キャラクター紹介のチラ見せ具合がなんとも上手い。人間観察の賜物か。『中古』ミランダ殺し (創元推理文庫)KSC
October 8, 2020
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みなさん、こんばんは。人気俳優田中圭さんの泥酔騒動が今頃ニュースになりましたね。今日はダイアナ・ウィン・ジョーンズの初期作品を紹介します。牢の中の貴婦人The True State of Affairsダイアナ・ウィン・ジョーンズ創元推理文庫映画化された『魔法使いハウルと火の悪魔』から快進撃が続き、次々と作品が翻訳されてきたジョーンズ。しかし全ての作品の水準が整っているというわけでもなさそうだ。ジョーンズ作品の愛読者なら、本作を読んでちょっと面食らうのではないだろうか。見知らぬ世界の牢獄に、いきなり放りこまれてしまった元教師・エミリー。物語は全て彼女の手記の形を取っており、彼女が対立する二大勢力の劣勢側に属する貴婦人の身代わりにされてしまったこと、どうやら同じ砦の牢に男性がいるらしいことがわかってくる。ジョーンズといえば、動き回るジコチュー気味のヒロインが定番なのに、本作はほとんど動きがない。牢にいる男性と、見張りの目を盗んで手紙をやり取りするのがせいぜいで、どちらかというと受け身。異世界の物語は、ヒロインなしでもどんどん進み、彼女自身が脇役っぽい印象なので、やや物足りない。かといって前世(?)の記憶が現在の状況を助けてくれるわけではない。これは、若い頃に書いた習作なのではないか?今のジョーンズなら、牢番を殴り飛ばして二つの勢力を倒してトップに立つヒロインくらいは描きそう。【中古】 牢の中の貴婦人 / ダイアナ・ウィン ジョーンズ, 佐竹 美保, 原島 文世 / 東京創元社 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
September 17, 2020
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みなさん、こんばんは。爆笑問題の田中さんもコロナに感染しましたね。今日もアガサ・クリスティ作品を紹介します。今日は短編集です。クリスマス・プディングの冒険The Adventure of The Christmas Puddingアガサ・クリスティハヤカワミステリ文庫クリスマスのミステリィ、というと、まず表題作が浮かびます。冒頭、寒いのが嫌いなポアロと、何としても、イギリスの田舎に来てもらおうと、あの手この手で誘う依頼主とのやり取りがおかしくって!何度呼んでも吹き出します。 「イギリスの田舎の古風なクリスマス。懐かしい、古風なクリスマス!」と依頼主が言うと、「わたし、イギリス人じゃありません。クリスマスは子供たちのためのものです。」とポアロ。自分は大人だから、クリスマスったって、魅力的だとは思わないんですよ、とこう言いたいわけ。じゃあ、と依頼主、他の線から攻めてみます。「由緒ある14世紀のすばらしい屋敷で、クリスマスが過ごせますよ。」けれどこれは、逆効果。14世紀の屋敷だって?とんでもない。暖房だって、ちゃんとしてないだろうから、風が吹き込むかもしれないじゃないか!ポアロはもっと、おかんむり。でも、依頼主は、どうしても彼に来て欲しいから、今回の依頼が重大な問題である事を強調し、プライドをくすぐろうとします。このへん、なかなか、相手もわかってらっしゃる。ポアロをその気にさせるには、何をつつけば、いいかって事が、ね。今度はうまくいきそうです。ところが、ここで、依頼主は、余計な事を言ってしまいます。「今年のクリスマスには、雪が降るとみて間違いはなさそうだ、という事でした。」「田舎で雪にあうなんて!それじゃなおたまりませんよ。」おやおや、振出しに戻ってしまいました。さて、ポアロは何に惹かれて、田舎のクリスマスを承諾したのでしょう?ま、彼がとっても現実的な人なのだという事が、よぉく、わかりました。 田舎田舎とポアロには馬鹿にされましたが、キングス・レイシイのクリスマス、居間にはクリスマス・ツリーが飾られ、外には大きな雪だるま。なかなか、立派じゃありませんか。さらに御馳走が素晴らしい。牡蠣のスープ、七面鳥のロースト、何が出てくるかお楽しみのクリスマス・プディング。デザートの豊富な事。読んでいるだけで、たまらない。でも、ポアロは、「ある外国の王子が、由緒ある高価なルビーを女に騙し取られ、それが王子の手元に戻らなければ政治上の悲劇を招くので何とかしてほしい」という依頼を忘れていません。突発事にも慌てず、騒がず、事情を知らないレイシイ家の人達に迷惑をかける事なく、どうやって、どこからルビーを見つけだし、取り戻してくるか。ポアロのお手並み、拝見です。子供達は遊び、若者達は恋、大人達は家庭の安らぎ。それぞれに楽しみの意味合いは違いますが、やっぱりクリスマスには、ハッピーエンドが似合います。子供が読んでも、わくわくするんじゃないかなぁ。ところで、ホームズの「ボヘミヤ王家の色沙汰A Scandal in Bohemia」といい、こんなおっちょこちょい君が王位について、果たしてその国、大丈夫なんでしょうかね?ポアロもの「クリスマス・プディングの冒険(The Adventure of The Christmas Pudding)」「スペイン櫃の秘密(The Mystery of the Spanish Chest)」「負け犬(The Under Dog)」「二十四羽の黒つぐみ(Four-and Twenty Blackbirds)」「夢(The Dream)」とミス・マープルもの「グリーンショウ氏の阿房宮(Greenshaw's Folly)」を収録。クリスマス・プディングの冒険 (ハヤカワ文庫) [ アガサ・クリスティ ]楽天ブックス
September 5, 2020
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みなさん、こんばんは。自民党総裁選は密室政治でいやですね。今日は短編集を紹介します。教会で死んだ男(短編集)Sanctuary and Other Storiesアガサ・クリスティハヤカワ・ミステリ文庫 名探偵にはマドンナがつきもの。横溝氏が生んだ金田一探偵は、行く先々で美女といいムードに。またドイル氏のホームズには「ボヘミアの醜聞」のエレーナ・アドラーが。そしてクリスティの生んだポアロ氏にも…。 本書収録の「二重の手がかり」に登場するロシアの貴族、ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人こそポアロのマドンナにほかならない。美人でゴージャスなファッションに身を包み、何より悪事が見破られたと知ってもちっともうろたえない度胸の良さが決め手となりました。敵ながらイイ女、ロサコフ夫人。エンディングでポアロに「また会うかもしれないよ。」と言わせていますが、その通り、ある短編で再登場します。その時も地下鉄の逆向きのエスカレーターですれ違いざまに謎めいた言葉をつぶやく、という粋な事をやってのけています。探してみて下さい。さて、他には「何で名探偵って事件が起こってから動き出すの?あんなに賢いのに事件が起こるの、わからないわけ?」とお嘆きの貴兄の為の(実は私もそう思います)「スズメ蜂の巣」や珍しくポアロが言い任されて引き受けてしまった事件が意外な展開を見せる(この展開はホームズの「赤毛連盟」に似てる?)「炊事婦の失踪」などが気に入ってました。特に「炊事婦の失踪」の依頼人の「誰もがダイヤや真珠を身につけて車で外出する貴婦人になれるわけじゃない。優秀な炊事婦がいなくなってしまったら、貴婦人の中に真珠をなくして困る者もいるのとおんなじで、一大事なんです。」という台詞には「おし!よく言った!庶民をばかにしたらいかん!」と座布団5枚あげようかと思ったくらいです(セコいか)。 粒ぞろいの短編を13話収録した本書は、それぞれがほどよい長さでちょっと時間があいた時に読むのにぴったり。お茶のお伴にぜひどうぞ。教会で死んだ男 (ハヤカワ文庫) [ アガサ・クリスティ ]楽天ブックス
