蒼い風 現象への旅
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激変とも言うべき環境変化がゆっくりと君を忍ぶ時間さえ奪い去ったようだった。忘れる事のないはずの年の暮れに君と語れなかったのは残念だけれど、今、手許にある君の写真からはそんなことはどうでもいいよという君の声が聞こえてきそうだ。そうか。では語り合うか。そういえば。言葉をやっと理解できるようになって、私はまだそれほど見事な表現をしたことがないんだ。なぜって、それはね、たぶんそれは言葉のなかにある漢字の呪性と意味の体験が足りてないのかとは思うよ。うん。呪性。そこから漢字は成り立ってるし。まあ、難しいことはぬきにして、例えばね。慟哭という言葉があるでしょ。ずいぶん昔に賢治の詩のなかで初めて知った言葉で、以前はたまに気取って使ったりしたんだけれど。ほんとうはそんな軽々しく使う言葉じゃないんだよね。あの夜に、うん、君が小さな木箱をベッド変りにして空港に帰って来た夜。正月前だったよね。知らせを受けた君の友人達は、横殴りの雪の中に木箱に横たわった君が現実である筈が無いと思っていたんだよ。そう、私も。嘘であって欲しいと思っても、君は何も応えてくれなかった。荷物のように飛行機から降りて来て、なにも言わずに、静かに眠っていた。誰かが嘘だーって叫んで、堰を切ったように皆が一斉に声を上げて泣いたんだったね。ただ、雄叫びに近い泣き声が風と渦を巻いてオウオンオウオンと、それこそ哭いていたんだ。先輩も後輩も男も女も、慟哭という天に刺さる恨み声で泣いていた。その光景はずっと私に植えられていて、それからは無闇にこの言葉を使わなくなったなあ。やっとこの歳になってやっとこさ言葉が理解できるようになってきたから。笑い事じゃないさ、おお真面目なんだよ。言葉は、絵画であり景色であり、音なんだよ。そこにある何かを言葉に置き換えること、それ以上の奥行きを持たせる事、かな。でもね、見えてないものは書けないんだよ、私はね。今でも君に聞いてるけど、君は何を見たかったのだろう。高く跳ぶ事を目指して君が見たものは何だったのだろうか。鉛色の空に落ちて行ったことだけがいつまでも私の脳裏にイメージとして残される。悟よ、君が生きていたらもう三十になるのかな、いや三十一だっけか。きっと優しいパパになっていたろうね。孫の顔を見せてあげなかったかわりに、たまには君のおとうさんやおかあさんに会いに行けよな。あ、遅くなったけど、線香遅くなってごめん。また、語ろうな。悟へ 叔父
Jan 15, 2010
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