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姉と妹 @ Re:ともたさんへ こんばんは。コメントいただきありがとう…
2025.08.24
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「ストーリー・ガール」木村由梨子訳 感想+ アンの愛情『黙示録』の章について



「ストーリー・ガール」  ​
(1911年 ルーシー・モード・モンゴメリ/著
木村由梨子/訳 角川文庫※元は1980年 篠崎書林より刊行)

(角川文庫/背面あらすじ)
父の仕事の関係で、トロントからプリンス・エドワード島にやってきた ベバリーとフェリックスの兄弟
キング農場で個性豊かないとこたちと一緒に暮らすことになった彼らが出会った、 すらりと背の高い大人びた少女。
虹のような声色でお話を語る不思議な魅力の ストーリー・ガール と過ごした 多感な10代の日々を、夢のように美しい島の四季と重ね合わせて描く、 もうひとつの『赤毛のアン』と呼ばれ愛されるモンゴメリの傑作。

本国・カナダでは1990年代に、本作「ストーリー・ガール」シリーズをベースとして、
アンシリーズのエピソードも交えた形で 「アボンリーへの道」 というテレビドラマ作品が制作されているそうです。
全91話とか書いてあるので、超大作ですね…。

原題は「The Story Girl」。
1911年発表の作品とのことなので、「果樹園のセレナーデ」の1つ後の作品になるのかな?

本作は『赤毛のアン』で名声を得たモンゴメリさんが、より自身の幼少期の体験談や聞いてきた物語の引き出しを大きく広げ、 お話しの上手な女の子を、今ならこの体裁で描くな、 というとっかかりで楽しく執筆された作品なのかな?と受け取りました。

​本作も、​ 以前感想を書いた「果樹園のセレナーデ」 ​と同様に、
この先で紡がれるアン・ブックスの下地と思わしき要素が多数見受けられ、
非常に興味深い1冊でした!​



​■8人の幼馴染​

本作を読んで、真っ先に感じたのが ​『虹の谷のアン』と似てる! でした。​
本作は、トロントから ベバリー(13歳)とフェリックスという2人の兄弟
プリンスエドワード島を訪れるところから始まります。
預けられた父の実家・キング農場には、 長男・ダン(13歳)
美人で料理上手な 長女・フェリシティー(12歳)
争いを好まない温厚な 次女・セシリー(11歳) の3兄弟が居ます。

近所にはキング家と親戚筋の セーラ・スタンリー(ストーリー・ガール・14歳) が暮らし、
彼女の家では ピーター という少年が雇人として働いています。
親戚筋ではないですが近所に住む女の子・ セーラ・レイ(11歳) も含め、
総勢8人の子どもたちでいつも遊んでいます。

『虹の谷のアン』は、 アンちゃんとギルバートの子どもたち(6人居るが、特に上の4人)と、近所の牧師館に越してきた一家の4兄弟(長男・長女・次女・次男) を掛け合わせ、走らせる中でキャラクターや関係性の試行錯誤・確立を行っている作品と認識しています。

​今回「ストーリー・ガール」を読んで、
8人の子どもたち(男の子4人:女の子4人)のわちゃわちゃを描いている点が完全に被っており、
『虹の谷のアン』は基本的に「ストーリー・ガールの要領で執筆」を念頭において着手した作品なのだろうな、
と感じました。​


また、キャラクターについても色濃く繋がりが見て取れます。
『虹の谷のアン』の牧師館の4兄弟(ジュリーくん、フェイスちゃん、ユナちゃん、カールくん) ですが、特に上の3人の配置は「ストーリー~」のキング家3兄弟と印象が似ており、
キング農場の3兄弟+主人公の弟(フェリックスくん)のイメージを持って牧師館の兄弟たちを走らせたんではないかな、 と感じました。

「ストーリー~」を読んでの個人的な印象ですが、
本作は当初「ストーリー・ガール」というタイトルの通り、
おしゃべり上手なセーラ・スタンリーちゃんを一番魅力的に描き、子どもたち、更に周囲の大人たちの輪の中心として描こうとしたのかな…と思います。

ただざっと読んだ限り、 あまりストーリー・ガール自体の印象は強く残りませんでした。
主役のベバリーくんは「ストーリー・ガールが非常に魅力的である」と繰り返し語るのですが…
やっぱりアン・シャーリーほどの惹きは感じない というか…