September 4, 2020
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みなさん、こんばんは。吉岡秀隆くんもコロナにかかってしまったそうですね。今日はポアロが活躍する短編集を紹介します。ヘラクレスの冒険The Labours of Herculesアガサ・クリスティーハヤカワ・ミステリ文庫「もう引退する潮時だな。」そう言って、「ああ、そうだね、そうなさい。」と周囲が同意を示してくれたなら、これは実に理想的な引退だ。だが、あいにく探偵の場合はそう簡単にはいかない。自分がやめたくても、事件が放してくれないのだ。かのシャーロック・ホームズだって御年60才なのに、英国の危機を救うためとあらば、養蜂と読書に耽る理想的な生活を捨て、盟友ワトソンと駆けつける。名探偵エルキュール・ポアロだって、そう簡単に引退させてもらえるはずがない。この物語は、ポアロが何度目かの引退を口にした事から始まる。これからはカボチャの改良をして余生を過ごすというポアロに、医師が言う。「きみの仕事はヘラクレスの難業ではない。愛の難業だ。」この言葉にポアロは反応する。といっても、「君に仕事は辞められない」と言う彼が言わんとした趣旨ではなく、「ヘラクレスの難業」という比喩にこだわってしまった。本末転倒な話だが、確かに彼がこだわる理由はある。エルキュールをギリシア風に読めばヘラクレス、つまりヘラクレスは、自分と同じ名前の神話上の英雄である。ちなみに兄の名前はアシルだから、ギリシア風にはおそらくアキレス。母親が息子達に何を願って名前をつけたかが、非常にわかりやすいケースである。「英雄英雄というが、どこがだ!」 神話を読んでポアロは激怒した。彼にかかれば神話上の人物は、強奪犯、殺人犯、詐欺師といずれ劣らぬ悪人揃いだ。こういう読み方は、いかにも現実主義の彼らしくて笑ってしまう。そしてポアロは考える。「自分だってヘラクレスの難業くらいの事はできる!」 いや、もっと本音を言えば、「自分の方が彼よりも偉い!」 かくして負けず嫌いのポアロは、ヘラクレスの難業によく似た仕事を十二やり遂げたら、引退しようと決意する。こうしてまた探偵業を続けるが、ヘラクレス云々というのは、おそらく単なるこじつけだ。犯人との息詰まる攻防、トリックやアリバイを崩した時の快感、国家の安全を守ったという誇り。好敵手との出逢い。体験した冒険の数々。読者の胸を踊らせる数々の体験をしたポアロが、穏やかな生活に本当に満足できる訳がない。彼が探偵人生に「幕(=Curtain)ポアロシリーズの最終話タイトル 」を下ろすのは、もっとずうっと先なのだ。ヘラクレスは妻の過ちによって命を落とすが、どうやら現代のヘラクレスは朴念仁で、妻帯の気配はなさそうだ。このままポアロは難業を何事もなく全うできるのだろうか? おや、彼が高価な赤い薔薇をとある女性にプレゼントしている。しかもミス・レモンが問いかけると、真っ赤な顔になる。様々な事件で人の恋路を見てきたポアロにも、遂に春が? これは事件だ!まあ、誰ですか? ポアロが遭遇した事件より、こっちの謎を追う方が面白そうだなんて言ってる人は?ヘラクレスの冒険 (ハヤカワ文庫) [ アガサ・クリスティ ]楽天ブックス
September 3, 2020
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みなさん、こんばんは。安倍首相が辞意表明しましたね。今日から4日間アガサ・クリスティのミステリを紹介します。さて、今日はミス・マープルが活躍する長編です。ポケットにライ麦をA Pocket Full of Ryeアガサ・クリスティー創元推理文庫 莫大な資産を有する投資信託会社社長レックス=フォーテスキューが亡くなった。茶には毒が入っていた。そして彼の若き妻も殺され、メイドは鼻を洗濯ばさみで挟まれた絞殺体で発見される。メイドの雇い主だったミス・マープルが現れ、捜査にあたるニール警部の前で、ポケットに ライ麦を つめて歌うは 街の歌と歌う。犯人は遺産目当てか、それとも歌に準えて、何かを訴えようとしているのか? ミス・マープルもの第六作。クリスティ作品に数多く登場する、マザーグースの童謡に沿った見立て殺人。ランスロット、パーシヴァル、ジェニファ(ギネヴィア)、エレイヌ(エレイン)と、アーサー王物語に依る名前が登場人物につけられており、ランスロットはやはりモテモテでパーシヴァルはいい人だが面白みのない人物設定とこちらも伝説を引きずっている。 前妻の、それも適齢期&既婚の子供が3人もいる所へ、若い人妻を入れたのだから、長く仕えた使用人も含めて、館がぎすぎすした人間関係になるのは必定。事件をきっかけに次々に明らかになる彼等の秘密。何もわかっておらず、頑固で偏屈な前時代人と見せかけつつ実は全てを見通していた女性がクリスティ作品には数多く登場するが、本作では一族の長老であるラムズボトム夫人がこのキャラクターだ。真相に薄々気づきながらも情ゆえに手を下せなかった彼女はあなたみたいに正直一途の方もあっていいのです。と“まれびと”マープルに、その役目を委ねる。こういう、優しさと正義感を前面に(素直に)出さない(出せない)キャラクターがいい。 いつもの「穏やかな老婦人」とは異なり、珍しく声を震わせて犯人を罵倒するマープルが印象的だ。手違いで手元に届くのが遅れた「ある物」の遅過ぎた登場に、ぼろぼろと涙をこぼすマープルが、それでも最後に勝利の笑みを浮かべる。しかし彼女の喜びって本当に古生物学者が前生紀動物の骨格を組み立てるのに成功したときのあの喜びと同じなのか?というか、それってどんな喜び?【中古】 ポケットにライ麦を / アガサ・クリスティー, 宇野 利泰 / 早川書房 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
September 2, 2020
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みなさん、こんばんは。東京パラリンピックまで一年をきりましたね。今日もジェイムズ・ティプトリー・ジュニア作品を紹介します。ライトノベル(文庫) 星ぼしの荒野からOut of the everywhere and other extraordinary visionsジェイムズ・ティプトリー・ジュニア訳:伊藤典夫/浅倉久志地球に観光旅行にやってきたエイリアンは、なぜか善人ばかりを集めて贈り物をしたいと言い張る。少年、看護師、博士、森林監視員らは皆口を揃えて「なら大統領に会えば?」というのにエイリアンは取り合わない。平和主義のエイリアンが善人達ばかりを連れて行った先とその目的は?いやぁ、エイリアンの方が一枚上でしたね、の「天国の門Angel Fix」。飛びぬけて優秀なのにその容貌から豚鼻とからかわれ続けたキャロル・ペイジは努力を重ねて宇宙船クルーの資格を獲得する。しかし宇宙船の中もオトコ社会で彼女が選ばれたのもその容姿ゆえ、なのに政敵業務とやらはきっちりやらされる。パワハラ上司に辛く当たられていた彼女はある日…『エイリアン』みたいなホラーと『未知との遭遇』がドッキングしたような「たおやかな狂える手に With Delicate Mad Hands」。ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアがCIA草創期のメンバーと聞くと、キャロルの受けた仕打ちは体験談?と深読みしたくなる。 ラセンウジバエは生きたウシの体に穴を開けて組織を食い荒らす。小さなハエに大きな武器で立ち向かっても仕方がないし薬の大量散布もすり抜けそうだ。そこで科学者が考えたのは、ラセンウジバエを実験室で大量に育て、蛹になったところで放射線を照射して不妊化し、羽化した成虫を中米の原野に放すという。種の保存の肝は雌なのだ。というわけでこれと人間とどんな関係が?