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2009年10月22日
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 伊予からの迎えの船は、滑るように川を下っていく。
 紫姫は名残惜しげに、遠くなる京の山並みを見つめていた。

「寂しいかい?」

 翡翠が傍に寄り、話しかけた。

「いいえ。」

 紫姫は翡翠の胸に頬を寄せた。翡翠は肩に掛けていた袿を脱いで紫姫をくるみ込み、そっと抱き上げた。

「寒いだろう?」
「いいえ、ちっとも。こうしてくるんでいただきましたもの。翡翠殿こそ、お寒くはありませんか?」
「私かい? 私は、平気だよ。あなたとこうしていられればね。」


 昨夜、四条の屋敷から、盗むように連れ出してきた。尼君にはこっそりと事情を明かしておいた。尼君は寂しがったが、紫姫の様子をここ何年も見続けて心を痛めていたから、咎めるようなことは言わなかった。ただ、この幸薄い姫を幸せにしてくれと、それだけを何度も繰り返した。
 もちろん、不幸になどするつもりはない。翡翠は腕の中の宝物を大切そうに抱いた。紫姫がくすぐったそうに身を捩った。

「行こう。暖かくしてあげるよ。」

 無邪気に頷く姫を抱えて、翡翠は天幕の帳を上げた。


 伊予への長い旅路の始まりだった。





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最終更新日  2009年10月22日 23時00分05秒
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