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姉と妹 @ Re:ともたさんへ こんばんは。コメントいただきありがとう…
2025.08.15
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モンゴメリさんのアンシリーズ以外の作品にも手を付け始めました。



​「果樹園のセレナーデ」 ​​
(1910年 ルーシー・モード・モンゴメリ/著   1961年 村岡花子/訳)

(新潮社説明文)
荒廃した果樹園の古びたベンチにすわって、 ひとり静かにヴァイオリンを奏でる美少女 キルメニイ
悲運の母の偏愛ゆえに世間から隔絶された口のきけない少女に、 大学を出て赴任してきた若い臨時教師 エリック が真実の愛をそそぎ、奇蹟を起こす

この美しい愛の物語は、『赤毛のアン』で知られ、
生涯青春の情熱を失わなかったモンゴメリ女史の実質的処女作。


原題は『Kilmeny of the Orchard』。
あとがきを読むと、赤毛のアン(1908年)、アンの青春(1909年)に続いて 1910年に公表されたモンゴメリさんの3冊目の小説とのことですが、 実際の執筆時期は赤毛のアンより数年前の作品 とのこと。

文庫自体は薄く、果樹園のセレナーデ本編は170ページ弱です。
短編作品ではありませんが、「短編集の中に収められた長めの中編作品」と言っても不自然さのない長さの作品です。

「果樹園のセレナーデ」…村岡花子さんの和訳タイトルセンスが素晴らしく、モンゴメリさんの著作一覧(アンシリーズ以外)の中でも一番気になっていた作品でした。
文庫の裏にあらすじの記載がなく、どんな話か全くまっさらな状態で読み始めました。

…はい。まるまる1作、見事なまでに
「『アンの愛情』のプロトタイプ」な作品でした。
ギルバート・ブライスの前世がここに居た。​
めっっっちゃくちゃ面白かったです!!



​■感情面に特化した(恋愛)作家様の特徴​

​以前、他の作品の感想を書く際に、 感情面に特化した(恋愛)漫画家様 を例として、
あだち充先生、「ちはやふる」の末次由紀先生、「暁のヨナ」の草凪みずほ先生等を上げて、下記のような個人的着目点について長々と語りました。

​(感情面に特化した作家様の特徴)
着目点①
作品の中で成熟した感情を、
次の作品に持ち込んで、更にひねって出してくる。

「感情」は、いち作品の中で、キャラクターが行動でそれを体現することで、 より強固になっていく…成長というか、成熟していくものだと思っています。
特に連載作品です。
いち作品としてのまとまりは、
当然読み切り作品や1冊で読み切れる作品の方があると思いますが、 ただ連載作品の面白さは何より、感情の成熟過程を見て取れることだと思っています。

感情に特化された漫画家様の中で、
前作で成熟した感情や、キャラクター同士の関係性を、 次の作品にどんどん転生させているんだろうな、 と思う作家様が居ます。

既に成熟しきった感情を持ち込むわけですから、 次の作品は最初からキャラクターの行動・言動が飛んでいて、 その作品から読み始めた読者は、「なんだコレ、なんだコレ…」と 戸惑いながら読むことになります。

キャラクターの爆発的な感情と行動が先走り過ぎて、 読者は正直ついていけてないんですが
でもなんかすげぇ感情があるのが分かるから、面白くて読む。



漫画作品ではありませんが、今回改めて赤毛のアンシリーズを鑑賞する中で、
モンゴメリさんも間違いなく上記のような
「感情面に特化した(恋愛)作家様」だと思っています。


「アンの友達/アンをめぐる人々」の感想を書いた際には下記の感想を書きました。
モンゴメリさんの執筆/編纂時期を考えても、個人的に注目してしまうのが、
『アンの愛情』の下地になるような感情やお話構成の作品を、 たくさん見つけられるところ!

『アンの愛情』は…アンシリーズの中でも、 アンちゃんの人生軸を決定づける重要な作品だと思っています。
すごく強烈な感情が、繊細なエピソードの積み上げで構築されており、 モンゴメリさんご自身の一番の興味分野(結婚)について、咀嚼して咀嚼して、 アンシリーズのファンたちの期待に応えられるよう、 渾身で繰り出された作品なのだろうと感じています。

『愛情』を読んだ際に感じた 「なんて強烈な感情なんだ!なんて洗練された構成なんだ!」 という印象は、 こうやって…短編作品として似た題材を繰り返し形にする中で、 キャラクターを走らせることで
感情自体を成熟させたり、
1話としての構成として魅せ方を試行錯誤したりして、 高濃度/高品質なものとして洗練・構築していくものなんだな、 とひしひしと感じました。