いや、もしかしたら最近の世界全般に広がる少子化だって…というのは嘘だろうが???「ラセンウジバエ解決法The Screwfly Solution」テラ人からの征服を逃れて出エジプト記よろしく星を脱出したジョイラニ人だが、どこかにあるという彼等の故郷は変わり果てていて…「われらを盗みし者We Who Stole the Dream 」自分を西のデモイン行の郵便を届ける配達人だと思っているヒロインの三人称と、彼女と出会った人たちの会話によって真実があぶり出されてゆく様子が疾走感溢れる筆致で綴られる「おお、わが姉妹よ、光満つるその顔よ!Your Faces,O My Sisters!Your Faces Filled of Light!」他「ビーバーの涙Beaver Tears」「時分割の天使Time-Sharing Angel」「スロー・ミュージックSlow Music」汚れなき戯れA Source of Innocent Merriment 」「星ぼしの荒野からOut of the Everywhere 」収録。【エントリーでポイント10倍!(6月11日01:59まで!)】【中古】ライトノベル(文庫) 星ぼしの荒野から / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/訳:伊藤典夫/浅倉久志【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
August 28, 2020
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みなさん、こんばんは。安倍首相の在任期間が最長になったそうですね。でも健康不安がささやかれているとか。今日もジェイムズ・ティプトリー・ジュニア作品を紹介します。あまたの星、宝冠のごとくCrown of Starsジェイムズ・ティプトリー・ジュニアハヤカワ文庫SF 1987年5月19日、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアことアリス・シェルドンは、寝たきりの夫を射殺した後、自分も銃で自殺を図る。享年71才。本編はその一年後に刊行された短編集である。 自分の頭を打ちぬくなんて、それも若くもない女性がと驚くが、元CIA職員だったと聞けばその度胸も腑に落ちる。そして『たったひとつの冴えたやりかた』もまた、自分で自分の終わりを決めるヒロインの物語だった。 本編「もどれ、過去へもどれBackward,Turn Backward」(小野田和子訳)も、作家ティプトリー・ジュニアの「自分(と愛する人)が自分の思う姿でなくなるくらいなら、死んでしまった方がましだ」という考え方が色濃く出ている。 未来では、自分の生涯の中だけタイムトラベルできる。但し未来から戻る時は記憶も物も何一つ持ち帰ることができない。プロムクイーンのダイアンは、BFのジェフと話しながら55年後の未来へタイムトラベル。すると、冴えない学生だったにきび面のドンと夫婦になっていた。「こんなはずじゃあなかった!」と思いながらも、これまでの自分の“過去”を知らされるにつけ、自分の“現在”の幸福を噛みしめるダイアンだったが…。最後に銃が出てくるのも意味深だ。この頃既に彼女の念頭には死の望むべきスタイルがあったのか。「すべてこの世も天国もAll This and Heaven Two」(小野田和子訳)にも至福の瞬間を味わった後にヒロインに死が待っている。隠しているつもりでも、こんなに彼女のポリシーが作品に反映されていたとは。「Our Resident Djinn悪魔、天国へいく」(小野田和子訳)は打って変わったコメディ。なんと神が死に、悪魔ルシフェルが弔問に訪れる。しかし悪魔には別の思惑があって…というお話。他「Second Goingアングリ降臨」小野田和子訳「Our Resident Djinn悪魔、天国へいく」「Morality Meat肉 」小野田和子訳「ヤンキー・ドゥードゥルYankee Doodle」 小野田和子訳「いっしょに生きようCome Live with Me」 伊藤典夫訳「昨夜も今夜も、また明日の夜もLast Night and Every Night」小野田和子訳「地球は蛇のごとくあらたにThe Earth Doth Like a Snake Renew」 小野田和子訳「死のさなかにも生きてありIn Midst of Life」 小野田和子訳収録。あまたの星、宝冠のごとく (ハヤカワ文庫SF) [ ジェームズ・ティプトリー ]楽天ブックス
August 27, 2020
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みなさん、こんばんは。コロナの重傷者ですが東京都と他県では重傷者の定義が違うようですね。ややこしいなぁ。今日から3日間ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア作品を紹介します。老いたる霊長類の星への賛歌 Star Songs of an Old Primateジェイムズ・ティプトリー・ジュニアハヤカワ文庫SF 本中短編集は、当初女性であることを隠していたジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの正体が明かされた頃の作品を集めている。元来性別が作品に影響することなどなく、作品はあくまで作家の個性が滲み出てくるものだ。にも拘わらず私達は無意識に女性作家には“女性”とつけ、何らかの共通点を見出したがる。それがいかに愚かな決めつけかということをアーシュラ・ル・グウィンが序文で述べている。 男と女の役割すら、変貌可能なものかもしれない。そんな問いかけが隠されているのは「汝が半数染色体の心Your Haploid Heart」。何だかアメーバみたいな宇宙人が登場。認定官イアン・スィトロフと鉱物学者のパックス・パットンは御者座に惑星間調査団メンバーとしてやってきた。星には支配層エスザアンと被支配者フレニという二つの種族があった。主にエスザアンから接待を受けてあちこち連れまわされていたが、そのうち“女性”に出会ったことがないと気付く。実はフレニとエスザアにはある繋がりがあって…。 理想の植民星を発見した探査船ケンタウルス号。だが、その唯一の帰還者で、異星生物を持ち帰った女性生物学者の報告が明かす恐るべき真実とは?宇宙船や乗組員自体が“ある物”をイメージしていて、これも一つの乗っ取られ型と言える性の匂いがぷんぷんしているSF「一瞬のいのちの味わいA Momentary Taste of Being」 ヒューゴー、ネビュラ両賞受賞の栄冠に輝く「ヒューストン、ヒューストン、聞こえるか?Houston,Houston,Do You Read?」は、太陽フレアにまきこまれ、NASAとの接触を失ったサンバード号の乗務員が何と未来の宇宙船と遭遇!なぜか乗組員は女性ばかりでまさかのスペースハーレム状態?と思いきや、そんなに甘くはなかった。男性をちくちくどころかぐさぐさ刺しにくる。リアル研究所でもいそうな優しすぎる?研究者が主人公の「ネズミに残酷なことのできない心理学者The Psychologist Who Wouldn’t Do Awful Things to Rats」繁栄を謳歌する民の一コマかと思いきや…の「エトセトラ、エトセトラAnd So On,And So On」彼が見たのは自分の未来か、それとも単なる夢か?「煙は永遠にたちのぼってHer Smoke Rose Up Forever」恐竜時代から近未来まで、絶えず起こる生と死のせめぎあいを描く「すべてのひとふたたび生まるるを待つShe Waits for All Men Born」収録。【中古】 老いたる霊長類の星への賛歌 / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア, 伊藤 典夫, 友枝 康子 / 早川書房 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店