アンちゃんは孤児という立場ながら、明朗快活で聡明…に一瞬見えるけど、
本当はすごく繊細&怖がりなところが魅力的な娘だと思うので。
※ギルバート的 執着&全力で尽くしたくなるポイント

「ストーリー~」をざっと読んで、私はどちらかと言うと
フェリシティーちゃん&セシリーちゃん姉妹の方が印象的/魅力的に感じました。
フェリシティーちゃんは誰に言わせても美少女。
高慢で男の子との言い合いも多いですが、料理上手で、両親たちが不在の間は家を預かりきちんとせねばという責任感を見せますし、
セシリーちゃんは姉に比べ派手さはないものの、仲間内での喧嘩を諫めたり、年上の子たちにも臆さない芯の強い子です。

先にも語りましたが、 この2人が「虹の谷~」でメインとなるフェイスちゃん/ユナちゃん姉妹の原型なんじゃないかな、 と受け取って読み進めました。



本作を読んで、いちばん興味深かったのが次の2つのトピックです。

​■『世界の終末』・『近しい幼友達の“死”』​


いずれも「アンの愛情」の話回しにおいて大きく取り上げられるトピック
なのですが、
​ラブスト―リ-を描くにしてはかなり独特 ​​
というか、
普通の思考回路ではまず出てこないよな、モンゴメリさんは天才だな! と思っていました。

これらのトピックが、見事に「ストーリー~」の中でガッツリ取り上げられていて、非常に腑に落ちた というか…
ここで一度しっかり形にしてるから、「アンの愛情」でもあれだけ自由に、描くべきものに見事に適合させた形に展開させることができたんだな、 と感じました。


​・第19章 恐怖の予言、第20章 審判の日曜日(ジャッジメント・サンデー)​
新聞に掲載された ​「最後のラッパ、明日二時鳴りわたる」 ​という一節…​ つまり、世界の終末(最後の審判)が訪れるという予言 です。
これを信じた子どもたちは焦り怖がりまくりますが、結局何もなくその時は訪れ過ぎていく…
というエピソード。

「最後のラッパ」と言われても聖書に詳しくない私にはピンときませんでしたが、調べると
新約聖書の聖典・ヨハネの黙示録 において、災害の前触れとなる7つのラッパを吹く7人の天使達が登場、各ラッパの合図とともに恐ろしい災害が起こり、 最後の第七のラッパで最終的な世界終末が訪れる(?) …とのことで、このくだりを指しているのだと受け取りました。

なんか最近…日本でもありましたね…2025年7月5日の予言的なのが…。
私はキリスト教の教えに詳しくないので、終末論の考え方が根付いているわけではないのですが、ただ、終末が身に迫る危機意識を高め、いざというと時の動きをシュミレーションする機会として大事な思想なんじゃないかな、と思っています。

本作の子どもたちも、ただ怖がるだけではなく、
1週間喧嘩して口をきかなかったストーリー・ガールとフェリシティーちゃんが、それを悔いてすぐに仲直りしたり、子どもたちなりに残りの時間を悔いなく過ごそうと、恐怖にかられながらもあれこれ考えます。

『アンの愛情』のクライマックス(最終章の前章)の章題は
​​​英語原文だと ​​ 「A Book of Revelation」 ​​ …和訳では 『黙示録』​ ​​ としており、
突如として「世界終末」を迎えたアンちゃんが、自身の内から溢れる後悔の念を大爆発させます。

​この「世界終末」というトピックですが、モンゴメリさんの興味関心どころとしては、やはり ​​ 誰しもに想起される 「後悔の念」の観点​​​ だったのだろう ​​ と思います。​

「世界終末」という強烈なトピックに対し、 ここで終わるなら…もっとああしておけばよかった、
これをやっておけばよかった…という後悔の感情 は、世界中・老若男女問わず少なからずは自然と想起されるものでしょうし、
一番重要な心情筋がこうした永久不変の概念で作りこまれているからこそ、アンシリーズは「世代も国も超えた全世界中の人々が、共感し楽しむことができる作品」なのだと思います。


​​ ・第28章 虹のかけ橋、第29章 恐怖の影、第30章 手紙の花束
​ピーターくんが "はしか"にかかり、生死をさ迷うエピソード​ が大々的に描かれます。
つい先日まで笑い合っていた仲間に突如迫る死の影は、子どもたちに大きな衝撃を与えます。