感想記事はまだ書いていませんが「アンと想い出の日々」でも​、これまでの短編作品の焼き直しと思わしき作品が複数見受けられました。


​​​ ・キャラクターの転生について ​​

本作を読んで、いちばん面白かった点がこちら。
「ギルバートの前世が居る!!」

​本作には複数人の青年たちが登場しますが、
特に下記3人の要素で錬成されたのがギルバート・ブライスだな、 と感じました。

​【魂/前世】エリック・マーシャル​
身体を壊し休業を余儀なくされた大学時代の友人の代わりに、プリンスエドワード島・リンゼイ中学校に来た臨時教師。
ただ、その実は、大手のマーシャル百貨店等を経営するマーシャル株式会社の御曹司であり、父が一代で築いた事業をより拡大する気満々の跡継ぎ。
大学の美学科を首席で卒業する頭脳明晰且つ非常にハンサムな男性。

完全に「ギルバートの前世」みたいな男主人公です。
ハイスペックさもさることながら、思い込みの激しさ(一途さ)、すっとんだ行動力等々…
「同じ魂」というか。

アンシリーズを読んで、ギルバートは…本当に自我が強いというか、 片田舎の農家生まれのくせに、なんでコイツはこんなに帝王思想なんだ と感じていた、その謎が完全に解明されていく爽快感を感じながら、「果樹園~」を読みました。
「そっか~、前世は御曹司だったからか~」​ と思いました。

また、2人の違いも面白いところで…
本作のエリックさん、全然悪人ではないし、言ってることも行動も間違っていないのですが、落ち度がなさ過ぎる上に自信満々過ぎて、 読んでいて非常に鼻につきます。
応援したくなる気持ちが一切湧いて来ません。
読者に、「自惚れが強いやつだな」「どっかで痛い目にあって欲しいな」という感情すら想起させます。

正直、このエリックさんの人物像は全くアンちゃんの好みではないので、もし彼がアンちゃんに求婚したとしても、基本的にはチャーリー扱い、運が良くてロイ・ガートナーコースで終了だったと思います。

​【職業/将来像】デビット・ベーカー​
エリックより10歳年上のまたいとこ。背が低く容姿も良くない青年。
様々な困難(おそらく家庭環境)を抱えていたが、マーシャル氏(エリックの父親)の寵愛もあり
※マーシャル氏に出してもらった学費は、最後の1セントまで完済

作中では、キルメニィちゃんののどの診療のためにプリンスエドワード島を訪問します。

​【生い立ち】ラリー・ウェスト​
エリックの友人。経済的な理由で大学を2年で辞め、プリンスエドワード島で教師をしながら学費を稼いでいる。※大学における美人な才女・アグネスと婚約同然の間柄らしい

身体を壊し、自身が務められなくなったリンゼイ中学校教員職を「エリックに務めて欲しい」と手紙をよこす。

エリックの魂が、ラリーの生い立ちを経てデビットの職業を目指し、
ギルバート・ブライスが誕生した ことがよく見て取れました。


​​​ ・話筋の転生について
​​
今回、果樹園のセレナーデを読んで真っ先に感じたのが、コレ。
​「まったくアンの愛情と同じ(恋愛の)ストーリー筋だ!」​
強力な推進力を持つヒーローが、薄倖のヒロインにベタ惚れ・熱烈に求婚し、
一度はヒロインの遠慮心もあって、思いっきり振られるものの、
最終的にはそれらヒロインの心の枷になっていた部分を払拭し、二人は結ばれ、ハッピーエンド!

本作では、ヒロイン・キルメニィちゃんが、自身の姿を醜いと誤解していたことと、「唖(おし・口がきけず、言葉が不自由)」であることから、相手(エリック)を愛しているからこそ「結婚できない!」と断固として言い張ります。


以前、​ 「アンの愛情」の感想記事 ​で語っているところなのですが、
アンちゃんがギルバート&結婚から逃げ回っていたのは、 出生直後に両親を亡くした生い立ち故「結婚/出産(家族を築くこと)」に トラウマがあるからだ

アンちゃんは、「ギルバートはどこまでも理想の家族を築き、誰よりも幸せで認められた人生を送るべき人」だと思っています。

アンちゃんが1度目のギルバートのプロポーズを全力で拒絶した理由は、
「ギルバートがアンちゃんの理想通りではないから」ではなく、
「ギルバートの理想的な未来に対し、 そこに向かう意志のないアンちゃん自身がふさわしくない為、 諦めて他の女性とより良い未来を築いて欲しい」からだ と思っています。