August 26, 2020
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みなさん、こんばんは。ローソンが新型コロナ対策で25日より順次、全国のローソン店舗でレジカウンター横にて展開するおでん鍋の前方に、飛沫防止用アクリル板ついたて「おでんシールド」を設置するそうです。なんか煙で曇っちゃいませんかね?ところで「もう一度人生をやり直したい」ってよく言いますよね。でも何度も繰り返したいと思いますか?今日ご紹介する作品は主人公が何度も最初から人生をやり直します。ライフ・アフター・ライフ (海外文学セレクション)Life After Lifeケイト・アトキンソン著青木純子訳東京創元社1930年11月、閣下と呼ばれる男に向って、英国人女性が銃を向ける。銃を撃った彼女自身の前にも「闇が下りた。(Darkness fell.)」 1910年の大雪の晩、アーシュラ・ベレスフォード・トッドは生まれた。が、臍の緒が巻きついて息がなかった。医師は大雪のため到着が遅れ、間に合わなかった。 えっ、これで終わり?冒頭のシーンに繋がらないの?冒頭シーンに繋がる過去の回想が延々と続くのが通常パターンなので、まず、ここで読者は面食らうはずだ。 心配ご無用。再び、みたび、いや、何回も、アーシュラ出産の雪のシーンは登場する。実は、少しずつ誕生シーンが変わってくる。そりゃそうだ。単なるループ話をこの頁数を使って書くのは勿体ない。とはいっても、一度逃れたからといって死は見逃してくれない。これ以外にもアーシュラは何度も死の危険に見舞われ、彼女の前にはまたもや「闇が下り(Darkness fell.)てく」る。するとまた雪の日の出産シーンへ。まるで人生ゲーム&すごろくの「振り出しに戻る」を引いた時みたいに、アーシュラは何度も生き直す。 なかなか冒頭のシーンに繋がらず、生まれ変わる毎に周囲の登場人物の人生も目まぐるしく変わる。そのうち誰か凝り性の人がバージョン毎に変更箇所を列記しそうだ。但し、日本語版は頁の下部に年月日が記載されるので、「あれ、どこまで戻ったっけ」と確認するのは容易だ。原書ではないらしい。本国の読者、ご愁傷様。何度人生を繰り返しても長兄はいけすかなかったり、母親との馬が合わなかったり“変わらない”シチュエーションもある一方で、ベストセラー作家になったり、最初は死ぬはずではなかった人が不慮の事故で亡くなっていたりと変わっている部分もある。 ところで、どうやって前回の失敗を修復することができるのか。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「恋はデジャ・ヴ」では、大人になった主人公が、記憶を持ったまま別の時代にタイムトラベルしていた。今回はそのセンはない。何をキーにアーシュラが危機回避をしているかは、ぜひ本書で確かめられたし。私達にも覚えのある“あれ”だ。結構ああいう感覚はすぐ忘れてしまうが、実はどこかパラレルワールドで体験したことだったりして?と考えるのは結構面白い。◆◆ライフ・アフター・ライフ / ケイト・アトキンソン/著 青木純子/訳 / 東京創元社Webby
August 25, 2020
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みなさん、こんばんは。選抜出場校の甲子園での大会が行われていますね。今日はミステリを紹介します。カメレオンの影The Chameleon‘s Shadowミネット・ウォルターズ創元推理文庫 戦地での経験によりPTSDを負い、家族とも友人ともうまくいかなくなる兵士のケースはニュースでよく見ており、映画にも登場する。我々はそんな兵士たちを、理解し難い恐ろしい存在として、被害者としてではなく何か恐ろしいことをする加害者として疑いと恐怖の眼差しで見てしまいがちだ。 アクランド英国軍中尉はイラクで爆弾によって頭に重傷を負い、片目を喪失する。病院での彼は他人に触れられると暴力的になり、看護師たちを戸惑わせていた。退院後、彼はロンドンに住み始める。だがアクランドともめた高齢の男がその後に何者かに襲われ、彼は警察に拘束される。近隣では、軍歴のある3人の独り暮らしの男性が殴殺される連続殺人が起きていた。 本作も悪魔の羽根同様、3つの「語り」スタイルを使い分けて物語を重層的に語る。1.記事 軍の内部資料一人暮らしの老人の殴打事件。世間はこのように事件を捉えているという公的なもので、捜査を実際に担当するジョーンズ警視らの見解とは異なる場合もある。2.ロンドン警視庁の内部メモ 医師の診断内容専門家により作成されたもの。1よりも、より踏み込んだ詳細な内容になっている。3.地の文アクランド以外登場人物達全ての三人称。1は発表された内容だが、あくまで表向きの広報のような扱いだ。「2」は一方的な推理。よって全てを知る読者は、三つの情報を組み合わせながら自身で事件を組み立てていくことができる。 従来の作品で、特殊な状況が生じて閉塞に向かう社会をよく取り上げていたウォルターズだが、今回社会は基本的にオープンだ。にもかかわらず、アクランドや帰還兵達には社会に居場所がなく、被害者の素性が明らかになる過程で、LGBTに対する偏見がイギリス社会に根強いことも示唆される。物理的に遮断されていなくても、表に出てこない偏見や先入観が特定の人物を阻害=遮断して、結果的に壁が出来てゆく。ミステリでとある人物の影を暴きつつ、英国社会の影も露にする社会小説の要素もある。カメレオンの影 (創元推理文庫) [ ミネット・ウォルターズ ]楽天ブックス
August 14, 2020
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みなさん、こんばんは。三浦春馬さんの自殺、ショックですね。またSNSが関係しているとか。さて、今日はホラーテイストのSF小説を紹介します。呪われた村The Midwich Cuckoosジョン・ウィンダム創元推理文庫原題はThe Midwich Cuckoos=ミドウィッチは村の名前、カッコーはいわずと知れた鳥の種類。卵を他の鳥の巣に置いて、何も知らない母鳥にカッコウを育てさせる托卵を行う。この托卵行為を人間に対して行ったら…という設定が本作。 9月26日22時17分、ミドウィッチにいた17歳から45歳までの妊娠可能な女性が全て妊娠し、やがて月満ちて次々と子供を産む。しかし子供達は人間の子達とはどこか違っていた。一人に何かを教えれば、皆がそれを習得し、感情や経験を共有できる。その設定は『鳥の声いまは絶え』で人間がクローンを作ろうとした時の、クローンの特徴と同様である。意図して作ろうとしたわけではない特徴として現れた『鳥の声…』と、宇宙人がもとから持つ特徴として登場した本作。“人間ではない者”の特徴として、「無機質」「画一的」を想定したのは面白い。裏を返せば、人間はそれぞれが異なるキャラクターを持っていることこそが良くも悪くも特徴であると主張していることになる。 将来生まれるはずの子供のポジションを奪うことは、すなわち人間の未来を奪うことである。地球を支配するにしては、随分と大雑把な方法を取ったものだと思うが、いざ生まれてしまうと子供としての情が湧き“殺す”ことを躊躇う人間と、意志の統一が迅速かつ容易で、殺すことに躊躇いのない宇宙人の対決となれば、後者が有利だ。そして親たる人間は次第に老いてゆく。一方宇宙人の子供はどのような成長過程を辿るのか未知数だ。自分達を排除しようとする者に対して子供達が取った行動と、世界各地で同様の事態が起こっていたことが、ある人物の行動を促す。 エンディングは散々引きのあるSF映画を見てきた者からすればややあっけない。もし今映画化するなら、滅びたかに見えて実は一つ生き残っていて…のような『ターミネーター』的展開も受け入れられるのでは。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【中古】 呪われた村 / ジョン・ウィンダム, 林 克己 / 早川書房 [文庫]【宅配便出荷】もったいない本舗 おまとめ店【福袋対象商品!】ツイリースカーフ付ヴィンテージサテンフレアスカート(R20103-g) レディース ボトムス フレアスカート ロング ロングスカート 夏 reca レカ ※返品交換不可 メール便対応10価格:3980円(税込、送料無料) (2020/7/20時点)楽天で購入