私自身も小学校高学年の頃に、同じ学区の子が不幸な事故で亡くなったのを知った時、学年も離れていたし話したことはない子でしたが、 「こんなことが本当に身近で起こるんだ…!」 と凄く衝撃を受けました。
カルチャーショックというか… 本当に初めて「死」が自分の近いところにもあることを認識した瞬間 ですね。あの時の感情は焼き付いていて、数十年経った今でも鮮明に思い出すことが出来ます。

「ストーリー~」の子たちに関しては、いつも一緒に遊んでいた仲間うちで起こった話ですので、その衝撃はさらに大きなものだっただろうと思います。

​特にこの ピーターくんというのが、若いながら一際苦労人 で…​
三つの頃に父親が蒸発し、母の稼ぎでは食べていけない為、六つの頃から働きに出ていて、8人の仲間内の中でも他の子たちと違い、あまり学校にも通えていない様子。
ただ、誰に言わせても 「躾はないが地頭のいい子」 で、本作の中でも事あるごとにその有能さを発揮します。
正直、本作を読み進める中で、 ​読者目線でのアイドルは完全にピーターくん一択​ でした。

ピーターくんは幸いにも一命をとりとめ、30章では元気になるまでの間、仲間たちから思いやりいっぱいの手紙を受け取り、大喜びします。

物語中盤・ルビーちゃん病死のエピソード で具体的/悲劇的に印象深く焼き付けておいた上で、
クライマックス・ギルバート瀕死の報 がアンちゃんに突き付けられます。



​■2つのトピック→ ​アンの愛情:『黙示録』の章への転換​ について​​

上述の通り、「ストーリー~」においては 2つのトピック:「世界の終末」と「近しい幼友達の“死”」は、全く別物のエピソードとして描かれていました。

​これが、 ​アンの愛情では一つの大筋に集約されている​ というか、 ​​
イコールのものとして、クライマックス『黙示録』の章に据えられています。 ​​​

<アンの愛情の『黙示録』の章の一節>
(和訳)
聖書に黙示録の書があるように、だれの生涯にも黙示録がある。
アンは嵐と暗黒の中で身も世もなく、寝もやらずすごしたその苦悩の夜、彼女の黙示録を読んだ。
(原文)
There is a book of Revelation in every one's life, as there is in the Bible.
Anne read hers that bitter night, as she kept her agonized vigil through the hours of storm and darkness.

ギルバートの"死"が、アンちゃんにとっての『黙示録』…つまり「世界の終末」である と言っている一節と受け取っていますが、 かなり独特な言い回しだなぁ~~ と感じていました。​

今回、 大元の「ストーリー・ガール」の中では「世界の終末」と「友人の死」を別のトピックとして扱っていて、「世界の終末」は世間一般的な「聖書の黙示録」の内容を示していた ことを知り、

あぁ…だからわざわざ、 「アンの愛情」では ​​
「ギルバートの”死”は、 アンちゃんにとっての『 黙示録 ≒ 世界の終末 』 だよ」​
​と強調する書き方になっていたのか、​ と非常にしっくり来ました。​



いやぁ… ​​ ​「ストーリー・ガール」、面白かったです!​ ​​

​モンゴメリさんの初期発表作に、ことごとく「アンの愛情」の原型を見いだせる​
というか、 ​あまりに分かりやすく​​ 「すべての道は『黙示録』の章に通じる!」状態 で、超楽しいです。​​​

「ストーリー・ガール」については、 2年後の1913年に発表された続編「黄金の道」という作品 があるそうで、そちらも是非チェックしなければ!と思っているところです。

by姉




◆小説 赤毛のアンシリーズ(村岡花子訳) 感想リンク
アンの青春(Anne of Avonlea)1909
アンの愛情(Anne of the Island)1915
アンの幸福(Anne of Windy Willows)1936
アンの夢の家(Anne's House of Dreams)1917
炉辺荘のアン(Anne of Ingleside)1939
その1:アンの娘リラ(Rilla of Ingleside)1921
その2:アンの娘リラ(Rilla of Ingleside)1921
アンの友達(Chronicles of Avonlea)1912
アンをめぐる人々(Further Chronicles of Avonle)1920

◆モンゴメリ著 小説 感想リンク
果樹園のセレナーデ(Kilmeny of the Orchard)1910
ストーリー・ガール(The Story Girl)1911
黄金の道―ストーリー・ガール(The Golden Road)1913

◆赤毛のアン 関連本 感想リンク
赤毛のアンの手作り絵本 / 松浦英亜樹 さんのイラストについて
赤毛のアンシリーズのコミカライズについて





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最終更新日  2025.10.24 23:31:15
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