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2026.08.07
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カテゴリ: ユマニチュード
「ユマニチュードへの道」イブ・ジネスト

p.55 このルーマニアの子どもたちの例からわかるのは、自分ではない他者こそが、その人の脳を発達させるための重要な役割を担っているということです。
 脳を発達させる薬剤というものは存在しません。けれども人によるコミュニケーションが、脳に絶大な変化をもたらします。つまり、私たちひとりひとりに、相手の脳を育てるという素晴らしい機能が備わっているのです。
 私からの情報があなたに生理学的な変化を起しています。わたしが出す情報によってあなたが怒るとき、体内でアドレナリンが分泌されます。もし、やさしく触れられれば、あなたの体内ではオキシトシンが分泌されます。
 コミュニケーションが相手に生理学的な反応をひきおこすという事実は、人間にとってコミュニケーションがいかに大きな意味をもつかを物語っています。コミュニケーションは、相手に生理学的な変化を呼び起こし、失われてしまった「人間らしさ」を取り戻すための重要なツールなのです。
 なかでも、一番大切なのは、コミュニケーションの始め方です。
 たとえば、何か病気の治療を控えているときに、第一声で「大丈夫ですよ、安心してください」と言ってもらえたら、緊張していた気分がほぐれ、「ああ、よかった。この人といれば安心だ」と思えるものです。これは礼儀のためのコミュニケーションではなく、相手に生理学的な反応を呼び起こす医学的介入なのです。
 となると、ケアをする人としてのみなさんの役割は何でしょうか?
 具体的に言えば「あなたのことを大切に思っています」「あなたには尊厳があります」そして「あなたは素晴らしい人です」と伝えつづけることです。そして重要なのは、この役割は私たち人間にしか担えないということです。


映画『急に具合が悪くなる』公開記念特別座談会

本田美和子先生(以下、本田)  濱口監督、松田さん、この度は本当におめでとうございます!ジネスト先生もカンヌ国際映画祭のライブ配信をずっとご覧になっていて、本当に喜んでおられました。 濱口監督にお伺いしたいと思っていたことがあるのですが、かなり前のことになりますが、 『ドライブ・マイ・カー』公開時に書店「文喫」で開催された「ある映画のための補助線、映画『ドライブ・マイ・カー』をめぐる複数の本」濱口監督の選ぶ10冊」という企画で監督の選書として、10冊のうちの1冊に『ユマニチュードという革命』を選んでいただき、それが私どもが監督とやり取りを始める最初のきっかけになりました。 もしよろしければ、 あの時にこの本を選ばれた理由を教えていただけますか?

濱口竜介監督(以下、濱口) あの選書は、映画(『ドライブ・マイ・カー』など)を作る上で自分自身がインスパイアされた本を選ぶという企画でした。実はそれより前、 5年ほど前から『ユマニチュード入門』書を読んでいて、非常に興味を持っていた んです。 ユマニチュードは「ケア(介護・医療)」の業界のお話ですが、私たちが働いている「映画・映像」の現場とものすごくつながるところがあると感じています。 現場において、どうすれば俳優の感情的な仕事を尊重し、一人の人間として尊重できるか 。それを考えたとき、 既存の構造の中には、それを十分にさせてくれない構造があるのではないかと

ユマニチュードでは、認知機能が低下した方々に対して、その弱った部分を補完するようにコミュニケーション(見る・話す・触れるなど)を取ります 。それによって、 一見見えなくなっていた相手の知性や精神が活性化し、再びつながることができる。 この 「構造を外側から見て、本質的な部分にアプローチする」という方法論が、映画の現場にも持ち込めるのではないかと非常に参考になりました。 何より、 「人をよりよくケアすることによって、ケアする側の尊厳も保たれる」 ということが本当だと思えた。これをどうやって現場に持ち込めるかが、強い興味を持った出発点でした。

濱口 せっかくの座談会ですので、私からもジネスト先生にお聞きしたいことがあります。今回の作品の中で、ユマニチュードのジネスト先生、本田先生に監修として入っていただいて、脚本から読んでいただいておりますが、 ある時、演劇の要素として「フランコ・バザーリア(※イタリアの精神科医、精神病院廃止運動の先駆者)」を取り入れました ジネスト先生にお見せした際、バザーリアの名前に「ああ、バザーリアか」という感じですぐ反応されました よね。日本ではまだ一般的に広く知られている名前ではないのですが、ジネスト先生がバザーリアの思想をどう知ったのか、またユマニチュードとの影響関係があるのかを伺いたいです。


イヴ・ジネスト先生(以下、ジネスト) こんにちは。私とロゼット・マレスコッティがこのケアの取り組みを始めた1980年代当時、私たちは長期療養型の病院や施設、精神病院で教えていました。そこで 目にしたのは、本当に恐ろしく、凄惨な現実 でした。ロゼットと私は毎晩のように泣いて過ごしていました。 床に横たわった10人もの人々に、ホースで一斉に水をかけてシャワーを済ませるような光景 や、 精神病院でありながら、まるで牢屋のように鉄格子があり、壁には患者を拘束するための鎖が設置されている空間 を、私たちは実際に見てきたのです。

南仏のリムーという町にある精神病院を訪れたのですが、そこの指導部や管理側の人々は「世界を変えたい」と言っている 、ある意味で熱狂的な、素晴らしい人たちでした。私たちが提案をすると、「よし、やろう」と一つずつ実行に移してくれたのです。 そんな ある日、彼らに招かれて一本の映画上映会に参加しました。それが、イタリアのバザーリアの思想と実践に関する映画だった のです。

バザーリアはイタリアで精神病院を廃止することに成功した人物 です。 リムーの病院も同じことをしようとしていました。彼らは大きな病院を6つの小さな施設に分割し、それまで一生を閉じ込められて過ごしていた患者さんたちを、街中の普通の住居で暮らせるようにしていった のです。 住民の理解を得るための上映会では、物事は簡単にはいかないという象徴的なエピソード(※住民とのハプニング)もありましたが、こうした歴史的・地域的な地続きの経験のなかで、私たちはバザーリアの精神に触れていました。





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最終更新日  2026.08.07 05:00:06


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