July 22, 2020
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みなさん、こんばんは。今日は土用の丑ですね。鰻たべてますか?さて今日もホラー短編集を紹介します。銀の仮面The Silver Mask and Other Storiesヒュー・ウォルポール創元推理文庫 大都会を“アスファルト・ジャングル”とはよく言うが、本当に獣が闊歩しているのを見る人は珍しい。そのうちの一人がイギリス人のホーマーだった。 伏線はあった。道に迷い、暗闇から二つの眼を光らせた虎に睨まれた夢を見たのだ。幸いその夢は三日経つと忘れてしまい、その後NYに行ったホーマーは友人もでき、順調に暮らしていた。ところがある時黒人に追い越された事がきっかけで、再び虎の夢を見るようになってしまった。今度は何日経とうが虎は記憶から去ってくれない。次第に心身に異常をきたしたホーマーは…。 まあこの先は予測の通り。「なぜいもしない虎を見たか?」は、精神科医なら「大都会で不安に駆られたから」などとまっとうな答えを出してくれる。当然だが、これだけでは全然怖くない。なら何が怖いのか。実は、虎を“感じた”のはホーマーだけではなかったのだ。一人ならば妄想として片づけられるが、複数になったら?さあ、虎が本当にいるのかわからなくなってきた! 「虎The Tiger」以外の動物ネタといえば「Chinese Horses中国の馬」。といっても馬が襲ってくるわけではない(逃げればいいしね)。タイトルは家にある置物のことだ。家を経済的事情で貸さなければならなくなった女性ミス・マクスウェルが主人公だ。どうしても自分の家が気になるマクスウェルは、借り手ミス・マーチを訪ねて行き散々家の文句を言われたことで、家を奪還したい思いが燃え上がり策略を巡らすうちにある男性と出会う。何だかジェイン・オースティン的展開で、実際そうなりかけるのだが、マクスウェルには恋よりも大事なものがあった、というオチ。怖いかどうかと言われると迷う。怖いというより滑稽かもしれない。江戸川乱歩が奇妙な味の傑作と絶賛した表題作「銀の仮面The Silver Mask」は、瞬時に攻守逆転する物語。読者の中には「えっ、何でそんなに押される一方なの?気が弱すぎる!」とじれじれする者もいよう。ただ、実際に絶世の美青年が現れたらそう言っていられるか…。 他「敵The Enemy」「雪The Snow」「ちいさな幽霊The Little Ghost」「ルビー色のグラスThe Ruby Glass 」「トーランド家の長老The Oldest Talland 」「死の恐怖The Fear of Death」「みずうみThe Tarn 」不思議な老人の話「海辺の不気味な出来事Seashore Macabre-A Moment's Experience」など国書刊行会で単行本として刊行時に収録された短編に新訳「ターンヘルムもしくはロバート伯父の死Tarnhelm:or The Death of My Uncle Robert」「奇術師The Conjurer」を加える。銀の仮面 (創元推理文庫) [ ヒュー・ウォルポール ]楽天ブックス
July 21, 2020
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みなさん、こんばんは。そういえば京アニから1年なんですね。今日も怪談特集です。これから暑くなりますが、手っ取り早く背筋も凍るような怪談を読んでみるのはいかが?ドイツ怪談集 (河出文庫) 種村 季弘 編「ロカルノの女乞食Das Bettelweib von Locarno ハインリヒ・フォン・クライスト/著種村季弘/訳」弱い立場の人には親切にしなければならない。でないと自分も同じ目にあいますぞ!という因果応報のシンプルなドイツいち短い怪談。「写真Die Photographie フランツ・ホーラー/著 土合文夫/訳」両親の結婚式の時や妹の友人の洗礼式の時に、写真の片隅に映っている謎の男。髪の毛はなくステッキを持っていて、白い手袋をしている。両親も妹も男の事は知らないという。男と主人公との接点はなく、単なる偶然かと思っていたら、ある日路面電車で男と出会ってしまった。あろうことか男は私に向って手を上げて微笑みかける。彼は誰?最後まで男の正体を明かすことなく終わってしまう、いわゆるイヤミス。 「三位一体亭Das Wirtshaus zur Dreifaltigkeit オスカル・パニッツァ/著種村季弘/訳」何だかこのタイトルが既にネタバレっぽい。徒歩旅行をしていた主人公は、一夜の宿を求めて三位一体亭にたどり着く。宿には若い女性マリア、若者クリスティアン、そしてマリアをひっきりなしに罵る名なしの老人がいる。この名前だけでぴんときそうだが、若者&女性のコンビは聖母子だ。えっこれホラーじゃないのでは?と思って読んでいると、最後に家の正体が。「オルラッハの娘Geschichte des Madchens von Orlach エスティーヌス・ケルナー/著佐藤恵三/訳」オルラッハの信心深い一家の娘マグダレーネは、牛の乳を搾っている時に何者かに平手打ちされ、猫が彼女の周りをうろつくようになる。女が現れ「3月5日までにこの家を壊して欲しい。理由はまだ言えない。」とマグダレーネに頼む。キリストの“荒野の誘惑”を彷彿とさせるような何者かと娘の攻防戦。「金髪のエックベルトDer blonde Eckbert ルートヴィッヒ・ティーク/著 前川道介/訳」「廃屋Das ode Hans.E・T・A・ホフマン/著 池内紀/訳」「幽霊船の話Die Geschichte von dem Gespensterschiffヴィルヘルム・ハウフ/著種村季弘/訳」 「奇妙な幽霊物語Merkwurdige Gestenstergeschichte ヨーハン・ペーター・ヘーベル/著種村季弘/訳」 「騎士バッソンピエールの奇妙な冒険 Das Erlebnis des Marschalls von Bassompierre」 フーゴー・フォン・ホーフマンスタール/著 小堀桂一郎/訳」 「こおろぎ遊びDas Grillenspiel」 グスタフ・マイリンク/著 種村季弘/訳」 「カディスのカーニヴァル Karneval in Cadiz ハンス・ハインツ・エーヴェルス/著石川実/訳」 「死の舞踏 Gebarden da gibt es vertrackteカール・ハンス・シュトローブル/著前川道介/訳」「ハーシェルと幽霊Herschel und ds Gespenst アルブレヒト・シェッファー/著石川実/訳」「庭男Der Gartner ハンス・ヘニー・ヤーン/著 種村季弘/訳」「怪談Gespenster マリー・ルイーゼ・カシュニッツ/著 前川道介/訳」「ものいう髑髏Sprechschadel ヘルベルト・マイヤー/著 池田香代子/訳」など収録。結構バラエティに富んだ訳者が担当している。さて、効果のありそうな怪談はありましたか?ドイツ怪談集 (河出文庫) [ 種村 季弘 ]楽天ブックス
July 20, 2020