つまり、アンちゃんがギルバートに言いたかったことは
「私の相手はお前じゃない」ではなく 「お前の相手は私じゃない」​ だと思っています。

「果樹園~」を読んで、「アンの愛情」で描いている本筋は間違いなく​これと同様のものだと思いましたし、 「果樹園~」の話筋自体が 「アンの愛情」に転生している とも言えると思います。


​(感情面に特化した作家様の特徴)
​着目点②言葉で感情を説明しなくなる。 ​​

アンの愛情では上記の話筋について、明確に言葉での説明はしていません。
以前書いた​ 『アンの愛情』感想記事 ​でも一生懸命語ってますけど 「説明してないけど…でも『ある』」 ​​ んですよ。​

モンゴメリさんの中では「果樹園~」で作り切っている感情筋であり、「果樹園~」と「アンの愛情」が世に出るタイミングも数年のタイムラグなので、あんまり説明し過ぎるのも無粋だし、
アンちゃん自身も、言葉に出来る次元でトラウマの自覚があるわけではないという前提の上で、 「言葉にせず、ニュアンスだけで筋道を読ませる」形 に挑戦されたのかな?と想像しています。



​​ ■「果樹園~」と「アンの愛情」の違いについて
ここまで「果樹園~」と「アンの愛情」の似た作りについて話を続けて来ましたが、あくまで「果樹園~」は「アンの愛情」のプロトタイプの作品と言う認識であり、2作には明確に異なる部分もあります。

​「果樹園~」は、絵面/ロマンチック性重視…​
古い果樹園で出会う美男美女、バイオリンを通じての心の会話…という、ロマンチックなイメージ像をとっかかりとし、膨らませた話筋だと思っています。

​心情筋という面では、アンシリーズの方が格段に繊細で読み応えがあります。​
​「アンの愛情」は心情筋に特化 しており、 作中、ドラマチックな絵面としての面白さはほぼ皆無と言っていいストイックな作りです。
アンちゃんの大学生活(日常生活)の描写が延々と続き、だからこそラストの『黙示録』のシーンの衝撃が際立つ作りになっているのだと思います。


​2作の最大の違いは、 ​ヒーロー目線かヒロイン目線か ​ かな、と思います。
​「果樹園~」は終始ヒーロー・エリック目線。​
彼はひたすら自身の直感(運命)に突き進んでいきます。
反面、ヒロインのキルメニィちゃんの心情筋としては、「未来明るいこの人を邪魔してはいけない」という愛情深い遠慮心は感じられるものの、エリックを自分が幸せにしてあげたい、守ってあげたいという主体的な感情はありませんでした。
(エリックが最初から恵まれすぎてるため、その感情を想起させるスキがないとも言う)

「アンの愛情」は終始アンちゃん目線 で描かれ、​彼女自身の内から湧き出る「ギルバートを幸せにしたい」という感情…
その感情が生まれ、育ち、炸裂する『黙示録』までの心情筋づくりこそ、「アンの愛情」が描いているものだと思っています。

「アンの友達」「アンをめぐる人々」には、ヒロイン目線で、主体的に「ヒーローを幸せにしたい」「この人の生活の中に自分の居場所がある」という感情が生まれる物語も数多く見受けられます。

やはり、「アンの愛情」は「果樹園~」をプロトタイプとして据えながらも、
そこから踏み込んで、ヒーロー/ヒロイン側の心情筋を繊細に詰め、
特にヒロイン側の心情筋を劇的に見せる形で改めて構成してある作品 だと思います。



「果樹園のセレナーデ」… 単体でもロマンチックな面白い短編作品ですが、
​​「アンの愛情」との見比べがめっちゃくちゃ面白かったです!​​

​「アンの愛情」の副読本として是非! おすすめです!​​

by姉
​​



◆小説 赤毛のアンシリーズ(村岡花子訳) 感想リンク
アンの青春(Anne of Avonlea)1909
アンの愛情(Anne of the Island)1915
アンの幸福(Anne of Windy Willows)1936
アンの夢の家(Anne's House of Dreams)1917
炉辺荘のアン(Anne of Ingleside)1939
その1:アンの娘リラ(Rilla of Ingleside)1921
その2:アンの娘リラ(Rilla of Ingleside)1921
アンの友達(Chronicles of Avonlea)1912
アンをめぐる人々(Further Chronicles of Avonle)1920

◆モンゴメリ著 小説 感想リンク
果樹園のセレナーデ(Kilmeny of the Orchard)1910
ストーリー・ガール(The Story Girl)1911
黄金の道―ストーリー・ガール(The Golden Road)1913

◆赤毛のアン 関連本 感想リンク
赤毛のアンの手作り絵本 / 松浦英亜樹 さんのイラストについて
赤毛のアンシリーズのコミカライズについて





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最終更新日  2025.11.15 22:31:08
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