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みなさん、こんばんは。GOTOキャンペーン東京はずされちゃいましたね。さて、今日もホラー小説を紹介します。M・R・ジェイムズ怪談全集〈2〉The Complete Ghost StoriesM・R・ジェイムズ創元推理文庫 神学博士アシュトン博士は、妻の妹の遺児フランクを引き取って育てていた。同じ頃、博士の大学時代の友人でアイルランドの貴族キルドナン伯爵から、「養育費を払うから自分が海外にいる間息子サウルを育てて欲しい」と頼まれる。ちょうどフランクと年も近かったことや何といっても養育費が多かったことから引き取る。ところが、サウルと一緒にいるようになってから、フランクの様子がおかしくなり、やがて病気になり息を引き取る。彼の末期の言葉は「もう会いたくないが、彼がどんな寒い目にあうか心配だ」という奇妙なものだった。 サウルという名前は旧約聖書で、イスラエル最初の王となるも、後継者ダビデを妬んで何度も殺そうとする人の因縁の名前。この子供達の話が前半で、彼等が暮らしていた僧房に新たな住人がやってきてからの話が後半という二段構えの「ホイットミンスター寺院の僧房The Residence of Whitminster」ただこの話、元凶を棄てないで部屋を閉じるだけなので怪異はそのまま続くのでは?好事家のデントンは古書オークショーナーの売り立て会場である日記帳に目を止め競り落とす。日記帳にはさんであった布地の模様が気に入ったデントンは複製を作らせて部屋のカーテンに使うが、それ以後誰かに見られているような感覚が抜けなくて…「ポインター氏の日記帳The Diary of Mr.Poynter」この話はあとで気づいたのか「デントン氏が布の由来を探索しようと試みた形跡がない」と記述あり。まあ、原因が分かれば由来を辿って因縁を探すのが常道だから。いわくつきの双眼鏡で見ると、なぜかおどろおどろしい光景ばかりが映る「丘からの眺めA View from a Hill」第一集の『銅版画』と似た構造の「呪われた人形の家The Haunted Dolls’ House」全編書簡体で、イギリスで有名な人形劇が登場する「失踪綺譚The Story of Disappearance and an Appearance」誰も開いた覚えのない祈祷書のページが開いている!事件「おかしな祈禱書The Uncommon Prayer-book」むやみやたらと自分のではないものを拾わないように!という戒めつき「猟奇への戒めA Warning to the Curious」「寺院史夜話An Episode of Cathedral History」「二人の医師Two Doctors」「隣の境界標A Neighbor’s Landmark」「一夕の団欒An Evening’s Entertainment」「ある男がお墓のそばに住んでいましたThere was a man Dwelt by a Churchyard」「鼠Rats」「真夜中の校庭After Dark in the Playing Fields」「むせび泣く泉Wailing Wall」「私が書こうと思っている話Stories I Have Tried to Write」「小窓から覗くVignette」「死人を招くThe Experiment」「無生物の殺意The Malice of Inanimate Objects」「フェンスタントンの魔女The Fenstanton Witch」「暗合の糸Marcilly-le-Hayer」「キングズ・カレッジ礼拝堂の一夜A Night in King’s Chapel」収録。M・R・ジェイムズ怪談全集2【電子書籍】[ M・R・ジェイムズ ]楽天Kobo電子書籍ストア
July 19, 2020
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みなさん、こんばんは。藤井くんすごいですね。季節柄今日から怪談を紹介します。M・R・ジェイムズ怪談全集〈1〉The Complete Ghost StoriesM・R・ジェイムズ創元推理文庫 天涯孤独の孤児エリオットが年上の従兄アブ二―氏に引き取られる。彼は異端信仰の噂があり、これまでに2人の孤児を引き取ったにも関わらず、いずこともなく姿を消していた。ほら、ここまでで怪しいって思いますでしょ?なのに家人は「あんなに良くしてやったのにいなくなって恩知らずだ」といなくなった孤児を責めるばかり。そしてある夜(ほら、夜っていうのがアヤシイ)エリオットは誰にも言わずに部屋に来てくれと言われ…。「消えた心臓Lost Hearts」 フランスを旅行中の英国人デニスタウンは、ある教会堂にいる時にまるで堂守に見張られているかのような感覚に襲われる。彼はどうやら何かを恐れているようで、壁際に身をすくめたりする。自分が何か盗むと思われているのではと不快に思ったデニスタウンだが、あるものを見せられて買った途端に堂守の態度が一変!(ほうら、ここがアヤシイよね)「アルベリックの貼雑帳Canon Alberic’s Scrap-book」 かつて魔女の噂があった女性が火あぶりにされるが、当の彼女は平然としたもので「いつかあの家にはお客が来る」と言い残す。そして裁判で判決を下した屋敷の主が変死を遂げた後も、その一族の当主は死に続ける…「秦皮の樹The Ash-tree」 ホラー映画でも定番だが、とにかく「やっちゃいけない」という事を率先してやってしまう人がいる。そういう人に限って最初に何者かに殺されるのだ。この作品も定番ど真ん中。拾った笛をピーと吹くと何者かがやって来る。さあ何者って?「笛吹かば現れんO“h,Whistle,and I’ll come to you,My Lad”」 教師が「これこれを使って短文を作りなさい」というと、ある生徒が作ってきた文章が教師を恐怖に陥らせる。さてそれはなぜ?学校というより教師の個人的な体験に基づく「学校綺譚A School Story」物語に登場する学校はジェイムズ自身が通った予備校だそうだ。 人をみだりにディスるなかれというありがたい教訓つきの「人を呪わばCasting the Runes」日を改めて見る毎に画の中身が変化する「銅版画The Mezzotint」絶対にあるわけないだろ?という部屋番号がなぜかある時ぱっと存在する「十三号室Number13」他「マグナス伯爵Count Mugnus」「トマス僧院長の宝The Treasure of Abbot Thomas」「薔薇園The Rose Garden」「聖典注解書The Tractate Middoth」「バーチェスター聖堂の大助祭席The Stall of Barchester Cathedral」「マーチンの墓Martin’s Close」「ハンフリーズ氏とその遺産Mr.Humphreys and His Inheritance」収録。M・R・ジェイムズ怪談全集1【電子書籍】[ M・R・ジェイムズ ]楽天Kobo電子書籍ストア
July 18, 2020
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みなさんこんばんは。小池さん出馬するんですねやっぱり。今日から二日間韓国小説を紹介します。今日は韓国のユーモア小説を紹介します。保健室のアン・ウニョン先生School Nurse Ahn Eunyoungチョン・セラン亜紀書房 目に見えないものが見えてそれらを退治するといえば、日本では映画にもなった陰陽師が浮かぶ。しかし、本編のヒロイン、アン・ウニョン先生が対峙するのは、どちらかといえばアメリカ映画『ゴーストバスターズ』に登場するマシュマロマンっぽい。彼女は安部晴明の如くカッコよく“呪が云々”と言うのでなく、BB弾の銃とレインボーカラーの剣で邪悪な存在に立ち向かう。とはいってもエネルギーがなくては戦えないので、無自覚に強い気で守られている同僚の漢文教師ホン・インピョがエネルギー補給者兼晴明においての源博雅的役割(凡人)を果たす。 博雅はこの世ならぬ者をも惹きつける音楽の才があったが、インピョにはそんなしゃれたものはない。アピールポイントといったら、俗世で有効な裕福な一族の末裔であることくらいだ。足を引きずっている事がネックになって、恋人もできないと本人は思い込んでいる。一方のアン・ウニョン先生も特異体質のせいで幼い頃からあまり人が近寄らず、本人も仕方がないこととして諦めている節がある。そんな二人が、事件に出会って劇的に恋に落ちればそれこそ韓流ドラマ!なのだが、チョン・セラン作品にそんなドラマチックは似合わない。どちらかといえばずっこけヒーローカップルの行くところ、そこはかとないユーモアが漂い、当世学生事情がほの見える。たとえばウニョン先生の通う学校では屋上から何人も飛び降りが出る。物語中では怪しの存在が犯人とされているが、実際のところ韓国では、それだけ日本よりも厳しい受験戦争にさらされている学生が多いのだろう。フィクションの中の事実を見通せば、悪者を退治してめでたしめでたし、という読後感にはならない。しかしチョン・セラン作品にしては明るい方と言える。だからドラマになるのだろう。「大好きだよ、ジェリーフィッシュ」「土曜日のデートメイト」「幸運と混乱」「ネイティブ教師マッケンジー」「アヒルの先生、ハン・アルム」「てんとう虫のレディ」「街灯の下のキム・ガンソン」「ムシ捕り転校生」「穏健教師パク・デフン」「突風の中で私たち二人は抱き合ってたね」収録。必ずしも時系列順ではない。 Netflixでドラマ化決定。『保健教師アン・ウニョン』で俳優チョン・ユミがアン・ウニョン、彼女のヒーラーであり漢文教師の「ホン・インピョ」役はナム・ジュヒョク。チョン・セラン自身が脚本を手掛ける。平和な時代に視聴して思いっきり笑いたいものだ。保健室のアン・ウニョン先生 [ チョン・セラン ]楽天ブックス
June 18, 2020
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みなさん、こんばんは。アラート解除されましたね。『裏切りのサーカス』というタイトルで映画にもなったジョン・ル・カレのスパイ小説を紹介します。ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕Tinker,Tailor,Soldier,Spyジョン・ル・カレハヤカワ文庫NV 冒頭とラストはコーンウォールの田舎町。登場人物は“いびつな背中“を持つジム・プリドーという中年男性と、裕福な両親のもとに生まれたが常に寂しさを感じているサースグッド校の小学生ビル・ローチだ。読者はこれから、ジムが“いびつな背中”を持つに至った経緯や謎めいた彼の正体を知るが、ビルはずっと彼の背景を知らない。やがてジムが“あるもの”を持っている場面、訪ねて来た人と話す場面を見るが、ビルの中では、ジムはずっと“優しくていい人“のままだ。ジムが会っていた相手とは本編の主人公スマイリーだ。彼との会合の後、脇役であるジムのその後など物語に何の影響も与えない。そのまま退場させても良かった。しかしジムとあるがままの彼を信じて受け入れる少年のふれあいのシーンで物語は終わる。殺伐とした、誰も信じられない男達の物語を間に挟んで、よく知りもしない男を信じる少年の物語は終わるのだ。 スパイ小説というと、どうしても映像作品の007の影響が強く、スパイにしては派手すぎる立ち回りと美女に囲まれ、敵を出し抜く姿が印象的だった。しかし本編やサマセット・モームの『英国諜報員アシェンデン』に描かれるところの諜報員はそれとは真逆である。Leg Workはするものの、とことん地味だ。それもそうだろう。スマイリーは一度引退した身で、とてもじゃないが、街を全力疾走なんてできない。ひたすら資料に埋没し、人を観察し、裏の裏を読もうと神経をすり減らす。相手を騙してやろうとするが、その相手もまたプロフェッショナルだ。起きている時はいっときも気が抜けない。私生活でも問題続きだ。他国のスパイのどんな嘘も見抜けるスマイリーが、絶えず恋人を持つ妻アンの嘘に気づかないはずがない。その逆はあっても。しかしスマイリーは、友人が抱く“素晴らしいアン”のイメージを保ちつつ「すらりとして、気まぐれで、息をのむほど美しく、本質的に他人の女」を愛し続ける。仕事では人の嘘を暴くことも嘘をつくことも何とも思わないが、私生活ではただ一つの泣き所の前で無力になる。凄腕なのにそうと見えない外見と同じく、奥底に大きな矛盾を抱えた諜報員スマイリーの三部作第一作。 今までに二度映画化されているが、スマイリーを演じた俳優はいずれも“小太り”とは言い難く、むしろすらりとしている。映像化するので、やはり主人公はある程度かっこよくないと保たないということか。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕【電子書籍】[ ジョン・ル・カレ ]楽天Kobo電子書籍ストア
June 16, 2020
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みなさん、こんばんは。センバツ高校野球の選出校がたった一回だけですが甲子園で試合ができるとか。良かったですね。映画で有名なドラキュラの原作を読まれたことがありますか?かなり脚色されているのですよ。吸血鬼ドラキュラDraculaブラム・ストーカー創元推理文庫 本作は日記や手紙、電報、新聞記事、蝋管式蓄音機などによる記述で構成されているので、登場人物が全て筆まめだ。各々の記述者や叙述者の発言によって、徐々にドラキュラの企みが浮上していく構成となっている。 数多く映画化されると、原作からずいぶんとかけ離れている映像作品の設定が真実だと思われがちだ。例えば本作でも、初登場時のドラキュラ伯爵が、話し方も動きもかなり高齢者っぽいのだ。こんなのでふくよかな若い女性を襲おうもんなら「きゃー、何なさるの伯爵!おやめになって」とどつかれて骨折しかねない。絵的にも高齢者VS若い娘より広く伝わっているナイスミドルVS若い娘の方がエロティックさが増す。 ところが伯爵、血を吸うようになると若返る。霧になったり蝙蝠になったりいろいろな能力があるドラキュラだが、若返りできるとは!エリザベート・バートリ伯爵夫人ネタを仕込んだか。 また、よく知られているようにドラキュラ伯爵と対峙するのはヴァン・ヘルシンク博士であるが、こちらも原作ではかなりのご高齢だ。老人対決はそれはそれでフェアな気がするが、映像的には盛り上がらないことこの上ない。ヘルシンク博士は知識担当のみならいけるとしても、とてもフルパワー状態の伯爵を肉体的に倒せるとは思えない。実は、原作で実際に伯爵を倒すのは若者である。それも映画などで脇役設定されているミナの親友・ルーシーの求婚者の一人だ。つまり、ドラキュラ退治はルーシーの敵討ちでもあるのだ。更に、映像化作品では、ジョナサンはミナを守ろうとするが、原作では城に閉じ込められて「こちらが伯爵のいうことを、なんでもハイハイと真に受けて聞いてさえいれば、相手はこっちをうまく騙し了せたつもりでいるわけだ。となると、こちらの計略は、自分の承知していること、恐れていること、それはそっと胸に畳んでおいて、なに食わぬ顔をしながら油断なく目をくばっていることだ。そうだ、こっちは赤んぼ同様に、ただ怖い怖いで騙されていればいい。」などど余裕かましていた割には、帰ってくるなり恐怖でぶっ倒れるなど実に頼りない。一方でドラキュラに操られつつあると知ったミナが「私は汚れています!私はあいつに汚されました!」と嘆きつつも、伯爵を出し抜こうとする逞しきヒロインに成長している。こうした部分が映像化作品ではばっさりカットされているのが残念だ。是非原作もご一読を。2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。【エントリーでポイント最大19倍!(5月16日01:59まで!)】【中古】文庫 ≪海外ミステリー≫ 吸血鬼ドラキュラ / ブラム・ストーカー【中古】afbネットショップ駿河屋 楽天市場店
June 12, 2020
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みなさん、こんばんは。株価がおちついてきましたね。さて、今日はアンリ・バンコランシリーズの新訳を紹介します。四つの凶器The four false weaponsジョン・ディクスン・カー創元推理文庫「もしも五月十五日の昼下がりの彼が、誰かにこう言われようものなら―わずか一日後の君はパリにいて、傍観者ながら「四つの凶器」事件と後世をかなり騒がす殺人事件に関わりを持つんだよ(p9)」「泥沼なら抜け出せますよ、ミス・トラ―、私が一肌脱げば(p79)」「どの鏡に映し出しても正しい姿ではない。どんなさりげない行動も最後の最後でかけ違う。私好みの展開です。(p110)」「犯人ならわかっていますよ。証明もできます。だからこそ袋小路で行き詰まっているのです。(p136)」「犯人を知ったのは私の手柄ではありません。ささいなきっかけが一つ二つあって、それに導かれたまでです。裏づけを探したら、ありました。(p137)」「もしも五月十五日の昼下がりの彼が、誰かにこう言われようものなら―わずか一日後の君はパリにいて、傍観者ながら「四つの凶器」事件と後世をかなり騒がす殺人事件に関わりを持つんだよ」とこんなに優しく作者から語り掛けられていると言うのに、当の本人―父の後を継いでロンドンの有名事務所で働く弁護士リチャード・カーティス―は、その日も夢想の真っ最中。「ある任務を引き受けてもらうぞ。手短に説明しないといかん、ここは見張られているんだ。さ、ここにパスポート三通とピストルがある。ただちにカイロへ発て。」「さる美人とここで落ち合う―美人なのは言うだけ野暮だな?」仕事しろよ。 そんな時事務所のボスから、結婚が迫り過去の女性関係を整理したい有力顧客ラルフ・ダグラスの案件が持ち込まれる。元愛人とのトラブルを解決するためパリに行き、引退したアンリ・バンコランから愛人の情報をできるだけ引き出すよう言われるリチャードだったが、ラルフと愛人宅に出向くと彼女は殺されており、何と凶器が4つも!そしてメイドは彼女が殺される前夜にラルフが来たと言う。ラルフの婚約者マグダ・トラ―も現れて泥沼だ!と騒いでいると、ハチよけの臭いパイプをふかしたバンコランが現れる。「泥沼なら抜け出せますよ、ミス・トラ―、私が一肌脱げば」ほぅら、カッコいい。誰です「脱いでほしい!」とか言ってるのは。 だが彼の最大の難点は、思わせぶりな事を散々言いながら犯人を明かさないことだ。「どの鏡に映し出しても正しい姿ではない。どんなさりげない行動も最後の最後でかけ違う。私好みの展開です。」「犯人ならわかっていますよ。証明もできます。だからこそ袋小路で行き詰まっているのです。」「犯人を知ったのは私の手柄ではありません。ささいなきっかけが一つ二つあって、それに導かれたまでです。裏づけを探したら、ありました。」いやもう焦らす焦らす。しかしこの焦らしに耐えられた者だけが、あっと驚く?犯人にたどり着けるのだ。四つの凶器 (創元推理文庫) [ ジョン・ディクスン・カー ]楽天ブックス
June 2, 2020
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みなさん、こんばんは。長い図書館休みの期間に難解と噂のあるこれを読みました。幼年期の終わりChildhood’s Endアーサー・C・クラーク光文社古典新訳文庫 二十一世紀初頭。巨大な宇宙船が地球にやって来る。SF映画ならばクライマックスに持ってくる場面を惜しげもなく冒頭に持ってきた筆者は、「とても太刀打ちできそうにない相手」に統治される地球の姿を映し出す。征服者/被征服者のよくある構図からはかけ離れた、平和な光景に拍子抜けするが、そんな中でも姿を見せないオーヴァーロード(最高君主)の姿を一目見たいと願う勢力が、国連事務総長ストルムグレンを誘拐してしまった!宇宙映画のマザーシップのイメージはほぼこの作品から来ている。第一章【地球とオーヴァーロードたち】 第二章【黄金期】はオーヴァーロード達に統治されたために、図らずも世界平和が実現してしまったという正にタイトル通りの光景が描かれる。ならば万々歳ではないか、これが理想というものではないかと思いたくなるが、一方でマイナス面もある。どこをどう取っても自分達より優れているオーヴァーロードを前にして、科学も芸術もこれ以上発展しなくなったのだ。ということは、トップに立つものがどこか欠けている存在であった方が、或いは世界はどこかが必ず渇いていた方が発展が見込めるということになる。 第三章【最後の世代】は今まで支配者と見てきたオーヴァーロード達の真の目的が明かされる。そしてタイトルの意味が最後に来て分かるので、今まで圧倒的優位に立つと思ってきたオーヴァーロードを異なる目で見るようになる。 初版は冷戦の真っ只中、1953年に刊行された。しかしアメリカとソ連との宇宙戦争が終結したのを機に、第一章の舞台を21世紀に移した改稿版が1989年刊行。 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫) [ アーサー・チャールズ・クラーク ]楽天ブックス
May 31, 2020
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みなさん、こんばんは。いよいよ緊急事態宣言解除ですね。今日もリーバス刑事シリーズを紹介します。獣と肉Fleshmarket Closeイアン・ランキン早川書房 セント・レナーズ署で組織再編成が行われて犯罪捜査部が解散する。リーバス警部もシボーン部長刑事と共にエジンバラ市内の警察署に異動に。そんな時、難民とおぼしき男が無残に刺し殺された。その身元は不明だったが、捜査に乗り出したリーバス警部は男が謎の女に会っていたとの情報を得る。警察に電話をしてきた女には独特の言葉の訛りがあった。同じくしてパブの地下で女の骨が発見された。大学の研究室に保管されていたはずの骨を、誰が、なぜここへ移動させたのか?さらにリーバスは、ある男が出所してきたことを知る。被害者の女性は乱暴された後に自殺。なぜか死んだ姉そっくりの恰好をしていた妹は、最近失踪を遂げていた。これらの事件の関連は? 異動先の職場では、自分の机もない有様。暗にこの機にリーバスに退職してもらいたい上層部の思惑を知りながらも、事件に首を突っ込む一匹狼リーバス。前作はずみでシボーンにあんな事をしたというのに、どちらも“気まずい”と感じながらも一歩踏み出せず。推理に向けるエネルギーの半分もお互いへの恋愛に向ける気がないなんて、中学生かあんたらは。情熱的な活動家、職場の同僚とそれぞれに別の相手が現れるくらいだから、魅力がないわけではないのに。「二人がくっつけばいいのに」と思っているファンも少なからずいるはずだ。 さて、本編ではもう一人、シリーズに欠かせないキャラクターが登場する。裏社会を仕切るギャングのボス、カファティだ。リーバスと違って法にも倫理にも縛られていない彼は、頑固一徹のリーバスが気に入ったのか、何かとちょっかいをかけてくる。警察内部では二人は繋がっているという噂もあるくらいで、事実ある種の共闘体制を取ることもある。しかしお互いが絶対に相容れないことを知っており、かつどこかで尊敬もしている。友情ではないが憎み合ってもいない不思議な関係の彼がいることで、優しいリーバスの顔がぴりっと引き締まる。 グラスゴーで移民男性が殺害された実際の事件にインスパイアされたシリーズ15作。移民が置かれた悲惨な状況は、小説が書かれた頃よりも、EU離脱を決めたイギリスが難民・移民を締め出そうとする今の方が切実に感じられるかもしれない。 2005年度CWA賞ダイアモンド・ダガー賞受賞作品。【中古】 獣と肉 ハヤカワ・ノヴェルズ/イアン・ランキン(著者),延原泰子(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
May 26, 2020
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